仮面ライダークロス

第2話「秘密組織・ハイパーショッカー」

 

 

 TVの中の世界と思われていた仮面ライダーの怪人たちが、現実に現れた。さらに自分も仮面ライダーになってしまった。

 その出来事に、ライは動揺を隠せなくなっていた。

(夢だよ・・絶対夢だよ・・夢のはずなのに、自分の頬をつねっても、このベルトをオレは持っている・・・)

 ライが心の中で呟いて、持っていたクロスドライバーを見つめる。

(コイツがホントにあるってことは、オレはあの仮面ライダーに変身して、怪人たちがホントに現れたってことだよな・・)

 物語の中だけの世界や登場人物が現実に出てきていることに、ライは不安をふくらませていく。

(このことはオレしか知らない・・オレが知らせたところで、作り話だってみんな思ってしまう・・でもおやっさんやかなた、まりがアイツらに襲われるなんてことになったら・・・!)

 家族や友達が怪人たちに襲われることに、ライは恐れを抱くようになった。

「オレがやるしかない・・オレが・・・!」

 自分が怪人と戦うしかないと自分に言い聞かせる一方、ライは自分の日常に戻っていった。

 

 ひろしから頼まれた買い物に戻ることにしたライ。工場にたどり着いたときには夕暮れになっていた。

「すみません・・遅くなりました・・」

 工場に足を踏み入れたライが声を掛ける。

「本当に遅かったね。どうしちゃったの?」

 工場の主人、藤岡(ふじおか)ながれがライに姿を見せてきた。

「すみません。ちょっと事故に巻き込まれちゃって、なかなか抜け出せなくて・・」

「事故!?大丈夫!?ケガとかしてない!?

 ライが口にした話を聞いて、ながれが心配する。

「あ、いや、オレじゃなくて他の人が事故をしたんですよ・・」

「あ、そういうことだったのか・・ビックリしちゃったよ・・」

 ライが話を続けて、ながれが苦笑いを見せた。

「ところで、買い物のことなんですけど・・」

「それなんだが、橘さんがお昼頃に来て取りにいってったよ。ライくんのこと、心配してたよ。」

 ライが話を切り出して、ながれが説明をする。

「それはまずい・・早く連絡しなくちゃ・・!」

 ライが慌ててスマートフォンを取り出そうとした。そのとき、彼はポケットにしまっていたクロスドライバーを落としてしまった。

「あっ・・!」

 ライがさらに慌てて、クロスドライバーを拾おうとした。

「そ、それは・・!?

 するとながれが声を上げて、クロスドライバーに手を伸ばしかける。

「ふ、藤岡さん・・これは、その・・・!」

 ライが慌ててクロスドライバーを拾い上げて、言い訳をしようとする。

「お前、クロスになってしまったというのか・・!?

「えっ!?・・コレのこと、知ってるんですか!?

 ながれが口にした言葉に、ライも声を上げる。ながれが口ごもるが、何とか言葉を発した。

「まさかハイパーショッカーから逃げ出すことができるとは・・それもクロスとして調整されながらも、洗脳される前に脱出したからなのだろう・・」

「藤岡さん、知ってるんですか!?コレのこととか、そのハイパーショッカーのこととか・・!」

 呟きかけるながれに、ライが問い詰める。

「ハイパーショッカーは、これまで仮面ライダーたちに倒された怪人たちが復活して、結集して生まれた組織だ。ヤツらの集まった巨大な力が、時空を歪めて世界を1つにしてしまったんだ・・」

「えっ!?時空!?世界が1つに!?

 ながれの語る話が理解できずに、ライが動揺を見せる。

「パラレルワールドという言葉は聞いたことがあるだろう?次元を隔てて違う世界が存在しているっていう・・」

「それじゃ、TVの中の世界のはずのライダーの怪人たちが、時空を超えてオレたちのいる世界に来たってことなのか・・!?

「それだけじゃなく、怪人たちの力の集合によって、時空を隔てた世界が1つになろうとしているんだ・・」

「そういうことだったんですね・・・!」

 ながれの話にライはようやく納得する。

「だけど藤岡さん、なぜハイパーショッカーのことを知ってるんですか・・!?

 ライがながれにさらに質問を投げかける。

「それは・・私もハイパーショッカーに協力を強制されたからだ・・」

「藤岡さんが、ハイパーショッカー・・だからこれだけ詳しいことを・・・!」

 ながれの答えを聞いて、ライが納得する。

「それで、コレのことは・・・?」

 ライが改めてクロスドライバーをながれに見せた。

「ハイパーショッカーは新たな戦士を作り出そうとしてた。それがクロスなんだ。クロスドライバーは、クロスに変身するためのものだ。」

 ながれがクロスドライバーのことを説明する。

「かつてのショッカーなどの組織は、肉体に改造手術を施して仮面ライダーとしたが、今回は肉体には特性だけを持たせて、ドライバーを装着することによって変身する形を取ったのだ。反逆されてもドライバーがなければ力が発揮できなくなるからだ・・」

「そうか・・改造人間の仮面ライダーは、変身ポーズを取ることで変身ができた。そうさせないためにそういった仕組みにしたのか・・」

 ハイパーショッカーが施そうとしたクロスの仕組みをながれから聞いて、ライが納得する。

「このクロスドライバーは、クロスソウルをセットすることでクロスに変身する。しかもクロスソウルだけでなく、他のライダーソウルも使うことができる・・どのようなものが使えるのかは判明していない。未知数の力だ・・」

「このクロスの力以外も使えるんですか!?・・・そんな力を、オレが・・・!?

 ながれの話をさらに聞いて、ライが緊張をふくらませる。彼は手にしていたクロスドライバーとクロスソウルをじっと見つめる。

「ライダーの力を集約できる戦士がハイパーショッカーの支配下に置かれれば、全ての世界がヤツらの思い通りになりかねない・・ライくん、君がヤツらの手に落ちれば、全てが破滅することになる・・・!」

「そんな!?オレが世界の生きるか死ぬかの戦いに巻き込まれるなんて!」

 ながれから警告をされて、ライが感情をあらわにする。

「オレは普通の人間!普通の生活を送ってきた1人だ!それがTVの中だけの存在のはずの仮面ライダーだ怪人だに巻き込まれるなんて!」

「信じたくないのは分かるし、私も同じだ・・だがこれは現実なんだ・・君もクロスとなって、怪人たちに狙われている・・!」

「そんなおかしな話があるか!作り話のキャラが、オレたちの現実をムチャクチャにされるなんて、夢か冗談じゃなきゃおかしいです!」

「私だってそう思いたくて仕方がないところだ!」

 動揺をふくらませていくライに、ながれも不満の声を上げてきた。彼の反応を目の当たりにして、ライが口ごもる。

「す・・すみません、藤岡さん・・・」

 ライが気まずくなって、ながれに謝る。

「いや・・私も感情的になってすまない・・・」

 ながれも動揺を見せて、ライに謝る。

「しかし、ハイパーショッカーは君を狙ってまた現れる・・最悪、そのために橘さんたちを襲うかもしれない・・・!」

「おやっさんたちが!?・・そんなこと・・絶対にさせない・・!」

 ながれが口にしたこの言葉に、ライが体を震わせる。今の家族や友達が巻き込まれることを、ライはひどく恐れていた。

「それで藤岡さん、ハイパーショッカーのアジトは!?・・オレ、アジトから出たときは意識がなくて、気が付いたら外にいたんだ・・!」

 ライがハイパーショッカーのアジトについて、ながれに聞いた。

「それが、私もハイパーショッカーの全てを知っているわけじゃないんだ・・小さな工場や研究所に連れて行かれたことがあるが、そこからアジトや中枢に行けるとはとても思えない・・」

「そうですか・・向こうから出てくるのを待って、聞き出すしかないのか・・・!」

 ながれの話を聞いて、ライが肩を落とす。

「ち・・ちょっと待ってください・・藤岡さんも、ハイパーショッカーからしたら裏切り者扱いされているんじゃ・・!?

 ライがながれを見て、新たな不安を覚える。

「そういうことになるな・・そのうち、私の前にヤツらの手が伸びるだろう・・」

「大変だ・・オレが何とかしないと・・!」

 ながれの言葉を聞いて、ライが動揺をふくらませる。

「私のことはいいんだ・・ショッカーに手を貸した時点で、私も大罪を犯したも同然なのだから・・」

「罪を犯しても、償えばやり直せます!この世の中、間違っていることをしてるのに、間違っていると思おうともせずに、いいことだと思い込んでいる・・思い上がっている人がいっぱいいるんですから・・!」

 諦めを見せるながれに呼びかけて、ライが世間への不満を口にする。

「ライくん・・世の中はそんなことはない・・そうだとしても、自分でそんな風に考えるのはよくないよ・・」

 ながれが深刻な顔を浮かべて、ライに言いかける。

「オレもそう思いたいけど、世の中がそう思わせてくれない・・・!」

 しかしライの世間に対する不信感は消えなかった。

 そのとき、ライとながれの耳に何かがきしむ音が入ってきた。

「何だ、この音・・誰か来たのか・・・?」

「待つんだ、ライくん・・お客さんがきた感じがしない・・・!」

 ライが疑問符を浮かべるそばで、ながれが警戒心を強めていく。

「君はそこの裏口から出るんだ・・私が注意を引き付けている間に・・!」

「ダメだ、藤岡さん!あなたも一緒に・・!」

 呼びかけるながれだが、ライが首を横に振る。

「ライくん、君がハイパーショッカーに勝つことができなければ、全てが終わってしまうんだぞ・・!」

「だからって藤岡さんを見捨てられるわけないじゃないか!」

「私に構わず逃げるんだ、ライくん!君だけでも・・!」

「藤岡さん!」

 逃がそうとするながれだが、ライは聞こうとしない。

 そのとき、工場の壁が破られた。中に入ってきたのは、クモ怪人の1体。

「藤岡さん、逃げるんだ!」

 ライがながれの腕をつかんで、裏口から外へ飛び出した。だが外には残りのクモ怪人たちが待ち構えていた。

「外にも配置していたか・・!」

 ながれが危機感をふくらませて、ライが息をのむ。クモ怪人たちが2人を取り囲んで迫る。

 クモ怪人たちが爪を振りかざして、ライを痛めつける。

「ライくん!」

「藤岡さん、逃げて・・!」

 声を上げるながれに、ライが声を振り絞る。彼がそのままクモ怪人たちに投げ飛ばされる。

 ライに駆け寄ろうとするながれだが、クモ怪人が口から出した糸に腕を縛られた。

「うわっ!」

 ながれが糸に引っ張られて転がっていく。

「藤岡さん!」

 ライがながれを助けに行こうとするが、クモ怪人たちに行く手を阻まれる。

「どけ!藤岡さんに手を出すな!」

 ライが怒鳴って押し通そうとしたが、逆にクモ怪人たちに地面に押さえつけられる。

「ライくん、クロスになるんだ!クロスに変身すれば、怪人たちと戦える!」

 ながれがライに向かって呼びかける。ライは持っていたクロスドライバーに目を向けた。

「は、早く変身しないと・・!」

 ライが慌ててクロスドライバーを使おうとする。しかしクモ怪人たちに体を押さえつけられて、ドライバーを使うことができない。

 そのとき、クモ怪人の糸に引っ張られたながれが、体を鉄柱に叩きつけられた。

「がはっ!」

 ながれが激痛を覚えてうめく。腕に巻きついていた糸が切れて、彼が力なく倒れた。

「藤岡さん!・・このっ!放せ!」

 ライが目を見開いて、クモ怪人を払いのけた。彼はクロスドライバーを当てて装着した。

 ライは続けてクロスソウルを構えてスイッチを入れた。

“クロス!”

 音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。

“ライダーソウール!”

 ライは意識を集中して構えを取る。

「変身!」

 彼が左手を斜め右上に振り上げて、クロスドライバーの左レバーを上に上げて、クロスタイフーンを回転させた。

“変身・ライダー!クロース!”

 クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光を浴びたライが、メタリックカラーの装甲とマスクを身にまとった。

 ライは再びクロスへと変身した。クモ怪人たちが彼に振り向いて身構える。

「お前たち・・よくも藤岡さんを・・・!」

 ライが怒りを噛みしめて、クモ怪人たちに向かっていく。クモ怪人たちが別れて、ライを取り囲む。

 飛びかかるクモ怪人を、ライはパンチとキックを当てて押し返し、投げ飛ばしていく。

 クモ怪人たちが口から糸を吐いて、ライの手首と足首を縛った。引っ張られて動きを封じられるライだが、力を込めて耐えて踏みとどまる。

 ライは腕を振りかざして、クモ怪人2人を振り回す。ライはさらに足首の糸をつかんで、クモ怪人2人を振り回した。

 クモ怪人たちがうろたえている間に、ライがながれに駆け寄る。

「藤岡さん、しっかりしてください!藤岡さん!」

 ライが呼びかけると、ながれが閉じていた目を開いた。

「ラ・・ライくん・・・このまま君は・・クロスとして戦い続けるんだ・・・」

 ながれは声を振り絞ってから、1つのアイテムを取り出した。

「これが、君の力になってくれるはずだ・・・」

「藤岡さん・・そんなことより、すぐに病院へ・・!」

 言いかけるながれを、ライが連れて行こうとした。

「私はもう助からない・・・頼む、ライくん・・全ての世界を・・救ってくれ・・・」

 ながれが呼びかけて、ライに向かって、ゆっくりと手を伸ばす。

「君の・・大切な・・人たちを・・・」

 ライに全てを託したながれだが、伸ばしかけた手が力なく落ちた。

「えっ・・・!?

 力尽きたながれを目の当たりにして、ライが思わず足を止める。

「藤岡さん、しっかりして・・藤岡さん!」

 ライが呼びかけるが、ながれが目を覚ますことはなかった。

「お・・お前たち・・・藤岡さんを・・・!」

 ライがながれをその場に下ろしてから、クモ怪人たちに振り返る。

「許さない・・絶対に許しはしないぞ・・・!」

 彼は怒りの声を上げて、ながれから受け取ったアイテムのスイッチを押した。

“クロスレイダー!”

 アイテム「クロスレイダーソウル」から音声が出た。ライのそばに光のトンネルが現れて、1台のバイクが飛び出してきた。

 バイク「クロスレイダー」はライのそばで停車した。クロスレイダーは人工知能を持っていて、クロスに呼ばれれば空間を超えて駆けつけるのである。

 ライはクロスレイダーに乗ってアクセルを掛ける。彼がクモ怪人たちに向かって走り出す。

 左右に動いて回避しようとするクモ怪人たちを、クロスレイダーが蹴散らしていく。

 クモ怪人の1体が糸を吐き出して、ライの首に巻きつけて引っ張る。クロスレイダーから落とされるライだが、すぐに糸を切ってつかんで振り回す。

 クモ怪人の1体が他のクモ怪人たちにぶつけられていく。倒れるクモ怪人たちを見て、ライが両手を強く握りしめる。

「お前たちの企みで、オレたちの世界をおかしくされてたまるか!」

 ライが言い放って、クロスタイフーンの右のレバーを右手で上げて回転を加える。

“ライダースマッシュ・クロース!”

 ライのまとっているクロスの装甲から光があふれ出す。彼がジャンプして右足を前に出して、足裏にあるX字から光を放つ。

 光を受けたクモ怪人たちが動きを封じられる。ライが急降下して、クモ怪人の1体にキックを叩き込んで突き飛ばした。

 着地したライが続けて飛んで、他のクモ怪人にキックを当てていく。蹴り飛ばされたクモ怪人たちが全員、宙で爆発を起こした。

 足を止めたライが、横たわっているながれに振り返った。ライはながれに近寄って抱えて、工場に戻っていく。

「藤岡さん・・あなたを守ることができなくて、すみません・・・!」

 悔しさと悲しみをふくらませて、ライ体を震わせる。感情的になっている彼が、ながれを椅子に腰を下ろさせた。

「オレ、戦っていきます・・ムチャクチャを押し付けてくる敵と、ハイパーショッカーと・・・!」

 ライは決意を口にしてから、ながれの前から去っていった。

“変身カイジョー。”

 彼はクロスドライバーを外して、クロスへの変身を解除した。

「オレは戦う・・このクロスの力で・・・!」

 手にしているクロスドライバーを見つめて、ライが決意を口にした。

「ラ、ライ・・!」

 そこへ声を掛けられて、ライが振り返る。彼の前にいたのはひろしだった。

「おやっさん!?・・今の、見たの・・・!?

「ライ・・お前、今の姿・・・!?

 ライとひろしがお互い動揺を隠せなくなっていた。ライのクロスとしての戦いは、さらなる波紋を生んでいた。

 

 

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