仮面ライダークロス

第40話「電王参上!フォーエバー・クライマックス!」

 

 

 ライは怪人にもなって、見境なく暴れた。この事実に恐怖して、まりはライから逃げ出してしまった。

(ライくんが怪人になるなんて・・人間じゃなくなるなんて・・・!)

 クロスホッパーになったライの姿を思い出して、まりが体を震わせる。

(しかも関係ない人まで襲って・・私まで・・もしかしたら、ひろしさんまで襲い掛かるんじゃ・・・!?

 ライに自分やみんなが襲われるのではないかという不安を覚えて、まりはふくらむ恐怖に耐えられなくなっていく。

(イヤ!そんなのイヤよ!ここまでライくんや私たちがムチャクチャになるなんて!・・元に戻したい・・今までの平和な私たちに・・・!)

 まりが昔のライたちとのひとときを思い出していく。彼女はその時間に戻りたいという願望をふくらませていた。

「それがお前の願いか?」

 そこへ声がかかって、まりが顔を上げる。この不気味な声に、彼女はさらに怖がって周りを見回す。

「気のせい?・・自分のことばかり考えていたせいかな・・・」

 声が空耳だと思って、まりが苦笑いを浮かべた。

「昔に戻りたいのがお前の願いなのだな・・」

 再び声が聞こえてきて、まりが緊張を覚える。

「気のせいじゃない!?・・誰かいるの!?

 まりが周りを見て声を張り上げる。彼女の眼前の地面から砂が盛り上がって、怪人の姿になった。

「か、怪人!?

 まりが怪人を見て、たまらず後ずさりする。

「お前との契約は結ばれた。すぐに時間を取り戻させてやるぞ・・」

 怪人、ゲッコーイマジンの灰色の体に色が付いた。彼はまりと契約を交わしたことで、実体を持ったのだった。

 

 これ以上暴走のことを秘密にするのは逆によくないと考えて、ライはひろしに打ち明けることにした。

「ライ、お前が怪人になって、自分でも気付かないうちに暴れ出すとは・・・!」

 ライの話を聞いて、ひろしが動揺を隠せなかった。

「このことをまりちゃんも知って、怖がってしまって・・連絡しようとしたけど、電話に出なくて・・・」

「これから捜しに行こうとは思っていますが・・・」

 かなたもまりを心配して、聖也も彼女とライのことを気に掛ける。

「ライ、ムリに戦う必要はないが、聖也くんたちと一緒にいたほうがいい。」

「ひろしさんの言う通りだ。いざとなったとき、私とかなたくんがいたほうがいいから。」

 ひろしがライに呼びかけて、聖也が頷いた。

「みんなと一緒にいるなら、オレも戦ったほうが・・!」

「いや、オールソウルを使わなくても、暴走してしまう危険も出てきてしまった。下手に戦って理性を失うわけには・・・」

 ライが言いかけるが、聖也が彼を制止する。

「2人やみんなに迷惑を掛けるばかりか、何もできないなんて・・・」

 どうすることもできない自分に、ライは悔しさを感じていた。

 そのとき、ライは遠くから聞こえてくる声を捉えて、緊張を覚えた。

「どうしたんだ、ライ?」

「声が聞こえる・・オレを呼んでいる・・・!?

 ひろしが疑問を投げかけて、ライが耳を澄ましたまま答える。

「それはどこだ、ライくん!?案内してくれないか!?

「は、はい・・!」

 聖也が呼びかけて、ライが動揺しながら答えた。

「戦うときは僕たちに任せて!ライに負担はかけないよ!」

「かなた・・聖也さん・・・」

 意気込みを見せるかなただが、ライは素直に嬉しいとは思えなかった。

 

「クロスー!出てこーい!出てきやがれー!」

 街中の中央広場の時計台の上から、ゲッコーイマジンが叫ぶ。彼はライを捜して行動していた。

 まりの昔に戻りたいという願いをかなえる契約を結んだゲッコーイマジン。だが彼はそれを、まりとライを会わせることで果たそうとしていた。

「チェ!出てこねぇか・・場所を変えるか・・!」

 ゲッコーイマジンが舌打ちをして、広場から離れようとした。

「待て、怪人!」

 そこへ声がかかって、ゲッコーイマジンが立ち止まる。彼の前に聖也がライ、かなたを連れてやってきた。

「あれはイマジン・・ゲッコーイマジンだ!」

 かなたがゲッコーイマジンを指さして叫ぶ。

「おっ!見つけたぞ、クロス!さっさとオレについてこいよ!」

 ゲッコーイマジンが笑みをこぼして、ライを手招きする。

「何を企んでいる!?オレの何が狙いだ!?

「おめぇとの昔の時間に戻りたいってヤツがいるんだよ!グダグダ言ってねぇで、さっさとついてこい!」

 問いかけるライに、ゲッコーイマジンが怒鳴って呼びつける。

「ダメだよ、ライ!そうやって契約を成立させて、その人を使って過去に飛ぶのがイマジンのやり方だよ!」

 かなたがライを呼び止めて、ゲッコーイマジンに鋭い視線を向ける。

「邪魔すんじゃねぇよ、おめぇら!とにかくクロスは連れてくぜ!」

 ゲッコーイマジンがいら立って、ライを捕まえようと迫る。

「イマジン、お前の相手は私たちがするぞ!」

 聖也が言い放って、クラールドライバーとクラールソウルを取り出した。かなたもルシファードライバーとルシファーソウルを手にした。

“クラールドライバー!”

 聖也がクラールドライバーを装着して、クラールソウルを手にした。

“クラール!”

 聖也がクラールソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

 彼はクラールソウルをクラールドライバーにセットした。

「変身!」

 聖也は左手を斜め右上に振り上げて、クラールドライバーの左レバーを上に上げて、クラールタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クラール!”

 聖也の体をオレンジ、黒、銀に彩られた装甲とマスクが包んだ。彼はクラールへの変身を果たした。

“ルシファードライバー。”

“ルシファー!”

 かなたがルシファードライバーを装着して、ルシファーソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウル。”

 彼がルシファーソウルのスイッチを入れて、ルシファードライバーの右側のソウルスロットに上からセットした。

「変身。」

 かなたがルシファーハリケーンを中心へ押し込んだ。

“ダークチェンジ・ルシファー。”

 紫のラインの入った黒く鋭い装甲とマスクを身にまとって、かなたはルシファーに変身した。

「仮面ライダーと正義の力、お前も受けてみろ・・!」

「この悪魔の力で、みんなを守る!」

 聖也とかなたが言い放って、ゲッコーイマジンと対峙する。

「ライくんは下がっていてくれ・・これ以上、戦ってはいけない・・!」

 聖也に言われて後ずさりするライ。戦いに参加することもできず、ライの苦悩は深まるばかりだった。

「オレも加勢するぞ、イマジン!」

 そこへ声がかかって、ライたちとゲッコーイマジンが振り向いた。暗闇大使が現れて、彼らの前に降り立った。

「暗闇大使!」

「私が2人の相手をする!貴様はクロスを連れていくがいい!」

 かなたが声を上げて、暗闇大使がゲッコーイマジンに呼びかける。

「そいつはオレの獲物だ!余計な邪魔をすんじゃねぇよ!」

「ほう?貴様をここで始末してやってもいいんだぞ?」

 不満の声を上げるゲッコーイマジンを、暗闇大使が挑発する。

「くっ!・・しょうがねぇな・・!」

 ゲッコーイマジンが暗闇大使に渋々従うことにした。

「というわけだ、ライダーども!おとなしく従えば命だけは助けてやるぞ!」

「ふざけるな!僕はもうお前たちの思い通りにはならないよ!もちろんライも聖也さんも!」

 手招きをする暗闇大使に、かなたが言い返す。

「ならば私が貴様たちの相手をしてやるぞ!光栄に思え!」

 暗闇大使があざ笑って、聖也たちに向かって鞭を振りかざす。聖也とかなたは回避したが、ライは足をつまずいて転んでしまう。

「ライ!」

 かなたがライに振り向いて叫ぶ。そこへゲッコーイマジンが飛び込んできて、起き上がったライの腕をつかんできた。

「しまった・・!」

「ケッケッケ!捕まえたぞ!このままアイツのとこへ連れてくぞ!」

 うめくライを、ゲッコーイマジンが笑い声を上げて引っ張っていく。

「ラ、ライくん・・!」

 そこへまりがやってきて、ライを見て動揺を見せてきた。

「まりちゃん!」

「ここに来てはダメだ!すぐに離れるんだ!」

 かなたが声を上げて、聖也がまりに呼びかける。

「来てくれるとは嬉しいぜ・・これですんなり契約完了だ!」

 ゲッコーイマジンが喜んで、ライを連れてまりの前まで来た。

「これからはおめぇを使って、過去へ行けるってもんだ!」

 ゲッコーイマジンがまりに向かって手を伸ばして、彼女の体を裂くように「過去の扉」を開いた。ゲッコーイマジンがその扉の中に飛び込んだ。

「まりちゃん!」

 ライが呼びかけてまりを支える。

「まりちゃん、しっかりして!まりちゃん!」

「ライくん・・昔に戻って・・ライくん・・・」

 ライに声を掛けられても、まりは自分の過去の記憶に囚われていて聞こえていない。

「これで終わりだな、貴様たちも・・全員まとめて始末してくれる!」

 暗闇大使が勝ち誇って、聖也たちへの攻撃を続けようとした。

「ちょーっと待ったー!」

 そこへ声が飛び込んできて、ライたちが振り向いた。彼らの前に現れたのは、赤い装甲と仮面をした仮面ライダーである。

「オレ、参上!」

 ライダーが高らかに言って、ポーズを決めた。

「仮面ライダー電王・・野上(のがみ)良太郎(りょうたろう)さんとモモタロスだ!」

 かなたがモモタロスを見て感動の声を上げた。

“モモタロス、ちょっと遅かったみたいだよ・・!”

「チッ!さっさと追いかけるぜ!」

 良太郎が声を掛けて、モモタロスが舌打ちをしながら答える。彼がまりにかざしたチケットに、日付が表示される。

 その直後、1編成の電車が時空のトンネルから現れて、レールを形成しながら走ってきた。

「“デンライナー”も来たよー!すごーい!」

 かなたがまた感動の声を上げる中、デンライナーがモモタロスたちのそばで停車した。

「オレは過去に飛んだヤツを追いかける!ここは任せたぜ!」

 モモタロスがライたちに呼びかけて、デンライナーに乗り込んだ。

「ライくん・・・ライくん・・・!」

 するとまりが彼を追うように、デンライナーに飛び乗った。

「まりちゃん、待って!」

 ライが慌ててデンライナーの中に入った。彼とまりも乗せて、デンライナーは過去を目指して走っていった。

「イマジンを追っていったか・・クロスも一緒に・・!」

 暗闇大使がデンライナーを見届けると、聖也たちに視線を戻して笑みを浮かべた。

「ならばまずは貴様たちから始末してくれるぞ、クラール、ルシファー!」

 暗闇大使が聖也たちへの攻撃を再開しようとした。

「待て、暗闇大使!」

 そのとき、1人の青年が駆けつけて、暗闇大使を呼び止めた。

「ぬっ!?貴様は!」

「侑斗さん・・ゼロノスの桜井(さくらい)優斗(ゆうと)さんだ!」

 暗闇大使が驚いて、かなたが喜ぶ。

「イマジンは野上たちが倒す。お前の相手はオレがする!」

 侑斗が暗闇大使に言い放つと、ベルト「ゼロノスベルト」を装着してカード「ゼロノスカード」を手にした。

「変身!」

 彼がゼロノスカードをゼロノスベルトにセットした。

Altair form.

 侑斗の体を緑色の装甲と仮面が包み込んだ。彼は「ゼロノス・アルタイルフォーム」に変身した。

「最初に言っておく!オレはかーなーり、強い!」

 侑斗が暗闇大使を指さして、高らかに言い放つ。

「ゼロノス、貴様も他の2人とともに地獄に落ちるがいい!」

 暗闇大使が侑斗に向かって鞭を振りかざす。侑斗はジャンプして口をかわして、暗闇大使に詰め寄って、握った両手を振りかざす。

 暗闇大使がゼロノスのパンチを受けて、後ずさりしていく。

「おのれ、ゼロノス・・戦闘員、ゼロノスを撃て!」

「イー!」

 いら立つ暗闇大使の命令を受けて、戦闘員たちが侑斗を狙って大砲を発射する。侑斗が横に動いて、砲撃をかいくぐっていく。

「これは回避はできるが、近づくことができないか・・来い、デネブ!」

 突破口を切り開こうとする侑斗に呼ばれて、彼と行動をともにしているイマジン、デネブが駆けつけた。

「侑斗!」

 デネブが答えて、侑斗がゼロノスベルトにセットしていたゼロノスカードを取り出して、裏返してから再びセットした。

Vega form.

 侑斗と並んだデネブが、融合するようにゼロノスの装甲になった。ゼロノスのもう1つの姿「ベガフォーム」である。

「最初に言っておく!久々に出てこられて、私は嬉しい!」

“デネブ、くだらないこと言ってないで、さっさとアイツらを倒すぞ!”

 暗闇大使たちに向かって指さして言い放つデネブに、侑斗が文句を言う。ベガフォームとなっているゼロノスの人格は、デネブが表に出ていた。

 戦闘員たちが大砲を発射するが、デネブは砲撃と爆発をものともせずに前進する。彼は武器「ゼロガッシャー」を「サーベルモード」にして、振りかざして大砲を切り裂いた。

「さぁ、逃げ出すならよし!向かってくるならば倒すぞ!」

 デネブが忠告すると、戦闘員たちが動揺を見せる。

「怯むな!攻め続けてヤツらを倒せ!」

 暗闇大使が戦闘員に呼びかけると、鞭を振りかざしてデネブの体に巻きつけた。

「おわっ!」

 動きを封じられて、さらに鞭からの電撃を受けて、デネブがうめく。

「ゼロノス!」

“ブレイガン!”

 聖也がブレイガンソウルを起動して、クラールブレイガンを手にした。

“ガンモード!”

 クラールブレイガンをガンモードにして、聖也が射撃する。暗闇大使がデネブから鞭を離して、射撃をかわす。

「大丈夫ですか、侑斗さん!?

「も、申し訳ない・・ありがとうございます・・!」

 かなたが駆け寄ってきて、デネブが感謝して立ち上がる。戦闘員たちが彼らを取り囲む。

「侑斗、アレを2人に渡してもいいんじゃないか・・!?

“そうだな・・それが目的でもあったしな・・!”

 デネブが聞いてきて、侑斗が答えた。デネブが持っていたライダーソウル「ゼロノスソウル」を聖也たちに見せた。

「それは、ゼロノスのライダーソウル!」

「クラール、これを使ってくれー!」

 声を上げる聖也に、デネブがゼロノスソウルを投げて渡した。

「ありがとう、ゼロノス!」

“ゼロノス!”

 お礼を言った聖也が、受け取ったゼロノスソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

 彼がゼロノスソウルをクラールドライバーにセットして、クラールタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!ゼロノース!”

 クラールの装甲がゼロノス・アルタイルフォームとそっくりになった。聖也は「ゼロノスフォーム」への変身を果たした。

「最初に言っておく!今の私もゼロノスだ!」

 聖也が暗闇大使たちに向かって言い放つ。

「クラールもかっこいいことを言ってくれて嬉しいぞ〜!」

“デネブ、ふざけてる場合じゃない!”

 感動の声を上げるデネブに、侑斗が文句を言う。

“ブレイドモード!”

 クラールブレイガンをブレイドモードにした聖也の横に、デネブが駆けつけた。

「暗闇大使を倒せば、指揮系統が崩れるはずです!私がヤツを倒します!」

「分かった!オレが戦闘員を引きつけている間に行ってくれ!」

 聖也からの提案を、デネブが聞き入れた。2人がクラールブレイガン、ゼロガッシャーを構えて、暗闇大使と戦闘員たちに向かっていく。

「よーし!僕もやるよー!」

“デスセイバー!”

 かなたも意気込みを見せて、デスセイバーソウルを起動して、ルシファーデスセイバーを手にして、聖也たちに加勢した。

 かなたとデネブが振りかざすルシファーデスセイバーとゼロガッシャーに斬られて、戦闘員たちが倒れていく。その隙に聖也が暗闇大使との距離を詰めていく。

 暗闇大使が振りかざす鞭をかわして、聖也がクラールブレイガンを振りかざす。

「ぐおっ!」

 暗闇大使が連続で体を切りつけられてうめく。彼が鞭を振りかざすが、聖也のクラールブレイガンにはじき飛ばされて手放した。

「しまった・・!」

 右手を痛めて顔を歪める暗闇大使。

「今度こそ終わりだ、暗闇大使!」

 聖也が言い放って、クラールソウルを手にして、クラールブレイガンの中心部にセットした。

“ライダーブレイク・クラール!”

 クラールブレイガンの刀身にエネルギーが集まる。

「クラールスプレンデッドエンド!」

 聖也がクラールブレイガンを振りかざして、暗闇大使を切りつけた。

「ギャアッ!」

 体に傷を付けられて、暗闇大使が絶叫を上げる。

「暗闇大使様!」

「お前たちの相手は僕たちだ!」

 声を上げる戦闘員たちに、かなたが言い放つ。

“ネクロム!”

 彼がネクロムソウルを取り出して、ルシファーデスセイバーのスロットにセットした。

“ネクロム・デスパワー。”

 ルシファーデスセイバーの刀身に、緑の光が集まる。

Full charge.

 ゼロガッシャーを「ボウガンモード」にして、デネブがゼロノスベルトの左上のボタンを押した。

「ルシファーネクロムデストロイ!」

「グランドストライク!」

 かなたとデネブがエネルギー弾と光の矢を連射する。戦闘員たちが射撃されて、次々に倒れていった。

「やったぞ!」

 デネブが喜んで、かなたと手を取り合う。

「しかし、ライくんとまりさんがあの電車に乗って・・」

 聖也がライたちのことを気に掛ける。侑斗がゼロノスへの変身を解除した。

「野上たちがいるから、大丈夫だとは思うが・・」

 侑斗も良太郎のことを気にしていた。

 

 良太郎に続いてライとまりもデンライナーに乗り込んだ。過去へ進むデンライナーの中には、彼らの他に3人の怪人と1人の男性がいた。

 良太郎と行動をともにしているイマジンのウラタロス、キンタロス、リュウタロス、そしてデンライナーのオーナーである。

「おや?お嬢さんが1人乗車してきたようだ。」

 ウラタロスが席を立って、まりに近づいてきた。

「君に涙は似合わないよ。僕が幸せの海辺まで釣り上げてみせる。」

 まりに手を差し伸べて優雅に振る舞うウラタロス。ところが彼のナンパにも、まりは反応しない。

「涙!?泣けるで!」

 そのとき、居眠りをしていたキンタロスがウラタロスの言葉に反応して飛び起きた。

「涙はこれで拭いとき!オレの強さは泣けるで!」

 懐紙を差し出すキンタロスだが、これにもまりは反応しない。

「んもー!カメちゃんもクマちゃんもー!僕もおしゃべりしてもいいよね!?答えは聞いてない!」

 リュウタロスがウラタロスとキンタロスを押しのけて言い放つが、それでもまりは無反応である。

「彼女は話を聞いてないみたい・・」

 ウラタロスがまりを見て言いかけて、キンタロスとリュウタロスが深刻さを覚える。

「そいつの過去にイマジンが飛んでるんだ・・追いかけようとしたら、コイツらが勝手に乗ってきて・・」

 モモタロスが説明して、まりとライに目を向けた。

「すみません・・でも、まりちゃんのことが心配で・・・」

 ライが謝って、オーナーに目を向けた。

「本来ならば、チケットを持たない乗車は認められていません。ですがクロスであるあなたには、これを渡す必要があります。」

 オーナーが席を立って、1つのアイテムを取り出した。

「それはもしかして、電王のライダーソウル・・!?

 ライが電王のライダーソウル「電王ソウル」を見て驚く。

「クロス、ううん、十時ライくん、君のことは聞いているよ。君が怪人となって暴走していることもね・・」

 良太郎がライのそばに来て、事情を話した。

「もしも、怪人になる前になれたら・・・」

 オールソウルを使うことなく、怪人になることを回避できたらと、ライは考える。

「そうだ・・デンライナーは時間を移動できる・・オレが怪人になる前に、オレを止めることができたら・・・!」

「過去を変えることは誰にも許されません。たとえクロスや電王であろうと。」

 ライの考えた思惑を、オーナーがとがめる。

「それに過去を変えれば、今のあなたの存在を消すことになりかねません。あなたの存在そのものが、誰の記憶からもなくなる。」

「オレ自身の存在が、みんなから消える・・・!?

 オーナーの告げた事実に、ライは驚きを隠せなくなる。

「それじゃオレはこのまま、いつ暴走するかも分かんないものを抱えたまま、生き続けろというんですか・・・!?

「大きくてとんでもないものを抱えているのは、僕もみんなも同じだよ。」

 絶望を感じていくライに、良太郎が自分の考えを告げた。

「僕、運が悪くて、大変なことに巻き込まれることが多くて・・その僕がいきなり特異点とか電王とかだって言われて、しかもイマジンに憑りつかれて・・今はモモタロスたちは、僕の大切な仲間だけどね。」

 良太郎がモモタロスたちに目を向けて微笑む。自分の不幸もモモタロスたちも全部抱えていかなくちゃいけないと、良太郎は割り切っていた。

「不幸も怪人も、全部抱えて・・・オレも、オレが暴走することも・・・」

 自分が怪人になったことを受け入れるしかないとも考えるライだが、暴走する自分に不安を感じて、割り切ることができないでいた。

 良太郎がオーナーから電王ソウルを受け取って、ライに差し出した。

「僕たちの力が、君のその決心をする支えになれればと思っているよ・・」

「良太郎さん・・みんな・・・」

 良太郎からの信頼に、ライが戸惑いを覚える。

「自分に対して何をしたらいいのかまだ分かんないですけど・・まりちゃんやみんなを守るためなら・・・」

 ライがまりに目を向けてから、電王ソウルを受け取った。暴走を止める自信や答えを持っていないライだが、まりを助けるため、頭よりも体を動かすことを決めた。

 そのとき、デンライナーは時空を超えて過去へとたどり着いた。

「この日にち・・オレがクロスになる少し前・・・」

 ライがその時代の時間を確かめて、戸惑いをふくらませていく。

(まりちゃんはオレが暴走する前じゃなくて、オレがクロスになる前に戻りたかったってことなのか!?・・オレもみんなも戦いに巻き込まれる前の・・・)

 ライがまりの願いを理解して、苦悩を深めていく。

(オレだってイヤな過去は変えたい・・悪いことをなかったことにしたい・・だけどそのために、オレや誰かの存在まで消すわけにはいかない・・・)

「行きましょう、良太郎さん・・オレ、やります・・!」

 迷いを振り切ろうと気を引き締めなおすライに、良太郎も真剣な顔で頷いた。停車したデンライナーから降りて、2人は暴れ回っているゲッコーイマジンの前に駆けつけた。

「クロスと電王・・どこまでもついてきやがって・・!」

 振り返ったゲッコーイマジンが、ライたちに鋭い視線を向ける。

「お前のようなヤツに好きにさせない・・オレたちも、オレたちの時間も・・!」

 ライがゲッコーイマジンに対して、自分の意思を口にする。

“クロスドライバー!”

“電王!”

 ライがクロスドライバーを装着して、さらに電王ソウルを構えてスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

 彼は電王ソウルをクロスドライバーの中心にセットした。

「変身!」

 ライが左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!デンオー!”

 彼が電王・ソードフォームの姿と力を宿した「クロス・電王フォーム」に変身した。

「変身・・!」

 良太郎がベルト「デンオウベルト」の赤いボタンを押して、中心にパスカード「ライダーパス」をかざす。

Sword form.

 良太郎が電王・ソードフォームに変身して、同時に彼の体にモモタロスが憑依した。

「オレ、参上!」

 モモタロスがライとともにポーズを取った。

「電王が2人!?どこまでもふざけやがってー!」

 ゲッコーイマジンがライたちへのいら立ちをふくらませていく。

「ふざけちゃいねぇよ!手加減も前振りもねぇ!最初から最後までクライマックスだぜ!オレも、コイツもな!」

 モモタロスが高らかに言い放って、ライに目を向けた。

Sword mode.

 モモタロスが武器「デンガッシャー」を剣の「ソードモード」にして構えた。

“ソードガン!”

 ライもソードガンソウルを使って、クロスソードガンを手にした。

「地獄に落ちろ、電王、クロス!」

 ゲッコーイマジンが飛びかかって、ライとモモタロスがクロスソードガンとデンガッシャーを振りかざす。

「がはっ!」

 ゲッコーイマジンが切りつけられて、体勢を崩して地面に倒れる。

「行くぜ、オレの・・いや、オレたちの必殺技!」

 モモタロスがライに目を向けてから、ライダーパスを再びデンオウベルトにかざした。

Full charge.

 ライダーパスを放り投げて、モモタロスがエネルギーの集まったデンガッシャーを構える。

“クロス!”

 ライがクロスソウルを手にして、クロスソードガンの中心部にセットした。

“ライダーブレイク・クロース!”

 クロスソードガンの刀身にエネルギーが集まる。

「クロスエクストリームスラッシュ!」

 ライがモモタロスとともにクロスソードガンとデンガッシャーを振りかざした。それぞれの刀身が飛んで、回転しながらゲッコーイマジンを切りつけていく。

「おのれ、電王、クロス・・!」

 ダメージを負うゲッコーイマジンが、剣を手にしてライたちに向かっていく。

「ったく、しぶといヤローだ・・!」

 モモタロスがゲッコーイマジンに対して不満を口にする。

“センパイ、今度は僕が釣る番だよ。”

「おい、カメ!まだオレの出番は終わっちゃ・・!」

 するとウラタロスがモモタロスを押しのけて、良太郎の体に入った。ウラタロスがデンオウベルトの青のボタンを押した。

Rod form.

 電王の装甲と仮面の外装が1度外れて、違う形になって装着された。「電王・ロッドフォーム」である。

「お前、僕に釣られてみる?」

 ウラタロスがゲッコーイマジンを指さして言い放つ。

「調子に乗るな!」

 ゲッコーイマジンがいら立ちをふくらませて、ウラタロスに飛びかかる。

Rod mode.

 ウラタロスがデンガッシャーを棒型の「ロッドモード」に組み替えて振りかざす。ゲッコーイマジンの剣とデンガッシャーが激しくぶつかり合う。

「それじゃ、仕留めるとするか。」

 モモタロスが放り投げて地面に落ちていたライダーパスを拾って、ウラタロスがデンオウベルトにかざした。

Full charge.

 ウラタロスがデンガッシャーを投げつけて、ゲッコーイマジンの動きを止めた。彼がジャンプして、ゲッコーイマジンにキックを繰り出した。

「ぐあっ!」

 ゲッコーイマジンが蹴り飛ばされて、地面を激しく転がる。

「まだだ・・まだやられねぇぞ・・・!」

 ゲッコーイマジンが立ち上がって、剣を構える。

「意気がいいみたいだね。でも逃がさないよ。」

“待て待て!今度はオレの番や!”

 ウラタロスが笑みをこぼしたところで、キンタロスが彼を追い出して、良太郎の中に入ってきた。

Axe form.

 キンタロスがデンオウベルトの黄色のボタンを押して、ライダーパスをかざす。電王の装甲が別の形に変化した。

「オレの強さにお前が泣いた!」

 キンタロスが力強く言い放つ。彼は「アックスフォーム」への変身を果たしていた。

「コロコロと変わりやがって!」

 ゲッコーイマジンがいきり立って、キンタロスに飛びかかる。

Axe mode.

 キンタロスがデンガッシャーを「アックスモード」に変えて、ゲッコーイマジンが振り下ろした剣を受け止めた。

「ぐっ!この・・!」

 ゲッコーイマジンが力押ししようとするが、キンタロスはビクともしない。

Full charge.

 キンタロスが剣を押し返すと、上へ大きくジャンプした。急降下しながらデンガッシャーを振り下ろして、ゲッコーイマジンの剣を折った。

「ダイナミックチョップ・・・!」

 静かに言うキンタロスの力に押されて、ゲッコーイマジンがしりもちをついた。

「観念するんやな。さもないと・・」

“僕がやっつけちゃうよー!”

 キンタロスが警告すると、今度はリュウタロスが良太郎に入ってきた。リュウタロスがデンオウベルトの紫のボタンを押す。

Gun form.

 電王の装甲が変わって、「ガンフォーム」となった。

「もう倒しちゃうけどいいよね?」

Gun mode.

 リュウタロスが問いかけて、デンガッシャーを「ガンモード」に組み替えた。

「答えは聞かないけど!」

 彼は1人で言って、デンガッシャーで射撃をした。放たれたビームに撃たれて、ゲッコーイマジンが慌てふためく。

「このまま電王ばかりに任せちゃいられない!」

“ガンモード!”

 ライが思い立って、クロスソードガンをガンモードにして、クロスソウルを1度外してセットし直す。

“ライダーシュート・クロース!”

 彼の構えたクロスソードガンの先端にエネルギーが集まる。

「ちょっとー!僕がやっつけるんだからー!」

Full charge.

 リュウタロスが文句を言って、構えたデンガッシャーにエネルギーを集めていく。

「クロスワイルドショット!」

 ライがリュウタロスとともに、、強力なビームを放つ。クロスソードガンとデンガッシャーから出たビームが、逃げ出そうとしたゲッコーイマジンに直撃した。

「こんな・・こんなぁー!」

 ゲッコーイマジンが爆発に巻き込まれて消滅した。

“変身カイジョー。”

 ライと良太郎が変身を解除して、互いに目を向けた。

「これで、まりちゃんとオレたちの時間は守れたのでしょうか・・・?」

 ライが素直に喜ぶことができず、深刻さを抱えていた。

「みんなのこの時間は守れたよ。君だって、君の大切なものを守ることができるはずだよ。君自身の心もね。」

 良太郎が微笑んで、ライに励ましを送る。

「オレの心も守れる・・暴走するオレから・・・」

 自分の暴走を止められる可能性を見つけようとする。

「オレはオレ自身で、暴走を止めなくちゃいけない・・・」

「でも、僕たちも君たちも1人じゃない。だから絶望じゃない未来へ進めるはずだよ・・」

 自分のやるべきことを痛感させられるライを、良太郎はさらに励ました。

「おーい、おめぇらー!戻るぞー!」

 そのとき、モモタロスがデンライナーの入り口から声を掛けてきた。ライと良太郎が振り返って、デンライナーに戻った。

 現代へと戻っていくデンライナー。ゲッコーイマジンに破壊された建物、傷ついた人々が元に戻り、過去が修復された。

 

 まりが意識を取り戻したときには、彼女とライは現代に戻ってデンライナーから下車していた。

「わ・・私・・・」

「まりちゃん、気が付いたんだね・・・」

 何があったのか分からずに思い出そうとするまりに、かなたが笑みをこぼした。

「まりちゃん・・オレ・・・」

 ライがまりに声を掛けようとするが、いい言葉が見つからない。

「ごめん、ライくん・・ライくんが1番辛いはずなのに・・・」

「まりちゃん・・・ううん・・オレのことで、まりちゃんに心配させたオレが悪いんだ・・・」

 謝るまりに、ライが自分への責任を強くしていく。

「オレが暴走しているんだ・・オレ自身が止めないといけない・・・」

「ライくん・・・」

「オレは怖がったりしない・・怪人になるオレを、オレは乗り越える・・・!」

 決意と覚悟を決めたライに、まりが戸惑いを覚える。

(私も、ライくんのために何かできたら・・こんなときだからこそ、ライくんのために何かしたい・・・!)

 まりも心の中で、ライを助ける決意を固めていた。

「行くぞ、デネブ。」

 侑斗が列車「ゼロライナー」に乗って、デネブがそわそわしたまま彼を追う。

「いいのか、侑斗?クロスに何も言わなくて・・」

「言いたいことは野上たちがもう言っている。それに、渡しておくものももう渡したしな。」

 ライたちを心配するデネブに、侑斗が落ち着いて答えた。

「僕たちも行こうか。言いたいことも言ったし、もう大丈夫だと思う。」

 良太郎がデンライナーからライたちの様子を見て、安心を感じていた。

「オレたちだけじゃねぇ。アイツらもライダーたちも、どこまでもクライマックスだぜ!」

 モモタロスが気さくに言うと、良太郎とともにデンライナーの中に入った。デンライナーとゼロライナーがライたちの前から走り去っていった。

(良太郎さん、ありがとうございました・・・!)

(侑斗さん、あなたたちの力も、ハイパーショッカーと戦う力とします。そして、ライくんを支えるためにも、私は戦いを続けます。)

 ライが良太郎たちに感謝して、聖也も心の中で決意を呟いた。

 しかしライの暴走の危険はまだ残っていて、彼の苦悩はさらに続くことになった。

 

 

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