仮面ライダークロス
第11話「新たなる刺客の罠」
クロスとして戦っているライの動向を、ハイパーショッカーは監視して、情報を収集していた。戦闘員たちからの報告を聞いて、アポロガイストは次のライとの戦いを待ち望んでいた。
「そうか。クロスはまた新たな力を得たか・・そろそろ頃合いのようだ。」
ライの前に赴く決意をするアポロガイスト。
「十時ライをおびき出せ。このアポロガイストが相手をする。」
「イー!」
アポロガイストが下した命令に、戦闘員たちが答えて行動を開始した。
「次は情けはかけん。弱いままだったとしても、次は葬り去る。」
ライとの決着を予感して、アポロガイストは備えるのだった。
響鬼や剛との共闘で、ライは心身ともに強くなっていた。彼はハイパーショッカー、アポロガイストの動きを気にしていた。
「怪人の起こす事件は起きてるみたいだけど、ハイパーショッカーの動きはどうなってるんだ?」
考え事をしていたライに、ひろしが声を掛けてきた。
「おやっさん・・多分、その怪人はハイパーショッカーとは別に行動してると思います。でもそろそろ、ハイパーショッカーも動き出すんじゃないかと・・」
「用心したほうがよさそうってことか・・」
ハイパーショッカーを警戒して、ひろしが言いかける。
「どっちにしても、アイツらが出てきて、オレたちの周りでおかしなマネをしてくるなら、オレは戦う・・アイツらを、オレが追い払ってやる・・!」
「ライ・・その気持ちは大事だけど、あんまり気負いすぎるなよ。焦りは禁物だ。」
自分の意思を口にするライに、ひろしが注意を投げかけた。
「分かってますよ。もう慢心も焦りもないですよ。」
ライが答えて気を引き締める。
(この調子ながら、ライは大丈夫そうだな・・)
ライに対して安心を感じて、ひろしは小さく頷いた。
そのとき、近くで騒がしくなったことにライとひろしが気付いた。
「向こうが何だか騒がしいな・・」
「まさか、また怪人が・・・!?」
ひろしが言いかけて、ライが一抹の不安を覚える。
「オレ、行ってきます・・ヤツらの仕業だったらやっつけてきますよ・・!」
ライがひろしに行って、騒ぎのある方へ走り出した。
そのライの後ろを、かなたが1人隠れながらつけてきていた。
戦闘員たちが街中で暴れて、近くにいた人々を捕まえていた。
「お前たちはハイパーショッカーの栄えある戦士に仕立てあげてやる!」
「素質があれば、お前たちには名誉と栄光にあふれた未来が待っているぞ!」
戦闘員たちが言いかけて、人々を引っ張っていく。
「ママー!ママを放してー!」
1人の男の子が捕まった母親に駆け寄ってくる。
「子供では戦士にふさわしくない!お前に用はない!」
戦闘員の1人が男の子を突き放す。
「カズヤ!」
しりもちをついた男の子、カズヤに母親が叫ぶ。
「お前はこっちに来い!さもなければここで始末するぞ!」
戦闘員が母親を引っ張っていく。
「カズヤ、逃げなさい!カズヤ!」
「イヤだ!ママと一緒にいるー!」
母親が呼びかけるが、カズヤは離れようとしない。
「コイツ・・お前から始末してやるぞ!」
戦闘員がいら立って、カズヤを捕まえる。
「放してー!放してよー!」
「カズヤ!」
悲鳴を上げるカズヤに、母親が叫んだ。
そこへライが飛び込んできて、戦闘員をキックで突き飛ばした。彼は他の戦闘員たちにも打撃を浴びせて、カズヤと母親から引き離す。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい!ありがとうございます!」
ライが呼びかけて、母親がカズヤを抱き寄せて感謝した。
「2人とも早く逃げて・・!」
「う、うん!ありがとう、お兄ちゃん!」
ライがさらに呼びかけて、カズヤもお礼を言う。カズヤと母親が逃げて、ライが戦闘員たちに目を向ける。
「お前たち、こっちに来い!こっちだ!」
ライが挑発して離れて、戦闘員たちが全員追いかける。その間に捕まっていた人々も、この場から逃げ出した。
(ライが戦闘員と戦ってる・・ライ、もしかして・・!?)
後を付けてきたかなたが、ライに対する疑問と戸惑いを感じていた。
ライは戦闘員たちをおびき寄せて、人のいない荒野に来た。
「ここなら思い切りやっても大丈夫そうだな・・!」
ライが周りを確かめてから、クロスドライバーとクロスソウルを取り出した。
“クロスドライバー!”
ライがクロスドライバーに装着して、さらにクロスソウルを構えてスイッチを入れた。
“クロス!”
音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。
“ライダーソウール!”
ライは意識を集中して構えを取る。
「変身!」
彼が左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。
“変身・ライダー!クロース!”
クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光を浴びたライが、メタリックカラーの装甲とマスクを身にまとった。
「全てを、オレが正す!」
ライが言い放って、戦闘員たちを迎え撃った。
(へ、変身した!?・・ライが、仮面ライダーに・・!?)
ライがクロスになるのを目撃して、かなたが驚きを隠せなくなる。
(どういうことなの!?・・ライは、現実に存在している人のはずだよ・・!)
空想の物語の中の人物である仮面ライダーに、現実に存在しているライが変身していることに、かなたは動揺をふくらませるばかりになっていた。
戦闘員たちが剣を持って、ライ目がけて振りかざす。ライは剣を回避して、反撃して戦闘員たちを突き飛ばしていく。
「おのれ、クロス・・!」
「我々では太刀打ちできない・・!」
戦闘員たちがライの強さに驚きを隠せなくなる。
「もう2度とオレたちの近くに現れるな・・他の怪人たちにもそう伝えておけ!」
ライが戦闘員たちに向かって言い放つ。
「その必要はない。なぜならお前はここで倒されるからだ。」
そこへアポロガイストが現れて、ライの前に立ちはだかった。
「アポロガイスト様・・!」
「お前たちは下がれ。ヤツの相手は私がする。」
動揺を見せる戦闘員たちに、アポロガイストが言いかける。
「アポロガイスト・・やっぱりまた出てきたか・・!」
ライがアポロガイストを見て身構える。
「戦闘員を出撃させたのは、クロス、お前をおびき出すためだ。私が今度こそ倒すために。」
「それならオレにとっても好都合だ・・ただ、オレは倒されるつもりはないけどな・・!」
言いかけるアポロガイストに、ライが言い返す。
「あのときよりも力を付けていると期待している。なのでこの前のように見逃すことはないと思ってもらおう。」
「そんな情けはもうかけられたくない!あのとき見逃したことを後悔させてやる!」
警告するアポロガイストに、ライが怒りを込めて言い放つ。
「その威勢が口先だけでないことを、私が確かめさせてもらうぞ・・!」
アポロガイストが言いかけると、アポロショットを手にして発砲してきた。ライは素早く動いて射撃をかわす。
アポロガイストがさらに射撃するが、ライはジャンプして回避して、彼に詰め寄っていく。
「くっ!」
アポロガイストが毒づきながら、ライの体にアポロショットの銃口を突きつける。ゼロ距離射撃をされる状況だが、ライは怯まずにパンチを繰り出した。
「ぐっ!」
体にパンチを受けて、アポロガイストが突き飛ばされてうめく。彼がその瞬間にアポロショットを発砲するが、ライは紙一重で射撃をかわした。
「クロス・・この短時間で力を付けてきたか。戦い方もよくなっている・・」
踏みとどまったアポロガイストが、ライの戦い方を見て呟きかける。
「これで心置きなくお前を倒すことができる・・!」
アポロガイストが再びライにアポロショットの銃口を向ける。
「最後の警告だ。我らハイパーショッカーに従え。そうすれば死ぬことはない。」
「お前たちに従う生き地獄を味わうくらいなら死んだほうがマシだ・・だけどオレは死にもしない!生きてみんなのところへ帰る!」
アポロガイストの警告をはねのけて、ライが自分の思いを言い放つ。
「ならば地獄に落ちるがいい、仮面ライダークロス・・!」
アポロガイストがアポロショットを連射する。ライは射撃をかわして、ソードガンソウルを取り出した。
“ソードガン!”
スイッチを入れたソードガンソウルが、クロスソードガンに変わった。
“ガンモード!”
ライがクロスソードガンをガンモードにして、アポロガイストに向かって射撃した。アポロガイストもアポロショットを撃って、ビームをぶつけ合う。
「銃の腕も上がったか。ならばこの攻撃、どうかいくぐる!?」
アポロガイストがガイストカッターを手にして、ライ目がけて投げつける。ライは横転してガイストカッターをかわす。
アポロガイストがその隙を狙って、アポロショットを発射する。
「うあっ!」
射撃がクロスの装甲に命中して、ライがうめく。
「腕は上がったがまだまだ私には及ばないようだ。これがお前の限界ということか。」
アポロガイストがライを見下ろしてため息をつく。
「まだだ・・オレは倒れない・・お前たちを返り討ちにするまでは・・!」
ライが声を振り絞って、クロスソードガンを構える。
「愚かな。その戦い方では太刀打ちできんぞ。」
「オレは1人じゃない・・仮面ライダーの、力がある・・!」
言いかけるアポロガイストに言い返して、ライが響鬼ソウルを取り出した。
“ヒビキ!”
“ライダーソウール!”
ライが響鬼ソウルを起動して、クロスドライバーにセットされているクロスソウルと入れ替えた。
「変身!」
ライがクロスドライバーの左レバーを上げて、クロスタイフーンを回転させた。
“変身・ライダー!ヒビキー!”
ライの体を紫の炎が包んだ。その中から現れた彼は、響鬼フォームとなった。
「新しい仮面ライダーの姿になったか・・」
アポロガイストが呟いてから、アポロショットを発射する。
“ガンモード!”
ライはクロスソードガンをガンモードにして、アポロショットの射撃をはじく。そのうちの1発がアポロガイストに命中した。
「くっ!・・力が増しているようだな・・!」
アポロガイストが一瞬ふらついて、ライの力に毒づく。ライがクロスソードガンにクロスソウルをセットした。
“ライダーブレイク・クロース!”
クロスソードガンの刀身にエネルギーが集まっていく。ライがアポロガイストに向けて、クロスソードガンを振りかざす。
アポロガイストがガイストカッターを掲げて、ライの一閃を防いだ。
「ぐおっ!」
響鬼フォームの増しているパワーも合わさったライの一閃に押されて、アポロガイストが突き飛ばされる。
「今度はスピードで攻める・・ひとっ走り付き合えよ!」
ライが言い放って、次にドライブソウルを取り出した。
“ドラーイブ!”
“ライダーソウール!”
彼はスイッチを入れたドライブソウルをクロスドライバーにセットして、左レバーを上げてクロスタイフーンを回転させた。
“変身・ライダー!ドラーイブ!”
クロスの姿が変化して、ライはドライブフォームとなった。
「別の仮面ライダーになったか・・何になろうと・・!」
アポロガイストが言いかけて、アポロショットを発射した。ライはスピードを上げて射撃をかわして、アポロガイストの眼前まで迫った。
「速い!」
毒づくアポロガイストに、ライがクロスソードガンを振りかざす。アポロガイストが連続で切りつけられて押される。
「ドライブのスピードと、響鬼さんのパワーを合わせて・・!」
ライが響鬼ソウルをクロスソードガンにセットした。
“ライダーブレイク・ヒビキー!”
クロスソードガンの刀身に紫の炎が灯った。
「鬼棒術・烈火剣!」
ライがクロスソードガンをアポロガイストに向かって振りかざす。アポロガイストがガイストカッターを掲げて、ライの一閃を受け止めた。
ライの速く重い一閃が、アポロガイストをガイストカッターごと押し込んだ。
「がはっ!」
アポロガイストが仰向けに倒れて、体に痛みを覚える。ライの必殺技のダメージが彼の体に押し寄せていた。
「バカな・・私が、追い詰められるとは・・・!?」
ライに力負けしたアポロガイストが驚きを隠せなくなる。
「オレは倒れるわけにはいかない・・お前たちを倒してでも・・!」
ライがアポロガイストを見下ろして、鋭く言いかける。
「オレは情けは掛けない・・ここでとどめを刺す!」
「おのれ、クロス・・!」
クロスソードガンを構えるライに、アポロガイストが危機感を覚える。
そのとき、クロスの装甲から火花が散って、ライが突き飛ばされた。
「ぐっ!・・な、何っ!?」
うめくライが前に目を向ける。彼に攻撃したのはアポロガイストではない。
「手こずるとは貴様らしくないな、アポロガイスト。」
そこへ声がかかって、起き上がったアポロガイストが振り返る。彼らの前に現れたのは、鎧とサソリのような装飾のある兜を身にまとった男。
「お前は、ドクトルG!?お前もここに来ていたのか!?」
「ドクトルG!?・・あの“デストロン”のドクトルGか・・!」
アポロガイストが声を上げて、ライが緊張を覚える。デストロンの幹部の1人であるドクトルGも、ライの前に現れた。
「貴様のことだ。相手が弱すぎて情けをかけて、それが仇となって返り討ちにされたというところか。」
ドクトルGがアポロガイストを見て肩を落とす。
「だが安心しろ。貴様の代わりに私がクロスを始末してくれるぞ。」
ドクトルGがライに視線を移して、持っていた斧を掲げた。斧から電撃が放たれて、雷のように落ちていく。
「ぐっ!」
地上に爆発が起こって、ライがふらつく。アポロガイストも電撃をかわして、ライから離れる。
「これじゃ遠くから攻撃されるだけだ!こうなったら!」
ライが怒りを覚えて、ドクトルGに向かって走り出す。高速の彼は、電撃をかいくぐってドクトルGに詰め寄った。
「これ以上好き勝手やらせるか!」
ライがドクトルGに向かって、クロスソードガンを振り下ろす。しかしドクトルGに盾で防がれる。
「アポロガイストとの戦いで、体力を消耗しているようだ。さほどパワーを感じんな。」
ドクトルGがライをあざ笑う。彼が持っていた斧をライ目がけて振りかざす。
「ぐっ!」
ライが左腕を切られてうめく。彼はとっさに足を突き出して、ドクトルGを引き離す。
「ぐあっ!・・う、腕に痛みが・・!」
次の瞬間、ライが切られた腕に痛みを感じてうめく。彼はふらついて地面に膝を付けて、立つこともままならなくなる。
「たとえライダーでも、毒も多少は聴くようだ。普通の人間なら即死するのだがな。」
ドクトルGがライを見下ろしてあざ笑う。
「だがこれで貴様はまともに動くことはできん。貴様を倒すことなど造作もない。」
ドクトルGが勝ち誇って、斧を振り上げてライにとどめを刺そうとした。
そのとき、ドクトルGの持っていた斧が突然はじかれた。
「何っ!?」
落ちた斧にドクトルGが驚く。
「今のは、誰かが攻撃してきたのか・・!?」
ライが周りを見回して、攻撃を仕掛けた人物を捜す。彼が振り向いた先の崖の上に、1人の人物がいた。
「あ、あれは!?」
ライ、ドクトルG、アポロガイストがその人物を見て声を上げる。その人物の姿は紛れもなく仮面ライダーだった。