氷の世界

 

 

私の周りは氷の世界。

銀白に広がる世界。

みんな凍りついて動かない。

そこを歩いているのは私だけ。

 

私は少し前から夢を見ていた。

何もかもが凍りついた不思議な夢だった。

その世界を私は1人歩いていた。

何も考えず。

何も感じず。

ただ1人で歩いているだけだった。

建物も車も地面もみんな白い。

人もみんな白くなって全然動かない。

動いているのは私だけ。

そんな夢だった。

 

私の周りは氷の世界。

銀白に広がる世界。

みんな凍りついて動かない。

そこを歩いているのは私だけ。

 

私には姉がいた。

見た目はとてもきれいな女の人だった。

外では笑顔を振りまいてみんなの注目を集めていた。

でもそれは表の顔だった。

2人だけになると姉は人が変わったように私に暴力を振るった。

私は何もしていない。

これはただの八つ当たりだった。

姉にとって私はストレス解消のための道具でしかなかった。

とても辛い。

とても痛い。

我慢できない。

そして何回目かの暴力を受けたとき。

私の中にある心が震えた。

頭の中が真っ白になった。

まるで雪と氷の銀世界のように。

そこには姉がいた。

でもそれは姉ではない。

姉の形をした氷だった。

姉は見た目はこんなにもきれいなのに。

私は声にならない声をあげていた。

でもそれは私の中のイメージ。

あるいは夢でしかないはずだった。

気が付くと周りはみんな白くなっていた。

私がいるこの部屋も。

眼の前にいる姉の姿も。

私を見下ろした体勢のまま姉は動かない。

私の周りにある全部が白く凍り付いていた。

でもそれは私だけのイメージのはずだった。

こんなことが現実に起きるなんて。

私は姉に触ってみた。

本当に氷になっていて冷たい。

私が触っても姉は動かない。

私は怖くなって家を飛び出した。

するとその外も真っ白になっていた。

まだ雪が降る時期じゃない。

凍るような温度じゃない。

それなのにみんな凍っていた。

何事もなく進んでいく日常。

その1シーンを焼き付けたみたいにみんな動かなくなっていた。

私の頭の中も真っ白になっていた。

どうしたらいいのだろう。

考えがまとまらないまま私は歩き出していた。

 

私の周りは氷の世界。

銀白に広がる世界。

みんな凍りついて動かない。

そこを歩いているのは私だけ。

 

私は公園に来ていた。

子供とそのお母さんがにぎわいを見せる。

それが私の中に描いていたイメージだった。

でも現実は違った。

私が公園で見たのは1人の子供が大勢の子供に囲まれているところだった。

みんなが1人をよってたかっていじめてた。

いじめられている子供はその痛さと辛さで泣いていた。

でも周りはそれを楽しんでいるみたい。

その辛さは私にも伝わってきた気がしていた。

やめて。

私は心の中で願った。

やめて。やめて。

でも子供たちはいじめをやめない。

やめて。やめて。やめて。

私の願いがどんどんふくらんでいく。

やめて。

それが心の中でいっぱいになった瞬間。

またあの銀世界が頭の中に広がった。

夢で見たような真っ白な世界。

全部が氷に包まれた世界。

そして気が付くとそれは現実となっていた。

あくまでイメージでしかなかったはずの氷の世界。

それが眼の前に現れていた。

いじめていた子供たち。

いじめられていた子供。

公園も草も木もみんな凍りついていた。

まただ。あのときみたいにみんな。

私はこの世界のように頭の中が真っ白になった。

考えられなくなったまま。

私は白い公園から逃げ出した。

 

私の周りは氷の世界。

銀白に広がる世界。

みんな凍りついて動かない。

そこを歩いているのは私だけ。

 

私はたくさんの木が並んでいる小道を歩いていた。

赤茶けた落ち葉が私の前を舞い降りていた。

おとぎ話の世界に迷い込んでしまったみたい。

私はそんな夢見を描いていた。

そんな楽しんでいる私の前に数人の女の人たちが立っていた。

中学生か高校生か。

みんな学校の制服を着ていた。

その学生の1人が私に近づいてきてこう言った。

お財布を見せてごらん。

私の中の喜びはどこかに消えていた。

見せたらその中身のお金を全部持ってっちゃうつもりだって。

さぁ早く出しなって。

学生の語気が強くなってきた。

もしもこのまま出さなかったら絶対何かされる。

怖い。誰か助けて。

私は誰かに助けを求めた。

でもその学生以外に誰もいない。

助けて。助けて。

私はあまりの怖さでまた頭の中が真っ白になった。

また?

ほんの少しの疑問が頭の中に入ってきた気がした。

でも私の描いた白いイメージに消えてった。

そしてそのイメージは現実となっていた。

周りはみんな凍りついてしまった。

怒っている学生たちも。

周りの木たちも。

ゆっくりと舞い落ちてきた落ち葉も雹みたいに落ちてきた。

そして落ち葉は地面に落ちて割れた。

ガラスが落ちて割れるみたいに。

その落ち葉の何枚かが私にも落ちてきた。

普通だったら痛かった。

でも心の痛さのほうが強かった。

またみんな凍っちゃった。

私のせいで凍っちゃった。

死んでしまいたいとも思った。

でも怖くてできなかった。

それにそんなことでみんなが戻るとは限らない。

私は頭の中を真っ白にしたまま歩き出した。

全部が凍ったこの道を。

 

私の周りは氷の世界。

銀白に広がる世界。

みんな凍りついて動かない。

そこを歩いているのは私だけ。

 

そう。

この世界で生きているのは私だけ。

 

 

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