仮面ライダーマックス
第1話「マックス大変身!」
生きることは、ただ命を持ち続けるだけではない。
心を、意思を、魂を長らえさせなければならない。
生きる命を壊そうとする者との戦いが始まる。
街外れに点在している動物公園。たくさんの種類の動物たちが、それぞれの合う環境に近い形で世話を受けていた。
その公園の正門の前を、長い髪の1人の少女が駆けてきた。彼女の手元には1つのケースがあった。
(やっとここまで来れた・・もうちょっとでおじさんに会える・・・!)
かすかな安心を感じながらも気を引き締めなおす少女。彼女はケースをしっかりと持って、再び駆け出した。ケースを、ケースの中身を必死に守ろうとして。
両親と一緒に動物公園に遊びに来ていた1人の少年。彼はペットの子犬を連れてきていた。
「ワタル、早くこっちに来なさーい。」
少年、大崎ワタルに母親が呼びかける。
「はーい!ワオン、ママとパパに置いてかれちゃうよ。」
ワタルが子犬、ワオンに声をかける。しかしワオンは落ち着かない様子を見せる。
「あ、コラ!ワオン、勝手にどっかに行っちゃダメだ!」
走り出してしまったワオンを、ワタルが慌てて呼び止める。ワオンは止まることなく歩道に、ついに道路に飛び出してしまった。
「危ない、ワオン!戻ってきて!」
ワタルが呼びかけるが、ワオンのいる道路にトラックが走ってきた。
「ワオン!」
ワオンを連れ戻そうと走り出すワタルだが、トラックが来るほうが早い。
そのとき、1人の青年が道路を飛び出して、ワオンを抱えてトラックの前から歩道へ駆け抜けた。驚いた運転手がたまらずブレーキを踏んで、トラックが急停車した。
「バカヤロー!あぶねぇじゃねぇか!」
トラックの運転手が窓から顔を出して怒鳴る。すると青年が振り向いて、運転手を鋭く睨みつけてきた。
「ワン公が飛び出してきたってのに・・突き飛ばそうとしてたのかよ・・!?」
「ふざけんな!飛び出してきたそいつが悪いんだろうが!」
青年がいら立ちを見せると、運転手がさらに怒鳴る。
「だから動物ひき殺しても、アンタは何も悪くないっていうつもりか・・!?」
青年がさらに目つきを鋭くして、トラックに近づこうとする。
「わーわー!ノゾム、待った、待ったー!」
そこへもう1人の青年がやってきて、道路にいる青年、神奈ノゾムを呼び止めた。
「ノゾム、今はこのワンちゃんを連れていってあげるのが先だよ〜!あ〜、失礼しました〜!アハハハ〜♪」
青年が運転手に作り笑顔を見せながら、ノゾムとワオンを連れて道路から離れた。
「ワオン!」
歩道に戻ったノゾムたちのところへ、ワタルが駆け込んできた。
「ワオン、勝手に行ったらダメだって・・!」
ワタルがワオンの顔に手を当てて注意をする。
「お前がこのワン公の友達か?危ないところに飛び出させないようにしないとな・・」
ノゾムがワタルに向かって言いかける。ノゾムはワタルに対して微笑みかけていた。
「ワオン、いきなり走り出すようなこと、最近は全然なかったのに・・・!」
ワタルがワオンを見つめて、不安を感じていく。
(このワン公、何かイヤなものを感じたのか・・?)
ノゾムはワオンが何かを感じ取ったのではないかと思った。動物は人間よりも危険に敏感であることを、彼は知っていた。
「ワタル、ワオン、大丈夫!?」
母親が父親と一緒にワタルたちのところへ駆けつけてきた。
「勝手にどっかに行ったらダメじゃないか、ワタル・・!」
「パパ・・ママ・・ゴメンなさい・・・!」
父親からも心配されて、ワタルが悲しい顔を浮かべて謝る。
「今度は気を付けろよ、お前・・」
ノゾムが静かに言いかけて、この場を立ち去ろうとする。
「僕はワタル。大崎ワタル。お兄ちゃんは?」
ワタルが聞いてきて、ノゾムが足を止めた。
「ノゾム・・神奈ノゾムだ・・」
ノゾムが自己紹介をして、ワタルが笑顔を浮かべた。
「僕は代々木タイチ。よかったね、ワタルくん。」
青年、タイチがワタルに微笑みかける。
「行くぞ、タイチ・・騒がしいのは好きじゃない・・」
ノゾムは改めて歩き出す。タイチはワタルと両親に一礼してから、ノゾムを追いかけるように駆け出した。
ノゾムたちの騒動を、公園の前を通りがかった少女も目撃していた。
(騒ぎでみんなが集まってくる・・アイツらもこれに便乗して襲ってくるかもしれない・・早く離れたほうがよさそうね・・・!)
少女はノゾムたちの騒動を警戒しながら、公園の前を通り過ぎていった。
その少女の後ろ姿を見て、1つの影が笑みを浮かべていた。
動物公園の会長、代々木ゴロウ。タイチの父である。
ゴロウは今、公園の隣にある自分の別荘で自分の部屋の掃除と整理整頓をしていた。
「動物は住むところが悪いと気分も悪くなっちゃう。きちんと掃除をして、気分を晴れにしないとね。それは人間も同じ。」
部屋の掃除具合を見て、ゴロウが満足して頷く。
「今日もノゾムくんはうまくやっているかな。何か騒動を起こさなきゃいいんだけど・・彼の性格、分かっているつもりだけどね・・」
ゴロウがノゾムのことを心配して呟く。
「彼がここに来てからけっこう経つけど、あんまり他人と関わろうとしないんだよね・・動物とは思い切り関わっているけど・・」
ノゾムのことを考えながら、ゴロウは整頓を続けていった。
ゴロウの別荘の近くまで少女は来ていた。彼女のいる道には彼女以外に周りに人はいなかった。
「あともうちょっとだね・・早くおじさんのところへ・・・!」
目的地までもうすぐだと思って、少女は安心を覚えた。
「逃げ切れると思っていたのか、小娘?」
そこへ1人の男が現れて、少女に声をかけてきた。少女はケースを強く抱えて身構える。
「だ、誰ですか、あなた!?・・まさか・・!?」
少女が男に問い詰めて、さらに緊張を感じていく。
「その持っているヤツをよこせ。そうすればそれ以上は何もしない。」
「そうはいかない!これはあなたたちの悪だくみを打ち砕くためのものなんだから!」
手を差し伸べる男に、少女が拒絶の叫びを上げる。
「フン。使いこなせないのでは宝の持ち腐れだがな。それならオレたちが有効活用してやる。」
「あなたたちなんかにいいようにされてたまるもんか!」
あざ笑ってくる男に少女が言い返す。すると男が肩を落として、ため息をついてきた。
「ガンコなヤツだ・・力ずくで奪い取られた方がいいようだな・・・!」
男が目つきを鋭くして体を震わせる。すると彼の姿に変化が起こった。
男が雲のような姿の怪物に変わった。本来の腕の他、左右3本ずつの爪が生えていた。
「やっぱりビースター・・人間に化けていた・・・!」
男の変身した怪人「ビースター」に、少女が緊張をふくらませる。
「そいつを手に入れれば面白くなるというものだ。使いこなせなくても、存在するだけで厄介になりそうだからな・・」
クモの怪人、スパイダービースターが少女からケースを奪おうとする。
「あなたに渡すぐらいなら・・・!」
少女が意を決して、持っていたケースを開いた。中に入っていたのは、1つの特殊なベルトとカード。
少女はベルトを取り出して装着して、バックル部分にカードをセットした。
“マックス!”
するとベルトから音声が発せられた。
「変身!」
少女がベルトの左上のスイッチを押した。
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
さらなる音声が流れる中、ベルトから赤い光があふれ出す。少女を包み込んだ光は、赤いスーツと野獣の頭を思わせる形のマスクに変わった。
「何だ、その姿は?スーツ?」
スパイダービースターが少女の変身した姿に疑問符を浮かべる。
「やってやる・・私だって、使いこなせるんだから!」
自分はやれると言い聞かせて、少女はスパイダービースターに向かっていく。彼女が大きく腕を振りかざしてパンチを出すが、スパイダービースターに軽々とかわされる。
「どうした?その姿はただのこけおどしか?」
スパイダービースターが少女の攻撃をあざ笑う。
「このっ!」
さらにパンチを繰り出す少女だが、またもスパイダービースターにかわされる。彼女はその勢いが余って、前のめりに転んでしまう。
「くだらないな。せめてお前を痛めつけて楽しませてもらおうか。」
スパイダービースターがため息をついてから、少女の後ろ首をつかんで持ち上げる。
「は、はな・・!」
うめく少女をそのまま振り回して投げ飛ばすスパイダービースター。倒れた彼女に迫り、スパイダービースターが背中の爪を動かす。
「さぁて。どこまで耐えられるかな・・?」
不気味な笑みを浮かべて、スパイダービースターが少女を攻め立てようとしていた。
タイチと一緒にゴロウの別荘の近くに来たノゾム。ワオンに怒鳴った運転手への不満を、ノゾムはまだ抱えていた。
「ノゾム、あんまり神経質になることはないよ。気楽にやろう、気楽に。」
「どいつもこいつも、能天気なだけだ・・思い上がりは、笑って許せるレベルをもう超えているというのに・・・」
タイチが言いかけるが、ノゾムは不満を感じたままである。
「人はみんな、周りをまるで考えちゃいない・・自分たちが満足なら、他のヤツがイヤな気分になろうと知ったこっちゃない・・・」
「そんなことないよ。もしもみんながそんな自分勝手な人たちばかりだったら、ノゾムはここにいないよ。父さんだって君を引き取ったりすることも・・・」
疑心暗鬼を見せるノゾムに、タイチが弁解を送る。
「今じゃ、おじさんやタイチのほうが、夜の中じゃ特別みたいだ・・」
「ノゾム・・・」
心を開かないノゾムに不安を覚えるタイチ。しかしこれ以上言うのはノゾムの感情を逆撫ですることになると思って、タイチはこれ以上何も言わなかった。
そのとき、ノゾムが周囲にざわつきが起きたと感じて、足を止めて振り向く。
「どうした、ノゾム?」
「近くに何かいる・・動物とはちょっと違う・・」
タイチが声をかけて、ノゾムが目つきを鋭くして言いかける。
「ちょっと行ってくる・・・」
「ノゾム、オレも行くよー!」
走り出したノゾムを、タイチも慌てて追いかけた。2人はゴロウの別荘の近くの道に出た。
そこでノゾムとタイチが、少女とスパイダービースターの戦いを目撃した。
「か、怪物!?何なんだ、あの2人は!?」
タイチが驚きの声を上げて、戦いをしていた少女とスパイダービースターが彼らに目を向けた。
「人が・・こんなところに・・!?」
他人が巻き込まれたことに、少女が緊張をふくらませる。
「キャッ!」
そこへスパイダービースターが爪を振りかざして、少女を切りつける。少女のまとうスーツから火花が散る。
さらにスパイダービースターの攻撃でベルトが外れて、少女のまとっていたスーツとマスクが消えた。変身の解けた彼女が地面を転がって倒れる。
「あっ!・・女の子だ!女の子が怪物と戦っていたの!?」
タイチが少女の姿を見てさらに驚く。ノゾムも少女とスパイダービースターを見て、動揺を浮かべて息をのんでいた。
「これで終わりだが、他のヤツに見られてしまったようだ・・」
スパイダービースターが望むとタイチを見て笑みをこぼす。
「そいつを奪ってから、お前たちの息の根を止めてやることにするぞ。」
「やめて!他の人は関係ないじゃない!」
ノゾムたちにも狙いを向けるスパイダービースターに、少女がたまらず叫ぶ。
「オレのこの姿を見たんだ。余計な騒ぎを起こされると面倒だからな・・」
「待って!あなたの相手は私よ!」
歩き出すスパイダービースターに向かって、少女が声を張り上げる。するとノゾムが足元に転がっていたベルトを拾い上げた。
「そいつをオレによこせ。そうすれば何もしないでおいてやる。」
スパイダービースターがノゾムに向けて手招きをする。
「渡しちゃダメ!私たら何もかもムチャクチャになってしまう!」
少女がノゾムに向けて呼びかける。
「どうした?そいつをよこさないと、命の保証はできないぞ?」
「そうやってオレを思い通りにしようっていうのか・・・!?」
スパイダービースターから忠告されて、ノゾムが目つきを鋭くする。
「そんなことでオレが言いなりになると思ったら大間違いだ・・コイツが何なのかは分かんないが、お前のようなヤツに渡す気にはならないな・・!」
「ノゾム・・こんなときまでノゾムらしいんだから・・・」
スパイダービースターに敵意を向けるノゾムに、タイチが肩を落として苦笑いを浮かべた。
「オレはどっちでも構いはしない。どっちにしても、オレのこの姿を見たヤツを生かしておくつもりはないからな・・!」
スパイダービースターが笑みを強めて、ノゾムに向けて爪を振りかざす。
「危ない!よけて!」
少女が呼びかけて、ノゾムがとっさに動いて爪をかわす。だが体勢を崩して、彼は横に倒れる。
「ノゾム!」
タイチがノゾムに向けて叫ぶ。ノゾムが立ち上がって、スパイダービースターを鋭く睨みつける。
(まだ“ビースドライバー”に“アニマルカード”が入ったまま・・こうなったらダメもとで・・・!)
「そのベルトを付けて、左上のボタンを押して!」
打開の糸口を探って、少女がノゾムに呼びかける。
「アンタ、急に何を言って・・!?」
「いいから早く!でないと殺されてしまう!」
声を荒げるノゾムに少女が叫ぶ。
「ったく、何なんだよ、もう・・!」
ノゾムは不満を感じながらもベルト、ビースドライバーを装着して、左上のボタンを押した。
“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”
彼の体を赤いスーツとマスクが包んだ。
「ええっ!?ノゾムが変身した!?」
タイチがノゾムを見て驚きの声を上げる。ノゾムも変身した自分の姿に驚きを感じていく。
「コイツも変身した?それは誰でも使える代物だっていうのか・・?」
スパイダービースターもノゾムを見て疑問を感じていく。しかし彼はすぐに笑みをこぼした。
「ということはオレにも使えるということ・・やはりそいつはオレがいただくことにする!」
スパイダービースターがあざ笑って、ノゾムに迫る。ノゾムがとっさに右腕をかざして、スパイダービースターが繰り出した左手を受け止めた。
「何っ!?」
攻撃を止められたことに驚くスパイダービースター。ノゾムがとっさに左手を振りかざして、スパイダービースターの体にパンチを叩き込んだ。
「うぐっ!」
重みのある一撃に、スパイダービースターがうめいて後ずさりする。
「あの小娘よりも、パワーが勝っている!?・・どういうことだ!?・・この男に何かあるのか・・!?」
同じ変身であるにもかかわらず、少女よりも強いノゾムに、スパイダービースターは驚きを隠せなくなる。
「さっさと帰れ・・さもないと容赦しないぞ・・・!」
ノゾムが変身した自分の力を噛みしめながら、スパイダービースターに忠告する。
「いい気になりおって・・オレの力、思い知らせてやるぞ!」
スパイダービースターが怒りを爆発させて、口から糸を吐き出す。糸がノゾムの右腕に巻きついた。
「これで逃げられないぞ・・じっくりたっぷり痛めつけてやるぞ・・!」
スパイダービースターが不気味な笑みを浮かべて、ノゾムを引き寄せようとする。ノゾムは足に力を入れて踏みとどまる。
逆にスパイダービースターが引っ張られて、ノゾムに振り回されて地面に叩きつけられる。
「お前・・口で言っても分かんないのかよ・・・!?」
ノゾムが怒りをふくらませて、右手を強く握りしめる。
「ボタンを2回押して!」
少女がノゾムに向かって呼びかける。ノゾムがビースドライバーの左上のボタンを2回押す。
“マックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ノゾムの体から赤い光があふれ出してきた。
「力があふれてくる・・コイツのおかげだっていうのか・・!?」
自分から出ている力を感じて、ノゾムが動揺をふくらませる。彼はスパイダービースターに目を向けてから、前進してジャンプする。
ノゾムが前に出した右足に赤い光が集まる。その足から繰り出されたキックが、スパイダービースターの体に命中した。
「ぐあっ!」
スパイダービースターが突き飛ばされて、激しく横転する。着地したノゾムの前で、スパイダービースターがゆっくりと起き上がる。
「オレの・・オレのこの力が、通用しないなど・・・!」
うめくスパイダービースターが力尽きて倒れる。彼の体が爆発を起こして消滅した。
「やった・・ビースターを倒した・・・!」
少女がノゾムを見て戸惑いを覚える。
「これが、アニマルパワー・・マックスの力・・・!」
自分やノゾムが変身した戦士、マックスの力を実感して、少女は心を揺さぶられていた。
街外れの路地の小道。1人の青年が女性に突き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
「ウジウジしてないであたしの言う通りにすればいいんだよ、ユウキ!」
「だってリコ、他の人まで迷惑かけてまですることじゃないよ・・ほしいものを探すのに怒鳴ったりつかみかかったりするなんて・・」
鋭く睨みつけてくる少女、桜木リコに青年、霧生ユウキが言葉を返す。
「チマチマしたやり方じゃ分かるもんも分かんないんだよ!きちんと聞き出さなくちゃ意味ないんだよ!」
「でもそれでみんなに迷惑をかけたんじゃ・・」
「うるさいんだよ、文句ばっか言ってきて!あたしのやり方にケチ付けんじゃないよ!」
言い返そうとするユウキに、リコが怒鳴りかかる。
「アンタはあたしの言う通りにしてればいいんだよ!今までだってそうだったんだ!これからもな!」
「それでみんながイヤな思いをしても平気だっていうの・・・!?」
「あたしに逆らうんじゃないよ!あたしがいなくちゃ何にもできないクズのくせして!」
感情をあらわにするユウキに、リコがつかみかかる。彼女がユウキをそのまま壁に押し付ける。
「あたしはあたしが納得すればそれでいいんだよ!他のヤツを気にするつもりは全くない!」
にらみつけて鋭く言いかけるリコ。そのとき、つかみかかっている彼女の手を、ユウキがつかみ返してきた。
「自分さえよければ、それで満足だったのか・・僕が君にしてきたことは、何の意味もないことだったのか・・・!?」
声を振り絞るユウキが鋭く言いかける。
「い、痛い・・放せ!放せってんだよ!」
リコがうめいてももがくが、ユウキの手を振り払うことができない。
「僕は・・オレは我慢してはいけなかった・・ダメなことはダメだって言うべきだった・・力ずくでも止めるべきだった・・・!」
怒りと自責をふくらませて、ユウキが歯を食いしばる。そのとき、彼の体から黒い霧があふれ出してきた。
「イヤ・・放して・・放せって言ってんだよ!」
リコが足を突き出して、ユウキを引き離そうとする。蹴りは彼に当たったが、それでもリコは離れることができない。
リコの目の前でユウキの姿に変化が起こった。黒い体をした怪物の姿に。
「バ、バケモノ!?」
ユウキの姿を目の当たりにして、リコが緊張を覚える。ユウキは龍を思わせる姿の怪人となっていた。
「オレは許さない・・もう、お前には、怒りと憎しみしかない・・・!」
ユウキがリオに向けて鋭く言いかける。彼は今、頂点を超えた怒りに囚われていた。自分の体に異変が起きたことも気に留めず。