仮面ライダークロス
第1話「新たなライダー・クロス」
仮面ライダー。
世界や人々を脅かす怪人に、素顔を隠して戦い続ける戦士。
長い歴史の中、様々な世界で、数多くの仮面ライダーが登場した。
世界や地球、自由や命を守るため。大切なものを守るため。
そして今、仮面ライダー史上、最大の戦いと最高の戦士の誕生が起こった。
仮面ライダー。怪人と戦い大切なものを守る架空のヒーローというのが、世の中の認識だった。
子供たちだけでなく、一部の大人も仮面ライダーの戦いや話に釘付けになっていた。
「いやぁ、仮面ライダーはどれもかっこいいなぁ〜♪」
青年、市川かなたが感動の声を上げる。彼は今TVを見つめていた。
「そうとは言い切れないだろ・・ここのところのライダーはおかしいじゃないか・・」
もう1人の青年、十時ライが不満を口にしてきた。
「ライ、おかしいってどういうこと?かっこよくて強くて、全然いいじゃないか、ライダーたち。」
「でも最近無理やりすぎだよ・・脅しつけたり暴力振るったりして、それを正しいことにして・・そんなの、誰から見たって間違ってることじゃないか!」
疑問符を浮かべるかなたに、ライが不満を口にする。彼は最近の仮面ライダーの内容に対して不満を持っていたが、仮面ライダーそのものには好意を持っている。
「それはそうだけど、これはフィクション。作り話なんだから・・」
「作り話だったら何をやっても許されるって言いたいのか!?」
気さくに答えるかなただが、ライは不満が治まらない。
「そういう話にならない話を作って見せつけることが、どれだけの人や夢を傷つけてるのか、向こうは分かってない・・分かろうともしてない・・!」
「そ、そんなことを僕に言われても〜・・!」
不満を言い放つライに、かなたが困り顔を見せる。
「ライくん、ちょっと落ち着いて〜!」
そこへ1人の少女がやってきて、ライを止めに入った。
「まりちゃん、来てたの!?またいきなり入ってきてー!」
かなたが少女、緑川まりに驚きの声を上げた。
「落ち着きたくても落ち着けないよ、まりちゃん・・最近TVを見ようとしても、安心して見てられないし・・!」
ライが自分が抱えている不満を、まりにも言う。
「うんうん。気にすることはないよ。気にしすぎるのもよくないからね。」
まりが大きく頷いて、ライをなだめる。
「まりちゃん、何しに来たの、いきなり?」
「うん。友達とお出かけする約束してたんだけど、待ち合わせに行こうとしたら風邪ひいたって連絡来て・・」
かなたが聞くと、まりが苦笑いを見せて答える。
「そうだ。橘さんが呼んでたよ。」
「おやっさんが?」
まりが言いかけて、ライが声を上げる。仮面ライダーに夢中になっているかなたを気にしてから、ライは部屋を出た。
「橘モーターショップ」。主にバイクの修繕や調整を行っている店である。
その店長をしているのが、橘ひろし。ライとかなたを保護して、親代わりになっている。
「おやっさん、どうしたんだ?」
呼ばれたライが、ひろしに声を掛けていた。
「おぅ、来たか、ライ。実は業者からの備品を受け取るはずだったんだけど、急に別のお客さんから注文が入っちまって、ここを離れられなくなったんだ。代わりに取りに行ってきてくれないか?」
ひろしがバイクの整備をしながら、ライに頼みごとをする。
「重い物じゃないから、ライでも持てる。向こうには言っとくから、そのまま受け取ってくればいい。」
「分かった。それじゃ行ってくるよ。」
ひろしに言われてライが頷く。彼は店を出て、業者の工場を目指して歩き出した。
(ホントにイヤな世の中になったものだよ・・悪いことがみんな正しいことにされているなんて・・・)
ライが心の中で世の中への不満を呟く。
(オレに、この理不尽を変えられるだけの力があったなら・・・)
彼は力への渇望をふくらませていく。
「うわっ!」
そのとき、ライは何かが引っかかったことに悲鳴を上げる。
「な、何だ?・・クモの巣が引っかかったのか・・・」
ライが悲鳴を上げて、顔にかかったクモの糸を払う。
そのとき、今度はライの体に糸が巻きついた。
「なっ!?」
体を縛られて、ライがうめく。彼はさらに強く引っ張られて、人気のない広場に投げ出される。
「な、何なんだよ、こりゃ!?・・ぬ、抜けれない・・!」
ライが糸を振り払おうとするが、もがくほどに糸が絡んでくる。
「生身の人間がオレの糸から抜け出すことはできないぞ・・」
そこへ声がかかって、ライが視線を移す。彼の前に現れたのは、1体の怪物。クモを思わせる姿の怪人だった。
「か、怪物!?何でそんなものが!?」
ライが怪人を見て驚きを見せる。
「喜べ・・お前は我らの新しい戦士になるにふさわしいと判断された・・」
怪人がライを見て笑みをこぼす。
(この怪物、見たことがある・・・そうだ・・1号ライダーが最初に戦った怪人、蜘蛛男・・!)
ライが心の中で記憶を巡らせる。仮面ライダーシリーズをいくつか見ていた彼は、その怪人が蜘蛛男ということを思い出した。
(でもそんなバカな!?・・ライダーも怪人も、TVの中の話だろ!?何で現実に出てきてるんだ・・!?)
作品の中の怪人が現実に出てきたことが信じられず、ライが目を見開く。
「ついてきてもらうぞ・・我ら“ハイパーショッカー”の元へ・・」
蜘蛛男が言いかけて、再びライを引き寄せる。
「冗談じゃない・・お前らに付いていったら、無事に帰れなくなる!」
ライが抵抗して、蜘蛛男から逃げようとする。そこへ別のクモの怪人が出てきて、ライに組み付いてきた。
「べ、別の怪人!?」
ライが怪人たちを見て声を上げる。
(今度は“ゴルゴム”のクモ怪人!?何がどうなってるんだ!?)
彼はこの怪人、クモ怪人のことも知っていた。
クモ怪人の1人がライの後ろ首に打撃を加えた。ライが気絶して、倒れて動かなくなる。
「粋がいいヤツだ・・きっと素晴らしい戦士になるぞ・・・」
蜘蛛男がライを見て笑みをこぼす。蜘蛛男とクモ怪人たちはライを連れて行った。
闇で満たされた部屋。その中でライは、磔にされた状態で意識を取り戻した。
「な、何だ、ここは!?・・う、動けない!?」
ライがもがくが、磔から抜け出すことができない。
「ムダな抵抗は苦しむのが長くなるだけだぞ・・」
そこへ蜘蛛男が数人の男たちを引き連れてやってきた。黒いスーツのショッカー戦闘員である。
「お前はこれから調整を施す・・我らの戦士となるべく・・・」
蜘蛛男が言いかけて、戦闘員の1人が持っていたものを差し出す。1つの大型のアイテムと、1つの小さなアイテムである。
「この“クロスドライバー”を使って、お前を戦士“クロス”へと調整する・・」
「クロス!?・・何なんだ、そりゃ・・!?」
蜘蛛男の口にした言葉に、ライが疑問を口にする。
「我らハイパーショッカーの新たな戦士・・それ以外のことは教えてやる必要はない・・」
蜘蛛男が告げると、大型のアイテム「クロスドライバー」を手にして、ライの腹に当てた。クロスドライバーからベルトが伸びて、ライの腰に装着された。
「首領、新たなる戦士、クロスに力を・・!」
蜘蛛男が告げると、ライが磔になっている十字架から電気ショックが放たれた。
「ぐあぁっ!」
ライが激痛に襲われて絶叫を上げる。クロスドライバーに電気ショックの光が集まっていく。
「クロスドライバーにエネルギーが集まっていく・・!」
「いよいよクロスの誕生のときだ・・!」
戦闘員たちがライを見て、驚きの声を上げる。
「このままクロスに洗脳を施す・・我らの忠実なしもべとしてくれる・・・!」
蜘蛛男が新たな兵士が生まれることを喜ぶ。
(イヤだ・・こんなムチャクチャなことされて、オレの人生が終わるなんて・・・!)
ライが心の中で絶望と、それに抗おうとする意思をふくらませていく。
(オレは認めない・・オレがこんな間違い、全部正してやる!)
ライが感情が爆発した瞬間、クロスドライバーからまばゆい光が放たれた。
「な、何だ、これは!?」
「ドライバーのエネルギーが増大している・・は、早く洗脳を・・!」
戦闘員が声を上げて、蜘蛛男がライの洗脳を急がせる。だがライを捕らえていた十字架の枷が壊れた。
「何っ!?」
磔から解放されたライに、蜘蛛男が驚く。次の瞬間、着地したライに向かって、蜘蛛男の持っていた小さなアイテム「クロスソウル」が飛んでいった。
ライがクロスソウルを手にして、無意識の中でそのスイッチを入れた。
“クロス!”
音声の発したクロスソウルを、彼はクロスドライバーの中心にセットした。
“ライダーソウール!”
クロスドライバーからも音声が出た。ライはクロスドライバーの中心部「クロスタイフーン」の左レバーを左手で上に上げて回転させた。
“変身・ライダー!クロース!”
クロスドライバーからさらなる光があふれ出す。光はメタリックなカラーの装甲となって、ライを包み込んだ。装甲の胸部とマスクの中心には、「X」を思わせる形状が施されていた。
「おぉ!クロスが誕生した!」
「だが、まだ洗脳をしていない・・早く捕まえなくては・・!」
戦闘員の1人が声を上げて、蜘蛛男が慌ててライを捕まえようと、口から糸を吐く。するとライが素早く前転をして、糸をかわした。
「何っ!?」
ライが軽々と糸をかわしたことに、蜘蛛男が驚く。ライが蜘蛛男たちを見てから、部屋を飛び出した。
「逃がすな・・追え!追うんだ!」
蜘蛛男が声を上げて、戦闘員たちを連れてライを追いかけた。
部屋から飛び出したライは、ひたすら廊下を真っ直ぐに駆け抜けていた。彼は無意識のまま、廊下の外へ出た。
廊下からかなり離れたところで、ライは意識を取り戻した。
「あれ?・・オレは・・・?」
自分が今何をしたのか分からず、ライが周りを見回す。
「こ、これは・・!?」
そのとき、ライは自分の変化した姿、クロスを見て驚きを覚える。
「このスーツとマスクを、オレが身に着けてるのか・・!?」
彼は変身している自分の手を確かめてから、そばにあった水たまりで反射する自分の姿も確かめた。
「この姿、この仮面・・仮面ライダーみたいだけど、見たことがないヤツだ・・・!」
ライがクロスのスーツとマスクを見て呟く。
「オ、オレ、ホントに、仮面ライダーになってしまったのか・・!?」
TVの中のヒーローであるはずの仮面ライダーに自分もなってしまったことに、ライが驚きの叫びを上げた。
「とうとう追いついたぞ、クロス・・・!」
そのとき、蜘蛛男が戦闘員たちとともに、ライに追いついてきた。
「おとなしく我々についてくるのだ・・そして洗脳を受け、ハイパーショッカーの戦士となるのだ・・!」
「冗談じゃない・・オレはお前たちの思い通りにはならない!」
呼びかける蜘蛛男に、ライが怒りの声を上げる。
「オレやオレの居場所をムチャクチャにしようとするなら、オレはお前たちを許さない!」
ライが言い放って構えを取る。
「くっ・・抵抗するなら・・お前たち、クロスを捕まえろ!多少のダメージを負わせても構わないぞ!」
「イー!」
蜘蛛男がいら立ちを噛みしめてから呼びかけて、戦闘員たちが答えてライに向かっていく。
「どうしても向かってくるなら・・・!」
ライがいら立ちをふくらませて、戦闘員たちを迎え撃つ。彼の繰り出すパンチを受けて、戦闘員たちが突き飛ばされる。
「強い・・新たな戦士としただけのことはある・・・!」
ライの発揮するクロスの力を目の当たりにして、蜘蛛男が呟く。
「これだけの力の持ち主を野放しにすれば、我らの脅威になるのは明白・・その前にオレの手で捕らえ、ハイパーショッカーの戦力とする・・!」
蜘蛛男がライを捕まえようと、口から糸を吐き出す。ライは気付いて、動いて糸をかわす。
蜘蛛男が糸を吐き続けるが、ライは捕まることなく全てかわしていく。
「チョコマカと・・だがこれでもう逃げられないぞ・・!」
蜘蛛男がまた笑みをこぼした。ライが足を止めて周りに目を向ける。
蜘蛛男がはき出した糸はライの周りに張り巡らされていて、彼を取り囲んでいた。
「これでもう逃げ回ることはできないぞ・・糸に引っかかれば捕まえたも同然・・!」
蜘蛛男が勝ち誇って、ライに近づいていく。逃げ場を見失い、ライが焦りをふくらませる。
「どうしたらいいんだ・・どうしたら・・・!?」
危機を脱する方法を考えるライ。落ち着かず、彼がそわそわして手が止まらなくなる。
そのとき、ライがクロスタイフーンの右のレバーを右手で上げて、回転を加えた。
“ライダースマッシュ・クロース!”
ライのまとっているクロスの装甲から光があふれ出す。光の衝撃で、周りに張り巡らされている糸が吹き飛ばされた。
「な、何っ!?」
蜘蛛男がライに対して警戒心を強めて身構える。
「ただのエネルギーの放出だけで、オレの糸を吹き飛ばすなど・・!?」
「さっさとオレたちのいる世界から消え失せろ・・さもないと全滅させられても知らないぞ・・・!」
声を荒げる蜘蛛男に、ライが警告する。
「お前を連れ帰らなければ、オレの存在価値もなくなる・・!」
蜘蛛男が口から、糸を集めて硬化させて作った針を口から飛ばしてきた。しかしこれもライに命中する前にはじかれていく。
「そんなバカな・・!?」
絶望を覚える蜘蛛男が後ずさりする。
ライが大きくジャンプして、エネルギーが集まった右足を前に出す。足裏にあるX字から光が放たれた。
「ぐおっ!」
光を受けた蜘蛛男が磔にされたように動きを封じられる。ライが蜘蛛男に向かって飛び込んで、キックを叩き込んだ。
「ぐあぁっ!」
蜘蛛男が突き飛ばされて、大きく転がる。着地したライの前で、蜘蛛男がゆっくりと立ち上がる。
「これで済んだと思うな・・ハイパーショッカーに属する者はまだまだいる・・我らに従う以外に、お前に安息の時間は来ないぞ・・・」
蜘蛛男はライに告げると、力尽きて倒れた。蜘蛛男が爆発を起こして消滅した。
「やった・・やったのか・・・」
危機を乗り越えたことに、ライが戸惑いを覚える。彼はクロスドライバーを外すと、伸びていたベルトが収容された。
“変身カイジョー。”
クロスのスーツが消えて、ライの変身が解除された。
「オレはどうなってしまったんだ・・何がどうなっているんだ・・・!?」
自分の身に何が起こっているのかが分からなくて、ライは苦悩と不安をふくらませていた。
捕らえたライに逃げられて、クロスドライバーとクロスソウル、蜘蛛男を失ったハイパーショッカー。この事態は組織の上層部にすぐに報告された。
「クロスを逃がすとは何事だ!かつてのショッカーと同じ過ちを犯すとは・・!」
「このまま野放しにすれば、いくら今の我らとて脅威となってしまうぞ・・!」
「もしも他の仮面ライダーと接触するようなことになれば・・・!」
「何としてでも今のうちに捕獲しなければならん!最悪、息の根を止めなければ!」
ハイパーショッカーの幹部たちがライに対する対処を話し合う。
「よいか、怪人たちよ!クロス、十時ライの捕獲と排除を遂行せよ!」
「了解しました!」
「イー!」
幹部からの命令に、怪人の1人が答えて、戦闘員たちが掛け声を上げる。
ライを逃がしたことに、クモ怪人たちも責任を感じていた。彼らもライ捕獲に躍起になろうとしていた。