仮面ライダーマックス
第44話「シアワセの猫!」
問答無用にビースターを排除し、タイチや自分たちにまで攻撃を仕掛けてきた自衛隊に、ノゾムの怒りが爆発した。彼はエクシードフォルムとなって、隊員たちに飛びかかる。
ノゾムの重みのあるパンチを受けて、隊員たちが倒れて動かなくなる。
「おいおい・・これじゃ止めるどころか、息の根止めちまうかもしれないぞ・・・」
ノゾムの攻撃にシゲルは気まずくなる。しかし止めようとしても聞かないことを悟っていたので、彼はタイチたちに振り向いた。
「今のうちにここから離れたほうがいい。今のノゾムはオレたちでも止められないからな・・」
「シゲルさん・・・はい・・!」
シゲルの呼びかけに答えて、タイチがフロッグビースターと一緒にセイラを連れて歩き出す。
「セイラさん、しっかりして・・すぐに動物公園に戻るから・・!」
「タイチさん・・・ごめんなさい・・私がおとなしくしていたら・・・」
必死に呼びかけるタイチに、人の姿に戻ったセイラが謝る。
「あなたもついてきてください・・知り合いのところに行って事情を話せば、きっと分かってくれます・・・!」
「すいません・・僕のためにここまで・・・」
タイチが言いかけて、フロッグビースターが戸惑いを覚える。彼が高校生の男子の姿になっていく。
「僕はカケル・・怪物の体になっても、人間として普通に暮らしていけたのに・・いきなり警察がやってきて・・・」
男子、カケルがタイチたちに自分のことを話す。
「そうだったのか・・誰が、ビースターのことをネットに・・!?」
事情を聞いたタイチが、この騒動を起こした発端に対して不満を感じていた。
「おしゃべりはここまでだ!早く逃げろって!」
「は、はいっ!」
シゲルが呼びかけて、タイチが慌ててセイラ、カケルを連れてこの場を離れた。
ノゾムの攻撃を受けて、自衛隊が全員意識を失った。
「どいつもこいつも、自分が正しいと思い上がって、オレたちを悪者だと決めつけて・・・!」
今の警察や自衛隊の言動に、ノゾムは怒りをふくらませていた。
「オレたちもさっさと行くぞ・・タイチたちに追いつく・・!」
「あぁ・・!」
シゲルが呼びかけて、ノゾムが頷く。2人もタイチたちを追って走り出した。
街の騒動とセイラの声を聞きつけて、ユウキとタツヤは深刻さを感じていた。
「セイラさん、どこにいるんだ・・・!?」
「落ち着くんだ、ユウキくん・・セイラさんの声を聞き分けるんだ・・・!」
焦りを感じていくユウキに、タツヤが呼びかける。2人が感覚を、聴覚を研ぎ澄ませて、セイラの行方を追う。
「こっちに向かっているみたいだが、疲れているみたいだ・・・!」
「まさか、ビースターを追っている警察に見つかって・・・!?」
タツヤが呟いて、ユウキが緊張をふくらませる。そのとき、2人の前にタイチたちが歩いてきた。
「ユウキくん、タツヤさん!」
「タイチくん・・セイラ!?」
タイチが声を上げて、ユウキがセイラを見て息をのむ。
「ごめんなさい、ユウキくん・・・僕を庇って、セイラさんが・・・!」
「タイチさん、気にしないで・・私がタイチさんを守りたいと思っただけだから・・・」
ユウキに謝るタイチに、セイラが微笑みかける。
「タイチたちを狙ったヤツらはオレがブッ倒した・・どいつもこいつも、自分たちの考えを押し付けて・・・!」
ノゾムが事情を話して、いら立ちを噛みしめる。
「どうして・・オレたちのことを受け入れようとすらしないんだ・・・!?」
人間の引き起こす事態に、ユウキはやるせない気持ちに駆られていた。
「タイチくん、この少年は・・?」
「警察に追われていたんだ・・普通に暮らしていたのに、ビースターだからって・・・」
タツヤが問いかけて、タイチがカケルを紹介する。
「この前までずっとビースターのことは世間に知られてなかったはずだ・・それなのに、どうして急に・・・!?」
「そのビースターの映像や動画を流した張本人がいるはずだ。どういうつもりかは知らないが、ややこしいことをしてくれたもんだ・・」
タイチが不安を浮かべて、シゲルが肩を落としてため息をつく。
「そいつもだけど、それを鵜呑みにして、ビースター全部が悪いと決めつける人たちも・・・!」
ユウキが人々に対する不満を口にする。彼は身勝手な人々への疑心暗鬼をふくらませていた。
「とにかく、動物公園に行こう。ツバキちゃんたちにも話しておいたほうが・・」
シゲルが呼びかけて、タイチたちが頷いた。彼らはセイラを連れて戻ることにした。
人々のビースターに対する恐怖と不満、混乱はジンキたちにも伝わっていた。
「あまりに騒ぎが大きくなりすぎているな・・そろそろ鎮圧しなければな・・」
事態を重く見たジンキが、ついに腰を上げた。
「政府に情報を流して部隊をおびき寄せろ。自分たちの選択が愚かだということを、ヤツらに思い知らせる。」
彼が部下である黒ずくめの男たちに指示を出す。
「もちろんエックスビース、エックスコーポレーションであることを知られないようにして、ですね。」
「そうだ。すぐに行動を起こせ。失敗は絶対に許されんぞ。」
男の言葉に答えて、ジンキが念を押す。男たちは彼の作戦遂行のために動き出した。
「ララ、お前もいつでも戦えるようにしておけ。人間たちだけでなく、マックスたちと戦う可能性もあるからな。」
ジンキはララにも指示を出す。
「はい・・相手が誰だろうと、私はもう負けない・・・!」
ララは頷いてから、社長室を後にした。
(私は支配者だ。私の思い通りにならないものなど、私の支配には不要だ。)
ジンキは心の中で呟いて、自分の目論みが必ず達成されると確信していた。
ノゾムに気を失わされた警察と自衛隊だが、意識を取り戻してセイラたちの行方を追っていた。
「バケモノども、どこに隠れたんだ・・!?」
「人間に化けたとしても、その顔も割れている・・見つければすぐに確保に向かえるのに・・・!」
自衛隊の隊員たちがセイラたちを見つけられずに、焦りを噛みしめていく。
「諦めるな!怪物を野放しにすれば、市民の不安は解消されないのだ!我々が怪物を全滅させ、安心をもたらすのだ!」
隊長が檄を飛ばして、隊員たちが気を引き締めなおす。
「隊長、情報が入りました!」
隊員の1人が隊長に報告をしてきた。
「エリア45の工場跡地に向かっていくのを目撃したと・・!」
「よし!怪物の排除に向かうぞ!全員出動!」
隊員の言葉を受けて、隊長が指示を出す。自衛隊は工場跡地へと急行した。
動物公園に戻ってきたノゾムたちを、ツバキ、ソウマ、ワタル、ワオンが迎えた。ツバキとワタルはノゾムたちを心配していた。
「セイラさん、大丈夫!?早く寝かせて手当てしないと!」
「ツバキさん・・ごめんなさい・・・」
支えてきたツバキに、セイラが微笑んで謝意を示した。2人は別荘の中に入っていった。
「セイラお姉ちゃん・・・」
セイラを心配して、ワタルは動揺を隠せないでいた。するとタイチが彼の肩に優しく手を乗せてきた。
「僕も心配だよ・・でもセイラさんの手当ては、ツバキちゃんに任せよう。」
「タイチお兄ちゃん・・・うん・・・!」
タイチに励まされて、ワタルが小さく頷いた。
「オレはさっきのところに戻る・・アイツらがまた、何か仕掛けているかもしれない・・・!」
ノゾムが自衛隊を迎え撃とうと考える。
「ちょっと待て、ノゾム!人間を倒そうというのか!?」
ソウマが慌ててノゾムを呼び止める。
「オレはオレの敵を倒す・・それは、昔も今も同じだ・・!」
ノゾムは鋭く言うと、1人走り出した。
「ノゾム!おい、待てって!」
ソウマも声を上げて、ノゾムを追いかけていった。
「ノゾムもソウマも仕方がないな・・オレも行かなくちゃな・・・!」
シゲルもため息をついてから、ノゾムたちに続いた。
工場跡地の広場にたどり着いた自衛隊。彼らはビースターの居場所を血眼になって捜す。
「この近くに潜んでいるはずなのに・・・!」
「その手がかりが・・足跡も見つからない・・!」
隊員たちがビースターがいないことに声を荒げる。
「慌てるな!・・ヤツらはこの近くにいる・・必ず見つけ出して倒すぞ・・!」
隊長が檄を飛ばして、目を凝らしてビースターの行方を追う。
そのとき、自衛隊のいる広場にバラの花びらが舞い降りてきた。
「何だ、この花びら・・?」
隊員たちが花びらに疑問を覚えて、警戒を強める。すると花びらが強い風に流れるように大きく動き出した。
「これは・・まさか、バケモノの力!?」
隊長が目を見開いて、隊員たちとともに花吹雪から離れる。
「ぐあっ!」
離れるのが遅れた隊員たちが、花吹雪の力を受けて激痛に襲われた。
「おいっ!」
「どこだ・・どこだ、バケモノ!?出てこい!」
他の隊員たちが声を張り上げて、周りを見回す。花吹雪にやられた隊員たちは、倒れて動かなくなった。
「お前たちはちょっと勝手が過ぎたってことだよ・・・!」
隊長たちが声をかけられて振り返る。彼らの前にローズビースターとなったララとビートルビースター、スタッグビースターたちが現れた。
「怪物ども、やはりここに集まっていたのか!」
隊長がララたちを目の当たりにして、隊員たちとともに身構える。
「おとなしくしてれば、死ななくて済んだのに・・・」
ララが不満を込めて言いかけて、自衛隊に鋭い視線を向ける。
「撃て!怪物たちを一掃するぞ!」
「はっ!」
隊員たちがララたちに向かって発砲する。しかしバラの花吹雪に弾丸が阻まれる。
「本当に物分かりが悪いんだね・・どうしようもない力の差っていうのがあることに・・・!」
ララが不満をふくらませて、さらにバラの花びらを放つ。
「おわっ!」
隊員たちが花びらに切りつけられて、激痛に襲われて倒れていく。
「お、おのれ・・バケモノどもが・・!」
隊長がいら立ちを見せて、ララを狙って発砲する。しかしこの射撃も花吹雪にはじかれる。
「往生際の悪いことだ・・ただの人間は本当に愚かなことだ・・」
「コイツらのせいで、オレたちの仕事に支障が出たのではたまんないな・・」
ビートルビースターたちが自衛隊に対して愚痴をこぼす。
「地獄で後悔しろ・・自分たちの身の程知らずを・・!」
スタッグビースターの1人が言いかけて、隊長に向かっていく。
「バケモノどもが!」
隊長が怒号とともに銃の弾丸を放つ。しかしこれもスタッグビースターが振りかざした腕にはじかれた。
「ムダな悪あがきはそこまでだ・・!」
スタッグビースターが突撃して、角で隊長を突き飛ばした。
「ぐふっ!」
隊長も倒れて動かなくなった。
「これで始末は完了したな。」
「証拠を全て消して、情報操作を・・」
ビートルビースターたちが自衛隊を排除して、証拠隠滅を企む。
「それと、そこに隠れている人もね・・・!」
ララが言いかけて視線を移して、バラの花びらを飛ばす。
「おわっ!」
その先の草むらから、カツヒコが花びらにあおられて飛び出してきた。次のビースターの映像を入手しようと潜んでいた彼だが、ララに気付かれていた。
「ヤバい!早く逃げろ!」
「逃がさんぞ、小僧が!」
カツヒコが慌てて逃げ出して、ビートルビースターたちが追いかけた。
「もしかしてアイツがビースターのことを・・だったらなおさら始末しなくちゃ・・・!」
カツヒコがビースターの騒動の張本人だと思って、ララが目つきを鋭くした。
そこへノゾムがソウマ、シゲルとともに駆けつけて、ララの前で足を止めた。
「エックスビース・・お前たち、また人間を・・・!」
ソウマが倒れている自衛隊を見下ろして、ララに怒りを覚える。
「コイツらも許せないが・・許せないのはお前たちも同じなんだよ!」
ノゾムが自衛隊を見てから、ララに鋭い視線を向ける。
“マックス!”
彼がマックスカードを手にして、ビースドライバーにセットした。
「マックス、フォックス、オックス・・アンタたちも、許しはしない・・・!」
ララもノゾムを鋭く睨みつける。
「オレたちがいることも忘れないでもらいたいな。」
「今日こそお前を倒してやる!」
シゲルがララに言いかけて、ソウマが怒りを言い放つ。
“フォックス!”
ソウマがフォックスカードを手にして、ビースドライバーにセットした。
“オックス。”
シゲルもビースブレスにオックスカードをセットして、リードライバーにかざした。
「変身!」
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”
“スタートアップ・オックス。”
ノゾム、ソウマ、シゲルがマックス、フォックス、オックスに変身した。
「オレの怒りは限界突破!」
「オレの強さは疾風迅雷!」
「オレの力は天下無敵!」
ノゾム、ソウマ、シゲルがララに向かって言い放つ。
「今度こそ・・今度こそアンタたちを!」
ララが敵意をむき出しにして、ノゾムたちに向かっていく。ララが繰り出す回し蹴りを、ノゾムが両腕で防ぐ。
「これ以上、好き勝手させてたまるか!」
ノゾムがララの足を払いのけて、力を込めてパンチを放った。
「うあっ!」
両腕を交差させて防ごうとするララだが、止め切れずに突き飛ばされる。ソウマとシゲルも直後に飛び出して、ララに向かって足を突き出す。
「うっ!」
ララが突き飛ばされて地面を転がる。
「許さない・・絶対に許さない!」
ララが叫んで、バラの花吹雪を放つ。ノゾムたちが左右に転がって、花吹雪をかわす。
「マックスはシュンの仇・・絶対に倒して、ベルトとカードを奪い返す!」
「敵討ち・・ブースターのくせに、真っ当なことを言うな!」
怒りを口にするララに、ソウマも怒りをあらわにする。彼がビースドライバーの左上のボタンを2回押す。
“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ソウマがスピードを上げて、ララに向かってジャンプキックを繰り出した。ララがとっさに回避しようとするが、ソウマのキックが右肩をかすめた。
「うあっ!」
ララが横に吹き飛ばされて、草むらに姿を消した。
「逃がすか!」
ソウマがララを追いかけて走り出す。ノゾムが倒れている自衛隊を見下ろして、やるせない気分を感じていた。
「ノゾム、今はこっちはほっとけ・・今はあのビースターを追うぞ・・!」
「・・あぁ・・・!」
シゲルが呼びかけて、ノゾムが頷いた。2人はソウマに続いて走り出した。
ビートルビースター、スタッグビースターたちに追われて、カツヒコが必死に逃げる。彼は人混みの多い街のほうへ向かっていた。
(人の多いとこに逃げちまえば、バケモノどもは追えなくなる!追ってきても他のヤツを身代わりにできるし・・!)
自分が生き延びることを優先するカツヒコ。彼は人通りを目にして笑みをこぼした。
「おわっ!」
そのとき、カツヒコが足をつまずいて転んでしまう。起き上がる彼にビートルビースターたちが追いついてきた。
「もう逃がさんぞ、小僧・・!」
「貴様には死以上の地獄を味わってもらうぞ・・!」
ビートルビースターたちがカツヒコを見下ろして言いかける。
「冗談じゃない!オレにはこれからパラダイスな未来が待ってるんだ!それをお前らなんかに潰されてたまるか!」
カツヒコが文句を言って、後ずさりしてビートルビースターたちから遠ざかろうとする。しかしビートルビースターたちにすぐに囲まれる。
「貴様は終わりだ・・踏み込んではいけないところまで来たのだから・・・!」
スタッグビースターが言いかけて、カツヒコに向かって手を伸ばす。
「やめろ!」
そこへ声がかかって、スタッグビースターが手を止めた。スネイクビースターとなったタツヤが、ドラゴンビースターとなったユウキとともに駆けつけた。
「裏切り者のビースター!こんなときに!」
「こうなればまとめて始末すればいいだけのことだ!」
ビートルビースターたちがいきり立って、タツヤたちにも迫る。タツヤとユウキが彼らを迎え撃って引き離す。
「バケモノども・・バケモノどもの仲間割れ・・コイツはものすげぇ特ダネだ!」
カツヒコが笑みを浮かべて、スマートフォンを掲げて動画撮影を行う。彼はビートルビースターたちとタツヤたちの戦いも、ネットで流そうとしていた。
そのカツヒコの様子を目の当たりにして、ユウキが動揺を覚える。彼はビートルビースターたちと戦うことに、ためらいを感じていた。
「ユウキくん、どうしたんだ!?」
タツヤがユウキの異変に気付いて呼びかける。しかしユウキは彼の声に反応する様子も見せない。
「ユウキくん!・・ぐっ!」
動揺を覚えるタツヤが、ビートルビースターの突進で突き飛ばされる。踏みとどまったタツヤだが、背後からスタッグビースターに頭のハサミで挟まれて持ち上げられる。
「ぐあぁっ!」
タツヤが体を締め付けられて、激痛に襲われて絶叫を上げた。
タツヤが上げた絶叫が、セイラの耳に入ってきた。
(タツヤさん・・ユウキとタツヤさんが・・・!)
緊張を覚えたセイラがベッドから飛び起きる。
「セイラさん・・!?」
「ユウキたちが危ないんです・・行かなくちゃ・・・!」
振り返って動揺を見せるツバキに、セイラが振り絞るように言いかける。
「セイラさん、ダメ!出てったら警察に見つかっちゃうよ!」
外へ飛び出そうとしたセイラを、ツバキがとっさに止めに入る。
「セイラさん、ツバキちゃん!?」
2人の慌ただしい声を聞いて、タイチが別荘の中に入ってきた。するとセイラが走り出して、タイチを突き飛ばして外へ飛び出した。
「タイチくん、セイラさんを止めて!ユウキさんたちを助けに行ったの!」
「何だって!?」
ツバキが説明をして、タイチが驚きの声を上げる。
「セイラさん、待って!」
「タイチくん、私も行く!」
タイチがセイラを追いかけて、ツバキも続けて外へ飛び出した。
ビートルビースターたちに追い込まれるタツヤと、戦うことに迷いを抱くユウキ。彼らのいる通りにセイラが駆けつけた。
「ユウキ!タツヤさん!」
「セイラ、どうしてここに・・!?」
呼びかけるセイラにユウキが驚きを隠せなくなる。
「アイツは確か・・バケモンになる女・・!」
カツヒコがセイラを撮影しようと、スマートフォンを構えた。
「おい、やめろ!」
ユウキが激高して、カツヒコに向かって飛びかかる。
「おわっ!」
カツヒコが襲われると思ってとっさに後ろに動いて、ユウキから離れようとする。
「お前のようなヤツがいるから、オレたちみたいな人が一方的に悪者にされるんだ・・!」
「バ、バケモンがいいヤツぶるなよ!そんな姿してていいヤツであってたまるかよ!」
怒りの声を上げるユウキに、カツヒコが言い返す。
「オレの特ダネで世の中が盛り上がってんだ!それを邪魔されてたまるかよ!」
カツヒコは捨て台詞を吐くと、ユウキたちから逃げ出していった。
「どうして・・どうしてそこまでオレたちを・・・!」
カツヒコの言動に不満を感じて、ユウキは疑心暗鬼をふくらませていた。
そのとき、タツヤがビーストビースターたちの攻撃を受けて、突き飛ばされて倒れた。タツヤはダメージを大きくして、立ち上がるだけで精一杯になっていた。
「まずは裏切り者を1人始末してやるぞ・・!」
「オレがとどめを刺してやる・・覚悟するんだな!」
ビートルビースターたちが言い放って、その1人がタツヤに向かって突っ込んだ。
「タツヤさん!」
セイラがキャットビースターになって飛び出して、ビートルビースターの突進を受け止めた。
「うっ!」
ビートルビースターの角が体に突き刺さって、セイラがうめく。
「セイラ!?・・セイラ!」
「セイラさん!」
倒れるセイラに、ユウキとタツヤが叫ぶ。ユウキががビートルビースターを突き飛ばして、セイラを支える。
「セイラ、しっかりして!セイラ!」
ユウキが呼びかけて、セイラが弱々しく微笑みかける。
「早くセイラさんを、安全なところへ・・!」
「タツヤさん・・・はい!」
タツヤが声を振り絞って、ユウキは動揺を抑えて答えた。ユウキはセイラを抱えて通りから離れた。
「逃がすか!」
「行かせない!」
2人を追いかけようとしたビートルビースターたちに対して、タツヤが爪を振りかざす。真空の刃が放たれて、ビートルビースターたちが行く手を阻まれた。
舞い上がる砂煙を払うスタッグビースターだが、タツヤの姿も見えなくなった。
「アイツも逃げたか・・追うんだ!ヤツらにとどめを刺すんだ!」
ビートルビースターたちがタツヤたちを追って走り出した。
セイラを追って走り回るタイチとツバキ。不安をふくらませていく2人の前に、セイラを抱えたユウキが現れた。
「ユウキくん・・セイラさん!?」
タイチがセイラを見て声を上げる。
「タツヤさんをかばって、セイラが・・・!」
声を張り上げるように言いかけるユウキの姿が、人に戻る。セイラも人の姿に戻っていく。
「セイラさん・・どうしてこんなことに・・・!?」
「タイチさん・・気にしないで・・私が、行かなくちゃって思っただけだから・・・」
動揺をふくらませるタイチに、セイラが微笑みかける。
「私もじっとしていられなかった・・ユウキやノゾムさんが命懸けで戦っているのに、私だけ何もしないでいるなんて、耐えられなかった・・でも、結局みんなに迷惑をかけてしまった・・・ごめんなさい・・・」
「謝らなくていい・・今はしゃべらなくていいから・・諦めないで、セイラさん・・!」
自分の思いを口にするセイラに、タイチが必死に呼びかける。
「すぐに病院に行こう!まずはケガを治さないと・・!」
ツバキが呼びかけて、ユウキが真剣な顔で頷いた。
「みなさんに、本当に親切にしてもらって、私・・幸せです・・・ユウキ、ツバキさん、タツヤさん・・タイチさん・・・」
笑顔を見せるセイラが、タイチに向かって手を伸ばす。
「誰よりも優しいあなたが・・私は・・好きです・・・タイチ・・タイチさん・・・」
想いを口にするセイラ。タイチがたまらず彼女の伸ばす手をつかんだ。
「ありがとう・・タイチ・・・私は・・幸せです・・・」
心からの笑顔を見せていたセイラから力が抜けた。目を見開くタイチの手から、セイラの手がすり抜けた。
「セイラさん!?・・セイラさん!」
「セイラ!」
タイチとユウキがセイラに向かって叫ぶ。セイラは笑顔を見せたまま、目を閉じて動かなくなった。
「そんな・・セイラさんが、そんな・・・!」
悲しみと絶望に体を震わせるタイチ。彼の腕に抱かれていたセイラの体が光り出して、霧のように消えていった。
「セイラさん!」
タイチの悲痛の叫びが空にこだました。彼やユウキたちに優しくされたことを幸せに感じていたセイラは、その命を閉ざした。