仮面ライダーマックス
第25話「カオスな親子!」
ノゾムは指名手配にはならなかった。エリカとの騒動の後も、ノゾムはいつものように動物公園での仕事を続けていた。
「よかった・・あの後ノゾムが何ともなくて・・」
ツバキがノゾムの様子を見て、安心を感じていた。
「さすがにあのとき捕まったのにはビックリしちゃったよ・・ノゾムが悪いわけじゃないけど、相手がスワンズ家だったから・・」
タイチもノゾムのことを気に掛けて、肩を落とす。
「あの屋敷にはエックスビースのビースターがいた。アイツらがごまかした可能性があるな・・」
「結果的にそれがいい方向に向いたことになるな、アイツにとって・・」
ソウマとシゲルもノゾムのことを話す。エックスビースの工作によって、ノゾムが指名手配されることはなくなった。この事態にソウマは腑に落ちない気分を抱えていた。
「もしも指名手配されたとしても。ノゾムは全部を敵に回すぐらいのことはしそうだけど・・」
ノゾムへの皮肉を口にして、ソウマはツバキたちから離れた。
「ノゾムは何があってもノゾムなんだね・・自分が許せないものには絶対に心を開かないんだ・・」
ノゾムの心境を理解していたタイチが、彼の揺るがない信念について口にする。
身勝手や理不尽に振り回されて、ノゾムの心は傷ついた。彼は身勝手や理不尽が正しいことにされるのを心から憎んでいて、その手の考えを持つ人には強い怒りをぶつける。
ムチャクチャを認めずに逆らい続ける。それがノゾムが存在意義と思っていることだった。
ゴロウも別荘の掃除をしていた。ノゾムが無事に戻ってきたことを、ゴロウは喜んでいた。
(よかったね、ノゾムくん・・僕も何か励ましができればいいかな・・)
これからもノゾムの支えになってあげたいと、ゴロウは心に決めていた。
そのとき、別荘のドアがノックされて、ゴロウが振り向いた。
「はーい。どちら様ですかー?」
ゴロウが答えてドアを開けた。その先にいた人物を見て、彼は目を見開いた。
「久しぶりだな、代々木くん。」
ゴロウの前に現れた男が、真剣な顔で声をかけた。
「シュンが死んだだと・・!?」
ララからの報告を聞いて、ジンキが目を見開いた。
「マックスたちにやられて・・私、あの人たちを絶対に許さない・・・!」
ララがノゾムたちへの憎悪をふくらませていく。
「シュンがいなくなったのなら、オレが張り切るしかねぇみたいだな。」
キリオが強気な笑みを浮かべて言いかけてきた。
「シュンのことを悪く言うなら、誰だろうと許さない・・!」
ララが目つきを鋭くして、キリオに飛びかかろうとした。
「やめろ、ララ!」
ジンキに怒鳴られて、ララが手を止める。ジンキの放つ鋭い視線と殺気を直感して、ララが恐怖を覚えて、金縛りにかかったように動けなくなった。
「お前が憎んでいるのはマックスたち。戦う相手が違うだろう・・」
ジンキが投げかけた言葉に、ララは頷くだけだった。
「キリオ、お前も挑発は慎め。ベルト奪還の任務は果たされていない。」
「ちっ・・」
ジンキが続けて注意を呼びかけて、キリオが舌打ちする。
「ララ、マックスたちを倒せ。ただしベルトは壊すことなく回収しろ。」
「分かりました・・その任務、果たしてみせます・・・」
ジンキからの指示を受けて、ララが頷いた。
「キリオはララを援護しろ。くれぐれも邪魔だけはするな。」
「分かった。分かりましたよ、社長・・」
ジンキが続けて指示を出して、ジンキが肩をすくめながら答える。ララとジンキはベルトとアニマルカードを奪うため、行動を開始した。
(ララも臆病を乗り越えたようだ・・シュンの死は極めて残念だが、得るものが全くないわけではなかった・・)
ララが躍起になっていることを、ジンキは喜んでいた。
(期待させてもらうぞ、ララ。今のお前なら任務を無事果たせることだろう。)
ララが精神的に強くなったと思って、ジンキは笑みを浮かべた。
仕事に区切りをつけて、ノゾムは別荘へ戻ってきた。そこで彼は別荘の前に車が止まっていたのを見て、目つきを鋭くする。
ドアを開けたノゾムが、ゴロウと一緒にいた男を見て、いら立ちを浮かべる。
「戻ってきたか、ノゾム・・」
「アンタは・・リョウガ・・!」
振り向いた男、リョウガにノゾムが声を震わせる。
「私を名前で呼ぶとは・・お前とは親子の縁はないということか・・」
リョウガがノゾムの態度を見てため息をつく。2人は親子である。
「何しに来た?・・オレはアンタの言うことは聞かない・・・!」
「私はお前を連れ戻しに来た。これからの神奈にはお前が必要なのだ。」
問い詰めるノゾムに、リョウガが呼びかける。
「勝手なことをぬかすな!オレはアンタの思い通りにはならない!」
「お前の考えなど聞いてない。お前も神奈のために全てを尽くせ。」
怒鳴りかかるノゾムだが、リョウガは冷徹な態度を変えない。次の瞬間、ノゾムが拳を振るってリョウガを殴り飛ばした。
「アンタは前から何も変わっていない・・自分のことしか考えていない、自分が正しいと思い上がっている・・オレが許せないヤツの1人のままだ・・・!」
倒れたリョウガを見下ろして、ノゾムが怒りを口にする。
「お前は変わってしまった。私の言う通りにすればいいのに、お前は感情的になって、愚かな道を走り続けている。」
リョウガは表情も口調も変えることなく、ノゾムに言い返して立ち上がる。
「お前を正しい道へ導けるのは私だけだ。お前は私に従っていればいい。」
「このヤロー!」
考えを変えないリョウガに激高するノゾム。彼がリョウガの首をつかんで持ち上げる。
「その気になれば、ここを没収することもできるのだぞ?」
「そんなことをしてみろ・・2度とオレの前に出てこれないようにする!」
リョウガが脅しをかけても、ノゾムの怒りをあおるだけである。ノゾムがさらにリョウガの首を絞める。
「ここで私の息の根を止めるか?・・そうしたところで、部下にはお前を連れてくることに手段を選ぶなと指示を出している・・お前が本当に首を絞めているのはお前自身だ・・」
「まだオレを勝手に決めるのか!」
それでも考えを変えないリョウガを、ノゾムが壁に押し付けてから、ドアから外へ放り出す。
「オレやオレの周りでふざけたマネをしたら容赦しないぞ!他のヤツにも伝えておけ!」
ノゾムが目を見開いて、リョウガに向かって怒りを叫ぶ。
「お前が今やっていることはムダだ。お前は私の元へ来る以外の道はない。」
リョウガはノゾムに言うと、車に向かっていってドアを開ける。
「今日は引き上げるが、近いうちにお前は私の前に現れることになる。」
リョウガはそう言ってから、車に乗ってノゾムたちの前を去っていった。
「アイツ・・まだ自分が悪いのが分かっていないのか・・・!」
リョウガへの憎悪をたぎらせるノゾム。彼の後ろ姿を見つめて、ゴロウは深刻さを感じていた。
ジンキのいる社長室。彼の机にある電話が鳴り出して、ジンキが取った。
「私だ・・そうか。だが既にこちらで指示を出しであるのだが・・」
ジンキが電話の相手と会話していく。
「どちらが結果を出したとしても、うまくいったときはそちらと提携を結ぶことを約束しよう。ではまた後で。」
ジンキは連絡を終えて、電話を置いた。
(手は打てるだけ打っておいても、それに越したことはない。我々にとってリスクが少なければな。)
ジンキは表情を変えずに心の中で呟く。ララたちとは別に、彼は新たな人物を動かそうとしていた。
「ノゾムの、お父さんが・・!?」
ゴロウからリョウガのことを聞いて、ツバキが動揺を覚える。
「ノゾムのお父さんは株式会社“神奈”の社長なんだ。」
「それって、あの大企業の!?」
タイチの話を聞いて、ツバキが驚く。
「ノゾムくんの話じゃ、自分のいうこと、やることが全て正しいと思っている人だよ。そういった考えの押し付けを何度もされて、ストレスが爆発して・・」
「それが、ノゾムが身勝手を許せなくなった理由・・・」
タイチが話を続けて、ツバキがノゾムの心境を察して胸に手を当てる。
「だからもうノゾムくんは、リョウガさんを父親だとは思っていない。ずっと敵だと思い続けるし、リョウガさんもきっと態度を変えないだろう・・」
ゴロウが言いかけて、ツバキとタイチが不安をふくらませていく。
(このままリョウガさんとの関係が悪くなったら、ノゾムはリョウガさんのところへ・・・)
エリカのときのように、ノゾムがリョウガのところへ襲撃に向かうのではないかと、ツバキは思っていた。
翌日、ノゾムはいつものように動物公園の世話をしていた。しかし彼はリョウガのことを考えて、いら立ちを噛みしめていた。
そのノゾムの様子を察して、公園の馬が心配して彼に寄り添ってきた。
「あっ・・悪いな、お前たちまで気分を悪くしてしまって・・」
ノゾムが馬の体を撫でて、互いに気分を落ち着かせていく。彼は動物たちの世話を続けて、作業に区切りを付けたところで休憩に入った。
そのとき、動物公園の道路を1台の黒いバイクが走り込んできた。乗っているのも黒いライダースーツとメットで身を包んでいた。
ライダーは取り出したライターに火をつけて、草木のあるほうへ放り投げた。
「アイツ!」
ノゾムが目つきを鋭くして、飛び出してライターを道の真ん中に蹴り飛ばした。地面に落ちたライターは火が消えて、草木などが燃えることはなかった。
ライダーがそのまま走り去って、ノゾムが追いかけながらタイガーカードを取り出して、ビースドライバーにセットした。
“タイガー!”
“チャージ・タイガー!タイガーマッハ!タイガーパワー!タイガータイガーランナー!”
タイガーランナーが駆けつけて、ノゾムが乗って走り出す。タイガーランナーが黒のバイクを追いかけて、距離を詰めていく。
タイガーランナーが並行したところで、ノゾムが黒のバイクを横から蹴り飛ばした。ライダーがバランスを崩して、バイクが横倒しになって地面を引きずる。
倒れてうめくライダーの前に、タイガーランナーから降りたノゾムが立ちはだかる。
「ふざけたマネをしてくれたな・・まずは顔を見せろ・・!」
怒りを覚えるノゾムが、ライダーのメットをつかんで外す。彼が男の素顔をノゾムに見せた。
「お前は誰だ・・何であんなマネをした・・!?」
ノゾムが問い詰めるが、男は逃げようとする。ノゾムが男を捕まえて、胸ぐらをつかむ。
「逃げるな!お前は誰だって聞いてるんだよ!」
ノゾムが強く問いかけても、男は答えない。
「どうしても言わないのなら、お前には2度とあんなマネができないようにする!」
ノゾムがつかんだまま、男をそばの壁に押し付けた。ノゾムはいら立ちを抱えたまま、タイガーランナーに戻った。
そのとき、ノゾムは周辺の物陰に潜んでいた影に気付いた。男の仲間ではないかと、彼は判断した。
(オレのことを見張って、オレたちに何か仕掛けている・・まさか、リョウガがオレを追い詰めようとして・・)
リョウガが仕掛けてきたと思って、ノゾムがさらなる怒りを覚える。
(アイツ・・そうまでして、オレに叩き潰されないと分からないとでもいうのか!)
リョウガへの憎悪をたぎらせて、ノゾムはタイガーランナーを走らせた。
ノゾムの様子を気にしたソウマとシゲル。2人が男を追っていたノゾムを追っていた。
「やっぱり何か起こってたな・・」
「ソウマは先にアイツを追ってくれ。オレのイグアナじゃ目立ちすぎるから・・」
ノゾムに呆れるソウマに、シゲルが呼びかける。
「しょうがないな・・すぐに追いついてこいよ、シゲル。」
“ウルフ!”
ソウマは言いかけてから、ウルフカードをビースドライバーにセットした。
“チャージ・ウルーフ!ウルフル・ウルフル・ウルフルスロットール!”
駆けつけたウルフルスロットルに乗って、ソウマはノゾムを追った。
「オレものんびりしていると、何もやることがなくなっちまうな・・」
シゲルもノゾムとソウマを追いかけて走り出した。
リョウガのいる会社のビルにたどり着いたノゾム。彼は止まることなく、タイガーランナーで正面玄関からビルの中へ突っ込んだ。
ボディガードをなぎ払ったノゾムが、タイガーランナーから降りる。
「お前はここで待っていろ・・かたを付けたら戻る・・・!」
タイガーランナーに呼びかけてから、ノゾムが階段を駆け上がった。彼の前に黒ずくめの男たちが立ちはだかる。
「お前たち、邪魔をするな!」
“マックス!”
ノゾムが怒鳴りながら、マックスカードをビースドライバーにセットした。
「変身!」
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
ビースドライバーの左上のボタンを押して、ノゾムはマックスに変身した。彼は銃や警棒を手にした黒ずくめの男たちをなぎ払って、上の階へ向かっていく。
“スリービースト。”
そして社長室のある階に来たところで、ノゾムはマックスへの変身を解いた。彼はドアを蹴破って、リョウガのいる社長室へ飛び込んだ。
「ノゾム、来たか。だがこういった荒々しい入室は感心しないな。」
リョウガが無表情でノゾムに言いかける。
「前に言ったはずだ・・オレたちに何かしようとするなら、容赦しないと・・・!」
ノゾムがリョウガに鋭い視線を向ける。
「それでどうするつもりだ?私に逆らうのか?」
「分かりきったことを・・もうお前を許しはしない・・アンタも、この会社も、オレの敵だ・・!」
リョウガが表情を変えずに問いかけて、ノゾムが目つきを鋭くして言いかける。
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
ノゾムが再びマックスへ変身して、リョウガに近づいていく。
「やはりお前だったか。情報は間違っていなかったか。」
リョウガが言いかけて、腰を下ろしていた椅子から立ち上がる。
「お前はオレをここまで怒らせた・・コイツになるのが卑怯なんて言葉は聞くつもりはない・・!」
「お前がマックスだというなら、私も私の力を出す必要があるな。」
怒りの言葉を告げるノゾムに、リョウガは口調を変えずに言いかける。
「ノゾム、そのベルトとカード、返してもらうぞ。」
「まさか、アンタ・・!?」
呼びかけるリョウガにノゾムが緊張を覚える。リョウガの姿が馬の頭をした怪人に変わった。
「ビースター!?・・アンタがビースターだと!?」
怪人、ホースビースターとなったリョウガに、ノゾムは驚きを隠せなかった。
「今すぐベルトとカードを渡せ。そうすれば命は助ける。」
「ふざけるな!お前の言いなりにはならないと言ったはずだ!」
要求するリョウガにノゾムが言い返す。
「ならば死を覚悟してもらう。抵抗はムダだと言っておく。」
リョウガが忠告を言いかけて、ノゾムに向かっていく。ノゾムがパンチを繰り出すが、リョウガに軽々とかわされる。
「この前はあえて抵抗しなかったが、今は力を示すことにする。たとえマックスになろうと、お前は私に逆らうことはできない。」
「オレのことを勝手に決めるな!」
リョウガが投げかける言葉にいら立つノゾム。彼が力を込めてパンチを繰り出すが、リョウガに左手で受け止められる。
「ぐっ!」
右手を握られてノゾムがうめく。リョウガが彼からビースドライバーを奪おうと、右手を伸ばす。
ノゾムがとっさに左足を振り上げて、リョウガの右手を払う。リョウガが左手を振って、ノゾムを床に叩きつける。
“マックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ビースドライバーの左上のボタンを2回押して、ノゾムがエネルギーを集めた右足を突き出した。リョウガが体にキックを受けて、ノゾムから引き離される。
リョウガはすぐに突進を仕掛けて、ノゾムを突き飛ばす。
「ぐっ!」
窓を破って外へ投げ出されたノゾム。地上へ落下する彼を、駆けつけてきたタイガーランナーが受け止めた。
「あ、ありがとうな・・助かった・・」
ノゾムが謝意を見せて、タイガーランナーが反応する。リョウガも窓から外へ飛び出して、ノゾムの前に降り立った。
「ただのビースターじゃないということか・・だとしても、オレはアンタに従う気はない!」
「お前は私に従う以外の道はない。たとえマックスになろうと。」
怒りを絶やさないノゾムと、態度を変えないリョウガ。
ノゾムがタイガーランナーを走らせて、リョウガへ突っ込んでいく。リョウガが加速してタイガーランナーとぶつかる。
「ぐっ!」
タイガーランナーが横転して、ノゾムも押し返されて倒される。
「なんて力だ・・だったらコイツで!」
“マキシマム!”
ノゾムが立ち上がって、ビースドライバーにあるマックスカードを取り出して、マキシマムカードをセットした。
“チャージ・マキシマーム!マックス・マキシ・マキシマーム!ビース・マキシマムライダー!”
彼はマキシマムフォルムへの変身を果たした。
「オレの怒りは限界突破!お前を倒して、オレはこの怒りの過去を消す!」
ノゾムが言い放って、リョウガに向かっていってパンチを繰り出す。だがリョウガは右手でノゾムの右のパンチを受け止めた。
「何っ!?」
攻撃を止められたことに、ノゾムが驚く。
「何度も言わせるな。お前は私に従うほかない。」
リョウガは口調を変えずに、ノゾムの右手を押し返す。
「このっ!」
ノゾムが右足を振り上げて、リョウガの左肩に当てて、彼から離れる。
「何度も言わせるなはオレのセリフだ・・オレは死んでもお前には従わない!」
ノゾムが怒りを叫んで、ビースドライバーの左上のボタンを2回押す。
“マキシマムチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムが大きくジャンプして、エネルギーを集めた両足をリョウが目がけて繰り出す。リョウガが握った両手に力を込めて、前に突き出して迎え撃つ。
「ぐあっ!」
リョウガの拳に押し返されて、ノゾムが突き飛ばされた。マキシマムフォルムでも、彼はリョウガの力の前に歯が立たない。
「マキシマムの力が、通用しないだと・・!?」
立ち上がるノゾムが打つ手を見失って、危機感を覚える。
「これで終わりなら、おとなしくベルトとカードを返してもらおう。」
リョウガがビースドライバーを奪おうと、ノゾムに迫る。
「ノゾム!」
そこへソウマがウルフルスロットルに乗って駆けつけてきた。
“フォックス!”
ソウマがビースドライバーにフォックスカードをセットした。
「ビースター、こんなところにまで・・変身!」
“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”
ビースターへの怒りをたぎらせて、ソウマがフォックスに変身した。
「フォックスも来たか。ならばヤツのベルトもいただく。」
リョウガがフォックスのビースドライバーを奪おうと、ソウマにも狙いを向ける。ソウマがウルフルスロットルを加速させて、リョウガに向かっていく。
「一気にケリを着けてやるよ!」
“ウルフチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ソウマがビースドライバーの左上のボタンを2回押す。ウルフルスロットルからエネルギーがあふれて、さらに加速する。
次の瞬間、リョウガのスピードが一気に高速になった。彼が振りかざした右腕が当たり、ソウマがウルフルスロットルから叩き落とされる。
「ぐあっ!」
地面を横転してソウマがうめく。リョウガはパワーだけでなく、スピードも驚異的であることを示した。
「オ、オレのハイスピードが、通じないだと・・!?」
顔を上げたソウマが驚きを隠せなくなる。
「2人とも、ベルトとカードを渡してもらおう。でなければ命の保障もなくなるぞ。」
リョウガがノゾムとソウマに忠告を送る。
「コイツはさすがにやばいか・・ノゾム、1回出直すぞ!」
「仕方がないか・・・ソウマ、オオカミで真っ直ぐ全速力だ!」
互いに呼びかけるソウマとノゾム。ソウマが起き上がったウルフルスロットルに合流する。
「何をしてもムダだ。私から逃げられるだけの力はお前たちには・・」
リョウガが言いかけて、次の攻撃を仕掛けようとした。するとノゾムが握った右手を地面に叩きつけて、土煙を巻き上げた。
「視界をさえぎったところで、私には無意味だ。」
リョウガが冷静に体に力を入れて、衝撃波を放って土煙を吹き飛ばす。しかしそのときにはノゾムたちの姿は消えていた。
「素早く逃げたか。姑息なマネをする・・だが私に同じ手は2度通じないと言っておく。」
リョウガは呟いてから、人の姿に戻って会社へと戻っていった。
ノゾムとソウマを追いかけていたシゲル。彼はリョウガの会社に入って、社長室に来ていた。
「ノゾムの仕業か?派手にやったものだな・・」
物が散乱している社長室を見渡して、シゲルが苦笑を浮かべる。
その中でシゲルは1枚のカードを見つけた。彼はそのカードを拾って見つめる。
「これは、アニマルカード?・・エックス・・・?」
カード「エックスカード」に疑問符を覚えるシゲル。
「これも、ベルトに使えるのか・・?」
エックスカードをビースブレスに使おうとするシゲル。だが彼は誰かが近づいてきていることに気付いた。
「長居は無用みたいだ・・」
シゲルは小さく呟いてから、窓から外へ飛び出した。外で待機していたイグアカートに乗って、彼は会社を後にした。
社長室に戻ってきたリョウガは、中に誰かが入ってきたことにすぐに気付いた。
(ムダな時間を過ごすことになった。すぐにノゾムたちの行方を追わなくては。)
体勢を整えることを考えながら、リョウガは社長室を見回っていく。
(エックスカードがなくなっている・・!?)
エックスカードがなくなっていることにも気付いて、リョウガが目つきを鋭くする。
「誰か入ったのか・・ヤツがエックスカードを・・・」
エックスカードがなくなったことに、リョウガは普段見せない動揺をあらわにした。