仮面ライダーオメガ&電王 Past of Justice
第1章
時の列車、デンライナー。
次の駅は過去か、未来か?
仮面ライダー。
裏社会や宇宙、別世界からやってくる破壊者や侵略者から、自由と平和を守るために戦い続けてきた戦士。
その活躍は世界にまで知れ渡り、子供たちのヒーローともなっている。
世界を脅かす怪人や脅威に、決意と勇気をもって立ち向かう仮面ライダー。
そのライダーへの憧れを抱いたまま、戦いに身を投じた男がいた。
夜の暗い路地の道。人気のないその道を歩く1人の青年がいた。
海道竜也。正義や世界の法に見放されて、正義に強い憎悪を抱いている。激しい憎悪に駆り立てられて、彼は世界の敵を手にかけてきた。
「まだだ・・まだこの世界は愚かなままだ・・・」
道を歩く竜也が低く呟く。
「だが必ずオレが本当の平和を取り戻す・・それがこの世界のあるべき形なのだから・・・」
“本当の平和・・愚か者を倒す・・それがお前の願いか・・・?”
そのとき、竜也に向けて不気味な声がかかった。竜也は警戒心を強めて周囲を見回すが、人1人見えない。
「姿を見せろ・・出てこないなら姿を見せないまま叩き潰すぞ・・・!」
“私に姿はない・・だがお前のその願い、私が叶えてやるぞ・・・”
目つきを鋭くする竜也に向けて、さらに声が発せられる。
「オレに他人に叶えてもらう願いなどない・・願うなら、オレ自身が叶える・・・」
竜也は向けられた声に対して冷徹に言い返し、この場を去っていった。だがこれが、時間を歪める大事件の始まりだった。
穏やかな雰囲気に包まれた街並。その道をバイクで走る1人の青年がいた。
吉川光輝。正義感が強くヒーローに憧れを抱いている。その性格や振る舞いが子供染みていると思われていることがある。
光輝はこの日、街に散歩に繰り出していた。
「ここ最近は平和な日々が続いている・・でもこういうときにこそ、何か大きな事件が起こるんだよね・・」
街の穏やかさを実感しつつ、不吉な予感も覚える光輝。彼は大通りから外れ、小さな道に差し掛かっていた。
そこでバイクを止めた光輝。彼は落とした財布を男性から渡される青年を目にしていた。
その財布には、青年の名前が書かれていた。
「名前を書いていたほうが、戻ってくる確率が高いですから・・・」
「そ、そう・・でも大人で財布に名前を書いてる人って普通いないと思うんだけど・・・」
青年の説明に男性は呆れ気味だった。男性と別れると、青年は気落ちして肩を落とす。
「財布、落としていたの・・・?」
そんな青年に、光輝は声をかけてきた。振り向いた青年は、光輝の顔を見て唖然となっていた。
「うん・・僕、運が悪くて・・よく財布を落としたり取られたりしていて・・・」
「運が悪い・・それは困ったものだね・・・でも勇気があって優しい。僕はそう思うよ・・」
微笑みかける青年に、光輝が笑顔で答える。彼の言葉を受けて、青年は喜びを感じた。
そのとき、青年の頭に突然サッカーボールが飛んできた。子供たちがリフティングをしていて、そのボールが外れて青年に当たってしまったのだ。
「ゴメンなさい!」
「う、うん・・いいよ・・気にしないで・・・」
謝りに来た子供たちに、青年は笑顔を作って弁解した。
「ホントに運がないみたいだね・・・ところで君、名前は?僕は吉川光輝・・」
「僕は野上良太郎・・よろしくね・・・」
苦笑いを浮かべる光輝に青年、良太郎が握手のために手を差し伸べてきた。
そのとき、またまた良太郎の頭にボールが飛んできた。今度は野球のボールだった。
「すみませんでした!」
「だ・・大丈夫・・・」
謝りに来た選手たちに笑顔を見せる良太郎。
「そこまで運が悪いと・・・でもここまであると、今日まで無事だったのが幸運というしかないよ・・・」
「そ・・そうかもしれないね・・アハハ・・・」
呆れる光輝に良太郎は笑みをこぼしていた。
“良太郎!何かイヤな感じがするぞ!”
そのとき、良太郎の耳に声が入ってきた。直後、彼が稲妻のような衝撃を覚える。
「どうしたの、良太郎くん・・・?」
異変の起こった良太郎に、光輝が声をかける。良太郎の髪が逆立って赤みを含むようになり、これまでとは雰囲気が一変していた。
「オレ、参上・・・!」
「え、えっ・・・!?」
良太郎が発した声に、光輝が驚きを覚える。良太郎は声も一変しており、低く鋭いものとなっていた。
「どうしたんだい、良太郎くん?・・何があったっていうんだい・・・?」
光輝が心配になって近づくと、彼が伸ばした手を良太郎がつかんできた。
「オレに気安く触ってくるとは、いい度胸じゃねぇか・・・!」
「あの、良太郎、くん・・・?」
「オレに前振りはねぇ・・最初からクライマックスでいくぜ!」
疑問を投げかける光輝に言い放つと、良太郎が彼を思い切り投げ飛ばしてきた。突然のことに驚く光輝だが、何とか受け身を取って前転した。
「何をするんだ、良太郎くん!?・・その雰囲気・・まさか、怪人が乗り移ったんじゃ・・・!?」
危機感を覚えて目を見開く光輝。
「あんまり人前で変身すると騒ぎになるからよくないけど・・・!」
意を決した光輝があるベルトを腰に装着する。
「変身!」
ベルトの中心部に水晶をはめ込むと、彼の体を赤い装甲が包み込む。
これがクリスタルユニットの1機「オメガユニット」である。水晶に込められたエネルギーを戦闘力に変換するクリスタルシステムを盛り込んだクリスタルユニットは、装着者の精神と連動して機能する。装着、各必殺技の使用の際は、水晶「ソウルクリスタル」を介する。
使用には使用者の強靭な精神力が必要で、精神力が弱いとシステムにエラーを来たしてしまい、最悪死に至ることもある。
「仮面ライダーオメガ!」
高らかに名乗りを上げる光輝に、良太郎がたまらず身構える。
「その姿・・おめぇがオメガ・・・!?」
良太郎が光輝の姿に驚きを見せる。彼はオメガに変身した光輝の姿を目にしていた。
「悪しき怪人、良太郎くんから離れろ!」
「ま、待て!オレは・・!」
言い放つ光輝に、良太郎が呼びかけようとする。だが光輝は聞かずに飛びかかってきた。
「助けなければ・・良太郎くんをこれ以上苦しめるわけにはいかない・・・!」
良太郎を助けようと必死になる光輝。良太郎も光輝から必死に逃げようとしていた。
そのとき、2人の周辺に突如爆発が起こる。足を止めた光輝と良太郎が周囲を見回す。
「な、何だ・・!?」
「何やら面白いことになってるじゃねぇか・・」
声を荒げる光輝たちの前に現れたのは、1体の怪人だった。コウモリを思わせる姿をした異形の怪物である。
「あれは・・イマジンじゃねぇ・・イマジンのにおいがしてこねぇ・・・!」
「あれは、ガルヴォルス・・・!」
良太郎と光輝が怪人、バットガルヴォルスの出現に声を荒げる。
「人々を襲い、平和を脅かすガルヴォルス・・お前たちの好きにはさせない!」
光輝がいきり立ち、バットガルヴォルスに向かって飛びかかっていった。だがバットガルヴォルスは飛翔し、光輝の突進をかわしてしまう。
「空に飛び上がるなんて・・・!」
「どうだ!これなら攻撃することはできないだろう!」
毒づく光輝を見下ろして、バットガルヴォルスがあざ笑う。
「だがこっちは攻撃し放題だ!」
言い放つバットガルヴォルスが棘を連射してきた。回避を試みる光輝だが、何本か棘の直撃を受けてしまう。
「ぐあっ!」
うめいて横転する光輝。追い込まれていく彼を、バットガルヴォルスがあざ笑う。
「おいおい、オレを無視して勝手に話を進めんなよな・・」
そこへ良太郎が不敵な笑みを見せてきた。彼の乱入にバットガルヴォルスが疑問符を浮かべる。
「言っとくがオレに前振りはねぇ・・最初からクライマックスだぜ!」
言い放つ良太郎が、パスカードを取り出した。そして彼は身に着けていたベルトにある赤いボタンを押す。すると電車のミュージックホーンのような音が鳴り響いた。
「変身!」
“Sword form.”
ベルトにパスをかざすと、良太郎の体を装甲が包み込んだ。赤を基調した電車をモチーフにした姿である。
「この姿・・・仮面ライダー電王だ!」
「オレ、参上!」
驚きと喜びの声を上げる光輝の前で、良太郎が高らかに言い放つ。
彼が変身したのは仮面ライダー電王。時の列車「デンライナー」で時間を渡り、過去を破壊して現在をも破壊しようとする「イマジン」と戦っている。良太郎には今、イマジンの1人、モモタロスが憑依している。電王はイマジンの憑依と連動して様々なフォームへと変身しており、今はモモタロスが憑依した基本形態、ソードフォームを取っている。
電王はかつて光輝たちを助けたことがあった。そのため、光輝は電王のことを知っていた。
「まさかオメガだけじゃなく、電王まで現れるとは・・・!」
電王の出現にバットガルヴォルスが歓喜を覚える。
「丁度いい!2人まとめて始末してやる!」
バットガルヴォルスが良太郎に向けて棘を発射する。良太郎が装備していた武器「デンガッシャー」を剣型の「ソードモード」にして振りかざす。
「いくぜ!いくぜ!いくぜえっ!」
言い放つ良太郎だが、棘を数本弾くだけで回避することができなかった。
「ハッハッハ!電王もオメガも無様なことだな!」
「このヤロー!空に飛び上がって攻撃するなんて卑怯だぞ!降りてこい!」
あざ笑うバットガルヴォルスに憤慨する良太郎。だがバットガルヴォルスは上空からの攻撃をやめようとしない。
「あったまきた!こうなったら叩き落してやる!」
“やれやれ。先輩は相変わらず野蛮ですね・・”
そのとき、良太郎に向けて声がかかってきた。彼の声でもモモタロスでもない。
“ここは僕がスマートに終わらせてあげますよ・・”
「ちっ!しょうがねぇな!ちゃんとやれよな!」
かかってきた声に、良太郎が憮然とした態度を取った。彼はベルトの青いボタンを押す。
“Rod form.”
良太郎がまとう装甲に変化が起こる。赤い装甲から青い装甲へと変化する。
電王の別形態「ロッドフォーム」である。彼の体にはモモタロスではなく、青のイマジン、ウラタロスが憑依していた。
「電王の姿が変わった・・彼もフォームチェンジするライダーなのか・・・」
「お前、僕に釣られてみる?」
声を上げる光輝の前で、良太郎が悠然と声をかける。
「はっ!オレはコウモリだ!魚みたいに釣れるものか!」
「君も先輩と同じく野蛮だね・・たまにはスマートにやってみたらどうだい?」
あざ笑ってくるバットガルヴォルスに対し、良太郎は悠然さを崩さない。彼はデンガッシャーを竿と槍の形状を取った「ロッドモード」へと変化させる。
良太郎はデンガッシャーをバットガルヴォルスに向けて振りかざす。デンガッシャーに叩き落されて、バットガルヴォルスが落下する。
「くそっ!こうも簡単に叩き落されるとは・・!」
立ち上がったバットガルヴォルスが、良太郎に向けて棘を投げつける。
“そろそろオレの出番や!交代や、カメの字!”
そのとき、良太郎に向けて声がかかった。その声を聞いて、良太郎に憑依しているウラタロスが呆れる。
「仕方がないね・・後は任せたよ、キンちゃん・・」
“Ax form.”
良太郎がベルトの黄色のスイッチを押す。すると電王の装甲が三度変化し、金色を含んだ形状となる。
同時に良太郎の体に新たなるイマジン、キンタロスが憑依してきた。
「オレの強さは泣けるで!」
身構える良太郎が高らかに言い放つ。彼が口にした言葉を、バットガルヴォルスがあざ笑う。
「姿が変わっただけでなく、ふざけたことを口にして・・!」
さらに棘を放つバットガルヴォルス。だが良太郎は斧の「アックスモード」となったデンガッシャーを振りかざし、棘を弾き飛ばす。
「すごい・・パワーだけじゃなく、スピードも負けてない・・・!」
「オレの強さに、お前が泣いた!」
驚きの声を上げる光輝の前で、良太郎が高らかに言い放つ。追い詰められたバットガルヴォルスがたまらず飛び上がる。
「あまり時間を取るのもあかん。そろそろしまいに・・!」
“ずるい、ずるーい!僕にもやらせてよー!”
そこへまた別の声が飛び込んできた。良太郎に憑依するイマジンの1人、リュウタロスである。
「せやったら後は任せたで、リュウタ!」
“Gun form.”
良太郎に憑依しているキンタロスが、ベルトの紫のボタンを押す。電王が別フォームへと変化し、良太郎の体にリュウタロスが憑依する。
電王、「ガンフォーム」である。
「お前、倒すけどいいよね?」
「は?そんなこと聞かれて“はい”と答えるヤツが・・」
「答えは聞いてない。」
「なら聞くな!」
マイペースに言い放つ良太郎に怒鳴り、バットガルヴォルスが棘を放つ。だが「ガンモード」となったデンガッシャーを駆使して、良太郎が棘を迎撃する。
「こんなんじゃつまんないな〜・・もう、終わらせちゃう!」
“Full charge.”
不満を口にする良太郎が、デンガッシャーを構える。エネルギーを収束させた光の弾「ワイルドショット」が、バットガルヴォルスに向かって飛んでいく。
「こ、こんな攻撃を仕掛けてくるなど!」
声を荒げるバットガルヴォルスに、光弾が直撃する。爆発に巻き込まれて、バットガルヴォルスが消滅した。
「やったー♪僕にかかればこんなものだよー♪」
勝利を手にした良太郎が喜び、ダンスばりの軽い足取りを披露する。出番を失くした光輝がただただ唖然となっていた。
「本当にコロコロと人格が変わっている・・・これが、仮面ライダー電王・・・」
光輝は呟きながら、オメガへの変身を解除する。
「ねぇねぇ、何で変身解いちゃうの?今度はお前が僕と遊んでよー。」
そこへ良太郎が声をかけ、光輝にデンガッシャーを向けてきた。
「ち、ちょっと待って!君も正義のために戦う仮面ライダーでしょ!?現にガルヴォルスを倒して・・!」
「何言ってるの?僕は面白いから戦ってただけだよ。だから今度はお前と遊ぶんだ。お前のほうなら面白そうだから・・」
呼びとめようとする光輝だが、良太郎は聞き入れようとしない。
「遊んでくれるよね?答えは聞いてない!」
“もうやめようよ、リュウタロス・・”
良太郎に憑依しているリュウタロスに声がかかる。良太郎の声だった。
「・・・しょうがないなぁ、もう・・・」
良太郎がため息をつくと、電王への変身を解除する。同時にリュウタロスが良太郎の体から離れていった。
「り、良太郎くん・・・大丈夫なの・・・?」
光輝が不安げに良太郎に声をかける。すると良太郎が微笑んで頷いた。光輝が最初に会ったときの良太郎だった。
「うん・・今までの僕には、仲間のイマジンが入っていたんだ・・」
「イマジン?・・もしかして、それが良太郎くんの体に入っていた怪人の正体・・・!?」
良太郎が語ったことに、光輝が緊迫を覚える。
「イマジン」は人間の記憶やイメージを媒体にして具現化される存在である。その人の記憶から過去に渡り、その過去を破壊、改変する事で現在や未来を変えて、崩壊に導くのが主な目的である。
良太郎に憑依するモモタロスたちも、当初はその目的のために彼に接近した。だが本来の破壊行動を行うことはなく、現在や未来を変えようとするイマジンを止めるために、良太郎に協力し、戦っているのである。
「大丈夫だよ・・みんないいイマジンだから・・・」
「そう・・・でもイマジンって、憑依した人の心も操ってしまうんだよね?・・それなのに君は、何ともないなんて・・・」
「うん・・実は僕、特異点なんだ・・・」
「特異点・・?」
良太郎の説明に光輝が疑問を膨らませる。
「特異点」。時間からのあらゆる干渉を受けない特性、人物である。イマジンも特異点に対する干渉や支配が容易にできなくなる。
「それにしても・・過去を変える怪人か・・時間を移動されたら、さすがに手が出せないな・・・」
「その心配はないよ・・時間を消させないために、僕たちは戦っているんだ・・・」
困り顔を浮かべる光輝に、良太郎が微笑みかける。
そのとき、光輝と良太郎の前を1列の電車が走り込んできた。その電車に光輝が驚きを覚える。
「ウソ!?ここ、線路なんてないのに!?」
眼前に現れた電車に、光輝が声を荒げる。電車は次々に出現していく線路の上を走っていた。
時の電車「デンライナー」。あらゆる時代の乗客が利用する他、過去に飛んだイマジンの追跡を行うこともある。時の電車は空間、場所問わずレールが自動的に展開、撤去されるため、基本的にどこにでも走行することができる。
そのデンライナーのドアが開き、1人の少女が降りてきた。
「良太郎、大丈夫!?モモタロスたちが出ていったから、またイマジンが出たんじゃないかって・・!」
少女が良太郎に声をかけてくる。すると良太郎が微笑んで頷く。
「良太郎くん・・この子は・・・?」
「ハナさんっていうんだ・・僕をデンライナーに連れて行ってくれたんだ・・・」
光輝が訊ねると、良太郎が少女、ハナを紹介する。
ハナはデンライナーの乗員で、良太郎にライダーパスを渡した人物でもある。彼と初めて会ったときは19歳の容姿だったが、出生の時間に合ったことで体が幼児化してしまったのである。その小さい姿のため、「コハナ」と呼ばれている。
「あなたがもしかして、あのオメガ?・・話は聞いてたわ。」
「えっ?僕がオメガであることも知っているの・・?」
ハナが声をかけてくると、光輝が驚きの声を上げる。
「良太郎がいいっていうなら、あなたもデンライナーに乗ることができるけど・・」
「僕は構わないよ・・光輝くんは、僕たちの友達だから・・・」
ハナが投げかけた言葉を受けて、良太郎が光輝のライバーパス共有を了承する。
「ホントにどういうことなの?・・何が起きているんだ・・・?」
疑問を膨らませる光輝に、ハナが話を切り出した。
「時間の歪みが起こってるのよ・・それもイマジンだけじゃなく、ガルヴォルスの仕業らしいの・・・」
人気の少ない道を、1人の青年が歩いていた。
富士野一矢。光輝と同じ大学に通う青年。「無敵」、「完全無欠」を絵に描いたような人物で、本人もそれを自負している。自分にできないことは何もないと本気で思っている。
一矢はガルヴォルスを厄介者として撃退してきていた。この日も彼はガルヴォルスの行方を追っていた。
「ムキになって探すこともないのだが、あまりウロウロされるのも鬱陶しいからな・・」
一矢は呟きながら、周囲を見回していく。すると彼の視線の先で、ふらつきながら歩いてくる1人の男がいた。
男の体からは砂がこぼれてきていた。あまりに異様に見えて、一矢が眉をひそめる。
「何だ、君は?そんなに砂を撒き散らしていたら、いかにも怪しいと言っているようなもの・・」
一矢が男に向けて声をかけたときだった。男の体から1体の怪人が現れた。サメを思わせる姿の怪人だった。
「ガルヴォルス?・・いや、違う・・違う雰囲気だ・・・」
一矢はその怪人がガルヴォルスでないと察した。怪人は不気味な笑みを浮かべて、一矢に迫ってきた。
「お金を渡してもらおうか・・お金を手にするのが、そこの男の望みなのだ・・・」
怪人が一矢に向けて要求してくる。しかし一矢は不敵な笑みを見せる。
「残念だが、オレは金を見せつけている見栄っ張りとは違う・・もっとも、お前のようなヤツにくれてやる金もないがな・・」
「だったら有り金全部渡してもらおうか・・少しは足しになるだろう・・」
「何度も言わせるな。お前に渡す金などないと言っている。」
金を求める怪人に対して、一矢はため息をついて、ひとつの水晶を取り出す。
「お前のようなヤツにうろつかれると不愉快だ。ここで始末する・・・変身。」
一矢は不敵な笑みを見せて、水晶を身につけているベルトにセットする。すると彼の体を青色の装甲が包み込んだ。
クリスタルユニットのひとつ「ギガス」の力を得た一矢。その姿に怪人が疑問を覚える。
「電王ではない・・何者だ?」
「わざわざ名乗る必要はないだろう?お前はここでオレに倒されるのだから・・」
問いかけてくる怪人に対し、一矢が強気な態度を見せる。
「そこまでオレを敵に回したいとは・・」
「敵?オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」
敵意を見せる怪人、シャークイマジンに一矢が高らかに言い放つ。いきり立ったシャークイマジンが、一矢に向かって飛びかかる。
だが一矢はシャークイマジンの速い攻撃をものともせず、逆に追い詰めていく。
「どうした?最初の威勢はどこに行った?」
挑発を口にして、一矢がシャークイマジンを突き飛ばす。激しく横転するシャークイマジンを見据えて、一矢がベルトの水晶を右足脚部にセットする。
「ギガスマッシャー!」
飛び上がった一矢が、シャークイマジンに向けて両足を突き出す。彼の放ったキック「ギガスマッシャー」がシャークイマジンに叩き込まれた。
痛烈な一撃を受けたシャークイマジンが爆発を起こして消滅した。
「ガルヴォルスではなかったが、オレには遠く及ばない・・」
一矢がこの戦いの勝利に喜びを浮かべた。
そこへ別の怪人が飛び込み、一矢がとっさにかわす。鬼の風貌をした怪人、デビルガルヴォルスが攻撃を仕掛けてきた。
「今度はガルヴォルスか・・本当に気分が悪いな・・」
怪人たちに狙われることに不満を覚える一矢。
「ギガス・・クリスタルユニットを手にすれば、オレはもっと強くなれる・・・!」
ギガスユニットを狙って、デビルイマジンが一矢に向かって飛びかかる。迎撃に出る一矢だが、体力と精神力の消耗で優位に立つことができない。
「力を使った後を狙ってくるとは・・・!」
毒づく一矢だが、デビルイマジンに対して打開の糸口を見出せなかった。
「ギガス・・まさかこの程度とは・・だがオレがギガスユニットを使えば、もっと効率よく使いこなせる・・・!」
勝ち誇ったデビルガルヴォルスが両手を突き出す。その爪に突かれて、ギガスの装甲から火花を散らして一矢が倒される。
「これで終わりだ・・まずはギガスユニットを奪って・・」
「そこまでだ、ガルヴォルス・・」
デビルイマジンに向けて声がかかった。1人の青年が2人の前に現れた。
「お前は誰だ?邪魔をするなら痛い目を見るぞ。」
「鬼らしく大口を叩いてくれる・・威勢だけは認めてやる・・・」
強気な態度を見せるデビルイマジンに、青年も不敵な笑みを見せる。彼はベルトを身につけて、1枚のカードを取り出す。
「変身。」
“Altair form.”
カードをベルトにセットした青年が、緑を基調とした装甲を身にまとう。彼はデビルイマジンを指差し、高らかに言い放つ。
「最初に言っておく!オレはかーなーり、強い!」
「お前、ゼロノスだったのか・・せっかくだからお前も始末して・・!」
いきり立ったデビルイマジンが、具現化させた棍棒を手にする。ゼロノスが剣型にした「ゼロガッシャー」を手にして迎え撃つ。
2つの刃がぶつかり合い、火花を散らしていく。だが力比べでゼロノスが劣勢を強いられていく。
「コイツ、なかなかやるな・・・!」
「どうした?ゼロノスの力はそんなものか?」
毒づくゼロノスをデビルイマジンがあざ笑ってくる。
「仕方がないか・・デネブ!」
ゼロノスの呼びかけを受けて、カラスのような顔をした怪人が姿を現した。怪人が憑依することで、ゼロノスの装甲がパワー、耐久力を重視した形態へと変化する。
ゼロノスが基本形態の「アルタイルフォーム」から「ベガフォーム」へと変化したのである。
ベガフォームとなったゼロノスは、青年ではなく怪人、デネブの人格が表面化している。
「最初に言っておく!」
デネブも青年のように、デビルイマジンに向かって高らかに言い放つ。
「久しぶりにこの姿になれて、オレはかーなーり、嬉しい!」
“デネブ、ふざけていないで早くやれ!”
だがデネブは的外れなことを言い放ち、青年が怒鳴り声をかける。
「何をわけの分からないことを!」
いきり立ったデビルイマジンがゼロノスに飛びかかる。アルタイルフォームの際には両手で振っていたゼロガッシャーを、ベガフォームのゼロノスは片手で振ってきた。
「何っ!?」
棍棒を受け止められて、デビルイマジンが驚愕する。力で押し始めたゼロノスが、ゼロガッシャーで斬りつけてデビルイマジンを押していく。
「あまり時間を取りたくないので、ここでおしまいにする!」
“Full charge.”
言い放つゼロノスが、エネルギーを集中させたゼロガッシャーを構える。必殺技「スプレンデッドエンド」を受けて、デビルイマジンが真っ二つにされて爆発した。
戦いを終えて、ゼロノスが変身を解除する。青年がギガスへの変身を解除した一矢に歩み寄ってきた。
「これはどういうからくりだ?今の姿・・クリスタルユニットとは違うようだが?」
「お前には関係のないことだ。それに今はあまり時間を取りたくないしな・・」
疑問を投げかける一矢だが、青年は答えようとしない。そこへデネブが口を挟んできた。
「侑斗、そんな意地悪を言ってはいけない!今回ばかりはこの人の力も必要になるはずだ!」
「お前は黙ってろ、デネブ!他のヤツらにウロウロされると迷惑なんだよ!」
呼びかけてくるデネブに、青年、桜井侑斗が不満の声を上げる。すると一矢が不敵な笑みを見せてきた。
「頼られるのは悪い気分ではないが、オレもオレでやらせてもらう。もっとも、詳しく話を聞かせてもらうが・・」
「も、申し訳ない・・侑斗はいつもは悪ぶった態度を見せているが、本当は優しい心の持ち主なのだ・・」
「デネブ、余計なことを言うな!」
一矢に頭を下げるデネブ。その言葉に憤慨した侑斗が、デネブに4の字固めを見舞う。
「オレもお遊びに付き合うつもりはない。早く話を聞かせてくれ・・」
「・・仕方がない・・が、話すだけだからな・・」
言い寄ってくる一矢に、侑斗は憮然とした態度を見せながらも、事情を説明するのだった。