仮面ライダーマックス
第4話「スピード勝負は意思疎通!」
疑心暗鬼と偽りの正しさへの怒りに駆られたセイラ。彼女の姿がネコのような怪人へと変わった。
「な、何、これ!?」
「バケモノ!?バケモノになった!?」
クラスメイトたちがセイラを見て驚きと恐怖をあらわにする。
「あなたは何なの!?・・なぜあなたのような怪物が!?」
マキがセイラに声を上げて後ずさりする。
「バケモノ?怪物?・・それはあなたたちのほうよ!」
セイラが怒りの叫びを上げて飛びかかって、クラスメイトの横をすり抜けた。その中の数人が倒れて動かなくなる。
「お、おい・・どうしたんだ・・!?」
クラスメイトたちがこの瞬間と事態に目を疑う。動揺を隠せなくなるマキに、セイラがゆっくりと振り返る。
「人を人と思わない・・自分たちさえよければ他を平気で排除したり苦しめたりする・・そんなあなたたちのようなのを、私は許さない!」
怒号を放つセイラが両手の爪をきらめかせた。彼女は恐怖に襲われた生徒たちを、爪で切り裂いていく。
「よせ、金子!やめるんだ!」
先生が呼び止めるが、セイラは襲撃をやめない。彼女は先生の前に迫ってきた。
「先生は私たち以上に、いいことと悪いことの区別をハッキリつけていると思っていたのに・・・!」
セイラは低く呟くと、爪を振りかざして先生を切りつけた。先生が昏倒して、マキが緊張を高めて逃げ出そうとする。
だが教室を出ようとしたところで、マキがセイラに回り込まれてしまう。
「危なくなったら他の人を見捨てて、自分だけ助かろうとする・・それもまた、人のすることじゃない・・・!」
セイラが鋭く言って、マキを狙って爪を構える。
「ま、待ちなさい!私に何かしたらどうなるか、あなたにも分かっているのでしょう!?」
マキがセイラに向けて警告を口にする。
「私に何かすれば、あなたは国や世界を敵に回すことになるのよ!私や私の家族の味方は世界中に数えきれないほどあるんだから!」
「・・あなたは神様のつもり?・・自分たちの思い通りにならないことは何もないと思っているの・・・!?」
怒鳴りかかるマキに、セイラが鋭く言いかける。
「人は神様じゃない・・だからあなたたちに、誰かを思い通りにしていい権利はない!」
セイラが怒号を放って、マキの首をつかんで持ち上げる。
「は、放して・・・助けて・・あなたの望むものは、何でもあげるから・・・!」
苦しむマキが助けを請うが、彼女のこの態度がセイラの怒りをさらに逆撫でする。
「だから、何でも思い通りになると思わないでって・・・!」
セイラが両手に力を加えた。マキが力尽きて、腕をだらりと下げて動かなくなる。
マキを床に落として、肩を落としてひと息つくセイラ。彼女が生徒にゆっくりと振り返る。
「大丈夫?・・もう終わったから・・・」
セイラが微笑んで生徒に向けて手を差し伸べる。しかし生徒は恐怖して、彼女から離れる。
「来ないで・・近づかないで、怪物!」
怯える生徒にセイラが動揺を覚える。
「いくらなんでも、人殺しをしていいことなんてない・・イヤだ・・死にたくない・・死にたくないよ!」
「ま、待って!」
悲鳴を上げて教室を出ようとする生徒を、セイラが慌てて呼び止めた。
「これであなたは悪者になることはない!誰もあなたを落としれることはないわ!」
「僕は、お前みたいな怪物と一緒にいたくない!」
セイラが伸ばした手を生徒が払いのける。
「お前は人殺しだ!近づかないで、怪物!」
怪人、キャットビースターとなったセイラを拒絶する生徒。同じ被害者に拒絶されたことに、セイラの心は大きく揺さぶられた。
「どうして!?・・私は悪いことを悪いって思い知らせただけなのに・・これでいいことが悪いってならなくなったのに・・・!」
激情を抑えられなくなって、セイラが体を震わせる。
「いいことを・・悪いことにしないで!」
いきり立ったセイラが右手を振りかざす。彼女の爪が生徒をも切り裂いた。
トラのバイク、タイガーランナーを呼び出して乗ったノゾム。だがタイガーランナーは勝手に走り出して、ノゾムを振り回していた。
「おい、言うことを聞け!勝手に動くな!」
ノゾムが怒鳴るが、タイガーランナーは停車どころかスピードを緩めない。
「おわっ!」
パンサービースターがタイガーランナーの突進を慌ててよける。
「このまま巻き添え食らっておしまいなんてまっぴらゴメンだね・・!」
パンサービースターは不満を口にしてから、この場を離れた。
「ぐっ!」
ノゾムがタイガーランナーに振り落とされて、地面を転がる。
「あっ!ノゾム!」
そこへやってきたタイチが、ノゾムとツバキを見て声を上げる。
「わわっ!」
突っ込んできたタイガーランナーを、タイチが慌ててよける。そのままタイガーランナーは走り去っていった。
「な、何なんだ、今のは・・!?」
動揺をふくらませながら呟いて、タイチがノゾムに目を向ける。
「アイツ、何なんだ・・おかげであのヒョウのヤツを逃がしちまった・・・!」
ノゾムがいら立ちを噛みしめて、握った手を地面に叩きつける。
「マックスのバイクなのに、言うことを聞かないなんて・・・!?」
タイガーランナーのことを考えて、ツバキは深刻さを募らせていた。
タイガーランナーに振り回されて、パンサービースターを逃がす結果になったノゾム。彼はツバキに不満をぶつけていた。
「あのカードで呼ばれてきたバイクだろ!?何で勝手なマネしてるんだよ!?」
「私にも分かんないよ!あのカード、私は使ったことがなかったから・・!」
怒鳴りかかるノゾムにツバキが慌ただしく答える。
「あのカードがトラのバイクを呼ぶことは知っていたけど、実際に使ったことはなかった・・もちろんあのバイクに乗ったこともない・・」
「くっ・・物騒なのを飼っていたってわけか、このベルトは・・!」
ツバキの話を聞いて、ノゾムがいら立ちを噛みしめる。
「それにしても、やっぱりトラのバイクって言うところかもね。獰猛な肉食って感じで・・」
タイチがタイガーランナーについて口にして、苦笑いを浮かべる。
「のん気に言ってくれるな、タイチ・・あのヒョウヤローが、次に何をしてくるか分かんないんだぞ・・」
ノゾムがタイチに呆れて肩を落とす。
「そうだ。トラのバイクを、ホントのトラだと思って接すればいいんじゃないか?ここのトラもライオンも、ノゾムにはなついているしね。」
「ホントのトラだと思えば、か・・」
タイチの口にした言葉を聞いて、ノゾムが呟く。
「何にしても、またコイツを使えばあのトラは来るんだろ?」
「多分、そうだと思うけど・・」
ノゾムが投げかけた問いかけに、ツバキが小さく頷く。
「だったら、あのヒョウヤローを見つけたときにでも、トラのバイクを・・・!」
パンサービースターとタイガーランナーのことを考えて、いら立ちをふくらませる。
(そこまで躍起になるなんて・・マックスになって、何かが変わってきている・・・)
ノゾムの心境を察して、ツバキは戸惑いを感じていた。
タイガーランナーの乱入に撤退したパンサービースター。人の姿に戻った彼は、タイガーランナーとノゾムのことを考えて、不快を感じていた。
(あんなのが出てくるなんて、参っちゃうな・・あんなのに出てこられたら、オレの楽しみの邪魔になるな・・)
男が心の中で呟いて、次の手を考えていく。
(いないところで獲物を仕留めていくかな・・そしてアイツらが出てきたら、今度は確実に仕留めてやるよ。2度とオレの前に出てこれないように・・)
殺気をふくらませて、男が笑みをこぼす。彼は次の標的を求めて、人目から姿を消した。
動物公園での1日を思い出して、ワタルは幸せを感じてニヤニヤしていた。
「楽しかったなぁ・・もう1回行きたいなぁ〜・・あのノゾムお兄ちゃんにも会いたいし〜・・」
机についているワタルが有頂天になっている。
「いつまでもニヤニヤしてないで、早く宿題やっちゃいなさい、ワタル。」
母親がそんなワタルに注意をする。彼女は夕食の支度を済ませていた。
「そろそろお父さんが帰ってくるわね。」
呟く母親が時計に目を向けた。すると家の玄関のドアの開く音がした。
「噂をすれば、ね。」
母親が玄関に向かって、父親を迎える。
「おかえりなさい、あなた。」
「ただいま。今夜も母さんの夕ご飯が食べられて幸せだよ。」
ワタルの両親が挨拶して、幸せを分かち合う。
「ここの所、物騒な事件が起こっているから気を付けないとね。君もワタルも注意しないとね。」
「そうね。私もそのことはいつも心配だわ・・あなたにもワタルにも、何もなければいいけど・・・」
両親が奇怪な事件を思い出して、深刻な顔を浮かべる。2人はワタルのことを気に掛けていた。
「さぁ、暗いことを考えるのはよそう。早く食事にしないと、せっかくの母さんの料理が冷めてしまうね。」
「そうね。ワタルも待っているし。行きましょうか。」
父親が気持ちを切り替えて、母親も微笑んで頷いた。
そのとき、家の中に強い風が一瞬流れた。
「うわ・・すごい風・・・!」
突然の風に驚く母親。
「あなた、どうしたの・・?」
そのとき、彼女は父親が動かなくなったのを目にする。次の瞬間、彼がふらついて前のめりに倒れた。
「あなた!?」
母親が慌てて父親に駆け寄って支える。
「どうしたの、あなた!?・・あなた・・!?」
呼びかける母親が自分の感覚を疑った。父親が息をしていない。
「通り魔みたいなのもいいけど、たまにはこういうのもいいかな・・」
母親たちのそばで呟きが発する。2人のそばにいたのはパンサービースター。
「か・・怪物!?」
「次はお前が獲物だよ。すぐに終わるからね・・」
恐怖する母親を見て、パンサービースターが笑みを浮かべる。
「どうしたの、ママ、パパ?」
そのとき、ワタルが廊下に顔を出してきた。母親とパンサービースターが彼に目を向ける。
「ワタル、すぐに逃げて!」
母親がたまらずワタルに呼びかけた。彼女がとっさにパンサービースターに飛びかかる。
「ママ!」
「ワタル、早く!」
叫ぶワタルに母親が呼びかける。次の瞬間、パンサービースターの爪が母親の体に入った。
「そばであんまりわめかないでほしいね・・」
「ママ!」
肩を落とすパンサービースターと、母親に向かって叫ぶワタル。涙を流す彼が、体を震わせながら逃げ出す。
「オレが逃げられるのは納得いかないなぁ・・」
パンサービースターがため息をついてから、ワタルを追いかけた。パンサービースターの手にかかって、ワタルの両親は事切れた。
パンサービースターへのいら立ちを感じていたノゾムは、その行方を追って外に出ていた。夕暮れになっても探し回って、彼は住宅街に来ていた。
「ノゾム、そんなに首を突っ込む必要はないと思うんだけど・・」
ツバキと一緒についてきていたタイチが、ノゾムに呼びかける。
「アイツのいいようにされて我慢できるか・・・!」
ノゾムがいら立ちを噛みしめて、さらに歩いていく。
「ノゾム、あんなに躍起になることなんてなかったのに・・こういう厄介事はよく避けてたのに・・」
「それだけ、あのビースターとトラのバイクのことを気にしているってことなのかな・・?」
ノゾムの行動にタイチが戸惑いを感じて、ツバキが疑問符を浮かべる。
「でもそのヒョウの怪物の手がかりはないんだよね?しかも神出鬼没・・闇雲に探しても見つからないんじゃ・・・」
タイチが考えを巡らせるが、ノゾムはひたすらパンサービースターを探し続けていた。
「といっても聞かないのがノゾムなんだけどね・・」
ノゾムの性格について思って、タイチは笑みをこぼす。
「よく分かっているね、性格・・」
「ノゾムが父さんに預けられて長いしね。」
ツバキが聞いてきて、タイチが小さく頷く。
「最初は僕も父さんも拒絶していたけど、公園の動物と触れ合っていくうちに僕たちのことを信じてくれるようになったよ。まだ他の人への不信感は強いけど・・」
「ちょっとずつだけど、変わってきているってことなんだね・・」
タイチの話を聞いて、ツバキがノゾムのことを気にして戸惑いを感じていく。
(マックスになったことも、変わるきっかけになったかな・・・?)
ツバキはノゾムへの信頼を心の中で芽生えさせていた。
そのとき、タイチが1人の子供と1匹の犬が道を横切ったのを目にした。
「あれ?・・今の子、見た覚えが・・・」
タイチのつぶやきを聞いて、ツバキとノゾムも視線を移す。3人がその方向に向かって進む。
そこでノゾムたちは、その子供がワタル、犬がワオンということに気付く。
「ワタルくん!」
タイチが呼びかけて、ワタルたちが足を止めて振り返る。
「あっ!お兄ちゃん!」
ワタルがノゾムたちを見て、感情をあらわにする。
「お兄ちゃん・・お兄ちゃん!」
ワタルがタイチに駆け寄って、泣きじゃくってきた。
「ワ、ワタルくん、どうしたの・・!?」
「パ・・パパとママが・・・怪物に・・・!」
タイチが聞いてきて、ワタルが事情を話してきた。彼の話を聞いて、タイチとツバキが緊張を覚える。
「まさか、ビースターが・・・!?」
ノゾムもビースターの仕業であると直感して、いら立ちを噛みしめていた。
そのとき、ノゾムたちは足音が近づいてくるのを耳にした。彼らの前にパンサービースターが現れた。
「子供を追いかけてたら、この前のヤツに会っちゃったなぁ・・」
「お前、この前のヒョウヤロー・・!」
呟きかけるパンサービースターに、ノゾムが怒りをあらわにする。
「アイツだよ!あの怪物に、パパとママが!」
ワタルがパンサービースターを指さして言い放つ。
「ちょっと退屈してたからね。たまには真正面から狩りをするのもいいかもね。」
パンサービースターが笑みをこぼして、手を軽く動かす。
「自分の楽しみのために、関係ない他のヤツに手を出したっていうのか!?・・それで平気な顔して・・・!」
ノゾムがパンサービースターへの怒りをふくらませて、マックスカードを手にした。
“マックス!”
「変身!」
彼はマックスカードをビースドライバーにセットして、左上のボタンを押した。
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
ノゾムが赤いスーツとマスクを身にまとって、マックスに変身した。
「オレの怒りは限界突破だ!」
ノゾムが言い放って、パンサービースターに向かっていく。
ノゾムが詰め寄ってパンチとキックを繰り出すが、パンサービースターに素早くかわされる。
「相変わらずのろいね。そんなんじゃオレには追いつけないぞ。」
パンサービースターがノゾムをあざ笑う。
「コイツ、いつまでも調子に乗りやがって!」
ノゾムがいら立ちをふくらませて、さらに攻撃を続ける。
「ノ、ノゾムお兄ちゃん!?・・変身して、戦っている・・!?」
マックスとなって戦うノゾムを見て、ワタルが動揺を見せる。
「うん・・ノゾムが許せないヤツに怒りをぶつけるために・・・!」
タイチが頷いて、ノゾムの戦いを見守る。ワタルもノゾムを見つめて戸惑いを感じていく。
「どうしたの?そんなんじゃ遅すぎて退屈しちゃうよ〜・・」
パンサービースターが笑みをこぼして、両足を突き出してノゾムを蹴り飛ばす。ノゾムは空中で体勢を整えて着地する。
「調子に乗りやがって・・だったらコレで!」
ノゾムがトラのカードを取り出して、ビースドライバーにあるマックスカードと入れ替えた。
“タイガー!”
「今度こそ言うことを聞いてもらうぞ・・!」
ノゾムが言いかけて、ビースドライバーの左上のボタンを押した。
“チャージ・タイガー!タイガーマッハ!タイガーパワー!タイガータイガーランナー!”
ビースドライバーから音声が流れる。ノゾムたちのいるほうにエンジン音が響いてくる。
タイガーランナーがノゾムたちの前に走り込んできた。
「オレはあのヒョウヤローをブッ倒さなくちゃならない・・力を貸してもらうぞ・・・!」
ノゾムは呼びかけてから、タイガーランナーに乗った。しかしタイガーランナーが勝手に走り出す。
「お、おい!またかよ!」
ノゾムが声を上げて、タイガーランナーを止めようとする。しかしブレーキをかけても、タイガーランナーは止まらない。
「コイツ、いい加減にしろ!今はお前の勝手に付き合ってる場合じゃない!」
ノゾムが怒鳴って、強引にタイガーランナーを動かそうとするが、それでも止まらない。
「またお前たちでゴチャゴチャやっちゃってるね。オレは近づかないでおくよ。」
パンサービースターが笑みをこぼして、ノゾムたちから離れる。
「お兄ちゃん、どうしちゃったの、いったい・・!?」
ワタルがノゾムとタイガーランナーを見て、不安をふくらませていく。
「コイツ・・どこまでも勝手なマネしやがって・・うあっ!」
文句を言うノゾムがタイガーランナーに振り落とされる。
「このヤロー・・もう我慢ならねぇ!」
怒りを爆発させたノゾムが、タイガーランナーのボディに蹴りを入れてきた。
「えっ!?」
「ち、ちょっと!」
突然のノゾムの行動に、ツバキとタイチが驚く。
「アイツをブッ倒さなきゃならないときに、いつまでも勝手なマネしやがって!コイツのためのバイクなら、少しは力を貸せよ!」
ノゾムが怒鳴ってさらに足を出す。タイガーランナーが加速して、ノゾムを突き飛ばす。
「このヤロー・・アイツは好き勝手に人殺しをして笑ってる最低なヤツなんだぞ!それが分からないなら、お前もアイツと一緒にブッ倒す!」
怒りを爆発させたノゾムが、両足に力を込める。突っ込んできたタイガーランナーに向かって、彼が真正面からジャンプする。
「ちょっと待って!無理やりはあなたがイヤだったことじゃないの!?」
ツバキがたまらず叫ぶが、ノゾムが繰り出した右足のキックが、タイガーランナーの頭部に命中した。するとタイガーランナーが押されて、後ろに下がった。
「ムチャクチャにされたりイヤなものを押し付けられたりするのが嫌い・・そう思っていたはずでしょ、ノゾム!」
必死の思いで声を振り絞るツバキ。彼女の言葉を聞いて、ノゾムが体を震わせる。
「そうだ・・オレは納得いかないものは許せない・・だからオレはあのヒョウヤローをブッ倒さなくちゃならない・・だからあのトラのバイクの力を借りなきゃなんないのに・・!」
ノゾムが自分の感情をあらわにして高ぶっていく。
「けど力を貸さずに勝手をやるっていうなら頼まない!どっかに突き飛ばしてから、オレだけで何が何でもヒョウヤローをブッ倒してやる!」
自分の考えを貫こうとして、ノゾムがパンサービースターに目を向ける。彼は味方にならないならタイガーランナーも切り捨てることも頭に入れていた。
そのとき、タイガーランナーがゆっくりと進んで、ノゾムのそばで止まった。
「何だ!?・・また邪魔をする気か・・!?」
ノゾムがいら立ちを浮かべて構えを取る。するとタイガーランナーが顔を振って、彼を促してきた。
「もしかして、ここに来て言うこと聞くっていうのか・・!?」
戸惑いを覚えるノゾムが、タイガーランナーのハンドルをつかむ。タイガーランナーは逆らうことなく、彼を受け入れようとしていた。
「今度こそアイツをブッ倒すぞ・・いきなり振り落とすのはなしだぞ・・!」
ノゾムが念を押して、タイガーランナーに乗ってアクセルを掛けた。タイガーランナーが彼を乗せたまま、パンサービースターに向かって走り出した。
「おいおい、いきなりそうなるなんて〜・・!」
パンサービースターが不満を浮かべて、タイガーランナーの突撃を素早いジャンプでかわす。ノゾムとタイガーランナーが展開して、再び加速する。
タイガーランナーがパンサービースターに追いついて、前輪を叩きつけた。
「ごあっ!」
突き飛ばされたパンサービースターが、左足を痛めて苦痛を浮かべる。
「少しは、お前が殺したヤツの苦しみと怒りを思い知れ・・!」
パンサービースターに鋭く言って、ノゾムがビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“タイガーチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムとタイガーランナーから光があふれてくる。タイガーランナーがパンサービースターに向かって加速する。
「くそっ!」
パンサービースターも走り出して、タイガーランナーを迎え撃つ。両者が高速ですれ違う。
「ぐっ・・くそぉ・・!」
絶叫を上げるパンサービースターが倒れて、爆発を起こした。
「やった!ノゾムとトラのバイクがヒョウのビースターをやっつけた!」
タイチがノゾムの勝利を喜ぶ。ツバキが戸惑いを見せて、ワタルが動揺を隠せなくなっている。
「パパ・・ママ・・・!」
両親を失った悲しみで、ワタルが目から涙を流す。
「ワタルくん・・・」
辛さをふくらませる彼を見て、ツバキも悲しみを感じていた。
信じていた人に裏切られて、セイラの心は悲しみで満ちていた。学校を出た彼女は、夢遊病者のように道を歩き続けた。
(私はこれから、何を信じればいいの?・・もう、私しか信じられる人はいないの・・・?)
心の中で問いかけるセイラ。しかし彼女の問いに答えは返ってこない。
(私に残っているのは何もない・・悪さを許せないって気持ちだけ・・・)
込み上げてくる怒りを噛みしめていくセイラ。彼女は強まる激情に駆られるように、ひたすら歩き続けた。
「おや?こんなとこに女がいるぜ。」
セイラの前に数人の女性たちが現れた。夜遊びを満喫している不良である。
「ここはあたしらの縄張りなんだよ。勝手にフラフラされると目障りなんだよ。」
「だから落とし前として、あたしらの憂さ晴らしに付き合ってもらうよ。」
不良たちが手を出して、セイラを突き飛ばす。
「やめて・・やめてください・・!」
セイラが悲鳴を上げるが、不良はさらに彼女を突き飛ばしていく。
「どうしてこんなひどいことをするの!?・・こんなこと、あなたたちはされたらイヤだって思わないの!?」
「あたしらに文句言うんじゃねぇよ!」
「あたしらの縄張りに来たなら、あたしらの言うことを聞くのが筋なんだよ!」
問い詰めるセイラだが、不良たちは聞き入れずに怒鳴り返すばかりである。
「そんなムチャクチャ・・許されるわけない・・!」
セイラが不良たちに対して怒りを感じていく。
「自分たちが正しいと言い張るつもりか・・!?」
そこへ声がかかって、不良たちが振り向いた。次の瞬間、彼女たちの中の1人が突然倒れた。
「なっ・・!?」
他の不良たちが驚いて振り向く。彼女たちとセイラの前に現れたのは、龍の怪人、ドラゴンビースターとなったユウキだった。