仮面ライダークロス
第37話「速き天の道!いばらのけもの道!」
天道総司。「天の道を行き、総てを司る男」と称する男。
彼は高速の仮面ライダー、カブトである。
ハイパーショッカーの表立った襲撃は起こらなくなり、本拠地に関する新しい情報を入手できないでいた。
途方に暮れた気分に襲われて、ライとかなたは橘モーターショップで気まずくなっていた。
「こうもハイパーショッカーも怪人も出なくなっちゃうと、退屈になっちゃうなぁ〜・・」
かなたが店での作業をしながらため息をつく。
「そんなこと言うなよ。怪人とか悪者が出てこないのが普通だったじゃないか。」
ひろしが注意をして、かなたが肩を落としてため息をつく。
「また戦いに出ることになるとしても、ここでの仕事が成長につながるもんだ。」
「おやっさんったら、調子いいこと言っちゃって〜・・」
鼻高々に言いかけるひろしに、かなたが呆れてまた肩を落とす。
「それにしても、ここのところ注文や修理の依頼が多くなってきてますね、おやっさん。」
ライもバイクのメンテナンスをしながら、ひろしに声を掛ける。
「そうなんだよなぁ〜・・商売繁盛で嬉しい限りだよ〜♪」
ひろしが上機嫌になって、高らかに笑い声を上げる。
「それはいいけど、さすがに人手が足りなくなってくるよ・・」
ライが忙しさを嘆いて肩を落とす。
「こんにちは、ライくん、かなたくん、ひろしさん。」
まりがやってきて、ライたちに挨拶をしてきた。
「こんにちは、まりちゃん。今すっごく忙しくて〜・・」
「おいおい、ここの店員じゃないまりちゃんを巻き込むなって・・」
挨拶して助けてもらおうとするかなたに、ライが呆れる。
「そんな私でも力になれることはあるよ。かばんを置いてくるから少し待っていて。」
まりが言いかけて、かばんを置きに奥の部屋に向かった。
「やったね♪持つべきものは、心優しい女性だよね〜♪」
「かなたったら、調子に乗って・・心優しいのはオレも大賛成だけど・・・」
有頂天になっているかなたに呆れ果てるも、ライは安らぎを求めてひと息ついた。
「こんにちは、みんな。」
そこへ声がかかって、ライたちが振り向く。店に入っていたのは、店の奥に行っているはずのまり。
「あ、あれ!?まりちゃん!?・・今さっき、中に入ってったんじゃ・・!?」
かなたがまりを見て、驚きの声を上げる。
「みんな、おまた・・せ・・・」
店の奥にいたまりが戻ってきた。店の中に2りのまりがいた。
「えーっ!?まりちゃんが2人!?」
かなたが2人のまりを見回して、驚きを隠せなくなる。
「おいおいおい、まりちゃんが双子だなんて聞いたことないぞ!」
ひろしもまりに動揺をふくらませていく。
「ということは、どっちかが偽者ってことなのか・・!?」
ライも2人のまりのうちの1人が偽者であると考える。
「あなた、誰!?私に化けてどういうことなの!?」
「あなたこそ誰よ!?本物は私よ!」
2人のまりが互いに問い詰めてにらみ合う。
「私が本当の緑川まりだよ!」
「私が本物だよ!偽者は正体を見せて!」
2人が言い合いを続けて組み合う。
「あう〜!余計に分かんなくなっちゃうよ〜!」
かなたが頭を抱えて悲鳴を上げる。
そのとき、2人のまりのうちの1人から黒い霧のような力があふれているように、ライには見えた。
(な、何だ、これ・・!?)
ライが黒い霧に対して疑問を感じていく。
(もしかして、そっちのまりちゃんが偽者ってことなのか・・・!?)
ライが霧の出ているまりを見つめて、動揺を大きくしていく。彼がそのまりの腕をつかんで、もう1人のまりから引き離した。
「まりちゃん・・もしも本物だったら、ゴメン!」
店の外に出たライが謝ってから、つかんでいるまりを力強く投げ飛ばした。転がったまりがその先の壁にぶつかった。
「ち、ちょっと、ライ!?」
「どっちが本物なのか分かったのか!?もし投げたほうが本物だったら・・!」
かなたが声を上げて、ひろしが不安を口にする。ライが倒れているまりをじっと見つめる。
倒れていたほうのまりがゆっくりと起き上がる。彼女の姿が変化して、緑色の虫のような怪人に変わった。
「か、怪人!?怪人がまりちゃんに化けてたのか!?」
ひろしが怪人を指さして驚く。
「あれは“ワーム”だよ!仮面ライダーカブトたちが戦った超スピードの怪人だよ!」
「カブト・・・!」
かなたが怪人、ワームについて説明すると、ライが表情を険しくした。
「超スピードの怪人・・!?」
「うん・・今は“サナギ体”って言われる姿だけど、成虫になると強さが何倍にもなって、特にスピードは目にも留まらないくらいの高速になるんだ・・!」
まりが疑問を感じて、かなたが説明する。
「成虫になる前にやっつけないと、厄介なことに・・!」
かなたが焦りを告げて、ワームを倒そうとした。だがワームのサナギ体が割れて、中から成虫が現れた。
「遅かった〜・・」
かなたがサナギ体が進化したフィロキセラワームを見て大きく肩を落とす。
「こうなったらやるしかない・・まりちゃんとおやっさんはここから逃げて!」
「う、うん・・気を付けて、かなたくん、ライくん・・!」
かなたが呼びかけて、まりが頷いてからひろしとともに橘モーターショップから離れた。
「ライ、やるよ!・・ライ・・!?」
「えっ!?・・あ、あぁ・・!」
かなたが呼びかけて、ライが我に返る。2人がそれぞれルシファードライバーとルシファーソウル、クロスドライバーとクロスソウルを手にした。
“クロスドライバー!”
ライがクロスドライバーを装着して、クロスソウルのスイッチを入れた。
“クロス!”
音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。
“ライダーソウール!”
ライは意識を集中して構えを取る。
「変身!」
彼が左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。
“変身・ライダー!クロース!”
クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光を浴びたライが、メタリックカラーの装甲とマスクを身にまとった。
“ルシファードライバー。”
“ルシファー!”
かなたがルシファードライバーを装着して、ルシファーソウルのスイッチを入れた。
“ライダーソウル。”
彼がルシファーソウルのスイッチを入れて、ルシファードライバーの右側のソウルスロットに上からセットした。
「変身。」
かなたがルシファーハリケーンを中心へ押し込んだ。
“ダークチェンジ・ルシファー。”
紫のラインの入った黒く鋭い装甲とマスクを身にまとったかなた。彼とライはルシファーとクロスに変身した。
「この悪魔の力で、みんなを守る!」
かなたが言い放って、ライとともにフィロキセラワームに向かっていく。次の瞬間、フィロキセラワームの姿が2人の視界から消えた。
「ど、どこだ!?」
ライがかなたとともに周りを見回して、フィロキセラワームを捜す。
次の瞬間、ライとかなたが突然宙に跳ね上げられた。フィロキセラワームが高速で攻撃したのだが、ライたちはその動きを捉えることができない。
「速すぎて対処できない・・どうしたら・・・!?」
「ワームのスピードに対抗できるライダー・・・カブトたちのライダーソウルも、ファイズもない・・・アクセルのソウルを持っている聖也さんがいないと・・!」
フィロキセラワームを倒す方法を探すライとかなただが、2人の持っているライダーソウルの中に、ワームに負けず劣らずの高速が可能なソウルがない。
フィロキセラワームが振りかざした爪に切りつけられたクロス、ルシファーの装甲から火花が散る。回避も防御も間に合わず、ライもかなたもやられるばかりになっていた。
フィロキセラワームがとどめを刺そうと、ライたちに飛びかかった。
そのとき、攻撃しようとしたフィロキセラワームが横に突き飛ばされた。この一瞬の出来事に、ライもかなたも何が起こったのかも分からない状態だった。
「な、何が・・・!?」
ライが立ち上がって、フィロキセラワームだけでなく、周りにも目を向ける。彼らの前に1人の戦士が現れた。
「あれは、カブト・・仮面ライダーカブトだ!」
かなたがその戦士、仮面ライダーカブト=天道総司を見て感動を浮かべた。
「オレは天道総司。天の道を行き、全てを司る男。」
総司が名乗りを上げて、腕を上げて点を指さした。
「目先のことばかり見ていても勝ち目はない。悪いものに惑わされずに冷静でいれば、絶対に勝てない相手ではない。」
総司が冷静に語って、フィロキセラワームに目を向ける。
「カブトか・・お前もクロスたちとともに、ここで始末してやるぞ・・!」
フィロキセラワームが総司を見て敵意を向ける。
「カブト、僕たちも一緒に戦います!」
「その必要はない。」
かなたが加勢しようとするが、総司に拒否される。
「お前たちではオレはもちろん、ヤツにもついてこれない。足手まといになるだけだ。」
「そ、そんな〜・・!」
総司が投げかけた言葉を聞いて、かなたが落ち込む。
「ふざけるな・・そんな言い方があるか・・!」
ライが総司に対して怒りを口にする。
「事実を言っただけだ。オレが1番強いのもな。」
「お前!」
態度を変えない総司に、ライが怒りをふくらませていく。そのとき、フィロキセラワームが高速で動き出した。
「クロックアップ。」
“Clock up.”
総司がベルトの横のスイッチを押して、高速移動「クロックアップ」を発動させる。彼とフィロキセラワームが高速での攻防を展開していく。
総司とフィロキセラワームには、ライたちや周りの動きがスローのように見えていた。
総司が打撃を正確に当てて、フィロキセラワームを追い詰める。総司が足を止めた直後に、フィロキセラワームが地面に叩きつけられた。
「ライダーキック。」
総司がベルトにセットされている虫型の機器「ゼクター」のスイッチを押す。
“Rider kick.”
向かってきたフィロキセラワームに、総司が振り向き様にキックを繰り出した。エネルギーが集まったキックを受けたフィロキセラワームが、爆発して消し飛んだ。
「すごい・・ホントにあっという間にやっつけた・・・!」
かなたが総司の戦いを見て戸惑いをふくらませる。しかし一方で、ライは総司に対して不満を感じていた。
“変身カイジョー。”
“ダークリリース。”
ライとかなたが変身を解いて、総司もベルトからゼクターを外してカブトへの変身を解除した。
「どっちも目にも留まらないスピードなのに、総司さんのほうが優勢でしたよ!」
かなたが総司に駆け寄って、称賛を送る。
「おばあちゃんが言っていた。どんなときでも焦りは禁物だと。料理でも、勝負でも。」
総司が落ち着いた態度で語りかけた。彼は高速の中でも冷静さを保って、フィロキセラワームに正確に攻撃を当てていた。
「お前たちがクロスとルシファーで、他の仮面ライダーから力を借りていることも聞いている。それでもオレには勝てはしないがな。ワームに勝つこともできない。」
「勝手に決めるな!オレはアンタに絶対に敵わないなんてことはない!」
総司の口にする言葉に、ライがさらに怒りをふくらませていく。
「だったら試してみるか?口で言うより体で思い知らせた方がいいこともある。」
総司がため息まじりに言うと、再びゼクターを手にした。
「オレたちが戦うということか・・望むところだ・・!」
ライが鋭く言って、再びクロスソウルを手にした。
「変身!」
“変身・ライダー!クロース!”
「変身。」
ライがクロスに、総司がカブト・マスクドフォームに変身した。マスクドフォームは先ほどの姿、ライダーフォームの前の段階の姿である。
ライが両手を握りしめて、総司に飛びかかる。ライが繰り出すパンチを、総司は正確にかわしていく。
「お前の拳は焦げ付いている。怒りや憎しみの炎で。」
総司はライの状態や心境を悟る。総司がライの腕をつかんで、投げ飛ばして地面に叩きつける。
「これではオレばかりか、お前自身にも敵わない。身の程をわきまえることだな。」
「それはアンタのほうだ・・何でもかんでも、自分の思い通りになると思うな・・!」
またため息をつく総司に、ライが鋭く言い返す。
「思い通りにならない世界なら、その世界も思い通りにする。それだけのことだ。」
「それが思い上がりなんだ!」
態度と考えを変えない総司に、ライがさらに怒る。
「オレの力を借りても、オレを超えられない。それを今、お前に証明する。」
総司がライに言うと、1つのライダーソウルを取り出した。
「あれはもしかして、カブトのライダーソウル・・!?」
総司の持つライダーソウル「カブトソウル」を見て、かなたが動揺を見せる。総司はカブトソウルを、ライに向かって放り投げた。
「どういうつもりだ・・・!?」
カブトソウルをつかんだライが、疑問を覚える。
「このままではあまりに呆気なさすぎるからな。せめてものハンデだ。」
「・・後悔することになるぞ・・・!」
“カブト!”
総司の言葉にいら立ちを感じて、ライがカブトソウルのスイッチを入れた。
“ライダーソウール!”
彼がクロスドライバーにカブトソウルをセットして、クロスタイフーンを回転させた。
“変身・ライダー!カブトー!”
クロスの装甲がカブト・ライダーフォームとそっくりになった。ライは「カブトフォーム」への変身を果たした。
「ライも、カブトになった・・・!」
「しかし、だからといってオレになれるわけでも、オレを超えられるわけでもない。」
かなたが呟いて、総司が強気な態度を続ける。
「キャストオフ。」
総司がベルトのゼクターの角「ゼクターホーン」を左から右へ動かして展開する。
“Cast off.Change
beetle.”
カブトの装甲の外装がはじけ飛んで、総司はライダーフォームへと変身した。
「お前はオレのように操作をしなくても、クロックアップを使えるだろう。それでもお前はオレに追いつけない。」
“Clock up.”
総司がライに告げてから、クロックアップを発動させた。
総司だけでなく、ライも高速で動き出した。カブトフォームとなったライも、操作をすることなく高速移動が可能となっていた。
「ラ、ライも見えなくなった・・2人とも、クロックアップのスピードで・・・!」
かなたがライと総司の戦いに対して、動揺を浮かべる。かなたはライたちの動きは分からなかったが、高速で戦っているのは分かっていた。
総司に対して攻め立てるライ。しかしクロックアップのスピードに慣れていないライは、攻撃を当てるどころか、自分のスピードにも振り回されていた。
「クロックアップ・・こんなに負担がかかるものなのか・・・!」
思うように動くことができず、ライが焦りをふくらませていく。彼以上のスピードを発揮しながら、総司は正確に攻撃を当てていく。
「ぐっ!」
ライが突き飛ばされて地面を転がり、総司が着地した。かなたの視界に2人の姿が再び入った。
「これが事実だ。同じ食材を使っても、料理人の腕が悪ければ宝の持ち腐れだ。」
落ちつきを払って告げる総司に、ライがいら立ちをふくらませていく。
「ワームを倒すのはオレがやる。お前たちがもしもワームと遭遇したら、戦わずに逃げることだ。」
「そうはいかない・・オレの大切な人、大切な場所、大切なものを守るために、オレは戦う・・相手が誰だろうと、オレたちに何かしようとするなら、容赦しないぞ・・!」
総司が警告するが、ライは聞かずに鋭い視線を送る。彼がクロスドライバーの右レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。
“ライダースマッシュ・カブトー!”
ライが右足にエネルギーを集めて、総司に近づいていく。
「懲りないな・・ライダーキック。」
“1,2,3.Rider kick.”
総司が呆れてから、ゼクターのボタンを押して、右足にエネルギーを集めた。彼とライが同時に右足を振りかざして、キックをぶつけ合う。
ライが総司のキックに力負けして、再び突き飛ばされた。
“変身カイジョー。”
クロスドライバーからカブトソウルが外れて、ライの変身が解けた。
「ライ!」
倒れたライにかなたが叫ぶ。
「これで満足したか?」
総司がひと息ついてから、ライに問いかける。
「まだだ・・オレは、負けを認めるつもりはない・・・!」
ライが声を振り絞って、カメンソウルを取り出した。
“カメン!”
“ライダーソウール!”
ライがカメンソウルをクロスドライバーにセットして、クロスタイフーンを回転させた。
“超変身・カメーン!”
ライの体を赤と緑のラインの入った装甲が包む。彼はカメンフォームへの変身を果たした。
“オール!”
ライは続けてオールソウルを手にして、スイッチを入れた。彼がクロスカリバーを引き抜いて、左のスロットにオールソウルをセットした。
“オールパワー!オールクロス!オールライダー!”
カメンフォームの緑と赤の横のラインに金のラインが加わり、装甲から神々しい輝きが発せられた。ライはオールフォームへの変身を果たした。
「持てる力の全てを使うつもりか。ならばオレも全力を出すしかないな。」
総司がライを見ながら、ゼクター「ハイパーゼクター」を手にして、ベルトの左腰にセットした。
「ハイパーキャストオフ。」
“Hyper cast off.”
カブトの装甲に金色が入る。総司はカブトの最強形態「ハイパーフォーム」に変身した。
「ハイパークロックアップ。」
総司がハイパーゼクターのボタンを押す。
“Hyper clock up.”
彼の姿がかなただけでなく、ライの視界からも消えた。
「なっ・・!?」
ライが背後に気配を感じて、緊張をふくらませる。彼の後ろに総司が回り込んでいた。
総司が振り上げた右の拳を体に受けて、ライが跳ね上げられる。次の瞬間に、総司はライの飛んでいく方へ回り込んでいた。
ライが総司に連続で攻撃されていく。攻撃が一瞬一瞬で命中されるため、ライは防御を取ることもできない。
かなたが瞬きする間に、ライが地面に倒れて、総司がその眼前に着地していた。
(ハイパークロックアップ・・クロックアップ以上の高速で、時間さえも飛び越えると言われてる・・・!)
総司の超高速を思い知らされるかなた。ライが立ち上がって、総司に鋭い視線を向ける。
「時間を超えるくらいの速さ・・時間と空間を飛び越えて、どんどん先回りしていく・・・!」
ライが総司の動きについて呟く。
「ハイパークロックアップのことに気付いたのか・・?」
ライの言葉を聞いて、総司が疑問を覚える。ライがクロスカリバーとカブトソウルを手にする。
「オレも、カブトのスピードを使うしかない・・・!」
“ハイパーカブトパワー!”
ライがクロスカリバーの右のスロットにカブトソウルをセットした。その直後、ライの感覚が一気に研ぎ澄まされた。
「体のスピードだけじゃない・・鋭くなる形で、感覚も速くなっている・・・!?」
鋭くなっている自分の感覚への違和感に襲われて、ライがまた思うように動けなくなる。
「だけどやれるはずだ・・やらなきゃ、アイツの思い上がりを止められなくなる・・!」
彼は違和感に耐えて、クロスカリバーを構える。
「ハイパークロスカリバー!」
ライが総司に向かって、刀身から巨大な光の刃を発したクロスカリバーを振りかざした。
“Maximum rider power.”
総司がハイパーゼクターのゼクターホーンを倒す。
“1,2,3.”
ハイパーゼクターからエネルギーを送られたカブトゼクターのボタンを、彼が押していく。
「ハイパーキック。」
“Rider kick.”
エネルギーの集まった右足を、総司がクロスカリバー目がけて振りかざす。
「ぐあぁっ!」
クロスカリバーを蹴り上げられて、ライがその衝撃に押されて跳ね上げられる。落下して地面に叩きつけられた彼が、クロスカリバーを手放す。
「ライ!」
変身の解けたライに、かなたが駆け寄る。
「ライ、しっかりして!・・もうやめたほうがいいよ・・!」
かなたが心配の声を掛けるが、ライは力を振り絞って立ち上がる。
「そいつの言う通りだ。いい加減にしてオレに任せることだ。」
「アンタの言いなりにはならない・・自分が絶対だという考えを、今ここで正す・・・!」
総司が警告するが、ライは聞き入れようとしない。
「まさかお前、死ななければ分からないとでも言いたいのか・・・!?」
総司が呆れ果てて、ライにとどめを刺そうと近づいていく。
「オレはアンタに勝つ・・そして、自分が絶対だという間違った考えを正す・・・!」
ライは戦おうと、体を前に出す。
そのとき、体にさらに違和感を覚えて、ライが目を見開く。
「ラ、ライ・・!?」
体を震わせるライに、かなたがさらに動揺する。ライは両手を強く握りしめて、うなり声を上げる。
「どうしたの、ライ・・ライ!」
かなたが呼びかけて、ライの腕をつかんだ。するとライがその腕を動かして、かなたを振り払う。
「ライ・・・!」
しりもちをついたかなたの前で、ライが絶叫を上げる。彼の体が仮面ライダーへの変身とは違う変化を遂げる。
その姿は人型に近い体型の怪人。体には斜めの金のラインが入っていて、顔立ちはバッタにそっくりだった。
「ライ・・・!?」
怪人、クロスホッパーと化したライに、かなたが目を疑う。ライが総司に視線を戻して、ひとつ吐息をついた。
次の瞬間、ライが高速で突進して、総司が突き飛ばされた。
「なっ・・!?」
攻撃されたことに驚く総司。彼はライのこの動きと攻撃に反応できていなかった。
総司は超高速でライの横に回った。その瞬間、ライは総司のほうに振り向いていた。
総司が体に連続で衝撃が加えられる。ライが彼を超える超高速と時空突破で、打撃を叩き込んでいた。
(オレさえも超えるパワーとスピード・・今のクロスに、一体何が・・!?)
強化されたライを捉えることができず、総司が驚きを隠せなくなる。
ライが繰り出した両足のキックが、総司の体に直撃した。地面に叩きつけられた総司から、カブトへの変身が解けた。
着地したライが倒れている総司に近づいていく。
(ライ、総司さんのとどめを刺す気じゃ・・!?)
「ダメだよ、ライ!やめるんだ!」
かなたが呼び止めるが、彼の声はライに届いていない。ライが爪を鋭くした右手を構えて、総司目がけて突き出した。
総司に爪が届く直前に、ライの手が止まった。
「オレ・・今、何を・・・!?」
ライが動揺して、総司から離れる。ライは意識を失っていて、今取り戻したのである。
「な、何だ、これは!?・・オレの体が、怪人に・・!?」
ライが自分の両手を見て、驚きを隠せなくなる。
「その姿・・今初めてなったというのか・・・?」
総司もライの様子を見て呟く。ライの姿がクロスホッパーから人へと戻っていく。
「ライ、大丈夫!?・・どこか、痛いところとか・・・!」
かなたがゆっくりと近づいて、ライに問いかける。
「あ・・あぁ・・痛いところはない・・・」
ライが答えるが、冷静さを失っていることはかなたの目にも明らかだった。
「お前が戦ってはいけない理由がもう1つできたな・・それも、決定的な理由かもしれない・・」
総司がライの心身の状態を悟って、苦言を呈した。
「これ以上、ライダーとして戦うな・・お前自身の中にある力が、暴走することになる・・今度は止められないかもしれないぞ・・」
総司が真剣な顔で忠告すると、ライたちの前から立ち去っていく。
「おい、待て・・!」
「いい加減にして、ライ!おやっさんとまりちゃんが心配するよ!」
総司を追いかけようとしたライを、かなたが止める。
「かなた・・あぁ・・・」
ライが落ち着きを取り戻して、かなたに連れられて橘モーターショップに戻っていく。
(オレが怪人に!?・・何がどうなっているんだ・・・!?)
自分に起こっている異変に、ライは不安を大きくしていた。
ライとの戦いを終えて、1人歩く総司。彼はライの秘められた力について考えていた。
(あれほどの力を持っていたとは・・何にしろ、オレの力はクロスに分けた。それでどう転がるかは、アイツ次第だ。)
今後に期待して、ライにこれ以上手を出さないことを決めた総司。彼は1人、孤高の道を歩き続けるのだった。