仮面ライダーマックス
第49話「マックスの決着!ライダーの強き意思!」
ユウキとの対立の中、タツヤはソウマを庇って命を落とした。様々な感情にさいなまれながら、ノゾムたちはツバキたちのところへ戻ってきた。
「ノゾム・・ユウキさんは?・・タツヤさんは・・・!?」
ツバキがノゾムたちに聞いてきて、不安を感じていく。
「ユウキを連れ戻すことはできなかった・・タツヤは・・ソウマを庇って、ユウキに・・・」
「そんな!?・・ユウキお兄ちゃんが、そんなこと・・・!?」
シゲルからの説明を聞いて、ワタルが悲しみを覚える。
「アイツ、エクシードに負けないくらいの力を出してきた・・アイツがこれ以上、見境のない戦いを続けるなら、絶対に止めないといけない・・!」
ソウマがユウキを止めることを進言する。
「憎いからじゃなく、マジで危険になってくるから・・・!」
「ソウマくん・・・」
ソウマの口にした言葉を聞いて、ツバキが戸惑いを覚える。ビースターへの憎しみを持っていたソウマが、その憎しみを強く抱かずにいたことに、ツバキは内心驚いていた。
「オレたちはちょっと休んでから、またユウキを捜しに行く・・」
ノゾムが真剣な顔を浮かべて、タイチたちに言いかける。
「ニュースをチェックしよう。もしかしたらユウキくんのことが分かるかもしれない・・」
タイチが言って別荘に向かう。ノゾムたちも束の間の休息のため、別荘へ行く。
(身勝手なヤツが敵なのは同じ・・だけどそのためにいいヤツにイヤな思いをさせていいことにはならない・・そうだろう、ユウキ・・!?)
ノゾムは心の中でユウキに呼びかけていた。
ノゾムたちとの対立とタツヤを手にかけてしまったことで、ユウキは苦悩を感じていた。それでも敵を倒さなければ安息は訪れないと自分に言い聞かせて、ユウキは1人歩き続けていた。
(オレは戦う・・たとえセイラ、タツヤさん、2人が悲しみを感じているとしても・・・!)
ユウキが歩きながら、心の中で呟いていく。
(できれば戦いたくはないが、ノゾム、もしもお前が邪魔してくるなら、オレはもう迷わない・・!)
彼は戦意をたぎらせて、敵の居場所を求めて進んでいった。
移動を続けるユウキは、常に政府に監視されていた。政府の指令を受けた自衛隊は、ユウキ撃破のための準備を整えていた。
「命令があれば、すぐに出撃することができます。」
“よし。ポイント9891でターゲットを迎え撃て。”
報告をする部隊の隊長に、政府の議員が呼びかける。
「移動開始だ。敵は人殺しを続ける怪物だ。決して油断と容赦をするな。」
「了解!」
隊長が呼びかけて、隊員たちが答える。彼らはユウキを迎え撃つために移動を開始した。
敵と認識した人を次々に襲うユウキのニュースを、ノゾムたちも見ていた。
「ユウキお兄ちゃん、まだ人を襲って・・・!」
「ユウキくんを止めようと、自衛隊がついに動き出したみたいだ・・」
ワタルとタイチがユウキの動向に、動揺をふくらませていく。
「アイツがいるのはそこか・・もうこんな、ふざけたことに振り回されるのはたくさんだ・・・!」
ユウキの居場所を確かめてから、ノゾムが動き出す。
「オレも行くぞ、ノゾム!オレも十分休んだからな!」
「みんなはまたここで待っててくれ。必ずみんなで戻ってくるからな。」
ソウマが意気込みを見せて、シゲルがツバキたちに呼びかける。
「ノゾム・・何度も言うようになってしまうけど、また言うよ・・みんな無事に帰ってきて・・・」
ツバキが真剣な表情を浮かべて、ノゾムに頼み込む。するとノゾムは振り返らずに言い返した。
「その問いは何度聞かれても答えは同じだ・・オレは絶対に死なない。必ず生きてここに戻ってくるってな・・・」
「うん。知ってる・・ノゾムはムチャクチャなことには絶対屈しないって、もう私たち、分かっているから・・」
ノゾムの返事を聞いて、ツバキが微笑んで小さく頷いた。
「それじゃ、さっさとユウキのところに行くとするか。」
シゲルが呼びかけて、ビースブレスにイグアナカードをセットした。
“イグアナ。”
彼がビースブレスをリードライバーにかざした。
“スタートアップ・イグアナ。”
するとイグアカートが駆けつけて、シゲルの前で止まった。
“タイガー!”
“ウルフ!”
ノゾム、ソウマもビースドライバーにタイガーカード、ウルフカードをセットして、左上のボタンを押した。
“チャージ・タイガー!タイガーマッハ!タイガーパワー!タイガータイガーランナー!”
“チャージ・ウルーフ!ウルフル・ウルフル・ウルフルスロットール!”
タイガーランナーとウルフルスロットルも駆けつけて、ノゾムとソウマが乗った。
「それじゃ行ってくる・・!」
シゲルも言いかけて、イグアカートに乗った。ノゾムたちはユウキのいるところへ急いだ。
(ノゾム・・・)
ノゾムたちの後ろ姿を見送って、ツバキは戸惑いをふくらませていた。
ノゾムたちが近づいてくるのを、ユウキは察知していた。荒野にたどり着いた彼が振り返ったところで、タイガーランナー、ウルフルスロットル、イグアカートが駆けつけて停車した。
「徹底的に、オレの邪魔をしようというのか、お前たちは・・・!」
ユウキがノゾムたちを見て、目つきを鋭くする。
「ビースターは許せないけど、人間らしいビースターまで倒すこともないと思うようになってきたかな・・」
自分が新しく見出した考えを告げるソウマ。
「オレも中野さんや大塚さんたちに世話になっているからな。その感謝の意味を込めて、このベルトとカードを有効活用しないとって思っているんだよ、オレは。」
シゲルも自分の考えをユウキに向かって告げる。
「お前の戦いはオレたちをも追い込むことになる・・それなのに、オレは黙ってやられるつもりはない・・!」
ノゾムの自分の意思を口にして、ユウキに鋭い視線を向ける。
考え方や理由はそれぞれだが、ユウキを止めようとする意思は、ノゾムたちは共通していた。
「前にも言ったはずだ・・邪魔をするなら、誰だろうと容赦しないと・・・!」
ユウキが声を振り絞って、ノゾムたちに鋭く言いかける。
「そのためにタツヤさんを、仲間を殺しても平気なのか!?」
ソウマがユウキに向かって怒鳴り声を上げる。
「それでもやらなくちゃいけないんだ・・でないとセイラさんが浮かばれないし、オレたちと同じ思いをする人が必ず出てきてしまう・・・!」
「そのためにオレたちにイヤな思いをさせてもか!?・・ツバキやタイチ、ワタルにも・・!?」
戦う意志を貫くユウキに、ノゾムが問い詰める。それでもユウキは考えを変えない。
「だったらオレたちはどうなる!?身勝手なヤツらにいいように振り回されて、それが正しいことにされるのを黙っていろというのか!?」
「他にもやり方があるだろうが・・他のいいヤツを巻き込まないようにすることが・・・!」
感情をあらわにするユウキに、ノゾムが振り絞るように言いかける。
「もうこうするしかない・・こうしなければ、誰も理解しない・・・!」
「・・・あくまで、この戦いを続けるっていうのか・・・!?」
それでも戦いを続けようとするユウキに、ノゾムがいら立ちをふくらませていく。
「こりゃ、どうしても戦うしかないみたいだな・・・!」
シゲルがため息まじりに言って、オックスカードを取り出した。
「ツバキたちのためにも、ここは退くわけにはいかないってことか・・!」
ソウマは怒りに囚われることなく、ユウキと戦う決意を固めていた。
「オレはお前を止める・・お前のこの戦いは、いい気がしないんだよ・・・!」
ノゾムが言い放って、マックスカードを取り出した。ソウマもフォックスカードを手にした。
“マックス!”
“フォックス!”
ノゾムとソウマがビースドライバーにマックスカード、フォックスカードをセットした。
“オックス。”
シゲルがビースブレスにオックスカードをセットして、リードライバーにかざした。
「変身!」
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”
“スタートアップ・オックス。”
ノゾム、ソウマ、シゲルがマックス、フォックス、オックスに変身した。
「オレの力は天下無敵!」
「オレの強さは疾風迅雷!」
シゲルとソウマがユウキに向かって言い放つ。
「オレの怒りは限界突破・・ユウキ、お前をツバキたちのところに連れ戻すまで、オレの怒りは治まらないぞ!」
ノゾムも言い放って、ユウキに詰め寄る。ユウキも激情を強めて、ドラゴンビースターとなった。
ノゾムとユウキが同時に拳を振りかぶって、強くぶつけ合った。
ユウキの動きを読んで布陣を敷いていた自衛隊だが、ユウキが別の場所で戦闘しているという情報が届いた。
「怪物が戦闘をしている!?・・我々も現場へ急行するぞ!」
隊長が隊員たちに呼びかけて、再び移動した。
ノゾムたちとユウキの戦いは始まった。ビーストライダー3人を同時に相手にしても、ユウキは劣勢にはなっていなかった。
「オレがやらなければ、この愚かな世界は変わらない・・たとえ同じ志の人と戦うことになっても、オレは戦わないわけにはいかない!」
感情を強めるユウキが、刺々しい姿となる。強さを増した彼に押されて、ノゾムが横転する。
ソウマがスピードを上げて、ユウキの注意を乱そうとする。
「ぐっ!」
しかし飛び越えようとしたソウマが、ユウキが振り上げた右手のパンチを体に叩き込まれた。地面に倒れたソウマが苦痛に襲われる。
「パワーもスピードもとんでもない・・ならこれならどうだ!」
シゲルが毒づいて、イグアカートに乗ってユウキ目がけて突っ込んだ。しかしユウキに両手でイグアカートを止められた。
「なっ!?おわっ!」
驚くシゲルが、イグアカートを押し返された衝撃で地面に振り落とされる。
「これは、本気で倒しにかからなくちゃならないようだな・・・!」
ノゾムがユウキの高まる力に毒づく。ノゾムとソウマがビースドライバーの左上のボタンを押して、シゲルがリードライバーの中心部を回転させる。
“マックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
“オックス・ロードスマッシュ。”
3人が足にエネルギーを集めて、同時にジャンプしてキックを繰り出した。ユウキが全身に力を込めて、両手を前に突き出してキックを迎え撃つ。
そのとき、ユウキが怒号を放って、さらに刺々しい姿となった。
「うあっ!」
ノゾムたちがユウキに押し返されて、地面に叩きつけられる。ノゾムは立ち上がったが、ソウマとシゲルはダメージが大きくすぐに立ち上がれない。
「まだだ・・オレは倒れないぞ・・・!」
ノゾムが声を振り絞って、マキシマムカードを取り出した。
“マキシマム!”
彼はビースドライバーにセットされているマックスカードを、マキシマムカードと入れ替えた。
“チャージ・マキシマーム!マックス・マキシ・マキシマーム!ビース・マキシマムライダー!”
ノゾムがマキシマムフォルムに変身して、ユウキに再び向かっていく。
「それではオレを止めることはできないぞ!」
ユウキが言い放って、ノゾムとパンチを撃ち合う。
「うぐっ!」
ノゾムが力負けして、さらにユウキに剣でマックスのスーツを切りつけられて突き飛ばされる。
「止める・・オレが止める!」
ノゾムが立ち上がって、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“マキシマムチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムがジャンプして、エネルギーを集めた両足のキックを繰り出す。しかしユウキの繰り出した剣の一閃で横になぎ払われる。
「ノゾム!・・どこまでとんでもないパワーになるんだよ・・!」
シゲルが声を上げて、ユウキの強さに毒づく。
「オレはお前を野放しにはしない・・オレがお前の頭を冷やさせてやる・・・!」
ノゾムが立ち上がって、エックスカードを取り出した。
“エックス!”
彼はビースドライバーにエックスカードをセットした。
“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”
ノゾムがエックスフォルムに変身して、ユウキに向かっていく。
「それでもオレには通じない!」
言い放つユウキに、ノゾムがパンチを叩き込む。ユウキは少し押されただけで、ダメージを負っていない。
ユウキが剣を振り下ろして、マックスのスーツが切られて火花を散らす。
「ノゾム!」
ソウマが叫ぶ先で、ノゾムが立ち上がってビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“エックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムがジャンプして、エネルギーを集めたキックを繰り出した。ユウキが左手のパンチで、ノゾムのキックを押し返した。
「くそっ・・!」
毒づくノゾムがエックスブレスを構えて、マックスカード、マキシマムカードを手にした。
“エックスマーックス!ジェネラリーアクション!”
“エックスマキシマーム!アンリミテッドパワー!”
彼がマックスフォルム、マキシマムフォルムの力を身にまとう。
“エックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムが大きくジャンプして、さらに威力を高めたキックを繰り出した。ユウキが具現化した剣を振りかざして、ノゾムのキックを迎え撃った。
「ぐあっ!」
ノゾムが突き飛ばされて、地面に強く叩きつけられた。
「それで今のオレを止められると思うな!オレは、必ず敵を滅ぼして、乱れた世の中を正す!」
ユウキが言い放って、ノゾムに向かって前進する。
「何度も言わせるな・・そのために、いいヤツまで巻き込んで平気な顔をするなよ・・・!」
ノゾムが立ち上がって、ユウキに鋭い視線を向ける。彼が2枚のエクシードカードを手にした。
ノゾムがエックスブレスにエクシードカードをセットした。
“エクシード!インフィニットマックス!”
“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”
ノゾムがエクシードフォルムとなって、ユウキに近づいていく。2人は距離を詰めて、互いに鋭い視線を向け合う。
「これで決着を着ける・・オレとお前の・・」
「オレとお前の出会いは、戦いだったな・・最近は仲良くなっていたけど、ずっと戦いの連続だった・・・」
これまでの自分たちの時間と戦いを思い返していくユウキとノゾム。
「そして今回も戦いをする・・仲がいいのか悪いのか・・・」
「オレは敵が許せないから戦っているだけだ・・たとえマックスにならなくても、ビースターでなくても・・・」
「そして今度は、オレが許せない敵か・・・」
「オレが今許せないのは、お前の戦いのために、他のいいヤツまでイヤな思いをすることだ・・オレもどうしても、いい気がしないから・・・」
戦いで己をぶつけ合う自分たちに皮肉を感じながら、ユウキとノゾムが自分の意思を告げる。
「オレはこの愚かな世界を正す・・身勝手なヤツらの愚かさを野放しにしない・・・!」
「オレはいいヤツを守るために戦う・・身勝手さや愚かさから・・・!」
改めてそれぞれの決意を口にするユウキとノゾム。同じ志を持ちながらも対立する2人の対決は、最も大きな局面に差し掛かっていた。
ノゾムたちとユウキの対決は、自衛隊も目撃していた。ユウキと戦っているノゾムたちに対して様々な考えを抱くも、隊員たちはユウキへの警戒心、敵対心を消してはいなかった。
「相手をしているのが何者かは分からないが、我々のやるべきことに変わりはない。」
隊長が呟いて、隊員たちに目を向けた。
「全員、配置に着け!目標の怪物を倒す!」
「はっ!」
隊長が呼びかけて、隊員たちが散開する。彼らはノゾムたちとユウキの戦いに決着がつく瞬間を狙っていた。
エクシードフォルムとなったノゾムと、ビースターの力を限界以上に引き出したユウキ。2人の戦いは激しくなって、何度も火花を散らしていた。
「オレは世界を正す・・ここで負けるわけにはいかないんだ・・!」
ユウキが激情を高めて力を高める。彼は手にしていた剣を振り上げた。
「ぐあっ!」
マックスのスーツが切りつけられて、ノゾムが跳ね上げられる。そのはずみでビースドライバーが外れて、ノゾムはマックスへの変身が解けた。
「ヤバいぞ!変身が解けてしまった!」
ソウマが声を上げるが、体に痛みを感じて、ノゾムのビースドライバーを拾いに行けない。
「これで終わりだ・・たとえお前がどれだけ理不尽を許せなくても、オレを止めることにならないということだ・・・!」
ユウキがノゾムに向かって鋭く言いかける。
「お前もふざけたことを言うようになったか・・・オレのことを、勝手に決めるな!」
怒りの声を上げたノゾムの姿が変化した。彼はビーストビースターとなって、ユウキに飛びかかった。
「ここでビースターになってくるのか・・だが!」
ユウキが言いかけて、ノゾムが繰り出したパンチを手で受け止めた。ユウキが続けてノゾムの体にパンチを叩き込んだ。
「がはっ!」
うめくノゾムが突き飛ばされて、地面に叩きつけられて転がる。
「力の差は大きく開いているんだ!」
仰向けに倒れたノゾムにユウキが言い放つ。立ち上がったノゾムに向かって、ユウキが突っ込む。
ノゾムはユウキの横をすり抜けて、突撃をかわす。
「逃がさない!」
ユウキが後ろに剣を振りかざして、ノゾムの背中を切っ先で切りつけた。
「うぐっ!」
ノゾムは痛みに耐えながらも前転して、落ちていたビースドライバーを拾った。
「ベルトを取り戻すために・・!」
「人間もビースターも関係ない・・ただ、マックスの力のほうが使い慣れているからな・・・!」
いら立ちをふくらませるユウキに、ノゾムが言い放つ。彼はビーストビースターから人の姿に戻って、ビースドライバーを装着した。
「オレは戦う・・オレの力を引き出してくれる、このマックスの力を使って!」
“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”
ノゾムはマックス・エクシードフォルムへの変身を果たす。
「たとえエクシードになっても、オレはお前には負けない!負けるわけにはいかないんだ!」
「負けられないのはオレのほうだ・・オレはお前の考えを止めて、みんなのところに戻る!」
ユウキとノゾムが揺るがぬ意思を言い放って、手を握りしめてパンチを繰り出す。互いのパンチが体に次々に叩き込まれていく。
「ノゾム・・お前・・・!」
「もうオレたちは、黙って見ていることしかできないみたいだな・・・」
ソウマが息をのんで、シゲルが肩を落とす。2人はノゾムとユウキの戦いに介入できなくなっていた。
ノゾムもユウキも激しい攻防を続けて、体力を消耗していた。
「オレが・・オレがやらなくちゃ・・セイラの死が無意味になってしまう・・それだけは、絶対にあってはならない!」
ユウキがセイラのことを思って、全身に力を込める。彼の体から赤黒いオーラがあふれてくる。
「それでオレたちの日常を壊されたんじゃたまんないんだよ・・たとえ考え方が同じでも、オレは今ここで、お前を止める!」
ノゾムも言い放って、ビースドライバーの左上のボタンを3回押した。
“エクシードスマッシャー!”
ノゾムの手にエクシードスマッシャーが現れた。ユウキも剣を手にして、同時に飛び出す。
エクシードスマッシャーと剣が激しくぶつかり合って火花を散らす。ノゾムがエクシードスマッシャーの画面をスライドして、ゾウのアイコンを表示してからそばのボタンを押した。
“エレファントスマーッシュ!”
エクシードスマッシャーにパワーが宿る。ノゾムとユウキが再び、エクシードスマッシャーと剣を振りかざす。
ぶつかり合った瞬間、ユウキの剣がはじき飛ばされて地面に刺さった。
「まだだ・・これで終わりじゃない!」
ユウキが声を張り上げて、全身に力を込めてノゾムに向かっていく。ノゾムがエクシードスマッシャーを振りかざして、ユウキを切りつけた。
「うぐっ!」
体を切られて体勢を崩すユウキ。彼は踏みとどまって、ノゾムに振り返る。
「もう終わりにしろよ・・もうむなしいだけだ・・・」
ノゾムがため息まじりに、ユウキに呼びかける。しかしユウキは戦いを止めない。
「これだけやっても分かんないのかよ・・オレや、みんなの気持ちが!」
ノゾムが怒りを爆発させて、エクシードスマッシャーを投げ捨てて、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“エクシードチャージ!エクシードスマーッシュ!”
全身から光を発して、ノゾムが大きくジャンプする。ユウキが全身に力を込めて、ノゾムに立ち向かう。
ノゾムの繰り出したキックとユウキの繰り出した両手のパンチがぶつかり合い、爆発のような衝撃を巻き起こした。
「ノゾム!」
「ユウキ!」
ソウマとシゲルがノゾムとユウキに向かって叫ぶ。閃光のような衝撃から出てきて、ノゾムとユウキが地面に叩きつけられた。
「おい、2人とも・・無事か・・・!?」
シゲルがゆっくりとノゾムたちに向かって歩いて、声をかける。
“スリービースト。”
ノゾムの変身が解けて、ユウキもビースターから人の姿に戻った。
「どうして・・どうしてオレが・・オレたちが、こんな苦しみを受けなければならないんだ・・・オレたちは、ただ普通に暮らしていたいだけなのに・・・」
ユウキが弱々しく声を発して、怒りを噛みしめる。
「その苦しみを与えてくる敵だけをブッ倒せばいいんだろうが・・何も悪くない関係ないヤツまで苦しめることはないだろう・・・!」
ノゾムも声を振り絞って、ユウキに言いかける。
「オレはオレたちをいいようにするヤツを倒す・・オレたちにおかしなマネをしてこなきゃ、普通の暮らしをしていくだろうな・・・」
「そんな悠長にしていては、そのうちその普通の暮らしも壊されてしまう・・そうなる前に・・・!」
「そんなマネをしてきたときにオレは動く・・イヤなことに関わり合いになりたくないのは、お互い様じゃないのか・・・?」
世界への不満を口にするユウキに対して、ノゾムは自分の考えを口にするばかりだった。
「ホントにノゾムは、イヤなことは絶対に聞かないんだから・・」
「ホントにノゾムらしいってことだな・・」
ノゾムの頑固さにソウマもシゲルも呆れ果てていた。ノゾムとユウキが体力を回復させて立ち上がる。
「いちいちイヤなことに好き好んで首を突っ込んでも、いい気がしないだろう・・家族や友達を困らせてまでやってもいい気がしない・・・」
自分の考えを口にしていくノゾム。それでもユウキは納得することができない。
「どうしても敵をブッ倒さないと気が治まらないっていうなら、オレたちがイヤな気分にならないようにしろ・・オレたちも、安心して暮らしたいだけなんだから・・・」
「ノゾム・・・」
さらに言いかけるノゾムに、ユウキが心を揺さぶられる。もはや自分とノゾムの意思は交わらないと、ユウキは思い知らされた。
「今だ!怪物は疲弊して動けなくなっている!」
そこへ自衛隊が出てきて、ユウキを狙って銃を構えた。
「あれは自衛隊!?」
「まさか、ユウキを倒そうと・・!?」
ソウマとシゲルが自衛隊の登場に、緊張を覚える。
「協力、感謝するぞ・・これを機に、一気にヤツを仕留める!」
隊長がノゾムたちに言いかけて、ユウキに視線を戻す。
「おい、よせ・・アイツは、身勝手なヤツを叩き潰していただけだぞ・・・!」
するとノゾムが声を振り絞って、自衛隊に呼びかける。
「どいてくれ・・この怪物のために、多くの人々が犠牲になっているのだ・・!」
「今倒さなければ、この国だけでなく、世界も危機にさらされることになる!」
隊長と隊員がノゾムたちに呼びかける。
「すぐにそこをどくのだ!でなければ君たちも巻き込むことになるぞ!」
「いい加減にしろよ、お前たち・・・!」
隊長がさらに忠告を投げかけると、ノゾムが怒りの眼差しを送る。
「待て・・お前たちの相手は、オレがする・・・!」
ユウキが立ち上がって、隊長と隊員たちに鋭い視線を向ける。
「コイツ、まだ立てるのか!?」
隊員たちがいきり立って、改めてユウキに銃口を向ける。
「やめろ、ユウキ!その体で戦えるわけが・・!」
「力が残っていないのは、お前だって同じはずだ・・それにヤツらも、オレの敵に回った連中だ・・・!」
呼びかけるノゾムだが、ユウキは戦うことをやめない。
「いい加減にしろ・・ここまで勝手なマネをして、勝手に死のうとするな!」
「何もしなかったらそれこそ死ぬだけだ・・そうならないためにも、戦わないといけないんだ・・!」
声を張り上げるノゾムに、ユウキが声を振り絞る。
「今度こそとどめだ・・全員、撃て!」
隊長が呼びかけて、隊員たちがユウキに向かって一斉に発砲した。ユウキがドラゴンビースターになって、隊員たちに向かっていく。
「おい・・ユウキ、お前、そこまで・・・!」
「だけど、1人じゃムチャだ・・すぐに引き返せ!」
ソウマが戸惑いを感じて、シゲルがユウキを呼び止める。しかしユウキは止まることなく、自衛隊に向かっていく。
しかし力を大きく消耗していたユウキは、自衛隊の銃砲に体が耐えられなくなっていた。
「やめろ・・やめろ、お前たち!」
ノゾムが怒号を放って、マックスに変身しようとした。次の瞬間、ユウキが力尽きて倒れた。
「ユウキ!」
ノゾムが叫び声を上げて、ビースドライバーの左上のボタンを押した。
“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”
彼はマックスになって、自衛隊に向かっていく。彼はスピードを一気に上げて、自衛隊の隊員たちを殴りつけた。
「な、何っ!?」
突然のノゾムからの攻撃に、隊長が驚きを覚える。身構える彼の眼前に、ノゾムが一気に詰め寄ってきた。
「どういうつもりだ、貴様!?あのバケモノの味方をするのか!?」
隊長が声を荒げて、持っていた銃の銃口をノゾムに向ける。
「オレはアイツの味方じゃない・・お前たちが、オレの敵に回ったんだ・・!」
「何をワケの分からないことを・・ヤツの味方をするなら、貴様にも容赦しないぞ!」
自分の意思を貫くノゾムに、隊長が怒号を放つ。彼が発砲するが、ノゾムは高速でかわして銃をつかんだ。
「そうまでオレの敵に回って・・自分を押し付けようっていうのか・・!?」
ノゾムが怒りの声を上げて、つかんでいた銃をねじ曲げる。
「や、やめろ!やめてくれ!引き上げる!2度と手出しはしない!」
隊長が恐怖をふくらませて、ノゾムから後ずさりする。
「後でそんなこと言うくらいなら・・最初からこんなふざけたマネをするな!」
ノゾムが怒鳴って、地面を強く踏みつける。恐怖が限界を超えて、隊長が気絶して倒れた。
ノゾムはいら立ちを噛みしめて、倒れたユウキに駆け寄る。ソウマとシゲルも2人に近づく。
「ユウキ、目を覚ませ!ツバキたちがお前が戻ってくるのを待ってるんだぞ!」
ノゾムが呼びかけて、ユウキがゆっくりと目を開ける。
「オレは・・オレはまだ倒れるわけにいかないけど・・体が、言うことを聞かない・・・」
ユウキがノゾムたちを見つめたまま声を振り絞る。
(オレは・・セイラのために、何もできていない・・このままじゃ・・・)
「もういいよ、ユウキ・・・」
戦いを続けようとするユウキに向かって声がかかった。彼の脳裏に現れたのは、セイラだった。
(セイラ・・・!)
「もう戦わなくていい・・あなたの思い、みんなにもノゾムさんたちにも、私にも伝わったから・・」
(でも、まだ敵はいる・・滅ぼさないと、世界はおかしいままだ・・・!)
「あなたの思いは、世界に伝わった・・もうムキになることはない・・・」
動揺を見せるユウキに、セイラが優しく言いかける。
「あなたが1人で背負い込まなくても、ノゾムさんがいる・・みんながいる・・・」
(セイラ・・・)
セイラの投げかける言葉を聞いて、ユウキはノゾムの姿を思い返す。
「ノゾム・・・どこまでも・・いつまでも・・自分を貫いていくんだな・・・」
どれだけ時がたっても何があっても、ノゾムの意思と姿勢は変わることはない。自分が戦わなくても、世界の理不尽を変えることができる。ユウジはそう考えていた。
「ノゾム・・お前たちのこと、信じることにする・・信じているから・・・」
「ユウキ・・・」
微笑みかけるユウキに、ノゾムが言葉を返す。彼らへの信頼を感じながら、ユウキは瞳を閉じた。
「ユウキ・・・ユウキ・・・!」
ユウキの死に心を揺さぶられて、ノゾムが打ちひしがれて体を震わせる。ソウマもシゲルも悲しみをふくらませていた。
「ソウマ、シゲル・・ツバキたちに、帰れなくて悪いと伝えてくれないか・・・?」
「ノゾム・・お前・・・!?」
言いかけるノゾムに、シゲルが声を荒げる。ノゾムは1人歩き出す。
「ノゾム、どこへ行くんだ!?・・ノゾム!」
ソウマが呼び止めるが、ノゾムは立ち止まることなく去っていった。
ユウキの死に直面したノゾムは、身勝手な敵への憎悪をさらにたぎらせていた。
ユウキの死から1ヶ月が経った。
日本中の様々な人が襲撃を被った。ビースターから普通の人間、指名手配されている犯罪者から国を代表する人まで、攻撃を受けた者は様々だった。
バラバラに思える被害者たちだが、1つの共通点があった。それは自己中心的で身勝手ということだった。
身勝手な人物が次々と手に掛けられていることに、日本中は複雑な心境が渦巻いていた。不安を感じる者や称賛している者、何の興味も示さない者と、様々だった。
その騒然さが残る中、ツバキ、タイチ、ワオンは動物公園でノゾムの帰りを待っていた。ソウマとシゲルもノゾムの捜索をしていたが、見つけられないでいた。
「ノゾム・・帰ってくるって言ったのに・・・」
「ノゾムお兄ちゃんはずっと戦ってるんだね・・世界中の悪いヤツを懲らしめるために・・」
タイチが心配してため息をついて、ワタルがノゾムのことを気にする。
「でも、そろそろ帰ってきてもいいんじゃないかな・・・」
ツバキがノゾムのことを気にして、不満の素振りも見せるようになる。
(ノゾム、早く帰ってきてくれ・・いくら身勝手な敵が許せないからって、いつまでも戦ってばかりいるんじゃ、身も心も持たないよ・・)
タイチが心の中でノゾムに向けて言いかける。自分を貫くのがノゾムの性格だとしても、このまま離れ離れでいいというわけじゃない。ノゾムもそう思っているはずだとタイチも思っていた。
(ノゾム、公園の動物たちも、あなたがいなくてさみしがっているよ・・このままほっとけるノゾムじゃないよね・・・)
ツバキもノゾムが帰ってくることを望んでいた。必ずノゾムが戻ってくることを信じて、ツバキは動物の世話を続けた。
そのとき、ツバキの耳に近づいてくる足音が入ってきた。
「誰かが来る・・」
彼女が声を上げて、タイチとワタルが振り返る。足音は近づいてきて、1つの人影が視界に入ってきた。
「あ・・あれは・・・!」
「お兄ちゃん・・ノゾムお兄ちゃん!」
タイチとワタルが喜びの声を上げて、ワオンが飛び出して駆け寄った。ノゾムがついに彼らの前に帰ってきたのである。
「ノゾム・・ホントにノゾムなんだよね・・・!?」
「あぁ・・やっとここに帰ってこれた・・・」
タイチが言いかけて、ノゾムが小さく頷いた。ワタルとワオンも彼が帰ってきたことを、心から喜んでいた。
「ノ・・ノゾム・・・」
ツバキがノゾムを見つめて、戸惑いをふくらませて体を震わせる。
「帰ってきたんだね・・ノゾム・・・」
「あぁ・・・」
呟くように言いかけるツバキに、ノゾムが小さく頷く。
「おかえり・・ノゾム・・・」
「ツバキ・・ただいま・・・」
2人が挨拶して、互いに寄り添い合った。
「ノゾムがいなくなって、ずっとさびしかった・・戻ってきて、よかった・・・」
「オレも、ここでみんなと一緒にいたほうが気が楽になるみたいだ・・」
涙を浮かべるツバキに、ノゾムが自分の正直な気持ちを口にする。
「ここにいる動物たちの世話も、オレがやらなくちゃいけないからな・・」
「私もここの仕事、ずいぶん慣れてきてるんだからね・・」
言いかけるノゾムに対して、ツバキが言い返す。2人は互いを見つめて微笑みかける。
「オレはこれからも戦い続けるつもりだ・・ユウキたちのようなヤツを出さないために、大切な場所であるここと、大切な人であるお前たちを守るために・・・」
「ノゾム・・・」
ノゾムが正直な気持ちを口にして、ツバキが戸惑いをふくらませる。
「今はここにいて・・ノゾムの家であるこの場所に・・・」
「あぁ・・お前たちや動物たちのいるここが、オレの居場所・・心のよりどころだ・・・」
ツバキからの頼みを聞いて、ノゾムがタイチたちに目を向ける。
「今夜はノゾムが無事に帰ってきたことを祝って、パーティーだね。」
「やったね、ワオン♪」
タイチが言いかけて、ワタルが喜ぶ。2人から笑顔を見せられて、ノゾムが笑みをこぼす。
「行こう、ノゾム・・みんなが待っているよ・・」
「あぁ・・ここがオレの居場所・・オレが戦いの後に帰ってくる場所だ・・・」
ツバキの呼びかけに答えて、ノゾムが彼女と一緒に歩き出す。彼は家である動物公園に帰ってきた。
(オレは戦う・・オレと、優しさと心を持ったヤツのよりどころを守るために・・身勝手を押し付けてくる敵と、戦い続ける・・・)