仮面ライダーオメガ 第1話

 

 

日常の裏で暗躍する異形の存在、「ガルヴォルス」

常人を大きく超えた身体能力と、非現実的な能力を使用する。

その存在を知った人類は、その猛威への対抗手段を考案し続けた。

そして彼らはついに、その手段を見出したのだった。

 

それが“ベルト”を軸とした変身ユニットである・・・

 

 

 町中に点在する1件の家。その家には1人の青年が居候をしていた。

 吉川(よしかわ)光輝(こうき)。1年前に上京し、両親の友人の家であるこの場所で生活をしている。

 その家の住人は、今現在、1人の少女だけである。

 水神(みずがみ)くるみ。1年前に両親を失っているが、持ち前の活発さと自信で精一杯生きていた。

 今日も、光輝とくるみの平穏な1日が始まるはずだった。

「おおっ!今日のライダーもすごかったなぁー♪」

 その日の朝、光輝はTVにて放送されていたヒーロー番組を見て興奮していた。彼はヒーローに憧れていて、今でもその類の番組を見て喜んでいる。

「もう、光輝ったら。またヒーロー番組見てる。いい年なんだから、いい加減に見るのはやめなさいって。」

 そこへくるみが光輝に声をかけてくる。彼女は彼が未だに子供向け番組を見ていることを快く思っていなかった。

「何を言っているんだ、くるみちゃん!?最近のヒーローは、子供だけじゃなく、大人でも十分に楽しめるストーリーになってるんだから!」

「アンタこそ何言ってるの!?ヒーローは子供が見るもの!その年になっても見てるもんじゃないの!」

 言い返す光輝だが、逆にくるみに怒鳴られてしまう。

「とにかく、今日は大学のゼミの集まりがあるんだから。光輝も準備しちゃって!」

「う、うん・・」

 くるみの呼びかけを受けて、光輝も食べかけのパンを口に押し込んだ。

 

 小道を駆け抜ける1人の女性。彼女は切羽詰った面持ちで、必死に駆けていた。

 女性は裏路地に差し掛かったところで足を止めて、通りに注意を向ける。通りには彼女が危険視している相手どころか、人1人の姿も見えなかった。

 自分を追いかけてくる追跡者がいなくなったと思い、女性は安堵の吐息をついた。

 そのとき、背後に何かが落ちてきたと感じ、女性は再び恐怖を覚える。振り返った瞬間、鋭いものが飛び込み、彼女は体を切り裂かれた。

 昏倒した女性がうつ伏せに倒れ、動かなくなる。しばらくすると女性の体が石のように固まり、やがて砂のように崩壊を引き起こした。

 消滅した女性の亡骸。それをあざ笑う不気味な影がそこにあった。

 

 光輝とくるみの大学への足はバイクだった。ヒーロー好きの光輝と違い、バイクで風を切る感覚がくるみにとっては心地よいものだった。

 突き抜けた風の向こうに何が待っているのか。くるみはよくそれを気にしていた。

 渋滞に巻き込まれることなく無事に大学に到着した光輝とくるみ。2人が来た教室には、既にゼミのメンバーが揃っていた。

 青木(あおき)隆介(りゅうすけ)。整った長身が特徴。まとめ役を請け負うことが多く、このゼミ長を務める。

 赤木(あかぎ)草太(そうた)。長い茶髪とひょうきんな性格が特徴。隆介の幼馴染み。

 春日井(かすがい)みどり。長い髪と清楚な雰囲気が特徴。ゼミ仲間を優しくまとめている。

「やっぱり光輝とくるみが遅かったな。光輝のことだから、ヒーロー番組に夢中になって、支度が遅くなったってとこだろ?」

「全くもってその通り。いつまでたっても子供なんだから・・」

 隆介が言いかけると、くるみが呆れながら答える。

「何を言っているんだよ、くるみちゃん!?ヒーローをバカにするもんじゃないって!」

「はいはい。ヒーローはすごいすごい。分かったから大人しくしていてちょうだい。」

 抗議の声を上げる光輝を、くるみは軽くあしらう。

「ところで聞いたか?またあの事件が起こったって。」

「事件?」

 草太が切り出した話に、くるみが疑問符を浮かべる。

「何者かに襲われて、人が灰みたいになって死んでるって事件だよ。分かっているだけでもう7件目だよ。」

「もしかしたら、悪の怪人の仕業なんじゃ・・!?

「おいおい、それはないって、光輝・・・」

 事件のことを耳にして凄む光輝に、草太が呆れる。

「とにかく、あんまり夜に歩いていると、襲われてしまうかもしれない。そうですね、隆介さん、草太さん?」

「あ、あぁ、そういうこと・・」

 微笑むみどりに、隆介が苦笑いを浮かべて答える。

「肝に銘じておくわね。光輝も注意してよね。」

 くるみが注意を入れるが、光輝はヒーロー気分になっており聞いていなかった。

 

 その日のゼミの講義を終えて、下校しようとしていた光輝たち。だが正門を通ろうとしたところで、光輝はふと立ち止まる。

「いけない、忘れ物しちゃった!ゴメン、くるみちゃん・・先に帰ってて・・」

「えっ?もう、しょうがないわね・・私も付き合うから・・」

「いいよ、1人で大丈夫だから・・くるみちゃんに迷惑はかけられないから・・」

 不満を見せながらも付き添おうとしたくるみだが、光輝は弁解を入れる。

「じゃ私は先に帰るわよ。寄り道しないで真っ直ぐに帰ってくるのよ。」

「わ、分かってるって・・」

 くるみに念を押されて、光輝が苦笑いを浮かべながら頷いた。彼女を見送ってから、光輝は校舎へと戻っていった。

 ゼミの教室に戻り、忘れたノートを手にしてバックにしまう光輝。彼は家に帰るため、急いで教室を後にした。

 バイクのエンジンをかけて、駐輪場を出る光輝。極力急いで帰路を進み、家の近くの通りに差し掛かったときだった。

「うわっ!」

 前方に突然何かが飛び出してきて、急ブレーキをかける光輝。彼が眼を凝らすと、そこには1人の少女が倒れていた。

「ビックリしたぁ〜・・・大丈夫、君!?しっかりして!」

 驚きを見せた後、光輝は少女に駆け寄って呼びかけた。すると少女はゆっくりと起き上がる。

「私・・・ここはどこ・・・?」

 少女は周囲を見回しながら呟く。

「私・・ここで何をしていたの?・・私は誰なの・・・?」

「もしかして君、記憶がないの・・・?」

 混乱している彼女に、光輝がたまらず声をかける。

「あなたは・・誰・・・?」

「僕は吉川光輝。何があったのか、話してもらえないかな・・・?」

 不安を見せる少女に、光輝が自己紹介をする。

「分からない・・・名前も分からないの・・・」

「もしかして、記憶喪失・・・!?

 少女の様子に光輝が困惑を覚える。彼女を落ち着ける場所に連れて行こうと、彼は周囲を見回す。

 そのとき、光輝はどこからか物音がしたのを耳にする。緊張を覚えた彼が、さらに周囲を見回す。

 そこへ1人の男が、光輝と少女の前に姿を現した。中背の男だが、様子が普通ではない。

「きれいな女じゃないか・・丁度いい遊び相手になりそうだ・・」

「あの、あなたは・・・?」

 不気味な笑みを浮かべる男に、光輝が疑問を投げかける。

「それに、憂さ晴らしの相手も見つかったことだし・・・」

 言いかける男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。その変動を目の当たりにして、光輝が息を呑む。

「いいこと尽くめじゃない!」

 眼を見開いた男の姿に変化が起こる。それは現実に現れるはずのない怪物の姿。蜘蛛を思わせる容姿の怪物だった。

「えっ!?怪人!?

「まずは邪魔されたくないから、憂さ晴らしから始めるとしようか!」

 驚きの声を上げる光輝に、怪物が飛びかかる。

「こっち!」

 光輝が少女の腕を取って、この場から駆け出す。彼女を危険な目にあわせてはならないと、彼は判断した。

「逃がすか!」

 だが怪物は口から糸を吐き出してきた。その糸に体を巻きつけられ、光輝と少女が捕まってしまう。

「しまった!」

「クククク、捕まえたぞ、2人とも・・・!」

 うめく光輝と、喜びの笑みを浮かべる怪物。

「何とかしないと・・このままじゃこの子が・・・!」

 打開の策を模索する光輝。考えている中、彼はおもむろに少女の手に触れた。

 そのとき、光輝と少女から突如衝撃が発せられた。その衝撃が、2人を拘束している糸を断ち切った。

「何っ!?

 その衝撃に怪物が驚愕する。光輝も少女も、自分たちの手に光が宿っていることに驚きを隠せないでいた。

 光り輝いていたのは、少女が手にしていた水晶の球だった。水晶の光が、光輝と少女を縛っていた糸を断ち切ったのである。

「これは、何なんだ・・・!?

 光輝が淡い光を宿す水晶を凝視する。

「ゴメン!ちょっとそれ貸して!」

 光輝が呼びかけると、少女は水晶を手渡した。彼はその水晶を前にかざしてみた。

 すると突如、光輝の腰にベルト状の物質が出現した。

「ベ、ベルト!?・・もしかしたら・・・!」

 これを見た光輝が、そのベルトの中央のくぼみに水晶をはめ込んだ。

 するとベルトと水晶が光り輝き、光輝を包み込んだ。次の瞬間、彼は無機質な鎧を思わせるスーツに身を包んでいた。

「えっ?・・えっ!?・・僕、どうなっちゃったの!?

 自身の変化に、光輝が驚きの声を上げる。

「その姿・・まさかオメガ!?

「えっ!?オメガ!?

 同じく驚きをあらわにした怪物が口にした言葉に、光輝も声を荒げる。

「よく分からないけど、ここはやるしかない・・・!」

 意を決した光輝が怪物に振り返り身構える。それを見て怪物が笑みを浮かべる。

「まさかオメガとここで戦うことになるとは・・だが何とかなりそうだ!」

 自信を取り戻した怪物が、光輝に向かって飛びかかる。突然の攻撃に、光輝はたまらず反撃に転ずる。

 光輝がとっさに突き出した拳を受けて、怪物が突き飛ばされて横転する。そこまでの威力を発揮したことに、光輝自身も驚きを感じていた。

「すごい・・僕、こんなにすごかったの・・・!?

 落ち着かない気持ちを抱えたまま、光輝が怪物に視線を戻す。怪物は必死に立ち上がるが、痛みのためにふらついていた。

「これだったら、何とかなるかもしれないぞ・・・!」

 意気込みを見せる光輝が構える。その驚異の力に、怪物は焦りを覚えていた。

「くそっ!このままやられてたまるか!」

 いきり立った怪物が口から糸を吐き出す。その糸が光輝の右腕を捕らえる。

「クククク。これでお前は逃げられない。思うようにも動けない。」

 怪物が勝ち誇り、哄笑を浮かべる。だが光輝が力を入れると、糸は簡単に断ち切れてしまった。

「バカな!?オレの糸がこんなに簡単に!?

 驚愕をあらわにする怪物。恐怖のあまりに、怪物が体を震わせながら後ずさりする。

「すごい力だ・・・僕にこんな力があったなんて・・・」

 光輝も自分の力に驚きを感じていた。彼はすぐに気持ちを切り替えて、動揺している怪物に飛びかかる。

 光輝が繰り出した拳を受けて、怪物が突き飛ばされる。危機感を募らせた怪物が、たまらずこの場から逃げ出していった。

 危機を潜り抜けた光輝が肩の力を抜く。だがしばらくして、彼は自分の対して異変を感じる。

「あれ?元に戻らない・・こういうとき、自分が思えば元に戻るんじゃないの!?

 声を張り上げて慌てふためく光輝。しかしジタバタしても、彼の姿が元に戻らない。

「どうしよう!?僕、このまま元に戻らないの!?

 混乱する光輝を眼にしたまま、少女が唖然となる。

「もしかして、その球を外したら・・・」

 少女が手を伸ばし、光輝のベルトについている水晶の玉を取り外す。すると彼がまとっていた鎧が消失し、ベルトだけが残った。

「あっ!戻った!」

 光輝がたまらず喜びの声を上げる。彼は地面にある水晶を拾い、じっと見つめる。

「もしかして、この水晶が僕を変身させてたんじゃ・・」

 驚異の力に対して、光輝は動揺の色を隠せないでいた。

 

 光輝たちの通っている大学から北東にも、別の大学があった。そこでは陰湿な事件が起こっていた。

 1人の男子が、数人の男子から暴力を受けていた。傷だらけになりながらも、殴られている男子は気持ちの上で屈していなかった。

「ったく!弱いくせにいい人ぶりやがって!」

「オレたちのやることにいちいち文句つけてくんじゃねぇって!」

 男たちが男子、海道(かいどう)竜也(たつや)に怒鳴りかける。

「いつもだったらそんな感じで万事解決だったんだけどなぁ。オレたちにそんな正義感は通用しねぇよ。」

 男の1人の言葉に、竜也が眉をひそめる。

「オレの親父は警視庁のお偉いさんだ。オレが悪いことをしても、親父が庇ってうまく誤魔化してくれる。お前がオレを教師や警察に突き出しても、親父のツルの一声でいくらでももみ消せるんだよ。」

「バカな・・そんなバカなこと!?

 驚愕する竜也に、男たちが哄笑を上げる。

「諦めるんだな。テメェがどんなことをしようと、オレたちを止めることはできねぇんだよ!」

「そんなバカなこと、あるはずがない・・・このことは必ず先生に報告して・・」

「やってみろよ!無駄なことだからさ!」

 鋭く言いかける竜也を、男子たちがあざ笑う。竜也は男子たちに鋭い視線を向けてから、この場を去った。

 

 その翌日に竜也は教師にそのことを相談した。教師は竜也の言い分を親身に受け止め、その男子たちのところに向かった。

 だがそこへ居合わせていた男子の父親に、その教師は逮捕されてしまった。

 罪状は脅迫罪。生徒を脅して金を要求してのものだった。

 教師はこの濡れ衣を払拭しようと弁解を求めたが、全く聞き入れられなかった。

 これは刑事を務めている男子の父親の差し金だった。彼が裏工作で、息子がとがめられることをもみ消してしまったのだ。

 許されることではない。警視庁の上層部の人間だから実行できることだった。

 この企みによって、竜也の正義感は打ち砕かれることになってしまった。同時に彼は、自分が今まで信じてきた「正義」という概念に疑問を抱くようになってしまった。

 その考えと裏腹に、男子たちの竜也への暴行は過激化していくのだった。

「へっ!だから言ったんだよ!」

「オレたちにはすっげぇ味方がついてんだよ!」

「これで分かったか、海道。お前がどんなことをしても、オレたちを止めることなんてできないんだよ・・!」

 男子たちが勝ち誇って言い放ち、竜也を蹴り飛ばす。壁に叩きつけられた竜也が力なく座り込む。

「諦めろ、海道。お前が何をやっても、オレたちを止めることなんてできないんだよ・・・!」

 男子が竜也にさらに殴りかかってきた。だがその拳が竜也に受け止められる。

「何っ!?

 毒づく男子がつかんできた竜也の手を振り払おうとするが、その手は力強く離れようとしない。

「こんなふざけた正義なんて、僕は認めない・・こんな狂った世界、あっていいはずがない・・・」

 竜也が低い声音で男子たちに言いかける。

「これが僕たちの信じてきた正義なら、僕はこの正義に失望する・・・!」

 憤りを募らせていく竜也の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「お、おい、海道・・・!?

「オレは、お前たちのような存在を許さない・・・!」

 困惑を見せる男子たちの前で竜也が叫ぶ。彼の姿が龍のような怪物へと変貌を遂げた。

「バ、バケモン!?

「う、うわあっ!」

 非現実的な出来事を目の当たりにして、男子たちが驚愕する。直後、彼らは竜也によって命を落とした。

 これが正義に疑念を抱いた竜也の、運命を分かつ変局だった。

 

 

 

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