仮面ライダーオメガ -Spirits of Riders-
第12章
光輝を助け、シャドームーンに戦いを挑む弦太朗。シャドームーンが振りかざすシャドーセイバーを、弦太朗は慌ただしくもかわしていく。
弦太朗がシャドームーンにパンチを叩き込む。だがシャドームーンの強化皮膚「シルバーガード」の硬さで、弦太朗はパンチを当てた手に痛みを覚える。
「いってー!なんてかてぇ体してんだよー!」
痛めた手に悲鳴を上げる弦太朗。そんな彼にシャドームーンがシャドーセイバーを振りかざしてきた。
“Rocket.”
弦太朗がとっさにスイッチソケットにスイッチ「アストロスイッチ」の1つ「ロケット」をセットした。彼の右手にロケットが装備され、そのジェットで飛び上がってシャドーセイバーをかわした。
「いやぁ、危なかったぜ・・見た目以上につえぇじゃねぇかよ・・・!」
着地した弦太朗がシャドームーンを見据える。彼の隣に光輝が並び立った。
「シャドームーンは僕たち仮面ライダーの動きを全て見切っている・・スピリットフォームでも攻撃を当てられない・・」
「そいつはかなりヤバいじゃねぇかよ・・だったらガムシャラにやってみるしかねぇな!」
光輝と弦太朗が言葉を交わして、シャドームーンを見据える。
「シャドームーンは光太郎さん、仮面ライダーBLACKの親友・・世紀王に改造されて、改造される前の人格を失っているんだ・・」
「親友・・仮面ライダーのダチなら、オレのダチだ!人の心を失ってるってんなら、オレがダチの熱い拳で目を覚まさせてやるぜ!」
光輝の話を聞いて、弦太朗がやる気を見せる。
“Launcher.”
彼はアストロスイッチ「ランチャー」をセットして、右足にミサイルランチャーを装備する。光輝がジャンプすると同時に、弦太朗がミサイルを発射する。
シャドームーンは横に動いてランチャーをかわす。だがそこを狙って光輝が飛び込んできた。
「スピリットライダーパンチ!」
光輝が精神エネルギーを右手に込めて、パンチ「スピリットブレイカー」を繰り出した。その動きもマイティアイで記憶していたはずのシャドームーンだが、ミサイルを回避した一瞬に体勢を崩していたために、この一打をかすめた。
「おのれ!」
シャドームーンがシャドーセイバーを振りかざし、光輝を切り付けた。光輝は即座にシャドームーンから離れて、追撃を逃れた。
「剣の勝負ならコイツで行くぜ!」
“Electricity.”
弦太朗がエレキスイッチをセットする。すると彼がまとうフォーゼの装甲が金色になり、電気を放出するようになった。
フォーゼの電気属性形態「エレキステイツ」である。
「それにそんな鉄みたいな体してんなら、電気通しやすそうだしな!」
弦太朗がエレキステイツの専用武器「ビリーザロッド」を手にしてシャドームーンに立ち向かう。彼が剣のように振りかざすビリーザロッドが、シャドーセイバーとぶつかり合って火花を散らす。
やがて2人の攻撃が互いのボディに当たって火花を散らす。
「効くぜ、おめぇの攻撃・・だけどな、コイツは耐えられるか!?」
“Limit break.”
弦太朗がエレキスイッチをビリーザロッドの柄に映すと、ロッドに電気エネルギーが集まっていく。
「ライダー100億ボルトブレイク!」
シャドームーンに向かっていき、ビリーザロッドを振りかざす弦太朗。この一閃は短剣のシャドーセイバーで防がれたが、その刀身を折ることになった。
「おのれ・・この私が、このようなヤツに手を焼かされることになるとは・・!」
毒づくシャドームーンが折れたシャドーセイバーを捨て、左手からビームを放つ。ビームに絡め取られて弦太朗が持ち上げられ、さらに跳ね飛ばされる。
「身動きが取れなかったぜ・・なら今度はコイツだ!」
“Fire.”
弦太朗がアストロスイッチ「ファイヤー」をセットする。フォーゼの姿が紅くなり、炎属性形態「ファイヤーステイツ」となった。
シャドームーンが左手からビームを放出する。弦太朗が後ろに動いてかわし、ビームは地面に当たって炎を巻き上げた。
「しめた!」
弦太朗が銃「ヒーハックガン」を手にして、ファイヤースイッチを移す。巻き上げられた炎がファイヤースイッチに吸収されていく。
「よっしゃ!エネルギー充填完了!」
“Limit break.”
弦太朗がヒーハックガンを構えて、エネルギーを集中させる。
「ライダー爆熱シュート!」
弦太朗がヒーハックガンから炎を放出する。膨大な炎を受けて、シャドームーンがダメージを負う。
「熱エネルギーを吸収するとは・・・!」
シャドームーンが両足にエネルギーを集中させる。弦太朗が通常のフォーゼに戻り、光輝がそばにやってくる。
「そろそろとどめといこうぜ!ライダーの友情ってヤツを、アイツに見せてやろうぜ!」
弦太朗が光輝に呼びかけて、ロケットスイッチとドリルスイッチをセットして、フォーゼドライバーのレバーを引いた。
“Rocket,Drill.Limit break.”
右腕にロケット、左足にドリルを装備して飛び上がる弦太朗。光輝もジャンプして右足にエネルギーを集中させる。
シャドームーンも2人を迎え撃つため、高くジャンプする。
「シャドーキック!」
「ライダーロケットドリルキック!」
「スピリットライダーキック!」
シャドームーンの両足のキックと、弦太朗と光輝の2人のキックがぶつかり合った。膨大なエネルギーが爆発を起こし、まばゆい光とともに轟音が響いた。
ドリルを装備から外した弦太朗が、光輝とともに着地した。シャドームーンが爆発から飛び出し、地上に落下した。
「よっしゃー!決まったぜー!」
「勝った・・今まで攻撃を当てることもできなかったのに・・・」
ガッツポーズを見せる弦太朗と、勝てたことに驚きを感じていた光輝。だがシャドームーンが2人の前で立ち上がってきた。
「おおっ!けっこうしぶてぇじゃねぇかよ!あんだけやって立ってくるなんて・・!」
弦太朗が慌てて身構える。だがシャドームーンが受けたダメージは大きかった。
「まさか、お前たちのようなヤツに敗れるとは・・だが勝ったなどと思うな・・・」
シャドームーンが光輝たちに向けて声を振り絞る。
「いずれ必ず蘇り・・お前たち仮面ライダーを葬りに来る・・・首を洗って待っていることだな・・・」
力尽きたシャドームーンが倒れ、動かなくなった。
「シャドームーン・・・」
彼の姿を見下ろして、光輝は困惑を浮かべた。光太郎と親友でありながら分かり合うことができなかったシャドームーンに、光輝はやるせなさを感じていた。
「竜也とも、分かり合えないのだろうか・・どんなに呼びかけても、気持ちが伝わらないのだろうか・・・」
シャドームーンの姿を見て、光輝は竜也への気持ちが揺らいでいた。動揺している彼に、弦太朗が声をかけてきた。
「おめぇにも助けてぇダチがいるみてぇだな・・本気で助けてぇって思ってんなら、そのことに集中することだ。ホントのダチなら大丈夫だ。ダチだって言えるヤツなら、ゼッテー気持ちを伝えられるはずだ。場合によっちゃ、拳と拳で熱く語り合うのもいいな・・」
「弦太朗くん・・・ありがとう・・ここで後ろ向きに考えて、諦めてしまうのがよくない・・」
弦太朗に励まされて、光輝が勇気を振り絞る。
「オレは行く・・ヒカルちゃんと、竜也くんを助けに・・・メガブレイバー!」
決意を口にする光輝がメガブレイバーを呼ぶ。彼がハンドルを握るとメガブレイバーが光に包まれ、ボディに金色のラインが加わった。
オメガ・スピリットフォームと連動した姿、「スピリットブレイバー」。メガブレイバーのパワードフォーム以上のパワーと、スピードフォーム以上のスピードを兼ね備えた形態である。
「スピリットブレイバー、ヒカルちゃんと竜也くんのところに行くぞ・・」
「分かった。急ごう、光輝くん。」
光輝の呼びかけにスピリットブレイバーが答える。光輝はスピリットブレイバーに乗り、ヒカルと竜也の居場所に向かって走り出した。
「あの男のいいようになるのはいい気分がしない。オレが直接終わらせる・・」
「僕も行くよ・・イヤな予感がする・・・」
一矢と太一もギガブレイバー、クリスレイダーに乗って、光輝を追いかけた。
「へっ!熱いじゃねぇか!それじゃオレも・・!」
“Radar.”
弦太朗も光輝たちを追いかけようとしたときだった。通信が入り、彼はレーダースイッチをセットして連絡に出た。
“如月、何をやってるんだ!?寄り道していないで早く目的地に行け!”
弦太朗のクラスメイト、歌星賢吾が呼びかけてきた。
「何だよ、賢吾!せっかくの仮面ライダーとのご対面だってのに・・!」
弦太朗は文句を言いながらも、光輝たちを追いかけるのを諦め、マシンマッシグラーに乗ってこの場を後にした。
光輝の居場所を求めて、竜也は歩き続けていた。彼の後ろをキバランたちがついてきていた。
「いつまでついてくるつもりだ?そんなにオレを怒らせたいのか・・!?」
「そんなつもりなんてないわ。言ったでしょう?私たちはこの状況を見ているだけだって・・」
睨み付けてくる竜也に、キバランたちは明るく振る舞っていた。
「よそ見してる場合じゃないんじゃないの?」
「お目当ての彼、もうそこまで来てるよ♪」
キバリン、キバルンの呼びかけを聞いて、竜也が振り返る。彼の耳にバイク音が入ってきていた。
「来たか、吉川光輝・・今度こそ・・・!」
目つきを鋭くする竜也の前に、スピリットカリバーで駆けつけた光輝が止まる。一矢と太一も続いて停車した。
「竜也くん・・君は偽物の正義を倒すために、怒りと憎しみの赴くままに戦ってきた・・でも、そのやり方は敵だけじゃなく、君自身も、君が大切にしているものまで傷つけることになる・・・」
「オレに大切なものはない・・オレはそのようなものを全て失った・・偽りの正義に、何もかも奪われた・・」
「ウソだ・・・」
竜也が返した答えを光輝が否定する。
「何もかもないなんてウソだ・・君はまだこうして力を持って、自分を貫こうとしているじゃないか・・・!」
「そうしなければ、オレはオレでなくなる・・本当の平和をつかむためには、吉川光輝、偽りの正義の象徴のオメガであるお前を倒さなければならない・・・!」
「オレと君は・・戦うしかないというのか・・・」
自分の考えを曲げようとしない竜也に、光輝は歯がゆさを感じていた。
「オレは敵を全て倒す・・でなければ世界はよくならない・・・!」
決意を口にする竜也の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼がドラゴンガルヴォルスに変身し、光輝に鋭い視線を向ける。
「その姿のオメガであっても、オレはお前たちを倒す!」
憎悪をさらに引き上げて、竜也が紅いオーラを放ちながら刺々しい姿へと変化した。彼は自らの怒りと憎しみを力に変えていたが、それらを制御できない暴走状態にあった。
「たとえ世界や平和のためでも、みんなを無差別に傷つけていいことにはならない・・竜也くん、君のこれ以上の暴走を許すわけにはいかない・・・!」
光輝が迷いを振り切り、竜也を見据える。
「君のために・・僕自身のために・・そして世界の平和を人々の自由を守るために戦っている、仮面ライダーのために!」
光輝が決意を言い放ち、竜也に向かっていく。光輝と竜也が同時に右手を突き出してきた。
2人のパンチがぶつかり合い、衝撃が膨大なエネルギーの爆発となって周囲に衝撃をもたらした。互いに押し切ろうとした2人だが、打撃の相殺の衝撃で跳ね返された。
「今まで以上にパワーが上がっている・・スピリットフォームでも勝つのが難しくなっている・・・!」
竜也の力に驚愕する光輝。今の竜也の憎悪と力は、スピリットフォーム・オメガを脅かすものとなっていた。
「見ていられないな・・やはりオレがやる・・」
一矢が強気な態度を見せたまま、右足の脚部にベルトの水晶をセットする。
「あ、待ってったら・・!」
太一も慌ててベルトの水晶を、手にしたクリスセイバーにセットした。一矢がジャンプして、太一がクリスセイバーを構える。
「ギガスマッシャー!」
「クリスストラッシュ!」
一矢のキックと太一の光の刃が繰り出される。
「邪魔だ!」
竜也が体からオーラを放出して、一矢と太一を吹き飛ばした。痛烈なダメージを受けて、2人がギガス、クリスへの変身が解かれた。
「一矢さん!太一くん!」
声を荒げる光輝が、再び竜也に向かっていく。今度は彼は連続でパンチとキックを繰り出していく。
「そうそう。その調子でどんどん攻め合うといいわ・・」
「これだけのパワーを持った2人の勝負・・」
「もちろんぶつけ合う衝撃もものすごいからね♪これなら次元の壁に穴が開くのも時間の問題だね♪」
2人の戦いをキバラン、キバリン、キバルンが見守っていた。
「今の世界の連中は思い上がったヤツばかりだ!自分たちのためにしか行動を起こさない!守られても感謝の1つも見せようとしない!そんなヤツらを、お前は守っているんだぞ、吉川光輝!」
「オレたちの戦いは、全てが世界に知れ渡っていることではないのかもしれない・・オレたちの戦いを理解しようとしない人もいるかもしれない・・だけど、世界にはオレたちの存在を知り、オレたちを応援してくれる人たちがたくさんいる・・!」
憎悪の言葉を口にする竜也に、光輝も自分の気持ちを告げていく。
「みんなを信じて、みんなを支えて、みんなのために頑張っている人たちのためにも、オレは、仮面ライダーオメガであるオレは、竜也くん、君を救わないといけないんだ!」
「お前にオレは救えない!誰も世界を救おうとしない!だからオレがやる!やるんだ!」
光輝の決意と竜也の意思が、力となって激しくぶつかり合う。パンチとパンチ、キックとキックがぶつかり合う度に、雷のような衝撃と轟音が巻き起こっていった。
そしてその衝撃は、この場の空を揺さぶって次元を揺るがし始めた。
「この調子、この調子♪もう少しで・・」
「この世界が次元の穴に押しつぶされて崩壊する・・」
「この世界の崩壊がどういうものになるのか・・本当に楽しみ・・・」
キバルン、キバリン、キバランが世界の崩壊を待ちわびていた。彼女たちが見下ろす中、光輝と竜也の対決は続く。
光輝が竜也を見据えたまま、地面に突き立てていたスピリットカリバーを引き抜いた。
「オレの正義と魂を、君に伝える・・君の体と心に刻みつける・・・!」
「オレはお前の考えには惑わされない・・偽りの正義が、オレを思い通りにできると思うな!」
光輝の思いを竜也が頑なに拒絶する。2人が構えて、力を込めた攻撃を繰り出そうとした。
「やめて!」
そこへ声が飛び込み、光輝と竜也が攻撃の手を止めた。彼らの前に現れたのは、キバランたちに捕まっていたヒカルだった。
「ヒカルちゃん!無事だったんだね!」
光輝がヒカルの姿を見て喜びの声を上げる。しかしヒカルは沈痛の面持ちを浮かべたまま、彼らに呼びかける。
「戦わないでください、光輝さん、竜也さん!2人が大きな力をぶつけ合ったら、世界が壊れてしまいます!」
「えっ・・!?」
ヒカルが口にした言葉に、光輝は驚愕を隠せなくなる。
「あのコウモリたちの狙いは、光輝さんと竜也さんを戦わせて、そのエネルギーで次元の壁に穴を開けることなんです!次元の穴が開いたら、世界が耐えられなくなって・・!」
「そんな・・そんなことが・・・!?」
ヒカルが告げた言葉に、光輝は愕然となる。自分たちの戦いが世界の破滅を招くことになると聞かされて、彼は動揺を感じずにいられなかった。
「それでオレを迷わせようとしてもムダだ・・オレは本当の平和を取り戻すために戦う・・・!」
しかし竜也は聞き入れようとせず、光輝と戦おうとしていた。
「何を言っているんだ、竜也くん!?オレたちがこのまま戦い続ければ、世界そのものが崩壊することになるんだぞ!君が望んでいる本当の平和も、実現できなくなる!」
「このまま思い上がった連中の勝手にさせるぐらいなら、全てを壊してでも!」
「君は世界が壊れてしまっても構わないというのか!?」
「既に世界は壊れている!偽りの正義を叩き潰さない限り、世界は壊れたままだ!」
呼びかける光輝に、竜也は戦いを挑もうとするばかりだった。彼の態度に、光輝は怒りを募らせていた。
「自分の目的のためなら、関係のない人たちや世界そのものさえも傷つけ、そのことを悪いとも思わない・・そこまで堕ちてしまったというのか・・・!?」
光輝が怒りを膨らませて、スピリットカリバーを構える。
「竜也くん、オレは君を、このまま見過ごすことはできない!」
「それがお前の本性!ようやく見せてきたか、吉川光輝!」
光輝がスピリットカリバーにエネルギーを集中させて、竜也がさらに怒りを膨らませて力に変えていく。
「スピリットスラッシャー!」
光輝がスピリットカリバーを振りかざして光の刃を放ち、竜也が紅いオーラを放出する。2つの力がぶつかり合って、巨大なエネルギーが上空に飛び火する。
その膨大なエネルギーが、空を突き破って次元の壁に穴を開けた。
「あ、穴が・・・!」
「ついに穴が開いたわね・・・」
愕然となるヒカルと、喜びの笑みをこぼすキバラン。次元の穴は光輝と竜也の力の影響で、徐々に広がりを見せていった。
「やめて、光輝くん!これ以上やったら、この世界が!」
ヒカルが呼びかけるが、光輝も竜也も攻撃をやめない。
「やめてって言っているでしょう!」
声を張り上げるヒカルから光が放出された。その光が光輝と竜也の激突からあふれ出しているエネルギーを遮断していった。
「この光・・・もしかして、ヒカルちゃん・・・!?」
ヒカルの力に気付いて、光輝が注意をそらす。クイーンガルヴォルスとしての力を彼女が解放していると、彼は感じ取っていた。
「落ち着くんだ、ヒカルちゃん!力を解放したら、ヒカルちゃんが危ない!」
「光輝さんや世界そのものが危ないのに、私が何もしないでいるなんてできません!」
互いに声を張り上げる光輝とヒカル。光輝は竜也への攻撃を中断して、ヒカルに向かっていく。
「ヒカルちゃん!」
光輝がヒカルに飛びついて、力の解放を思いとどまらせる。戸惑いを感じたヒカルが力を抑えていく。
「ヒカルちゃん・・すまない・・君にまで、こんな危険な思いをさせてしまって・・・!」
「いいんです、光輝さん・・光輝さんのほうが、全然危険な思いをしているんですから・・私も、このくらいのことは・・・」
謝る光輝にヒカルが微笑みかける。光輝は冷静さを、ヒカルは落ち着きを取り戻していた。
「逃がさない・・オレは・・偽りの正義を・・・!」
竜也の声を耳にして、光輝とヒカルが緊張を浮かべる。紅いオーラをあふれさせている竜也に、別の不気味なオーラが流れ込んできていた。
「このエネルギーはいったい・・竜也くんに、何が・・・!?」
「光輝さん、あれ!・・まさか・・・!?」
緊迫する光輝とヒカル。竜也に流れ込んできていたエネルギーは、空に広がる次元の穴からだった。
「こりゃ驚いたな・・異次元のエネルギーが、アイツの心に反応して引き寄せられてるよ・・」
「海道竜也・・あたしたちが思ってた以上の怒りと憎しみの力を持ってたんだね・・でも、こういうのも楽しくなるね・・・」
キバリンとキバルンが竜也の様子を見て喜びを見せる。異次元のエネルギーは竜也に反応して、力を分け与えていた。だが流れ込んでくるこのエネルギーは、彼にさらなる暴走をもたらしていた。
「オレは戦う・・思い上がった偽りの正義を、全て叩きつぶす!」
怒りと力を爆発させて、竜也が光輝たちに迫る。だが今の彼にもたらしている巨大な怒りは、異次元のエネルギーが促進させているものだった。
「落ち着くんだ、竜也くん!その力は・・!」
「吉川光輝、オメガ、お前もこの手で倒す!」
呼びかける光輝だが、竜也は聞こうとしない。竜也は不気味なオーラを身にまとって、ゆっくりと光輝に向かって歩いてくる。
「このまま放っておいたら、竜也くんが力にのみ込まれてしまう・・止めるしかない・・オメガの力を叩き込んででも・・・!」
光輝が声を振り絞ると、ヒカルを一矢と太一のいるほうに促す。
「ヒカルちゃん・・一矢さんと太一くんのそばについていてくれ・・オレが竜也くんを止める・・・!」
「光輝さん・・・!?」
光輝の呼びかけにヒカルが当惑を浮かべる。
「この仮面ライダーオメガとしての力と正義、今こそ使うときなんだ・・でもきっと、その力は周りにも被害を及ぼしてしまう・・だから、安全なところまで離れていてほしい・・・」
「光輝さん・・・」
「大丈夫・・僕は絶対に死なない・・僕がいなくなったら、ヒカルちゃんやくるみちゃん、みんなにイヤな思いをさせることになるから・・・」
戸惑いを見せるヒカルに頷いて、光輝が竜也に向かっていく。
「光輝さん!」
ヒカルが叫ぶ前で、光輝がスピリットカリバーを手にしてエネルギーを集中させる。
「竜也くん、世界の平和とみんなの自由を守るため、オレが君を止める・・スピリットスラッシャー!」
光輝が竜也に向けてスピリットカリバーを振りかざして、光の刃を放つ。竜也も持てる力を振り絞って飛びかかり、光の刃にぶつかる。
竜也は負けじと力を上げていく。しかし精神面だけでなく、彼の肉体も上昇していくパワーに耐えられなくなってきた。
「ぐっ!・・ぐぅぅ・・・!」
体を駆け巡っていく激痛を感じて、竜也が顔を歪める。彼の体に亀裂が起こり始め、激痛を植え付けてきていた。
「このぐらいのことで・・止まるオレではないぞ!」
押し寄せる痛みに耐えながら、竜也が光輝に向けて力を振り絞る。光輝も負けじと力を集中させる。
「竜也くん・・元の君に戻ってくれ・・・!」
「吉川光輝・・オメガ・・オレは・・お前を・・・!」
力だけでなく意思もぶつけ合う光輝と竜也。2つの力の光が入り混じり、世界さえも揺るがしていく。
「竜也くん・・・竜也・・くん・・・!」
光輝が竜也を救おうと、必死に手を伸ばそうとする。しかし光の影響か、思うように動くことができず、竜也に手が届かない。
「オレは救い出す・・世界も、竜也くんの心も・・・!」
光輝が最後の力を振りかざして、スピリットカリバーを振りかざした。スピリットカリバーの切っ先が、竜也の体に命中した。
竜也から紅いオーラが一気に放出されて抜けきっていった。憎悪を抱えたままだったが、竜也は脱力して倒れていく。
だがそのとき、光輝が身に着けていたベルトが突然、砕けるように消えた。同時に彼のオメガへの変身が解けた。
「えっ・・・!?」
思いもしなかったことに、光輝は驚きを隠せなくなった。ベルトも消えて、彼はオメガに変身することができなくなってしまった。
「そんな・・オメガが・・消えるなんて・・・!?」
変身の解けた自分の両手を見つめて、光輝が愕然となって震える。
「光輝さん・・・」
絶望を募らせていく光輝を見つめて、ヒカルも困惑する。
「まさかあれだけの憎悪の力を抑えこんでしまうなんてね・・」
そんな光輝たちの前に、キバランたちが声をかけてきた。
「だけどこれでオメガユニットが壊れてしまった・・吉川光輝は、2度とオメガになることはない・・」
「それに世界の次元の歪みも、面白い方向に向かってるみたいだよ〜♪」
キバリン、キバルンが続けて光輝たちに語りかけてくる。彼らが見上げた空は、次元の穴がさらに広がってきていた。
その穴の中に、世界を押しつぶそうとしている邪悪な存在があった。
「全ての仮面ライダーが集まっている今が好機・・・」
次元の穴の中から不気味な声が響いてきた。穴の中に不気味な眼光がきらめいていた。
「お前は・・お前は誰なんだ!?」
光輝が立ち上がって穴に向かって声を張り上げる。
「あなたなら、オメガになる前から仮面ライダーのファンだったあなたなら気付けると思うんだけど・・?」
感情をむき出しにしている彼に、キバランが言葉を投げかけていく。
「ショッカーからデルザー軍団までの組織を支配し、仮面ライダーを苦しめてきたお方・・」
「それって・・まさか・・・!?」
キバランが告げた言葉に心当たりがあり、光輝が驚愕した。
「そう・・あの大首領・・あらゆる世界で怪人を生み出してきた存在の魂よ・・・」
キバランのこの言葉で、光輝の緊張は一気に膨らんだ。
仮面ライダーたちによって壊滅させられたショッカーからデルザー軍団までの悪の組織。その全てを支配していたのが岩石大首領である。
岩石大首領も仮面ライダーたちの活躍で倒れたはずだった。だがその魂は異次元の中で存在し、脱出と世界の破滅の時を待っていたのである。
「大首領の魂は、次元の狭間で力を蓄えていたのよ・・」
「こうして次元に穴が開いたことで、大首領はこの世界に蘇る・・」
「大きくなった大首領の大きなパワーに押しつぶされて、この世界は一気に壊滅するんだからね〜・・」
キバラン、キバリン、キバルンが妖しく語っていく。大首領の復活で、世界は一気に歪みを広げようとしていた。