美しき欲望
花山クライン。
寄付やボランティアなどを行い、グレイシティの「街の英雄」と呼ばれている青年実業家。
だが、ある日手に入れたひとつの宝石が、彼の秘めたる欲望を増幅させた。
女への支配。石化されてコレクションに加えられていく美女たち。
魔石との出会いが、クラインの運命を変える。
貧富の激しい街「グレイシティ」。その街で英雄と讃えられている1人の青年、クラインがいた。
クラインは寄付やボランティアを行い、貧しい人々に救いの手を差し伸べていた。
この日もクラインは、身寄りのいない子供たちが住まう児童施設に多額の寄付を行った。その功績で街の人々から祝福を受けることになった。
「花山さん、今回は本当にありがとうございました。」
「いえ。全ては街のため、街の人々のためですよ。このグレイシティが平和と安らぎで満たされることが、私の願いですから・・」
感謝の意を示す施設の管理者に、クラインが笑顔を見せて会釈する。
「優しさに満ちあふれた子供に育ててあげてください。この先の未来は、今の子供たちが担っていくことになるのですから・・」
施設への敬意と励ましを込めた言葉をかけるクライン。彼は次の会合のため、児童施設を後にしようとした。
「あの花山って実業家、ちょっと調子に乗ってない?」
「いい人そうなんだけど、頼りなさそうだし・・」
「人間はやっぱり顔よね。最近はイケメンよ。」
その彼の耳に、人々のよからぬ声が入ってきた。その声はどれもが女性のものだった。
「花山さん、早くお乗りください・・」
そこへ車の運転手の声がかかった。我に返ったクラインは車に乗り、次の会合の場所へと向かっていった。
その日の会合、会議を終えて、自分の邸宅へと戻ったクライン。人目がなくなったところで、彼は抱えていた怒りを爆発させた。
「おのれ!私よりはるかに劣るばか者の分際で!」
込み上げてくる苛立ちを抑えられず、そばの壁を強く殴りつけるクライン。
クラインは自分の行う言動に自信を持っていた。だが彼の自信を人々は理解しようとせず、その排他的な反応が彼を苛立たせていた。
「腹が立つ!特に女が気に入らない!何が顔だ!何が頼りないだ!何も分かっていないお前たちに、私を見下す権利があると思っているのか!」
ひたすら壁に怒りをぶちまけるクライン。その怒りはいつしか、力を求める欲望へと変わりつつあった。
「力がほしい・・女どもを従わすことのできる力が・・・!」
女性への支配という欲望と渇望。それが今のクラインを突き動かしていた。
それから何日かが経過した。この日もクラインは、とある宝石店に多額の寄付を行っていた。
「ありがとうございます、花山さん・・ここはよく盗みに入られて。防犯設備に資源を割くかどうか悩んでいましたが、花山さんのおかげで迷いが晴れました・・」
「いえ。ここ最近は例の怪盗まで現れて、あなた方も大変でしょう・・えっと名前は確か・・・」
宝石店の店長に励ましの言葉をかけつつ、クラインが苦笑いを浮かべる。
そのとき、クラインはある宝石に眼を留めた。蛇の彫刻が取り巻いている水晶のような宝石だった。
クラインはその宝石に魅入られていた。まるで宝石に自分の心を見透かされているかのように。
「花山さん・・花山さん?」
そこへ店長からの声がかかり、クラインが我に返る。
「あ、すみません・・それにしてもきれいな宝石ですね・・」
「はい。旅商人と名乗る方から譲り受けまして。私が見てもかなりの額と判断しています。」
店長の話を聞いて、クラインが頷きかける。
「よろしければこの宝石、花山さんにお譲りいたしますよ。」
「えっ?よろしいのですか?」
「これほどのことをしていただいて、何のお礼もしないとはどうかと思いまして・・」
「そうですか・・ではお言葉に甘えまして、いただくことにします・・本当にありがとうございます・・」
こうしてクラインは店長から宝石を受け取ることにした。自分の行ってきた功績が形として現れてきたと、彼は内心喜びに打ち震えていた。
この宝石が、彼の運命を大きく変えることになる。
この日の夜も、クラインは人々の軽口に苛立ちをあらわにしていた。自分の中にある憤りを解消することができず、クラインはいつしか悲しみに暮れていた。
「イヤだよ・・もうこんなの耐えられない・・我慢がならない・・・」
絶望感に苦しむクラインは、昼間に宝石店の店長から受け取った宝石を取り出し、語りかけていた。
「宝石よ・・お前は分かってくれるだろう・・誰からも理解されない僕のすばらしさと苦労を・・・今、バカな連中に分からせられるだけの力があれば・・・」
“力がほしいのか・・・?”
そのとき、どこからかクラインに向けて声がかけられた。クラインがとっさに立ち上がって周囲を見回すが、誰もいない。
“お前は力がほしいのか?・・ならば私の持つ力を、お前に与えてやろう・・”
「この声・・まさか、この宝石から・・・!?」
驚きを隠せないまま、クラインが宝石を凝視する。
「お前、本当に力を僕にくれるのか・・・!?」
“お前が望むならば、私の力をお前に与えてやろう・・”
「本当なのか・・それで、お前の力というのは・・・?」
“私の力は石化の力・・あらゆるものを石に変える・・”
「石化の力・・人も石にできるのか・・・?」
“当然だ。石化の開始場所、進行速度、全て己の思うがままだ・・”
「全て思うがままか・・・そうだ!私が求めていた力はこれだったんだ!」
宝石からの言葉を聞いて、クラインが歓喜を浮かべる。
「宝石よ、私に力をくれ!世界中の女どもを屈服させられる力を!」
クラインは願った。女を掌握するための力を。
これが、クラインが魔石の力を得て生まれ変わった瞬間だった。
次の晩、クラインはまずある女性を誘拐した。彼に対して批判的な発言をよく行う人物の1人だった。
クラインは黒ずくめの衣装に身を包んだ。そして魔石から得た力で肌も黒く染め、女性を誘拐した。この変化によって自分の正体を隠すだけでなく、闇に紛れることもできるのである。
連れ去られた女性は、花山邸の奥にある大部屋で眼を覚ました。
「ここは・・・あなたは・・・?」
「気がついたようだな・・」
クラインの姿を見て、女性が眉をひそめる。
「あなたがこんなマネを・・私に何の用ですか・・・!?」
「あなたはよく私の行動に批判的でしたね。偽善、気弱、保守的。ずい分と私を見下した発言を繰り返してきた・・」
女性が訊ねると、クラインが低い声音で言いかける。だが女性は彼のこの言葉を嘲る。
「当然のことではないですか。あなたは名誉と大金で支持を得ているだけの、善人ぶった人間でしか・・」
「黙って聞いていれば好き放題、勝手なことを言ってくれる!」
女性の言葉に憤慨して、クラインが彼女の胸倉をつかむ。普段とは明らかに違う彼に、彼女は一瞬緊迫を覚える。
「偽善で性悪なのはお前たちのほうだ!私の親切など知ろうともせず、勝手なことばかり!」
「私は真実を語っているだけよ。それをあなたが否定する資格があるの?」
怒鳴るクラインだが、女性は考えを変えない。彼女の態度にさらに腹を立てるが、クラインは苛立ちを抑えて笑みを見せた。
「ここまでバカだと、怒りを通り越して呆れてくる。だが・・」
クラインは言いかけると、かけていたメガネを外す。直後、彼の肌が黒く染まり、不気味な雰囲気が現れてきた。
「もはやお前が辿る道は、ひとつしかない・・・」
「は、花山さん・・あなた・・・!?」
息を呑む女性が、クラインが伸ばした右手に首をつかまれる。
「光栄に思うがいい。初めて私のコレクションに入ることを・・」
クラインが不敵に言いかけると、女性をじっと見つめる。
カッ
彼の眼からまばゆい光が放たれた。
ドクンッ
その光を受けた女性が、強い胸の高鳴りを覚える。
「何、今のは・・あなた、私に何をしたの・・・!?」
その衝動が理解できず、女性が声を荒げた。
ピキッ ピキッ ピキッ
そのとき、女性の着ていた衣服が突如引き裂かれた。あらわになった彼女の体が、ひび割れた人でないものへと変わっていた。
「な、何なの、これは!?体が、動かない!?」
「すばらしい力だ・・全てが私の思い通りになる・・・」
自分の身に起こった変化に驚愕する女性と、自分の力に喜びを覚えるクライン。
ピキッ パキッ ピキッ
石化が一気に進行し、女性が見つめていた右手の先まで石に変わっていた。
「こんなことが現実にあるなんて・・・!?」
「お前を皮切りに、全ての女が私のものとなる。お前たちも幸せだろう。美しいオブジェになれるのだから・・・」
愕然となる女性に、クラインが自信を込めて言いかける。
ピキッ ピキッ
石化が女性の顔や髪さえも蝕んでいく。彼女は愕然としたまま、声を発することもできなくなる。
フッ
瞳さえも石に変わり、女性は完全に石化に包まれた。身につけていたもの全てを引き剥がされ、一糸まとわぬ石像となった彼女を見つめて、クラインは勝ち誇っていた。
「これでお前は私に屈した。今日まで散々私をバカにしてきたお前が、私のものとなったんだよ。」
クラインがメガネをかけると、黒くなっていた肌が元に戻る。
「私はこの調子で全ての女を手に入れて従わせる。そして私こそがすばらしい存在であることを証明してやるぞ。ヒッヒッヒッヒ・・」
クラインは不気味な哄笑を上げながら、部屋から去っていく。この日から、彼の欲にまみれた時間が幕を開けたのである。
それからクラインは次々と美女を誘拐し、魔石から得た力で石化していった。彼女たちは衣服を全て引き剥がされ、全裸の石像にされて立ち並んでいた。
その彼女たちを見回して、クラインが笑みをこぼしていた。
「ここまで揃うと見栄えがいいものだ。これだけの女を手の中にしているのは、実に爽快だ・・」
美女たちを見回して、クラインが歓喜を募らせる。
クラインが見せた力に恐怖して動くことができなかった人。逃げようとしたがすぐに回りこまれてしまった人。いずれもがなす術なく石化されてしまい、クラインの手に落ちたのだった。
「私のものになった女は、全てを私に捧げることになる。一切の自由も、服やアクセサリーを身につけることも許さない。一方、私には女どもに対して様々な自由が認められている。素肌を見ることも、体に触ることも、壊すことも・・・」
クラインは呟きながら、ゆっくりと歩き出す。彼は最初に石化した女性の前に立った。
「私にすることに対して、お前たちは一切の抵抗はできない・・・!」
クラインは低く告げると、女性に向けて一蹴を繰り出す。女性の石の体が蹴りを受けて粉々に砕かれた。
「ヒャハハハハ!私を散々バカにした報いだ!お前のその顔、思い出すだけで吐き気がしてたんだよ!」
女性を破壊したことに、歓喜と狂気に満ちた哄笑を上げるクライン。石化された人が壊された場合、2度と元に戻ることはできない。
「だが、私はまだまだ満たされてはいない。まだ世界には女がたくさんいるのだからな・・」
さらなる女の掌握を求めるクライン。そのとき、彼が先ほどさらってきた少女が意識を取り戻した。
「ずい分と手を焼かせてくれたが、私から逃げられると思うのが大間違いなのだ。」
クラインが少女に向けて鋭く言いかける。彼女はクラインと遭遇したときに全速力で逃げ出したが、回り込まれて捕まってしまった。
「まさかあなたが・・イヤッ!」
再び恐怖を感じた少女が、またしても逃げ出そうとする。
「まったく・・・」
苛立ちを覚えたクラインがメガネを外し、力を解放する。漆黒に染まった彼が、一瞬にして少女の前に立ちはだかった。
カッ
クラインはすぐさま、少女に向けて眼光を煌かせた。
ドクンッ
その光を受けた少女が突然の衝動に襲われた。
ピキッ ピキッ
直後、少女のはいていた靴が弾け飛び、両足が石に変わり出した。足の自由が利かなくなり、少女は体を震わせる。
「ヒッヒッヒ。これでもう逃げることはできない。」
クラインが少女を見つめて、不気味な笑みを浮かべる。するとクラインは少女の着ていた服を強引に引き裂いた。
「キャアッ!」
悲鳴を上げる少女がボロボロにされる。さらにクラインは引き裂いた衣服の切れ端を使って少女の口を塞ぎ、さらにロープで後ろ手に両手を縛り上げた。
声を出すことができなくなり、少女がひたすら悲痛さを浮かべる。その無残な姿を見て、クラインが笑みをこぼす。
「そこでしばらく大人しくしていることだな。お前のその恐怖を頂点まで引き上げてからオブジェにしてやるぞ・・」
クラインは言い放つと、少女にシーツを被せて部屋を去っていった。
「さて、そろそろ大物を手に入れたいところだが・・」
スーツに着替えたクラインが、新聞に眼を通す。そこにはグレイシティをにぎわせている怪盗と、それに立ち向かった少女に関する記事が載っていた。
“正義の稲光、惜しくも惨敗。グレイシティをにぎわす怪盗、シャドウレディに挑戦状を叩きつけた少女。彼女はあのシャドウレディを追い詰めて捕まえるなど善戦するが、最後は服を切り裂かれて恥辱的な姿をさらすことになった。今後の彼女に活躍に注目、期待を寄せている人も急増している。”
「正義の稲光だと?くだらない。女が口にすることに正義などない。私こそが正義。私の正義の前に、全ての女は屈することになる。フフフフフ・・」
記事における注目の的をあざ笑い、新聞を机の上に叩きつけるクライン。自身の正義と欲のため、彼は外に赴いた。
グレイシティにて多発する美女たちの誘拐被害は、街中に騒がれるに至った。この連続美女誘拐事件に対して、警察は警戒網を敷くことになった。
だがクラインにとっては、その包囲など何の障害にもならなかった。
(やはり動き出してきたか・・だが今の私は、警察ですら止めることはできない。)
強気な態度を崩さないクラインが、漆黒の姿へと変貌する。彼は暗い通りを歩く1人の少女を発見する。
(早速獲物が現れるとはな。周りの邪魔者を退けてからいただくとしよう。)
クラインがその少女に狙いを定めた。だがそのとき、その少女をじっと見つめる小さな何かをクラインは発見した。ぬいぐるみのような悪魔が浮遊していたのだ。
疑問を覚えたクラインは、その悪魔を瞬時に捕まえた。とっさのことに不意を突かれた悪魔は、そのまま気絶してしまった。
(何だ、コイツは?・・まぁいい。コイツには力はない。後で調べればいい。今は次の獲物だ。)
クラインはその悪魔を捕まえたまま、少女に注意を戻す。彼は白い霧を発して周囲の刑事を気絶させ、少女に接近した。
異様な雰囲気を感じ取って、逃げ惑う少女。だが霧に紛れて移動するクラインは、彼女の背後に迫った。
「ヒッヒッヒッヒ・・」
クラインが不気味な笑いを上げると、少女は悲鳴を上げながら逃げ出す。だが通りの壁際でしりもちをつく。
「で、で、で、出たわね!と、と、と、飛んで火にいる何とやら・・・!」
慌しく言い放つ少女。彼女は涙を浮かべながら、助けを求める視線を送ってきていた。
「お前が待っているのはコレか?」
クラインは問いかけて、捕まえていた悪魔を見せる。それを見た少女が驚愕を見せる。
(この女の知り合いだったとはな。ただ者ではないようだが、私のものになることに変わりはない。)
クラインは不気味な笑みを浮かべたまま、少女を捕まえようと近づいていく。
「そこまでよ、連続誘拐犯!」
そこへ声がかかり、クラインは振り返らずに後ろに注意を向ける。特殊なスーツに身を包んだ少女が姿を現した。
「お嬢さん、スパークガールが来たからにはもう安心よ!」
少女、スパークガールが高らかに言い放つ。だがクラインにとっては喜びの膨張に過ぎなかった。
「ヒッヒッヒ・・今日はついてる。1度に獲物が2人とは・・」
(2人仲良くオブジェにして、コレクションを華やかにしてやるぞ・・)
美女を2人まとめて手に入れられるチャンスを、クラインは内心喜んでいた。
「アンタは女の敵!スパークガールが成敗してくれる!」
スパークガールが強気に言い放つ。その態度を前にして、クラインが笑みを消す。
(この女、生意気な・・実に不愉快だ・・)
「私に対する言葉遣いではないぞ、女。」
「アンタ、何様よ!?」
クラインが冷淡に告げると、スパークガールが飛びかかってきた。常人離れした速さを見せるスパークガールが、クラインに攻撃を仕掛ける。
(普通の女にしては動きが速い。ワイヤーを使ってうまく動いているのか。こしゃくなマネだが、私には遠く及ばない。)
スパークガールの攻撃を余裕を持ってかわしていくクライン。だがそのとき、スパークガールの一蹴が、クラインの頬をかすめた。
(こ、この女!?・・私の顔に傷をつけるとは・・・許さん!)
顔を傷つけられたことに憤るクライン。さらに彼は、最初に狙った少女が逃げようとしていることに気付く。
(私から逃げられる女など存在しない。)
クラインは漂う霧に紛れて、自分の髪を伸ばした。
「キャッ!」
髪で縛られて足を取られた少女が悲鳴を上げる。直後、彼女に気を取られたのか、一瞬動きの鈍ったスパークガールを、クラインは捕まえた。
「し、しまった・・・!」
「捕まえたぞ、うるさいハエめ。」
うめくスパークガールに、クラインが不敵な笑みを見せる。だが彼の笑みはすぐに消えた。
(もはやこんなヤツなど不要・・2度と私の前に現れることがないようにしてくれる・・・!)
「私の顔に傷を付けおって・・お前はもういらん!」
怒号をあらわにするクラインが、緊張を膨らませるスパークガールを見つめる。
カッ
彼の眼から石化の眼光が放たれる。
ドクンッ
その光を受けたスパークガールが強い胸に高鳴りを覚える。
(私に刃向かうお前の顔を、恐怖と絶望で満たしてやる・・・!)
ピキッ ピキッ ピキッ
クラインが意識を傾けると、スパークガールが石化に襲われた。衣装や防具が破損し、あらわになった左腕、左胸、下腹部が石に変わっていた。
「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜の繰り返しを見守り続けるがいい!」
「な、何なの、コレ!?」
高らかに言い放つクラインと、石化した自分の左手を眼にして驚愕するスパークガール。動揺を隠せなくなる彼女を見て、クラインが胸中で嘲る。
(そうだ!その顔だ!私に逆らったこと、そのために私のコレクションに入れなかったことを後悔するがいい!そして全てをさらけ出した姿をさらすことを恥じるがいい!そうすることで、お前も私に屈服することになるのだ!)
勝ち誇るクラインが、石化のために身動きがとれずにいるスパークガールに背を向ける。
パキッ
石化は徐々に進行し、破損した衣装がボロボロと崩れ落ちていく。石の裸をさらけ出していくスパークガールの恥じらいを実感しながら、クラインは緊迫を覚える少女に眼を向ける。
(恐ろしくて声も出ないか。いずれはこの女と同じ末路を辿るのだからな。)
「安心したまえ。お前はまだオブジェにはしないから・・」
クラインが少女に向けて悠然と言いかける。
ピキッ ピキキッ
石化に巻き込まれ、スパークガールの履いていたブーツが壊れ、素足が現れる。
(もはやこの女には何もできまい。体のほとんどを石化させるようにしたからな。)
ピキキッ パキッ
クラインが思考を巡らせる中、スパークガールの右手の先まで石化が進行した。彼女の身につけていた道具は全て破壊され、ワイヤーが背中にくっついているだけとなった。
パキッ ピキッ
そして石化は、彼女の頬をも脅かしていた。かつらさえも崩れ去り、彼女の本当の髪が現れてきた。
「ゴ・・ゴメン・・・タ・・タスケ・・ラレ・・・ナ・・・」
少女への謝罪の言葉を口にするスパークガール。最初の強気な態度は、彼女から完全に消え失せていた。
ピキッ パキッ
その言葉を言い切る前に唇が石に変わり、声を発することができなくなるスパークガール。
「ヒッヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッヒ・・」
沈痛さをあらわにする彼女に眼を向けて、クラインがあざ笑う。
(いいぞ、いいぞ!思い上がった女の態度が絶望に変わっていくのが、私には至福の喜びなのだ!)
歓喜を膨らませていくクラインが、白い霧を発して少女を連れてこの場から離れようとする。
フッ
眼から涙があふれた瞬間、その眼にもヒビが入り、スパークガールは完全に石化に包まれた。
「スパークガール!!!」
クラインに連れ去られる少女が悲痛の叫びを上げる。
(これでお前も私に屈した!そして美しいオブジェになれたことを、誇りに思うがいい!)
勝利の余韻に浸るクラインが、少女を連れて姿を消した。その場には一糸まとわぬ石像となったスパークガールだけが取り残された。
戦いを挑んできたスパークガールを石化して返り討ちにしたクラインは、捕まえた少女を連れて邸宅に戻ってきた。先日の少女のように逃げられることがないように、クラインは彼女の足に錠をかけた。
クラインは改めて新聞に眼を通した。先ほど石化した少女が、シャドウレディと互角の戦いを繰り広げた少女と同一人物であることを認識した。
「あのシャドウレディと・・惜しいことをしたかもしれない。指折りのオブジェを手放すことになったとは・・」
極上の獲物を見捨てたことを半ば後悔するクライン。
「だが私に刃向かう女は、私のコレクションには不要だ。いずれにしても、ヤツも私に屈したことに変わりはないのだから・・」
すぐに自身の欲望と力に酔いしれるクライン。
「そろそろあの女も目覚める頃だろう。すぐに私のコレクションに加えてやるぞ。そしてそろそろ、あのシャドウレディもものにしてくれるぞ・・」
クラインは哄笑を上げながら、少女の倒れているコレクションルームへと戻る。彼の女への支配は、さらなる拍車がかかるはずだった。
このとき、クラインは知らなかった。その少女こそが、あの怪盗、シャドウレディであったことを。
彼女の逆鱗に触れてしまったクラインは、完膚なきまでに叩きのめされてしまう。魔石にさらなる力を求めたクラインは、その力を制御できなくなり、暴走してしまう。
一気に高まっていく欲望を取り込んだことで、魔石に封印されていた魔人が復活。その魔人の力で、クラインは命を落としてしまった。
その後、クラインによって石化された美女たちは、今回の事件に関する記憶を消されてから元に戻った。
こうして、クラインの美しき欲望は潰えた。
だが多くの美女を手中に収め、彼女たちの全てをさらけ出した功績は、長い年月の中で類を見ないものであることはいうまでもない。