仮面ライダーオメガ -Spirits of Riders-

第13章

 

 

 光輝と竜也の激突で放たれた次元の穴。次元の狭間で力を蓄えていた大首領の魂が、次元の穴の中からあふれ出してきた。

「我が名はかつて、大首領と呼ばれていた存在・・我が魂に宿るのは、邪悪なる力と、仮面ライダーへの恨み・・・」

 光輝たちの前に現れた大首領が不気味な声を発する。次元の穴の開放に加えて、彼の邪悪なオーラの影響で世界が歪み、日の光をさえぎっていく。

「ショッカーをはじめとした敵組織の大首領が、僕たちの前に現れるなんて・・・!」

 大首領の出現に光輝は愕然となった。ヒカルもかつてない世界の異変に絶望を感じていた。

「いくら仮面ライダーが集まっても、これだけ強大になった大首領には勝てないわね・・」

「それに吉川光輝、お前はもうオメガにはなれないぞ・・」

 キバランとキバリンの言葉を受けて、光輝が目を見開く。竜也の暴走を止めたときに、光輝は身にまとっていたオメガのベルトを失った。彼は2度とオメガになることができないのだ。

「そうだ・・僕はもうオメガじゃない・・仮面ライダーじゃないんだ・・・」

 光輝もオメガになれないことに、希望を見出せなくなっていた。

「何にしたって、もう大首領を止めることはできないよ〜・・」

 キバルンが絶望している光輝の周りを飛び回っていく。

「お前たちは何者なんだ・・大首領とどういう関係なんだ・・・!?

 光輝が力を振り絞って立ち上がり、キバランたちに問いかけた。

「私たちはキバット族だけど、大首領のしもべでもあるの・・大首領の復活と世界の破壊が、私たちの本当の目的・・・」

 キバランの答えを聞いて、光輝がさらなる困惑に襲われる。

「この世界には、数多くの仮面ライダーがそろっているようだ・・ならばヤツら諸共、一気にこの世界に破滅をもたらすことにしよう・・」

 大首領が不気味な声を発して、自身のエネルギーを世界中に広げていく。

「くっ・・眠っていた間に、またおかしなことになっているようだな・・・」

 そこで一矢が意識を取り戻し、強気な態度を見せてきた。太一も目を覚まして、不安の表情を浮かべていた。

「光輝くん・・もう、オメガには・・・」

 太一が声をかけるが、光輝はうつむいたまま何も答えない。

「オレはお前の力に甘えてはいない。オレはオレで、ヤツに身の程を思い知らせてやるさ・・」

 一矢は不敵な笑みを浮かべて、大首領を見据える。

「変身。」

 ベルトに水晶をセットして、ギガスに変身する一矢。

「ヒカルさんは光輝くんをお願い・・僕は世界がムチャクチャになるなんてイヤだから・・・」

 太一がヒカルに呼びかけてから、大首領に視線を戻した。

「変身・・」

 太一もベルトに水晶をセットして、クリスに変身する。彼と一矢は即座にベルトの水晶を右足の脚部にセットして、大首領に狙いを定めてジャンプする。

「ギガスマッシャー!」

「クリススマッシャー!」

 一矢と太一が繰り出したキックは、大首領のエネルギー体に命中した。だが大首領にダメージはなかった。

「その程度では私を追い返すこともできぬ・・・」

 大首領が放った衝撃波に吹き飛ばされて、一矢と太一が地面に叩き付けられる。続けて大首領が放ったエネルギーで、2人は大きなダメージを負った。

「一矢さん!太一くん!」

 光輝が叫び声を上げる前で、2人から変身が解かれた。ギガスとクリスの力でも、大首領に立ち向かうこともできなかった。

「何とかしないと・・でも、オメガのベルトはもう・・・」

 大首領の強襲を食い止めないといけないと思いながらも、そのための手段を持ち合わせておらず、光輝は飛び出すことができないでいた。

「オメガでなければ、お前は戦えないヤツだったのか・・・!?

 そこへ意識を失っていた竜也が立ち上がってきた。

「竜也くん・・・」

「お前が口にしてきた正義はその程度のものだったのか?・・オメガになれなければ、すぐに諦めるヤツだったのか・・・オレはそんな軟弱なヤツを敵視してきたのか・・・!?

 困惑している光輝に、竜也が鋭い視線を向ける。人間の姿に戻っていたが、彼は怒りと憎しみを捨ててはいなかった。

「オレは思い上がった偽りの正義を許さない・・だが、あのようなヤツの好きにさせてやる気にもならない・・」

「竜也くん・・大首領に挑むつもりじゃ・・君だって戦える力が残っていないはずだ・・・」

「だから偽りの正義を受け入れろというのか?死ぬ以上に苦痛なことだ・・」

 呼び止めようとする光輝に、竜也が落胆と失望を込めた怒りの言葉を口にする。

「オレは敵を倒すまで、最後まで立ち止まらない・・たとえ力がなかったとしても、オレは戦う・・・!」

「力がなかったとしても、戦う・・・」

 竜也の口にした言葉に、光輝が戸惑いを覚える。彼の脳裏に、仮面ライダーたちの戦いがよぎってきた。

 改造人間にされ、普通の人間を超える存在となった自分たちの苦悩と孤独、不可思議な力の宿命、課せられた使命。仮面ライダーは数々の戦いに打ちひしがれ、乗り越えてきた。それはオメガとして戦ってきた自分も同じ。光輝はそのことを思い知らされていた。

「そうだ・・オメガじゃないからって・・僕の正義が消えたわけじゃない・・正義を貫けなくなったわけじゃない・・・」

 心の中で湧き上がってくる気持ちと決意を感じて、光輝が迷いを振り払おうとする。

「力がなくても・・オメガになれなくても・・僕が戦おうと、立ち向かおうと思えば・・・!」

「オレはその考えを貫いてきた・・オメガであるお前に妨害されても・・・」

 真剣な表情を浮かべた光輝の前で、竜也の頬に紋様が走る。彼は力を振り絞って、叫び声を上げながらドラゴンガルヴォルスに変身した。

「この世界に本当の平和をもたらす!お前のようなヤツに勝手なマネをさせるか!」

 言い放つ竜也が大首領に飛びかかる。彼に気付いた大首領が衝撃波を放つ。

「ぐっ!」

 突き飛ばされて地面に叩き付けられ、竜也がうめき声を上げる。しかし竜也はすぐに起き上がってきた。

「まだ倒れないぞ・・本当の平和を取り戻すまでは、オレは倒れない・・・!」

「その怒りと憎しみ、気迫は褒めてやろう・・さすがは私の力を受け入れただけのことはある・・・」

 声と力を振り絞る竜也に向けて、大首領が声をかける。

「だがそのお前でも、我らに逆らうならば容赦なく葬り去る・・来るなら覚悟するがよい・・」

「お前にオレは屈しない・・必ず倒してやる!」

 不気味な笑みをこぼす大首領に、竜也が怒りのままに立ち向かっていく。だが大首領の放つエネルギーで、竜也は突き飛ばされて傷ついていった。

「竜也くん・・・僕も、じっとしているわけにはいかない・・・!」

「待って、光輝さん!今の光輝さんは・・!」

 光輝も意を決して、ヒカルの呼び声を背にして走り出す。だがオメガでもガルヴォルスでもない彼は、大首領の放つ衝撃波に簡単に吹き飛ばされてしまう。

「ぐあっ!」

「ムダよ。オメガでもないのに大首領に勝てるわけないじゃない・・」

 苦痛の声を上げる光輝に、キバランが笑みをこぼす。しかし光輝は諦めずに立ち上がる。

「勝てないからって、諦めるわけにいかない・・諦めたら、世界の平和と、人々の自由が・・・!」

「ここまでしつこいと呆れてくるぞ・・」

「さ〜て、どこまでやれるか、見させてもらっちゃおうかな〜♪」

 声と力を振り絞る光輝に、キバリンとキバルンが声をかけてくる。

「僕は戦う・・世界をお前たちの勝手にはさせない・・・ヒカルちゃんを、竜也くんを、みんなを守るんだ・・・!」

 光輝が決意を言い放ちながら、大首領に向かっていく。

「僕の中にある正義は、まだ消えちゃいないんだ!」

 押し寄せてくる大首領の衝撃波に耐える光輝の叫び。彼の声が届いたのか、突然次元に新たな歪みが起こった。

 雷のような衝撃を伴った歪みに、光輝は思わず立ち止まった。

「な、何だ・・!?

 声を上げて周囲を見回す光輝。ヒカルも竜也も大首領も、この異変に気付いていた。

 新たな歪みから穴が開き、ひとつの光が落下してきた。光輝は誘われるようにその光に手を伸ばした。

 すると光が形を変えて、ベルトへと変わっていった。

「これは・・・!」

 そのベルトに対して光輝は目を見開いた。それは紛れもなくオメガユニットだった。

「オメガのベルト・・消えたはずなのに・・・!?

「もしかして、別の世界にあったベルト・・!」

 ヒカルと光輝が驚きの声を上げる。

 光輝は以前に、正式にスピリットカリバーを手にする前に、スピリットフォーム・オメガに変身したことがあった。それは別の世界から呼び出されたスピリットカリバーがもたらしたものだった。

 このオメガのベルトも、別の世界からやってきたものだと、光輝は確信した。

「機能も能力も同じなら、僕は使えるはずだ・・・!」

 光輝は決意を胸に秘めて、オメガのベルトをつかんで腰に巻きつけた。ベルトには既に水晶がセットされていた。

「変身!」

 かけ声を上げる光輝の体を装甲が包み込む。彼は再びオメガへと変身したのである。

「やった・・また、オメガになることができた・・・!」

 オメガに変身したことを喜ぶ光輝。だが今の自分の力がオメガだけでないことを、彼は実感していた。

「オレは戦う・・世界を、お前たち悪の勝手にはさせない!」

 光輝は決意を言い放って、スピリットカリバーを手にする。彼はベルトの水晶をスピリットカリバーの柄にセットした。

「スピリットフォーム!」

 オメガの装甲が変化して、スピリットフォームとなった。光輝が竜也の横に並び立った。

「オメガだけじゃない・・ガルヴォルスだけじゃない・・これは僕自身、君自身の力でもある・・・」

「オレはこの力を怪物によるものと思ったことはない・・そもそも、この力が怪物のものなのかオレ自身のものなのかを考えたこともなかった・・」

「その力を使って戦う・・君はいつもそうしてきた・・オレと戦ってきたときも・・・」

「そうだ・・オレは戦う・・世界の敵を倒すために・・・!」

 光輝の呼びかけに言葉を返して、竜也が大首領に立ち向かう。彼の姿は刺々しいものとなり、紅いオーラを発していた。

「竜也くん・・敵を倒すことには賛成だ・・だけどその敵は人じゃない・・悪だ・・・!」

 光輝も決意を口にしてから、竜也に続いて飛び出す。

「スピリットブレイカー!」

 光輝が竜也とともにエネルギーを込めたパンチを繰り出した。2人のパンチは大首領を突き飛ばし、怯ませた。

「すごい・・・」

「大首領のパワーを押し返すとは・・・」

「これもこれで面白いけどね♪」

 2人の底力を目の当たりにして、キバラン、キバリン、キバルンが声を上げる。

「まだそのような力を持っていたか・・だが・・」

 苦痛を感じた大首領が、口から不気味な光を放出してきた。閃光をかわしきれず、光輝と竜也が突き飛ばされる。

「うわっ!」

「ぐっ!」

 地面に叩き付けられて2人がうめく。

「そろそろとどめだ・・オメガ、今度こそとどめを刺してくれる・・・」

 大首領が全身のエネルギーを集束させて、手を形作る。その手の平からエネルギーを刃にして、光輝に向けて放つ。

「ダメだ・・よけるのが間に合わない・・・!」

 回避が間に合わず、光輝は覚悟を覚えた。だが刃は光輝には届かなかった。

 光輝の前で、竜也が大首領の光の刃を受け止めていた。しかし彼は刃を食い止めるので精一杯だった。

「竜也くん・・どうして・・!?

「何をしているのか、オレにも分からない・・体が勝手に動いていた・・・!」

 驚きの声を上げる光輝に、竜也が声と力を振り絞る。その彼の体に光の刃が突き刺さった。

「ぐっ!」

「竜也くん!・・離れるんだ、竜也くん!」

 うめく竜也に光輝が呼びかける。が、竜也は引き下がろうとせず、大首領に抗う。

「オレは敵の言葉を聞き入れない・・オレを突き動かせるのは、オレ自身だ・・・!」

「竜也くん・・・」

「オレは敵を倒す・・世界に本当の平和をもたらすために!」

「竜也くん・・・大首領!」

 傷ついていく竜也と世界を滅ぼそうとする大首領に、光輝は怒りを膨らませた。彼の感情が精神エネルギーとなって、オメガの装甲からあふれ出していた。

 光輝が飛び上がり、右足にエネルギーを集中させた。

(世界の平和と人々の自由を守り、心と魂を救う・・それがオレの正義・・仮面ライダーオメガの正義だ!)

「たくさんの時間と世界でつなげた仮面ライダーの力と正義、今お前に叩き込む!」

 大首領に向けて決意を言い放つ光輝。そのとき、光輝たちの周囲に歴代の仮面ライダーたちが現れた。強化変身が可能のライダーは、最強形態の姿となっていた。

 彼らは幻だったのか、実際に彼らがその場にいたのか。この瞬間、光輝には分からなかった。

「ひとつだけ確かなことがある・・オレたち仮面ライダーの魂は、いつでもどこでもひとつだということ・・・!」

 確信に満ちた正義と決意を秘めて、光輝が大首領に向かって加速する。

「オールライダーキック!」

 光輝たち仮面ライダー全員が繰り出したライダーキックが、大首領に叩き込まれた。蓄積されていくキックの威力が、大首領を追い込んでいく。

「仮面ライダーの力・・これほどまでとは・・・!」

「1人1人でこれだけの力は出せない・・仮面ライダーのみんなが力を貸してくれているから、ここまでのパワーを発揮することができるんだ!」

 うめく大首領に光輝が言い放つ。彼の足に集まっているエネルギーが、光として強まっていく。

「オレたちは、仮面ライダーは不滅だ!」

 光輝たちが繰り出すキックが大首領への決定打となった。大首領の体が光に包まれていく。

「我々がまた、仮面ライダーに敗れるとは・・だが仮面ライダーたちよ・・これで終わったと思うな・・・」

 次元の穴に押し戻されていく大首領が、断末魔の声を上げる。

「世界に闇がある限り、人間の心に悪がある限り、我々は再びよみがえり、お前たちを葬りに現れる・・首を洗って待っているのだな・・仮面ライダー・・・」

 完全に光に包まれた大首領が、爆発を起こしながら次元の中に押し戻されていった。歪みをもたらしていた次元の穴が閉じていく。

「このままのようね・・残念・・」

「でも大首領が消えてなくなったわけじゃないし、それまで待つことにするか・・」

「あ〜あ、また退屈になっちゃうのか〜・・」

 キバラン、キバリン、キバルンも次元の穴に入っていった。穴が完全にふさがり、次元の歪みがなくなった。

「消えた・・やっつけたんだ・・・」

「またヤツにとどめを譲ることになるとは・・だが結果的にくるみさんを守ることができた・・・」

 太一が安堵の笑みをこぼし、一矢が強気な態度を崩さずに呟く。光輝が着地して、オメガへの変身を解除した。

「竜也くん・・・」

 光輝が竜也に駆け寄っていく。竜也は人の姿に戻って倒れていて、ヒカルに支えられていた。

「竜也くん・・しっかりするんだ、竜也くん・・!」

 光輝が呼びかけると、竜也が閉ざしていた目をゆっくりと開いた。

「光輝・・・オレは・・オレは、まだ・・・!」

「竜也くん・・もういい・・・君が貫いてきた意思は、世界に届いている・・みんなに伝わっている・・・!」

 声と力を振り絞る竜也に、光輝が微笑んで呼びかける。しかし竜也は立ち上がることを諦めようとしない。

「まだだ・・まだ偽りの正義を振りかざすヤツがいる・・・ヤツらを倒した先に・・本当の・・平和が・・・」

 歪みの消えた青空に手を伸ばす竜也。彼はまだ本当の平和に向かって前に進もうとしていた。

 だがその竜也の右手が固まり、崩れ出していった。

「竜也くん・・・!?

 崩壊を引き起こしていく竜也に、光輝は目を疑った。竜也の体が光輝とヒカルの前で消えた。

「竜也くん!」

 光輝が悲痛の叫びを上げる。竜也は自分自身の信念を貫き続けたまま、命を失ってしまった。

「竜也さん・・そんなこと・・・!」

 ヒカルも竜也の死に深い悲しみを感じていた。

 力や正義を自分たちのために使っている人に強い怒りを感じて、竜也はガルヴォルスへと転化した。彼は怒りと憎しみを膨らませて、敵とみなした相手を徹底的に手にかけてきた。

 オメガである光輝にも、竜也は憎悪を傾けた。オメガが偽りの正義の象徴であると認識して。

 光輝と激しくぶつかり合う最中、竜也はガルヴォルスのさらなる姿を見せた。巨大なパワーを発揮する反面、制御できない暴走の力だった。

 スピリットフォームのオメガとなった光輝との激闘も決着がつくことがなく、彼と竜也はそれぞれの正義と戦いを進んでいくことになった。

 そして今、竜也の怒りと憎しみの戦いは終わった。彼の憎悪が晴れることなく。

 だが光輝は、竜也が最後の最後で人の心と優しさを取り戻したと実感していた。竜也は光輝を命と体を張って守ってくれた。

「竜也くんも、純粋に平和を望んでいた・・ただ、やり方が間違っていたんだ・・・僕からしたら、とても平和とも正義ともいえない・・」

 光輝が竜也の意思を思い返し、口にしていく。

「平和と自由を脅かす悪に立ち向かわないといけない・・だけど、倒すべきなのは悪だけ・・人そのものじゃない・・・」

「光輝さん・・・」

 光輝が口にしていく言葉に、ヒカルも戸惑いを感じていた。

「僕はこれからも戦っていく・・竜也くんとは違うやり方で、守るために戦う・・・」

「光輝さん・・・光輝さんの中に、竜也さんの信念も宿っているんですよね・・・?」

 ヒカルが問いかけると、光輝は小さく頷いた。竜也の信念は光輝の正義に受け継がれていた。

 

 大首領との戦いを終えた光輝は、ヒカル、一矢、太一と一緒に帰ってきた。ハイパーショッカーとの戦いを終えた仮面ライダーたちが、彼らを迎えた。

「光輝くん、ヒカルさん・・終わったのか・・・」

 1号が声をかけるが、光輝は沈痛な面持ちを浮かべたまま答えない。

「どうしたんだ、光輝くん?・・何か、あったのか・・?」

 V3が問いかけると、光輝は重く閉ざしていた口を開いた。

「竜也くんを・・助けられなかった・・・」

「君が助けようとしていた親友か・・友を失う悲しみは、オレたちも分かる・・」

 悲しみを痛感していた光輝に、RXが言いかけてきた。

 仮面ライダーは誰もが、孤独と悲しみを経験してきている。その辛さを強さと決意に変えて、ライダーたちは戦いを続けているのである。

「君はこの悲しみから、新たな決意を持ったはずだ・・君自身が何のために戦い、仮面ライダーとして何をしていくのかを・・」

「光太郎さん・・・僕は、改めて決意しました・・僕のやり方で、世界の平和と人々の自由、みんなを守っていくことを・・・」

 光輝がRXに向けて決意を口にしていく。

「さて、そろそろ自分の世界に戻るとするか・・」

 巧が憮然とした態度を見せながら呟いてきた。

「オレたちはオレたちの世界で、悪と戦っていくからよ・・お前もお前の世界での戦いに負けるなよ、光輝・・」

 翔太郎が笑みを見せて、光輝に励ましの言葉を送る。

「オレたちは1人じゃない・・仮面ライダーとしてのつながりがある・・伸ばした手をつかんでくれる人がいる・・」

 映司も光輝に笑顔を見せて勇気づける。仮面ライダーたちとの結束で、光輝は落ち着きを取り戻して笑みを見せた。

「ありがとう、みんな・・たとえ離れていても、僕たちの絆と正義はつながっている・・」

「当然!オレたちの時間も戦いも、これからもずっとクライマックスだぜ!」

 光輝が頷くと、良太郎が強気に言い放つ。

「あれ?そういえば士はどうしたんだ?」

「また吉川光輝に攻撃されたら厄介だと言って、先にこの世界から出ていったぞ・・」

 周りを見回す雄介に、総司が淡々と答える。士は先に光輝たちのいる世界から出て行ってしまっていた。

「そろそろ戻ろう・・今回の戦いが終わっても、また新たな悪との戦いが待っている・・」

「みなさんと会えて、一緒に戦えてよかったです・・」

 2号が呼びかけ、翔一も喜びの言葉を投げかける。仮面ライダーたちがそれぞれの世界へと戻ろうとしていた。

「また、みなさんといつか、今回のように一緒に戦えますよね・・・?」

「君たちが諦めなければ・・・」

 光輝が問いかけると、V3が頷いた。

「みんなの信頼がある限り、この世に悪がある限り、仮面ライダーは不滅だ・・これまでも・・そして、これからもだ・・」

 1号が光輝に呼びかけると、他のライダーたちとともにそれぞれの世界へと帰っていった。彼の言葉は、自分たちを応援してくれる人々に向けてのメッセージでもあった。

「ありがとう・・本当にありがとう・・仮面ライダー・・・」

 感謝の言葉を口にして、光輝は仮面ライダーを見送っていった。

「行ってしまいましたね、みなさん・・・」

 ヒカルが声をかけると、光輝が小さく頷いた。

「世界が違っていても、僕たちはつながっている・・そうだ・・たとえ何があっても、仮面ライダーは不滅なんだ・・・」

 仮面ライダーに勇気づけられて、光輝は自信と決意を胸に秘めていた。

「オメガも戦い続ける・・ひとつの戦いが終わり、また新しい戦いが始まる・・・」

「その前に、光輝はしっかりしないとね・・」

 そこへくるみが声をかけて、光輝に飛びついてきた。

「わわっ!くるみちゃん!」

「勉強も人生もしっかりやんないとダメになっちゃうわよ。あたしがちゃんとサポートするからそのつもりでね。」

 驚きの声を上げる光輝に、くるみが注意を促す。にらみを利かせてくるくるみに、光輝が困り顔を浮かべていた。

「これでまた、平和が戻ったということですね・・・」

 2人のやり取りを見て、ヒカルは笑顔を浮かべていた。

(見ていて、竜也くん・・僕の正義と戦いを・・君が求めていた平和を、僕のやり方で守ってみせる・・・)

 光輝が心の中で竜也に呼びかけていた。

(僕はこれからも、仮面ライダーオメガとしての使命を続けていく・・みんなの自由と心を守る戦いを、僕は続けていく・・・)

 決意と竜也への思いを心に刻み、光輝は悪との戦いを続けていこうとしていた。

 

 ハイパーショッカーとの戦いから1ヶ月がたった。

 異空間とのトンネルは開くことなく、歪みさえない平穏な日常が戻っていた。だがガルヴォルスが人々を襲う事件は途絶えてはいなかった。

 クモの怪物、スパイダーガルヴォルスが街の人々を糸で縛りつけていた。

「ケケケケ、さーて、じっくりといたぶってやろうか・・」

「放して・・助けて・・!」

 不気味な笑いを浮かべるスパイダーガルヴォルスの前で、糸で体を縛られている人々が悲鳴を上げる。

 そこへバイクに乗って走ってくる1人の青年がいた。メガブレイバーに乗った光輝だった。

「変身!」

 ベルトに水晶をセットして、光輝がオメガに変身する。彼はメガブレイバーを加速させて、スパイダーガルヴォルスに突進した。

「ぐあっ!」

 突き飛ばされたスパイダーガルヴォルスが激しく横転する。メガブレイバーを止めた光輝が、スパイダーガルヴォルスを見据える。

「お、お前は・・!」

「街の人たちを苦しめるガルヴォルスは、オレが許さないぞ!」

 声を荒げるスパイダーガルヴォルスに、光輝が言い放つ。

「オメガ・・せっかくだ・・ここでお前の息の根を止めてやるぞ!」

 スパイダーガルヴォルスが口から糸を吐き出す。光輝はジャンプして糸をかわし、一気に詰め寄ってパンチを叩き込んでいく。

 さらに光輝はキックを繰り出し、スパイダーガルヴォルスを突き飛ばした。彼はベルトの水晶を右足の脚部に移した。

「人々の自由と平和を壊そうとする悪の怪人・・みんなに危害は加えさせない!」

 光輝はスパイダーガルヴォルスに言い放ち、高くジャンプする。

「ライダーキック!」

 光輝が繰り出したメガスマッシャーがスパイダーガルヴォルスに命中した。大きく突き飛ばされたスパイダーガルヴォルスが、力を振り絞って立ち上がってきた。

「オレが・・オレがオメガにやられるなど・・・!」

 スパイダーガルヴォルスが断末魔の叫びを上げながら倒れ、爆発を起こした。光輝はオメガとして人々を脅かすガルヴォルスを撃破したのである。

「ありがとう・・ありがとう、仮面ライダー・・」

 子供たちが光輝の前に来て笑顔を見せてきた。光輝がその子供たちに視線を向けて頷いた。

「世界の平和と人々の自由を守るために戦うのが仮面ライダー・・オレもそのライダーの1人だ・・」

 光輝がオメガとして、未来の子供たちに自分たちの思いと正義を伝えたいと考えていた。

「オレの名は・・仮面ライダーオメガ!」

 高らかに名乗りを上げて、光輝がメガブレイバーに乗って走り出した。次の悪との戦いに向かう彼を、子供たちや人々が見送っていった。

 

 40年の時を越え、仮面ライダーは悪と戦い続けている。

 正義のため、自由のため、大切な人やもののため、ゆずれない何かのため、彼らは果てしない戦いに身を投じている。

 吉川光輝、オメガを加え、仮面ライダーの物語は続いていく。

 

 ひとつの終わり、そして、新しい始まりへ・・・

 

 

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