仮面ライダーマックス

第36話「ホエールの悲劇、絶望の対決!」

 

 

 ゴロウはエックスビースによって、ホエールビースターに調整されてしまった。この現実を痛感して、ノゾムは動揺を隠せなくなる。

“スリービースト。”

 ノゾムがマックスへの変身を解いて、ゴロウに自分の正体を明かした。

「ノゾムくん・・今の姿は・・・!?

「戦ってるんだよ・・怪物と・・自分たちのことしか考えてない身勝手な連中と・・!」

 ゴロウの問いかけに答えて、ノゾムがジンキに鋭い視線を向ける。

「ようやく理解したか。お前の知り合いがビースターとなったことに。」

「ホントに・・お前たちがゴロウさんを・・・!」

 言いかけるジンキに、ノゾムが怒りの眼差しを送る。

「元に戻せ!ゴロウさんの体と心は、ゴロウさんのものだ!」

「そのつもりは毛頭ない。そもそも1度ビースターとして調整された者は、2度と元には戻れん。」

 呼びかけるノゾムだが、ジンキが拒絶する。

「ビースターを元に戻す技術など存在しない。当然、その者に植え付けられている、我々への忠誠心もな。」

「ふざけんな!元に戻せって言っているのが分かんないのか!」

 さらに言いかけるジンキに、ノゾムがさらに怒鳴る。

「理解していないのはお前だというのに・・佐々木ゴロウは元の人間には戻れはしない。」

「お前!」

 態度を変えないジンキに、ノゾムが怒りを爆発させた。

“チャージ・マキシマーム!マックス・マキシ・マキシマーム!ビース・マキシマムライダー!”

 彼はマックス・マキシマムフォルムに変身して、ダークビースターとなったジンキに飛びかかる。しかし彼のパンチはジンキに軽々と左手で受け止められる。

「お前に待っているのは絶望しかない。倒すにしても倒されるにしても。」

 ジンキは口調を変えずに、ノゾムの手を払う。ノゾムはすぐに踏みとどまって、再びジンキ目がけてパンチを繰り出した。

 そのとき、ホエールビースターになったゴロウが割り込んできて、ノゾムのパンチを手で受け止めてきた。

「ゴ、ゴロウさん!?

 突然のゴロウの乱入に、ノゾムが驚く。ジンキの思念を受けたゴロウは自我を失って、命令のままにノゾムと戦わされていた。

「何をするんだ、ゴロウさん!?何でこんなヤツらを守るんだ!?

 ノゾムが動揺して声をかけるが、ゴロウは答えない。

「お前たちの声は佐々木ゴロウには届かない。我々の命令に従うだけだ。」

 ジンキが言いかけて、ゴロウがノゾムを突き飛ばす。いら立ちをふくらませるノゾムだが、ゴロウに攻撃できず、ただ体を震わせていた。

「我々に倒されるか、それとも恩人を手にかけるか。好きな方を選べ。」

 ジンキがノゾムに問い詰めて、ビートルビースターたちが笑みをこぼす。

「アイツら・・なんて卑怯なんだ・・・!」

 シゲルもジンキたちのやり方に怒りを感じていた。

「我々への絶対服従を誓うならば、お前も佐々木ゴロウも命を落とさずに済む。」

 ジンキが笑みをこぼして、ノゾムに忠誠を求める。

「ふざけんな・・お前たちのようなヤツの言いなりになれば、オレはオレでなくなる・・・!」

 ノゾムが声を振り絞って、ジンキたちへの憎悪をふくらませていく。

「それに選択肢はそれだけじゃない・・お前たちだけを倒して、ゴロウさんを助ける!」

 ノゾムがジンキを狙って攻撃を再開する。ゴロウが口にエネルギーを集めていく。

「まずい!あの攻撃が来る!」

「ノゾム、よけろ!」

 タツヤが声を上げて、シゲルが呼びかける。ゴロウがノゾムに向かって、口から光を放つ。

「ぐあっ!」

 光の直撃を受けて、ノゾムが突き飛ばされる。マックスへの変身が解けた彼が、倒れて意識を失う。

「ノゾム!」

 シゲルが声を上げて、ノゾムに駆け寄ろうとする。だがララたちが彼らの前に立ちふさがる。

「ベルトとカードを奪い返せ。まずはマックスだ。」

 ジンキが呼びかけて、ゴロウがノゾムに向かっていく。

「ダメだ、ゴロウさん!ノゾムを傷付けてもいいっていうのか!?

 シゲルが呼びかけるが、ゴロウは聞いていない。彼はノゾムからビースドライバーを奪おうと、手を伸ばした。

 そのとき、キャットビースターとなったセイラが駆けつけて、ノゾムを抱えてゴロウから離れた。

「ノゾムさん、大丈夫ですか!?目を覚ましてください!」

 セイラが呼びかけるが、ノゾムは目を覚まさない。

「逃がすな。ベルトとカードを手に入れろ。」

 ジンキが呼びかけて、ゴロウがノゾムとセイラを追う。

「ノゾム!セイラ!」

 ドラゴンビースターとなったユウキも駆けつけて、セイラたちと合流した。

「ノゾムさんは大丈夫・・意識を失っているだけ・・!」

 セイラがノゾムのことを言って、ユウキがゴロウを見て焦りを浮かべる。

「今は撤退したほうがよさそうだ!セイラさん、ノゾムくんを連れて逃げるんだ!」

 シゲルが呼びかけて、セイラとユウキが頷いてノゾムを連れていく。

「逃がすな。敵を倒して、ベルトとカードを取り戻せ。」

 ジンキが呼びかけて、ゴロウがユウキたちを追う。

「オレが食い止める!セイラはノゾムを連れて逃げろ!」

 ユウキが足を止めて、ゴロウと組み付いて彼を食い止める。

「どこまでも往生際が悪い・・!」

 ララもビートルビースターたちもセイラとノゾムを追いかけるが、タツヤとシゲルが阻んできた。

「みなさん・・すみません!」

 セイラが謝意を見せながら、ノゾムを連れて走り出した。

「佐々木ゴロウ、ノゾムを追え。ここにいるヤツらの始末は我々で着ける。」

 ジンキの命令を受けて、ゴロウはノゾムを追いかけた。

「お前たちは我々が直接手を下す。これ以上の犯行は許さん。」

 ジンキがユウキたちに目を向けて言いかける。その瞬間、ユウキたちは目を合わせて頷くと、同時に走り出してこの場を離れた。

「全員逃がしはしない。必ず処罰を下す。」

 ジンキが言いかけて、ララたちが頷いてユウキたちとノゾムたちを追いかけた。

 

 セイラたちに助けられて、ノゾムはジンキたちから遠ざけられた。彼は動物公園の近くで意識を取り戻した。

「くっ・・オレは、どうしていたんだ・・・!?

「ノゾムさん、目が覚めたんですね・・・!」

 体を起こしたノゾムに、セイラが笑みをこぼす。

「ノゾム!」

 ツバキがタイチ、ワタル、ワオンと一緒に駆けつけて、ノゾムに声をかけてきた。

「あれ?ゴロウさんは?」

「父さんが見つかったって言っていたけど・・どうしたんだ・・!?

 ツバキとタイチがゴロウがいないことに動揺して、周りを見回す。

「それが、実は・・・」

「言うな!」

 セイラが言いかけたが、ノゾムが怒鳴って止める。

「遅かれ早かれ気付かれることになる・・隠しでも何にもならないから、ここで言う・・・」

 タツヤがノゾムに告げて、改めて話を打ち明ける。

「ゴロウさんは、ビースターにされてしまった・・エックスビースの命令に従うように調整されて・・・」

「そんな!?

 タツヤの話を聞いて、ワタルが驚きの声を上げる。

「ウソだ・・ウソだ!父さんが、エックスビースに味方をするなんて!」

「オレだって信じたくない!だけどオレの目の前で、ゴロウさんがビースターに・・しかも、エックスビースの言いなりになって、オレたちの言うことを全然聞いてくれない・・!」

 首を横に振るタイチに、ノゾムが叫ぶように言い放つ。ノゾムも声と体を震わせていた。

「今のゴロウさんは、ゴロウさん自身の意思に関係なく、エックスビースに従うようにされている・・このままだとゴロウさんは、またオレたちに襲い掛かってくる・・・」

 シゲルがノゾムたちに向けて現状を告げる。

「ゴロウさんを止めるには、エックスビースを壊滅させて、命令させないようにするしかない・・そうしなければ、オレたちかゴロウさん、どっちかが確実に死ぬことになる・・・!」

 シゲルが口にした言葉を聞いて、ノゾムたちは息をのんだ。エックスビースを倒さなければ、確実に自分たちの誰かが死ぬことになる。この非常な事態に、彼らは緊張を隠せなくなる。

「冗談じゃない・・オレたちはこれからも、落ち着ける時間をみんなで過ごしていくんだ・・!」

 ノゾムがこの現実に対して怒りをふくらませていく。

「あんな身勝手な連中に、オレたちの生活をムチャクチャにされてたまるか!」

「ノゾム・・私だって、こんなムチャクチャ、認めたくないよ!ゴロウさんは、私たちにたくさん親切にしてくれたんだよ!」

 ノゾムに続いてツバキも不満を叫ぶ。彼女もゴロウへの思いをふくらませていた。

「助けようよ、ゴロウさんを!エックスビースをやっつけて!」

 ワタルが呼びかけて、ノゾムたちが頷いた。ゴロウを助ける決意はみんな同じだった。

 そのとき、ゴロウがノゾムたちの前に現れて、ふらつきながら歩いてきた。

「父さん!」

「ゴロウさん・・!」

 タイチが声を上げて、ノゾムが緊張をふくらませる。タイチとワタル、ワオンがゴロウに駆け寄る。

「父さん、大丈夫!?どこか痛いところとかない!?

「タイチ、みんな・・・」

 心配の声をかけるタイチに、ゴロウが戸惑いを見せる。

「僕は・・何をしていたんだ・・僕はいったい・・・!?

「お父さん、今は何も考えなくていい・・家に帰ろう・・・!」

 動揺するゴロウに、タイチが必死に呼びかける。

「僕、何かがおかしいんだ・・僕が僕でなくなるような・・・!」

「だからゴロウさん、何も考えなくていいって!早く帰って休もう!」

 動揺するゴロウに、ワタルも呼びかけた。そのとき、ワオンが突然身構えてうなり声を上げる。

「ま、また・・・体が・・勝手に・・・!」

「父さん!?

 体を震わせるゴロウにタイチが声を上げる。

「タイチ・・みんな・・僕から、逃げ・・・!」

 ゴロウが声を振り絞って、タイチを引き離そうとする。ノゾムたちの前で、ゴロウの体に異変が起こる。

“佐々木ゴロウ、全てのベルトとカードを奪い返せ。命令遂行の邪魔をする者は全て始末しろ。”

 ゴロウの頭の中にジンキの命令が伝わる。彼がホエールビースターへと変わった。

「ゴ・・ゴロウさん・・・!?

「そんな!?・・ホントに、父さんがビースターに・・!?

 ツバキとタイチがゴロウの変貌を目の当たりにして、たまらず後ずさりする。

「みんな、ゴロウさんから離れろ!襲ってくるぞ!」

 シゲルがたまらずツバキたちに向かって叫ぶ。

「ゴロウさんが、そんなこと・・!?

 動揺を隠せないでいるツバキに、ゴロウがゆっくりと迫る。

「このままじゃツバキちゃんたちがやられる!」

“オックス。”

 シゲルがビースブレスにオックスカードをセットして、飛び出す。

「変身!」

“スタートアップ・オックス。”

 ビースブレスをリードライバーにかざして、シゲルがオックスに変身する。ツバキたちに迫るゴロウを、シゲルが組み付いて食い止める。

「今のうちにはなれるんだ!」

「シゲルさん・・!」

 シゲルが呼びかけて、ツバキが戸惑いを見せる。

「ゴロウさん・・オレたちのことが、全然分かんないのか・・・!?

 ノゾムが声を振り絞るが、ゴロウは彼もタイチたちも認識できていない。

「ゴロウさん、やめてくれ・・・やめろっていうのが分かんないのか!」

“マックス!”

 激情をあらわにするノゾムが、ビースドライバーにマックスカードをセットした。彼はゴロウに向かってゆっくりと歩いていく。

「・・・変・・身!」

 彼は声を振り絞って、ビースドライバーの左上のボタンを押した。

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 マックスに変身したノゾムが、ゴロウの前に立つ。迷いや苦悩を抱えながら、ノゾムはゴロウを止めようとしていた。

「ゴロウさん、アンタはタイチやみんなを傷つけようとしている・・アンタはそれでいいのか!?身勝手な連中の言いなりになっていいのか!?

 ノゾムが声を張り上げて呼びかける。しかしゴロウはジンキの命ずるままに動いていて、彼自身の自我が失われている。

 ノゾムは怒りを抱えたまま、ゴロウに飛びかかって組み付いた。

「危なっかしいけど、ゴロウさんを連れてエックスビースのヤツらのところへ行く!」

「ノゾム!?

 考えを口にしたノゾムに、ツバキが声を上げる。

「エックスビースをぶっ潰さないといけないが、今のゴロウさんをここに残していくわけにはいかない!」

「でもそれだとノゾムと父さんが・・!」

 呼びかけるノゾムにタイチが動揺する。

「タイチたちは付いてくるな!お前たちを危険に巻き込むわけにはいかない!」

「でも!」

「お前もオレを怒らせたいのか、タイチ!?

「僕たちを悲しませたいの、ノゾム!?

 互いに言い合って引き下がらないノゾムとタイチ。

「オレはアイツらを叩き潰す・・そしてゴロウさんは死なせないし、オレも死ぬつもりはない!」

 ノゾムは言い放つと、ゴロウと組み付いたまま離れだす。

「ノゾム!」

 ツバキが叫んでノゾムたちを追いかけようとする。

「オレが行く!オレなら2人を助けられる!」

“イグアナ。

 シゲルが呼びかけて、イグアナカードをビースブレスにセットした。

“スタートアップ・イグアナ。”

 彼は駆けつけたイグアカートに乗って、ノゾムとゴロウを追った。

「ノゾム・・・!」

「父さん・・・!」

 ノゾムたちを心配して、ツバキとタイチが動揺をふくらませていく。

「僕は行く・・どれだけ危険でも、父さんたちを助けないわけにいかないよ!」

「タイチくん・・私も同じ気持ちだよ!」

 タイチとツバキは我慢できずに、ノゾムたちを追って走り出した。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、僕も行くよー!」

 ワタルもワオンと一緒に、ノゾムたちのところへ走り出した。

「ノゾム・・・!」

「私たちも行こう・・ゴロウさんがこのままでいいはずがない・・!」

 激情に駆り立てられているユウキに、セイラが呼びかける。

「私たちも、ゴロウさんを助けないと・・!」

「タツヤさん・・セイラ・・・行こう・・!」

 タツヤからも言われて、ユウキも意を決した。3人もノゾムたちを追いかけて、それぞれビースターになった。

 

 ジンキに操られるゴロウを連れて、ノゾムは移動を続ける。彼らの前にジンキたちも現れた。

「この作戦でお前たちの中で必ず死者が出る。その確信がある以上、お前たちから隠れる必要はない。」

 ジンキがノゾムたちを見て、表情を変えずに言いかける。

「関係ない・・お前たちをブッ倒して、ゴロウさんを助ける・・それだけだ・・!」

 ジンキたちへの憎悪をむき出しにして、ノゾムがゴロウを投げ飛ばして引き離す。

「お前たちがゴロウさんをおかしくさせているなら、オレはお前たちを全滅させる!それがイヤならさっさとゴロウさんを元に戻せ!」

 ノゾムが怒鳴り声を上げて、ジンキたちに向かっていく。

「お前は理解しようともしていないのか?佐々木ゴロウを元に戻す術は・・」

「元に戻せと言っているのが分かんないのか!?

 態度を変えずに言いかけるジンキに、ノゾムがさらに怒鳴る。

「そんなに倒されたいって言い張るなら、望みどおりにしてやるよ!」

“エックス!”

 言い放つ彼がエックスカードを手にして、ビースドライバーにセットした。

“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”

 エックスフォルムになったノゾムが、ジンキに向かっていく。しかし彼の繰り出したパンチは、ダークビースターとなったジンキの左手に受け止められる。

「私を倒すことこそ不可能なことだ。」

 ジンキは低く告げると、左手から黒い光を放出して、ノゾムを吹き飛ばす。

「ぐっ!」

 大きく横転するノゾムだが、すぐに立ち上がってジンキに視線を戻す。

「アイツを・・あのヤローを倒すには、エックス以上の力がいるのか・・もう、コイツしか・・・!」

 怒りがふくらんでいるノゾムが、2枚のエクシードカードを取り出した。

“エクシード!インフィニットマックス!”

 彼がエックスブレスにエクシードカードをセットした。

“チャージ・エクシード!インフィニット・エックス!インフィニット・マックス!ビース・エクシードライダー!”

 マックスのスーツが銀色に変わって、X字の金のラインが入った。ノゾムはエクシードフォルムに変身した。

「オレの怒りは限界突破・・お前たちをぶっ潰すまで、絶対に治まらない!」

 ノゾムが言い放つと、ジンキに一気に詰め寄った。

「ぐおっ!」

 目にも留まらない速さのノゾムの突撃を受けて、ジンキが突き飛ばされる。

「社長!」

 黒ずくめの男たちが声を上げて、ビートルビースター、スタッグビースターとなってノゾムに目を向ける。

「ゴロウさんを元に戻すか、オレにここでブッ倒されるか、どっちを選ぶんだ・・・!?

 ノゾムがビートルビースターたちに鋭い視線を向ける。

「お前たちは破滅の道を辿る。それは決まっていること。覆すことはできない。」

 ジンキが立ち上がって、態度を変えずにノゾムに言いかける。

「そうやって何でも自分の思い通りになると思うな!」

 ノゾムが怒鳴って再び加速する。ビートルビースターたちが回避もままならず、ノゾムの突撃に次々に突き飛ばされていく。

 ノゾムが続けてジンキへの攻撃を仕掛ける。そこへゴロウが飛び込んできて、ノゾムが攻撃をためらう。

「ゴロウさん・・そいつをかばうな・・そいつは、アンタをムチャクチャにしているヤツなんだぞ・・・!」

 ノゾムが声を振り絞って呼びかけるが、ゴロウは引き下がろうとしない。

「今はおとなしくしていてくれ・・オレが、ゴロウさんをいいように操る連中を叩き潰す・・・!」

 ノゾムが一気に動いて、ゴロウの後ろ首に右手を叩き込んだ。ゴロウがふらついて前のめりに倒れた。

「ゴロウさん、悪いけどそこで寝ててくれ・・その間にアイツらを・・!」

 ノゾムがゴロウに言いかけてから、ジンキたちに視線を戻した。

 そのとき、倒れていたゴロウが起き上がって、ノゾムを後ろからつかんできた。

「な、何っ!?

 気絶させたはずのゴロウに襲われて、ノゾムが驚く。

「気絶させてもムダだ。我々の命令は、佐々木ゴロウの脳に直接送っている。」

「何だとっ!?

 ジンキが口にした言葉に、ノゾムがさらに驚く。

「生き物は意識を失っていても、脳や臓腑は活動を続けている。たとえ気絶させたとしても、我々の命令を受ければ行動を開始する。神奈ジンキ、お前は倒されるか、恩人を手にかけるか、2つしか選択肢はない。」

「ふざけるな・・・お前たちは・・どこまでオレたちをムチャクチャにすれば気が済むんだ!」

 語りかけるジンキに、ノゾムが怒号を放った。

 そのとき、ノゾムの体から突然光があふれ出した。その瞬間、ゴロウが光に押されて突き飛ばされる。

「な、何っ!?

 ノゾムに起きた異変にララが驚く。体から出ていた光が弱まって、ノゾムが落ち着きを取り戻していく。

「今のは何だ?・・さっきよりも強い力が出ている気がする・・・!」

 ノゾムが今の自分の状態を確かめる。彼は今まで感じたことのない力を感じていた。

「今はそんなこと気にしている場合じゃない・・コイツらをブッ倒すだけだ・・ゴロウさんを遠ざけて!」

 戸惑いを振り切って、ノゾムが立ち上がったゴロウに向かって右足を突き出す。ゴロウが蹴られて、遠くまで飛ばされた。

「戻ってくるまでに時間がある・・その間に、一気に・・・!」

 ノゾムがジンキたちに視線を戻してから、ビースドライバーの左上のボタンを3回押した。

“エクシードスマッシャー!”

 彼の右手にエクシードスマッシャーが握られた。

「お前たちの言葉を聞くだけで虫唾が走る・・オレがお前たちを倒す・・それだけだ!」

 ノゾムがジンキに向かって走り出して、エクシードスマッシャーの画面をスライドしてタカのアイコンを出して、そばのボタンを押した。

“ホークスマーッシュ!”

 ノゾムの背中から翼が生えて広がった。彼はタカの力を得て飛行して、低空で突き進む。

 ノゾムが振りかざしたエクシードスマッシャーの刀身が、ジンキの体を切りつけた。

「くっ!・・スピードがさらに速まり、飛行も可能となったか・・!」

 ジンキがうめいて、ノゾムの発揮する強さに毒づく。ノゾムが上昇してエクシードスマッシャーの画面と柄の間にあるトリガーを引く。

 エクシードスマッシャーの先からビームが放たれて、ジンキが手ではじく。さらにノゾムはビームを連射して、ララとビートルビースターたちを狙い撃ちする。

 そしてノゾムはエクシードスマッシャーのトリガーを長押しする。エクシードスマッシャーの切っ先にエネルギーが集まっていく。

「まずい!回避しろ!」

 スタッグビースターが叫んで、ビートルビースターたちとともに動き出す。エクシードスマッシャーから放たれた強力なビームが、ビースターたちの多くを吹き飛ばした。

「よくも・・よくもやってくれたね・・!」

 感情をあらわにしたララが、ローズビースターに変わる。

「お前たちは滅ぼす・・お前たちなんかに、オレたちの時間をムチャクチャにされてたまるか!」

 着地したノゾムが言い放って、エクシードスマッシャーの画面をスライドして、キツネのアイコンを表示した。

“フォックススマーッシュ!”

 ノゾムが体勢を低くして、ジンキに向かって突っ込む。

 そのとき、ノゾムとジンキの間に光が飛びこんできた。ノゾムがとっさに足を止めて振り向くと、ゴロウが戻ってきた。

「戻ってきたか。どのような状況下でも攻撃できるように調整してある。戦いを避けることはできない。」

 ジンキがノゾムに向かって言いかける。

「今度こそ仕留めろ。そしてベルトとカードを奪い返せ。」

 ジンキが命令して、ゴロウが再び口にエネルギーを集める。

「お前だけは、絶対に生かしちゃおかない!必ずブッ倒す!」

 ノゾムが敵意をむき出しにして、エクシードスマッシャーの画面に「X」を表示させた。

“エクシードチャージ!エクシードスマーッシュ!”

 ノゾムの全身から光が放出される。飛び上がった彼がエネルギーを右足に集めて、ジンキに向かって急降下する。

(佐々木ゴロウ、ここに来てマックスを迎え撃て。)

 ジンキから思念を送られて、ゴロウがノゾムの前に立つ。彼の姿を見た瞬間、ノゾムが意識を集中して急降下の軌道を変えた。

「何っ!?ぐあっ!」

 驚くジンキがノゾムのキックを左肩に受けて、大きく突き飛ばされた。

「オレはゴロウさんは死んでも傷つけない!何が何でも助けるんだ!」

 ゴロウへの思いを叫ぶノゾム。彼の言葉がゴロウの耳に入る。

「どこまでも小賢しいマネを・・どこまでもムダなことを!」

 ノゾムの戦いについにいら立ちを浮かべるジンキ。立ち上がった彼がノゾムに向かって右手をかざして、黒い光を集める。

「神奈ノゾムを捕まえろ!絶対に逃がすな!」

 ジンキの呼びかけを受けて、ゴロウがノゾムに向かって歩き出す。

「たとえバラバラになって使い物にならなくなろうと、ベルトを悪用されたままでいるよりはいい!」

 ジンキがノゾムに向かって光の球を放った。

「ノ・・ノゾム・・!」

 そのとき、ノゾムの前にゴロウが飛び出してきた。彼がノゾムをかばって、光の球を体で受け止めた。

「ゴロウさん!?・・ゴロウさん!」

 光を受けて傷ついていくゴロウの後ろで、ノゾムが叫び声を上げた。

 

 

第37話へ

 

その他の小説に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system