仮面ライダークロス

第39話「ゼクロス!地獄と暗闇を裂け!」

 

 

 ライたちに返り討ちにされて、地獄大使は焦りを噛みしめていた。ハイパーショッカーの本部に戻った彼は、同じく驚きを浮かべている死神博士を目の当たりにした。

「どうしたのですか、死神博士?」

「地獄大使・・クロスが、十時ライがさらなる変貌を遂げた・・それも別のフォームではなく、怪人に・・!」

 地獄大使が声を掛けて、死神博士がモニターを見ながら答える。モニターにはライが変身したクロスホッパーが映っていた。

「何っ!?・・これが、クロスだというのか・・!?

 地獄大使もライの動きと戦いを見て、驚きを隠せなくなる。

「パワーもスピードもオールフォーム以上。スピードは高速に定評のある仮面ライダーさえも凌駕している。ただし、自我と見境を失くした暴走状態であるが・・」

「クラールたちの足かせになってはいるが、我々にとっても脅威ということか・・!」

 クロスホッパーについて分析する死神博士と、さらなる焦りを感じていく地獄大使。

「我々に甚大な被害が出る前に、すぐに手を打つべきだな・・!」

「そんなたわけた手を選ぶとは情けないぞ!」

 地獄大使が防衛策を講じようとしたとき、怒鳴り声が飛び込んできた。彼らの前に現れたのは、地獄大使にそっくりな1人の男。

「き、貴様は、暗闇大使!」

 地獄大使が男、暗闇大使を見て声を上げる。

「久しぶりだな、地獄!首領の命令で、私もクロス打倒の作戦に参加するぞ!」

 暗闇大使が地獄大使に向けて高らかに言い放つ。

「クロス打倒は私の作戦だ!後からしゃしゃり出て、獲物を横取りするマネはさせんぞ!」

「失敗した分際でそのような軽口を叩くか!」

 不満をあらわにする地獄大使を、暗闇大使があざ笑う。

「貴様・・!」

「そこまでだ、2人とも!」

 地獄大使が詰め寄ろうとしたとき、ゾルがやってきて彼らを止めに入った。

「暗闇大使の作戦参加は、首領からの命令だ。地獄大使、暗闇大使、ともにクロスを倒すために・・」

「ということだ。力を合わせるぞ、地獄。」

 ゾルが呼びかけて、暗闇大使が地獄大使に視線を戻す。

「くっ・・私の邪魔は許さんぞ、暗闇・・!」

 指令を聞き入れる地獄大使だが、暗闇大使と組むことには納得できないでいた。

 

 いつもと比べてライの元気がないように見えて、まりとひろしは心配をふくらませていた。

「ライくん、何かあったのかな・・・?」

「ライくんたちのことだから、心配ないと思うけど・・」

 深刻な顔を浮かべるまりに、ひろしは落ち着いた素振りで答える。

「オレたちに言ってこないところを見ると、ライはオレたちが聞いても答えないだろうな・・」

「でも、ライくんがまたとんでもないことに巻き込まれていたら・・・」

「ムリに聞いても嫌われることになるのは、まりちゃんも分かっているはずだよ・・」

「それは、分かってますが・・・」

 ひろしから言われても、まりはライへの心配を和らげることができなかった。

「私、気分転換させてみます・・詳しく聞かなくても、支えることはできるはずです・・」

「まりちゃんもガンコなところあるねぇ・・ま、ライには敵わないけど。」

 あくまでライを何らかの形で助けようとするまりに、ひろしは苦笑いを浮かべた。

 

 クロスホッパーになって暴走することに、ライは今までにない恐怖に襲われていた。

(オールソウルを使えば、オレは怪人になって自我を失くしてしまう・・今まではギリギリで意識が戻ったけど、今度は戻らないかもしれない・・・)

 いつ元に戻れない状態になるか分からず、ライが苦悩を深めていく。

(もしもまりちゃんとおやっさんにも、このことを知られたら・・オレが自分でも分からないうちに、2人を傷付けてしまったら・・・!)

 ライはさらなる不安を感じて、落ち着きを保てなくなって体を震わせる。

(絶対に知られるわけにいかないし、オールソウルを使ったらいけない・・・!)

「ライくん・・ライくん?」

 そこへ声を掛けられて、ライが我に返った。彼の目の前にまりが来ていた。

「まりちゃん・・・」

 ライが元気なくまりを見つめる。

「ライくん・・もし時間があったらでいいんだけど、お出かけに付き合ってほしいんだけど・・」

 まりがライの心境を気にしながら、話を切り出した。

「あ、あぁ・・今だったら別にいいけど・・・」

「よかった・・ありがとうね、ライくん・・」

 ライが答えて、まりが安心して微笑む。

 まりにクロスホッパーのことを知られる不安があったが、ライは気分転換を優先させることにした。

(気持ちの整理がしたい・・今は考えるのも辛い・・・)

 ライは不安のあまり、誰かに甘えたい気持ちを抱くようになっていた。

 

 街中のショッピングモールにやってきたライとまり。いろいろな商品に目移りするまりだが、買う物は多くはなかった。

「女子ならたくさん買って、男子に荷物持ちさせるもんだけど・・」

「それはその人によるよ。ライくんにそんなことさせられないよ。」

 ライが口にした呟きを聞いて、まりが微笑んで答える。

「それに、自分で買った物は自分で持たなくちゃね。」

「まりちゃん・・・まりちゃんはしっかり者だな・・それに優しくて、心が強い・・・」

 気さくな素振りを見せるまりに、ライが安らぎを感じていく。

「そんなこと言われると照れちゃうよ。アハハハ・・」

 するとまりが照れ笑いを見せる。すると買った物の入った袋を落としかけて、まりが慌てて受け止めた。

「まりちゃんもそういうふうに慌てるところがあるんだな・・」

「エヘヘ・・でも、そういうのが人っていうものじゃないかな。」

 互いに苦笑いを見せるライとまり。

「人はいいところもあれば悪いところもある。うまくいくこともあれば、失敗することもある。」

 まりが落ち着きを払って、ライに語りかける。

「強さと弱さを両方持ってるのが人だよ。弱さが全然ないのは神様だけだよ。」

「強さと弱さ・・オレにもあるってことだな・・仮面ライダーのみんなにも・・・」

 まりの言葉を聞いて、ライは納得しようとした。暴走のことで悩んでいた彼は、心の中で彼女の言葉に甘えていた。

「見つけたぞ、クロス!」

 そんなライとまりの前に、地獄大使と暗闇大使が現れた。

「地獄大使!それにお前は、暗闇大使!」

 ライが地獄大使たちを見て身構えて、まりが緊張を浮かべる。

「貴様はオレのことが分かっていたか!いかにもオレが暗闇大使!“バタン”の、そしてハイパーショッカーの大幹部だ!」

 暗闇大使が高らかに名乗りを上げる。

「十時ライ、おとなしくハイパーショッカーに従うなら、命は助けてやる!だが逆らうならば、貴様は絶望を味わうことになるぞ!」

 暗闇大使がライに向かって警告する。

「お前たちの言いなりにはならない・・自分たちのために、他の人を傷付けて平気な顔をしているお前たちの言いなりには!」

 ライが暗闇大使の警告に反発する。

「ならば貴様も他の人間どもも、絶望を味わうがいい・・タイガーロイド!」

 暗闇大使に呼ばれて怪人、タイガーロイドが現れた。

「クロスも周りにいるヤツらも吹っ飛ばしてしまえ!」

「はっ!」

 暗闇大使の命令に答えて、タイガーロイドがライたちの前に出る。

「まりちゃんは逃げて!オレがアイツらを倒す!」

「ライくん!」

 ライが呼びかけて、まりが動揺を見せる。ライがクロスドライバーとクロスソウルを手にした。

“クロスドライバー!”

 ライがクロスドライバーを装着して、クロスソウルのスイッチを入れた。

“クロス!”

 音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。

“ライダーソウール!”

 ライは意識を集中して構えを取る。

「変身!」

 彼が左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クロース!”

 クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光を浴びたライが、メタリックカラーの装甲とマスクを身にまとった。

「全てを、オレが正す!」

 ライが言い放って、タイガーロイドに向かっていく。タイガーロイドが背中にある大砲を発射する。

「ぐっ!」

 砲撃がクロスの装甲に命中して、ライが吹き飛ばされる。地面を転がる彼だが、すぐに立ち上がって体勢を整える。

「タフだな。だがタイガーロイドの砲撃にどこまで耐えられるかな!」

 暗闇大使がライをあざ笑う。タイガーロイドが大砲を連射して、ライが左右に動いて回避していく。

「小賢しいヤツめ・・だがチョロチョロできないようにしてくれる!」

 地獄大使が笑みを浮かべて、まりに目を向けた。

「クロス、よけようとすればその娘の命はないぞ!」

 地獄大使がまりに狙いを向けて、ライを脅す。

「貴様・・お前の狙いはオレだぞ!まりちゃんは関係ない!」

 ライが怒りを覚えるが、地獄大使はあざ笑うだけである。

「地獄め、余計なマネを・・・まぁいい。今はクロスを倒すのが先決・・・!」

 地獄大使のやり方に不満を感じるも、暗闇大使はライ打倒を優先させることにした。

「あれは、地獄大使と暗闇大使!」

 そこへかなたが聖也とともに駆けつけて、暗闇大使たちを見て指さした。

「まりさんも危ない・・ヤツらは私たちには気付いていないようだ・・・!」

 聖也が言いかけて、かなたと頷き合う。2人がクラールドライバーとクラールソウル、ルシファードライバーとルシファーソウルを手にした。

“クラールドライバー!”

 聖也がクラールドライバーを装着して、クラールソウルを手にした。

“クラール!”

 聖也がクラールソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

 彼はクラールソウルをクラールドライバーにセットした。

「変身!」

 聖也は左手を斜め右上に振り上げて、クラールドライバーの左レバーを上に上げて、クラールタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クラール!”

 聖也の体をオレンジ、黒、銀に彩られた装甲とマスクが包んだ。彼はクラールへの変身を果たした。

“ルシファードライバー。”

“ルシファー!”

 かなたがルシファードライバーを装着して、ルシファーソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウル。”

 彼がルシファーソウルのスイッチを入れて、ルシファードライバーの右側のソウルスロットに上からセットした。

「変身。」

 かなたがルシファーハリケーンを中心へ押し込んだ。

“ダークチェンジ・ルシファー。”

 紫のラインの入った黒く鋭い装甲とマスクを身にまとって、かなたはルシファーに変身した。

「クロックアップの使えるライダーになるんだ・・!」

「クロックアップ・・分かりました・・!」

 聖也からの指示に、かなたが笑みをこぼして答えた。2人は仮面ライダーガタックのライダーソウル「ガタックソウル」とダークカブトソウルを手にした。

“ガタック!”

“ダークカブト!”

 聖也とかなたがガタックソウル、ダークカブトソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

“ライダーソウル。”

 2人はそれぞれのソウルをクラールドライバー、ルシファードライバーにセットした。

“変身・ライダー!ガターック!”

”ダークチェンジ・ダークカブト。”

 聖也がガタックの姿と能力を宿した「ガタックフォーム」に、かなたがダークカブトフォームに変身した。

「クロックアップ・・!」

 聖也とかなたが高速で動き出して地獄大使、暗闇大使、タイガーロイドにキックを当ててから、ライとまりを彼らから遠ざけた。

「うおっ!」

 攻撃されたことに気付かない地獄大使たちが、突き飛ばされて倒れた。

「今のは、攻撃!?・・超高速でオレたちを手玉に取るとは・・!」

「クラールとルシファーの可能性が高い・・ヤツらも高速の仮面ライダーのライダーソウルを持っているからな・・!」

 暗闇大使と地獄大使が不意打ちをされたことに毒づく。

「だがヤツらのことだ!まだこの近くにいるに違いない・・!」

 暗闇大使がライたちの行方を探って、タイガーロイドも追いかけていった。

 

 聖也とかなたに助けられたライとまり。元のクラール、ルシファーに戻った聖也とかなたの前で、ライが安心の吐息をついた。

「助かったよ・・2人がいなかったら、オレもまりちゃんもどうなってたか・・」

「高速の仮面ライダーのライダーソウルがなかったら、方法は限りなく少なかっただろう・・」

 感謝するライに答えて、聖也がガタックソウルを見つめる。

「暗闇大使まで出てくるとは・・ハイパーショッカーもさらに本気になってきたってことなのかな・・・」

 かなたが暗闇大使のことを考えて、深刻な表情を浮かべる。

「ヤツらが追いついてくるのも時間の問題だ。早く体勢を整えて・・」

 聖也がライたちに指示を出そうとした。そのとき、彼らのそばに爆発が起こった。

「逃がしはせんぞ、クロス・・!」

 タイガーロイドがライたちを追いかけて、砲撃を仕掛けてきた。

「クラールとルシファー、お前たちが加勢していたか・・!」

 タイガーロイドが聖也たちに目を向ける。

「ならばオレがまとめて吹っ飛ばしてくれる!」

 タイガーロイドが背中の大砲を構えて、ライたちに狙いを定める。

「まりちゃん、ここから早く逃げるんだ!」

 ライが呼びかけて、まりがこの場から離れようとした。

「衝撃集中爆弾!」

 そのとき、タイガーロイドの眼前で爆発が起こった。タイガーロイドが体勢を崩して、大砲からの砲撃は空に飛んでいった。

「ここでお前と対面することになるとはな・・」

 そこへ1人の男が現れて、タイガーロイドに声を掛けてきた。

「お前は!」

「ゼクロス・・仮面ライダーゼクロスだ!」

 タイガーロイドとかなたが仮面ライダー、ゼクロスを見て声を上げる。地獄大使、暗闇大使も駆けつけて、ゼクロスを見て身構える。

「ゼクロスまで出てくるとは・・!」

「ヤツもまとめて始末すればいいだけのことだ!タイガーロイド、ヤツらを吹っ飛ばせ!」

 地獄大使が毒づいて、暗闇大使がタイガーロイドに命令する。

「クロス、暗闇大使たちの相手をしてくれ!ヤツの相手はオレがする!」

「ゼクロス・・はい!」

 ゼクロスからの指示に、ライが頷いた。

「それと、これを使え!」

 ゼクロスがあるものを放り投げて、ライが受け取った。それはゼクロスのライダーソウル「ゼクロスソウル」である。

「ゼクロス・・・ありがとうございます!」

 ライがゼクロスにお礼を言って、暗闇大使たちに目を向けた。

「暗闇大使、地獄大使、オレたちがお前たちを倒す!」

“ゼクロス!”

 ライが暗闇大使たちに言い放ってから、ゼクロスソウルのスイッチを入れた。

“ライダーソウール!”

 彼はクロスドライバーにセットされているクロスソウルをゼクロスソウルと入れ替えて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!ゼクロース!”

 クロスの装甲がゼクロスそっくりとなった。ライは「ゼクロスフォーム」への変身を果たした。

「クロスもゼクロスになっただと!?そんな小賢しいマネでやられる暗闇大使ではない!」

 暗闇大使がいら立ちを噛みしめて、ライに向かって鞭を振りかざす。ライは横に転がり、さらにジャンプして鞭をかわす。

「十字手裏剣!」

 ライが空中から「十字手裏剣」を投げつける。暗闇大使が左手のかぎ爪で十字手裏剣をはじく。

「おのれ!」

 地獄大使が加勢しようとするが、聖也とかなたが立ちはだかった。

「お前の相手は僕たちだ!」

“アマゾンアルファ!”

 かなたが地獄大使に言い放って、アマゾンアルファソウルを取り出した。

“ライダーソウル。”

 彼がアマゾンアルファソウルをルシファードライバーの右のソウルスロットにセットした。

“ダークチェンジ・アマゾンアルファ。”

 ルシファーの装甲がアマゾンアルファと同じになった。かなたは「アマゾンアルファフォーム」への変身を果たした。

 地獄大使も鞭を振りかざすが、かなたの素早い動きにかわされる。

「マイクロチェーン!」

 ゼクロスがワイヤー「マイクロチェーン」を伸ばしてタイガーロイドに巻きつけて、電撃を送り込む。

「ぬおぉっ!」

 タイガーロイドが電撃に襲われてふらつく。ライも暗闇大使に連続でキックを浴びせて、追い込んでいく。

「行くぞ!」

 ライとゼクロスの声が重なった。ライがクロスドライバーの右レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“ライダースマッシュ・ゼクロース!”

 ライとゼクロスが大きくジャンプして、エネルギーを集中する。

「クロス!」

「ゼクロスキック!」

 2人がキックを繰り出して、暗闇大使の鞭とタイガーロイドの大砲の砲撃をはじいて突っ込んだ。

「があぁっ!」

 暗闇大使とタイガーロイドがキックを受けて突き飛ばされた。

「暗闇大使様・・申し訳ありません・・・!」

 タイガーロイドが暗闇大使に謝罪の言葉を口にして、力尽きて倒れた。

「このままではやられてしまう・・そうなる前に撤退するしか・・・!」

 暗闇大使が焦りを感じて、ライから後ずさりする。

「逃がさないぞ、ハイパーショッカー!」

 ライが暗闇大使たちを追いかけようとした。

「ぐっ・・!」

 そのとき、ライが体に激痛を覚えて、ふらついて地面に膝を付く。

「ライくん!?

 倒れたライにまりが驚きを覚える。

(まさか、こんなときに・・・!)

 聖也がライの暴走を予感して、緊張をふくらませる。

「聖也さん、ライをすぐにここから連れ出してください!」

 かなたが呼びかけて、聖也が再びガタックソウルを手にした。そのとき、地獄大使が鞭を振りかざして、地面を叩いて火花を巻き起こした。

「うあっ!」

 聖也とかなたが火花に襲われて、体勢を崩す。クロスドライバーが外れて、ライからクロスへの変身が解けた。

「ライくん!」

「まりちゃん・・・来るな・・・!」

 駆け寄ろうとしたまりを、ライが声を振り絞って呼び止める。絶叫を上げる彼の体が、まりの目の前でクロスホッパーに変わった。

「ラ・・ライくん・・・!?

 変貌したライの姿に、まりが目を疑う。彼女が体を震わせて後ずさりしていく。

「まりちゃん、危ない!ライくんから離れるんだ!」

 かなたがまりに呼びかけて、ライを止めようと走り出す。かなたがライに飛びついて、まりから引き離す。

「まりちゃん、今のうちにここから離れて・・うっ!」

 まりに呼びかけるかなただが、ライが繰り出した両手の爪を突き立てられて、ルシファーの装甲から火花が散った。

「ライ・・目を覚まして・・・!」

 声を振り絞るかなただが、ライがふらつく彼に足を出して蹴り飛ばす。

「かなたくん!」

 倒れたかなたにまりが叫ぶ。ライが彼女に振り向いて、ゆっくりと近づいてくる。

「まりちゃん・・・まりちゃんに手を出されるくらいなら、ライのことを・・・!」

 まりを守ることを優先したかなたが、ルシファーソウルを手にして、ルシファードライバーの左のスロットにセットした。

“ダークチャージ・ルシファー。”

 かなたの両腕のアームカッターから黒い光が発する。

「ルシファーバイオレントスラッシュ!」

 かなたがスピードを上げて、ライ目がけてアームカッターを振りかざした。ライも右手を握りしめて繰り出した。

 ライとかなたの攻撃は互角。2人とも攻撃を出した腕に痛みを感じていた。

 ところがライは痛みを表に出さず、かなたに高速で向かってきた。

「うわっ!」

 体勢が整う前にライにキックされて、かなたが突き飛ばされて壁に叩きつけられた。

「かなたくん!・・強い一撃で体の感覚を麻痺させるしかない・・!」

 叫ぶ聖也がヴァイスソウルを手にした。

“ヴァイス!”

“ライダーソウール!”

 彼がヴァイスソウルのスイッチを入れて、クラールドライバーにセットしてクラールタイフーンを回転させた。

“大革命・ヴァーイス!”

 クラールの装甲とマスクが白くなった。聖也はヴァイスクラールへ変身して、ライに向かっていく。

 ライが聖也に視線を移して、高速で迎え撃つ。ライの目にも留まらぬ連続攻撃に、聖也が反応できずに翻弄される。

「ものすごいスピード・・ヴァイスクラールでも、今のライくんには敵わないというのか・・!?

 クロスホッパーと化したライに、聖也が脅威を覚える。

「手加減しなければという考えは甘いようだ・・こちらも高速で、倒すつもりで攻撃する・・!」

 覚悟を決めた聖也が、ガタックソウルとアクセルソウルを手にした。

“ガタック!”

“アクセル!”

 彼はヴァイスブレイカーを手にして、2つのスロットにそれぞれガタックソウルとアクセルソウルをセットした。

“スピードヴァーイス!”

 ヴァイスブレイカーの刀身から青い光があふれ出す。

「スピードブレイカー!」

 聖也がライに向かってヴァイスブレイカーを投げつける。高速で飛んでいくヴァイスブレイカーだが、ライに素早く回避された。

「何っ!?

 驚く聖也に狙いを変えて、ライが高速で飛びかかる。ライが振りかざした爪で、クラールの装甲が切りつけられて火花が散る。

「うぐっ!」

 聖也が突き飛ばされて、地面を転がる。

「クラール!ルシファー!」

 ゼクロスが叫んで、ライを止めようと走り出す。

「煙幕発射!」

 ゼクロスが両腕から煙幕を噴出して、ライの視界をさえぎった。ライが視線を移して標的を捜す。

 そのライの視界にゼクロスの姿が入ってきた。

 ライがゼクロスに向かって爪を振りかざす。彼の一撃が命中したように見えたゼクロスだが、何事もなかったかのように平然と立っていた。

 ライがパンチとキックを繰り出すが、ゼクロスが攻撃を受けた様子も見せない。

「これで体力を消耗させて、おとなしくさせるしかない・・!」

 ゼクロスがライの様子をうかがう。彼はベルトのバックルにある装置から自分の映像を映し出していた。

 本物のゼクロスが投影した彼自身の映像に、ライは煙幕の中で攻撃を出していた。

「今の彼は獰猛な獣と同じだ。自我や理性を失っていて、目に映るものを見境なく襲っている・・」

 ゼクロスが投影を続けながら、状況を分析する。偽のゼクロスへの力任せの攻撃を続けて、ライは息を乱していた。

 ライが力を振り絞って、ジャンプしてキックを繰り出した。

「みんな、ここから離れろ!」

 ゼクロスが呼びかけて、かなたがまりを連れて聖也とともに走り出す。ゼクロスも投影を止めて、ライから離れた。

 ライのキックが地面に直撃して、煙幕も周囲の建物も吹き飛ばしてしまった。

 

 ライの暴走の最中に、地獄大使と暗闇大使は退散していた。2人はライのキックで起こった爆発を目撃していた。

「あれほどの力が、今の十時ライに宿っているとは・・・!」

「このままヤツを野放しにするわけにはいかんな・・見境なく暴れるだけならばなおのことだ・・・!」

 地獄大使が危機感をふくらませて、暗闇大使がライを倒す意思を強くしていた。

「いがみ合っている場合ではなさそうだ・・出直すぞ!」

「そうだな・・・!」

 暗闇大使と地獄大使が言い合って、ハイパーショッカーの本部へ戻っていった。

 

 爆発が治まってから、かなたたちはライのところへ戻ってきた。キックによって地面に穴が開き、周りの建物の多くも崩壊していた。

「ライくんのキックで、こんな被害が・・・!」

 聖也が周りを見回して、混迷する街中に危機感をふくらませていた。

「ライはどこ!?・・ライ!」

 かなたがライを捜して叫ぶ。

「かなたくん、ライくんが!」

 まりがライを見つけて指さした。ライは人の姿に戻っていて、穴の中心で立ち尽くしていた。

「ライ!」

「ライくん!」

 かなたとまりが駆けつけて、倒れかかったライを支えた。

「大丈夫、ライ!?ライ!」

「かなた・・オレ、また・・・まりちゃん・・・!?

 心配するかなたに言い返して、ライがまりを見て絶望を覚える。

「見たのか・・オレが、怪人になったのを・・・!?

 ライが問いかけるが、まりは答えられずに体を震わせる。

「まりちゃんには知られたくなかった・・このことを、君とおやっさんには・・・!」

 ライが声を振り絞ると、まりが恐怖をふくらませて走り出した。

「まりちゃん!」

 かなたが叫ぶが、まりは止まらない。かなたもライもまりを追いかけることができなかった。

 

 まりのことを心配しながらも、彼女とどう接すればいいか分からないでいるライたち。落ち込んでいる彼らに、ゼクロスが声を掛けてきた。

「彼女のことはお前たちにしか解決できないことのようだ。だが自分の中にある力は、自分自身で制御する以外にない。」

 ゼクロスが激励を告げて、ライに目を向ける。

「自我のない戦いに正義はない。何かを果たそうとする意思もない状態だからな。」

「ゼクロス・・・どうすれば、オレは暴走を抑えられるのですか・・・?」

「それはお前自身が見つけるしかない。厳しく言っているのではない。自分の中にある闇を乗り越えられるのは、自分以外にないからだ。」

「オレの暴走を止められるのは、オレだけ・・・」

 ゼクロスからの言葉を受けて、ライが自分の意思を強く持とうとする。しかしまだ彼は暴走に対する不安を消せずにいた。

「オレのライダーソウルはお前に託す。今回の・・いや、今回を乗り越えた先のお前たちの力になるだろう。」

 ゼクロスはライたちにゼクロスソウルを託して、1人歩き出した。

「ゼクロス・・助けてくれて、ありがとうございました・・!」

 かなたが感謝を口にして、ゼクロスを見送った。

(オレの闇を超えるのは、オレしかいない・・・!)

 自分に言い聞かせようとするライだが、暴走への不安とまりに恐怖を与えてしまった絶望に苦しみ続けていた。

 

 

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