仮面ライダーマックス
第45話「ナミダの願いと怒りの炎!」
セイラは死んだ。タツヤをかばって傷ついた彼女は、タイチやユウキからの優しさを受け止めて、笑顔を見せたまま眠りについた。
「セイラさん・・・イヤだよ・・セイラさんがいなくなるなんて、イヤだ!」
タイチが悲しみに打ちひしがれて、地面に手を叩きつける。
「・・オレのせいだ・・オレが、迷っていたせいで・・・!」
「ユウキくん・・・!?」
自分を責めるユウキに、タイチが動揺を見せる。
「ユウキくんは悪くない・・ユウキくんだって大変だったんだから・・・!」
「いいや・・オレが何のために戦っているのかを見失ったから、タツヤさんが傷ついて、セイラが・・・!」
タイチが励ますが、ユウキはそれでも自分を責める。自分の迷いがセイラを死に追いやってしまったことを、ユウキは許せなかった。
「オレは・・・オレは!」
耐えられなくなったユウキが1人走り出した。
「ユウキさん!」
ツバキが叫ぶがユウキは立ち止まらない。丁度戻ってきたタツヤと、彼はすれ違いになった。
「ユウキくん!?・・タイチくん、ツバキさん・・!?」
タツヤがユウキとツバキたちを見て、動揺を覚える。ツバキがタイチとタツヤを見てから、ユウキを追いかけた。
「ツバキちゃん・・ユウキくん・・・タイチくん・・・」
状況をはっきりと把握しきれていないタツヤだったが、悲しみに暮れるタイチから話を聞くことができなかった。
ノゾムたちに返り討ちにされて、ララは怒りを感じていた。
「マックスたち・・必ず倒して、ベルトとカードを奪い返す・・・!」
ララがノゾムたちへの憎悪をふくらませていく。
「3人同時だとさすがに勝てない・・1人ずつ・・特にマックスは隙を突いてベルトを奪うしかない・・!」
確実にベルトとアニマルカードを手に入れようと考えて、ララが微笑んだ。
「シュンの仇、マックス・・思い知らせてやるんだから・・・!」
ララはシュンのことを思い出して、次の作戦に備えるのだった。
ララを見失ったノゾム、ソウマ、シゲルは、変身を解いて動物公園に戻ってきた。そこで彼らはタイチとタツヤを見かけた。
「タイチ!?・・どうしたんだ、タイチ・・・!?」
「ノ・・ノゾム・・・!」
ノゾムが声をかけると、タイチが涙を流している顔を上げた。
「セイラさんが・・セイラさんが・・・!」
「セイラが・・・まさか・・・!?」
声を振り絞るタイチに、ノゾムが息をのむ。彼はセイラが死んだことを痛感した。
「誰がやったんだ・・・誰がセイラを!?」
ノゾムが怒りを覚えて声を張り上げるが、タイチは悲しみのあまりに答えることができない。
「私を庇って、セイラさんはビースターに・・・!」
タツヤがタイチの代わりに答えて、悔しさを浮かべる。
「ビースター・・エックスビースのヤツらか・・・!」
ララたちのことを思い出して、ノゾムが両手を強く握りしめる。
「オレはエックスビースをぶっ潰す・・アイツらのせいで、ゴロウさんも・・・!」
込み上げてくる怒りを噛みしめて、ノゾムがタイチに背を向ける。彼はあふれてくる涙を見せまいとしていた。
自衛隊の一部隊の壊滅と警察の一時撤退をしたことを、黒ずくめの男の1人がジンキに報告していた。
「そうか。偽の情報を送っておびき出す作戦は成功したようだ。」
「国民の不安や混乱は続いていますが、警察も政府も一時撤退を発表しています。もっとも、実質完全な撤退と思われますが。」
言いかけるジンキに、男が報告を続ける。
「公にされているビースターを処分しろ。不安要素を取り除いてやれば、愚かな人間たちはすぐにおとなしくなる。」
「分かりました。すぐにデータを洗い直して、ベルトとカードの奪還と並行して実行します。」
ジンキの指示を受けて、男が答える。
「それと、早くビースターの動画を流した者、真野カツヒコを拘束しろ。ビースターに調整して配下に置き、情報操作に参加させるのだ。」
「了解です。」
ジンキが続けて指示を出して、男が答える。男たちが社長室を後にした。
(ムダなイレギュラーは起こってしまうものだ。だが私にとっては、そんなものは簡単に吹いて飛ぶものでしかない。)
自分の支配の前では全ての障害が最後には取り除かれるものだと、ジンキは確信していた。
ユウキを追いかけたツバキだが、彼を見失って途方に暮れていた。彼女は力なく、ノゾムたちのところに戻ってきた。
「ノゾム・・みんな・・タイチくん・・・」
「ツバキ・・・ユウキは・・・!?」
声を上げるツバキに、ノゾムが問いかける。するとツバキが悲しい顔を浮かべて、首を横に振る。
「分かんない・・どこに行ったのか、見失って・・・」
「アイツ・・まさかセイラの敵討ちを・・・!?」
ツバキの答えを聞いて、ソウマが言いかける。彼の言葉を聞いて、ツバキが不安をふくらませる。
「いくらなんでも1人だけじゃさすがにムチャだ・・早く見つけないとな・・」
シゲルが言いかけて、ノゾムとタツヤが頷いた。しかしタツヤは疲れを感じてふらつきかける。
「ツバキちゃんとタイチくんは、タツヤさんと一緒に別荘に戻っててくれ。」
「は、はい・・」
シゲルが呼びかけて、タイチが答える。
「みんな、すまない。こんなときに・・こんな私が言うのも説得力ないけど、ムチャはしないようにな・・」
タツヤが助言を送って、ノゾムが小さく頷いた。ノゾム、ソウマ、シゲルはユウキを捜しに向かい、タツヤはツバキ、タイチに支えられて別荘に戻った。
ビースターの事件を撮影した動画の再生回数やコメントをチェックして、カツヒコは喜びに打ち震えていた。
「またまたうなぎ上りになってるぜ〜!これならこれに特ダネに群がってくるヤツも、すぐに出てくるなー!」
有名人になったと自信満々になっているカツヒコ。彼は自分や自分が得た情報の売り込みの準備をしようとしていた。
そのとき、カツヒコのいる部屋にインターホンが鳴り響いた。
(おっ!もしかしてもうネタに食いついてきたヤツが!?)
期待に胸を躍らせて、カツヒコがドアに向かっていく。
「はい、誰ですかー?」
カツヒコが声をかけて、ドアののぞき穴から外を見る。薄茶のコートと帽子を身に着けた男がいた。
「真野カツヒコですね。ちょっとお話したいことがあるのだけど・・」
「もしかして、オレに仕事の話ですかー!?」
男が投げかけた話を聞いて、カツヒコが喜びをふくらませる。
「ちょっと待っててください!すぐに準備しますんで!」
カツヒコは服装を整えて荷物を持って、玄関のドアを開けた。
「お待たせしましたー!それじゃ行きましょ!」
カツヒコが気さくに振る舞って、男と一緒に外へ出て、止まっていた彼の車の前に来た。
「おっと。話を詳しく聞かせてくれ。さすがに何も分からずに車に乗るってわけにはいかないっしょ。」
カツヒコは車の前で男を呼び止めた。
「せめて名刺か何か見せて素性を明かしてくれ。業界の人なら名刺ぐらい持ってるっしょ?」
名刺を見せるように言うカツヒコに対して、男がため息をついた。
「本当に面倒な相手だ・・言う通りにしていれば、面倒にならずに目的を果たせたのに・・・」
男が不満を呟いた直後、黒ずくめの男たちがカツヒコの前に現れた。
「な、何だよ、お前らは!?・・まさか、バケモノどもなのか!?」
カツヒコが驚きを見せると、男たちがビートルビースター、スタッグビースターになった。
「もう逃がしはしないぞ・・確実にお前を始末する!」
ビートルビースターが鋭く言って、カツヒコを捕まえようと手を伸ばした。
「じ、冗談じゃねぇ!」
カツヒコが慌てて走り出して、ビートルビースターたちから逃げ出した。
「コイツ!」
ビートルビースターたちがいら立ちを見せて、カツヒコを追いかける。そのとき、カツヒコの前にローズビースターとなったララが現れた。
(コイツを始末すれば、そのうちマックスたちも現れる・・・!)
ララが心の中で呟いてから、バラの花びらを放つ。
「うっ!」
カツヒコが左腕を花びらで切りつけられて、痛みを覚えて顔を歪める。
「だ・・誰かー!助けてくれー!人殺しだー!」
カツヒコがたまらず声を張り上げて、叫んで人を呼ぼうとした。
「ムダよ・・私の花粉でこの周辺の人たちは既に眠らせてあるわ・・」
ララが微笑んで、左手から花粉を発する。
「何だよ、そりゃ・・ふざけんなよ!そんなにオレの特ダネとバラ色の楽園をぶち壊したいのかよ!?」
「あなたにそんなものはない・・私たちの手から、あなたは逃れることはできない・・・!」
たまらず感情的になって叫ぶカツヒコに、ララが微笑みかける。
「おとなしく我々についてくるならよし。でなければすぐにここで死ぬことになる。」
スタッグビースターの1人が、カツヒコを狙って突っ込んできた。
「うわっ!」
カツヒコが必死によけて、ララたちから逃げ出していく。
「逃がさない・・絶対に逃がさないで!」
ララが呼びかけて、ビートルビースターたちとともにカツヒコを追いかけた。
ユウキとエックスビースのビースターを捜すノゾム、ソウマ、シゲル。ノゾムはユウキを見つけられず、たまらずため息をついた。
「どいつもこいつも、どこに行ったんだよ・・・!?」
「もうこれ以上、何も起こらなきゃいいけど・・・!」
ノゾムが呟いて、シゲルが一抹の不安を感じていく。
「おい、ノゾム、シゲル、あそこ・・!」
ソウマが声を上げて、彼が指さす方にノゾムたちも目を向ける。ララたちがカツヒコを狙って駆け込んできた。
「エックスビース・・今度こそこの手で・・・!」
ノゾムが怒りの声を上げて、ソウマとシゲルと頷く。
“マックス!”
“フォックス!”
ノゾムとソウマがビースドライバーにマックスカード、フォックスカードをセットした。
“オックス。”
シゲルがビースブレスにオックスカードをセットした。
「変身!」
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”
“スタートアップ・オックス。”
ノゾム、ソウマ、シゲルがマックス、フォックス、オックスに変身した。
「オレの怒りは限界突破!」
「オレの強さは疾風迅雷!」
「オレの力は天下無敵!」
3人がそれぞれ言い放って、ララたちに向かっていく。
「マックス・・こうなったら、ここでベルトを奪い返してやる!」
ララがいら立ちをふくらませて、ビートルビースターたちとともにノゾムたちに向かっていく。
ソウマが素早くジャンプして、ビートルビースターの突進をかわす。
「スピードもパワーも、オレのほうが上だぞ!」
“ライノス!”
ソウマが言い放って、手にしたライノスカードをフォックスカードと入れ替えた。
“チャージ・ライノース!サイパワー!サイスピード!ハイスピード・ライノース!”
彼がライノスフォルムとなって、ビートルビースターとぶつかり合う。
「ぬおっ!」
ソウマに押し返されて、ビートルビースターが地面を転がる。
「コイツ!」
他のビートルビースターがいら立って、ソウマに向かっていく。
“ライノスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
エネルギーを集中させたソウマが、ビートルビースターとぶつかり合う。
「ぐあぁっ!」
ビートルビースターが大きく突き飛ばされて、爆発を起こした。
「これがオレのスピードとパワーだ!」
ソウマが強気に言い放って、ビートルビースターたちが緊張をふくらませる。
「やるな、ソウマ。オレも負けてられないな・・!」
シゲルが笑みをこぼして、スタッグビースターの頭の角をつかんで持ち上げた。
「おりゃー!」
シゲルに投げ飛ばされて、スタッグビースターが地面に叩き落とされる。
「今度こそ逃がさずに倒してやるぞ!」
シゲルが言い放って、リードライバーの中心部を回転させる。
“オックス・ロードスマッシュ。”
エネルギーを集めた右手を握りしめて、シゲルがスタッグビースターの1人に飛びかかる。
「ぐおっ!」
スタッグビースターがシゲルのパンチを体に受けて、上空に跳ね上げられて爆発した。
「次に倒されたいヤツはどいつだ・・!?」
シゲルが他のスタッグビースターたちに目を向けて言い放った。
別荘のベッドに横たわったタツヤを介抱するツバキとタイチ。ワタルとワオンも来て、タツヤを心配していた。
「ありがとう、みんな・・私のためにここまでしてくれて・・・」
「タツヤさんも、僕たちの大切な仲間ですよ。」
感謝するタツヤに、タイチが微笑んで答える。
「セイラお姉ちゃん・・・ユウキお兄ちゃん・・・」
セイラの死とユウキの消息を気にして、ワタルが悲しみを隠せなくなる。
「大丈夫・・大丈夫だよ、ユウキさんは・・・」
ツバキに励まされて、ワタルが小さく頷いた。
(ユウキくん、無事でいてくれ・・ノゾムくんたちも・・・)
タツヤはユウキたちへの心配を胸に秘めて、体の回復に専念した。
“チャージ・クロコダーイル!クロコブレイク!クロコドライブ!スラッシュ・クロコファング!”
ソウマがクロコファングを手にして、ビートルビースターを切りつけていく。
“クロコダイルチャージ!アニマルスマーッシュ!”
彼が振り下ろしたクロコファングの一閃が、ビートルビースターの1人を真っ二つに切り裂いた。
「な、何てことだ・・!」
「オレたちが手も足も出ないなんで、あり得ない・・・!」
ビートルビースター、スタッグビースターたちがソウマとシゲルの力に気圧されて、後ずさりする。
「こうなったらマックスのベルトとカードだけは必ず奪い返すよ!このまま何もできないままやられたら、社長に殺されてしまう!」
ララがビートルビースターたちに向かって呼びかける。
「オレをどうにかしようとするなら、誰だろうと容赦しないぞ・・!」
ノゾムが怒りを口にして、エックスカードを取り出した。
“エックス!”
彼がビースドライバーからマックスカードを取り出して、エックスカードをセットした。
“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”
ノゾムがエックスフォルムになって、両腕にエックスブレスを装着した。彼はエックスブレスにそれぞれエクシードカードをセットした。
“エクシード!インフィニットマックス!”
“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”
エクシードフォルムへの変身を果たして、ノゾムがララに対して構えを取る。
「私たち全員でマックスのベルトとカードを取り戻す!」
ララが言い放って、ビートルビースターたちとともに飛びかかる。
「お前たちは全員、ここでブッ倒す!」
ノゾムが鋭く言うと、ビースドライバーの左上のボタンを3回押した。
“エクシードスマッシャー!”
ノゾムがエクシードスマッシャーを手にして、画面をスライドする。彼は画面にキツネのアイコンを出してそばのボタンを押す。
“フォックススマーッシュ!”
ノゾムが走り出して、一気にスピードを上げた。目にも留まらぬ速さの彼の打撃が、ビートルビースター、スタッグビースターたちを跳ね上げた。
「絶対に・・絶対にお前を・・マックス!」
ララが怒りの声を上げて、全身からバラの花吹雪を放つ。しかしノゾムは高速で花びらの隙間をかいくぐって、ララの眼前まで迫った。
ノゾムがエクシードスマッシャーを振りかざして、ララの体を切りつけていく。
「キャッ!」
ララが突き飛ばされて地面を転がる。ダメージが大きくなって、彼女は立ち上がってもふらついてしまう。
「エックスビースは許しはしない・・オレが必ず滅ぼす!」
ノゾムが言い放って、エクシードスマッシャーの画面をスライドして、ワニのアイコンを出してボタンを押す。
“クロコダイルススマーッシュ!”
エクシードスマッシャーの刀身から光があふれて、のこぎり状の刃の形になった。
ララがバラの花吹雪を放つが、ノゾムが振り下ろすエクシードスマッシャーが花吹雪を切り裂く。
「キャアッ!」
ララが体を切りつけられて絶叫を上げる。
「ま、まだ・・私は、マックスを倒すまでは倒れない・・シュンのためにも・・・!」
ララが声と力を振り絞って、ノゾムに向かって前進しようとする。
「他の誰かのために命懸けになるのは悪いことじゃない・・だけど、だからといって、他のヤツにイヤな思いをさせていいことにはならないんだよ!」
ノゾムが感情をあらわにして、エクシードスマッシャーの画面に「X」を表示して、そばのボタンを押した。
“エクシードチャージ!エクシードスマーッシュ!”
ノゾムが全身から光を放出して、大きくジャンプする。ララが花びらを集めて、ノゾムに向かって一気に放出した。
ノゾムが繰り出したキックが花びらを蹴散らして、ララに直撃した。
「ぐあぁっ!」
突き飛ばされたララが絶叫して、壁に叩きつけられた。
「うぐ・・シ・・シュン・・・私・・何もできな・・か・・・た・・・」
ララが目から涙を流して、バラの花びらのように散って消滅した。
「お前たちが出しゃばらなければ・・ゴロウさんとセイラを殺さなければ・・お前たちも無事で済んだんだよ・・・!」
ノゾムがやるせなさを噛みしめて、両手を握りしめていた。
「ノゾム・・・」
シゲルがノゾムを見て深刻さを感じていた。
「さっさと終わらせるぞ、ビースターとの戦いを・・」
ソウマがノゾムに歩み寄って呼びかけてきた。
「オレはオレの敵と戦うだけだ・・人間もビースターも、相手がどんな事情を抱えていようと・・・!」
「ノゾム・・・!」
「オレたちを傷付けるヤツ・・オレたちの居場所を壊そうとするヤツ・・それがオレたちの敵だ・・・!」
自分の意思を貫こうとするノゾムに、ソウマが心を揺さぶられる。今の自分の敵はエックスビースそのもの。ノゾムはそう考えていた。
ララたちから必死に逃げてきたカツヒコ。彼は周りを警戒しながら、呼吸を整えていた。
「誰にもオレの特ダネは邪魔させねぇ・・もうすぐオレのパラダイスな未来が待ってるんだからな・・!」
ビースターたちへの不満と自分の明るい未来への期待をふくらませて、カツヒコはビースターから逃げ切ろうと考えていた。
そのとき、カツヒコは近づいてくる足音を耳にした。足を止めた彼が振り返った先に、ドラゴンビースターになったユウキがいた。
「またビースター!?・・早く逃げないと・・!」
カツヒコが慌てて逃げ出そうとするが、ユウキにすぐに回り込まれた。
「わわっ!」
カツヒコが慌ててきびすを返して逃げようとする。ユウキが右手を握って、力を込めたパンチを繰り出す。
「うあっ!」
パンチが左腕に当たって、カツヒコが転倒する。パンチは左腕をかすめただけだったが、それでも腕を痛めるだけのダメージを与えていた。
「ぐあぁっ!いてぇー!いてぇよー!」
カツヒコが左腕を押さえて絶叫を上げる。激痛に襲われる彼に、ユウキが近づいていく。
「何だよ!?何なんだよ!?オレが何をしたっていうんだよ!?」
カツヒコがユウキを睨みつけて、怒鳴り声を上げる。するとユウキがカツヒコに鋭い視線を向ける。
「お前のせいで・・お前がビースターのことをみんなに知らせたから・・・セイラが・・オレの仲間が・・・!」
「仲間!?オレは別に悪いことはしてねぇぞ!面白い特ダネを見つけて、それをみんなに見せて盛り上がっただけだ!」
怒りの声を発するユウキに、カツヒコが言い返す。
「オレの特ダネでみんな盛り上がってる!みんながオレの動画を見て、特ダネを楽しんでる!それのどこが悪いっていうんだよ!?」
目を見開いて怒鳴るカツヒコ。するとユウキが怒りをふくらませて、左手でカツヒコの首をつかんで持ち上げた。
「うぐっ!」
首を絞めつけられて、カツヒコがうめく。
「そのために、オレたちは傷ついたんだぞ・・セイラが死んだんだぞ!」
ユウキが怒鳴って、カツヒコを突き飛ばす。倒れたカツヒコが息苦しさでせき込む。
ユウキが剣を具現化して、カツヒコに近づいていく。
「バケモノが・・オレは死ぬわけにはいかねぇ・・オレにはこれから、楽しい時間が・・!」
カツヒコが必死にユウキから逃げようとする。追いついたユウキが、カツヒコに向かって剣を振り下ろした。
ユウキの一閃がカツヒコの体を切り裂いた。
「イヤだ・・・オレは・・死にたく・・な・・・い・・・」
必死に抵抗しようとするカツヒコが、力尽きて動かなくなった。ユウキが彼を見下ろして、憎しみと悲しみが入り混じった激情をふくらませていた。
(セイラ・・仇は取った・・・)
セイラへの思いを頭に浮かべるだけで、ユウキは精一杯になっていた。
(いや・・まだ終わりじゃない・・・この身勝手を楽しんでいた人間そのものも悪い・・・)
ユウキの中にある疑心暗鬼がさらに強まっていた。
(人間だけじゃない・・ビースターかどうかも関係ない・・身勝手な人はオレの敵・・野放しにせずに、滅ぼさないといけない・・・!)
新たな決意を固めたユウキが1人歩いていく。彼の姿がビースターから人の姿に戻った。
ユウキの疑心暗鬼は確立していた。敵を確実に叩くことが、彼の新しい決意になっていた。