仮面ライダーマックス

第13話「ネコの優しさと揺らぐ信念!」

 

 

 コウジが倒されたという知らせは、すぐにシュンの耳に届いた。

「ビーストライダー、フォックス・・スピードでコウジを打ち負かすとは・・・」

 ソウマの変身するフォックスのことを考えて、シュンは深刻になっていた。

「だが厄介なのはスピードだけだ。強靭な耐久力があれば、どうにかなるものだ。」

 ソウマ打倒の策を考えていくシュン。彼は通信機を取り出して、連絡を試みる。

亀野(かめの)を私のところに呼んでくれ。」

“亀野ガン様ですか?分かりました。”

 シュンの呼びかけに、男の声が返ってきた。シュンは連絡を終えて通信機をしまった。

(ビーストライダーのベルト、2つとも我々の手に納めなければな・・)

 ビースドライバーの奪取を企んで、シュンは部下に指示を出していった。

 

 ビースターと戦う戦士が増えたことを実感したノゾム。しかしソウマはゴロウの家や別荘に移ることなく、これまでの住まいでの生活を続けることにした。

「ソウマお兄ちゃんもこっちにくればよかったのに・・」

 タイチがソウマのことを考えて肩を落とす。

「ムリを言ってはダメだよ、タイチくん。ソウマくんにはソウマくんの都合があるんだから。」

「うん・・でも、たまに会うことはできるから、さびしくはないね。」

 ゴロウに言われて、タイチが頷いて苦笑いを浮かべた。

「オレはこのままここでやっていくだけだ・・動物のことはほっとけないからな・・」

 ノゾムがこれからの自分の生活について口にする。

「本当にありがとうね。いつも手伝ってくれて、ノゾムくんのおかげで助かっているよ。」

 ゴロウが笑顔を見せて、ノゾムに感謝する。

「オレなんかがゴロウさんの力になれているなんて・・・」

「照れなくていいって。ノゾムくんは立派な人間だよ。」

 目をそらすノゾムに、ゴロウが気さくに答える。

「ノゾム、褒められて嬉しくなっているみたい・・」

「ノゾムは素直だからね。がんばって認められたり報われたりすると、気分をよくするんだ・・」

 ツバキとタイチが小声でノゾムのことを話していく。

「動物の世話をして動物たちと心を通わせている。ビースターをやっつけて間違いを正している。自分のしていることが報われて、ノゾムは心の中で喜びを感じているかもしれない・・」

「そうかもだね・・正義感というよりは、自分の心のよりどころを守っているって感じだね・・」

「それが大きな原動力だ・・いつものノゾムにとっても、マックスのときも・・」

「それが私たちにとって、すごく心強くなっていることでもある・・・」

 タイチとツバキが小声で話を続ける。

「2人とも何をヒソヒソ話しているの?」

 ゴロウが声をかけて、我に返ったツバキたちが苦笑いを浮かべた。

 

 人気のない夜の小道を歩く1人の小太りの男。彼は元気なく小道を歩いていた。

 そんな男の前から3人の不良がやってきた。その中の1人が男にぶつかってきた。

「いってー!すっげーいてーよー!」

 不良がぶつかった腕を押さえて悲鳴を上げる。

「おいおい、大丈夫かよ!?

「おい・・こりゃ骨が折れてるぜ!」

 他の不良たちが痛がる不良の状態を確かめて声を上げる。

「そ、そんなぁ!?た、大変だぁ!僕に診させてください!」

 男が動揺して、不良に近寄る。

「おい、何すんだよ、いきなり!?

「僕、これでも医者の知識あるんで、応急措置ぐらいならここで・・!」

 怒鳴る不良の腕を診ようとする男。

「いい加減にしろよ!骨折れてるって言ってんだろうが!」

 不良がいら立って男を突き飛ばす。

「イタッ!」

 男がしりもちをついて、たまらずお尻をさする。

「オレの腕折ったばかりか、ふざけたマネしやがって!」

「さっさと治療費と慰謝料払えばいいんだよ!」

 不良たちが怒鳴って、男たちに迫る。彼らの言い分に男が不満を覚える。

「そういう一方的なのはよくないよ・・お金さえもらえればそれでいいみたいに・・・」

「コイツ、ケガさせといて治療費踏み倒す気かよ!?そんなんで許してもらえると思ってんのかよ!?

 不良たちが怒りを爆発させて、その1人が男につかみかかった。だが男にその腕をつかみ返される。

「イダダダダ・・何だ、コイツの力・・!?

 不良が痛がって悲鳴を上げる。男が彼の腕を押すように放す。

「僕はそういう強引で勝手な人から、そういうことをされると・・・!」

 男の姿に変化が起こる。カメを思わせる怪物の姿になった。

「ムチャクチャにしたくなっちゃうじゃないかー!」

 男が変わった怪人、タートルビースターが怒りの声を上げる。

「なっ!?バ、バケモノ!?

「や、やべぇ!逃げるぞ!」

 不良たちが恐怖して、タートルビースターから逃げ出す。だがすぐにタートルビースターに回り込まれる。

「ちょっとー!骨折れてるどころか、しっかり動いているじゃないかー!ウソついていたのかー!」

「う、うるせぇ!」

 さらに怒鳴るタートルビースターに、不良の1人が叫んで殴り掛かる。だがタートルビースターに逆に殴られて突き飛ばされる。

「やべぇ!殺される!」

 不良たちが絶望して後ずさりする。

「ホントにサイテーだよ、お前たちー!許さないぞー!」

 タートルビースターが不良たちに向かって、握った手を振りかざす。

「ギャアッ!」

 不良たちが絶叫を上げて、倒れて動かなくなった。

「ホントに・・どうしょうもない人たちなんだから・・・」

 タートルビースターから元の人の姿に戻った男が、肩を落としてため息をつく。

「ここにいましたか、亀野ガン様。」

 そこへ黒ずくめの男が現れて、男、ガンに声をかけてきた。

「またエックスコーポの仕事?そっちの仕事はあんまり乗り気にならないんだよねぇ。無理やりなところもあるし・・」

「その分、報酬は多く出します。申し出ていただければ配慮いたします。」

 やる気を見せないガンに男が告げる。

「まぁ、しょうがないね。そういう契約になってるんだからねぇ・・」

 ガンはまたため息をついてから、男の話を聞くことにした。

 

 エックスビースのことを調べようとするユウキとセイラ。2人はエックスコーポレーションの施設の近くまで来ていた。

「またここに来たけど・・また門前払いされてしまうんじゃ・・・」

「でも行かなくちゃ、オレたちはエックスビースに狙われ続けることになる・・いいようにされる前に、オレたちがこんな不条理を終わらせないと・・・」

 不安を口にするセイラに、ユウキが決心を告げる。

「ヤツらの策略で、オレたちは世界の敵に仕立て上げられるかもしれない・・それでもこのままでいいなんて、きっと我慢できない・・」

「だから、エックスビースのビースターを、1人ずつ倒していくしかない・・・」

 ユウキとセイラが言葉を交わして頷き合う。2人は施設へ乗り込む決意を固めた。

「こんなところで何をやっているのですかな、2人とも?」

 そこへ声をかけられて、ユウキたちが緊迫を覚える。2人の前に現れたのはシュンだった。

「あなたは?・・・もしかして、ここの施設の・・!?

「お前たちのことは聞いている。裏切り者のビースターだな。」

 身構えるユウキに、シュンが鋭い視線を向ける。

「オレたちはあなたたちの味方になったつもりはない。だから裏切ったことにもならない。」

「少なくとも敵であることに変わりない。従うつもりがないなら排除するだけだ。」

「そういう考えなら、あなたもオレたちの敵だな・・・!」

 敵意を向けるシュンに、ユウキが怒りを見せる。彼の体がドラゴンビースターに変わった。

「我々の力を借りずにビースターとなった数少ない事例か。」

 シュンがユウキを見て呟く。

「お前もエックスビースのビースターなら、オレはお前も倒さないといけない・・オレたちが安心して暮らせるようにするために・・・!」

 ユウキが鋭く言って、シュンに向かって歩を進める。

「だがデータを照合させて、お前たちはオレには勝てない。お前1人ではオレのビースターとしての姿を見せるまでもない。」

「ビースターなのに、ビースターの力を使わないというの・・!?

 落ちつきを崩さずに告げるシュンに、セイラが驚きの声を上げる。

「あまりにもオレたちを見くびりすぎだ・・後悔しても知らないぞ!」

 ユウキがシュンに飛びかかり、握った右手を振りかざす。だがユウキの右手はシュンに当たる直前で止まった。

「なっ!?

 攻撃が通じないことに驚くユウキ。彼のパンチは見えない壁に止められていた。

「私はビースターだが、並みのビースターではない。上位のレベルに達すれば、ビースターとしての姿にならなくても、ビースターの力を使うことができる。」

 シュンが落ち着いたままユウキに向けて語る。彼が右手をかざしたことで見えない壁が出て、ユウキの攻撃を防いでいた。

「これが力の差というものだ。変えようのない絶対的のな。」

「それで納得できるなら、オレたちは戦おうとも思わない・・!」

 シュンの告げる言葉に反論して、ユウキが右手に力を込める。しかしそれ以上右手を押し込むことができない。

「納得できる、できないの問題ではない。変えようのない現実だ。」

 シュンは表情を変えずに、右手に力を加える。衝撃波が発せられて、ユウキが突き飛ばされる。

「ぐっ!」

「ユウキ!」

 地面に倒れたユウキに、セイラが叫ぶ。彼女もシュンに目を向けて、キャットビースターになった。

「霧生ユウキだけでなく、金子セイラも身の程知らずとは・・」

 シュンがため息をついて、前進に力を入れる。彼の姿がライオンのような姿の怪人に変わった。

「ムダに時間は使うつもりはない。今ここで、お前たち2人を始末させてもらう。」

 シュンが言いかけると、セイラに向かって飛びかかる。

「うっ!」

 シュンが振りかざした右手の爪に切り裂かれて、セイラが突き飛ばされる。

「セイラ・・!」

 ユウキが立ち上がって、セイラに迫るシュンに飛びかかる。ユウキが繰り出すパンチを、シュンは軽々とかわしていく。

「セイラは逃げるんだ!オレもすぐに追いつく!」

「ユウキ!でも・・!」

 ユウキが呼びかけて、セイラが戸惑いを覚える。

「オレたちはやられるわけにはいかない!体勢を立て直そう!」

 ユウキがシュンに組み付いて、セイラにさらに呼びかける。

「ユウキ・・・分かった・・!」

 セイラが聞き入れて、施設のそばから離れていった。

「逃げることも許されないぞ。」

 シュンがユウキの腕をつかんで投げて、地面に叩きつける。すかさずシュンは足を振り下ろして、ユウキの体を踏みつけた。

「ぐっ!」

 重みのある一撃を受けて、ユウキがうめく。攻撃の衝撃で一瞬体が麻痺して、ユウキはドラゴンビースターから元に戻った。

「すぐにとどめを刺すべきだが、金子セイラを逃がしてしまうのは状況悪化につながる・・・」

 状況を分析して、シュンは1度人の姿に戻って通信機に呼びかけた。

「霧生ユウキを追い詰めた。私はこれから金子セイラを追う。代わりにとどめを刺しておけ。」

“了解。”

 シュンの指示を受けて、連絡先の男が答えた。シュンは視線をユウキからセイラが逃げたほうに移して、走り出してスピードを上げた。

 

 シュンから辛くも逃げることができたセイラ。キャットビースターから人の姿に戻った彼女は、人混みに紛れて窮地を切り抜けようとした。

(早くあの人を振り切って、ユウキを助けに行かないと・・ビースターのことだから、タイチさんたちは巻き込めない・・・!)

 タイチたちに助けを求められないことを痛感して、セイラは緊張をふくらませていく。

 そのとき、セイラは必死に駆けていく少女と、追いかける3人の男を目撃した。少女が襲われているのだと、セイラは直感した。

(身勝手な人間・・こんなときに・・・!)

 自分が憎む人間を目撃して、セイラが激情に駆られた。彼女も男たちを追って走り出した。

 

 その頃、ノゾムは1人通りを歩いていた。彼は気分任せにふらっと外へ出ることが多い。

(ゴロウさんやみんなのためになっている・・悪くないかもな、こういうのも・・)

 1つの安らぎを感じて、ノゾムは心の中で呟いて微笑んでいた。

 そのとき、ノゾムは少女と男たち、そしてセイラが走っていくのを目にした。

「アイツは・・・」

 セイラの様子を気にして、ノゾムも彼女を後を付けることにした。少女は人気のない倉庫で行き止まりになって、追い詰められた。

「鬼ごっこはおしまいだぜ。今度はデートの時間だ。」

「オレたちと楽しいとこ、たくさん行こうよ〜。」

 男たちが笑みを浮かべて、手招きをしながら少女に迫る。

「私なんかよりも私が相手をするよ。」

 その男たちにセイラが声をかけてきた。

「何だ?・・おっ!こっちのかわい子ちゃんじゃん!」

 男たちがセイラを見て喜びの声を上げる。男たちがセイラに注目している間、少女が彼女に感謝して小さく頷いてから、この場を離れた。

「さぁ、どこへデートへ行こうか〜?」

 男たちが笑みを浮かべて、セイラに近づいていく。

「どこへも行く必要はないよ・・お前たちのような人たちは、いなくなって当然なのだから・・・!」

 目つきを鋭くしたセイラがキャットビースターとなった。異形の姿となった彼女を目の当たりにして、男たちが驚いて後ずさりする。

「バ、バケモノ!?どうなってるんだ!?

「冗談じゃねぇ!早く逃げろ!」

 男たちが恐怖して、セイラから慌てて逃げ出す。だが彼女にすぐに回り込まれる。

「あなたたちのような人がいい気になっていいこと・・絶対にない・・・!」

 憎悪をふくらませるセイラが、男たちに飛びかかって爪を振りかざす。体を切られた男たちが倒れて動かなくなる。

 自分たちが敵だと認識した相手を葬ったことに頷いて、セイラは人の姿に戻った。

 そのとき、セイラは後ろにまだ人がいることに気付いて、緊張を覚える。振り返った彼女の視界に入ったのは、後を付けてきたノゾムだった。

(ノ、ノゾムさん!?・・み、見られた・・私が、ビースターとなって人を殺したところを・・・!)

 ノゾムに自分がビースターであることを知られて、セイラが動揺を隠せなくなる。

「アンタ、ビースターだったのか・・・!?

 ノゾムが目つきを鋭くして、セイラに問い詰める。

「殺したのか・・今の連中を・・・!?

「でも、私がやったのはただの人間じゃない・・自分たちのことしか考えてない、最低なヤツ・・・!」

 セイラが声を振り絞って反論する。彼女は身勝手な人間への憎悪を口にする。

「まさかアンタも、身勝手なヤツを憎んでるのか・・!?

 ノゾムが投げかけた問いかけに、セイラが小さく頷く。

「誰が見ても間違っていることが、正しいことにされる・・そんなことが許されている世界を、私は絶対に認めない・・・!」

「間違いを正しいことにしている・・それはビースターだけじゃないってことか・・・」

 身勝手な人への憎しみを訴えるセイラに、ノゾムが息をのむ。

「これは人間もビースターも関係ないってことが分かった・・そしてどっちでも、敵なら倒すだけ・・!」

「ビースターのほうも、みんなの味方になろうってヤツもいる・・そういいたいのか・・・?」

「それだけを強調したいわけじゃないけど・・私は、誰かを弄んだり利用したりするのが許せないのは間違いない・・」

 ノゾムに向けて自分の正直な思いを口にするセイラ。この信念を貫きたいと、彼女は思っていた。

「オレだけじゃなかったみたいだ・・身勝手なヤツらが許せないって思っているヤツが・・・」

 セイラも自分と同じ考えを持っていることに、ノゾムは戸惑いを感じていた。

「いけない・・早く戻って助けに行かないと・・!」

 セイラがユウキのことを思い出して、エックスビースの施設に戻ろうとした。

「ここにいたか、金子セイラ。」

 そのとき、セイラとノゾムの前にシュンが現れた。

「ん?お前は・・お前もここにいたとはな。」

 シュンがノゾムに目を向けて言いかける。

「何だ、お前は!?お前もビースターなのか!?

「お前も我々に従え。さもなくば無事ではいられないぞ。」

 問いかけるノゾムにシュンが呼びかける。しかしノゾムは彼の言葉を聞き入れない。

「そんなこと言われて言いなりにあるオレじゃないんだよ・・!」

「選択肢以外のお前の意思は反映されることはない。2つのうちどちらを選ぶか、すぐに決めろ。」

「オレのことを勝手に決めるな・・オレはそういうのが我慢ならないんだよ・・!」

「決めないならば排除するだけだ。」

 自分の意思を貫くノゾムに対して、シュンが右手をかざして衝撃波を放とうとした。

「ノゾムさん!」

 セイラがノゾムの腕をつかんで、シュンから逃げ出す。

「逃がしはしない。」

 シュンが2人を追って走り出す。彼は目だけでなく、感覚でも2人の行方を探っていた。

「私が注意を引き付けますから、ノゾムさんは逃げてください・・!」

 セイラはノゾムに呼びかけてから、キャットビースターになる。彼女はノゾムから離れて、シュンに向かっていく。

「おい!」

 ノゾムが呼び止めるが、セイラがシュンを食い止めようとする。

「ヤツを庇って私に刃向かうか。ならばお前から先に始末をつける。」

 シュンがライオンビースターとなって、シュンを迎え撃つ。2人が組み付いて、倉庫の壁を突き破った。

「セイラ!・・くそっ!」

 いら立ちを覚えるノゾムが、セイラを追いかけていった。

 

 ソウマはビースターの行方を追っていた。日常の裏で暗躍するビースターをしらみつぶしに倒していこうと考えていた。

(ビースターはこの街中にも隠れて、何かやらかしている・・オレが見つけ出して、ブッ倒してやる・・・!)

 ビースターへの怒りを心の中でふくらませていくソウマ。

(ビースターのせいで、オレたちは・・・!)

 記憶を呼び起こして、手を強く握りしめるソウマ。その記憶の出来事が、彼のビースターへの憎しみの原動力となっていた。

 そのとき、ソウマはビースターの姿となっているセイラとシュンが転がっていくのを目撃した。

「ビースターが2人!?・・一石二鳥ってヤツだな・・!」

 ソウマは一瞬笑みを浮かべてから、セイラたちを追いかけた。

 

 ノゾムを助けようとシュンに果敢に挑むセイラ。しかしシュンの力に歯が立たず、彼の攻撃をぶつけられて突き飛ばされる。

「力の差は火を見るよりも明らか。それを思い知らされても理解しないとは、実に愚かしい・・」

 倒れているセイラを見下ろして、シュンが肩を落とす。

「そろそろとどめを刺させてもらう。やらなければならないことは増えているのだから。」

 シュンがセイラにとどめを刺そうと、右手に力を入れる。何とか立ち上がるセイラだが、体力を消耗して呼吸を乱していく。

 そのとき、シュンはソウマが来たことに気付いて、視線を移した。

「フォックス・・向こうからやってくるとは・・」

 ソウマが来たことに一瞬喜ぶが、シュンは状況を考えてすぐに喜びを抑えた。

“フォックス!”

 ソウマがビースドライバーにフォックスカードをセットした。

「変身!」

“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”

 ビースドライバーの左上のボタンを押して、ソウマがフォックスに変身した。彼が変身したところで、セイラも姿を視認した。

「マックス!?・・似ているけど違う・・・!?

 フォックスの姿を見て、セイラは緊張をふくらませていく。

「オレの強さは疾風迅雷!2人まとめて速攻で倒す!」

 ソウマが言い放って、セイラとシュンに飛びかかる。2人の間に割って入ると、ソウマがセイラを蹴り飛ばして、シュンへさらにパンチとキックを繰り出す。

「やはりスピードは指折りか・・・!」

 ソウマの力を分析して、シュンが呟きかける。

「追いかけっこは好きじゃないんだよ。だからオレに倒されろ!」

 ソウマが不満の声を上げて、シュンをキックで蹴り飛ばす。宙で体勢を整えて着地したシュンを見て、ソウマがビースドライバーの左上のボタンを2回押す。

“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”

 ソウマがスピードに乗せて前にジャンプして、エネルギーを集めたキックを繰り出した。

「ぐっ!」

 速さのあるキックを回避しきれず、シュンが蹴り飛ばされて姿を消した。

「逃げられたか・・まずはこっちを先にするか・・・!」

 ソウマが気持ちを切り替えて、セイラに振り返る。

「この人も、ビースターを倒そうと考えている・・同じビースターと戦っている、私たちも敵・・・!」

 ソウマに攻撃されることを悟って、セイラが身構える。彼女は向かってきたソウマを迎え撃った。

 

 セイラを追いかけて、ノゾムが必死に走る。彼はセイラがソウマと戦っているのを目撃した。

「ソウマ・・あのビースターがセイラだと知らないで・・・!」

 ノゾムがソウマとセイラを見て、心を揺さぶられる。

“誰が見ても間違っていることが、正しいことにされる・・そんなことが許されている世界を、私は絶対に認めない・・・!”

 ノゾムの心にセイラの思いの言葉がよみがえる。自分が共感する思いが、ノゾムを突き動かした。

“マックス!”

 彼がマックスカードをビースドライバーにセットした。

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 ビースドライバーの左上のボタンを押して、ノゾムはマックスに変身した。

「来たのか・・コイツ以外にももう1人ビースターがいるんだ!コイツを倒したら追いかける!」

 ソウマがノゾムに気付いて呼びかける。ノゾムはもう1人のビースターがシュンであることをすぐに理解した。

 ソウマが構えを取って、セイラへの攻撃を続けようとした。ノゾムが彼に、そしてセイラに目を向ける。

(あの人も来た・・2人も相手にしたのでは、さすがに・・・!)

 2人のビーストライダーを相手にして、セイラが危機感をふくらませていく。ソウマが彼女に対して右手を握りしめた。

「待て・・」

 そのとき、ノゾムがソウマの右腕をつかんで止めてきた。

「ちょっと、何だよ、いきなり!?

「コイツは悪いビースターじゃない・・オレと同じ考えの持ち主だ・・・!」

 突然のことに驚くソウマに、ノゾムが言いかける。彼はセイラに共感して、彼女を守ることを選んだ。

「何を言っているんだ!?ビースターは悪いヤツ!お前だってそう思っていたじゃないか!」

 ソウマは納得いかず、ノゾムの手を振り払う。

「ビースターは身勝手なヤツばかりだと思っていた・・だけどそうばかりとは限らなかったんだ・・・!」

 ノゾムが新しく見出した考えを告げる。彼は自分と同じ気持ちのセイラを守ろうと心に決めた。

「ビースターは人間を苦しめる!それを止めるには、ビースターを倒さなければならないんだ!」

 ソウマは不満を言い放って、セイラに向かおうとした。

「やめろ!」

 ノゾムがソウマの肩をつかんで引き留める。ソウマが押されて、たまらずしりもちをつく。

「邪魔するな!ビースターは1人残らず倒さなくちゃならないんだよ!」

「コイツだけはやらせない・・身勝手な連中の間違いを正すヤツだからな!」

 怒鳴るソウマだが、ノゾムは退かない。

「どうしても邪魔するなら、アンタでも容赦しないぞ・・!」

 不満が頂点に達したソウマが、セイラを守ろうとするノゾムにも攻撃を仕掛けようとしていた。

 

 

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