仮面ライダーオメガ&W -Memories of Double-

第4章

 

 

 勝が所有していた別荘のうち、研究室が地下にあるのは1ヶ所だけ。その別荘に光輝たちは向かっていた。

 だがその途中、翔太郎が唐突に足を止めて声をかけてきた。

「ここまで来て悪いんだが・・先に行っててくれ・・」

「翔太郎くん・・・?」

 翔太郎の呼びかけに光輝が疑問符を浮かべる。

「まさか、今更怖くなったなどというのではないだろうな?いずれにしろ、1番はこのオレだ。」

「逃げるんじゃない。やっておかないといけないことだ・・」

 挑発してくる一矢だが、翔太郎の考えは変わらない。

「だったら僕が翔太郎くんと一緒に行く・・みんなは勝のところに行って・・」

 すると光輝が翔太郎についていくことを申し出てきた。

「多分、勝が起こした事件と無関係ではない。そういうことだよね・・?」

「ならあたしも翔太郎くんと一緒に行く。事件の真相、あたしもちゃんと確かめるんだから。」

 自分の考えを口にする光輝。すると翔太郎が答える前に、亜樹子が声をかけてきた。

「だったら早く用事を済ませろ。フィリップを待っているのはお前なんだぞ、左・・」

 竜が憮然とした態度で翔太郎に呼びかける。

「僕は竜さんと一矢さんと一緒に行って、フィリップくんを助けに行くよ・・僕だってやらないと・・」

 太一も自分の考えを口にする。

 結果、光輝、翔太郎、亜樹子、ヒカル、くるみが竜たちと別行動を取ることになった。

 

 事件解決の可能性を諦めていないフィリップは、勝の野心を聞かされても物怖じしない。だが勝も不敵な態度を崩していなかった。

「オレはガイアメモリの研究を行ってきた。その最中にオレはクリスタルユニットの存在を知った。」

 勝がフィリップに向けて語り出していく。

「クリスタルが組み込まれたドライバーに、複数のガイアメモリをセットしていく。お前たちWのようにな。これらの融合がもたらすカオスが、オレに力をもたらすのだ。」

「複数のガイアメモリ・・それは、シャインとダークかい?」

 勝の言葉を聞いて、フィリップが問いかけてきた。彼は勝が口にするカオスの正体をつかみかけていた。

「すぐに気付いたか。そうだ。手にしたドライバーにはクリスタルが組み込まれているだけでなく、シャインメモリとダークメモリをセットすることで力を発揮する。光と闇の融合は混沌、カオスを生み出す。これこそクリスタルユニットとガイアメモリの融合というカオスをもたらす。」

「光と闇・・確かにカオスだね・・」

「既にオレはダークメモリを手にしている。闇をつかさどるダークは、あらゆる人間の心に絶望を植え付けることができる。お前や照井竜など、通じない相手もいるが・・」

「照井のことや特殊体質のことまで知っているとは・・だてに研究はしていないということか・・」

「だがダークメモリの力はそれだけではない。物理攻撃の高さもある。さすがのお前たちも物理攻撃までは防げないだろう。」

「それは否定しない。体を張るのは僕より翔太郎のほうが向いているからね・・」

 互いに動揺を全く見せずに言葉を交わしていく勝とフィリップ。

「ダークメモリに関する情報は聞いているが、実際に使ったことはない。これから試すことになるが・・」

「まさか、翔太郎たちを襲うつもりか・・・!?

 笑みを強める勝に、フィリップが初めて動揺を見せる。

「すぐにシャインメモリも手に入れて、カオスを完成させてやるぞ・・」

 勝は言い放つと、フィリップの前から立ち去っていった。新たなる危機に、フィリップは打開の糸口を必死に模索していた。

 

 竜たちと別行動を取った光輝たち。翔太郎についていく形で光輝たちがやってきたのは病院だった。

「病院?・・ここに何が・・・?」

「まとめて説明する。光輝、お前が巻き込まれた事件のこともな・・」

 光輝が疑問を投げかけるが、翔太郎はすぐには答えない。彼らは病院のある病室を訪れた。

 個室の病室だったがドアは開いており、翔太郎はノックすることなく声をかけた。

「やっぱりアンタだったか・・理子さん・・」

「えっ・・・!?

 翔太郎が口にした言葉と目の前の光景に驚いたのはヒカルだった。病室にはベッドで横たわる女性の他、理子の姿もあった。

「翔太郎くん、もしかして・・・」

「あぁ・・理子さんが光輝のベルトを盗んだ犯人、泥棒のドーパントだ・・」

 亜樹子が声を上げると、翔太郎が真剣な面持ちで語りかけてきた。

「あの・・何の話を・・・?」

 理子が翔太郎に対して疑問符を浮かべる。

「そうですよ、何を言っているのですか?・・理子さんが悪いことをするなんて・・・!?

 ヒカルが翔太郎に抗議の声を上げる。彼女は理子がシーフドーパントであることを聞き入れようとしない。

「オレは見ていた。落としたものの中にガイアメモリがあって、真っ先にそれを拾った・・」

「でも、それだけでは・・」

 翔太郎の指摘に反論したのはヒカルだった。彼女はあくまで理子を信じていた。

「理子さん、疑いを晴らしましょう・・理子さんが優しい人だということを、私は知っています・・」

 ヒカルが理子に近づいて、手を差し伸べてきた。

 そのとき、理子が体に痛みを覚えてふらつく。倒れそうになるところを、彼女はヒカルに支えられる。

「す、すみません、理子さん!私、驚かせてしまって・・!」

 自分が押してしまったと思い、ヒカルが理子に謝る。だがこれがヒカルのせいでないことを、翔太郎は分かっていた。

「いや、ヒカルさんのせいじゃない。その痛みは、戦いのダメージだ・・」

「戦い・・・!?

 今度はくるみが驚きを見せる。すると光輝が話を続けてきた。

「太一くんから話は聞きました。あのドーパントはオメガに変身して一矢さんと太一くんに襲いかかってきたとき、一矢さんのキックを受けて撃退されたって・・オメガのパワーはうまく使えばかなり強くなれるけど、いくら何でもギガスのキックをまともに受けて何にもないはずがない・・」

「さすがに女性の体だからすぐに確かめるわけにはいかないが、それが戦いで傷付いた証拠にはなる・・」

 光輝に続いて翔太郎が再び語りかける。

「それにこのことも分かっている。あなたの名前、岡本理子が本当の名前でないことも・・」

 この指摘に理子が緊張を隠せなくなる。この一瞬浮き彫りになった反応を、翔太郎は見逃さなかった。

「本当の苗字は大宮(おおみや)。熊木勝が石神コンツェルンにいたときにトラブルを起こした客と同じだ。」

「熊木!?・・理子さんが、あの人と関わりが・・!?

 翔太郎が告げた言葉にヒカルがさらに驚愕する。理子は思いつめた表情を浮かべて、うつむいていた。

「理子さんは大宮家の1人で、ガイアメモリの暴走で両親を亡くし、姉も・・」

「そう・・お姉さんだけが生き残った・・今も意識が戻っていないけど・・・」

 翔太郎の言葉をさえぎって、理子が低い声音で声をかけてきた。彼女はベッドで眠り続けている女性に視線を移す。

「私たちは平凡な家族だった・・もしもあの男が強引にガイアメモリを持ち込んでこなければ、私たちは今も幸せに暮らせていた・・・」

「理子さん・・熊木勝と関わりが・・・!?

 打ち明けてきた理子に、ヒカルも非情の真実を受け入れるしかなくなった。

「ガイアメモリの情報を知っていた熊木は、私たちに無理矢理ガイアメモリの接続を行った・・私以外は適合せずに拒否反応を起こして・・・」

「ガイアメモリの接続・・・」

 理子が口にした言葉に、光輝が息をのむ。

 ガイアメモリの使用者は、体のどこかにメモリを挿入するコネクタを付ける措置を受けて初めて、メモリの能力を使用することができる。メモリが所有者を認識するため、基本的にメモリはその所有者だけが使うことができる。

「私だけがメモリに適合した・・熊木に利用されそうになったけど、このことが石神コンツェルンや警察に知られたことで助かった・・」

「でもガイアメモリのことだけは警察には知られなかった・・だから今もあなたはドーパントに・・・」

 光輝が言葉を投げかけると、理子が小さく頷いた。

「熊木は解雇、追放され、石神コンツェルンも崩壊した・・でもまだアイツは生きていて、ガイアメモリの研究を続けている・・・!」

「ちょっと待ってよ・・熊木を憎んでるんですよね?・・そのあなたが、熊木と一緒になって、フィリップくんを・・・」

 怒りをあらわにしてきた理子に、亜樹子が疑問を投げかける。家族の仇であるはずの勝と組んで、理子は光輝からオメガのベルトを奪った。敵と組む矛盾を彼女はしていた。

「アイツを倒すチャンスをうかがっていたのよ・・シーフメモリを使いこなしている私を、アイツは信じているみたいだったし・・その切り札を、私はやっと手に入れた・・」

 理子は語りながら、ひとつのガイアメモリを取り出した。

「それは、まさか・・・!?

 光輝が思わず声を上げる。理子が取り出したガイアメモリは、シャインのメモリだった。

「熊木が探しているガイアメモリは、ダークとこのシャイン。ダークは熊木の手に渡っているけど、シャインはまだ私が持っている・・」

「だったらシャインのメモリを僕たちに渡してください。勝には絶対に渡しちゃいけない・・」

 光輝がシャインメモリを受け取ろうとするが、理子はそれを拒んだ。

「熊木を倒すのは私よ!アイツをおびき寄せるには、このメモリが必要なのよ!」

「熊木を復讐のつもりで追い詰めるのはやめろ・・復讐なんて虚しいだけだ。たとえ達成できたとしてもな・・」

 怒鳴る理子を翔太郎が呼び止める。彼も復讐の虚しさを知っていた。

「私がアイツをやらなければ、お父さんもお母さんも浮かばれない!お姉さんも喜んでくれない!」

 翔太郎の言葉を聞き入れようとしない理子が、別のガイアメモリを取り出した。

「私はあのまま熊木を野放しにしない!アイツがいる限り、私たちに幸せは訪れない!」

Thief.”

 理子がシーフメモリを、髪で隠していた後ろ首にあるコネクタに当てた。シーフメモリを挿入したことで、彼女はシーフドーパントに変身した。

「理子さん!」

「シャインのメモリは渡さない!渡すのは、熊木を地獄に落としてからよ!」

 ヒカルが呼びかけるのも聞かず、理子が光輝たちの横を素早くすり抜けて、外に飛び出していった。

「しまった!逃げられた!」

「理子さん、熊木勝のところに行くつもりよ!」

 声を上げる翔太郎とくるみ。

「メガブレイバー、理子さんを止めてくれ!」

 光輝も理子を追って病室を飛び出す。病院を出たところで、彼は水晶を手にする。

「変身!」

 水晶をベルトにセットして、光輝がオメガに変身する。だが理子は彼からかなり離れていた。

 勝のいるほうに向かおうとする理子の行く手を、駆け付けたメガブレイバーがさえぎってきた。だが理子は素早くジャンプして、メガブレイバーを飛び越えてしまう。

「メガブレイバー、理子さんを追うんだ!」

 光輝がメガブレイバーに乗って、理子をさらに追う。メガブレイバーが通常形態の「パワードフォーム」からスピード重視の「スピードフォーム」に変形した。

 距離を離されていた光輝とメガブレイバーだが、一気に加速して理子に近づいていく。

 小回りして光輝を振り切ろうとする理子。だが建物を飛び越えて地上に降りた彼女の前に、光輝が回り込んできていた。

「もうやめるんだ、理子さん!復讐しても、逆に自分を追い込むだけだ!」

 メガブレイバーから降りて、光輝が理子に呼びかける。

「僕の知り合いに、偽物の正義に人生を狂わされて、復讐と怒りに取りつかれている男がいる。自分の敵を倒していっても、彼は怒りを膨らませていくだけになっていた・・」

 光輝が理子に向けて語り始めていく。彼は竜也のことを思い返し、理子と重ねていた。

「怒りや憎しみに囚われてしまったら、2度と心に平和は戻らない!復讐のためでなく、正義のために勝を止めることを考えてくれ!」

「そう思うなら邪魔しないで!私はお父さんとお母さん、お姉さんのために熊木を倒そうとしているんだから!」

 呼びかける光輝だが、理子は勝を倒すことしか考えていなかった。

「そう言っているが、本当に正義や家族のためにやっていることなのか・・?」

 そこへハードボイルダーに乗った翔太郎が追い付いてきた。

「さっき言ったな。熊木勝を倒さなければ、両親は浮かばれない。姉さんも喜ばないって・・それ、姉さんが言ったことか?姉さんがアイツがいなくなればいいと本気で思っているのか?」

「だって、アイツがいなかったら、お姉さんは今も笑顔を見せてくれていた!笑顔を奪われて、許せるわけがない!」

「あなたの言葉を聞いているんじゃない!本当に家族のことを大切に思っているなら、家族のことをちゃんと考えろ!」

 ひたすら叫ぶ理子に、翔太郎も怒鳴る。しかし理子は怒りに駆り立てられるばかりだった。

「私はシャインのメモリを利用して、熊木を倒す!他の人には絶対にやらせない!」

 言い放つ理子が素早く動いて、翔太郎を突き飛ばす。ハードボイルダーにもたれかかるが、翔太郎はすぐに起き上がる。

「くそっ・・理子さんは怒りと憎しみを膨らませるあまり、ガイアメモリの力にのみ込まれてきている・・」

 敵意をむき出しにしてくる理子に、翔太郎が毒づく。

「危ない、翔太郎くん!ここはオレが理子さんを止める!」

「いや、ここはオレも止めるために戦う・・この風都で泣いてる人を放っておくわけにはいかないんでな・・」

 呼びかける光輝だが、翔太郎は戦うことをやめない。

「それに前にも言っただろう。オレにはまだ戦う力が残っているって・・・」

 翔太郎は言いかけると、ジョーカーメモリを手にする。

Joker!”

「変身。」

 ジョーカーメモリのスイッチを押して、翔太郎がWドライバーにセットする。

Joker!”

 フィリップの意識の共有を果たすことなく、翔太郎がWに変身した。ただしサイクロンジョーカーと違い、黒のみをメインカラーとしていた。

 正確な名称は「仮面ライダージョーカー」。W・サイクロンジョーカーの半分ほどしか力を発揮できないが、ジョーカーメモリに記憶されている「技の記憶」と高い格闘能力が力の不足を補っている。

「翔太郎くんだけでも変身できたのか・・・」

 ジョーカーの登場に光輝が驚きの声を口にする。

「フィリップと連絡が取れないから仕方なくな・・Wほどのパワーは出ないからあまり期待するなよ・・」

 翔太郎が身構えて、理子を見据える。

「邪魔しないでって言ってるのに・・アイツは私が倒す!」

 理子が怒りのままに翔太郎に向かっていく。速さを伴ったパンチを繰り出す理子だが、翔太郎はさほどダメージを受けていなかった。

「スピードはそっちが上手だろうが、パワーは負けていないぜ!」

 反撃に転じた翔太郎が、理子にパンチを叩き込んでいく。数発パンチを受けたが、理子は素早く動いて攻撃を回避する。

 だが彼女が移動した先には光輝が回り込んでいた。

「これ以上あなたに間違いを刺せるわけにはいかない!」

 光輝が左手で理子の右手をつかんで、さらにパンチを繰り出す。捕まって逃げられなくなった理子が、光輝のパンチを受け続けることになる。

「彼女を傷つけるのもよくない・・メモリブレイクで終わらせる!」

Joker,Maximum drive!”

 翔太郎が右手に紫色のエネルギーを集めて、理子に向かっていく。

「ライダーパンチ!」

「私はここでやられるわけにいかない!」

 理子が光輝の手を振り切って、翔太郎が繰り出したライダーパンチを素早くかわした。

「しまった!」

 声を上げる光輝。彼と翔太郎の攻撃をかいくぐり、理子は勝のところに向かっていった。

 

 その頃、一矢、太一、竜、弥生は勝の別荘の前に到着した。

「ここか・・何か罠を仕掛けているかもしれないぞ・・」

 竜が呟いて、別荘の建物や周りに注意を向ける。

「どんな罠を仕掛けようと、オレには通用しない。何も恐れることはない。」

 だが一矢は警戒する素振りを見せずに別荘に向かおうとする。

「用心しているようだが、この建物に罠と呼べるものは仕掛けていない。」

 そこへ声がかかり、一矢たちが振り向く。彼らの前に勝が現れた。

「熊木勝、フィリップを返してもらう。」

「あの男なら研究室だ。連れ出すなら自由、と言いたいところだが、お前たちにはダークメモリの力を試す相手になってもらうぞ。」

 アクセルメモリを手にした竜に、勝が不敵に言い放つ。彼もダークメモリを取り出し、Wドライバーに似たベルトを付けていることを見せつける。

「Wと同じ・・いや、似ているが違う・・」

「それにあれ・・クリスタルユニットにも似てる・・・」

 勝の付けているベルトを見て、竜と太一が呟く。Wドライバーとクリスタルユニット、2種のベルトの特徴を併せ持っていた。

「ガルヴォルス、クリスタルユニット、ガイアメモリ、これらがもたらすカオスがどのようなものか・・・」

Dark.”

「変身!」

 ダークメモリをベルト「カオスドライバー」にセットする勝。彼が身にまとった装甲もWに似た形状をしており、黒をメインカラーとしていた。

「シャインメモリがないから威力は半減だが、期待するだけの力は発揮してくれるはずだ・・・!」

 勝が強気に言葉をかけてから、竜たちに迫る。

「変身。」

「変身・・・!」

「変・・身!」

Accel.”

 一矢、太一、竜がギガス、クリス、アクセルに変身する。

「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」

「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」

「振り切るぜ!」

 高らかに言い放つ3人が、勝を迎え撃つ。すると勝が右手に黒い光を宿してきた。光というよりは闇というのが正しい。

「この闇は恐怖を増幅させる。だが恐怖を感じないヤツ特殊な体質のヤツには効果はないが・・」

 勝が右手から闇を放出し、竜たちを取り囲んだ。特殊体質の竜と恐怖を感じない一矢は効果がなかったが、元々気弱な性格だった太一は闇に取りつかれてしまっていた。

「怖い・・僕・・怖いよ・・・」

 震えて後ずさりする太一。精神が弱まってしまい、彼からクリスの変身が解けてしまう。

「効果があったのはそいつだけか・・だがダークの能力は闇そのものだけではない!」

 勝が竜と一矢に迫り、パンチとキックを立て続けに繰り出す。打撃を受けた竜と一矢が大きく突き飛ばされる。

「パワーも並みのドーパントやガルヴォルスとは比べ物にならない。お前たちでも太刀打ちはできないぞ。」

 強気な態度を崩さずに言い放つ勝。竜はすぐに起き上がり、素早く勝に詰め寄ってきた。

「確かにパワーは相当なものだが、スピードはこっちのほうが上だ・・!」

 鋭く言い放つ竜が、スピードを伴ったパンチを繰り出す。彼の連続の打撃が、勝のまとう装甲に叩き込まれていく。

 だが勝は竜の攻撃を受けても平然としていた。

「スピードはあっても、パワーはダークにはあまり通用していないようだな。」

「くっ!タフなヤツめ・・!」

 不敵に言いかける勝に、竜が毒づく。

 そのとき、勝の装甲から破裂と爆発が起こる。立ち上がった一矢が銃「ギガシューター」を撃って、勝を攻撃したのである。

「オレはパワーもスピードもオレが上だ。あの程度がお前の実力なら、オレの相手はとても務まらないぞ。」

 一矢も強気な態度を見せる。ダークの力で心を折られて震える太一は、弥生に支えられていた。

「やはりダークだけでは満足するだけの力は出せないということか・・・」

「待って!」

 呟きかけていた勝に向けて声がかかった。彼の前にシーフドーパントになっている理子が現れた。

「泥棒のドーパントか・・」

「わざわざ姿を見せてくるとは・・・」

 一矢と竜が理子の登場に呟きかける。

「丁度いいところに来たな・・シャインのメモリがほしかったところだ・・」

「シャインのメモリ・・これでしょ・・・!?

 淡々と言いかける勝に、理子がシャインメモリを見せた。

「すぐにこっちに渡せ。これでオレが求めてきたカオスが完成を果たす・・」

「いいえ、お前のカオスを手に入れるのは私よ・・!」

 勝が手を伸ばしてきたが、理子は彼にシャインメモリを渡そうとしない。

「ダークメモリを渡しなさい!でないとここでシャインメモリを壊す!」

 理子がシャインメモリを握って、勝に要求してきた。返答によっては彼女はこのままシャインメモリを握りつぶそうとしていた。

「せっかく探し出したものだものね・・壊されたくないよね・・!?

「お前にこのカオスを使いこなせるとは思えないがな・・」

 挑発的な言葉をかける理子だが、勝は強気な態度を崩さない。

「お前の言うとおり、そのカオスのための力を失いたくはない・・ダークメモリ、渡すとしよう・・」

 勝は理子の要求を受け入れると、カオスドライバーからダークメモリを引き抜いた。彼の体からダークの装甲が消失する。

 勝がダークメモリを手渡ししようとするが、

「そこから放り投げて!妙なマネしたらシャインメモリを壊す!」

 理子がシャインメモリを見せつけてさらに要求する。すると勝は聞き入れて、ダークメモリを理子に向けて投げた。

 ダークメモリを受け取った理子。シャインとダーク、2つのメモリを手にして彼女が喜びを浮かべる。

「やった・・これで・・これでみんなが安心できる!」

 理子がシャインとダークのメモリをこの場で握りつぶそうとした。

 だがそのとき、理子が握っていた2つのメモリが強い力に引っ張られ始めた。驚きを覚える理子の手からシャインとダークのメモリが離れて、勝の手に握られた。

「なかなかの考えだったが残念だったな。このカオスはもうオレのものとなっている・・」

「どういうことなの!?・・何をしたの!?

 不敵な笑みを見せる勝に、理子が驚愕する。

「オレは直接は何もしていない。だがカオスドライバーは、ある程度近ければ装着者にシャインとダーク、2つのメモリを引き寄せる効果がある。」

「それで、シャインとダークを・・!」

「お前がシャインとダークのメモリを手に入れても、オレがカオスドライバーを手にしていた時点でムダなことだったわけだ。」

 愕然となる理子に、勝が喜びを見せる。

「では早速体感させてもらうぞ・・求め続けてきた絶対的な力、カオスの力を!」

「そうはさせるか!」

 シャインメモリ、ダークメモリをカオスドライバーに差し込もうとする勝に、竜が向かってきた。

「カオスフラッシャー!」

 だがカオスドライバーの水晶から精神エネルギーの光が放たれ、竜が吹き飛ばされる。

「ぐっ!・・クリスタルユニットの力・・変身していなくても使えるのか・・・!」

「邪魔をしないで見ていろ・・オレがカオスとなるときを・・・」

 毒づく竜に勝が言い放つ。

Shine.”

Dark.”

「変身!」

 2つのメモリを押して、勝がカオスドライバーにセットする。

Shine,Dark.”

 勝の体を白い光と黒い闇が包み込んでいく。光と闇はWに似た白と黒を分けた装甲となった。

 クリスタルユニットとガイアメモリ、2種類の異なる能力をかけ合わせた存在「カオス」が姿を現した。

「これが、熊木勝が追い求めたカオス・・・!」

 勝が変身したカオスを目の当たりにして、竜が危機感を覚える。彼は勝から発せられる威圧感を、痛烈に感じ取っていた。

 勝の体から衝撃波が発せられた。押される竜と一矢だが、踏みとどまって耐えた。

「くっ!・・パワーが格段に上がっている・・・!」

 勝のカオスのパワーに毒づく竜。

「だがそれでも、オレのほうが上だ。」

 一矢は強気な態度を崩さずに、勝に向かって歩いていく。

「この程度、カオスの力の序の口にすぎない。これからどんどん味わわせてやるぞ・・」

 勝が不敵に言いかけて、一矢に攻撃を仕掛ける。カオスのパワーに押されて、一矢の体が跳ね上げられる。

「全力を出す前に、お前たちは生きていられるかな・・?」

 カオスのパワーを実感して、勝が哄笑を上げる。

「あのパワーに対抗するには・・・!」

 竜はアクセルの新たなる変身を行おうとしていた。彼は太一のそばについている弥生に声をかけた。

「おい、臆病になっているそいつを連れて、フィリップを助けに行け!」

「照井さん・・分かりました・・・太一くん、行こう・・」

 弥生が太一を連れて、勝の別荘に向かっていった。竜は改めて戦いに集中しようとした。

 だがそのとき、竜が力に引っ張られた。勝がカオスの中のダークの力を使い、竜を引力で引き寄せてきていた。

「こんな能力まで持っていたのか・・・!」

「自慢の速さも、捕まえてしまえば意味がなくなる!」

 うめく竜に向けて、勝が左手を突き付ける。カオスの中のシャインの光が、竜がまとうアクセルの装甲から火花を散らす。

「ぐあっ!」

 焼かれるような激痛に襲われて、竜が絶叫を上げる。突き飛ばされて倒れた彼から、アクセルへの変身が解除された。

 

 

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