仮面ライダーオメガ&W -Memories of Double-
第1章
仮面ライダー。
裏社会や宇宙、別世界からやってくる破壊者や侵略者から、自由と平和を守るために戦い続けてきた戦士。
その活躍は世界にまで知れ渡り、子供たちのヒーローともなっている。
世界を脅かす怪人や脅威に、決意と勇気をもって立ち向かう仮面ライダー。
そのライダーへの憧れを抱いたまま、戦いに身を投じた男がいた。
幸せの風が流れている街、風都(ふうと)。
日々風の絶えることのない、オレたちの街だ。
風都の風は幸せだけでなく、悪いものも街から運んで行ってきてくれる。
だがそういういいことばかりではなく、悪いことも運んでくる。
この風都や住む人たちを泣かせる罪がある。
そんな罪から風都やみんなを守るのが、このオレ、いや、オレたちだ。
風都を守る探偵であり、仮面ライダーであるオレたちが・・・
とある場所にある都市、風都。常に風が流れており、街のいたるところにある様々な風車が風に吹かれて回っている。
その風都で探偵業をしている青年がいた。
左翔太郎。「鳴海探偵事務所」に所属している私立探偵である。
元々この鳴海探偵事務所は、翔太郎の師である鳴海荘吉が所長を務めていたが、現在は彼の死により、翔太郎が彼の意思と看板を受け継いでいる。
この日は翔太郎は立て続けに起こった事件を解決し、つかの間の休息を送っていた。
「ふぅ・・事件や犯罪がない・・こういう平和なひと時も、悪くないものだな・・・」
翔太郎がこの休息を満喫していた時だった。
「何をのん気なこと言ってんのよ!」
突然翔太郎が後頭部を叩かれる。彼の横にはスリッパを持った1人の少女がいた。
鳴海亜樹子。壮吉の娘で、現在鳴海探偵事務所の所長を自称している。行動力旺盛で、翔太郎を振り回すことも多い。
「おい、いきなり何すんだ、亜樹子!?」
「何すんだ、じゃないわよ!依頼が全然ないじゃない!」
頭を押さえて怒鳴る翔太郎に、亜樹子が怒鳴り返す。
「あー、これじゃ確実に赤字じゃなーい・・ここで油売ってないで、依頼人探してきなさいよ!」
「そんなにバタバタ騒いだって始まらない・・じっくり待って、向こうからやってくるのを待つのが、ハードボイルドってヤツさ・・」
呼びかける亜樹子の前で、翔太郎がかっこつけて言いかける。だがすぐに亜樹子にスリッパで叩かれる。
「待ってたって依頼人は来ないのよ!これだから半熟卵なのよ、翔太郎くんは!」
翔太郎に怒鳴り続ける亜樹子。ハードボイルドが翔太郎の信条であるが、感情的になったりと冷静になりきれないところが目立つため、ハーフボイルドとからかわれることもある。
「だー、もう、ハーフって言うな!・・っつーか、フィリップはどうしたんだよ・・・!?」
翔太郎が憤慨しながら、事務所の中を見回していく。彼が地下ガレージへのドアを開けると、そこには1人の青年がいた。
フィリップ。本名、園咲来人。壮吉と翔太郎に救出されて以降、翔太郎のパートナーとなった。
翔太郎が外部調査を行う一方、フィリップは知識と情報を駆使して調査を行っていく。それは地球のあらゆる記憶が収められている精神世界「地球の本棚」へリンクする特殊能力によりものである。
翔太郎が外部調査で得たキーワードで、フィリップが地球の本棚で検索し、犯人や事件の真相を暴く。これが2人の探偵業である。
「おい、フィリップ・・亜樹子に言ってやれって・・・何やってんだ・・・?」
フィリップに声をかけたとき、翔太郎は眉をひそめた。フィリップは水晶玉をじっと見つめていた。
「実に興味深いよ、翔太郎・・しかしこの占いというものを検索するのは、少し時間がかかりそうだ・・・」
「おいおい・・またなのか、フィリップ・・・」
翔太郎がフィリップの行動に呆れて肩を落とす。フィリップは1度注目したものは検索を終えるまで他のことが頭に入らなくなる。しかも検索を終えるとそのものにはほとんど関心がなくなる。
「今度は占いってわけね、フィリップくん・・・」
亜樹子もフィリップの様子に呆れるばかりになっていた。
そのとき、事務所のドアがノックされる音が響いてきた。
「あ、はーい♪」
亜樹子が上機嫌に駆け出し、ドアを開けた。その先にいたのは、困った顔を浮かべている1人の青年だった。
「はいはい、どんな依頼ですかー?人探しですか?それとも犯罪を暴くことで?・・おっ・・」
「どんな依頼ですか?探偵のオレが、解決してご覧に入れましょう・・」
満面の笑みを見せて言い寄ってくる亜樹子を押しのけて、翔太郎が改めて訊ねてきた。
「この街に有名な探偵がいると聞いて、ここに来たんです・・・」
青年が息をのんでから話を切り出した。
「そうか・・確かに有名な探偵ではありますが・・イタッ!」
褒められて鼻を高くする翔太郎を、亜樹子がスリッパで叩く。
「それで、何の依頼なんでしょうか・・・?」
亜樹子が苦笑いを浮かべながら、青年に声をかける。
「探してほしいんです・・・ベルトを・・・!」
「ベルト?」
青年が口にした言葉に、翔太郎も亜樹子も疑問符を浮かべた。
それは今回の仕事が依頼される1時間前までさかのぼる。
風都に足を踏み入れた3人の男女がいた。
吉川光輝。正義感が強くヒーローに憧れを抱いている。その性格や振る舞いが子供染みていると思われていることがある。
水神くるみ。光輝が居候している家に住んでいる少女で、持ち前の活発さと自信に満ちあふれた性格をしている。
ヒカル。光輝と同じく水神家に居候している少女。2人に出会ったときは記憶喪失になっており、「ヒカル」という名前も2人が考えたものである。
その日、光輝、くるみ、ヒカルは風都を訪れていた。近年話題性に富んできた風都に行ってみたいという、くるみの提案である。
「ん〜!さっすが風都♪噂通り、気持ちいい風が流れてるね・・」
くるみが大きく背伸びをして、風都のそよ風を実感する。
「でもそれだけじゃ大きな話題にはならないわね・・もっと他のすごいものがあるはず・・」
くるみはすぐに考え込んで、街を見渡していく。
「こういうときはいろいろと立ち寄ってみるのがよさそうね・・光輝、ヒカルちゃん、このまま風都探索よ♪」
「くるみちゃん、今日は上機嫌だね・・でもあんまり張り切りすぎちゃうと、ヒカルちゃんがついていけなくなっちゃうよ・・」
普段よりもテンションが上がっているくるみに、光輝は苦笑いを浮かべるばかりになっていた。
「大丈夫ですよ、光輝さん。私もくるみさんからここのことを聞いて、1度行ってみたいと思っていたんです・・・」
「そう・・それなら僕も嬉しくなるよ・・僕も興味があったんだよね・・・」
ヒカルが笑顔を見せると、光輝も喜びを浮かべる。
「この街に、仮面ライダーがいるって噂があるって聞いたんだ・・どんなライダーがいるのか、楽しみになってきたよー♪」
光輝はさらに期待に胸を躍らせ始めた。
ヒーロー、仮面ライダーへの憧れを持っている光輝は、風都にいると言われている仮面ライダーに関心を向けていた。くるみの誘いを受けたのも、仮面ライダーに会うためである。
「ちょっとー、まずは風都タワーに行ってみるわよー。風都のシンボルをきちんと見ておかないよね。」
そこへくるみが光輝とヒカルに声をかけてきた。
「そうだね・・そこでどこを見て回るか、ちょっと選んでみよう・・」
光輝がくるみに答えて、ヒカルとともに走り出していった。
「風都タワー」。築30年の風都のシンボルと呼ばれるタワーで、形が巨大な風車になっている。
その風都タワーの前に、光輝たちはやってきた。
「街のシンボルというだけあって、やっぱり大きいわねぇ♪」
風都タワーを見上げて、くるみが喜びの声を上げる。
「確かに大きいけど、このタワーも風車になってる・・ホントに風が代名詞になってるって感じだよ・・」
光輝も風都のすばらしさを感じていった。この街とそよ風に平和と幸せが込められていると、彼は感じ取っていた。
「さて、どんどん風都の名物を巡っていくわよー!光輝、ヒカルちゃん、行くよー!」
「ち、ちょっとくるみちゃん、待ってって・・!」
くるみに手を引っ張られて、光輝が慌てて声を上げる。ヒカルも笑顔を絶やさずに歩き出していった。
そこへ1体の怪物が、光輝たちの前に現れた。
「ガ、ガルヴォルス!?この街にも!?」
くるみが怪物に向けて驚愕の声を上げる。
ガルヴォルスは人類の進化系である。異形の怪物の姿と本能を得て、その衝動の赴くままに破壊や殺戮を行っていく。
そのガルヴォルスが風都にもいたことに、くるみもヒカルも驚きを隠せなくなっていた。
「・・いや、あれはガルヴォルスじゃないみたいだ・・・!」
「えっ・・・!?」
光輝が口にした言葉に、くるみが再び声を荒げる。光輝は目の前の怪人がガルヴォルスとは違うと感じていた。
「有り金全部置いていけ・・高価なものでも構わないぞ・・」
怪人が光輝たちに手招きをしてくる。
「ヒカルちゃんとくるみちゃんは下がってて・・僕が何とかする・・・!」
光輝が呼びかけて、怪人の前に出る。彼はひとつの水晶を取り出し、構える。
「変身!」
光輝が水晶を、腰につけているベルトの中心部にセットする。すると彼の体を赤い装甲が包み込む。
これがクリスタルユニットの1機「オメガユニット」である。水晶に込められたエネルギーを戦闘力に変換するクリスタルシステムを盛り込んだクリスタルユニットは、装着者の精神と連動して機能する。装着、各必殺技の使用の際は、水晶「ソウルクリスタル」を介する。
使用には使用者の強靭な精神力が必要で、精神力が弱いとシステムにエラーを来たしてしまい、最悪死に至ることもある。
「この姿・・お前は何だ・・?」
「仮面ライダーオメガ!」
声をかけてくる怪人に、光輝が高らかに名乗りを上げる。
「この風都の平和を脅かす怪人は、このオレが許さない!」
「言ってくれるじゃないか・・もしかして、お前があの噂の仮面ライダーか・・?」
正義感を示す光輝を、怪人があざ笑ってくる。
「何でもいい・・こっちはそのベルトを奪ってやるだけだ!」
いきり立った怪人が光輝に迫ってくる。光輝がパンチを繰り出して、怪人を迎え撃つ。
オメガに変身した光輝の戦闘能力は向上しており、怪人をも圧倒していた。彼の反撃に押されて怪人が怯む。
「くそっ・・こんなに強いとは・・まともにやってたら負けるだろうな・・・」
光輝の発揮するオメガの力に恐れを抱く怪人。
「だが、オレはほしいものは、どんなことをしてでも手に入れてやるよ!」
いきり立った怪人の動きが一気に速くなった。
「何っ!?うわっ!」
怪人の素早い攻撃を受けて、光輝が突き飛ばされる。だが彼はすぐに立ち上がって、怪人の動きを探る。
「遅い、遅い!」
そのとき、光輝が腰につけているオメガのベルトが外された。素早く飛び込んできた怪人に、ベルトを奪われてしまった。
「しまった!」
声を上げる光輝からオメガの装甲が消失する。動きを止めた怪人が、オメガのベルトを光輝に見せてきた。
「やった・・またいいものを手に入れたぞ・・・!」
「ま、待て!」
喜びを見せる怪人に飛びかかろうとした光輝。だが怪人は素早い動きで逃げ出してしまった。
「光輝!」
「光輝さん!」
愕然となる光輝に、くるみとヒカルが駆け寄ってきた。
「しまった・・オメガのベルトを奪われた・・まさかこんなことをしてくるなんて・・・!」
ベルトを怪人に奪われたことに、光輝が危機感を覚える。
「クリスタルユニットは精神力が弱くなければ誰にでも使える・・もしもオメガユニットで、アイツが何か悪さでもしたら・・・!」
「でも、あの怪人がどこに逃げたのかも分からないのに・・何の手がかりもないのに・・・」
不安を口にする光輝とヒカル。くるみもいい考えが浮かばずに困っていた。
「おや?何かあったのかい?」
そこへ1人の男が自転車に乗ってやってきた。ひげを生やし、顔の長い男である。
「何よ、このモップ頭?」
「モップ頭とは失礼だよ・・それにしても君たち、かわいいよなぁ〜・・」
くるみにきついことを言われながらも、男が取り出した携帯電話でくるみとヒカルを撮り始めた。
「ちょっと!何勝手に撮ってるの!?」
だがくるみに引っぱたかれ、男が倒される。
「アタタタ・・きっついお嬢さんだ〜・・でもホントに何かあったの?」
「あ、はい・・実は、すぐに見つけないといけないものがあって・・・」
痛がる男に光輝が事情を話した。自分がオメガであることだけは打ち明けずに。
「なるほど・・とっても大事なもんなんだねぇ〜・・」
話を聞いた男が頷いてみせる。
「だったら、あの探偵に会ってみたらどうかな?」
「探偵?」
男、ウォッチャマンが持ちかけた話に、光輝たちが疑問符を浮かべていた。これが事件の始まりであり、光輝と翔太郎たちの出会いのきっかけだった。
ウォッチャマンの話を聞いて光輝たちが訪れたのが、翔太郎たちのいる鳴海探偵事務所だったのである。
光輝は翔太郎たちに先ほどのことを話した。ただしベルトについては曖昧な説明しかできなかった。
「ベルト・・意味深なキーワードだな・・」
「もしかして、仮面ライダーみたいね・・」
呟く翔太郎に亜樹子が笑みを見せながら言いかける。
「仮面ライダー・・そういえばこの風都にも仮面ライダーがいるって噂がありましたね・・」
「そうなんだ、そうなんだ。仮面ライダーは、みんなの風を守る正義の・・」
光輝が投げかけた言葉に、翔太郎が自慢げに頷いてみせた。そこで翔太郎が亜樹子にスリッパで叩かれた。
「何でそんなに自慢げなのよ!?」
「だって仮面ライダーが風都以外にも知れ渡ってるんだから!」
不満を言い放つ亜樹子だったが、翔太郎の上機嫌は変わっていなかった。
「それで、探してもらえるのでしょうか?・・僕、あまりお金がなくて・・・」
「お金がない!?そんなんじゃ仕事が成立しないじゃない!」
光輝が頼み込んでくるが、亜樹子がさらに不満をあらわにする。
「お願いします・・あれは、光輝さんにとって大切なものなんです・・」
そこへヒカルが頭を下げてきた。すると翔太郎が彼女に手を差し伸べてきた。
「大丈夫ですよ、お嬢さん・・和やかなお嬢さんに免じて、今回は特別に・・」
翔太郎がヒカルに対して親切に振舞っていた。だが彼はすぐに顔面を殴られてしりもちをつく。
殴ったのは亜樹子ではなくくるみだった。
「下心見え見えな態度で近づいてこないでよね!」
「くーっ!アンタもアンタで暴力的じゃねぇかよ!こんなの亜樹子1人で十分・・いたっ!」
怒鳴るくるみに文句を言ったところで、翔太郎が今度は亜樹子にスリッパで叩かれる。
「誰が暴力的よ、誰が!?」
亜樹子が翔太郎につかみかかって大きく揺さぶる。
「あの〜・・それで、ベルトは探してもらえないのでしょうか・・・?」
そこへ光輝が声をかけるが、翔太郎も亜樹子もすぐに引き受けようとしない。
「面白そうだね・・君の言うそのベルト、興味をそそられる・・」
そこへフィリップが現れ、ベルトに関心を持って頷いてきた。
「引き受けよう、翔太郎。どのようなものなのか、調べてみたいものだ・・」
「フィリップ・・フィリップがこう言いだしたら、引き受けるしかないみたいだ・・」
完全にベルトのことに意識が傾いているフィリップを見て、翔太郎と亜樹子は光輝たちからの依頼を受けることにした。
光輝たちの案内で、翔太郎と亜樹子はベルトを奪われた場所、風都タワーの前にやってきた。
「事件の手がかりは現場にあるものだが、見た限りじゃ分かんないな・・」
「それで、そのベルトを奪ったのは、どういう人だったの?」
考え込む翔太郎をよそに、亜樹子が光輝たちに聞き込みをしてくる。
「どういう人って・・人っていうより怪人でしたよ・・人のものを盗むなんて泥棒ですよ、まったく・・」
「怪人・・もしかしたらドーパント・・・!」
愚痴をこぼす光輝の言葉を聞いて、翔太郎が緊張を覚える。
「ドーパント」。生体感応端末「ガイアメモリ」を挿入して変身した怪人である。ガイアメモリを使って悪事を働く者から、メモリの力に溺れて暴走してしまう者までいる。
「ドーパント・・それが僕たちが会ったあの怪人なんですね・・」
「怪人とは違うぞ。あれは元は列記とした人間だ。ガイアメモリを使ったせいで、怪人みたいな姿になってるだけだ・・」
頷きかける光輝に、翔太郎が言葉を返す。
「悪いのは人じゃない・・悪いのは、人が犯す罪だ・・・」
真剣な面持ちで言いかける翔太郎に、光輝が戸惑いを覚える。光輝には翔太郎のこの言葉の重みを痛感していた。
「罪を憎んで人を憎まず、ですね・・私にとって、本当に心に響く言葉です・・」
翔太郎の考えに同意して、ヒカルも微笑みかける。
ヒカルはガルヴォルスの女王、クイーンガルヴォルスである。ガルヴォルスの人格と宿命に翻弄されるも、彼女は光輝たちと過ごしてきた日常に身を置くことを選んだ。
今も光輝たちと出会った頃と変わらない、平穏な日常をヒカルは送っていた。
そのとき、光輝たちの耳にパトカーのサイレンの音が入ってきた。
「もしかして、あの怪人が現れたのかもしれない・・・!」
「ち、ちょっと待ちなさいって、光輝!」
パトカーが走っていったほうに向かって駆け出す光輝と、慌てて追いかけていくくるみ。
「オレたちも行くしかねぇようだ・・」
翔太郎も亜樹子とともに光輝たちを追いかけていった。
保育園が近くにある通りに、パトカーが数台止まっていた。この通りで爆発が起きたという知らせを受けて、警察が急行したのである。
警官服やスーツといった整った服装をした警官や刑事たちの中に、紅いジャンバーを着た青年がいた。
照井竜。若くして警視に上り詰め、格闘技やバイク運転にも長けている。ドーパントの事件を調査する「超常犯罪捜査課」の課長を務めている。
「この3日間で7件目になりますな・・」
そこへ1人の男が気さくに声をかけてきた。
刃野幹夫。風都署の刑事で、翔太郎の幼少期からの知り合いである。翔太郎に情報を提供する代わりに手柄をもらっている。
「こんな派手に爆発して、とんでもない犯人ですよ・・」
続けて別の1人の刑事がため息をついてきた。真倉俊。刃野の部下である。
「これもドーパントの仕業なんですかねぇ・・」
「いや、そうとはまだ言い切れないぞ・・」
刃野が口にした言葉に、竜が重く閉ざしていた口を開いた。
「人間の仕業とは到底思えないが、ドーパントの仕業であると決めてかかるのはよくない。そんな気がしてならない・・」
呟いていく竜に、刃野も真倉も唖然となっていた。そこへ光輝たちがやってきた。
「やっぱり爆発だ・・何があったんだろう・・・!?」
「ちょっとちょっと!ダメだ、入ってきちゃ!」
緊張を感じていく光輝に、真倉が注意をしてくる。すると翔太郎と亜樹子の姿を見て、枕が血相を変える。
「お、お前たち!また出しゃばってきたのか!?」
「違う、違う。こっちは別件だ。パトカーが走ってったから、来てみただけだ・・」
声を荒げる真倉に、翔太郎が憮然とした態度で答える。
「その様子では、この爆発と関係があるとは言い切れないようだな・・」
竜も翔太郎たちに向けて声をかけてきた。すると光輝が竜に近寄ってきた。
「あの、ここで何かあったんですか?探偵とお知り合いみたいだから、やっぱり警察の人ですよね?」
「オレに質問するな・・・」
訊ねてくる光輝に不機嫌に答えると、竜はすぐに離れていってしまった。
「僕、何か怒らせるようなことしたのかな・・・?」
「いや、照井は質問されるのが嫌いなんだよ・・」
不安を浮かべる光輝に、翔太郎が憮然とした態度で答える。竜は質問されることを極度に嫌う一面がある。
「で、ホントに何があったんですか?もしかして、怪人が・・!?」
「怪人?もしかしてドーパントのことを言ってる?いやぁ、ドーパントかどうかはまだ分かんないなぁ・・」
光輝が再び疑問を投げかけると、刃野が答えてきた。
「現在調査中だ!解決したら知らせてやるから、大人しく・・!」
「大人しくしてらんないっての!」
光輝に詰め寄ってきた真倉が、亜樹子のスリッパで叩かれる。
「こっちは資金がかかってんの!依頼を引き受けて事件解決していかないと商売あがったりなの!」
「おいおい、探偵の目的間違えてんじゃねぇって・・」
真倉に怒鳴る亜樹子に、翔太郎は呆れていた。
「あっ・・あそこ、保育園ですか・・?」
ヒカルが唐突に声をかけてきた。彼女が指差す先には、元気に遊ぶ子供たちに保育士が振り回されている保育園の光景があった。
「みんな元気だね。子供はあのくらい元気なほうがいいよね?」
「光輝は今も子供だけどね・・」
子供たちを見て喜んでいた光輝だが、くるみにからかわれて肩を落とす。
「ち、ちょっと待ってー!あうっ!」
子供たちを追いかけていく保育士の1人が派手に転ぶ。顔を押さえて痛がる彼女を、逃げ回っていた子供たちが指差して笑ってくる。
「保育園の人も大変ね・・ホントに子供の世話って大変なんだから・・」
「えっ?くるみさん、子供のお世話をしたことがあるのですか?」
くるみが口にした言葉に、ヒカルが疑問符を浮かべる。
「光輝が子供よ・・」
くるみが呆れながら、ヒカルに補足をするのだった。
「そういや、この保育園でドーパントの事件があったな・・」
翔太郎が唐突に言葉を切り出してきた。
「事件?」
この話題に光輝が疑問を覚える。
「ここで起きた不祥事を恨んで、園児の母親がガイアメモリを使ってここを襲ったんだ。母親の暴走を止めたのは、オレたちじゃなく照井だったんだけどな・・」
「そんなことが・・でも母親が、どうして保育園を・・・子供たちは、みんな楽しく過ごしているのに・・・」
「誰にだって不満のひとつがあるもんだ。それがガイアメモリで暴走しちまってるんだ・・」
困惑を見せる光輝に、翔太郎が歯がゆさを浮かべて語る。
ガイアメモリは人をドーパントに変え、強大な力を発揮させる半面、怒りや憎しみといった負の感情と結びつきやすい性質もある。メモリによって負の感情が膨れ上がり、使用者を暴走させてしまうのである。
「さて、そろそろ仕事を再開するか。早くベルトを取り戻すんだろ?」
翔太郎に声をかけられて、光輝が頷く。彼らはベルトを奪った犯人の行方と手がかりを追った。
だが3時間を費やしたが、犯人の行方どころか、手がかりひとつさえ見つけることができなかった。
風都の中にある公園にて、光輝たちは小休止を取ることにした。そこで翔太郎は情報の整理を行った。
「しばらく歩きまわっても、何の手がかりもつかめないとは・・・」
何の成果も出せていないことに、翔太郎は亜樹子とともに気まずくなって肩を落とす。
「しょうがねぇ。今ある情報でフィリップに検索してもらうしかないな・・どこまで絞れるか、オレも自信が持てないが・・」
「検索?」
翔太郎が口にした言葉に、光輝が疑問符を浮かべる。
「こんなところにいたのか・・」
そのとき、どこからか声がかかり、腰を下ろしていた光輝たちが立ち上がる。彼らの前に1人の青年が立ちはだかっていた。
「吉川光輝・・現在のオメガユニットの所有者だな?」
「オメガのことを知ってる・・・お前は誰なんだ!?」
不敵な笑みを見せる青年に、光輝が身構えて問いかける。
「オレは熊木勝。オメガの力を見せてもらおうか・・」
青年、勝が光輝に声をかける。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「まさか・・・!?」
勝の異変に光輝が緊迫を覚える。勝の姿が異形の怪物へと変化した。
「ガルヴォルスだったのか・・・!?」
「人間や他のガルヴォルスでは相手にならなくなっていたところだ。オメガ、このカオスの力を試させてもらうぞ・・」
声を荒げる光輝に、カオスガルヴォルスに変身した勝が迫る。
「まずい・・僕は今はオメガのベルトを持っていない・・これじゃ戦えない・・くるみちゃんやヒカルちゃんたちを守れない・・・!」
オメガに変身できず、危機感を膨らませていく光輝。
「ダメだ!ここはとりあえず逃げないと・・!」
「いや、ここはオレたちに任せてくれ・・」
呼びかける光輝に、翔太郎が声をかけてきた。勝の前に出てきた彼が、ひとつのメモリを手にした。
“Joker!”
翔太郎が押したメモリから音声が発せられる。次の瞬間、彼が身につけているベルト「W(ダブル)ドライバー」に、彼が手にしているのとは別の、緑のメモリが現れ差し込まれてきた。
「変身!」
“Cyclone,Joker!”
翔太郎が手にしていたメモリをベルトに差し込み展開する。すると彼の体をスーツが包み込んだ。
「これって・・・!」
変身を遂げた翔太郎に、光輝が驚きを覚える。だが彼の驚きはすぐに喜びへと変わった。
この翔太郎の風貌は、紛れもなく仮面ライダーだった。