仮面ライダーマックス

ブレイクハート・魂の闘い

第1章

 

 

生きることは、ただ命を持ち続けるだけではない。

心を、意思を、魂を長らえさせなければならない。

 

どれだけ正しいことでも、誰かの心を傷付けていいことにはならない。

心を踏みにじられた怒りは、時に世界をも震撼させる

 

 

 街中にある動物公園。そこで動物の世話をしている青年がいた。

 神奈(かんな)ノゾム。動物公園のかつての園長に保護されて、動物の世話をして暮らしていた。

「ノゾム、僕もこっちを手伝うよ。」

 もう1人の青年がやってきて、ノゾムに声をかけてきた。代々木(よよぎ)タイチ。動物公園の現在の管理人である。

「あぁ。ありがとうな、タイチ・・」

 ノゾムがお礼を言って、タイチが微笑む。

「タイチ・・タイチだけでここの管理をするのは大変じゃないのか・・・?」

 ノゾムがふとタイチに質問を投げかけた。

「うん・・でも仕事については前から教わっていたし、ノゾムたちがいるから・・」

「オレはいつものように、動物の世話をしているだけだ・・みんな純粋に生きようとしたり、互いに助け合ったりしているからな・・」

 微笑んで答えるタイチに、ノゾムが自分の正直な考えを口にした。

「ノゾムらしいね・・許せないものには徹底的に敵意を向ける・・絶対に言いなりにならない・・」

 タイチがノゾムの心境や意思を察して呟く。

 ノゾムは実家での厳しい環境に置かれていたことで、理不尽への怒りが人並み外れている。家を飛び出した彼を、タイチの父であるゴロウが保護したのである。

「動物は純粋で、ただ仲間と一緒に生きようとしているだけ・・自分のために他の人を傷つけて平気でいる人間とは違う・・・」

 動物への信頼と人間への疑心暗鬼を口にするノゾム。

「だけど、心優しい人間もいる・・タイチみたいにな・・」

「ノゾム・・そう言ってもらえると、何だか照れちゃうよ・・アハハ・・」

 ノゾムが投げかけた言葉に、タイチが戸惑いを感じて照れ笑いを見せた。

「ノゾムくん、タイチくん、こっちは終わったよ。」

 1人の少女がノゾムたちの前に来て声をかけてきた。ノゾムと同じくこの動物公園の別荘に住んでいる大塚(おおつか)ツバキである。

「ありがとう、ツバキちゃん。ツバキちゃんとノゾムがいてくれて、ホントに助かったよ〜・・」

 タイチがツバキに歩み寄って、感謝して頭を下げた。

「ううん。私たちはタイチくんに保護されている身なんだから・・」

 ツバキが微笑んでタイチを励ます。2人を見て安らぎを感じて、ノゾムが笑みをこぼした。

「私のお父さんもみんなも、行方が分からない・・どこにいるか分かればいいのに・・・」

 ツバキが自分の父、テツロウのことを心配して悲しい顔を浮かべる。

「これだけ心配している子供がいるのを気にしないんじゃ親じゃない。そうだろう・・?」

 ノゾムがツバキに向かって言いかける。彼らしい素振りに励まされて、ツバキが微笑んだ。

 ノゾムの父、リョウガはノゾムに厳しく接していただけでなく、自分が正しいと考えていた。彼の言動が、ノゾムがそういった考えの持ち主を許せなくなった原因になっていた。

「ノゾム・・うん、そうだね・・・」

 ノゾムの心境を察して、ツバキが小さく頷いた。

「さて、ここの作業も終わらせるぞ。コイツらも気持ちを落ち着かせなくちゃな・・」

 ノゾムが気持ちを切り替えて、動物たちの世話を続けた。

 

 薄明かりだけが差し込む大きな部屋。そこには数人の人物が集まっていた。

「準備は整っているか・・?」

「9割ほど完了している。もうすぐ本格的に動き出すことができる。」

 椅子に腰を下ろしている男に、黒ずくめの男の1人が答える。

「やっとだ・・やっとこのバカげた世の中に復讐することができる・・・」

 部屋の隅にいた青年が、いら立ちを込めた笑みを浮かべる。

「復讐なんて物好きだねぇ。ま、好きに暴れられればそれでいいっていうあたしに、偉そうなことは言えないけどね・・」

 女性の1人が呆れた素振りを見せて言いかける。

「コウスケ、カリナ、私情に囚われすぎるな。そのためにヤツはベルトを勝手に持ち出したという愚行を犯したのだぞ。」

 男が青年、飯田(いいだ)コウスケと女性、仙田(せんだ)カリナに言いかける。

「心配しないでよね、ゴウ。あたしはアイツみたいな馬鹿げたことはしないわよ。」

 カリナが男、小野田(おのだ)ゴウに自信を見せる。

「これからの世界は、オレたち“チェーン”が動かす。愚か者たちが全てを牛耳る時代は終わりを迎える・・」

 ゴウが笑みを浮かべて、椅子から腰を上げた。暗躍していた一団「チェーン」が本格的な行動に踏み切ろうとしていた。

 

 動物公園の所有地となっている別荘。複数ある別荘で済んでいるのは、ノゾムとツバキだけではなかった。

 霧生(きりゅう)ユウキ、金子(かねこ)セイラ、小宮(こみや)タツヤ。世間の理不尽にさいなまれて放浪していたユウキたちだが、タイチに出会って保護されたのである。

 ユウキたちもタイチたちの手伝いができればと思って、別荘の周辺の掃除と手入れをしていた。

「こんな感じでいいかな?」

「うん。まずはペットボトルやゴミを片づけられればいいと思うわ。落ち葉は土や他の草木にいいから、多く残ってなければ・・」

 タツヤが声をかけて、セイラが説明をする。

「手馴れているね、セイラさんもユウキくんも・・私も1人ぐらいが続いていて、部屋の掃除もしているけど、今になってもコツがよく分からなくてね・・」

「私たち、少し前まで学生でしたから・・・」

 タツヤが苦笑いを見せると、セイラが物悲しい笑みを浮かべた。

「す、すまない・・嫌なことを思い出させて・・・」

「いえ、いいんです。その嫌なことが、不条理を憎むきっかけになったのですから・・・」

 謝るタツヤにユウキが微笑んで言葉を返す。

「ユウキくん、セイラさん、タツヤさん、ありがとうございます。」

 タイチがノゾムとツバキと一緒にやってきて、ユウキたちに声をかけてきた。

「タイチさん・・いえ、私たちは居候の身ですから、何かお手伝いができればと・・」

「そんな・・気を遣ってもらって、こっちが感謝するよ〜・・」

 笑顔で答えるセイラに、タイチが照れ笑いを見せた。

「お互い、落ち着きを取り戻してきているみたいだな・・」

「そうみたいだね・・このまま、何も悪いことがなければいいけど・・・」

 ノゾムとユウキが声をかけ合って、互いに笑みを見せていた。

「お兄ちゃん、大変だよー!」

 そこへ1人の少年が、犬と一緒に駆け込んできた。

 大崎(おおさき)ワタル。両親の死によって、飼い犬のワオンとともにタイチたちに保護されている。

「どうしたんだい、ワタルくん?」

「タイチお兄ちゃん、大変だよ!ビースターが街に現れたんだ!」

 タイチが聞いて、ワタルが事情を話す。

「ビースターが!?・・ノゾム!」

「分かっている・・!」

 タイチが声を上げて、ノゾムが走り出す。ツバキたちもユウキたちも頷いて、ノゾムに続いた。

 

 「ビースター」。人の進化といえる存在である。普段は人間と変わらない姿だが、怪物といえるもう1つの姿も持っている。

 貝の怪物、シェルビースターが人々を襲って暴れていた。

「もう殻にこもる生活はおしまいだ・・これからは派手に暴れてやるぜー!」

 シェルビースターが笑い声を上げて前進する。周りにいた人々が彼から慌てて逃げ出していく。

 そこへノゾムたちがやってきて、シェルビースターに鋭い視線を向ける。

「お前も、自分が楽しむためだけにこんなマネをしているのか・・!?

 ノゾムが言いかけると、シェルビースターが振り返って笑みを浮かべる。

「これだけの力が出せるようになったんだ・・おとなしくするなんてもったいないってもんだ!」

 シェルビースターがノゾムたちに言い返して、高らかに笑い声を上げる。

「そうやって他のヤツを襲って、イヤな思いをさせてるのか・・!?

「他のヤツなんてみんなそんなヤツさ。他のヤツがよくてオレがダメなんていうほうが、イヤな感じってもんだ!」

 ノゾムが怒りを口にすると、シェルビースターが貝殻の手裏剣を手にして投げてきた。

「危ない!」

 タイチがツバキ、ワタル、ワオンを庇うように身をかがめて、手裏剣をかわす。

「大丈夫、みんな!?

「うん・・ありがとう、タイチくん・・!」

 心配の声をかけるタイチに、ツバキが微笑んで感謝する。

「お前のようなヤツにオレたちの周りをうろつかれたら迷惑なんだよ・・!」

 ノゾムが怒りの声を上げて、1枚のカードを取り出した。動物の力を宿した「アニマルカード」の1枚「マックスカード」である。

“マックス!”

 ノゾムが装着しているベルト「ビースドライバー」のバックル部分に、マックスカードをセットした。

「変身!」

 彼はビースドライバーの左上のボタンを押した。

“チャージ・マーックス!マックスパワー!マックスハート!ビース・マックスライダー!”

 ノゾムの体を赤いスーツとマスクが包んだ。彼は「ビーストライダー」と呼ばれる戦士の1人「マックス」に変身した。

「その姿・・お前、マックスか!」

 シェルビースターがノゾムを見て驚きを見せる。

「オレの怒りは限界突破・・お前のようなヤツは、オレがブッ倒す!」

 ノゾムが言い放って、シェルビースターに向かって走り出す。

「いくらマックスでも、オレをやれるものか!」

 シェルビースターが自信を見せて、貝殻の手裏剣を投げる。ノゾムは手裏剣をかわして、さらに手刀で手裏剣をはじいてシェルビースターに詰め寄った。

 ノゾムがシェルビースターに向かってパンチを繰り出す。体にパンチを受けたシェルビースターだが、少し押されただけで平然としていた。

「貝のビースター・・やはり頑丈か・・!」

 タツヤがシェルビースターの体を見て分析する。

「そんなやわな攻撃じゃ、痛くもかゆくもないぞー!」

 シェルビースターがあざ笑って、手裏剣を手に持ったまま振りかざす。マックスのスーツが手裏剣で切られて火花を散らす。

 ノゾムがジャンプしてシェルビースターを飛び越えるが、その際にも手裏剣にスーツを切りつけられた。

「くっ!・・硬い体をしているなら、力を増せばいいだけだ・・!」

 ノゾムがうめいてから、ゾウのアニマルカード「エレファントカード」を取り出した。

“エレファント!”

 彼はビースドライバーにセットされているマックスカードを、エレファントカードと入れ替える。

“チャージ・エレファーント!ハイフット・ハイレッグ・ハイハイエレファーント!”

 マックスのスーツの色が灰色となり、マスクもゾウを思わせるものとなった。ノゾムはゾウの力を宿した「エレファントフォルム」に変身した。

「姿が変わったところで、オレには勝てないって!」

 シェルビースターが言い放って、手裏剣を振りかざす。マックスのスーツに手裏剣が当たっても、ノゾムはビクともしない。

 ノゾムがシェルビースターの左腕をつかんで押し返す。

「イテテテテ!」

 左腕をひねられて、シェルビースターが後ずさりする。

「や、やってくれたな!・・けど、オレの体は硬い・・だから負けることはない・・!」

 激痛で顔を歪めながらも、シェルビースターは笑みを見せる。ノゾムが前進して、シェルビースター目がけてパンチを繰り出す。

 パンチを受けたシェルビースターの体にヒビが入った。

「な、何っ!?

 驚くシェルビースターが、ノゾムのパンチの重みに押されて突き飛ばされる。パンチを打たれた部分を手で押さえて、シェルビースターが悶絶する。

「さっさと消え失せろ・・そして2度とふざけたマネをするな・・・!」

 ノゾムがシェルビースターを見下ろして、鋭く言いかける。

「冗談じゃない・・オレは強くなったんだ・・もう引きこもりをする必要はないんだー!」

 シェルビースターが叫んで、ノゾムに向かって飛びかかる。ノゾムがビースドライバーの左上のボタンを2回押す。

“エレファントチャージ!アニマルスマーッシュ!”

 ノゾムがジャンプして、エネルギーを集めた両足を繰り出した。

「ぐおっ!」

 シェルビースターが突き飛ばされて、仰向けに倒れる。

「オレは解放されたんだ・・こんなところで、倒れるわけには・・いかないんだぁー!」

 絶叫を上げるシェルビースターが爆発を起こして消滅した。ノゾムがひと息ついて、落ち着きを取り戻そうとする。

“スリービースト。”

 ノゾムがビースドライバーからエレファントカードを取り出した。彼のマックスへの変身が解けた。

「ノゾム、やったね・・」

 ツバキがノゾムに駆け寄って微笑みかける。

「あぁ・・あんなヤツの好き勝手にはさせない・・・」

 ノゾムはツバキに答えて、ユウキと目を合わせた。ユウキはシェルビースターのやり方に不満を感じていた。

(オレも、オレたちも戦う・・身勝手な敵がいる限り・・・ノゾムだって・・・)

 ユウキは心の中で決意を思い返して、ノゾムの心境を察する。

(オレたちも一緒に戦う・・オレたちにも、力があるんだから・・・!)

 ユウキは心の中で呟いて、セイラ、タツヤとも頷き合った。

「ねぇ!あそこに誰かいるよ!」

 ワタルが声を上げて、ノゾムたちが振り向く。その先の草むらから、1人の少年が出てきた。

「あの、大丈夫!?しっかりして!」

 タイチが駆け寄って、ふらつく少年を支える。

「病院に運ぼう!手当てをしないと・・!」

 タイチが呼びかけて、ツバキとワタルが頷いた。3人とワオンは少年を連れて病院に向かった。

 

 ノゾム、ユウキ、セイラ、タツヤも少し遅れて病院にたどり着いた。病院の前ではワタルとワオンがいた。

「ワタルくん・・?」

「病院の中に動物は入れられないって・・タイチお兄ちゃんとセイラお姉ちゃんが付き添ってる・・」

 セイラが声をかけて、ワタルが肩を落としながら答える。

「そうだったか・・私がワタルくんたちのそばについているから、ユウキくんたちも行ってきて。」

 タツヤが肩を落としてから、ノゾムたちに言いかける。

「いや、オレがワタルたちのそばにいる。オレが行ってもしょうがないからな・・」

 ノゾムが悪ぶった素振りを見せて、この場に残ることを言い出した。

「オレたちのことは気にせずに行ってくれ・・」

「そうか・・それじゃここで待っていて。」

 ノゾムに言われて、タツヤは彼の言葉を聞き入れた。タツヤ、ユウキ、セイラも病院の中に入っていった。

「ノゾムお兄ちゃん、いいの?・・僕たちのことは気にしなくていいのに・・」

 ワタルがノゾムを心配して、ワオンも見つめる。

「オレがそうしたいから残っただけだ。ワタルも気にしなくていい・・」

「お兄ちゃん・・・うん・・」

 自分の考えを口にするノゾムに、ワタルが小さく頷いた。

 

 少年は疲れがあったものの、負傷は見られなかった。安静にしている少年とツバキ、タイチのところへユウキたちがやってきた。

「ユウキくん・・ノゾムは?」

「ワタルくんのそばについているって・・子供のほうは?」

 タイチとユウキが問いを投げかける。

「疲れていただけだそうよ。少し休めば・・」

「そうでしたか・・よかった・・」

 ツバキが説明して、セイラが安心の笑みをこぼした。やがて少年が落ち着きを取り戻して、ツバキたちに目を向けた。

「気分はどう?どこか痛いところはない・・?」

「ここは・・病院・・・?」

 心配の声をかけるタイチに対して、少年が周りを見回す。

「そうよ。私たちがここに連れてきて、診てもらったのよ。」

 ツバキが説明して、少年が納得した。

「君、名前は?僕はタイチっていうんだ。」

「僕はカズト。荻野(おぎの)カズト・・」

 タイチと少年、カズトが自己紹介をする。

「カズトくん、さっきの怪物のいるところに来てしまったのね・・」

「・・お兄ちゃん・・お兄ちゃんはどこ・・・?」

 ツバキが言いかけると、カズトは周りを見回して問いかける。

「お兄ちゃんがいるの?君を見つけたとき、周りには誰もいなかったけど・・」

「もしかして、はぐれてしまって、その後に私たちがカズトくんを見つけたのかもしれない・・」

 ユウキが答えて、セイラが推測を口にする。

「カズトくん、体は本当に大丈夫・・?」

 タイチが聞くと、カズトが小さく頷いた。

「それじゃ、お兄さん捜しに行こう。僕たちも手伝うよ。」

 タイチがカズトに微笑んで言いかける。

「いいの、お兄ちゃん・・?」

「僕たちもカズトくんに何かお手伝いができたらな〜って思って・・」

 戸惑いを見せるカズトに、タイチが照れ笑いを見せる。

「タイチくんは本当に親切ですね。見習わないとと思います・・」

「セイラさん・・そう言われると照れてしまうよ・・アハハ・・」

 セイラが喜んで、タイチがさらに照れ笑いを見せた。

「じ、じゃ行こうか、カズトくん・・!」

「う、うん・・」

 タイチが声をかけて、カズトが頷いた。彼らは病院を出て、ノゾムたちと合流した。

「もういいのか・・?」

「うん。少し疲れていただけだった・・」

 ノゾムが声をかけて、ユウキが頷いた。

「はじめまして。僕は大崎ワタル。この子はワオン。」

「僕は荻野カズト。よろしくね、ワタルくん。」

 ワタルが声をかけて、カズトとともに自己紹介をして握手を交わした。

「同じくらいの年ね、ワタルくんとカズトくん。」

「これを機にいいお友達になるといいね・・」

 ツバキとセイラがワタルたちを見て微笑み合った。

「それでノゾム、これからカズトくんのお兄さんを捜しに行くから・・」

「そうか・・オレも一緒に行こうか・・」

 タイチが事情を話すと、ノゾムも付き合うことを決めた。

「いいの、ノゾムお兄ちゃん?」

「オレだけ行かないっていうのもいい気がしないからな・・」

 ワタルが聞くと、ノゾムが突っ張った素振りを見せて答える。

「オレは神奈ノゾムだ。よろしくな、カズト・・」

「うん・・ありがとう、ノゾムお兄ちゃん・・」

 ノゾムが声をかけて、カズトが微笑んで頷いた。彼らはカズトの兄を捜して歩き出した。

 

 ノゾムたちがガストと出会う少し前のことだった。1人の青年が街外れの道を走っていた。

 必死に走る青年を、2人の男が追っていた。青年は裏路地の小道を抜けて、大通りに出た。

「逃げ回るのはここまでだ。」

 男の1人が青年の前に回り込んできた。青年は2人の男に挟まれて、逃げ場を見失う。

「おとなしく言うことを聞けよ・・でなけりゃここで始末されることになるぞ・・!」

 もう1人の男に言われて、青年が危機感をふくらませていく。男たちが変化して、怪物と化した。

「戻るぞ・・お前の居場所はあそこだけだ・・・!」

「オレたちの生きる道は1つしかないんだよ・・・!」

 2人の怪物、ライオンビースターとゴリラビースターが言いかけて、青年に迫る。

「ちょっと待った、お前たち!」

 そこへ声がかかって、青年たちが振り向いた。彼らの前に2人の青年が現れた。

「ビースター・・また人を襲っているのか・・!?

「だったらオレたちが相手をしなくちゃならないな。」

 2人の青年、渋谷(しぶや)ソウマと牛込(うしごめ)シゲルがライオンビースターたちに向かって言いかける。

「威勢のいいヤツらが出てきたな・・!」

「身の程を思い知らせてやるのもよさそうだな・・!」

 ライオンビースターとゴリラビースターが笑みをこぼして、ソウマとシゲルに狙いを変えた。

「やるぞ、シゲル・・!」

「あぁ、ソウマ・・」

 ソウマとシゲルが声をかけ合う。ソウマがキツネのアニマルカード「フォックスカード」を、シゲルが牛のアニマルカード「オックスカード」を手にした。

“フォックス!”

 ソウマがフォックスカードをビースドライバーにセットした。

“オックス。”

 シゲルが左腕に装着している「ビースブレス」にオックスカードをセットして、ベルト「リードライバー」の中心部にかざす。

「変身!」

“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”

“スタートアップ・オックス。”

 ソウマ、シゲルの体をスーツとマスクが包んだ。2人はビーストライダー「フォックス」と「オックス」に変身した。

「コ、コイツら、ビーストライダーだったのか!?

 ゴリラビースターがソウマたちを見て驚く。

「オレの強さは疾風迅雷!」

「オレの力は天下無敵!」

 ソウマとシゲルが言い放って、ライオンビースターたちに向かって走り出した。

「たとえビーストライダーでも、オレたちは負けはしない!」

 ライオンビースターが迎え撃ち、ゴリラビースターも続く。

 ソウマとライオンビースターがスピードを上げて、互いに打撃を繰り出していく。パンチとキックを当てていくソウマに対して、ライオンビースターは打撃を当てられない。

「オレのスピードに敵うヤツはいないぜ!」

「コ、コイツ・・!」

 強気に言い放つソウマに、ライオンビースターが毒づく。

 ゴリラビースターと組み付いて、力比べを演じるシゲル。押し合いを繰り返す2人の力は拮抗していた。

「さすがゴリラ。パワーはなかなかだ・・だけどな・・!」

 シゲルが笑みをこぼすと、両腕に力を込めてゴリラビースターを持ち上げた。

「うわっ!なんと!?

 慌てるゴリラビースターを、シゲルがそのまま回転して投げ飛ばした。

「うぐっ!」

 ゴリラビースターが地面に叩きつけられてうめく。

「ビースターは1人残らず倒す・・お前たちにも容赦しないぞ!」

 ソウマが言い放って攻め立てる。ライオンビースターがスピードを上げて、ソウマの頭上を飛び越える。

「かなりのスピードを持っているようだが、オレも自信はあるぞ・・!」

 着地したライオンビースターがソウマに飛びかかる。彼が振りかざした爪に切りつけられて、フォックスのスーツから火花が散る。

「やってくれるな・・だけど、オレのスピードはこんなもんじゃないぞ・・!」

 ソウマが言いかけて、新たなアニマルカード「ジャッカルカード」を取り出した。

“ジャッカル!”

 彼はビースドライバーにセットされているフォックスカードを、ジャッカルカードと入れ替えて、左上のボタンを押した。

“チャージ・ジャッカール!ジャックスピード・ジャックソウル・ジャックジャックジャッカル!”

 フォックスのスーツが黒と茶色に変わった。ソウマはさらなるスピード形態「ジャッカルフォルム」となった。

 ライオンビースターがソウマに向かって飛びかかるが、彼の視界からソウマが消えた。

 次の瞬間、ソウマのジャンプキックがライオンビースターの体に叩き込まれた。先ほどよりもソウマのスピードが格段に上がっていた。

 ソウマがさらに高速のパンチとキックを繰り出す。ライオンビースターが攻撃を立て続けに食らって押されていく。

「オレの速さが全くついていけてないだと・・!?

 ライオンビースターがソウマに圧倒されて愕然となる。

「さてと・・さっさと片付けさせてもらうぞ・・!」

 ソウマが言いかけて、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。

“ジャッカルチャージ!アニマルスマーッシュ!”

 ソウマがライオンビースターの周りを高速回転する。巻き起こった竜巻の中にいるライオンビースター目がけて、ソウマが連続でキックを叩き込んだ。

「バカな・・こんなバカなぁー!」

 絶叫を上げるライオンビースターが、空中で爆発を起こした。

「おいっ!アイツ・・!」

 ゴリラビースターがライオンビースターが倒されたことにいら立ちを覚える。

「おっと。お前の相手はオレだぜ。」

 シゲルが腕を回して肩を慣らして、ゴリラビースターに向かっていく。

「ちくしょうが・・こうなったら・・・!」

 危機感も覚えるゴリラビースターが、とっさにシゲルの前から走り出した。彼は青年を捕まえて、そのまま逃げ出していく。

「あのヤロー、逃げる気か!」

「それで、はいそうですかと逃がすわけないって・・!」

 ソウマがいら立ちを浮かべて、シゲルが新たなアニマルカード「イグアナカード」を取り出した。

“イグアナ。”

 シゲルがビースブレスにイグアナカードをセットして、リードライバーにかざした。

“スタートアップ・イグアナ。”

 すると1台の車が走り込んできた。イグアナの姿かたちをした「イグアカード」である。

「オレのほうが足が速いから、先に行くぜ!」

 ソウマがシゲルに呼びかけると、ゴリラビースターを追って走り出した。

「相変わらず、スピードのことになると自信満々なんだから・・なんてしゃべってる場合じゃない。イグアカート、追いかけるぞ!」

 ソウマに対して呟いてから、シゲルがイグアカートに乗った。

 ゴリラビースターを追っていくソウマたち。ゴリラビースターがソウマに前に回り込まれて、シゲルと挟み撃ちにされた。

「う・・動くな!オレから遠ざからねぇと、コイツがどうなっても知らねぇぞ!」

 ゴリラビースターが慌てて青年を人質に取る。

「やってみろ・・お前がそんなマネをする一瞬前に、お前をそいつから引き離す・・・!」

「何だとっ!?

「お前の仲間のライオンよりノロいお前が、オレの速さを振り切れるわけがないだろうが・・!」

 脅迫に屈しないソウマに、ゴリラビースターがいら立ちをふくらませる。

「おのれ!」

 ゴリラビースターが青年の首をへし折ろうとした。その瞬間、ソウマが一気に詰め寄ってきて、足を突き出してゴリラビースターを青年から引き離した。

 ソウマが前に立って青年を守ろうとする中、シゲルとイグアカートがゴリラビースターの前に立ちはだかった。

「卑怯なマネをしたんだ。それで助けてくれって言えば聞いてくれるなんて思うなよ・・!」

 シゲルがゴリラビースターに忠告してから、リードライバーの中心部を回転させた。

“イグアナ・ロードスマッシュ。”

 光を発したイグアカードを走らせるシゲル。イグアカートの突撃が、ゴリラビースターを大きく突き飛ばした。

「おのれ、ビーストライダー!」

 絶叫を上げるゴリラビースターが、空中で爆発を起こした。

「ふぅ・・片付いたな、ソウマ。」

 シゲルがひと息ついて、ソウマが頷いた。

“スリービースト”

“シャットダウン。”

 2人がフォックス、オックスへの変身を解除して、青年に歩み寄った。

「もう大丈夫だ。あのバケモノたちは、オレたちがやっつけてやったぜ。」

 ソウマが青年に気さくに声をかけた。

「あ、ありがとうございます・・でもオレ、急がなくちゃ・・!」

 青年はお礼を言って走り出そうとした。

「急ぐって、どこに行くんだ?」

「弟がはぐれてしまって、捜していた途中でさっきの人に追いかけられて・・」

 シゲルが声をかけると、青年が事情を話した。

「そうだったか・・オレは牛込シゲル。」

「オレは渋谷ソウマだ。お前は?」

 シゲルとソウマが自己紹介をする。

「僕はリク。荻野リクです・・」

 青年、リクも自己紹介をする。彼こそがカズトの捜していた兄だった。

 

 

 

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