仮面ライダーマックス

第48話「ヒトの心、ケモノの心!」

 

 

 通勤、通学の社会人や学生が行き交う街の駅。しかし事件やトラブルも後を絶たない。

「キャアッ!この人触ったー!」

 女子の1人が悲鳴を上げて、男性の手をつかみ上げてきた。

「何を言ってるんだ!?僕はずっと吊り革をつかんでいた!」

 男性が女子に言い返して、濡れ衣を払おうとする。

「ウソつくんじゃないよ!あたし、アンタが手を回してたの見たんだから!」

 するともう1人の女子が顔を出して、男性も言い返してきた。

「あたしも見たよ!手を伸ばしてた!」

「私も!」

 周りにいた他の女子たちも証言をしてきた。

「違う!僕は本当に吊り革を持っていた!どうやって手を出せるんだ!?

 男性が声を荒げて反論する。

「ウソつくな!あたしたちみんな見てんだよ!」

「こんなことして恥ずかしくないのか、アンタは!」

 女子たちが怒鳴って男性を睨みつける。周りの人たちも次第に男性を痴漢だと思うようになっていった。

「うわあっ!」

 そのとき、別方向から悲鳴が上がって、人々が一斉に振り返る。その先にいた人々が逃げてきて、ドラゴンビースターとなったユウキがやってきた。

「バ、バケモノ!?

 その場にいた人々も慌てて逃げ出していく。ユウキが女子たちを追って歩いて、飛び越えて回り込んだ。

「な、何であたしたちが!?

 自分たちが追われていることに納得ができず、女子たちが不満の声を上げる。

「他の人を悪者にしようと、そろって悪だくみをする・・お前たちの声は聞こえている・・!」

 ユウキが女子たちに向かって鋭く言いかける。

「何言ってんのさ!?あたしはホントに痴漢されたんだよ!」

「そうだよ!悪者を懲らしめるなら、相手はあっちだよ!」

 女子たちが言い返して、痴漢だと疑っている男性を指さす。彼女たちの態度に、ユウキが怒りをふくらませる。

「自分たちのした過ちを棚に上げて、他の人を悪者だと決めつけて言い張って・・お前たちのようなヤツらは・・!」

 ユウキが怒号を放って、女子の1人の首をつかみ上げた。

「は、放せよ!あたしは被害者なんだよ・・悪者だと決めつけてるのはそっちじゃないか・・!」

 女子が声を振り絞って言い返すが、ユウキの怒りを逆撫ですることにしかならなかった。

 ユウキが手に力を込めて、女子の首が曲がった。彼女が力尽きて、ユウキが放すと地面に倒れた。

「ひ・・人殺し・・!」

「は、早く逃げよう!」

 他の女子たちが恐怖をふくらませて、ユウキから逃げ出す。ユウキが刺々しい姿になって、高速で動いて女子たちを爪で切りつけた。

 次々に倒れた女子たちを見下ろして、ユウキはひと息つく。女子たちが悪だくみを働かせて男性に濡れ衣を着せようとしたことを、ユウキは遠くから耳にしていた。

「こ、殺される・・に、逃げろー!」

 周りにいた人たちも、濡れ衣を着せられた男性もユウキから逃げ出した。

「お前たちも、何が正しいのかを考えようともせずに、敵の言葉に動かされて・・・!」

 女子たちの言い分を鵜呑みにした周りの人々に対しても、ユウキは怒りを感じていく。しかし彼は人々を追おうとせず、駅を後にした。

 

 敵を手当たり次第に排除していくユウキ。周りにはばかることのない彼の行動は、次第に世間に知られることになった。

 ニュースはユウキに関することが後を絶たなかった。

 そしてそれはノゾムたちにも届いていた。

 

「ユウキくん・・本気だっていうのか・・・!?

 ユウキのニュースを聞いて、タツヤは動揺を隠せなくなる。

「自己満足のために人を襲って・・やはりアイツもビースターだったってことか・・・!」

 ソウマがユウキへの憎しみを噛みしめて言いかける。

「ソウマくん、やめて、そういう言い方・・ユウキさんは身勝手な人じゃない・・セイラさんのことを気にして・・!」

 ツバキがユウキのことを心配して、ソウマに反論する。

「ビースター同士つるんでいるだけだ!結局、人の命を食い物にするバケモノなんだよ!」

「いい加減にして、ソウマくん!」

 ビースターへの憎悪をむき出しにするソウマに、ツバキが怒鳴りかかる。

「お前たち、いい加減にしろ・・オレの前でケンカするな・・・!」

 そのとき、ノゾムがいら立ちを見せて、ツバキたちに背を向けた。

「ケンカじゃない!オレは早くビースターを倒そうって言っているだけだ!」

「オレの前でやるなっていうんだよ・・イライラしてくる・・・!」

 ソウマが言い返すが、ノゾムがさらに不満を口にする。ノゾムは1人でツバキたちの前から去っていった。

「いがみ合いに立ち会うのもイヤか・・ここまで来ても、ノゾムはノゾムか・・」

 シゲルがノゾムの後ろ姿を見送って、苦笑いを浮かべる。

「考え方は違うけど、ユウキくんをこのままにしておけないのは、同じ考えのはず・・」

 タツヤが言いかけて、ツバキとシゲルが頷いた。

「ビースターのお前に指摘されたくないな・・オレの人生を狂わせたビースターを、オレは絶対に認めない・・!」

 ソウマはタツヤに不満を言って、いら立ちを浮かべたまま腕組みをする。

「今度、速報が出たら行こう・・ユウキさんに会いに・・・!」

 タイチがユウキのことを言って、スマートフォンに目を向けてニュースに意識を傾けた。

「私、ノゾムのところに行ってくる・・・」

「ツバキちゃん、僕も行くよ・・」

 ツバキとタイチがノゾムを追いかけて走り出した。

 

 ツバキたちから離れて1人動物たちの近くに来たノゾム。複雑な気分を感じている彼を、ツバキとタイチが追いかけてきた。

「ノゾム・・ユウキさんのこと・・・」

「言うな・・オレもどうしたらいいのか分かんないんだよ・・・!」

 ツバキが言いかけると、ノゾムがいら立ちを込めて言い返す。

「・・偉そうなことを言うことになっちゃうけど・・こういうことは、あんまり考えてもいい方法なんて見つからないと思う・・だからガムシャラに、直感で何とかしたほうがいいんじゃないかな・・・?」

 タイチが不安を抑えながら、ノゾムたちに気持ちを伝える。

「タイチ・・そうだな・・そうかもしれないな・・」

 ノゾムがタイチの言葉を聞き入れて、小さく頷いた。

「オレはユウキの考え方そのものを否定する気はない。オレも身勝手なヤツが許せないからな・・だが、そのためにタイチやツバキたちに何かあるようなら、オレはユウキのやることを認めない・・」

「ノゾム・・・」

 ノゾムが正直な考えを告げて、ツバキが戸惑いを浮かべる。

「きっとソウマくんとタツヤさんは、ユウキくんのところに行くだろうね・・」

「ソウマくん、ビースターを強く憎んでいる・・自分の人生を壊したビースターが許せなくて・・・」

 タイチとツバキがソウマのことを考えて、深刻な顔を浮かべる。

「みんなが無事でいられたらいいんだけど・・・」

 ユウキだけでなくソウマたちのことも心配していた。

 

 人々を次々に手にかけていくユウキに、日本政府も危機感をふくらませていた。

「このままでは東京だけでなく、日本、いや、世界各国にも飛び火することになるぞ・・!」

「しかし、警察の戦力ではとてもあの怪物に太刀打ちできない・・!」

 政治家たちが対策を議論、思考するが、苦悩と焦りをふくらませるばかりだった。

「こうなれば、自衛隊の戦力を本格投入するしか・・最悪、他国にも救援の要請を・・・!」

「何を言う!?そんなことをすれば、我が国はいい笑い者だ!」

「だが、命あっての物種だ!背に腹は代えられぬ!」

 議論が過激化する政治家たちが、武力による排除を思い立った。

「直ちに都に避難勧告を!怪物の位置を逐一把握し、全国に報道するように!」

 政治家たちが結論を出して、ユウキの排除のための作戦を開始した。

 

 政府が出した都からの避難勧告は、すぐに人々に伝わった。人々は住み慣れた家を離れて、一斉に疎開した。

 その騒ぎはノゾムたちにも伝わったが、彼らは動物公園を離れようとしなかった。

「ユウキが国からも敵視されるなんて・・・!」

 タツヤがこの事態に危機感を覚える。

「とにかくニュースを知れば、アイツの居場所が分かる・・アイツのところへ行って倒せば、この騒ぎも収まる・・!」

 ソウマが思い立って、ユウキを捜しに向かう。

「ソウマ、1人だけで突っ走るなって・・!」

 シゲルが慌ててソウマを追いかけて、タツヤも2人に続いた。タツヤは感覚を研ぎ澄ませて、ユウキの気配を探った。

(ユウキくん、どこにいるんだ!?・・とんでもないことになってしまうぞ・・!)

 ユウキを心から心配して、タツヤは彼の行方を必死に追った。

 

 政府が自分を警戒して避難勧告を出して武力行為に踏み切ったことを、ユウキも耳にしていた。彼は政府をも敵視して、会議場を目指して歩いていた。

(国そのものが、自分たちさえよけえばそれでいいという考えなのか・・普通の人間でない存在は、排除してもいいと・・・!?

 ユウキの怒りは、排除命令を出している政府にも矛先を向けていた。

「待つんだ、ユウキくん!」

 そこへ声がかかって、ユウキが足を止めて振り向いた。彼の前にソウマ、シゲル、タツヤが駆けつけた。

「お前・・これだけのことを仕出かして・・・!」

 ソウマがユウキに怒りを見せて、鋭い視線を向ける。

「オレは身勝手な敵を倒しているだけだ・・そして国を動かす人間さえも、オレの敵に回った・・・!」

「それは君が人間を徹底的に手にかけているからだ・・こんなことを続けていたら、みんな君を、ビースターをさらに怖がってしまう・・!」

 敵意をむき出しにするユウキに呼びかけて、タツヤが説得しようとする。

「みんながオレの敵に回ったんだ・・身勝手を仕出かしたことで・・・!」

「身勝手、身勝手って・・お前が身勝手じゃないかよ!」

 憎悪をふくらませるユウキに、ソウマが怒鳴りかかる。

“フォックス!”

 彼がビースドライバーにフォックスカードをセットして、左上のボタンを押した。

「変身!」

“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”

 ソウマがフォックスに変身して、ユウキの前に立った。

「オレの強さは疾風迅雷!ビースターは1人残らず、オレが倒す!」

 ソウマが言い放って、ユウキに向かっていく。

「オレは倒れるわけにはいかない・・邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない・・!」

 ユウキが鋭く言って、ドラゴンビースターへと変化した。2人が互いにパンチとキックを繰り出して、回避と防御でかいくぐる。

「オレは前々から気にくわなかったんだ!ビースターのくせに、人間のように暮らしていこうなんて!」

「オレは体はビースターだけど、心を失ったつもりはない!むしろ人間のほうが心を失っているじゃないか!」

「人の命を弄ぶビースターが、人のことを偉そうに語るな!」

「命を弄んでいるのは、身勝手な考えの持ち主だ!」

 ソウマとユウキが怒りを叫んで、攻撃を続ける。

「アイツ、マジで怒りで我を忘れているみたいだな・・・!」

 シゲルが気まずくなって、オックスカードを取り出した。

“オックス。”

 彼がビースブレスにオックスカードをセットして、リードライバーにかざした。

「変身!」

“スタートアップ・オックス。”

 シゲルがオックスに変身して、ソウマと交戦しているユウキに向かっていく。シゲルが繰り出したキックを、ユウキは後ろに動いてかわす。

「オレの力は天下無敵!」

 シゲルが言い放って、ユウキの前に立ちはだかる。

「事情は分からなくもないけどな・・国が混乱するくらいまで暴れ回るのはどうかとは思うぞ・・!」

「このまま敵を野放しにすれば、世の中はどんどんおかしくなっていくんだ・・そのためにセイラさんが死んだ・・彼女みたいな人を出さないためにも、オレが行動を起こさないといけないんだ!」

 シゲルが苦言を呈するが、ユウキは考えを変えない。ユウキはセイラのことを思って、揺るぎない意思を貫こうとしていた。

「違う・・セイラさんが、こんなムチャクチャなことを望んでいるとは思えない・・・!」

 タツヤもセイラのことを考えて、首を横に振る。

「やめるんだ、ユウキくん・・セイラさんが、君にこんなことをするのを望んではいない!」

「なら敵をこのまま野放しにしてもいいのか!?敵を倒さなければ、セイラさんが浮かばれない・・!」

 タツヤが呼びかけるが、それでもユウキは戦いをやめようとしない。

「たとえセイラさんがこの戦いを望まなくても、オレは敵を倒す・・彼女が受けたような悲劇が2度と起こらないように・・・!」

「やれやれ・・ここまで強情だとはな・・」

 ユウキの言葉を聞いて、シゲルがため息をつく。

「そこまで戦いを仕掛けようとするなら、ユウキくん、私は君を力ずくでも止めないといけない・・君がこれ以上の悲劇に巻き込まれないようい・・セイラさんがこれ以上悲しまないように・・・!」

 自分が下した決意を告げて、タツヤがスネイクビースターになった。

「タツヤさん・・あなたまで・・・!?

 タツヤまで敵対してくることに、ユウキはやるせない気分と怒りをふくらませていく。

「オレは止まるわけにはいかない・・セイラのために、世界のために!」

 ユウキが感情を高ぶらせて、刺々しい姿となった。

「コイツ・・どこまでも強情に・・!」

 ソウマがいら立ちをふくらませて、ユウキに向かっていく。

「ぐっ!」

 ユウキの重みのあるパンチを受けて、ソウマが突き飛ばされて地面を転がる。

「ソウマ!・・ユウキのヤツ・・!」

 シゲルが声を上げて、ユウキに向かっていく。

「ユウキくん・・・!」

 タツヤが激情に駆り立てられて、ユウキに飛びかかった。

 

 ユウキがソウマたちと戦っているという情報は、ニュースを通じてノゾムたちにも伝わっていた。

「このままじゃユウキくんと、ソウマくんたちが・・・!」

 タイチが不安を感じて、ノゾムに振り向いた。

「ノゾムお兄ちゃん、みんなを止めて!このままみんながケンカするなんて、僕、イヤだよ!」

 ワタルがタイチにすがりついて、涙ながらに呼びかける。

「・・・みんなはここにいろ・・何があってもこっちに来るんじゃねぇぞ・・・!」

「ノゾム・・・うん・・・!」

 ノゾムが呼びかけて、ツバキが戸惑いを感じながら頷く。ノゾムが1人、ツバキたちの前から歩き出す。

「お兄ちゃん・・みんなを助けて・・・ノゾムお兄ちゃんならやれるよ・・・!」

 ワタルが涙を拭って、ノゾムへの信頼をふくらませていた。ツバキ、タイチ、ワオンもノゾムを見送っていた。

 

 ビースターの力を発揮したユウキに、ソウマたちは劣勢を強いられていた。

「なんて力だ・・パワーもスピードも全部オレたちを上回っている・・!」

 シゲルがユウキの強さに毒づく。

「だけど諦めるわけにはいかない・・世の中をムチャクチャにしているビースターを、野放しにはできない・・・!」

 ソウマは怒りをたぎらせて、ユウキの前に立ちはだかる。

「何が正しくて何が間違っているのか、きちんと見ていないのに・・オレたちばかり悪者扱いして・・!」

「見えているさ・・消えるべきなのは、命を弄ぶビースターのほうだってな!」

 いら立ちをふくらませるユウキに言い放って、ソウマが飛びかかる。スピードを上げてパンチとキックを繰り出すソウマだが、ユウキは当てられてもダメージを受けていない。

 逆にユウキが繰り出すパンチを体に叩き込まれて、フォックスのスーツから火花が散って、ソウマが激痛に襲われる。

「オレは倒れない・・命を弄ぶビースターを、オレは許さない!」

 ソウマが声と力を振り絞って、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。

“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”

 ソウマがユウキに向かって走り出して、スピードに乗ってジャンプキックを繰り出した。ユウキが右手を強く握りしめて、ソウマ目がけて振りかざした。

「ぐあぁっ!」

 ソウマが横に突き飛ばされて、そのはずみでビースドライバーが外れた。フォックスへの変身が解けた彼が、大きなダメージで立ち上がれなくなる。

「ソウマ!」

 シゲルが声を上げて、ソウマを助けようとユウキに詰め寄る。

「タツヤさん、今のうちにソウマを!」

「シゲルくん!・・分かった!」

 シゲルが呼びかけて、タツヤがソウマに駆け寄る。

「ビ・・ビースターの助けなんて・・・!」

 ソウマがタツヤに助けられることを嫌悪する。

「死んでしまったら何にもならないぞ・・!」

「うるさい・・ビースターに助けられるくらいなら、死んだほうがマシだ・・!」

「そのような、ツバキさんたちを悲しませるようなことをいうな・・!」

「くっ・・!」

 タツヤに言いとがめられて、ソウマがいら立ちを噛みしめる。

「せめてちょっとぐらいは足止めをしないとな・・!」

 シゲルが呟いてから、リードライバーの中心部を回転させた。

“オックス・ロードスマッシュ。”

 シゲルが右手にエネルギーを集めて、パンチを繰り出す。ユウキも右手を握りしめて振りかざして、シゲルのパンチとぶつけ合う。

 爆発のような衝撃が周囲に巻き起こり、散乱していたものが吹き飛ばされていく。

「うぐっ!」

 シゲルが突き飛ばされて、倒れて力尽きる。ユウキはひと息ついてから、ソウマとタツヤに目を向けて歩き出す。

「ビースターというだけで一方的に排除しようとする考えは間違っている・・敵はビースターの中にも人間の中にもいるというのに・・・!」

 ユウキがソウマに対する憎悪をたぎらせる。

「だからって、こんな戦いをしていては、悲劇を増すことにしかならない・・!」

 タツヤがユウキの前に出て呼び止める。

「悲劇を終わらせるための戦いだ・・だからタツヤさんの頼みでも、やめることはできない!」

「そこまでこの戦いを貫こうとするなら、力ずくで止めるしかないということか・・・!」

 考えを変えないユウキに、タツヤが毒づく。彼が鞭を手にして振りかざして、ユウキの右腕を縛って止める。

 しかしユウキが腕を振りかざして鞭を引っ張って、タツヤを振り回す。

「うっ!」

 地面に強く叩きつけられて、タツヤがうめく。ユウキは鞭を取り払ってから、ソウマに視線を戻す。

「自分の考えが正しいと言い張る愚か者は、オレが正す・・!」

「それはお前たちのほうだろうが・・自分中心に大切なものを奪うビースターが!」

 鋭く言うユウキと、敵意をむき出しにするソウマ。体に力が入らないソウマの眼前まで、ユウキが迫ってきた。

「これでとどめだ・・お前の使っていたベルトとカードは、オレが使う・・・!」

 ユウキが鋭く言って、具現化した剣を構えてソウマを狙う。

(くっ・・ベルトが外れてなければ・・・!)

 絶体絶命を痛感して、ソウマが絶望する。ユウキが彼に向かって剣を突き出した。

 ユウキの剣が貫いたのは、ソウマではなく、彼を守ろうと飛び出してきたタツヤだった。

「お、おい・・何をやっている・・・!?

「タ・・タツヤ・・さん・・・!?

 ソウマとユウキが驚いて目を見開く。タツヤが剣をつかんで、ユウキに目を向ける。

「ユウキくん・・君にこれ以上、悲劇を被ってほしくはない・・私もセイラさんも、君の幸せを願ってるんだ・・・!」

 タツヤが声を振り絞って、ユウキに呼びかける。

「だからやめるんだ、ユウキくん・・悲しい思いしか生まない、この戦いを・・・!」

「タツヤさん・・・!」

 タツヤの投げかける言葉で動揺を覚えて、ユウキが剣を引き抜く。後ろにふらつくタツヤを、ソウマがたまらず支える。

「おい・・何で、オレを庇った!?・・命を弄ぶのがビースターだろうが・・・!」

 ソウマがタツヤに肩を貸して問い詰める。

「誰かを守ることそのものが、悪いということではない・・」

「ビースターが・・ビースターを憎んでいたオレを守るなど・・・どうかしている・・・!」

 声を振り絞るタツヤに、ソウマが動揺を隠せなくなる。

「そんなことで、オレがビースターを許すわけじゃない・・こんなことされて、恩を感じるなんて思わないことだ・・・!」

「人間もビースターも関係ない・・ノゾムくんも、ユウキくんも思っていることだ・・・」

 ビースターへの不満を込めて言いかけるソウマに、タツヤがさらに言い返す。

「君も、ユウキくんも、憎しみに囚われて・・大切なものを見失わないように・・・」

 ソウマたちに自分の思いを伝えて、タツヤが微笑みかける。

「ユウキくん・・セイラさんと、みんなの本当の思いを、受け止めてくれ・・・」

 タツヤがユウキに目を向けて、心からの願いを口にする。次の瞬間、伸ばしかけたタツヤの手がだらりと下がった。

「お・・おい・・・!?

 ソウマが呼びかけるが、タツヤは反応しない。タツヤはユウキの剣に体を貫かれて、命を落とした。

「おい・・シゲルさん・・しっかりしてくれよ・・・!」

 シゲルがタツヤに向かって声を上げる。

「・・・バ・・・バカなヤツだ・・・ビースターなのに・・オレを助けて・・死ぬなんて・・・」

 ソウマが弱々しく言いかけると、動揺しているユウキに鋭い視線を向けた。

「味方を手にかけて、お前は何とも思わないのか・・・それでも自分の考えを押し付けるつもりなのか、お前は!?

 ソウマが声を張り上げて、落ちていたビースドライバーを拾う。

「どうして・・敵を庇うんだ・・・どうして・・ここまで悲劇を大きくしようとするんだ!」

 ユウキが絶叫を上げて、全身にさらなる力を込める。絶望がかつてないほどまで増して、ユウキは冷静さを失っていた。

 そこへノゾムがやってきて、ソウマたちを見て目つきを鋭くした。

「ノゾム・・・!」

「どいつもこいつも、勝手なマネをして・・・!」

 シゲルが声を上げて、ノゾムがいら立ちを噛みしめる。

“マックス!”

 ノゾムはビースドライバーにマックスカードをセットした。

「変身・・・!」

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 声を振り絞るノゾムがマックスに変身した。彼がユウキに詰め寄って、互いににらみ合う。

「オレたちや、お前の仲間を傷付けてまでやりたいことなのかよ、これが・・・!?

「敵を倒さなければ、セイラさんは浮かばれない・・それなのに、みんな邪魔をして・・タツヤさんまでもが・・・!」

 鋭く言いかけるノゾムと、怒りと悲しみに打ち震えるユウキ。彼と距離を取ってから、ノゾムがエックスカードを取り出した。

“エックス!”

 ノゾムがビースドライバーにあるマックスカードを、エックスカードと入れ替えた。

“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”

 彼はエックスフォルムに変身して、両腕にエックスブレスを装着した。

「何度も何度も、マックスの最高の力が通じると思うな・・!」

 ユウキが怒りを噛みしめる前で、ノゾムが左右のエックスブレスに、それぞれエクシードカードをセットした。

“エクシード!インフィニットマックス!”

“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”

 彼はさらにエクシードフォルムとなって、ユウキの前に立ちふさがった。

「オレの怒りは限界突破!」

 ノゾムが言い放って、ユウキに向かっていく。2人が力を込めてパンチを繰り出してぶつけ合う。

「オレは退かない・・オレが、世の中の敵を滅ぼすんだ!」

 激高したユウキの体に、さらなる変化が起こった。体から出ている棘が鋭くなって、さらに体に金色が加わった。

「これは!?

 ソウマが驚きの声を上げる先で、ユウキの力が一気に高まった。

「ぐっ!」

 ノゾムが力負けして、突き飛ばされてしりもちをつく。

「エクシードのパワーが押された!?

「アイツ、そこまで力を上げたっていうのか!?

 シゲルとソウマがユウキのパワーに対して目を見開く。

 ノゾムがすぐに立ち上がって、再びユウキに向かっていく。ノゾムとユウキのパワーとスピードは互角となっていた。

「怒りと悲しみ・・いろんな感情で、アイツ、エクシードに負けず劣らずの強さを身に着けたっていうのか・・!?

 ノゾムと戦うユウキを見て、シゲルは驚きを隠せなくなる。

「オレは負けるわけにはいかない・・オレがやらないと、悲劇は終わらないんだ!」

 ユウキは声を振り絞ると、ノゾムたちの前から遠ざかっていく。

「ユウキ!」

 シゲルが叫ぶが、ユウキはこの場から姿を消してしまった。

「ユウキ・・・タツヤさん・・・!」

 倒れたタツヤに振り返って、ノゾムはやるせない気分になっていた。彼はユウキとどう向き合うべきなのかを考えて、苦悩していた。

 

 ノゾムたちから離れたユウキもまた、苦悩を深めていた。彼はタツヤを手にかけてしまったことを気にしていた。

(オレは何もかも失っていく・・オレがこの手で、タツヤさんを・・・!)

 かつてない悲しみと絶望に襲われて、ユウキがたまらず地面に膝を付く。

(オレは終わらせなければならない・・身勝手で理不尽なこの世界の愚かさを・・・!)

 ふくらんでいく苦悩を必死に振り払おうとするユウキ。彼は自分の決意を貫こうとして、1人歩き出した。

 ユウキのノゾムとの決戦、そして人類との本格的な戦いが起ころうとしていた。

 

 

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