木乃香と刹那の危険な妄想

 

 

 近衛(このえ)木乃香(このか)桜咲(さくらざき)(せつな)

 麻帆良学園中等部に通う女子で、2人は幼馴染みの関係にある。

 おっとりした雰囲気を持つ木乃香と、真面目な性格の刹那。

 そんな2人の日常の中で起きた出来事だった。

 

 木乃香の護衛を最優先としている刹那は、カラオケなどの女子のする遊びや趣味をすることが極めて少ない。クラスからこういった誘いを受けて空気を気まずくしてしまったこともある。

 そのことを申し訳なく感じ始めた刹那は、流行を知るためにひとまず本屋に入ってみた。立ち読み可能の古本屋だった。

 ところが彼女が手に取ったのは少年漫画。しかもH度の高めの部類に入るものだった。

(ふ、服が破れていく!?・・最近はこういったハレンチなものが流行っているのか・・・!?

 やや過激な描写に、刹那は知らず知らずのうちに引き込まれていってしまう。そして彼女はその漫画の1シーンに眼を留めた。

 それは、ザブヒロインがヒロインを庇って石化されるシーンだった。それも体だけ石になり、衣服は石化が進行していくと同時に引き裂かれていくものだった。

 完全に石化に包まれたサブヒロインは、一糸まとわぬ姿となってしまった。その石の裸身を目の当たりにして、刹那の動揺は広がる。

(まさか!?・・最近の学生の読む本は、こんなハレンチになっているのか・・・!?

 その過激な描写に、刹那は動揺して赤面するばかりだった。

 そのとき、刹那の脳裏にひとつのイメージが湧き上がってきた。それは木乃香がこの漫画のように石化されるところだった。

 

  ピキッ ピキッ ピキッ

 誘拐犯が発した眼光を受けた木乃香の体が石になっていく。同時に彼女の着ていた制服が引き裂かれ、彼女の石の裸身がさらけ出されていた。

「体が石になってる・・何しはったん!?

 自分の身に起きた変化に驚愕する木乃香。その声に耳を貸さず、誘拐犯は石化していく彼女を見つめて、不気味な笑みを浮かべていた。

  ピキッ ピキッ

 石化はさらに進行し、手足の先に向かって蝕んでいく。その侵食に伴って、木乃香は徐々に力を入れられなくなる。

「あかん・・力が入らへん・・・思うように動けへん・・・」

 弱々しく声をもらす木乃香。彼女は押し寄せる石化に抗うことができなかった。

  パキッ ピキッ

 石化が木乃香の手足の先まで到達し、髪や首元、頬をも脅かしていた。もはや彼女には体の自由は失われていた。

「せっちゃん・・せっちゃん・・・」

 木乃香が声を振り絞って、刹那の名を呼びかける。

  ピキッ パキッ

 その唇さえも石に変わり、声を出すこともできなくなる。木乃香はただただ、眼前の誘拐犯を見つめることしかできなかった。

    フッ

 瞳さえも石に変わり、木乃香は完全に石化に包まれた。一糸まとわぬ姿の彼女を見つめて、誘拐犯が不気味な哄笑を上げていた。

 

(見えた・・・お嬢様の、生まれたままの姿が・・・)

 脳裏を巡る妄想に困惑する刹那。木乃香をその誘拐犯のような輩から守るという気持ちを強めようとしたとき、刹那の中に再び妄想がよぎってきた。

 

 徐々に体の石化と衣服の崩壊を来たしていく木乃香。その彼女の姿を見つめていたのは刹那だった。

「せっちゃん・・何でこんなこと・・・!?

「いいよ、このちゃん・・このちゃんは私のもの・・これから私がこのちゃんを守るから・・・」

 声を荒げる木乃香に、刹那が妖しい笑みを浮かべる。

「こうしておけばこのちゃんが傷つくことはない・・誰にもこのちゃんは傷つけられない・・・」

「せっちゃん・・そんなの違う・・そんなの・・・!」

 普段とは違う歓喜を浮かべる刹那に、木乃香の動揺が広がる。刹那は微笑んだまま、石化で身動きが取れない木乃香に寄り添う。

「これからはずっと一緒だよ・・このちゃん・・・」

「せっちゃん・・・せっちゃん・・・」

 優しく抱擁する刹那に、木乃香は完全に困惑してしまう。守ろうとする一心で、刹那は木乃香に邪の力を仕掛けるのだった。

 

(わ、私が・・私がお嬢様に、あんなことを・・・!?

 よからぬことを考えて、刹那が困惑してしまう。

(そんなことはない!断じてない!・・・いけない。私としたことが・・すぐに邪念を断ち切らねば・・・!)

 冷静さを取り戻そうと、刹那は自分の首を大きく横に振る。

「何してはるん、せっちゃん?」

 そこへ聞き覚えのある声が耳に入り、刹那が驚きをあらわにする。彼女がロボットのように首を90度回した先には、笑顔を見せている木乃香の姿があった。

「お、お嬢様!?これは、その・・!?

 刹那が弁解を入れようとしたとき、彼女が持っていた漫画を落としてしまう。彼女だけでなく、木乃香もその漫画に眼を向けた。

「あっ・・・」

「あ、これ、うちも読んだことある。ちょっとエッチなんやけどね・・」

 唖然となる刹那の前で、木乃香がその漫画を手にして、パラパラとページをめくっていく。そして、先ほど刹那が見つめていたページで止める。

「特にここ。石にされるだけやなくて、丸裸やて。こんなすごい魔法あらへんて。」

「い、いけません、お嬢様!そ、そんなハレンチなことを口にしては・・!」

 淡々と言いかける木乃香に、刹那が慌しく言いとがめる。

「うちもこれ見たとき、いろいろとイメージしてもうたわ・・うちはせっちゃんが石にされるのを想像したわ・・」

「わ、私が、石に・・・!?

 木乃香が言いかけた妄想に、刹那は固唾を呑んだ。

 

 誘拐犯に狙われた木乃香を助けるため、刹那が果敢に飛びかかっていく。刀を抜刀し、その一閃が誘拐犯の頬をかすめる。

 だが続けて放つ刹那の攻撃はことごとくかわされていく。そして何度目かの一閃を放ったところで、誘拐犯の手が彼女の首をつかんだ。

「ぐっ!」

 つかんでくる腕を振る払うことができず、うめく刹那。顔を傷つけられた誘拐犯が苛立ちをあらわにすると、彼女をじっと見つめる。

 

    カッ

 

 その誘拐犯の眼からきらびやかな眼光が放たれた。

 

   ドクンッ

 

 その光を受けた刹那が、強い胸の高鳴りを覚える。

「な、何だ、今のは・・・!?

 その衝動に困惑する刹那。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 そのとき、刹那の着ていた制服が突如引き裂かれた。左腕、あらわになった左胸と下腹部が硬質化し、ところどころにヒビが入っていた。

「な、何だ、コレは!?・・体が、動かない・・・!」

「体が石になってる・・・せっちゃん!」

 驚愕の声を上げる刹那と木乃香。素肌をさらけ出された刹那を眼にして、誘拐犯が哄笑を上げる。

  パキッ

 石化はさらに進行し、刹那の体を蝕んでいく。同時に彼女の自由を奪い、力をも奪っていた。

「こ、このままではお嬢様が・・・!」

 刹那が力を振り絞って、誘拐犯を止めようとする。彼方を持つ右手がゆっくりと上がっていく。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化の進行が早まり、刹那の右胸と右腕を石に変えていく。その影響でうまく力をいれることができなくなり、刹那は彼方を手から落としてしまう。

 手足の先にまで石化が進んでいった。石の裸身をさらけ出されて、さらに体の自由を封じられて、刹那が苦悶の表情を浮かべる。

  パキッ ピキッ

 石化は刹那の頬と髪を脅かしていく。髪をひとつに束ねていた髪留めが、石化に巻き込まれて断ち切れる。

「せっちゃん・・・」

「申し訳ありません、お嬢様・・・助ける・・ことが・・できな・・く・・・て・・・」

 困惑する木乃香に、刹那が声を振り絞る。

  ピキッ パキッ

 だが唇さえも石に変わり、刹那は声を発することもできなくなる。木乃香を守ることができず失態をさらしたことを悔やみ、刹那は無意識に涙を浮かべていた。

    フッ

 その瞳もヒビが入り、刹那は完全に石化に包まれた。同時にあふれていた涙が眼からこぼれ、石の頬を伝った。

「せっちゃん・・せっちゃん!」

 悲痛の叫びを上げる木乃香。彼女は誘拐犯に連れ去られて、どこかへと消えていった。

 その場には刹那だけが取り残されていた。彼女は一糸まとわぬ石像にされて、その場に立ち尽くしていた。

 

「わ、私が・・丸裸の石に・・・そんなこと・・・!」

 自分の身に起きる不可思議な現象を思い浮かべて、刹那が困惑する。しかし彼女は気持ちを落ち着けて、木乃香に言いかける。

「しかし、お嬢様を守るためにそのようなことになるのでしたら、私は構いません・・・!」

「そういうてもらえると嬉しいわ・・せやけどその犯人がうちやったら・・・」

「えっ・・・!?

 木乃香が切り出した言葉に、刹那はさらに驚きをあらわにした。

 

 木乃香がかけた不可思議な力を受けて、刹那の体が石に変わっていた。同時に彼女の着ていた衣服も、体の石化と同時に引き裂かれていた。

「お、お嬢様・・なぜ、このようなことを・・・!?

「だって・・せっちゃんの姿を留めておこう思うてな・・こうしはったほうがえぇってな・・・」

 声を振り絞る刹那に、木乃香が悩ましい面持ちで答える。

「せっちゃん・・このままうちと、ずっと一緒にいよう・・・うち、せっちゃんのそばにおるから・・・」

「お・・おやめください、お嬢様・・・やめて・・このちゃん・・・」

 妖しく言いかける木乃香に、刹那は困惑のあまりに素をあらわにする。

「うちがおるから・・安心したってな・・せっちゃん・・・」

「このちゃん・・・このちゃん・・・」

 木乃香の言動と石化に抗えず、刹那が困惑する。彼女は木乃香に見つめられたまま、石化の呪縛に堕ちていくのだった。

 

「い、い、いけません、お嬢様!そのような不埒な考えを起こしてはなりません!」

 この想像に、刹那が赤面して木乃香への抗議の声を上げる。しかし木乃香は楽しげに微笑んでいた。

「そうか?うちはそれなりに楽しいと思うけどなぁ。」

「ダメです!お嬢様がそのような邪な考えをお持ちになっては、近衛家の末代までの恥にまでなりかねません!」

「そうなん?あともうひとつ思いついてたんよ。」

「また私が石にされるのですか・・・!?

「せっちゃんだけやない。うちもやて。」

「お、お嬢様も・・・!?

 木乃香の言葉を受けて、刹那の動揺は頂点に達した。

 

 誘拐犯から木乃香を守ろうと挑みかかった刹那。だが誘拐犯に逆に追い詰められ、木乃香とともにこの場を離れようとしたが逆に追い詰められてしまった。

 そして誘拐犯が放った眼光を受けて、木乃香と刹那は石化に蝕まれた。体が石になり、制服も引き裂かれていった。

「せっちゃん・・うちら、体が・・・!」

「まさか、このようなことに・・・私だけでなく、お嬢様まで・・・!」

 動揺をあわらにする木乃香と、自身の不覚に毒づく刹那。石化は2人の体を侵食し、制服を引き裂いて石の素肌をあらわにしていた。

「このままお嬢様に、恥辱をさらすわけにはいきません・・・!」

 刹那は力を振り絞って、自分の体で可能な限り、木乃香の体を抱きしめて隠そうとする。その抱擁に木乃香が戸惑いを覚える。

「申し訳ありません、お嬢様・・このような行為、お許しください・・・」

「せっちゃん・・せっちゃんに抱きしめられるやなんて・・・」

「こうしても気休めにもならないでしょう・・ですがあのような不埒な輩に、お嬢様の素肌を見せることは極力避けなければ・・・!」

 困惑を見せる木乃香の前で、刹那は必死になっていた。

「申し訳ありません、お嬢様・・あなたを、まもることができなくて・・・」

「ううん・・悪いのはうちやて・・うちのために、せっちゃんまで・・・」

「お嬢様・・・」

「せっちゃん・・・」

 互いの顔を見つめながら、刹那と木乃香が抱擁する。2人の体がさらに石化に蝕まれ、自由を奪っていく。

 抱擁から動けなくなり、やがては声を出すこともできなくなる。互いを見つめる瞳にも、ついに無機質な石に変わった。

 完全に石化に包まれた木乃香と刹那。2人は全裸の姿で、互いを抱きしめあったまま、その場に立ち尽くしていた。

 

「わ、私が・・お嬢様と・・あつい抱擁を・・・!」

 2人が抱き合ったまま石化される場面を想像した刹那は、一気に動揺を高まらせていた。

「せっちゃん・・大丈夫・・・?」

「私と、お嬢様が・・裸の、お付き合いを・・・」

 木乃香が声をかける前で、動揺が頂点に達した刹那がその場に倒れ込む。

「せっちゃん!?どないしたん、せっちゃん!?

 木乃香が呼びかけるが、刹那の意識が戻ることはなかった。彼女が眼を覚ましたのは、それからしばらく後のことだった。

 

 木乃香と刹那が思い描いた妄想。

 固めと邪心に満ちあふれた危険な妄想となった。

 

 

短編集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system