仮面ライダーオメガ&W -Memories of Double-
第2章
光輝たちとベルトの捜索に出た翔太郎と亜樹子。彼らと行動を共にしなかったフィリップは、鳴海探偵事務所の地下ガレージにいた。
占いの探究を終えたところで、フィリップの腰にWドライバーが巻かれた。
「翔太郎・・・」
翔太郎に起こっている事態を把握して、フィリップが緑のメモリを手にする。
翔太郎とフィリップがWドライバーを装着している間は、2人の意識と感覚がつながっている。フィリップが翔太郎に起きていることをある程度把握できたのはそのためである。
“Cyclone.”
フィリップが押したガイアメモリから音声が発せられる。
「変身。」
そのメモリをベルトに差し込んだ瞬間、フィリップが突然倒れて動かなくなった。
翔太郎が変身した姿に、光輝は驚きとともに喜びを感じていた。その姿は紛れもなく仮面ライダーそのものだった。
「何だ、お前は?・・新たなクリスタルユニットの戦士か・・・?」
「オレは、オレたちは、仮面ライダーW。風都の風を守る仮面ライダーだ。」
疑問を覚える勝に、翔太郎が名乗りを上げる。
彼が変身したのは仮面ライダーW。変身中は翔太郎の体にフィリップの魂が宿っている、2人で1人の仮面ライダーである。ボディメモリとソウルメモリを組み合わせて様々な能力を発揮する。
「さぁ、お前の罪を数えろ!」
翔太郎が勝を指差して言い放つ。
「ここはオレたちに任せて、光輝たちは逃げろ・・」
「でも、このまま翔太郎くんだけに戦わせるわけにいかない!僕も君と・・!」
呼びかける翔太郎だが、光輝もヒカルたちを守ろうと勝に立ち向かおうとする。だが翔太郎に制される。
「今のお前は戦える状態じゃない。亜樹子やみんなを守ることを優先してくれ・・」
「翔太郎くん・・・分かった・・でも、気をつけて・・・!」
翔太郎の言葉を受け入れて、光輝がヒカル、くるみ、亜樹子を守ろうとする。
「このベルト・・クリスタルユニットではないのか・・だがオレのカオスの力を試すには丁度いい機会と相手だ・・」
勝が翔太郎に向かって飛びかかっていく。軽やかな動きで攻防を試みる翔太郎だが、パワーもスピードも勝が上回っていた。
「コイツ・・かなり手強いぞ・・!」
“翔太郎、こっちもパワーとスピードを重視しよう・・”
毒づく翔太郎にフィリップが声をかけてくる。勝の打撃で突き飛ばされるも、翔太郎はすぐに立ち上がり、銀のメモリを取り出す。
“Cyclone,Metal!”
Wの黒い半身が銀色に変化する。メタルメモリの力は、俊敏性に欠けるがパワーと耐久力に長けている。サイクロンメモリとの相性がいいとはいえないが、鈍くなった速さを補おうとした。
「色が変わった!?・・いや、半分だけフォームチェンジしたんだ・・・!」
Wの変化に光輝が声を上げる。速さを伴ってかかってくる勝だが、翔太郎は彼の攻撃を受けても踏みとどまっていた。
そして翔太郎の銀の左手が、勝が突き出した右腕をつかんだ。
「ぬっ!?」
「捕まえたぞ。今度はこっちの番だぜ・・!」
声を荒げる勝を離さずに、翔太郎が紅いメモリを手にする。
“Heat,Metal!”
Wの緑の半身が赤に変わる。炎と熱の「ヒートメモリ」の力がWに宿る。
翔太郎の繰り出す右のパンチが勝に叩き込まれる。このパンチには炎が宿っており、勝に大きなダメージを与えていた。
メモリチェンジで様々な状況の打開を可能とするWだが、相性のいいメモリの組み合わせが存在する。基本形態のサイクロンジョーカー、パワー重視のヒートメタルもその組み合わせに含まれている。
勝を押さえて果敢に攻め立てていく翔太郎。炎のパンチを立て続けに受けて、勝が苦痛を覚える。
「このような攻撃で、オレを倒せるか!」
だが突然勝の体が霧のように形を変えた。霧状になった勝は、翔太郎の手からもすり抜けて、距離を取ってから元に戻った。
「メタルのパワーから逃れた・・何をしたんだ・・・!?」
勝の見せた特異の能力に、翔太郎が声を荒げる。
「こうなったら一気に決めてやる・・・!」
“Metal,Maximum drive!”
翔太郎が背中に装備していた棒型武器「メタルシャフト」を手にして、ベルトにセットしていたメタルメモリを差し込む。
「メタルブランディング!」
翔太郎が灼熱の炎をまとったメタルシャフトを、勝目がけて振り下ろす。だが勝がまたも霧状に変化して、翔太郎の炎の一閃をかわした。
「これもよけるのか・・・!」
“ヤツは体を霧に変化できるようだ。短時間で元に戻るようだが、その間は物理攻撃は通用しない・・”
うめく翔太郎にフィリップが声をかけてくる。
“あのようなつかみどころのない敵には・・”
「コイツしかないみたいだな・・・!」
フィリップの言葉に答えて、翔太郎が赤と銀のメモリをベルトから外し、黄色と青のメモリをセットする。
“Luna,Trigger!”
Wの体がそれぞれ黄色と青に変化する。変則的な戦闘を可能とするルナメモリと、射撃に長けたトリガーメモリ。Wの相性のいい組み合わせのひとつ「ルナトリガー」である。
「霧になれるのがどのくらいかは分かんないが、今度こそ逃がさないぞ・・・!」
翔太郎が言いかけて、勝に向けて右腕を伸ばす。ルナメモリの力を宿すWの黄色の右腕は伸縮自在で、鞭のように動かすことが可能となっている。
翔太郎の伸ばしてきた右腕を、勝は霧状になってかわす。
「逃がさないと言ったはずだぜ・・」
“Trigger,Maximum drive!”
翔太郎が銃型武器「トリガーマグナム」に、ベルトにセットしていたトリガーメモリを移し替える。トリガーマグナムの銃口に黄色と青のエネルギーが集まっていく。
「トリガーフルバースト!」
翔太郎がトリガーマグナムの引き金を引くと、黄色と青の複数の光の弾が放たれる。弾はそれぞれ軌道が異なり、霧状になっている勝に向かって飛んでいく。
霧状でいる間は弾を回避していた勝だが、霧状を保てずに元に戻った途端に弾の射撃を受けることとなった。
「くっ・・ガルヴォルスの力だけではヤツに勝てないか・・これではオメガと戦ったとしても・・・!」
翔太郎がフィリップとともに変身したライダー、Wの多種多様の戦い方に太刀打ちできないと感じて、勝は続けて飛んできた光の弾をかわしながら逃亡していった。
「逃げられたか・・ここは追い返しただけでも良しとするか・・・」
“だけど今度の敵は手強い。次にとんでもないことを仕掛けてくるかもしれない・・”
力を抜く翔太郎に、フィリップの声が伝わってくる。
“ここは検索を行ったほうがいい・・1度戻ってきてくれ、翔太郎・・”
「分かった・・」
フィリップの呼びかけに答えると、翔太郎はWへの変身を解除する。フィリップの意識は彼の体に戻っていった。
「亜樹子、みんな、無事か・・?」
「翔太郎くん・・うん、あたしたちは平気だよ。」
翔太郎が声をかけると、亜樹子が頷く。光輝、ヒカル、くるみも戸惑いを見せながらも無事だった。
「それにしても、まさかガルヴォルスがこの街に現れるなんて・・」
ガルヴォルスの出現に光輝が不安を口にする。
「これじゃなおさらオメガのベルトを取り戻さないといけない・・翔太郎さんの変身した仮面ライダーはすごいけど・・」
「でも、本当に手がかりがないですよ・・ベルトを盗んでいったのは、ガルヴォルスとは違う怪人なんですよね・・・?」
さらに決心を固める光輝に、ヒカルが不安を口にする。手がかりが見出せずに、光輝は途方に暮れようとしていた。
「ここはオレたちに任せてくれ。フィリップが検索をするから・・」
そこへ翔太郎が呼びかけてきた。彼はオメガユニットの行方を手繰り寄せる方法を知っていた。
「検索?」
「直接の手がかりはまだつかんでないが、キーワードはいくつかつかんだからな・・・」
疑問を投げかける光輝に答えてから、翔太郎がフィリップに連絡を入れた。
Wの変身が解かれ、意識を取り戻したフィリップ。起き上がった彼は、翔太郎からの連絡を受けていた。
“事態が複雑になってきてるんだが、うまく目的に辿りつきたいから・・”
「分かった、翔太郎・・キーワードを教えてくれ。」
フィリップが翔太郎に呼びかけると、意識を集中して地球の本棚へとリンクした。
地球の本棚は無数の本棚が立ち並ぶ真っ白な世界となっており、本棚にある本のひとつひとつが地球の記憶のデータベースとなっている。キーワードを唱えて検索をかけていくと、該当する本が選別されて他の本が除外され、最終的に1冊の本を手にすることになる。
“キーワードは、オメガ、ガルヴォルス・・”
翔太郎が告げる単語を使って、検索をかけていくフィリップ。本の数が減少したが、1冊には絞れていない。
「ダメだ、翔太郎・・まだ絞りきれない・・」
“なら、これはどうだ?・・カオス・・・”
3つ目のキーワード、勝が変身したガルヴォルス、カオスガルヴォルス。だが今度は本が1冊も残らなくなった。
「ダメだ。他のキーワードはないか、翔太郎・・?」
“引っかからないか・・・だったら、泥棒はどうだ・・・?”
翔太郎の助言を受けて、フィリップが打ち込むキーワードを「カオス」から「泥棒」に切り替えた。すると本を1冊に絞ることができた。
「出た・・これは犯人に関する情報のようだ・・」
フィリップが本棚にあるその記憶の本を手にして開く。
「まさに泥棒、泥棒のガイアメモリを使っている。速さに長けていて、相手の持っているものを素早く的確に奪い取ることができる・・」
翔太郎に向けて説明をするフィリップ。
「泥棒の、シーフのガイアメモリは、ドーパントとなって保育園を襲った母親にメモリを渡した人物が持っていたものだった。母親のようにメモリを渡したのだろうが、渡した相手までは記されていない・・」
“それで、その渡したヤツは誰なんだ・・?”
「熊木勝。あのガルヴォルスに変身した男さ・・」
フィリップが説明をしていくと、驚愕した翔太郎の荒い声が返ってくる。
“どういうことだよ、フィリップ!?・・アイツはドーパントじゃないんだぞ・・・!”
「彼はガイアメモリの収集と運用も行っている。シーフのメモリを持っていて、他の誰かに渡したとしてもおかしくはない。」
翔太郎に答えてから、フィリップは地球の本棚から現実へと意識を戻した。
フィリップの検索から導き出された情報を聞いて、翔太郎は光輝たちに伝えた。オメガユニットを手に入れたシーフドーパントは、他のクリスタルユニットを奪おうとするのではないかと、翔太郎と光輝は推測した。
「他のクリスタルユニット・・まさか、みんなを狙ってくるかもしれないんじゃ・・・!?」
光輝は一抹の不安を感じていた。自分の知り合いがシーフドーパントに狙われるのではないかと、彼は思っていた。
「みんな・・他のクリスタルユニットを持っている。お前の仲間か?」
「うん・・決して弱くはないけど、盗みに慣れているあのドーパントにベルトを盗まれる可能性が高い・・・連絡して用心させておかないと・・」
翔太郎が声をかけると、光輝が頷いて携帯電話を取り出す。彼は急いで注意を呼びかけようとしていた。
その頃、風都に足を踏み入れた3人の男女がいた。
富士野一矢。光輝と同じ大学に通う青年。「無敵」、「完全無欠」を絵に描いたような人物で、本人もそれを自負している。自分にできないことは何もないと本気で思っている。
谷山太一。非常に内向的な性格で、何事においても勇気が持てず逃げ場を求めてばかりだった。だが光輝との出会いを機に弥生を守りたいという気持ちが強まり、クリスタルユニット「クリスユニット」を手にして戦う道を選んだのだった。
岬弥生。太一の同級生で、気弱な彼の心の支えになっている。
3人は風都の噂を聞いて、街に繰り出してきたのである。
「ここが風都か。物静かなところと思っていたが、騒々しくもあるな・・」
一矢が風都の街並を見回して、淡々と呟いていく。
「でもいい雰囲気の街だよ・・静かすぎずにぎやかすぎずで・・」
「そうですね。心の中の悪いものを、この風が流していくみたい・・・」
太一と弥生が風都の風を堪能していく。
「そういえば光輝くんたちもここに来ているんだよね・・?」
「そうでしたね・・行き違いにならずに会えればいいんですが・・・」
周囲を見回していく太一と弥生。しかし風都の街を行き交う人々は多く、光輝たちを見つけ出すのは難しかった。
「仕方がない・・電話してうまく落ち合うしか・・」
太一が光輝たちとの連絡を持ちかけたときだった。丁度彼の携帯電話が受信し、振動し始めた。
「話をしていたら、光輝くんからだ・・・」
電話をかけてきた相手が光輝であることを知り、太一が喜ぶ。
「もしもし、光輝くん?・・何かあったの・・?」
“太一くん、今どこにいるの!?”
太一が電話に出ると、光輝の慌ただしい声が飛び込んできた。
「光輝くん・・今、風都っていう街の中だけど・・どうしたの、そんなに慌てて・・?」
“実はオメガのベルトを奪われてしまったんだ・・だから、もしもオメガが現れたら、それは僕じゃないから・・・!”
答えていく太一に向けて、光輝が呼びかけていたときだった。
太一たちの前にオメガが現れた。太一にはそのオメガが、光輝が変身したものでないことが分かっていた。
「吉川光輝・・ではないようだな・・」
「君は誰だ!?どこでそのベルトを・・!?」
不敵な笑みを見せる一矢と、声を荒げる太一。だが彼らの前に立つオメガは、何も答えずに近づいてくる。
「弥生ちゃん、離れていて・・・変身・・・!」
「変身・・」
弥生に呼びかける太一が、一矢とともに水晶を手にして、ベルトにセットする。2人の姿がそれぞれ緑と青の装甲に包まれていく。
一矢と太一はクリスタルユニット「ギガス」と「クリス」をまとったのである。
「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・!」
オメガに向けて声をかける一矢と太一。向かってきたオメガが繰り出したパンチを、一矢は軽やかにかわしていく。
「どうした?吉川光輝のほうがまだいい動きをしているぞ?」
反撃に転じた一矢がオメガに反撃していく。力をうまく扱い切れず、オメガが押されていく。
「お前のようなヤツに、オメガを使わせるわけにはいかないな・・一気に倒させてもらうぞ・・・」
一矢は強気に言い放つと、ベルトの水晶を右足の脚部にセットする。彼はオメガを突き飛ばして離すと、飛び上がって両足を突き出した。
「ギガスマッシャー!」
一矢が繰り出したキックを受けて、オメガが大きく突き飛ばされる。その弾みでオメガからベルトが外れて地面に落ちた。
だがオメガを装着していた相手は、吹き飛ばされた勢いで姿を消してしまった。一矢も太一もその正体を確かめることができなかった。
「逃がしたか・・運のいいヤツだ・・」
呆れ気味に言いかける一矢が、太一とともに変身を解除する。
「でも、これでオメガのベルトを取り戻すことができた・・・」
太一がオメガのベルトを拾って、安心の笑みを浮かべる。
「すぐに光輝くんに連絡して、ベルトを届けに・・」
太一が光輝たちに連絡を入れようとしたときだった。突然爆発音が響き、太一と弥生が驚きを覚える。
「何、今の爆発・・・!?」
「今のオメガの装着者ではなさそうだ。方向が違う・・」
声を荒げる太一と、淡々と呟きかける一矢。
「本当に光輝くんに連絡したほうがいいみたい・・・!」
太一は慌てながら光輝との連絡を取るのだった。
突然の爆発音は、光輝や翔太郎たちの耳にも入ってきていた。
「今の爆発はいったい・・・!?」
「もしかしたら、ギガスとクリスってのが・・・!」
一抹の不安を口にする光輝と翔太郎。
「二手に分かれて調査するぞ。オレと光輝は爆発のあったほうに行く。亜樹子はこの辺りをもう1度回ってくれ。」
「勝手に決めないでよね!あの爆発のほうが事件のにおいがプンプンにおってくるじゃない!」
翔太郎が指示を出すが、意気込みを見せる亜樹子は聞こうとしない。やる気満々になっている彼女に、翔太郎は呆れてため息をつく。
「分かった、分かった・・その代わり、途中でフィリップと合流しろ。危なっかしいのは分かってるんだから・・」
「ま、フィリップくんがいたほうが頼りになるしね♪」
観念した翔太郎の言葉に、亜樹子が上機嫌に答える。
「というわけだから光輝、オレたちはこの辺りを捜索だ。」
翔太郎が気落ちしたまま、光輝に呼びかける。だが光輝は不安の色を浮かべていた。
「でも、もしもオメガを盗んだヤツが暴れていたら・・・」
「もしそうだったとしても、すぐに連絡をよこすだろ・・それに、いざとなったらフィリップが・・・」
光輝が口にした不安に答えて、翔太郎は途中で言葉を止めた。
そのとき、光輝の携帯電話が鳴りだした。かけてきたのは太一だった。
「太一くん・・・?」
“光輝くん、オメガのベルト、取り戻したよ・・!”
「ホント!?すぐに取りに行くよ!」
“うん・・それじゃ、風都タワーで待ち合せよう・・”
太一との連絡を終えると、翔太郎に目を向けて頷いた。
「こっちの目的地も決まったみたいだな・・・」
「太一くんからベルトを受け取ったら、僕たちも向かうよ・・」
翔太郎が言いかけ、光輝がヒカルたちに声をかける。彼らは2組に分かれて、改めて行動を開始するのだった。
風都にて突然起こった爆発。炎は道の真ん中で発生していたが、建物や車などに火は回っていなかった。
騒動となっている現場から離れるように、1人の青年が風都の道を歩いていた。
海道竜也。正義や世界の法に見放されて、正義に強い憎悪を抱いている。激しい憎悪に駆り立てられて、彼は世界の敵を手にかけてきた。
オメガに変身する光輝も、竜也は敵と見ていた。彼は光輝を正義の象徴として、倒すべき敵と認識していた。
この日、風都に足を踏み入れていた竜也は、横暴な態度を取っていた男たちを手にかけていた。このときに爆発が起こったのである。
(この街にも、自分たちのことしか考えない偽善者が紛れ込んでいる・・だがこれ以上、ヤツらの思い通りにはさせないぞ・・)
偽善者への敵対と撃退を誓っていく竜也。
(だがいずれまた、光輝と戦うことになるだろう・・そのときは今度こそ・・・!)
光輝への怒りを募らせて、竜也が両手を強く握りしめていく。
怒りを胸の中に秘めながら、風都を歩いていく竜也。しばらく歩いたところで、彼はヒカルとくるみ、フィリップと亜樹子を目撃する。
「あの2人・・この街に来ていたのか・・・」
竜也が目つきを鋭くして、ヒカルたちに近づいていく。その彼にヒカルたちに気がつく。
「あれは、竜也さん・・この風都に来ていたなんて・・・」
「知り合いなの、あの人と・・?」
不安の色を浮かべるヒカルに、亜樹子が疑問を投げかける。
「はい・・あの人もガルヴォルス・・それも高いレベルの・・」
「人間もガルヴォルスも関係なく、自分が正しいと思い込んでいる人を襲ってるのよ・・」
ヒカルが不安げに、くるみが不満げに説明をしていく。
「ガルヴォルス・・興味がわいてくるね・・」
「でも短気みたいね・・ちょっと言ってきてやるわ・・」
フィリップが興味津々になり、亜樹子が文句を言いに竜也に近づこうとする。
「待ってください、亜樹子さん!・・竜也さんを刺激しないほうがいいです・・・!」
ヒカルが慌てて亜樹子を呼び止める。
「お前たち、こんなところで何をしている・・?」
そこへ竜也に声をかけられ、ヒカルとくるみが緊迫を膨らませる。
「吉川光輝はどうした?・・お前たちだけなのか・・?」
「それは・・・」
問いかけてくる竜也にヒカルが口ごもる。そこへ亜樹子が竜也の前に出てきた。
「アンタ、何があったか知らないけど、すぐにピリピリしてるのはよくないわよ。印象悪くするわよ。」
「何だ、お前は?・・オレに何の用だ・・?」
気兼ねなく話しかけてくる亜樹子に、竜也が眉をひそめる。
「オレは偽物の正義を振りかざしている敵を許さない・・現に自分たちのことしか考えていないヤツらが、この街にもいたからな・・」
「そんなことないって!風都にはいい人がたくさんいて、みんな頼りになるんだから!」
冷淡に告げる竜也に、亜樹子が切実に呼びかける。しかし竜也は態度を変えない。
「お前が何と言おうと、偽善者はこの街にいた。ヤツらを叩き潰さなければ、本当の平和は訪れない・・」
偽りの正義を徹底的に叩き潰そうという考えを貫いている竜也。そんな彼に怒って、亜樹子が右手を振りかざして叩いた。
「えっ!?」
亜樹子の突然の行動に、ヒカルとくるみが驚きの声を上げる。彼女たちの反応を気に留めずに、亜樹子が竜也に怒鳴りかかる。
「アンタ、そうやって気に入らないもの叩き潰して満足なの!?復讐したって、周りのみんなだって、自分だって悲しくなるだけだって!」
自分の考えを叫んでいく亜樹子。
「復讐ためじゃなくて、もっといいことのために戦ったらどうなの!?」
「お前・・勝手なことばかり口にして・・・!」
呼びかける亜樹子に向けて、竜也が鋭い視線を向けてきた。
「お前も自分が正しいと思い込んでいるヤツの1人か・・・!?」
憤りを浮かべた竜也が、亜樹子をつかんで持ち上げてきた。
「な、何でこうなるの!?あたし聞いてない!」
悲鳴を上げる亜樹子をつかんだまま、竜也の姿が変化する。彼は竜の姿に似たドラゴンガルヴォルスに変身した。
「ガルヴォルスに変身した!・・すぐに光輝に連絡を・・!」
「いや、翔太郎たちを呼んでも間に合わない・・」
くるみが慌てて光輝に連絡を取ろうとするが、フィリップに呼び止められる。
「でも、このままじゃ亜樹子ちゃんが!」
「心配はいらない。この状況を解決する方法が1つだけある・・」
声を荒げるくるみに、フィリップが落ち着いたまま答える。翔太郎への連絡を取ろうとする彼の前に、恐竜を思わせる形状の白の小型ロボットが姿を現した。
「ファングメモリ」。フィリップの護衛用のために作られたソウルメモリである。
「翔太郎、すぐにドライバーを付けてくれ。」
“どうした、フィリップ?何かあったのか・・!?”
呼びかけるフィリップの耳に、翔太郎の疑問の声が入る。だがすぐにフィリップの腰にWドライバーが出現した。
フィリップからの連絡を受けて、Wドライバーを身につける翔太郎。
「光輝、少しの間、オレの体を頼むぜ・・」
「えっ・・?」
翔太郎が投げかけた言葉の意味が分からず、光輝が疑問符を浮かべる。
“Joker!”
「変身!」
取り出したジョーカーメモリをWドライバーにセットする。すると翔太郎はWに変身せずにその場に倒れ込んだ。
「翔太郎くん!」
慌てて翔太郎を受け止める光輝。起こそうとする光輝だが、翔太郎は目を覚まさなかった。
“Fang.”
「変身。」
ファングメモリをWドライバーにセットするフィリップ。
“Fang,Joker!”
するとフィリップがWに変身する。その姿は白と黒で分けられていた。
Wの形態のひとつである「ファングジョーカー」。Wは翔太郎をベースにして変身しているが、このファングジョーカーだけはフィリップをベースにして変身する。
“あれはドーパント!?・・いや、ガルヴォルスか・・・!”
翔太郎が竜也に襲われている亜樹子を目撃して、状況を把握する。翔太郎の意識は今、フィリップの中に入り込んでいた。
「かなり手荒い相手のようだ。一筋縄ではいかないかもしれない・・」
“そうみたいだな・・ファングジョーカーはおあつらえだな・・・!”
言葉をかけるフィリップに、翔太郎が意気込みを見せる。フィリップが竜也に攻撃を仕掛け、亜樹子を引き離す。
「フィリップくん・・助かったよ〜・・・」
フィリップに感謝の言葉をかけると、亜樹子は気絶してしまった。
「2人とも、亜樹子ちゃんを頼む・・」
「う、うん・・!」
フィリップに声をかけられ、くるみが亜樹子を抱えて離れていく。
「フィリップさん、竜也さんは強い力と怒りを持っています・・まだまだパワーを出してきます・・」
ヒカルが深刻な面持ちで声をかけるが、フィリップは気負うことなく竜也に向かっていった。
「オメガではない・・だがオレの行く手を阻もうとする敵であることは間違いない!」
Wに変身したフィリップを敵だと認識する竜也。野獣のような雰囲気と戦法を見せるファングジョーカーのWは、竜也共々荒々しい攻撃を仕掛けていく。
「君、すごいね。このファングに負けず劣らずの攻撃力と闘争心だ・・」
竜也の力を分析していくフィリップ。彼はファングメモリの鼻先の角「タクティカルホーン」を弾く。
“Arm Fang.”
Wの右上腕から刃「アームセイバー」が出現する。正義への敵意をむき出しにする竜也に対し、フィリップがファングジョーカーの力を発揮しようとしていた。