仮面ライダーマックス

第34話「エクシードは無限大!」

 

 

 エクシードフォルムとなったことで、ノゾムは一命を取り留めた。意識を取り戻した彼は、エクシードカードを取り戻そうとするジンキの前に現れた。

「あれが、エクシードの力・・神奈ノゾムが発動させるとは・・・!」

 ジンキがノゾムを見て緊張を覚える。

「ならばヤツをもう1度倒して、カードをベルトごともらうしかないようだな・・!」

 ジンキが鋭く言いかけて、右手を掲げて黒い光の球を放つ。ノゾムが右腕を振りかざして、光の球をはじいた。

「何っ!?

 攻撃を軽々とはじかれたことに、ジンキが驚く。

「何でなのかは分からない・・だけど、今まで感じたことのない力が、体から出ているのは分かる・・・」

 握りしめる自分の両手を見つめて、ノゾムが戸惑いを覚える。

「ノゾム・・ものすごい光・・・!」

「やったよ!ノゾムお兄ちゃん、目が覚めたんだね!」

 別荘から顔を出したツバキが戸惑いを覚えて、ワタルが喜びの声を上げる。

「私は全ての支配者となる・・何者も私に逆らうことは許されない・・!」

 ジンキが鋭く言って、ノゾムに向かっていく。ジンキが一気にスピードを上げて、ノゾムの体にパンチを叩き込んだ。

 だがノゾムは少し押されただけで平然としている。

「なん・・だと・・!?

 自分の攻撃を受けても何ともないノゾムに、ジンキが驚きを隠せなくなる。

「何もかも自分の思い通りになると思い上がる・・お前のようなヤツを、オレは許さない!」

 ノゾムが怒りの声を上げて、握った右手をジンキに向かって振りかざした。

「ぐおっ!」

 ノゾムのパンチを受けて、ジンキがうめく。重みのあるノゾムの一撃に、ジンキは体に痛みを覚える。

 ノゾムはさらにパンチを繰り出して、ジンキを攻め立てる。その速さは目にも留まらないどころか、目にも映らないほどになっていた。

「は、速い・・動きが見えないなんてもんじゃない・・動いているのかどうかさえも・・・!」

 タイチがノゾムの強さにあ然となっていた。

「ビーストライダーが、これほどの力を発揮するなど・・あり得ない・・・!」

 驚きといら立ちをふくらませていくジンキ。彼が体から黒い光をあふれさせていく。

「私の闇の力で、その力ごとお前を押さえ込む!」

 ジンキが黒い光を操って、1度散らばらせた光をノゾムに向かわせる。光をぶつけられて押さえつけられるノゾムだが、体に力を入れて両腕を広げて光を押し返した。

「バカな!?これさえも押し返しただと!?

 ジンキがさらに驚いて、思わず後ずさりする。

「ありえない!そんなバカなこと、認めはせんぞ!」

 ジンキが怒鳴り声を上げて、黒い光をさらに放出する。ノゾムがビースドライバーの左上のボタンを3回押した。

“エクシードスマッシャー!”

 ノゾムの手元に剣の形をした武器が現れた。柄と刀身の間に1つの画面があった。

 エクシードフォルムの武器「エクシードスマッシャー」である。

 ノゾムはエクシードスマッシャーの画面をスライドする。彼は画面にゾウのアイコンを出してから、そばのボタンを押した。

“エレファントスマーッシュ!”

 エクシードスマッシャーを左手に持ち替えたノゾムの体に、力が宿る。彼はジンキに向かって握った右手を繰り出す。

 ノゾムのパンチがパンチ型のエネルギーとなって放たれた。

「ぐあぁっ!」

 この一撃を受けて、ジンキが大きく突き飛ばされた。

「や、やった!」

 タイチが驚きながら、ノゾムの優勢を喜ぶ。ノゾムは再びエクシードスマッシャーの画面をスライドして、ジャッカルのアイコンを出してボタンを押した。

“ジャッカルスマーッシュ!”

 ノゾムが足にエネルギーを集めて、ジンキに向かっていく。次の瞬間、ジンキやツバキたちの視界からノゾムの姿が消えた。

 さらに次の瞬間、飛び込んだノゾムのキックがジンキの体に叩き込まれた。その瞬間にキックを受けたことに、ジンキも一瞬気付かなかった。

「ごあっ!」

 ジンキが突き飛ばされて、地面を大きく転がった。

「バカな!?この私が反応もできなかっただと!?

 今のノゾムに対してあまりにも無力だと痛感して、ジンキは体を震わせる。

「これで終わりにしてやる・・お前はオレが必ずブッ倒す・・!」

 ノゾムが鋭く言いかけて、ジンキにとどめを刺そうとする。

「オレは倒れるわけにはいかない・・倒れれば、世界は迷走する!」

 ジンキはいら立ちを浮かべたまま、ノゾムの前から姿を消した。

「アイツ、逃げたよ!」

 ワタルが声を上げて、ノゾムが毒づく。

「ノゾムさん、無事なんですね・・・!?

 セイラが戸惑いと心配を感じながら声をかける。ノゾムが振り向いて小さく頷いた。

「オレを助けるために、みんな、戦ってくれたのか・・・!?

 ノゾムが問いかけると、ツバキたちが微笑んで頷いた。

「新しいカードを使ったら、あなたの意識が戻ったみたい・・そのカードの力なのかな・・」

 ツバキがノゾムに事情を話す。ジンキに倒されてから今まで意識がなかったため、ノゾムは自分が死にかけていた実感が湧かなかった。

「み、みんな、大変だ・・ソウマが、大ケガを・・・!」

 そこへシゲルがタツヤに肩を貸してやってきた。

「シゲルさん!」

「ソ、ソウマくんが!?

 タイチが声を上げて、ツバキがソウマに駆け寄る。ジンキを食い止めようとして傷ついて、ソウマは倒れた。

「ソウマくん、しっかりして!目を開けて!」

 ツバキが呼びかけるが、ソウマは目を覚まさない。

「は、早く救急車を呼んで、病院に・・!」

 彼女が慌てて自分のスマートフォンを取り出して、救急車を呼ぼうとする。

“スリービースト。”

 ノゾムがビースドライバーからエックスカードを外して、マックスへの変身を解いた。彼はドライバーのカードホルダーにエックスカードとエクシードカードをしまった。

 そのとき、ノゾムが突然めまいを覚えてふらついた。

「ノゾム!?

 ノゾムの異変にタイチが声を上げる。ノゾムが我に返って、タイチに目を向ける。

「どうしたの、ノゾム!?まだどこか体が悪いのか!?

「いや、大丈夫だ・・どこも悪いところは感じない・・」

 心配の声をかけるタイチに、ノゾムが微笑んで答えた。

「多分、目が覚めていきなり戦ったからかもな・・」

 ノゾムが自分の体のことを考えて呟く。

「それよりソウマを病院に連れていくのが先だろ・・」

「あ、うん、そうだね・・今、ツバキちゃんが救急車を呼んでるよ・・!」

 ノゾムが言いかけて、タイチが動揺しながら答える。ツバキからの連絡を受けてやってきた救急車に、ソウマは乗せられた。

「私も付いていくから、ノゾムも休んで!目を覚ましてから時間が経ってないんだから・・!」

「あ、あぁ・・そうだな・・」

 ツバキが呼びかけて、ノゾムが小さく頷いた。ソウマとツバキを乗せた救急車が、病院へ向かっていった。

「ノゾムくん、君にもあのことを話さないといけない・・」

 タツヤが真剣な顔を浮かべて、ノゾムに話を切り出した。

 

 ジンキに返り討ちにされて、満身創痍となっていたユウキ。彼は体を休めながら、自分を無力だと思って呪っていた。

(ノゾムにも、あのジンキという人にも、オレは敵わなかった・・オレ、セイラとタツヤさんを守れたとはいえない・・・)

 悔しさを噛みしめるユウキは、力を欲するようになっていた。

(力がほしい・・ノゾムもジンキも超えられる力を・・そうすれば、セイラたちを守れて、理不尽をはねのけて消すことができる・・・)

 力への渇望を抱えたまま、ユウキは立ち上がった。彼はセイラたちを求めて歩き出した。

 

 タツヤからビースターの正体を聞いて、ノゾムが驚きを感じずにはいられなかった。

「ウ、ウソだろ!?・・ビースターが、バケモノが人間に化けてたんじゃなくて、人間がバケモノにされたものだって・・・!?

「信じたくないのは分かるけど、本当のことだ・・ユウキくんやセイラさんのように自然にビースターになった者もいるが、多くはエックスビースによって調整されてビースターにされたものがほとんどだ・・」

 声を荒げるノゾムに、タツヤが深刻さを込めて語りかける。

「しかも調整されたビースターのほとんどが、エックスビースの一員として命令に従うようにされている。普段は思考や行動の自由が許されているが、思念が送られればそれに絶対的に従うようになっている・・」

「アイツら・・人の命を何だと思っているんだ・・・!?

 タツヤの話を聞いて、ノゾムがジンキやエックスビースに対して怒りを燃やす。

「厄介なのは、調整されたビースター全員が嫌々調整を受けたわけではないということだ。高い報酬を条件に調整を志願する者もいる・・」

「そんな!?あんなバケモノになりたがるなんて!」

 タツヤが話を続けて、ワタルが不満の声を上げる。しかしセイラがいたことを思い出して気まずくなる。

「ゴ、ゴメン、セイラお姉ちゃん・・・」

「ううん、気にしていないよ、ワタルくん。心は人間でも、体は普通の人間じゃないんだから・・」

 たまらず謝るワタルに、セイラが微笑んで言葉を返す。

「ビースターの力は強力だ。軍隊の通常兵器にも勝るほどにもなる。それが手に入れられるなら、人間でなくなってもいい。そう思う者もいるということだ・・」

「自分だけのために、そんなものを求めるなんて・・・!」

 タツヤがさらに語りかけて、ノゾムが怒りをふくらませていく。

「エックスビースそのものを止めないと、そのおかしな仕組みは崩れないってことか・・」

 シゲルが倒すべき敵の存在を確信する。

「やっつけよう、エックスビースを!人をビースターにして操る悪いことをやめさせなくちゃ!」

「でも、僕たちには、ノゾムたちみたいな力は持っていない・・」

 呼びかけるワタルに、タイチが深刻さを込めて言いかける。

「だから僕は、僕のできることで、ノゾムを支えたいと思っているよ・・今回みたいに、ノゾムを守ることが・・・」

「タイチお兄ちゃん・・僕も!僕のできることをがんばるよ!ノゾムお兄ちゃんや、みんなのために!」

 ノゾムに対する思いと決意を口にするタイチとワタル。2人に励まされて、ノゾムが笑みをこぼした。

「ありがとうな、みんな・・こんなオレのために、力を貸してくれて・・・」

 ノゾムがお礼を言って、自分の別荘へ戻っていった。

「またノゾムが感謝するなんて・・」

「ノゾムお兄ちゃんも優しい心を持ってるよ。僕には分かるよ。」

 あ然となるタイチに、ワタルが微笑みかける。ワタルはノゾムの心を信じていた。

「私はユウキのところに戻るわ・・私たちを助けようとして、ジンキと戦ったから・・」

「私も行くよ。ユウキくんも傷ついている可能性が高い・・」

 セイラとタツヤがユウキを捜しに歩き出した。

「ユウキさんも、ノゾムのことを分かってくれるだろうか・・」

「あれだけ言ったんだ・・それで分かんなかったら、ユウキお兄ちゃんのほうが悪いよ・・」

 ユウキを心配するタイチと、彼がノゾムと分かり合わないといけないと思っているワタル。2人は再び和解することを信じていた。

 

 ノゾムに返り討ちにされたジンキが、憎悪を心の中に宿して、エックスビースの研究施設に戻ってきた。そこにララと黒ずくめの男たちも戻ってきていた。

「話は聞きました・・マックスが、新しいカードを使って・・・」

「分かっている!・・ベルトと他のカード共々、必ず取り戻す!」

 不安を見せながら声をかけてきたララに怒鳴って、ジンキがいら立ちをふくらませていく。

「社長、ビーストライダーの関係者を1人捕らえました。」

 男の1人がジンキに報告する。

「よし。管制室へ行く。その者をモニターで確認する。」

「了解しました。」

 ジンキが言いかけて男が頷く。彼らが施設の中に入って、管制室を訪れた。

 研究員の1人がコンピューターを操作して、ゴロウのいる牢屋をモニターに映した。

「佐々木ゴロウ。神奈ノゾムの保護者で、佐々木タイチの父です。」

「そうか・・この人質、有効活用しない手はない。」

 研究員の報告を聞いて、ジンキが笑みを浮かべる。彼はベルトとアニマルカードを奪い取るための作戦を考えていた。

 

 ユウキを捜しに街中を駆け回るセイラとタツヤ。その最中、セイラは疲れを感じてふらついて、タツヤに支えられる。

「大丈夫か、セイラさん!?・・戦って走り続けたんだ。疲れないはずがない・・」

「すみません、タツヤさん・・でももう大丈夫です・・ユウキは、もっと大変なことになっているかもしれないから・・」

 心配するタツヤに微笑みかけるセイラ。2人は落ち着きを取り戻して、再び歩き出す。

「タツヤさん、あそこにユウキが・・!」

 ユウキが歩いているのを見つけて、セイラが声を上げる。

「ユウキくん、こっちだ!」

「・・セイラ、タツヤさん・・・」

 タツヤが呼びかけて、ユウキが足を止めて振り向いた。

「2人とも、無事だったんだ・・・!」

「ユウキも無事でよかった・・あのジンキ、とんでもない力だったから・・・!」

 ユウキとセイラが互いの無事を確かめ合って、安心の微笑をこぼした。

「ユウキ・・ノゾムさんを助けることができました・・さらに強くなって・・・」

「ノゾムが!?・・どうしてそこまでして、みんなノゾムのことを・・・!?

 ノゾムが助かったことを伝えたセイラだが、ユウキは喜ぶどころか深刻さを感じていた。

「私だけじゃない・・ツバキさんもタイチさんもワタルくんも、ノゾムさんのことを信じています・・ノゾムさんの本当の心と、真っ直ぐな考えを分かっているから・・」

「違う・・ノゾムはオレたちを傷付けようとする・・みんなそれを分かっていないんだ・・・!」

 ノゾムへの信頼を口にするセイラだが、ユウキは頑なにノゾムを疑う。

「それじゃ、ユウキは正しくて、ノゾムさんもツバキさんたちはみんな間違いだというの!?・・ノゾムさんを信じているツバキさんたちも、悪い人だというの・・!?

「それは・・・!」

「どうしても信じられなくても、認めてもいいはずだよ・・ノゾムさんのことを・・」

 必死の思いで呼びかけるセイラに、ユウキが心を揺さぶられる。セイラと同じように信じてもいい気持ちと、ノゾムに対する強い疑心暗鬼が、彼の心の中で葛藤していた。

「今は君たちの暮らしているところへ戻ろう・・」

 タツヤが呼びかけて、セイラが小さく頷いた。

「そうですね・・今は体を休めたほうがいいかもしれない・・」

 ユウキも聞き入れて、セイラたちと一緒に別荘に戻っていった。

 

 ソウマが運ばれた病院にタイチとシゲルがやってきた。病室の前にいたツバキが、彼らに気付いて振り返った。

「ツバキちゃん、ソウマくんは・・?」

「安静にしていないといけないけど、命に別状はないって・・今、この病室で休んでいるよ・・」

 タイチが聞いてきて、ツバキが小さく頷いてから答える。ソウマは病室のベッドで横になって眠っていた。

「ノゾムは別荘で休んでいるよ。ワタルくんがそばについている。」

「うん・・ソウマくんもだけど、ノゾムも大丈夫かな?・・死にかけてから目を覚まして、すぐにあれだけの戦いをしたから・・・」

 シゲルもノゾムのことを話して、ツバキが心配をふくらませていく。

「もう何もなければいいんだけど・・ユウキさんとやったみたいな戦いも、死にそうになったことも・・」

「このまま何もないまま、エックスビースや悪いビースターがいなくなれば・・・」

 ノゾムの無事を案じて、これから何も悪いことが起こってほしくないと願うタイチとツバキ。2人とシゲルは1度ソウマの様子を見てから、病院を後にした。

 

 ノゾムのいる別荘に戻ってきたツバキ、タイチ、シゲル。別荘の前にワタルがいた。

「ワタルくん?・・どうしたんだ?ノゾムは・・?」

「タイチお兄ちゃん・・おじさんが・・おじさんがいない・・・!」

 タイチが声をかけると、ワタルが悲しい顔を浮かべて答えた。

「えっ!?父さんが!?

「うん・・声をかけようとして捜したんだ・・動物公園の中を回ったけど全然いなくて、連絡してもつながらないし・・!」

 驚きの声を上げるタイチに、ワタルが事情を話す。

「おじさん、何かあったのかな!?・・でも、公園やその近くのどこにもいないなんて・・・!」

「まさか、ビースターに襲われたんじゃ・・!?

 ツバキが心配して、ワタルが不安を覚える。

「オレが周りを見てくる!ツバキちゃんたちはここにいてくれ!」

 シゲルが周りを見回しながら、ツバキたちに呼びかける。

「それとこのことはノゾムには言うなよ!聞いたらアイツも捜しに飛び出すはずだから!」

「そうだね・・今のノゾムにムチャをさせるのはよくないから・・」

 シゲルの頼みを聞いて、ツバキが納得する。

「それじゃ、何かあったらすぐに知らせてくれ!」

 シゲルは言いかけて、ツバキたちの前から走り出した。

(父さん、無事でいて・・シゲルさん、お願い・・・!)

 ゴロウの無事を心の中で強く願うタイチ。彼はツバキたちと一緒に、ノゾムの別荘の中に戻った。

 

 ゴロウが戻らないまま夜が明けた。ノゾムが目を覚まして、ベッドから体を起こした。

「また眠っていたのか・・それだけ疲れていたってことなのか・・・」

 朝日が差し込んでくる窓に目を向けて、ノゾムが自分の状態を確かめる。

(昨日のアレは何だったんだ・・死にかけて疲れてただけだったんだろうか・・)

 昨晩のふらつきを思い出して、ノゾムが頭に手を当てる。何もおかしなことはないと、彼は自分に言い聞かせていた。

「ワタル、ワオン・・タイチ、ツバキ・・」

 ノゾムが振り向いて、ツバキたちが彼を介抱したまま眠っていたのを目にした。

(みんな、オレのためにすまなかった・・オレはもうやられない・・エックスビースのヤツらは、オレが必ずブッ倒す・・そして、ユウキも・・)

 エックスビースへの怒りを噛みしめるノゾムだが、ユウキのことを考えて苦悩を覚える。

(ユウキはホントに許せないヤツなのか?・・セイラは、アイツは悪くないと言ってくれた・・・)

 ユウキと分かり合うことができるかもしれないと思い始めていたノゾム。

(アイツはホントは敵じゃないかもしれない・・確かめてもいいかも・・・)

 ユウキと真正面から向かい合うことを、ノゾムは心の奥底で願っていた。

「ノ・・ノゾム・・・」

 ツバキが目を覚まして、ノゾムに目を向けた。

「ツバキ・・わざわざオレを診てくれてたのか・・・」

「ノゾム・・あなたも目が覚めたんだね・・よかった・・」」

 戸惑いを見せるノゾムに、ツバキが安心の笑みを見せる。

「オレ、すっかり熟睡してしまったみたいだ・・やっぱり、死にかけるのはヤバいことなんだなって、そうなる前よりも思うようになっている・・」

「でもノゾムは無事だった・・それだけでも嬉しい・・私も、みんなも・・・」

 互いに正直な気持ちを口にするノゾムとツバキ。

「そのみんなっていうのは、ユウキもか・・?」

「それは・・・」

 ノゾムが投げかけた問いに、ツバキが口ごもる。

「ユウキさんも迷っているみたい・・あの人もノゾムも、仲直りしたいと思っているけど、そうしようとして逆に傷つけられるのが怖いとも思っている・・」

「怖いというよりはイヤなんだよ・・身勝手だとかムチャクチャとかを正しいことにするのが・・」

「でもノゾムはそのイヤなのに負けない・・憎んでいたはずのビースターの1人のセイラさんを受け入れて、ユウキさんとも心を開こうとしている・・・」

「それは・・セイラがオレと同じように、身勝手が許せなくなっていたから・・きっと、ユウキのヤツも・・」

 信頼を口にするツバキに、ノゾムが自分の考えを正直に口にしていく。彼が心を開いて分かち合おうとする相手は、心から信じることができる人だと、ツバキも思っていた。

「タイチとワタル、ワオンもいる・・ソウマたちはどうしたんだ・・?」

「ソウマくんはケガをして入院しているわ・・命に別状はないけど、しばらくは休まないといけないって・・」

 ノゾムがふと部屋の中を見回して聞いて、ツバキが戸惑いながら答える。

「そうか・・そういえばゴロウさんは・・?」

「えっ・・あ、うん・・そういえば忘れてた・・・ノゾムのことで頭がいっぱいだった・・」

 ノゾムからゴロウのことを聞かれて、ツバキが忘れていたと嘘をついた。

「それよりノゾム、体のほうは大丈夫なの・・?」

「体?・・あぁ・・今のところはどこも悪いとかおかしいとかっていうのはないみたいだ・・」

 ツバキが心配の声をかけて、ノゾムが自分の体に意識を向けてから答えた。今は何もおかしいと感じるところはないと、ノゾムは判断した。

 

 エックスビースの施設内で、新たな調整が行われていた。その様子をジンキが見守っていた。

「調整完了です。こちらの命令で、いつでも攻撃を仕掛けることができます。」

 研究員の1人が報告して、ジンキが頷く。

「状態が整い次第、外へ出す。ヤツにベルトとカードの奪還をさせる。」

 ジンキが作戦を告げて、研究員たちが頷いた。

「ララ、お前がヤツを援護しろ。万が一の対処と判断はお前に任せる。」

「分かりました・・私、やってみます・・・」

 ジンキが呼びかけて、ララが不安を店ながら答える。

「これで確実に、ビーストライダーを押さえられる。」

 作戦成功を確信して、ジンキが笑みを浮かべる。ベルトとアニマルカードを狙う、彼らの新たな作戦が動き出そうとしていた。

 

 

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