仮面ライダークロス

第9話「響鬼!強き音撃の戦士」

 

 

 新たに現れたハイパーショッカーからの刺客、アポロガイストに敗れたライ。彼は強くなるため、他の仮面ライダーの行方を追うことにした。

 ライはクロスレイダーに乗って、街外れの道を走っていた。

(他の仮面ライダーに関するニュースは、今は出てきていない・・ニュースとして取り上げられないような場所にいるのかもしれない・・だったら、こういう場所を捜してみれば・・)

 ライは思考を巡らせて、クロスレイダーをさらに加速させた。

 そのとき、ライの向かう先に1人の男が出てきた。

「あ、危ない!」

 ライがとっさにブレーキを掛けた。その瞬間、男がジャンプしてライとクロスレイダーを飛び越えた。

「えっ・・!?

 突然のことにライが驚いて、停車した直後に着地した男に振り向く。

「すまない、すまない。うっかり飛び出してしまって・・」

 振り返った男が苦笑いを浮かべて、ライに謝ってきた。

「あ、あぁ。ホントに気を付けてくださいよ・・けどすごいジャンプですね。今のスピードのオレを飛び越えるなんて・・」

「あぁ。鍛えてますから。」

 ライが感心の言葉を口にすると、男が独特の手振りのポーズを見せた。

「そのポーズ・・もしかして、あなたは・・!?

 それを見てライが戸惑いを覚える。彼は男の正体に気付いた。

 そのとき、ライたちのいる道のそばの森から、巨大なクモの怪物が現れた。

「あれは、“魔化魍(まかもう)”のツチグモだ!」

 ライが声を上げて、クロスレイダーが走り出して、ツチグモから離れていく。彼は男のそばで止まると、クロスレイダーをクリスレイダーソウルに戻した。

「こんなところにまで現れるとはな・・」

 男が呟いて、ツチグモと対峙する。

「オレもやります・・オレも強くならないといけないから・・!」

 ライが男に呼びかけてから、クロスドライバーとクロスソウルを取り出した。

“クロスドライバー!”

 ライがクロスドライバーに装着して、さらにクロスソウルを構えてスイッチを入れた。

“クロス!”

 音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。

“ライダーソウール!”

 ライは意識を集中して構えを取る。

「変身!」

 彼が左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クロース!”

 クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光を浴びたライが、メタリックカラーの装甲とマスクを身にまとった。

「変身した・・鬼・・じゃないな・・・」

 男がライの変身したクロスを見て、疑問を感じていく。

 ライがツチグモに飛びかかって、パンチを繰り出す。ツチグモは体にパンチを受けても怯まずに、ライを押し返す。

「ぐっ!」

 ライが突き飛ばされて、地面に叩きつけられる。ツチグモが振り下ろす爪を、ライは転がって回避していく。

「このままじゃやられてしまうぞ・・!」

 毒づいた男が音叉「音角(おんかく)」を取り出した。彼は音角を腕に当てて鳴らして、自分の額にかざした。

 男の額に紋様が現れる。そして彼の体が紫の炎に包まれた。

「はっ!」

 全身をまとう炎を振り払うと、男は変身を果たしていた。紫の鬼を思わせる姿へと。

 男は炎をまとった右のパンチを繰り出して、ツチグモの顔面に叩き込んだ。ツチグモが押されて、男はその間にライの腕をつかんで後ろに下がった。

「大丈夫か?焦りは禁物だぞ。」

「その姿・・あなたは、響鬼(ひびき)さん!」

 呼びかける男、響鬼にライが声を上げる。

 魔化魍退治を仕事としている戦士の1人、響鬼。自らを徹底的に鍛え上げて、彼は鬼へと肉体を進化させたのである。

「ここはオレに任せてくれ。お前さんは少し離れててくれ。」

 響鬼がライに呼びかけて、ツチグモに向かっていく。ツチグモが響鬼を恐れて後ずさりしていく。

 響鬼がツチグモに向かってパンチを繰り出す。ツチグモが怯んで、たまらず口から糸を吹き出した。

「おっと!」

 響鬼がとっさに横に動いて、糸を回避する。その瞬間にツチグモが足を速めて、森の中へ逃げ込んだ。

「しまった・・逃げられてしまったか・・・!」

 ツチグモに逃げられたことに、響鬼が肩を落とす。

“変身カイジョー。”

 ライがクロスドライバーを外して、クロスへの変身を解いた。響鬼が力を抜くと、首から上だけが元に戻った。

(そうだ・・響鬼さんたちは頭だけ元に戻していた・・・)

 TVで見たときの記憶を思い出して、ライは笑みをこぼした。しかしすぐに彼の笑みが消えた。

(だけど、こんなんじゃオレは強くなれない・・アイツに、アポロガイストに勝てない・・・!)

 強くなることへの焦りをふくらませて、ライは苦悩していた。

「どうしたんだ?何か悩み事か?」

 そこへ響鬼が声を掛けてきて、ライが我に返った。響鬼は気さくな振る舞いをライに見せていた。

「響鬼さん・・実は・・・」

 ライは今の自分の悩みを、響鬼に打ち明けることにした。

 

 ライは今の世界の状態や、自分がクロスになったこと、ハイパーショッカーのこと、自分が強くならなければいけないことを響鬼に語った。

「なるほど。だから強くなりたいってわけか。」

「はい。次またアイツが出てきたときに、強くなってないとやられてしまうんで・・・」

 頷きかける響鬼に、ライが自分の心境を口にしていく。

「とはいっても、強さっていうのは、そう簡単に手に入れられるもんじゃないんだよ。鍛えて鍛えて鍛え抜いた先につかめるものなんだ。」

 響鬼が強さについて語っていく。

「でも時間がないんだ・・世界を支配しようとする敵から、みんなを守らなくちゃならないんです・・」

 しかしライは焦りをふくらませていくばかりである。

「そう、それだよ。そうやって焦っても強くなれるわけじゃないんだ。」

 響鬼がさらに言いかけて、頷いてみせる。

「本当の敵は、他の誰でもない。常に自分自身なんだ。」

「自分、自身・・・!?

 響鬼が投げかけた言葉に、ライが戸惑いを覚える。

「焦る自分、力を求める自分、自分の感情、心・・自分に対してどう向き合っていくのが、強くなる上で大事なことなんだ・・」

「オレが、どう向き合っていくか・・」

 響鬼の言葉を聞いて、ライが自分の思いを確かめる。

「後はひたすら自分を鍛えていく。鍛錬にゴールはないからね。」

 響鬼が気さくに言って、軽く体を動かしてみせる。

「お前も体を動かしてみろ。自分の足で歩いて、自分の体で乗り越える。そうすれば普段使っていた力をよりうまく使えるようになる。」

「自分の足で、自分の体で・・・」

 響鬼に言われて、ライが真剣な顔で頷いた。彼は焦る気持ちを抑えて、冷静さを保とうとしていた。

 

 ツチグモが逃げた森の中を、ライと響鬼は進んでいた。山あり谷ありの道を、2人は進んでいた。

「確かにこれは、歩くだけできついですね・・これだけでも鍛えられそうで・・・!」

 森を進むことで体が刺激されているのを感じて、ライが呟きかける。

「こういうところにいる魔化魍は多いからな。オレは慣れているから平気だ。」

「鍛えてますから、ですね。」

 響鬼が言いかけて、ライが微笑んで付け加えた。2人はさらに森の奥を目指して進んでいった。

「隠れているならこの辺りか・・」

 森の中にある川のそばにある川岸に出たところで、響鬼が足を止めた。

「この近くに、あのツチグモがいるのか・・・!?

 ライが緊張を感じて周りを見回す。響鬼は感覚を強めて、冷静に周囲の様子をうかがう。

「そっちから来るぞ・・・!」

「えっ・・!?

 響鬼が言いかけて、ライが身構えた。次の瞬間、ツチグモが森林を突き破って、2人の前に飛び出してきた。

「出てきた!」

 ライが声を上げて、クロスドライバーとクロスソウルを手にした。

“クロスドライバー!”

 起き上がったライが、クロスドライバーを装着した。

“クロス!”

“ライダーソウール!”

 彼がクロスソウルをクロスドライバーにセットした。

「変身!」

 ライが左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クロース!”

 クロスドライバーからあふれた光を浴びて、ライはクロスに変身した。

 響鬼が音角を手にして鳴らして、自分の額に当てる。紫の炎を発して、彼は鬼へと変身した。

 ツチグモが口から糸を吐き出す。ライと響鬼が左右に動いて、糸をかわす。

 ライがツチグモの周りを走る。ツチグモが注意を引き付けられて振り向いていく。

「よし、今だ!」

 その隙に響鬼がジャンプして、ツチグモの背中の上に乗った。彼はツチグモの背中に、音撃鼓(おんげきこ)火炎鼓(かえんつづみ)」を張りつけた。すると手のひらほどだった火炎鼓が大きくなった。

 続けて響鬼は音撃棒「烈火」を手にして構えて、火炎鼓に向けて振り下ろそうとした。するとツチグモが体を跳ね上げて、響鬼が振り落とされた。

「おわっ!」

 響鬼が振り落とされるが、体勢を整えて地面に着地した。

「響鬼さん!」

 ライが声を上げて目を向ける。

「まずは自分の力を信じること!それが強くなることの第一歩だ!」

 響鬼がツチグモに目を向けたまま、ライに言いかける。

「自分の力を信じる・・・!」

 響鬼に励まされて、ライが戸惑いを覚える。

「オレは信じる・・今のクロスの力を・・いや、オレ自身の力を・・その上で、一歩ずつ前に進んでいく・・!」

 自分自身を信じて、ライは響鬼とともに森の中を歩いてきたことを思い出していく。ライはその一歩一歩を踏みしめる感触と重さを実感していた。

 そのとき、響鬼の体から光があふれ出して、外へ飛び出した。

「な、なな、何だ!?

 突然のことに響鬼が驚く。光はライの前に集まって、新たなライダーソウルに変わった。

「ライダーソウル・・響鬼さんのソウルだ・・!」

 ライがライダーソウル「響鬼ソウル」を手にして、小さく頷いた。

「響鬼さん、あなたの力、使わせてもらいます・・!」

「何だかよく分かんないが、オレは構わないぞ・・思い切りいけ!」

 ライが呼びかけて、響鬼は疑問を振り切って檄を飛ばした。

“ヒビキ!”

“ライダーソウール!”

 ライが響鬼ソウルを起動して、クロスドライバーにセットされているクロスソウルと入れ替えた。

「変身!」

 ライがクロスドライバーの左レバーを上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!ヒビキー!”

 ライの体を紫の炎が包んだ。その中から現れた彼は、響鬼そっくりの姿になっていた。

「これは、オレ・・!?

 響鬼がライを見て驚きを覚える。

「これで、オレも響鬼さんの力を使うことができる・・!」

 ライが両手を握りしめて、ツチグモに目を向ける。

「響鬼さんの力を借りることになったけど、それでも自分を信じて戦う・・・!」

 思い立ったライがツチグモに向かっていく。ツチグモが振りかざす爪を、ライはジャンプでかわす。

「やるな、アイツ。アイツを強くしているオレもだけど。」

 響鬼がライの動きを見て感心する。

「オレもうかうかしてられないな・・!」

 響鬼が気を引き締めなおして、ツチグモに向かっていく。ツチグモが吐き出す糸をかわして、2人はツチグモの背中に乗った。

 ライがクロスタイフーンの右のレバーを上げて回転を加えた。

“ライダースマッシュ・ヒビキー!”

 彼の手元に紫の炎の棒が現れた。

「これは・・・!」

「一緒にやるぞ、ライ!」

 戸惑いを感じるライに、響鬼が呼びかける。2人が火炎鼓に目を向けて構えを取る。

「火炎連打の型!」

 ライと響鬼が烈火と炎の棒を火炎鼓を叩いた。2人の打撃が火炎鼓を通じて、ツチグモに響いていく。

 火炎鼓への連打が清めの音となって、ツチグモの魔の力を打ち破っていく。

「はっ!」

 ライと響鬼が最後に火炎鼓を叩くと、ツチグモが木端微塵に吹き飛んだ。

「やった・・ツチグモを倒した・・!」

 響鬼とともに着地したライが、ツチグモに勝ったことを実感する。

「だけど、オレ1人の力じゃない・・響鬼さんの力に頼ってしまった・・」

「強くなるのは常に自分との戦いだ。だけど何かを乗り越えようとするときは、誰かと協力するのも大事な事だぞ。」

 また自分の無力を感じていたライに、響鬼が励ましの言葉を送る。

「今のお前の心なら、しっかりと強くなれる。今のこの気持ち、忘れるんじゃないぞ。」

「はい・・ありがとうございます、響鬼さん!」

 響鬼の激励を受け止めて、ライが感謝して頭を下げた。

 

 ツチグモを退治して森から戻ってきたライと響鬼。森のそばの道路で、響鬼はライと別れることになった。

「ここでお別れだ。オレはこれからも精進していく。君も気を引き締めてがんばるんだぞ。」

「はい。がんばります、響鬼さん。」

 響鬼が気さくに呼びかけて、ライが頷いた。

「もしまた会うことがあったら、次もよろしくな。」

 響鬼はライに挨拶して、独特の手振りのポーズを見せてから歩き出した。

(響鬼さん、オレはオレと向き合っていきます。どうするのがいいことなのか、オレ自身で見極めていきます・・)

 響鬼を見送って、ライは心の中で決意を新たにしていた。

「さて、オレも歩いて帰るとするかな・・」

 ライは深呼吸をしてから、かなたたちのところへ歩き出した。

 

 橘モーターショップに帰ってきたライだが、歩いて帰るには距離がありすぎて、帰った途端に床に突っ伏す羽目になった。

「あの林道からここまで歩いて帰ってくるなんて、ムチャがすぎるだろ・・」

「自分を鍛える意味でやってみたんですよ・・やれるかなって思ったんですけど、ホントにムチャでした・・・」

 呆れるひろしに、ライがうつ伏せになったまま答えた。

「それでライ、強くなれそうか?」

「さぁ・・今日、強さがどういうのかを教えられましたけど、ホントに強くなれるかはやってみなくちゃ分かんないです・・そういうところはオレ自身次第ですから・・」

 ひろしがさらに問いかけて、ライは寝転がって仰向けになって答える。

「でも、希望が見えた気もしているんですよね・・・」

 ライが安らぎと自信を感じて、笑みをこぼしていた。

(これでまたひと段落したみたいだな・・)

 彼を見てひろしも安心を感じていた。

 

 一方、かなたはライの最近の行動を気にしていた。ライが何かに巻き込まれているのではないかと、かなたは不安を感じていた。

(ライ、どうしちゃったんだろう・・怪人の事件に自分から首を突っ込んだりして・・・)

 ライの行動が気になって仕方がなくなっているかなた。

(ライのことは信じてるけど、やっぱり気になるよ〜・・ちょっとついていってもいいかな・・・)

 彼は次に事件が起こったときに、ライの後を追いかけることを心に決めていた。

「かなた、ちょっと手伝ってくれー!」

 そこへひろしが声を掛けてきた。

「あ、はいはーい!」

 かなたが答えて、慌ただしく部屋を飛び出していった。

 

 

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