仮面ライダーマックス
第31話「デッドリーな決闘!」
ノゾムと和解することなく、ユウキはセイラ、タツヤとともに別荘に戻ってきた。
「ユウキ・・ノゾムさんはビースターを倒したいんじゃない・・身勝手な人を憎んでいるだけ・・私たちと気持ちは変わらないんだよ・・!」
セイラが必死の思いでユウキに呼びかける。
「だとしても、アイツはオレたちを敵だと認識している・・このままやられるつもりはない・・・!」
「違う・・敵だと思っているのは、ユウキのほう・・」
それでもノゾムを許すことのできないユウキに、セイラが悲しい顔を浮かべる。
「ちゃんと話して、考えを聞いて伝えよう・・そうじゃないと、分かり合える人とも分かり合えなくなる・・・!」
「ノゾムと・・話し合う・・・!」
セイラに説得されて、ユウキが心を揺さぶられる。
「セイラさんの話を聞く限りだが、ノゾムという人も人間らしさがあると、私も思えるのだけど・・」
タツヤもユウキたちのことを気に掛けて声をかける。
「どちらにしても、面と向かい合う必要はある・・・」
ユウキはノゾムに対して複雑な気分を感じていた。
ノゾムもユウキに対してやるせない気分を感じていた。
「ノゾム、ユウキさんと話をしてみよう・・ノゾムがどう思っているのかを言って、ユウキがどう思っているのかを聞いてみないと・・」
ツバキがノゾムを心配して呼びかける。
「聞いてアイツと仲直りできるという確証はない・・追い込まれる危険だってある・・それなのに・・・!」
しかしノゾムはユウキに歩み寄ろうとしない。
「それじゃ絶対に、ユウキさんと仲直りなんてできないよ・・ノゾムが歩み寄らないと、絶対に分かり合えない・・!」
「オレのやることを決めるな・・オレはもう振り回されはしない・・!」
さらに呼びかけるツバキにいら立って、ノゾムが鋭い視線を向ける。
「ツバキちゃん、これ以上はダメだよ・・ノゾムの心を刺激したら・・・!」
タイチがノゾムの心境を察して、ツバキを呼び止める。
「ううん、このままだとノゾムとユウキさんが分かり合えないままになってしまう・・そんなの、お互いに辛いだけだよ・・・!」
「だからオレのことを勝手に決めるな!」
ツバキが必死に呼びかけるが、ノゾムの感情を逆撫でするばかりだった。
「ノゾム、今日はもう休め。どうするにしたって、疲れてたらどうにもならないだろう・・」
シゲルがノゾムに呼びかけてなだめる。
「・・・今は、そうするしかないか・・・」
ノゾムは聞き入れて、自分の別荘に戻っていった。しかし彼がユウキと和解しようとする意思を見せていなかった。
ノゾムたちとの混戦で撤退を余儀なくされたキリオたち。彼らが体勢を整えようとしていたところへ、ジンキが姿を現した。
「しゃ、社長!?」
黒ずくめの男たちが緊張を見せて、整列する。
「社長自ら外へ出てくるとはな・・これはただ事ではないな・・」
「軽口を叩くな。ビーストライダーと裏切り者に返り討ちにされるとは・・」
笑みを見せるキリオに言い返して、ジンキが肩を落とす。
「すぐに体勢を整えて、いつでも行動を起こせるようにしろ。ただし合図を出すまで、神奈ノゾムと霧生ユウキに手を出すな。」
ジンキがキリオたちに指示を出す。
「どういうつもりだ!?ヤツらを見逃すつもりか!?」
「2人は互いに対立の意思を強めつつある。同士討ちをさせて、生き残ったほうに攻撃を仕掛けるのだ。」
不満の声を上げるキリオに、ジンキが考えを告げる。
「冗談じゃない!オレはヤツらにふざけたマネをされてるんだ!オレが直接2人に引導を渡してやるぞ!」
「キリオ、手出しするな。効率を台無しにするな。」
「うるせぇ!オレはおめぇの部下でも手下でもねぇ!オレの獲物はオレが狩る!」
ジンキが呼び止めるが、キリオは聞かずにこの場を立ち去ろうとした。次の瞬間、ジンキが右手をかざすと、キリオの体が突然持ち上がった。
「な、何だ、これは!?・・は、放せ!」
「貴様もムダな時間を使わせるなら、この場で処罰してもいいのだぞ・・・!?」
もがくキリオにジンキが鋭く言いかける。キリオはジンキが出す念力から抜け出せず、念力が解かれると地面に落下する。
「くっ・・ビースターになっていないとはいえ、オレが逆らえないだと・・!?」
ジンキの力に抗えなかったことに、キリオが驚きを隠せなくなる。
「今は警告にとどめておく。次また私の命令に背くようなら、命はないと思え・・」
ジンキはキリオに告げると、1人歩き出した。彼の姿が見えなくなるまで、ララも黒ずくめの男たちも声を出せず動くこともできなかった。
「おのれ、ジンキ!いい気になりやがって!」
キリオがジンキに対していら立ちをふくらませていた。
「オレはアイツの手下じゃない!相手が何だろうと、邪魔するヤツも容赦なく始末してやるぞ!」
「でもそうしたら、今度こそ命を奪われることになる・・・」
ジンキへの敵意をむき出しにするキリオに、ララが困った顔を見せて言いかける。
「社長の力は本物だよ・・エックスビースのビースターの中でも飛び抜けている・・・」
「それがどうした!?どれだけ力を持っていようと、オレの邪魔をするなら仕留めるだけだ!」
ララの注意も拒絶して、キリオも1人歩き出した。
「キリオもおしまいかもしれない・・社長に消されてしまうかもしれない・・・」
ララが絶望を感じて、男たちも息をのんでいた。
「私たちだけでも待機していよう・・・」
「わ・・分かりました・・・」
ララに言われて、男の1人が小さく頷いた。ララたちはジンキの命令に従って、ノゾムとユウキの監視に努めた。
この日の夜、ノゾムは1人でユウキのことを考えていた。彼はユウキとの決着の時を予感していた。
(アイツをブッ倒さないといけない・・そうしないと、オレはオレでなくなる・・・!)
ノゾムが心の中で自分に言い聞かせる。理不尽を認めることは自分が死ぬのと同じこと。彼はそう考えていた。
(他の誰が何を言ってきても、オレはオレであり続ける・・ムチャクチャを受け入れるつもりはない・・・!)
意地を貫こうとして、ノゾムは就寝を決め込んだ。
ユウキもノゾムに対する怒りを抑えられないままになっていた。
(ノゾムは、マックスはあのとき、セイラさんを攻撃してきた・・あのときからオレとマックスの戦いは始まった・・・)
ユウキがマックスとの戦いを思い返していく。
(マックスとなっているノゾムは、本気でオレたちを倒そうとしていた・・ノゾムを受け入れたら、オレたちに危険が及ぶことになる・・そうなったら、昔に戻ってしまう・・・!)
一方的に強いられて、それが正しいことにされていた昔も思い出して、ユウキは苦悩を深めていく。
(そんなのを認めるわけにはいかない・・そんなのを正しいことにしてはいけない・・・!)
理不尽への抵抗に駆り立てられて、ユウキはノゾムとの勝負に負けないことを心に誓った。
そして翌朝。
ノゾムの様子を見に来たツバキとタイチ。しかし別荘を訪れたとき、既にノゾムはいなかった。
「ノゾム!?・・ノゾム、どこ!?」
ツバキが部屋の中を見回して、タイチと一緒にノゾムを捜す。しかしノゾムの姿は部屋にはない。
「まさかノゾム、ユウキさんと戦いに行ったんじゃ・・・!?」
タイチが不安の声を上げて、ツバキがたまらずスマートフォンを取り出して連絡を取った。
「もしもし、ソウマくん!ノゾムがいなくなったの!すぐに見つけて止めないと!」
“何だって!?・・分かった!オレがすぐに見つけてやる!”
ツバキの呼びかけに、連絡先のソウマが答えた。連絡を終えたツバキが、タイチと目を合わせて頷き合う。
「僕たちも急がなくちゃ、ツバキちゃん・・!」
「うん・・!」
タイチの声にツバキが頷く。2人もノゾムを追いかけて、外へ飛び出した。
ユウキが出ていかないように交代で見守っていたセイラとタツヤ。しかしセイラは途中で眠ってしまい、その間にユウキが別荘を抜け出してしまった。
「タツヤさん、ユウキがいなくなった!」
「何だって!?」
セイラが呼びかけて、タツヤが目を覚ます。
「ゴメンなさい、眠ってしまって・・!」
「今はユウキくんを捜すのが先だ・・急ごう、セイラさん!」
謝意を見せるセイラに、タツヤが呼びかける。2人はユウキを捜しに外へ出た。
周囲が岩場と森に囲まれた荒野。人気のないその場所に、ノゾムとユウキがやってきた。
「やはりここに来たか・・」
「ここならツバキたちもセイラも来るとしても、すぐに来ないだろうからな・・」
ユウキが声をかけて、ノゾムがため息まじりに答える。
「オレは一方的に何かを押し付けられるのが気に入らない・・そんなヤツは容赦なく叩きつぶす・・・!」
「押し付けられるのが我慢ならないのはオレも同じ・・オレたちを脅かすものは、何だろうと許しはしない・・!」
ノゾムとユウキが自分の考えを貫くことを示す。
考え方も感じ方も思っていることも近しい。だからこそすれ違えば徹底的に対立することになる。それでも自分を貫かなければならないと、ノゾムもユウキも思っていた。
「お前も、オレに自分を押し付けようとするのか・・・!」
「お前を倒さないと、オレは生き抜くことができない・・・!」
ノゾムとユウキが鋭く言いかける。ノゾムがマックスカードを取り出して、ユウキに見せる。
“マックス!”
ノゾムがビースドライバーにマックスカードをセットした。
「変身!」
彼がビースドライバーの左上のボタンを押した。
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
スーツと仮面を身にまとって、ノゾムはマックスに変身した。ユウキも体に力を入れて、ドラゴンビースターになった。
ノゾムとユウキがゆっくりと両手を握りしめる。2人が同時に飛び出して、攻撃を仕掛けた。
ノゾムとユウキの監視を続けていたララたち。黒ずくめの男の1人が、ジンキに報告を入れていた。
“分かった。私も行く。引き続き監視を続けろ。”
「了解。」
ジンキからの指示に男が答える。
“もしも私の命令なく、キリオが2人に手を出す動きを見せるようならば、即処罰しろ。不可能ならば、うまくおびき寄せて他のビーストライダーたちと鉢合わせさせろ。”
「分かりました。キリオ様の監視も強化いたします。」
ジンキのさらなる指示に答えて、男は連絡を終えた。
「キリオさんを見つけたら、私にも知らせて・・・」
「分かりました。ここはお願いします。」
ララの呼びかけに答えて、男が答える。黒ずくめの男たちのうち数人がこの場を離れて、キリオの捜索と監視に向かった。
ノゾムとユウキの戦いが始まった。ユウキの高まるパワーに、ノゾムは押され気味だった。
「もっと力を出してみろ!その程度で歯が立たないことは分かっているはずだ!」
ユウキがノゾムに向かって呼びかける。
「どうやらそうみたいだな・・!」
ノゾムが答えて、マキシマムカードを取り出した。
“マキシマム!”
彼はビースドライバーにセットされているマックスカードを、マキシマムカードと入れ替えた。
「次はコイツで相手になってやる!」
“チャージ・マキシマーム!マックス・マキシ・マキシマーム!ビース・マキシマムライダー!”
ビースドライバーの左上のボタンを押して、ノゾムはマキシマムフォルムとなった。
「それでもオレに勝てない・・オレはお前を倒して、本当の自由を取り戻す!」
ユウキが言い放って、全身に力を込める。彼の姿が刺々しいものへと変わった。
ノゾムがユウキに向かっていって、攻撃を仕掛ける。しかし彼のパンチとキックを受けても、ユウキはダメージを受けない。
ユウキが握りしめた両手を振りかざして、ノゾムの体に叩き込んでいく。
「ぐっ!」
ノゾムがユウキの力に押されてふらつく。ユウキが振りかざした右足をぶつけられて、ノゾムが地面を転がる。
「こんなことで、オレがやられるわけには・・!」
ノゾムが体に力を入れて、ビースドライバーの左上のボタンを2回押す。
“マキシマムチャージ!アニマルスマーッシュ!”
彼が大きくジャンプして、エネルギーを集めた両足のキックを繰り出す。ユウキも両手に力を込めて、前に突き出す。
ノゾムがユウキの力に押されて、突き飛ばされて地面に叩きつけられる。
「ぐあっ!」
大きなダメージを受けて、ノゾムが絶叫を上げる。今のユウキの強さはマキシマムフォルムを上回っている。
「オレは生きる・・オレたちを守るために、オレはオレたちを追い詰める敵と戦う・・・!」
ユウキが怒りをふくらませて、声を振り絞る。彼の言葉がノゾムの怒りを逆撫でする。
「敵・・敵なのはお前のほうだ・・オレにムチャクチャを押し付ける敵だった・・・!」
ノゾムが立ち上がって、ユウキに鋭い視線を向ける。
「オレは受け入れるつもりはない・・絶対に逆らってやる!」
ノゾムが言い放って、エックスカードを取り出した。彼は手にしたエックスカードを見つめて、覚悟を決める。
(コイツを使うと体力を大きく消耗する・・だけどこれを使わなかったら、オレはユウキにやられることになる・・そんなこと、死んでもゴメンだ!)
“エックス!”
思い立ったノゾムが、エックスカードをビースドライバーにセットした。
「オレはオレの意思を貫く・・でなければ、オレはオレでなくなる!」
彼が叫んで、ビースドライバーの左上のボタンを押した。
“チャージ・エーックス!アンリミテッド・ハイパワー!ビース・エックスライダー!”
白くなったマックスのスーツの真ん中に縦のラインが入り、マスクも「X」の形のラインが入った。両腕にもそれぞれエックスブレスが装着された。
エックスフォルムとなったノゾムが、ユウキの前に立ちはだかった。
「全力を出してきたか・・だけど、それでもオレは負けるつもりはない!」
ユウキが言い放って、ノゾムに向かって飛びかかる。2人が同時にパンチを繰り出してぶつけ合う。
「ぐっ!」
今度はユウキがノゾムに押されて突き飛ばされる。ユウキが踏みとどまって、ノゾムに鋭い視線を向ける。
「オレは身勝手に従うつもりはない・・絶対に逆らい続ける・・!」
ノゾムが声を振り絞って、ユウキに向かっていく。彼が怒りを込めて、ユウキにパンチを叩き込んでいく。
ユウキがいきり立って、力を込めた右手を振りかざす。彼のパンチは命中したが、ノゾムは少し押されただけでダメージは受けていない。
「オレの生き方は、オレが決める・・誰かに力でねじ曲げられて死んでいくのは、絶対に認めない!」
ユウキが怒りを高めて、ノゾムにさらに攻撃を続ける。しかしノゾムに軽々と回避と防御をされる。
「それはオレのセリフだ!ムチャクチャを押し付けてくるヤツに、オレは絶対に屈しない!」
ノゾムが怒鳴って、ユウキに反撃を仕掛ける。ノゾムのパンチの連続と回し蹴りが、ユウキを攻め立てる。
その間にも、エックスフォルムになっているノゾムの体力は、大きく消耗されていた。それでもノゾムは戦いをやめずに、体に力を入れ続ける。
「こんなところで倒れてたまるか・・身勝手なヤツらをブッ倒すまで、オレが倒れるわけにはいかないんだよ!」
ノゾムが声と力を振り絞って、右腕に装備しているエックスブレスにマックスカードをセットした。
“エックスマーックス!ジェネラリーアクション!”
マックスの右半分が白から赤に変わった。彼はマックスフォルムの力も身にまとった。
ノゾムがユウキに向かっていって、手を握りしめてパンチを繰り出す。重みのある打撃を受けて、ユウキがふらつく。
「オレは負けない!オレが負けたら、セイラとタツヤさん、心のあるビースターが傷つくことになる!」
セイラたちのことを想って、ユウキが踏みとどまる。
「絶対に負けない!ノゾム、必ずお前を倒す!」
「それはオレのセリフだ!お前はオレがブッ倒す!」
怒鳴るユウキにノゾムも怒鳴り返す。彼はマキシマムカードを取り出して、左腕のエックスブレスにセットした。
“エックスマキシマーム!アンリミテッドパワー!”
マックスのスイーツの左側が赤に変わり、黒のラインが入った。ノゾムはマックスフォルムとマキシマムフォルム、2つの力を身にまとった。
「この限界突破の力で、ユウキ、お前を完全に叩き潰す!」
ノゾムが言い放つと、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“エックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
光を発するノゾムが大きくジャンプする。ユウキが全身に力を入れて、ノゾムに向かって突っ込む。
「ユウキ!」
「ノゾム!」
互いに叫ぶノゾムとユウキ。2人の力と攻撃が激しくぶつかり合い、その衝撃は周囲をも揺るがした。
ノゾムを捜すツバキたちと、ユウキを捜すセイラとタツヤ。両者が荒野の近くの森で出会った。
「タイチさん、ツバキさん!」
「セイラさん、タツヤさん!・・ユウキさんは・・!?」
セイラと声をかけ合って、ツバキがユウキがいないことに気付く。
「いなくなって・・・もしかして、2人はノゾムさんを・・・!?」
「いけない・・2人は戦うつもりだ・・もう戦いを始めて・・!」
セイラが答えて、タツヤが不安を口にしたときだった。荒野で爆発と強い衝撃が起こった。
「あれは、ノゾムとユウキさんの・・!?」
「ノゾム・・ユウキさん・・・!」
タイチが声を上げて、ツバキが不安を膨らませる。彼女が爆発のしたほうへ走り出す。
「ツバキさん!」
セイラが声を上げて、キャットビースターになった。彼女も走り出して、ツバキを抱えてスピードを上げる。
「セイラさん!」
「私につかまっていて!一気に行くから!」
声を上げるツバキに呼びかけて、セイラはノゾムたちのところへ急いだ。
持てる全ての力を使ってぶつかり合ったノゾムとユウキ。ユウキは力を使い果たして、倒れたままビースターから人の姿に戻った。
「ち・・力が、入らない・・体が、言うことを聞かない・・・!」
起き上がろうとするユウキだが、体を動かすことができない。彼の前で息を乱しているノゾムは立っていた。
「これで終わりだ・・オレは誰の押し付けにも屈しない・・・!」
ノゾムが鋭く言いかけて、ユウキにとどめを刺そうとした。
「ノゾムさん、やめて!」
そこへ声がかかって、ノゾムが振り向く。セイラがツバキと一緒にやってきて、ノゾムたちに呼びかけた。
「もうやめて、ノゾム、ユウキさん!どうしてそこまで2人で戦おうとするの!?」
ツバキもノゾムたちを呼びとめて、2人の間に割って入る。
「ツバキ・・どけ!ユウキはオレたちの敵・・!」
「敵じゃない!優しく強い心の持ち主だよ!セイラさんや心のあるビースターのことを大切に思っている、強い人だよ!」
敵意をむき出しにするノゾムに、ツバキが必死に呼びかける。
「ノゾムも分かっているはずだよ!ユウキさんのことを!」
「ツバキ、お前・・・!」
「どうしてもユウキさんを倒そうっていうなら、私を倒してからにして!」
いら立ちを覚えるノゾムに、ツバキが感情を込めて言い放つ。
「ツバキ・・お前も、オレの敵に回るつもりなのか!?・・オレの邪魔をするのか!?」
ユウキを守ろうとするツバキに、ノゾムが怒りをふくらませていく。彼が右手を握りしめて、ツバキに殴りかかろうとした。
そのとき、ノゾムが体の痛みを感じて、ツバキに向けて振りかざそうとした手が止まった。
「ノゾム!?」
「ぐぅ・・体力の、限界ってヤツなのか・・!?」
ツバキが声を上げて、ノゾムがふらついて倒れる。
「ノゾム!」
ツバキがとっさにノゾムを支えて、彼からビースドライバーを外した。
“スリービースト。”
マックスへの変身が解けたノゾムを、タイチも支える。
「ノゾム、しっかりして!ノゾム!」
「・・エックスカードで、力を使い果してしまったのか・・・!?」
タイチが呼びかける中、ノゾムが呟く。エックスフォルムで、彼は体力を大きく消耗していた。
「オレは倒れない・・倒れたら、オレはムチャクチャに振り回されることに・・・!」
それでもノゾムは自分の戦いを続けようとして、無理やり体を動かそうとする。
「ようやく決着がついたか。」
そこへ声がかかって、ノゾムたちが視線を移す。彼らの前に現れたのはジンキだった。
「誰ですか、あなたは?・・もしかして、ビースター・・!?」
タイチがジンキに向かって声をかける。
「あれは・・エックスコーポの・・エックスビースの社長・・・!」
タツヤがジンキを見て緊張を隠せなくなる。
「エックスビースの・・コイツが・・!?」
ソウマがジンキを見て、目つきを鋭くする。
「これで終わりだ、神奈ノゾム、霧生ユウキ。厄介者であるお前たちを、ここで始末する。」
ジンキがノゾムたちに向かって冷たく言いかける。彼の姿が漆黒の怪人へと変わった。
「く、黒いビースター・・!」
漆黒の怪人、ダークビースターとなったジンキに、セイラが息をのむ。
「他の者も私に従え。でなければ共に始末することになる。」
「ふざけるな!エックスビースに、ビースターに誰が従うか!」
呼びかけるジンキにソウマが怒鳴りかかる。
「ならばお前たちにも消えてもらう。ムダな時間を取らせるな。」
ジンキが告げると、右手をかざして衝撃波を放った。
「うあっ!」
タイチたちが押されて悲鳴を上げる。ソウマ、シゲル、セイラ、タツヤがすぐに立ち上がるが、ノゾムとユウキは力を使い果たして、立ち上がることができない。
「まずはお前だ、神奈ノゾム。お前を処罰し、ビースドライバーとアニマルカードを返してもらう。」
ジンキがノゾムを狙って歩を進める。
「ノゾム、今は逃げよう!」
「ふざけるな・・オレは戦う・・・!」
ツバキが呼びかけるが、ノゾムが逃げようとしない。ジンキが右手をかざして、黒い光を集めていく。
「どけ、ツバキ!」
ノゾムがビースドライバーを手にして、ツバキを横に突き飛ばす。彼はビースドライバーを装着したときだった。
ジンキの放った黒い光が、ノゾムの体を貫いた。
「えっ・・!?」
ノゾムが撃たれて倒れていく瞬間に、ツバキは目を疑った。倒れたノゾムを彼女が支える。
「ノゾム、しっかりして!ノゾム!」
ツバキが呼びかけるが、ノゾムは反応しない。彼の手が力なく地面に落ちるのを見て、ツバキは動揺を強める。
「そ・・そんな・・・!?」
冷静さを保てなくなるツバキ。タイチも駆け寄って、ノゾムの胸に耳を当てる。
「し・・・心臓の音が・・聞こえない・・・!?」
タイチが愕然となりながら言いかける。ユウキたちも彼の言葉に耳を疑う。
「ノ・・・ノゾムが・・死んだ・・・!?」
倒れて動かないノゾムを見て、ユウキが体を震わせる。ジンキの手にかかって、ノゾムは力尽きた。