仮面ライダーマックス

第8話「ビーストの覇者!」

 

 

「タカの力を持ったマックスかぁ・・僕も見たかったなぁ〜♪」

 タイチからマックスの新たな姿「ホークフォルム」のことを聞いて、感動を覚える。

「ホイホイ見せるもんじゃない。第一マックスのことは言いふらしていいもんでもないんだろ?」

「それはそうだけど〜・・」

 ノゾムが愚痴をこぼして、ワタルが肩を落とす。

「そのうちワタルにも見せることがあるかもな・・」

「ホント!?期待しちゃうんだからねー♪」

 呟くノゾムにワタルが喜びを見せる。

「ホントに内緒だよ、マックスのことは・・僕たちの身近な人だと、父さんとユウキさん、セイラさんだね・・・」

 タイチがワタルに注意をするが、セイラのことを考えて上の空になる。

「タイチお兄ちゃん?・・どうしたの、お兄ちゃん・・・?」

 ワタルが声をかけるが、タイチは聞こえていなかった。

「タイチ、マジでどうしたんだ?最近ヘンだぞ・・」

「もしかして、セイラさんに惚れちゃったんじゃ・・・」

 タイチに疑問符を浮かべるノゾムと、セイラのことを思い出す。

「そんなに入れ込んじまったのか、いきなり・・?」

 ノゾムもタイチに呆れて肩を落とす。

「ダメだよ、お兄ちゃん、お姉ちゃん・・タイチお兄ちゃん、全然自分の世界に入ってる・・」

 ワタルもタイチの様子がおかしいことに気付いて、首をかしげていた。

 

 トシヤからエックスビースのことを聞いたユウキとセイラ。エックスビースの行方を追うことにした2人は、エックスコーポレーションのことも耳にしていた。

「エックスコーポレーション・・日本の大企業の王手・・」

「その裏でビースターが潜んでいるというのか・・・」

 セイラとユウキがエックスビースのことを考えて、深刻な顔を浮かべる。

「国や世界をも動かす集団だ。情報操作されていれもおかしくない・・」

「私たちが憎んでいる存在・・その大元といえるかもしれない・・・」

 ユウキとセイラは言いかけてから、エックスコーポレーションの社屋を目指した。

「何をお探しですかな、2人とも?」

 その道中、2人は声をかけられて足を止めた。彼らの前に灰色のスーツを着た男が現れた。

「何ですか、あなた?オレたちに何か・・?」

「いえ、ただ注意をしに来ただけですよ。この辺りは少し危険ですので。」

 問いかけるユウキに男が微笑んで答える。

「何が危険なんですか?私たちのことは私たちでやりますので、気にしなくても大丈夫です・・」

「わざわざお気遣いありがとうございます・・」

 セイラとユウキが一礼して、男の前から歩き出す。

「危険なのが、エックスコーポレーションと言ってもかな?」

 男が口にした言葉を耳にして、ユウキたちが足を止めた。

「エックスコーポを知っているのですか!?・・もしかして、そこの人じゃ・・・!?

 振り返ったユウキが男に問い詰める。

「これ以上の詮索は危険だと言ったはずだ。無事でいたかったらおとなしく引き返すことだ。」

 男は顔から笑みを消して、ユウキたちにさらに忠告を送る。彼はきびすを返して、2人の前から去った。

「どういうことなのかな・・ああいう言い方をして、おびき寄せる罠を張っているとか・・・?」

「だとしても、オレたちは思い通りにはならないよ。だってオレたちは、悪いことをしておいて正しいことだと平気で思っている敵を倒すために戦うと決めたんだから・・」

 男に疑問を感じるセイラと、自分たちの意思を貫こうとするユウキ。2人は男の忠告を聞き入れずに、エックスコーポレーションの社屋を目指した。

 

 ユウキとセイラがエックスコーポレーションへ向かったことは、灰色のスーツの男は分かっていた。彼はスマートフォンで連絡を取っていた。

「2人は忠告を聞かずに、そちらに向かうようです。」

“やはり若いな。大人の言うことはきちんと聞いたほうがいいというのに。”

 報告する男に、連絡の相手が言葉を返す。

「いかがいたしますか?今なら止めることも始末もできますが・・」

“いや、それには及ばん。門前の者たちに対応を任せる。”

「分かりました。では私は本部に戻ります。」

“待て。お前には別の仕事を任せる。”

 連絡を続ける男に、声の主が指示を出す。

“ビースドライバーとアニマルカードを回収せよ。あれは我々のものだからな。”

「了解です。直ちに回収に向かいます。」

 指示を受けて連絡を終えた男。彼は次の仕事に向けて行動を開始した。

 

 エックスコーポレーションの本社は街の外れに位置していた。地上からは門をくぐり、大きく広がる庭を通り抜けた先に社屋が点在していた。

 そしてどの門にも2人以上の門番が滞在していた。

 エックスコーポレーションの正門に、ユウキとセイラは向かっていた。2人に気付いた門番の1人が、彼らに近づいた。

「ここは私有地で、ここから先へ行くことはできません。何か御用ですか?」

「ここ、エックスコーポレーションですよね?エックスビースについてお聞きしたいことが・・」

 声をかけてきた門番にユウキが問いを投げかける。

「エックスビース?何ですか、それは?おかしなことを言わないでください。」

 門番は表情を変えずにユウキたちに言葉を返す。

「オレたちは聞いてきたんです。ここに来ればビースターのことが分かると・・」

「お帰りください。でなければ警察に連絡しますよ。」

 さらに言いかけるユウキだが、門番に警告されて追い払われる。

「ユウキ、もう帰ったほうがよさそうだよ・・・」

「・・し・・仕方ないか・・・!」

 セイラに呼び止められて、ユウキは仕方なく引き下がることにした。門番は再び門の前での警備に戻った。

 

 ユウキとセイラが来たことは、すぐにエックスコーポレーションの社屋にも伝わった。

「やはり来たか。来ようが来まいが、我々にとっては大した違いにはならないが。」

 社屋の社長室にて1人の男が言いかける。エックスコーポレーション社長、黒木(くろき)ジンキである。

「あのまま追い返したとのことですが、いかがいたしますか?」

「いや、追わなくていい。仮に火の粉になったとしても、そのときに払えばいいだけのこと。」

 社員が質問して、ジンキが笑みを浮かべて指示を出す。

「君は仕事に戻っていい。報告ありがとう。」

「分かりました。失礼します。」

 ジンキがお礼を告げて、社員が一礼して社長室を出た。

「誰もこの組織を覆すことはできない。たとえビースターであろうと。たとえ覆したところで、私にとって代わろうとしたところで、世界全てを敵に回すことになるのだから。」

 ジンキが強気な笑みを浮かべて呟く。彼は自分やエックスコーポレーションの君臨に揺らぎはないと確信していた。

 

 動物公園での仕事を終えたツバキは、1人公園のそばの道を歩いていた。彼女は父や彼の施設の研究員たちのことを思い返していた。

(お父さん・・みんな・・・)

 父がいない寂しさを感じて、ツバキが自分の胸に手を当てる。

「やっぱ親父のことが気になってしょうがないか・・」

 そこへノゾムがやってきて、ツバキに声をかけてきた。

「ノゾム・・うん・・父さんはどこかで生きている。そう思っているから、私は諦めないでいられる・・そんな気がする・・・」

「心の支えってヤツか・・オレは、自分の支えになってるのが、自分以外で何なのかが、よく分かってない・・」

 父の無事を信じるツバキに対して、ノゾムはハッキリしていない自分の考えを口にする。

「ノゾムは、まだ自分しか信じられていないのかな・・・?」

「分かんない・・オレだけなのか、誰か信じたいヤツがいるのか・・・」

 ツバキが投げかける問いに対して、ノゾムは答えを出すことができない。

「だから、オレがそのときに納得できるようにやるだけだ・・オレが許せないものには絶対に従わない・・相手が何をしてきても、オレはこの考えを変えるつもりはない・・!」

「それがノゾムってことだね。」

 自分を貫こうとするノゾムに、ツバキが微笑んで頷いた。

「気持ちの整理なんて、すぐに簡単にできることじゃないんじゃないかな。できたらこんなに悩んだり、イヤな気分になったりしないはずだよ・・」

「けど、そうなったほうが楽かなとはオレは思う・・後になってためになるとか言うけど、イヤな気分になるよりは・・・」

 思うように気持ちの整理ができないことに、ツバキもノゾムもやるせなさを感じていた。

「なぁ・・このままビースターをやっつけていけば、ツバキの親父やエックスビースにたどり着けると思うか・・?」

「ノゾム・・・」

 ノゾムが投げかけた問いかけに、ツバキが戸惑いを覚える。

「・・絶対とは思っていない・・でも、そう思いたい・・・」

「そうだな・・そう思わないとやってられないよな・・」

 自分の気持ちを正直に言うツバキに、ノゾムも笑みをこぼした。

「神奈ノゾムさんだね?お願いしたいことがあるのだが。」

 そこへ声をかけられて、ノゾムとツバキが振り向く。灰色のスーツの男が2人の前に現れた。

「何だ、アンタは?誰かも分かんないヤツの話はしたくないな・・」

「名乗るほどの者ではない。お願いというのは、ビースドライバーとアニマルカードを渡してもらうことだ。」

 問いかけるノゾムに男が呼びかける。

「ビースターかその仲間か・・誰だろうとコイツは渡せないな・・!」

 ノゾムが男の要求を拒む。すると男が肩を落としてきた。

「やれやれ。若者はどうしてこうも、聞き分けが悪いんだろうか・・」

 顔から笑みを消す男の姿に変化が起こる。彼の体がメカジキに似た姿の怪人に変わった。

「おとなしく注意を聞いていれば、痛い目に合わずに済んだのに、痛い思いしないと分かろうともしない・・」

「そういう考えを押し付けようとするヤツがいるから、オレは我慢がならないんだよ・・・!」

 怪人、ソードフィッシュビースターにノゾムがいら立ちを見せる。

「ビースターはそういうヤツばっかだ・・オレが1人残らず叩きつぶす・・!」

“マックス!”

 怒りを言い放つノゾムが、マックスカードをビースドライバーにセットした。

「変身!」

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 ビースドライバーの左上のボタンを押して、ノゾムがマックスに変身した。

「マックスになったか。それでもオレの剣には勝てはしない。」

 ソードフィッシュビースターが言いかけて、両手にそれぞれ剣を握る。

「そんなこと勝手に決めるな・・オレはお前もブッ倒す!」

 ノゾムが言い放って、ソードフィッシュビースターに向かっていく。攻撃を仕掛けようとするノゾムを、ソードフィッシュビースターが剣を振りかざして迎え撃つ。

 ソードフィッシュビースターの剣の刀身が長く、ノゾムはその間合いに踏み込めないでいた。

「ちくしょう・・これじゃ近づけない・・!」

「どうした?オレは十分に当てられるぞ。」

 いら立ちを覚えるノゾムに、ソードフィッシュビースターが笑みをこぼす。彼が振りかざした剣が、マックスのスーツを切りつけて火花を散らす。

「ノゾム!」

 押されるノゾムにツバキが叫ぶ。ノゾムが痛みに耐えながら、ソードフィッシュビースターを睨みつける。

「おとなしくドライバーとカードを渡せ。さもないと苦しんで死ぬことになるぞ。」

「言う通りすれば生かしておいてやるってわけじゃないんだろ?・・だったらオレの答えは1つ・・!」

 忠告を送るソードフィッシュビースターに、ノゾムが言い返す。

「お前をブッ倒して生き残ればいいだけのことだ!」

「そんな選択肢は存在しない。」

 駆け出すノゾムをあざ笑って、ソードフィッシュビースターが剣を振りかざす。ノゾムがジャンプして剣をかわして、ソードフィッシュビースターの後ろに回り込んだ。

「こうしてしがみつけば剣は使えない!」

 ソードフィッシュビースターを後ろから羽交い絞めにして、ノゾムが言い放つ。

「確かに剣は使えないな。だが・・」

 笑みを浮かべるソードフィッシュビースターの体から新たな刃が飛び出してきた。マックスのスーツに刃が当たって、火花が散る。

「ぐっ!」

 ノゾムが突き飛ばされて、ソードフィッシュビースターから引き離される。体からの刃でノゾムは一気にダメージを増した。

(長い剣で間合いを付けられないまま攻撃される。近付いても体から刃物が出て攻撃される・・どうしたらいいの・・・!?

 ツバキが打開の糸口を探して考えを巡らせる。

(せめて銃か何かで、遠くから攻撃ができたら・・そうでなくても、何か武器を・・・!)

「ノゾム、アニマルカードで何かいいのはないの!?

 ツバキが思い切ってノゾムに呼びかける。

「いいのって、いきなり言われたってな・・!」

 ノゾムが不満を浮かべながら、ビースドライバーのカードホルダーからアニマルカードを取り出して確かめる。そのとき、彼の目にサメのアニマルカードが入ってきた。

「サメか・・コイツを試してみるか・・!」

 ノゾムがサメのカード「シャークカード」を手にして、他のアニマルカードをカードホルダーにしまった。

“シャーク!”

 彼がビースドライバーにあるマックスカードとシャークカードを入れ替えて、左上のボタンを押した。

“チャージ・シャーク!シャーシャーシャーシャー・シャークソード!”

 ノゾムの手の中に、サメの角のような形の刀身の剣が現れた。サメのような切れ味を備えた「シャークソード」である。

「目には目を、剣には剣をってわけか・・!」

 ノゾムがシャークソードを見て呟く。

「物は試しだ・・やってみるしかない・・!」

 彼は気を引き締めてシャークソードを構える。

「剣を出してきたか。それで止められるほど甘くはないぞ。」

 ソードフィッシュビースターが笑みを浮かべて、ノゾムに向かって剣を振りかざす。ノゾムはシャークソードで剣を防いでいく。

「少しはマシになったようだが、防御だけでは勝てないぞ。」

 ソードフィッシュビースターが笑みをこぼして、さらに剣を振りかざす。

「これじゃ反撃ができない・・マジで銃か何かないのか・・!?

 未だに不利の状況にいら立つノゾム。ソードフィッシュビースターの剣に彼が押されていく。

 そのはずみで、ノゾムはシャークソードの柄にあったスイッチを切り替えた。

“ガンガン・シャークガーン!”

 シャークソードから音声が発せられる。

「シャークガン・・コイツもしかして、銃としても使えるのか・・・!?

 思い立ったノゾムは、シャークソードを銃のように構えた。彼は柄にある引き金を引いて、シャークソードの先端からビームを発射した。

「ぐっ!」

 ソードフィッシュビースターがビームを左腕に受けてうめく。シャークソードの射撃は、ソードフィッシュビースターの動きよりも速かった。

「やった!これならあのビースターに勝てる!」

 ツバキがノゾムの形勢逆転を実感して、喜びを見せる。

「マジで銃にもなるのか・・コイツはいいぜ・・!」

 器用に使える武器を見つけたことに、ノゾムが笑みをこぼす。彼はソードフィッシュビースターに向けて、連続でビームを発射する。

 ソードフィッシュビースターが剣を振りかざして、ビームをはじいていく。しかし全てをかわし切れず、彼は体にビームを当てられていく。

「おのれ!」

 ソードフィッシュビースターがいら立って、前進から刃を出して、ビームに対する完全防御を図った。刃がビームを次々にはじいていく。

「これならお前はオレにダメージを与えることはできない。外から撃っても蚊に刺されたほどにも感じはしない。」

 ソードフィッシュビースターがノゾムをあざ笑う。

「だったら威力を上げて、その刃物ごとぶっ潰せばいいだけのことだ・・!」

 ノゾムは言葉を返すと、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。

“シャークチャージ!アニマルスマーッシュ!”

 ノゾムが構えたシャークソードがエネルギーを集めていく。彼が引き金を引いて、シャークソードから強力なビームを放つ。

 ビームは刃を出しているソードフィッシュビースターの体を貫いた。

「ぐはぁっ!」

 ソードフィッシュビースターが絶叫を上げて、持っていた剣を落とす。

「まさかオレを倒すとは・・だがオレに勝っても、お前たちは逃げることはできない・・オレたち、エックスビースからは・・・」

 笑みをこぼすソードフィッシュビースターが倒れて、爆発を起こして消滅した。

「エックスビース・・やっぱりビースターとエックスビースは・・・!」

 ビースターとエックスビースがつながっていることを改めて知って、ツバキが動揺する。

「やっぱ、ビースターを倒していけば、ツバキ、お前の親父がどこにいるか分かるかもしれないな・・」

「うん・・だから私、まだまだ諦めないよ・・・!」

 ノゾムが言いかけて、ツバキが小さく頷く。彼女は父との再会への願いをさらに強めていた。

 

 エックスコーポレーション社長としての仕事のため、社屋から外へ出たジンキ。お抱えの運転手が動かす車の後部座席に、彼は腰を下ろしていた。

 その道中、1台の車が横切ってきて、ジンキの乗っている車が急停車した。その車に、横切った車から降りてきた男3人が取り囲んだ。

「黒木ジンキだな?降りろ。」

 男の1人が呼びかけるが、ジンキは車から降りない。

「どうした!?早く車から・・!」

「あの車をよけて進め。ムダに時間を費やす気はない。」

 声を荒げる男を無視して、ジンキが運転手に呼びかける。

「コイツ・・!」

 いら立ちを覚えた男が警棒を手にして振り下ろす。車の窓ガラスが警棒に叩かれて割れる。

「早く降りろ、黒木ジンキ!それとも痛い目にあいたいか!?

 男が怒鳴りかかって、他の男たちが銃を手にする。ここでようやくジンキが車から降りてきた。

「やっと出てきたか・・おとなしく我々についてくるのだな・・!」

 男の1人が笑みを浮かべて、ジンキに手を伸ばす。だがその手がジンキに握られる。

「な、何だ、この力!?・・は、放せ!」

「私が嫌いなものを1つ教えてやる・・」

 もがく男にジンキが低い声で告げる。

「は、放せ!」

 他の男たちがジンキに向かって発砲する。ジンキが目つきを鋭くした瞬間、彼に向かっていた弾丸が突然止まった。

「何だとっ!?

 弾丸が止まったことに男たちが驚きを隠せなくなる。

「それは“無駄”・・ムダな時間、ムダな抵抗、ムダな存在・・直面したくもないものだ・・・」

 言いかけるジンキが弾丸を操る。再び動き出した弾丸が、銃を使った男たちに命中した。

「がはっ!」

 男2人が撃たれて倒れた。残った男が緊張をあらわにして後ずさりする。

「どういうことだ・・何なのだ、お前は!?

 ジンキの不可思議な力に動揺を隠せなくなる男。

「すぐに消える存在にわざわざ名乗るのも、ムダというものだ。」

 ジンキは言いかけると、右手の人差し指を軽く動かす。次の瞬間、男が胸に強い衝撃を覚えて息苦しさを覚える。

「後で窓の修理をさせておこう。」

 ジンキは呟きながら車に乗った。車が再発進したと同時に、男が倒れて動かなくなった。

(私の思い通りにならないことはない。エックスコーポレーションだけでなく、夜の中にある全てが、私の奏でる指揮1つで動く。)

 車の後部座席に座るジンキが、心の中で絶対的な自信をふくらませていく。

(私はエックスコーポレーションの社長や、エックスビースを束ねる者だけではない。ビースター、人間、全ての覇者となる。)

 自分が支配者であると確信するジンキ。彼はビースターであり、この車の運転手や上層部など、彼に近しい者はそのことを知っていた。

 

 

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