細川ライムの受難・改

 

 

 細川(ほそかわ)ライム。
 恋の相手、本田(ほんだ)ブライトを追って「グレイシティ」にやってきた17歳の少女。
 彼女が街に来た目的は、ブライトとの仲を取り戻すことと、ブライトや警察が追い続けている怪盗、シャドウレディを追い払うためだった。
 ブライトと再会したとき、ライムは1人の少女に誘われた。
 小森(こもり)アイミ。ブライトと再会した店でウェイトレスをしていて、ブライトの下の部屋に住んでいる。
 アイミとブライトのことで話をしていくうちに、彼女の心境を理解したライム。2人は仲良くなって友情を結ぶことになった。
 シャドウレディの正体がアイミであることを知る由もなく。

 その日、ブライトの部屋に泊まることになったライム。シャドウレディが動き出す夜に、彼女も行動を起こした。
 ライムは専用のスーツや装備を身につけて、「スパークガール」としてシャドウレディに挑戦した。しかし後一歩というところまで追い詰めながらも、最後は罠にはまり、衣服を引き裂かれてしまった。
 正体に気付いたブライトに止められても、ライムはシャドウレディに挑むことをやめようとはしなかった。それだけ彼女は彼に一途であり、彼女の中にある正義感がシャドウレディを許せなかったのだ。

 それから数日後、グレイシティで不可解な事件が起こった。
 1週間の間に20人もの美女が行方不明となるものだった。警察は誘拐事件として街に警戒網を張ることとなった。
 そしてその警察に多額の寄付をした人物がいた。青年実業家の花山(はなやま)クラインである。
 グレイシティの平和と誘拐事件の解決を願うクライン。その演説を、通りがかったライムを耳にしていた。
(何が正義の青年実業家よ。シャドウレディも捕まえられない警察に、いくらお金を注ぎ込んだってムダなのよ。この街の正義はこのスパークガールが守ってみせるわ。)
 心の中でクラインの行為を一蹴して、ライムは決意をした。スパークガールとして誘拐犯を捕まえることを。

 その日の夜を迎えて、ライムはブライトが警備に向かった後に、スパークガールの衣装に着替えて外へ出た。彼女は住宅地の中の建物の1つの屋上に来て、様子を伺う。
(みんな見張ってるね。でも犯人からみんなを守るのはあたしなんだから・・)
 警察を当てにせず心の中で呟くライム。彼女は他の建物の上へ移って、誘拐犯を捜す。
(何、あの黒いのは・・?)
 そのとき、ライムは人目に付きにくい裏路地に、全身が黒ずくめの男が立っているのを目撃した。
(女の子もいる・・あっちがあの誘拐犯・・!)
 彼女は男に追い込まれている少女も目にした。
(助けなくちゃ、あたしが・・このスパークガールが!)
「そこまでよ、連続誘拐犯!」
 ライムが飛び出して、男に向かって言い放つ。
「お嬢さん、スパークガールが来たからにはもう安心よ!」
 彼女は少女に向けて自信を込めた笑みを見せた。
「アンタは女の敵!スパークガールが成敗してくれる!」
 ライムは男に向けて鋭く言い放つ。
「私に対する言葉遣いではないぞ、女。」
 男が彼女に低い声で言い返す。
「アンタ、何様よ!?」
 ライムが建物の上から男に向かって飛び出す。彼女は背中のバックパックからワイヤーを射出して周囲にくっつけた。
 ワイヤーによる空中移動とそれによる高速、電撃棒「エレキロッド」がスパークガールの武器である。
「たあっ!」
 ライムが男に向けて一蹴を繰り出す。その攻撃が男の頬をかすめる。
 ライムが立ち続けに攻撃を繰り出す。しかし男に軽々とかわされてしまう。
(何てヤツなの・・あたしの攻撃が当たらないなんて・・・!?)
 男の驚異的な力量に毒づくライム。
(ダメ!あたしがやられたら、アイミちゃんがさらわれてしまう!だから、絶対負けられない!)
 思い立ったライムが、男に向かってさらに攻撃を仕掛けていく。しかしそれでも男に決定打を与えられないでいた。
 ライムが攻撃を続けている間に、少女がこの場から離れようとした。しかし男が伸ばした髪に縛られて、彼女が捕まってしまう。
(アイミちゃん!?)
 帽子が落ちて少女の素顔が見えて、それがアイミだったのを目の当たりにして、ライムが驚きを覚えた。その一瞬の隙を突かれて、彼女も男に首をつかまれた。
「し、しまった・・!」
「捕まえたぞ、うるさいハエめ。」
 うめくライムに向けて、男が哄笑を上げる。だが男の顔からすぐに笑みが消え、苛立ちの面持ちになる。
「私の顔に傷を付けおって・・お前はもういらん!」
 鋭く言い放つ男が全身に力を込める。その凄みにライムは思わず息を呑む。

    カッ

 そのとき、男の眼からまばゆい光が放たれた。

   ドクンッ

 その光を受けたライムが強い胸の高鳴りを覚える。男が自分に何をしたのが、彼女は動揺のあまりに分からなくなっていた。
(何、今の感じ・・呼吸が止まりそうなくらいに胸がすごく響いて・・・)
 思考を巡らせるライムだが、その答えを導き出せない。男がライムの首をつかんでいた手を引いた直後だった。
  ピキッ ピキッ ピキッ
 突如、ライムのスパークガールとしての衣服が弾け飛んだ。あらわになった左手、左胸、下腹部が冷たく固まり、ところどころにヒビが入っていた。
「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜のくり返しを見守り続けるがいい!」
「な、何なの、コレ!?」
 男が言い放つ前で、ライムが驚愕する。自分が人でない別のものへと変化していたからだ。
(手が、体がいうことを聞かない!・・これって石!?そんなこと、現実に起きるなんて!?・・それに、服が破れてる!?・・イヤッ!アイツに、あたしの裸を見られてるってこと!?・・ダメ!体が動かせない!・・裸を隠せない・・・!)
 様々な動揺を覚えて、ライムが思わず頬を赤らめる。
(もしかして、さらわれた女性たちも、同じように・・だったら、このまま見逃すわけにはいかない・・・!)
 ライムは力を振り絞って、石化の及んでいない右手を動かす。アイミが恐怖してもがいて、男が彼女に振り向いた。
  パキッ
 その間にも石化は彼女の体を蝕んでいた。衣服がさらに崩壊し、さらにかつらも崩れ始める。
(どんどん、広がってる・・体に、力が入らない・・・でも、これだけは・・・!)
「く、くそっ・・・!」
 ライムは石化に抗いながら、右手をヘアバンドに向けて動かす。そのスイッチを押すと、その発射口から発信機が飛び出す。
「安心したまえ。お前はまだオブジェにはしないから。」
 アイミに向けて悠然と声をかける男に、発信機が命中する。そのことに男は全く気付いていなかった。
(やった・・でもあたし、もうどうにもなんない・・・)
 一瞬の安堵を感じたライムに、男が振り向いて笑みを見せてきた。
  ピキッ ピキキッ
 石化が進行して、ライムの足が石に変わっていく。ブーツも弾けるように吹き飛んで、素足があらわになる。
  ピキッ パキッ パキッ
 スーツがさらに剥がれ落ちて、石になった右の胸もさらけ出された。右腕も石に変わり、手袋も吹き飛んで素手もあらわになって固まった。
  ピキキッ パキッ
 背中も石に変わり、バックパックも崩れていく。バックパックから射出されていたワイヤーが、石化したライムの背中にくっついた。
「あっ・・・!」
 その一瞬の揺れにライムが揺さぶられて、ヘアバンドにあった発信機のレーダーが落ちた。
(アイミちゃん・・・)
  パキッ ピキッ
 頬までも石になっていく中、困惑の面持ちを浮かべているアイミを目にして、ライムが戸惑いを覚える。かつらもヘアバンドも崩れて、石になった本当の髪もあらわになる。
「・・・ゴ・・ゴメン・・・タ・・タスケ・・ラレ・・・ナ・・・」
 ライムがアイミに向けて、助けられなかったことへの謝罪の言葉を発しようとする。彼女は自分が全裸にされて、石化した手足や胸、尻や下腹部、体の全てを見られていることを痛感して、心を揺さぶられる。
「ヒッヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッヒ・・」
 男が石の裸身をさらしているライムを見てあざ笑う。自分が思い通りにしたと言わんばかりの悪意を、彼は見せつけていた。
  ピキッ パキッ
 必死に声を振り絞っていたライムの唇が固まる。そのため、彼女は声を発することもできなくなる。
(・・声も出ない・・体も全然動かない・・・あんなヤツに敵わず、アイミちゃんも助けられず、裸にされるなんて・・・イヤだよ・・・こんなのってないよ・・・)
 何もできず絶望を感じていくライム。彼女は腕も足も、胸も尻も下腹部も全てさらけ出されてこの場から動けなくなるこの上ない辱めを、彼女は痛感させられていた。
 立ち込める煙の中でアイミが連れ去られていくのを、全裸でただ黙って見ていることしかできないライム。
(助けられなくて、ゴメンね・・アイミちゃん・・・)
 最後まで言えなかった言葉を心の中で呟くライム。石化とひび割れが迫る彼女の目から涙が浮かび上がる。
    フッ
 その涙が流れ出し、崩れたヘアバンドが落ちた瞬間、ライムの瞳にヒビが入った。彼女は完全に石化に包まれて、涙が石の左胸に落ちて、ヘアバンドの破片が右胸に当たった
「スパークガール!!!」
 その涙を目にしたアイミの悲痛の叫びがこだまする。男が彼女を連れて、発せられる白い煙と共に姿を消した。
 その場にはライムだけが取り残されていた。彼女は背中にくっついたワイヤーに吊るされたまま、その場から微動だにしなくなっていた。

 誘拐犯に挑んだものの、その眼からの光を受け、石化と同時に衣服を剥がされて全裸の石像にされてしまったライム。彼女はワイヤーに吊るされたまま、石の裸身をさらけ出すこととなってしまった。
 だが石化されてしまった後も、ライムの意識は残っていた。
(これが石になるってことなんだね・・体が全然動かない・・何も感じない・・前しか見ることしかできない・・しかも裸・・イヤァ・・こんな姿、人に見られるなんて・・・!)
 思考を巡らせる中、ライムが動揺を膨らませていく。
(アイツはあたしのように、誘拐した人を石にしてるはず・・きっとアイミちゃんも、同じように石にされて・・・!)
 ライムが一抹の不安を覚えて、悪い予感をした。アイミも誘拐犯に石にされてしまうのではと、彼女は思った。
 そのとき、ライムの前にアイミと黒ずくめの男の姿が現れた。恐怖して後ずさりするアイミに、男が迫る。
(アイミちゃん!?・・やめて!その子に手を出さないで!)
 ライムが驚愕して叫ぶ。しかし彼女は声を出すことができない。
(声が出ない・・体も全然動かない・・石になってるから・・・!?)
 指一本動かせない事態に、ライムは愕然となる。
(ダメ!アイミちゃん、逃げて!)
 ライムが心の声で必死にアイミに呼びかける。しかし逃げきれないことを痛感しているのか、アイミはこの場から動くことができない。

    カッ

 男がアイミに向けて眼光を光らせた。

   ドクンッ

 眼光を受けたアイミが強い胸の高鳴りに襲われた。
(アイミちゃん・・!)
 彼女も男の魔手に掛かったのを目の当たりにして、ライムが愕然となる。
「これでお前も私のものだ・・」
 男がアイミを見つめて勝ち誇った。
  ピキッ ピキッ ピキッ
 アイミの靴と靴下が吹き飛ばされて、あらわになった足が石に変わり始めた。
「わ、私の体も石に・・!?」
 自分の足に目を向けて、アイミが驚愕を隠せなくなる。
(アイミちゃんを元に戻して!こんなこと、絶対に許せない!)
 ライムが男に向かって怒鳴る。しかしどんなに動こうと思っても、彼女はその場から移動できない。
(お願い、動いて!このままじゃアイミちゃんまで・・!)
 必死に自分に言い聞かせようとするライム。それでも彼女は動くことができない。
  ピキッ パキッ パキッ
 石化が進行して、アイミのスカートが裂けて下半身があらわになった。恐怖と絶望に囚われるあまり、彼女は恥ずかしさを覚える余裕も失っていた。
「私を傷つけたあの女とは違う・・お前は私のコレクションに加わるにふさわしい・・」
 男がライムのことを思い出しながら、アイミに言いかける。
(アイツ・・好き勝手なことを言って・・・!)
 彼の態度に不満を覚えるも、何もできないために悔しさを募らせるライム。
「世の中の女は私のものだ・・あの女も含めて、私の力に屈することになる・・お前もあの女も、美しいオブジェとして過ごしていくのだ・・」
 支配欲を見せつけて、男が不気味に笑う。
(アンタはホントに女の敵よ・・絶対に許さないから・・!)
 ライムが怒りを膨らませて前に出ようとする。しかしどれだけ必死になっても、彼女は指一本動かせない。
「さぁ・・お前はしっかりと飾ってやるぞ・・ありがたく思え・・」
 男がアイミを見つめて喜びを募らせる。
  ピキキッ パキッ
 石化がさらに進み、上着も引き裂かれて全身をさらけ出されるアイミ。彼女が絶望して、目に涙を浮かべる。
(アイミちゃん・・アイミちゃん!)
 アイミが石に変わっていくのをただ見ていることしかできず、ライムが心の中で叫ぶ。
  パキッ ピキキッ
 髪も顔も石になり、アイミは声を出せなくなる。
「ヒッヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッヒ・・!」
 男が彼女に対して不気味に笑う。
(あたしだけじゃなく、アイミちゃんまでこんな・・・!)
 全裸の石像になっていくアイミを目の当たりにして、ライムが愕然となる。
    フッ
 瞳も石になって、アイミは完全に石化した。
(アイミちゃんまで・・もう、どうしたらいいの・・・!?)
 どうすることもできないと思い、ライムが落ち込み立ち直れなくなった。

 アイミが石化される不安を禁じ得ないライム。今の光景が想像だったことに、彼女は気付いた。
(ホントに起こったことじゃなかった?・・でも、このままじゃホントに、アイミちゃんもあたしと同じように・・・)
 安心することができず、ライムは塞ぎ込みたい気持ちに駆られていた。
「ライム・・・」
 聞き覚えのある声を耳にして、ライムは悪寒を感じた。ブライトが現れ、彼女を見ていた。
「こりゃ、どういうことだ・・・?」
 変わり果てたライムの姿を目の当たりにして、ブライトが驚きを見せる。
 ブライトは事前に、スパークガールのヘアピースに発信機を仕掛けていた。その反応を追ってここまで来たのだ。だが彼が目撃したのはライムでもスパークガールでもなく、彼女の姿をした全裸の石像だった。
(まずいよ~、ブーちゃんだよ~・・ブーちゃんにこんな姿を見られるなんて~・・)
 自分の裸を見られて恥ずかしさを覚えるも、ライムにはどうすることもできなかった。
 ブライトは足元にあったものを見つけ、拾う。それはスパークガールが装備していた発信機のレーダーである。ライムが石化した際に衣服が崩壊し、それに巻き込まれて地面に落ちたのである。
 ブライトがスパークガールのレーダーを見つめる。レーダーはしっかりと発信機の位置を示していた。
「いったい何が起こっているんだ・・・」
 深刻な面持ちを浮かべるブライトが、その反応の指し示す地点に向かって駆け出していった。
(ブーちゃん、誘拐犯を追っていったんだね・・・こうなったら仕方がない。ブーちゃん、あたしをこんなにした犯人を捕まえて・・アイミちゃんを助けて・・・)
 ブライトに全てを託したライム。未だ彼女は身動きが取れないままだった。

 それからもライムは石化したままその場に留まっていた。ブライト以外の人がここを通らなかったのがせめてもの救いだった。
(あれからどのくらいたったのかな・・あたし、ずっとこのままなのかな・・・ブーちゃんだけじゃなく、他の人にも今のあたしを見られちゃうのかな・・・?)
 時間がたつごとに不安が強まっていき、ライムは困惑する。
 このままではいずれ朝となり、人も通ることになる。その人に自分の一糸まとわぬ姿を見られたら、どれほどの恥ずかしさを覚えることになるだろうか。
 押し寄せる不安に押しつぶされそうになり、ライムは泣きたい気分に陥っていた。
 そのとき、ライムは突然身の軽さを覚えた。その異変に彼女は一瞬当惑を覚える。
 その直後、ライムは下へと落下した。石化で背中にくっついていたワイヤーが外れたのである。
「えっ!?な、なになに、何なのー!?」
 再び起きた突然のことに驚くライムが地面に落ちた。
「イタッ!・・もう~、何がどうなって・・って・・体が動く・・体が元に戻ってる・・・」
 痛がった後、ライムはふと自分の体に目を向ける。それは紛れもなく生身の自分の体だった。
「石じゃない・・あたしの体だ・・・やった・・やったー!」
 石化から解放されたことに喜ぶライム。だが突然悪寒を覚えて、自分の体を抱きしめる。
「さ、寒い!・・・そういえばアイツに石にされたとき、衣装みんな破られちゃったんだっけ・・・これじゃ、マジで風邪をひいちゃうよ・・・!」
 道の隅に移動してうずくまり、震えるライム。石化が解かれたものの、引き剥がされた衣服や装備は元に戻らない。
「アイミちゃんを助けないといけないのに・・・これじゃまともに動けないし、こんな姿を誰かにまた見られでもしたら・・・」
 再び様々な動揺を覚えて頬を赤らめるライム。
「ま、まずはこの状態を何とかしないと・・このスパークガールが、今度こそ正義の鉄槌を下してやるから・・・!」
 気恥ずかしさをあらわにしたまま、ライムはこの場から離れた。
「それにしても、あたしっていつも裸になってる・・何でいつもこうなのよー!」
 またも裸にされたことに恥ずかしさを膨らませて、ライムが思わず悲鳴を上げる。彼女は何とか人目をすり抜けて、事なきを得た。

 ライムがこのような事態に陥っていた間、事件は終息を迎えていた。
 連続誘拐犯の正体はクラインだった。
 クラインは自分の屋敷の中で死亡。彼にさらわれて全裸の石像にされていた女性たちは、石化を解かれて解放された。
 その女性たちの中にアイミもいるはず。彼女も自分や他の女性たちのように1度全裸の石像にされたはず。
 事件の終結した翌朝、何とか無事に帰還したライムはアイミの無事を確かめた。アイミはマンションの自分の部屋で何事もなかったかのようにいた。
「アイミちゃん、大丈夫!?何かおかしなことされてない!?」
「ラ、ライムちゃん・・う、ううん。特に何もされてないけど・・」
 問い詰めるライムに驚きながら、アイミが答える。彼女の答えを聞いて、ライムが安心する。
「ゴメン、いきなり大声出して・・でも聞いた話じゃ、誘拐された女性たち、すごくおかしなことをされたって。何でも、体が石になって、しかも服を破られたって・・」
「えっ!?ライムちゃん、どうしてそんなことを聞くの?・・ホントに大丈夫だって。あたしはこの通り平気だって。何もされていないって・・」
 ライムの説明に答えるアイミだが、どこか後ろめたい感じがするとライムは思えてならなかった。
「実はあたしも、アイツにやられちゃって・・アイツの眼が光ったと思ったら、あたしの体が石になって・・ホントに体だけ石になって、一緒に服が破れて・・裸の石になったまま、どうなっちゃうんだろうって・・・」
 ライムは自分が経験してきたことをアイミに話す。自分がスパークガールであることが分かってしまうことを伏せながら。
「ホントだって!信じられないかもしれないけど、ホントに石にされたの!間違いなくアイツの仕業で!・・正直、ホントにあんなことが起きるなんて、今でも信じらんないのが本音だけど・・」
「そ、そうなんだ・・確かに誘拐された女性、みんな石にされてた・・あたしを助けようとしてくれたスパークガールも・・」
 切実に言いかけるライムに、アイミは口ごもりながら答える。その言葉を聞いて、ライムは昨晩の出来事を思い返してしまった。
 誘拐犯に対して歯が立たなかったこと。その誘拐犯にかけられた力。スパークガールとしての衣服や装備を引き剥がされしまい、同時に体が石になり、裸を隠すこともできなかった。
 力を振り絞って発信機を付けたが、裸身をさらすことになり、またアイミを助けることができず、ただただ涙することしかできなかった。
 その後身動きが一切できず、石化が解けるのをじっと待っているだけだった。ライムにとって正義の味方として、女としてこの上なく恥ずかしいことだった。
「どうしたの、ライムちゃん・・?」
 考え込んでいたライムに、アイミが心配の声をかけてきた。我に返ったライムが慌てて気持ちを戻す。
「と、とにかく無事でよかったよ、アハハハ・・」
 とっさに作り笑顔で場を和ませようとするライム。だが彼女の正義感は大きく蠢いていた。
(このままじゃ絶対に済ませないから・・必ず正体を暴いてやるから・・シャドウレディも、あのとき起きた出来事の謎も・・・!)

 細川ライムの身に起きた不可解かつ非現実的な出来事。
 全裸の石像にされて一晩を過ごすことになった彼女の実体験。
 そこには彼女自身しか知らない感情が存在していた。
 自分の体に降りかかった石化の謎を暴くため。
 街を騒がせる怪盗を捕まえるため。
 正義と平和を守るため。
 想いを寄せる相手の心を取り戻すため。
 スパークガール、細川ライムの挑戦は続く。

 これは石化と全裸を同時に経験した正義のヒロインの心の内を描いた、「もしもの世界の物語」である。

 

 

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