仮面ライダーマックス

第39話「ビーストライダーの結束!」

 

 

 再びビーストビースターとなってしまったノゾム。彼の正体を知らないまま、駆けつけたソウマがフォックスになって飛び出した。

「ソウマくん!?

 ソウマの登場にツバキが驚く。ソウマが飛び込んで、キリオだけでなくノゾムにも攻撃を仕掛けてきた。

「ビースター、ツバキたちに手出しはさせないぞ!」

 ビースターへの怒りをたぎらせて、ソウマがノゾムに攻撃を仕掛ける。ノゾムもビースターの本能に囚われて、自分を見失っていた。

「ソウマくん、やめて!ノゾムも!」

 ツバキが呼び止めるが、ノゾムもソウマも攻撃の手を止めない。

「ソウマくん、いい加減にして!」

 ツバキが飛び出して、ソウマの前に立ちはだかった。

「ツバキ、どうしたんだ!?そこをどいてくれ!」

「ソウマくん、このビースターはノゾムなの!」

 声を上げるソウマに、ツバキが必死に呼びかける。彼女はビーストビースターがノゾムであることを告げた。

「何を言っているんだ、ツバキ!?ノゾムがビースターなわけがないじゃないか!」

「ホントだよ!・・新しく使ったエクシードのカードを使ったことで、ノゾムの体はビースターになってしまったの・・!」

 耳を疑うソウマに、ツバキが悲しい顔を浮かべて説明をする。

「なるほどッス!これを使えば、ビースターであるアニキはもっともーっとすごくなるってわけッスねー!」

 リョウヘイがビースドライバーを見てにやける。

「リョウヘイ、ベルトをオレによこせ。コイツを使えば、オレの無敵は揺るがなくなる・・!」

 キリオがリョウヘイに向かって手を伸ばす。

「その前に、オレも1回使ってみたいッス!」

 リョウヘイが笑みをこぼして、ビースドライバーを装着して、左上のボタンを押した。するとビースドライバーから電気ショックが起こって、リョウヘイがダメージを受ける。

「あわわわ!・・何で使えないんスか〜・・!?

 ビースドライバーを外したリョウヘイが、フラフラしながら悲鳴を上げる。

「ベルトを使うのは簡単なことじゃねぇ。ましてマキシマムやエックス、エクシードを使うんじゃなおさらだ。」

「それを早く言ってほしかったッス・・・!」

 ため息まじりに言いかけるキリオに、倒れたリョウヘイが声を振り絞る。キリオがリョウヘイに近づいて、ビースドライバーを手にしようとする。

「させない!」

 ユウキがキリオたちに向かって飛び出して、リョウヘイの持っていたビースドライバーを蹴り上げた。

「くそっ!」

 キリオがいら立って、ビースドライバーをつかもうとジャンプする。ソウマも素早くジャンプして、先にビースドライバーを手にした。

「ノゾム、目を覚ましてくれ!自分を見失うことは、お前の考えじゃないはずだ!」

 ユウキが呼びかけて、ノゾムにビースドライバーを見せた。そのとき、振り向いたノゾムが頭を抱えて苦しみ出した。

「ノゾム、目を覚まして!自分を取り戻して!」

 ツバキもノゾムに向かって必死に呼びかける。するとノゾムの姿がビースターから元に戻った。

「ウソだろ!?・・・ホントに、ノゾムがビースター・・!?

 ノゾムがビースターになっていたことを直に目撃して、ソウマは驚きを隠せなくなる。

「くそっ!もう少しで奪い取れたのに!」

 キリオはいら立ちを噛みしめて、リョウヘイとともにこの場から逃げ出した。

「逃げられたか・・今はあの2人よりも・・・!」

 タツヤがノゾムに振り向いて、深刻さを浮かべる。ノゾムが心身ともに疲れて、ふらついて倒れかかる。

「ノゾム!」

 ツバキがとっさにノゾムを支えた。また自分を見失ったことに、ノゾムは不快感をふくらませていた。

 

 ビースドライバーを奪い取れなかったことに、キリオがいら立ちをふくらませていた。

「これで済むと思うな・・オレが必ずベルトを手に入れるんだ・・!」

「アニキ、落ち着いたほうがいいッス・・アニキならやれるッスよ!」

 キリオが野心をむき出しにして、リョウヘイが気さくに呼びかける。

「おめぇに言われるまでもねぇ・・必ずベルトを手にしてやるぜ!」

 キリオが強気に言って、次にビースドライバーを奪い取る機会を狙った。

(あんまりのんびりしてると、ジンキたちにかぎつけられる・・もうばれてるかもしれねぇ・・ヤツらがオレに手を出して来る前に、必ずベルトを手にしてやる・・・!)

 ジンキたちの介入を警戒しながらも、キリオは彼らを出し抜こうと企んでいた。

 

 ツバキたちと一緒に別荘に戻ってきたノゾム。ソウマは入院していた間の出来事を、ツバキ、タイチ、ワタルから聞いていた。

「ゴロウさんがエックスビースにビースターにされたなんて・・・!?

 ゴロウが死んだことも聞いて、ソウマが動揺と怒りを浮かべる。

「みんなが大変な思いをしてたのに、オレだけのん気に休んでたなんて・・!」

「ソウマくんは何も悪くないよ・・動けたのに何もできなかった私が悪いの・・・」

 互いに自分を責めるソウマとツバキ。

「オレはノゾムのことを知らずに倒そうとして・・・!」

 ビースターへの怒りのままにノゾムを倒そうとしたことを、ソウマは強く責める。

「過ぎたことをいつまでも悔やんでも仕方ないさ。最悪の事態を招いたわけじゃないし。」

 シゲルがソウマの背中に軽く手を当てて、励ましの言葉を送る。

「シゲル・・ツバキ、みんな・・ノゾム、すまない・・」

「別に気にしなくていい・・・オレが気にしているのは、オレの中にある力だ・・・」

 謝るソウマに答えて、ノゾムが自分自身の暴走にいら立ちを感じていく。

「タツヤさん、ノゾムさんがビースターの力を制御するには、どうしたらいいんですか・・・?」

 セイラが深刻さを浮かべて、タツヤに問いかける。

「それは分からない・・これは、ノゾムくん自身の問題だ・・ビースターの本能にのみ込まれるか、乗り越えられるかは、ノゾムくんの心次第・・」

「オレの心・・今のオレの心は、自分のビースターの力を抑えられるほど強くないということか・・・」

 タツヤの言葉を聞いて、ノゾムが物悲しい笑みを浮かべる。

「そんなことないよ!ノゾムは強い意思を持っているじゃない!」

 ツバキが必死にノゾムに向かって呼びかける。

「ノゾムは今まで、自分の思いを貫いてきた・・相手がどんな相手でも、どんな状況でも、ノゾムは理不尽を受け入れることなく跳ね返してきた・・!」

「ムチャクチャなことは絶対に認めない!逆らい続けていく!それがノゾムお兄ちゃんじゃないか!」

 ツバキに続いてワタルも呼びかける。信頼を寄せてくるツバキたちに、ノゾムは戸惑いを感じていた。

「ノゾム、もしまた暴走することがあったら、これからはオレも止めに入ってやるさ!」

「もう不様にやられたりしない。任せてくれ、ノゾム!」

 ソウマとシゲルもノゾムのサポートをすることを告げる。今の自分が多くの仲間に支えられている。

「みんな・・こんなオレに、ここまで関わろうとするなんて・・・」

 ノゾムが笑みをこぼして、肩を落とす背ぶりを見せる。

「これはオレ自身のことだ。オレが何とかするつもりだけど・・また自分を見失うことになったら、頼りにさせてもらう・・・」

「ノゾム・・相変わらずの態度だけど、ノゾムらしさが出ているから、落ち着いているね・・」

 ノゾムの言葉を聞いて、タイチが笑みをこぼした。ノゾムが落ち着きを取り戻したと思って、ツバキも安心を感じていた。

 

 この日の夜、ノゾムは自分の住む別荘の前にいた。彼は夜風に当たりながら、自分の気持ちを整理していた。

(もしまた暴走するようなことになったら、オレが無理やり黙らせる・・たとえオレのこの体を、自分の手でバラバラにすることになっても・・!)

 自分の中にあるビースターの力に対して、ノゾムは強い怒りを傾けた。暴走を引き起こす自分の力にも、ノゾムは怒りを傾けていた。

「ノゾム・・・」

 そこへツバキがやってきて、ノゾムが振り向いた。

「ツバキ・・・」

「ノゾム・・できることなら戦ってほしくないけど、ノゾムは戦うんだよね・・・」

 戸惑いを見せるノゾムに、ツバキが深刻な顔を見せる。

「このままこんなムチャクチャを認めるつもりはない・・どこまでも逆らって、敵に間違いを思い知らせてやる・・・!」

「・・ノゾムはいつもそう・・許せない相手にどこまでも逆らい続ける・・たとえその相手が誰でも、ムチャクチャを受け入れることは絶対にない・・・」

「たとえマックスにならなくても、その気持ちは変わんない・・ただ、この戦いの中で分かったこともある・・」

「ユウキさんやセイラさんのように、人間以上に強い心を持っているビースターがいたことだね・・」

 ノゾムの言葉を聞いて、ツバキが小さく頷いた。

「それからノゾムはビースター全員が悪いとは考えなくなった・・本当に、人間もビースターも関係ないって思うようになった・・」

「ユウキとはかなりギクシャクしてしまったけどな・・・」

 ツバキが話を続けて、ノゾムがユウキとの対立を思い出して笑みをこぼす。

「アイツもムチャクチャが許せなくて、敵を叩き潰していただけなのに・・どうして、オレたちはここまで戦っちまったんだろうか・・・」

「ノゾムもユウキさんも頑固なところがあるからね・・しかも考え方も似た者同士・・お互いに考えが譲れなくて、ぶつかり合ってしまったんだよ、きっと・・・」

「気が合うはずなのに反発していたってわけか・・やるせないな、まったく・・」

「でもユウキさんとも、分かり合うことができた・・」

 ユウキとのこれまでの戦いや時間を思い出して、ノゾムとツバキが笑みをこぼした。

「もう何も失わない・・オレはオレの敵をブッ倒して、安心できる時間を取り戻す・・・!」

「ノゾム、何度も言うけど、無事に戻ってきて・・・」

 決意を口にするノゾムに、ツバキが真剣な顔で言いかける。

「もちろんだ・・絶対に生きて戻ってくる・・・!」

 微笑んで頷くノゾム。彼の返事を聞いて、ツバキも微笑んだ。

 

 それからノゾムは別荘に戻って熟睡した。彼が暴走することなく、夜が明けた。

 目を覚ましたノゾムは別荘から外へ出た。夜の間に自分が暴走していないことを、彼は実感した。

「ノゾム、大丈夫か・・・?」

 ユウキがやってきて、ノゾムに声をかけてきた。

「今のところは・・・自分の中にある力に、これ以上振り回されてたまるか・・・!」

「オレとノゾムのビースターの力の違いは分からないけど、オレは自分の力に振り回されたって実感はない・・だから、オレにもどうしたらいいのかは・・・」

 自分の考えを口にするノゾムに、ユウキも自分の正直な思いを告げる。

「他のみんなが深く考えることはない・・みんなの支えがあるから乗り越えられることかもしれないけど、これはオレ自身が乗り越えないといけないことでもあるんだ・・」

「ノゾム・・・ゴメン、力になれなくて・・・」

「アンタが謝る必要なんてない・・むしろオレがみんなに迷惑かけてるんだから・・・」

「そういうノゾムも、あまり思いつめないように・・」

 ノゾムとユウキが声をかけ合う。互いの会話が屈託のないものに思えて、2人とも笑みをこぼした。

「やっぱここにいたか、マックス・・!」

 そこへキリオがリョウヘイと一緒に現れて、ノゾムとユウキが振り返って身構える。

「お前・・いつまでもしつこく出てきて・・!」

 ノゾムがキリオに対していら立ちを見せる。

「てめぇがさっさとオレにベルトとカードをくれりゃ、しつこくすることはなくなるぜ・・!」

 キリオが笑みを浮かべて、ビースドライバーとアニマルカードを渡すよう告げて手招きする。

「ふざけるな・・2度とそんなふざけたマネができないように、ここでお前をブッ倒す!」

 キリオへの怒りをあらわにして、ノゾムがマックスカードを取り出した。

(またオレをどうにかしようとするなら、自分の体をぶっ壊してでも、そいつを叩き潰す・・!)

“マックス!”

 自分の中にあるビースターの力に言い聞かせて、ノゾムがビースドライバーにマックスカードをセットして、左上のボタンを押した。

「変身!」

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 ノゾムがマックスへ変身を果たす。ユウキもドラゴンビースターとなる。

「今度こそベルトをいただっくッスよー!おとなしく渡したほうがいいッスー!」

 リョウヘイがモンキービースターになって、ノゾムたちに飛びかかる。しかしノゾムとユウキが同時に繰り出したパンチを食らって、強く押し返される。

「グズグズすんな、リョウヘイ!」

 キリオが叫んで、シャークビースターになってノゾムたちに飛びかかる。キリオがノゾムと組み付いて、爪を振りかざす。

「ぐっ!」

 マックスのスーツが切りつけられて火花を散らして、ノゾムがうめく。

「オレは強くなる!他の誰よりも強くなって、周りのバカどもにオレの力を思い知らせてやるんだよ!」

 自分の野心を言い放つキリオ。彼の猛攻に押されて、ノゾムが突き飛ばされる。

「そんなことで、オレたちをムチャクチャにされてたまるか!」

 ノゾムが怒りをふくらませて、エックスカードを取り出した。

“エックス!”

 彼がビースドライバーにセットされているマックスカードを、エックスカードと入れ替えた。

“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”

 ノゾムがエックスフォルムに変身して、両腕にエックスブレスを装着した。

「お前は全力でここでブッ倒す・・逃がしもおふざけも、これ以上させない・・!」

 ノゾムがさらにエクシードカード2枚を手にした。

「いいのか?またビースターになって見境を失くすことになるぞ!」

 キリオがあざ笑って、ノゾムを挑発する。この言葉を聞いて、ノゾムが手を止めた。

「ノゾム、気にしなくていい!もしまた自分を見失うことがあったら、オレが止める!」

 するとユウキが呼びかけて、ノゾムを励ます。

「オレは自分を見失わない・・そんなことをさせるなら、オレ自身の力でも容赦しない!」

 激情をあらわにして、ノゾムがエクシードカードを左右のエックスブレスにセットした。

“エクシード!インフィニットマックス!”

“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”

 マックスのスーツが銀色に変わって、X字の金のラインが入った。ノゾムはエクシードフォルムへの変身を果たした。

「エクシードのカードを使ったか!どこまで自分を保ってられるかな!」

 キリオは嘲笑を崩すことなく、ノゾムを挑発する。

「ノゾム!」

 ユウキがノゾムに駆け寄ろうとするが、リョウヘイが行く手を阻む。

「お前の相手はオレッスよ!アニキの邪魔はさせないッス!」

「どけ!お前の相手をしている時間はない!」

 笑みをこぼすリョウヘイに、ユウキが怒りをあらわにする。彼の姿が刺々しいものに変わった。

「おい・・マジっすか・・・!?

 ユウキの姿を見て、リョウヘイが緊張を隠せなくなった。

 

 ノゾムとユウキがキリオたちと戦っているところを、ツバキとタイチは目撃していた。ツバキはすぐにソウマとシゲルに連絡した。

 ソウマとシゲル、セイラとタツヤが駆けつけて、ツバキたちと合流した。

「ノゾムさん、またエクシードのカードを使っている・・!」

 セイラがノゾムを見て緊張を覚える。ノゾムはキリオのスピードをものともせずに攻め立てていた。

「このヤロー・・今度こそてめぇのベルトを・・!」

 キリオがいら立ちと野心を見せて、ノゾムのビースドライバーを狙って手を伸ばす。しかしノゾムの手に軽々とはねのけられる。

「必ず手に入れてやる・・お前のベルトは、オレのものだ!」

 払われた手を押さえて、キリオが声を振り絞る。ノゾムが彼をさらに攻め立てようとした。

 そのとき、ノゾムが頭に激痛を覚えて動きを止めた。ビースターの力が彼の体を突き動かしていた。

「いけない!ノゾムがまた暴走してしまう!」

「ノゾム、落ち着いて!自分を見失わないで!」

 タツヤが緊張を覚えて、ツバキがノゾムに向かって呼びかける。

“スリービースト。”

 ノゾムがビースドライバーを外すと、ビーストビースターへと変化してしまう。

「まずいぞ!気絶させて止めないと!」

“オックス。”

 シゲルが声を上げて、オックスカードをビースブレスにセットして、リードライバーにかざした。

“フォックス!”

 ソウマもフォックスカードをビースドライバーにセットした。

「変身!」

“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”

“スタートアップ・オックス。”

 ソウマとシゲルがフォックス、オックスに変身して、ノゾムに向かっていく。セイラとタツヤもキャットビースター、スネイクビースターとなって続く。

「ノゾム、やめろ!おとなしくしろ!」

 ソウマが呼びかけて、シゲルとともにノゾムの腕をつかむ。しかしノゾムに振り払われて、ソウマたちが突き飛ばされる。

「ノゾムさん!」

 セイラもタツヤとともにノゾムを止めようとする。ノゾムが振りかざす爪を、セイラたちが必死にかわす。

「自分を見失うのは、ノゾムさんにとっていいことじゃないはず!キャッ!」

 さらに呼びかけるセイラだが、ノゾムに蹴り飛ばされる。

「セイラ!」

 ユウキが声を上げて、リョウヘイを突き飛ばしてノゾムに駆け寄る。

「ノゾム、いい加減にしろ!」

 ユウキが怒鳴って、ノゾムと手をつかみ合って力比べを演じる。

「お前にはオレたちがいる!みんながいる!」

 ユウキがノゾムを食い止めながら、声を張り上げて呼びかける。

「目を覚まして、ノゾム!ノゾムらしさを取り戻して!」

 ツバキもノゾムに向かって必死に呼びかける。

「ノゾムらしくあることが、ノゾムだったじゃない!それを忘れないで、ノゾム!」

 ツバキのこの言葉を聞いて、ノゾムが動きを止めた。ユウキが彼から手を放して、1度離れる。

「ツ・・ツバキ・・・!」

 ノゾムが声を振り絞って、ツバキに振り向く。彼は失っていた自我を取り戻しつつあった。

「ノゾム、気が付いたんだね!」

「ツバキ・・・オレ・・・!」

 ツバキが微笑んで、ノゾムが動揺を見せる。

「ぐっ!」

 次の瞬間、ノゾムがまたビースターの本能に囚われてうめく。体と頭が激痛に襲われて、彼がふらつく。

「ノゾム、しっかりしろ!気をしっかり持て!」

「ビースターの力に振り回されて、お前はいいっていうのか!?

 シゲルとソウマがノゾムに向かって呼びかける。ノゾムが自分を見失わないように、体に力を入れてこらえる。

「お願い、ノゾム!みんなと一緒に帰ろう!」

 ツバキが必死に呼びかけて、ノゾムが踏みとどまる。彼は両手を強く握りしめて耐えていた。

「オレは・・オレは・・・!」

 ビースターの本能に囚われるノゾムが、握った右手を高らかに振り上げた。

「待って、ノゾム!落ち着いて!」

 ツバキが目を見開いて、ノゾムを呼び止める。ノゾムが掲げた右手を力強く振り下ろした。

 その拳は、ノゾムの体に叩き込まれた。

「ノゾム・・・!?

 この瞬間のノゾムにツバキが動揺を浮かべる。ノゾムは自分で自分を殴りつけたのだった。

「いい加減にしろ、オレの力・・いつまでも好き勝手やってると、オレの体ごとバラバラにするぞ・・・!」

 ノゾムが声を振り絞って、右手と体に力を込める。

「オレの力なんだ・・オレに使えないわけがないだろうが・・・!」

 ノゾムがさらに言いかけて、右手をさらに体に食い込ませる。彼は無理やりビースターの力を抑え込もうとしていた。

「がはっ!」

 ノゾムがうめき声を上げて、その場に膝をつく。

「ノゾム!」

「ノゾムさん!」

 ツバキたちが駆け寄って、ノゾムを支える。彼の姿がビースターから戻った。

「ノゾム、大丈夫!?僕たちのこと、分かる!?

「お兄ちゃん・・ノゾムお兄ちゃんだよね・・・!?

 タイチとワタルが心配の声をかける。するとノゾムがワオンの頭を優しく撫でた。

「みんなのこと、分かってる・・オレは、オレだ・・・」

「ノゾムお兄ちゃん、僕たちのこと、分かるんだね!」

 微笑みかけるノゾムに、ワタルが喜びを見せた。

「ノゾム・・もう落ち着いたのか・・!?

「あぁ・・またオレの力がオレを振り回すようなことがあったら、今のようにまた・・・!」

 シゲルが声をかけて、ノゾムが自分の意思を口にする。

「ノゾムらしさ、取り戻したようだ・・」

「ホントにどうなることかと思ったぞ・・・!」

 シゲルとソウマがノゾムの様子を見て、安心を覚える。

「おのれ・・いつまでもいい気になってんじゃねぇぞ!」

 キリオがいら立ちを見せて、ノゾムたちに向かって飛びかかった。

「うあっ!」

 キリオにスーツを切りつけられて、ソウマとシゲルが突き飛ばされる。倒された2人の変身が解ける。

「ソウマ!シゲル!」

「てめぇのベルト、もらった!」

 声を上げるノゾムに、キリオがビースドライバーを奪おうと飛びかかる。

「ノゾムさん!」

 そこへセイラが飛び込んで、キリオを横から突き飛ばした。

「ノゾムさん、今のうちにマックスに!」

 着地したセイラがノゾムに呼びかける。

「そうはさせないッスよー!」

 リョウヘイが向かおうとするが、ユウキが行く手を阻んだ。

「ノゾム、ソウマ、ここはいっちょやってやりますか!」

 シゲルがソウマとともに立ち上がって、ノゾムに呼びかける。並び立った3人がキリオに目を向ける。

「オレは戦う・・人間もビースターもマックスも関係ない・・・オレはオレ・・オレたちはオレたちだ!」

 ビースドライバーを装着したノゾムが言い放って、ソウマとともにビースドライバーの左上のボタンを押す。シゲルがビースブレスをリードライバーにかざした。

「変身!」

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”

“スタートアップ・オックス。”

 ノゾム、ソウマ、シゲルがマックス、フォックス、オックスに変身した。

「オレの怒りは限界突破!」

「オレの強さは疾風迅雷!」

「オレの力は天下無敵!」

 3人がそれぞれ言い放って、キリオに向かって同時に飛び出した。

「アニキはやらせないッスよ!」

 リョウヘイがキリオに加勢しようとするが、ユウキが繰り出したパンチを体に叩き込まれた。

「がはっ!」

 痛烈な一撃を受けて、リョウヘイがうめいてふらつく。

「お前たちの身勝手のために、力を使わせるわけにはいかない!」

 ユウキが怒りの声を言い放って、具現化した剣を振りかざした。

「がはぁっ!・・アニキ・・アニキはすごくなるって信じてるッス・・・!」

 絶叫を上げるリョウヘイが倒れて、体の崩壊を起こして消滅した。

 キリオがノゾムたちを狙って爪を振りかざす。しかしノゾムたち3人にかわされ、さらに3人の連携攻撃に翻弄される。

「ちくしょうが!チョコマカと動きやがって!」

 キリオがいら立ちをふくらませて、ノゾムだけに狙いを定めた。

「オレはオレの戦いをする・・お前たちのような身勝手な連中を叩き潰すためにな!」

 ノゾムが怒りと信念を言い放つ。キリオが突き出した爪を身をかがめてかわして、ノゾムが右のパンチを繰り出した。

「ぐっ!」

 パンチを体に叩き込まれて、キリオがうめいて怯んだ。

「オレたちの力、お前に徹底的に教えてやる!」

「中野さんの仇、ここで討つ!」

 シゲルとソウマがキリオに向かって言い放つ。ノゾムとソウマがビースドライバーの左上のボタンを2回押して、シゲルがリードライバーの中心部を回転させる。

“マックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”

“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”

“オックス・ロードスマッシュ。”

 ノゾムたちが同時にジャンプして、エネルギーを集めたキックをキリオ目がけて繰り出した。

「がはぁっ!」

 3人のキックを直撃されて、キリオが絶叫を上げる。

「やった!」

 決定打を受けたキリオを見て、ワタルが喜びを見せた。

「まだ倒れねぇ・・オレはまだ終わらねぇぞー!」

 キリオが絶叫を上げて倒れる。野心をむき出しにしたままの彼だが、体の崩壊を起こして消滅した。

「やった・・やったよ、中野さん・・オレ、敵討ちができたんだ・・・!」

 ソウマがシゲアキの仇を取れたことを実感して、手を握りしめる。彼は満足ともむなしさともつかない複雑な気分を感じていた。

“スリービースト。”

“シャットダウン。”

 ノゾムたちが変身を解いて、肩の力を抜いてひと息つく。ノゾムは今の自分が自分らしくあることを確かめて、戸惑いを覚える。

「ノゾム・・無事に戻ってきたんだね・・・」

 ツバキがノゾムに歩み寄って、微笑みかけてきた。彼女はノゾムがビースターの本能による暴走から立ち直ったと思って、安らぎを感じていた。

「言っただろう・・オレは戻ってくるって・・・」

「うん・・信じていたよ・・私も、みんなも・・ノゾムが無事に戻ってくるって・・・」

 言いかけるノゾムに、ツバキが信頼を寄せる。タイチたちもノゾムに目を向けて微笑んだ。

「ノゾム・・おかえり・・・」

 ツバキが笑顔を見せて、ノゾムをあたたかく迎えた。彼女は優しく手を差し伸べた。

「ツバキ・・・ただいま・・・」

 ノゾムも微笑んで、ツバキの手を取って握手を交わした。ビースターの力を乗り越えて、大切な人たちの前に帰ってこれたことを、ノゾムは心の中で喜んでいた。

 

 

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