仮面ライダーマックス

第3話「トラのバイクは爆走一直線!」

 

 

 リコを手にかけたユウキは、1人路頭に迷っていた。リコを殺めたことへの罪悪感を彼は感じておらず、さらに周囲の人々に対する疑心暗鬼にも駆られていた。

(オレは悪くない・・オレは悪いことをしていたリコを止めただけだ・・聞いてくれなかったから止めただけだ・・)

 自分に言い聞かせるユウキだが、苦悩が深まるばかりである。

(もしもオレが悪いと言ってくるなら、そいつはアイツの味方だということに・・・)

 疑ってかかる相手は敵だと思い込むようになっていたユウキ。周りに強い警戒を抱いたまま、彼は人込みの中を歩き続けた。

 

 急いで別荘の後片付けを終えたゴロウが、改めてツバキを迎え入れた。

「わざわざすみません、おじさん。私のためにここまでしてくれて・・」

「お客様や友人を迎えるには、それなりの迎え方をしないとね。」

 感謝するツバキに、ゴロウが気さくに答える。

「お父さんのことは大変だったね・・僕もどこかで気付いてあげられたら・・・」

 ゴロウが口にした言葉を聞いて、ツバキが悲しい顔を浮かべる。

「この近くにもう1軒別荘があるんだ。これからはそこを住まいにするのはどうかな?」

「えっ!?そんな!?そこまでしてもらっては、おじさんに迷惑では・・!」

「いいんだよ、ツバキちゃん。困っているときはお互い様だって。」

 動揺を見せるツバキを、ゴロウが親切に迎えていた。

「・・で、では、お言葉に甘えさせていただきますね・・よろしくお願いします、おじさん・・」

 ツバキが苦笑いを浮かべて、ゴロウの言葉を聞き入れることにした。

「いつもいつも安請け合いしていいのか、ゴロウさん・・・?」

 そこへノゾムが声をかけてきて、ゴロウに疑問を投げかけてきた。

「そいつは多分信用できるだろうな。ゴロウさんの知り合いだし。だけど誰彼軽く信じて受け入れて、いいことばかりとは限らないぞ。ゴロウさんの優しさを利用しようってヤツもいるだろうし・・」

「ちょっと、おじさんに失礼じゃない、その言い方・・」

 ノゾムの言葉にツバキが不満を見せてきた。

「オレは軽々しく受け入れて、いい気にされてイヤな思いをするのが我慢ならないんだよ・・思い通りに振り回して、それでいい気分になって・・・!」

「そんなことないよ!全員がそんな自分勝手な人ってわけじゃない!おじさんみたいに本当に親切な人もいるし、その親切に心から応える人もいるわ!」

 憤りを口にするノゾムに、ツバキが呼びかける。

「だったらその自分勝手なヤツがいつまでものうのうとしているんだ!?そいつを野放しにしてるヤツらも、もう同罪だと思われても文句の言えないところまで来ているんだよ!」

 ノゾムが怒鳴り声を上げて、ゴロウの部屋から出ていった。

「あなた、いい加減に・・!」

「あわわわ!待って、ツバキちゃん!」

 ノゾムを追いかけようとしたツバキを、タイチが呼び止める。

「どうして止めるの、タイチくん!?アイツは・・!」

「いいんだよ、ツバキちゃん。ノゾムくんのことは・・」

 声を上げるツバキを、ゴロウも呼び止めた。

「おじさんまで、アイツの肩を持つことないのに・・・!」

「許してあげて、ツバキちゃん・・ノゾムくんには、ああいう考えを持たせるほどの辛いことを経験しているんだよ・・」

 不満を感じていくツバキに、ゴロウが深刻な顔を見せる。

「ノゾムくんは厳しく育てられてね。幼い頃のおとなしい性格も、だんだんと荒んでいって、ついに・・」

「ついに・・・」

 ゴロウが語るノゾムの話に、ツバキが息をのむ。

「暴力を振るって両親をケガさせてしまったんだ・・・」

 ゴロウの口にした言葉に、ツバキが言葉を詰まらせる。タイチも両親に暴力を振るって荒れていたノゾムの姿を思い出して、悲しさを噛みしめていた。

「溜め込んでいた不満が爆発したんだ・・父親の力のほうが強かったけど、ノゾムはすっかり怒りに突き動かされていて、腕がオレそうになるのも気にすることなく・・」

「警察に厄介になった後も怒りが治まらなくて・・結局悪いのは父親で、ノゾムは自分の身を守ろうとしただけだってことになって・・」

 ゴロウに続いてタイチも話を続ける。

「それからノゾムは家出をしてこっちに来た。それからすぐに両親は事故にあって亡くなったんだ・・」

 タイチたちから語られたノゾムのことに、ツバキが戸惑いを覚える。

「それで僕がノゾムくんを引き取ることにしたんだ。ノゾムくんは何かを無理やりやらされたり、悪いことを正しいことにされたりするのが耐えられないんだよ・・」

「だからたとえどんなに正しいことでも、無理やりやらせようとしたら反発するんだよ。ノゾムにとってそういうやり方こそが許されないことだって思っているから・・」

 ゴロウとタイチの話を聞いて、ツバキの心が揺れる。

「世の中、辛いことや苦しいこと、ムチャクチャなことに耐えることが大事だってよく聞くけど、ノゾムは我慢することよりも、イヤなものにはイヤだと言わなくちゃいけないことだと思っている。我慢しても何の解決にもならないって・・」

「おじさん・・・アイツ、そこまで思いつめて・・・」

 ゴロウの話を聞いて、ツバキも深刻さを感じていく。

「だから頼みごとをするときは1回か2回言ってあげて、後は考えさせてから返事をするのを待つのがいいんだよ、ノゾムは・・」

「でも、それじゃ何を信じたら・・・」

「それは、ノゾム自身で見つけるしかないね・・」

 ゴロウが口にした話に、ツバキはノゾムのことを気にして動揺を隠せなくなっていた。

 

 公園の近くの通り。駅が近いこともあって、行き交う人も多かった。

 その平穏な雑踏の中で、突然男女2人が倒れた。周りにいた人々が2人を見て動揺を浮かべる。

 倒れた男女は心臓が止まっていた。しかし2人とも外傷はなかった。

 この出来事は原因不明のショック死と警察は判断した。

 しかし人々も警察も気付いていなかった。姿なき狩人の仕業であることを。

 

 ツバキがゴロウを訪ねてから1日がたった。ゴロウの用意した別荘で眠ったツバキは朝起きると、ノゾムのことを気にしていた。

 別荘から外へ出て、ツバキは公園の中を歩いていた。その道中、彼女は動物の世話をしているノゾムを見つけた。

 檻の掃除をしたり動物の体を洗ったりするノゾム。動物たちは気分よく、ノゾムの世話を受けていた。

(動物たち、気持ちよさそうにしている・・あの人が世話しているのに・・・)

 ノゾムと動物たちも機嫌を悪くする様子を見せていないことに、ツバキは戸惑いを感じていた。

 掃除と世話にひと区切りを付けたノゾムに、ツバキが歩み寄った。

「動物には優しいんだね。本当に親切にしている・・」

 ツバキのつぶやきを耳にして、ノゾムが彼女に鋭い視線を向けてくる。

「ゴロウさんから話は聞いたよ・・それが、あなたがイヤなものを拒絶する理由だったんだね・・・」

「同情は聞き入れないぞ・・そうして相手を思い通りにしようとするヤツもいるからな・・・」

 言いかけるツバキに、ノゾムが低い声で言い返す。

「人は信じられないのに、動物にはこんなに優しくしているなんて・・・」

「動物は純粋なんだ。ただ生きるために、家族のために過ごしている。自分の目的のために他のヤツを利用する人間とは違う・・」

 深刻な顔を浮かべるツバキに、ノゾムが動物への思いと人への疑心暗鬼を口にする。

「確かに人間全員が悪いヤツだとは、オレも思ってはいない・・だけど、これ以上いいようにされるものなら、オレは自分を見失うことになる・・・」

「お父さんと、お母さんのときのように・・・」

「オレをどう思ってたかは今となっちゃ分からない・・けど2人のやり方に我慢がならなかったのは間違いない・・・」

 不安をふくらませていくツバキに、ノゾムが自分のことを話していく。

「どんなに理由が正しくても、相手が納得しなかったら押し通していいことにはならない。他のヤツを困らせていいことにはならないんだよ・・」

 理不尽を拒絶しようとするノゾムに、ツバキは動揺を抑えられずにいられなかった。

「キャアッ!」

 そのとき、近くで悲鳴が上がったのをノゾムとツバキが耳にした。

「な、何!?

 ツバキが声を上げて、悲鳴のしたほうに向かって走り出す。

「ちょっと待っててくれ・・」

 世話をしていたシマウマに声をかけてから、ノゾムも駆け出した。

 

 公園の入口の近くでは人混みができていた。ツバキとノゾムがその中心で男の人が倒れていたのを目にした。

「倒れている・・事件・・!?

「早く救急車を呼んだ方がいいみたいだな・・」

 緊張を覚えるツバキと、呟いてから救急車に連絡をしようとするノゾム。

「見殺しっていうのは、どんなヤツでも後味悪いからな・・」

 呟いてから駆け出すノゾム。彼の中に優しさが残っていると思って、ツバキは笑みを浮かべた。

 ノゾムたちは1度人混みから離れて、携帯電話で救急車を呼ぼうとした。

「おい!」

 ノゾムが突然ツバキを押して、共に倒れ込む。

「イタタ・・何するの、いきなり・・!?

 ツバキが痛がりながら悲鳴を上げる。ノゾムは真剣な顔を浮かべて、周りを警戒している。

「オレの暗殺術に気付くとは。人間にしては大したものだな。」

 ノゾムとツバキの前に、1人の細身の男がいた。男が2人を見て不気味な笑みを浮かべている。

「オレは警戒心が強いんだよ・・自分で言うのもなんだけどな・・・」

 ノゾムが男に鋭い視線を向ける。

「まぁいい・・ここのところあっさり決まりすぎて退屈していたところだが・・そうならなくて済みそうだ・・・」

 笑い声を上げる男の姿に変化が起こる。彼はヒョウを思わせる姿の怪人に変身した。

「あなたもビースター!?さっきの人はあなたの仕業なの!?

 ツバキが怪人、パンサービースターを目の当たりにして声を上げる。

「今度はじっとしてくれよ。あんまりしくじりすぎるのはめんどくさくなるからな・・」

 パンサービースターが低い声で言いかけて、ノゾムたちにゆっくりと迫る。

「次から次へとバケモノどもが出てきて・・・!」

 ノゾムはいら立ちを噛みしめて、ビースドライバーを身に着ける。

“マックス!”

 彼はビースドライバーにマックスカードをセットした。

「変身。」

 そしてビースドライバーの左上のボタンを押す。

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 ノゾムが赤いスーツとマスクを身にまとって、マックスに変身した。

「オレの怒りは限界突破だ!」

 ノゾムが言い放って、パンサービースターに向かっていく。ノゾムが振りかざすパンチを、パンサービースターが軽やかにかわしていく。

「姿は変わっても、オレには追いつけないみたいだな・・」

 パンサービースターが笑みをこぼして、ノゾムの頭上を大きく飛び越えた。彼が足を後ろに出して、ノゾムを蹴り飛ばす。

「ぐっ!」

 突き飛ばされてふらつくノゾム。彼は振り向いて、間を置かずにパンサービースターに向かっていく。

「物分かりが悪いなぁ。そんなにやられたいってわけ?」

 パンサービースターがため息をついてから、素早く両手を振りかざす。ノゾムが切りつけられて、マックスのスーツから火花が散る。

(ものすごいスピードだ・・今のままじゃ追いつけない・・まして、あのゾウじゃなおさらだ・・!)

 打開の糸口を探るノゾムだが、ゴリラビースターを倒した姿「エレファントフォルム」になっても追いつけないことを分かっていた。

(何か方法はないか・・他にもカードがあったはず・・!)

 パンサービースターから離れて、ノゾムがホルダーにあるアニマルカードを確かめる。その中の1枚を目にして、ノゾムが目つきを鋭くする。

「これなら対抗できるかもしれない・・!」

“タイガー!”

 思い立ったノゾムがトラのアニマルカードを手にして、ビースドライバーのマックスカードと入れ替えた。

「今度は何になるんだ・・!?

 ノゾムが気にしながら、ビースドライバーの左上のボタンを押した。

“チャージ・タイガー!タイガーマッハ!タイガーパワー!タイガータイガーランナー!”

 ビースドライバーから音声が発する。しかしノゾムの変身しているマックスに変化が起こらない。

「どういうこと!?・・何も、起こらない・・・!?

 この事態にツバキが疑問を隠せなくなる。ノゾムも何も起きないことに疑問を感じていた。

「変身しない!?・・トラみたいにならないのか・・!?

 自分の両手を見つめるノゾムを見て、パンサービースターが笑みをこぼす。

「何か起きるのかと思ったけど・・拍子抜けさせちゃって・・」

 パンサービースターが笑みをこぼして、体を動かして慣らす。

「もういいや・・そろそろ始末してやることにするか・・」

 彼がノゾムに向かって突っ込む。そのスピードは目にも留まらないものだった。

「ぐっ!」

 ノゾムが大きく突き飛ばされて、地面を転がる。

「あっ!」

 倒れたノゾムにツバキが声を上げる。立ち上がるノゾムが視線を移すが、パンサービースターの姿が見えない。

(あのビースター、速い・・速すぎて、私たちには見えない・・・!)

 高速で動くパンサービースターに、ツバキが焦りを感じていく。

(この動きで、周りが気付かないまま、人が手にかかって・・・!)

 パンサービースターの暗殺に、ツバキが息をのむ。

「それじゃ、次でとどめと行くかな・・他にももっともっと楽しみたいし・・」

 パンサービースターがノゾムに飛びかかろうと笑みをこぼす。ノゾムが打開の糸口を見つけられず、焦りを感じていた。

 そのとき、ノゾムたちの耳にエンジン音が入ってきた。振り向いたノゾムたちの前に、1台のバイクが駆けつけてきた。前方部がトラの顔を思わせる形状のバイクである。

「何だ、あのバイクは・・!?

 パンサービースターがトラのバイクの登場に驚く。トラのバイクが走り込んで、パンサービースターに向かってきた。

 パンサービースターがジャンプして、トラのバイクの突撃をかわす。

「あれはもしかして、マックスのためのバイク、“タイガーランナー”・・!?

 ツバキがタイガーランナーを見て動揺を見せる。

「マックスのためのバイク?・・だったらオレが乗ればいいってことか・・!」

 ノゾムが呟いて、タイガーランナーに向かっていく。彼が来たのに気付いて、タイガーランナーが停車した。

「悪いが乗らせてもらうぞ・・アイツの速さに対抗できるのは、お前だけみたいだからな・・!」

 ノゾムが呼びかけて、タイガーランナーに乗った。ところが彼がアクセルを掛ける前に、タイガーランナーが走り出した。

「なっ!?お、おいっ!」

 勝手に動くタイガーランナーに、ノゾムが声を上げる。ブレーキを掛ける彼だが、タイガーランナーは止まらない。

「おい、コラ!勝手に走るな!」

 ノゾムが怒鳴るが、タイガーランナーは言うことを聞かず、縦横無尽に駆け回る。

「全然言うことを聞かない・・どういうことなの・・・!?

 ひたすら爆走するタイガーランナーに、ツバキも頭を抱えていた。

 

 とある高校の教室の1つ。そこで1人の生徒が他のクラスメイトたちから執拗に責められていた。

 回収されていた修学旅行の費用がなくなって、それがその生徒のせいだと言われていた。

「僕は取ってないよ!僕はみんなが費用を集めていたときに教室を出て、戻ったときにはなくなってたんだから・・!」

 生徒が必死に自分の無実を訴える。

「ウソおっしゃい。あなたの机の中から集めたお金が出てきたじゃない。」

 クラスメイトの1人、委員長のマキが言いかける。マキの親は大企業の会長で、この高校も彼女の親から支援されていた。

「僕は知らない!外に出てた僕が盗めるわけないじゃないか!」

「だってお前の机から出たんだから、お前が盗んだに決まってるじゃないか!」

「それにお前はウソをついてる!オレは見たんだよ、お前がお金を持ち出したのを!」

 生徒が反論するが、クラスメイトたちが彼の言い分をはねつける。

「ウソを言ってるのはそっちだよ!外にいた僕が、どうやって教室のお金を盗んで自分の机に入れられるんだよ!?

「みんなが目撃してるのに、まだウソをつくなんて・・」

 声を張り上げる生徒に、マキが呆れる。クラスメイトたちも生徒に不満の目を向けていた。

 そんな中、1人の女子が生徒の無実を信じていた。

「ダメだよ、金子(かねこ)・・アイツみたいになりたいのか・・?」

 クラスメイトの1人が女子、金子セイラを呼び止める。

「でも無実なのに犯人扱いしている・・そんなことが許されるわけ・・・」

「許されるんだよ・・この学校の中と、マキさんの前じゃね・・彼女に逆らうことは、日本や世界に逆らうことと同じと思っても過言じゃない・・たとえこの高校そのものでもね・・」

 動揺を覚えるセイラに、クラスメイトが警告する。

「アイツのことをマキさんは気に入らなかった・・ああいうのをはめて悪者にするのが、あの人の常とう手段というわけ・・」

「そんなこと・・そんなことはやっぱり・・・」

「何が正しくて何が間違いなのか、決めているのは神様じゃない。力のあるひと握りの人間なんだよ・・」

 クラスメイトに言われて制止させられるセイラ。しかしセイラはどうしても納得できなかった。

「そんなの・・そんなの認めていいわけがない!」

 感情をあらわにしたセイラが、マキに歩み寄る。

「私、見たよ!彼はずっと教室の外にいて、お金を盗める状況じゃなかった!」

 セイラが生徒の無実を訴える。彼女は犯人が別にいることを呼びかけた。

「いきなり何を言い出すの?目撃者がいるのに、犯人じゃないわけないじゃない。」

「私が目撃者だよ!あそこから教室にやってきてお金を取るなんてムリがある!」

 肩を落とすマキに、セイラが必死に訴える。するとクラスメイトの中の数人がため息をついてきた。

「あなた、彼の共犯でしょ?だから無実だとウソを口にして・・」

「違うわ!私は本当に・・!」

「悪いことをしたら素直に認めないといけないわ。本当に困ったものね・・」

 肩を落とすマキに、セイラが必死に呼びかける。そこへ担任の先生が教室に入ってきた。

「どうしたんだ、みんな?何があったんだ?」

「あ、先生!集金が盗まれて・・それが私たちのせいだってみんなが・・私たちはやっていないのに・・!」

 聞いてきた先生にセイラが事情を話す。

「目撃している人がいるのに、先生にまでウソをつかないで。あなたたちがグルになってお金を盗んだことはもう分かっているのよ。」

 マキが不満げにセイラを非難する。クラスメイトたちもセイラと生徒に不満を見せていた。

「違います!ウソを言っているのは向こうです!私たちは何もしていません!先生、信じてください!」

 先生に必死に呼びかけるセイラ。先生ならきちんと聞き入れてくれると、彼女は信じていた。

「金子、悪いことをしたならそのことをきちんと謝らないといけない。ウソをついて悪いことを隠そうとするのは、人としてやってはいけないことだぞ。」

「せ、先生・・!?

 自分に注意をしてきた先生に、セイラは耳を疑う。

「先生・・悪いのは向こうなのに、どうして私たちを・・!?

「謝るんだ、金子!みんなを困らせておいて、君は悪いと思わないのか!?

 声を振り絞るセイラに、先生が問い詰めてくる。

「先生まで・・どうして!?・・どうして悪いことがいいことになって、いいことが悪いことになるの・・・!?

 先生にまで裏切られて、セイラが激しい絶望に襲われていく。

「いいことはいいこと、悪いことは悪いこと。あなたたちは自分のした悪さをきちんと理解すべきよ。」

 マキが肩を落とす素振りを見せて、セイラに言いかける。

「自分のした悪さを理解すべき・・それはあなたたちのほうよ・・・!」

 セイラが低い声を振り絞って、体を震わせる。彼女は怒りのあまり、両手を強く握りしめていた。

「悪いことを正しいことにするなんて、絶対に認めちゃいけない!」

 そのとき、セイラの体から黒い霧のようなものがあふれ出した。

「えっ!?な、何っ!?

 突然のことにマキが驚く。周りのクラスメイトたちも先生も、セイラの異変に動揺を浮かべる。

「あなたたちのような考えの持ち主も、いてはいけないのよ!」

 言い放つセイラの姿が、ネコのような怪人となった。

 セイラもまた、ビースターへの変化と血塗られた戦いに身を投じることとなった。

 

 

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