石の毒
世界ではこれまで、様々な罪が発生してきた。
中には人知を超えた事件も存在する。
その不可思議な詳細を知る人がいないとされている事件もまた。
貧富の差の激しいこの街では、犯罪の多さも目立っていた。
この街に平和をもたらすため、1つの正義の稲光が現れた。
スパークガール。街を騒がせる怪盗を追い込んだほどのスピードと科学力を備えている。
しかしそれ以外の彼女の目覚ましい活躍は、世間にはあまり知れ渡っていない。
(このスパークガールが、この街とみんなを守らなくちゃ・・いつまでもやられっぱなしってわけじゃないんだから・・!)
1人の少女が道を歩きながら、悔しさを噛みしめる。
少女の名は細川ライム。スパークガールに変装して悪に挑んでいた。
(まずは装備の性能を上げて、やられないようにしないと・・・!)
衣服や装備を引き剥がされないように、ライムはその強化を考えていた。
「キャアッ!」
そのとき、ライムの耳に女性の悲鳴が入ってきた。
「今の声は・・もしかして事件・・!?」
彼女は声のしたほうに向かって走り出した。
(この辺りから声がしたけど・・・!)
ライムが辺りを見回して、悲鳴の正体を探る。彼女は警戒をしながら移動をしていく。
その先の道でライムは、1人の女性を運ぶ数人の男を目撃した。
「今日もなかなかの美女を捕まえたぜ。ヒヒ・・」
「これでヘッドもお喜びになるぜ!」
男たちが女性を見つめて笑みをこぼす。彼らは気を失っている女性を連れて移動していく。
(人さらい!?そんな悪いこと、私が許さない!)
ライムが男たちに怒りを覚える。彼女は男たちの誰かに発信機を付けて出直そうとした。
そのとき、ライムが後頭部に激痛を覚えてふらついた。
(あ、頭が・・・!)
意識がもうろうとなって倒れたライム。彼女の後ろには、別の2人の男がいた。
「チョロチョロと嗅ぎ回ってるヤツがいたか・・!」
「しかしコイツも上玉だな!さっきのと一緒にヘッドに見せてやるぜ!」
男たちがライムを見下ろして笑い声を上げる。彼らにつかみ上げられて、ライムも連れていかれることになった。
意識を取り戻したライムが、ゆっくりと目を開いた。彼女がいたのは見知らぬ大広間だった。
「気が付いたか、女・・お前が目を覚ますのを待ってたぜ・・」
広間にいた1人の男が、ライムに声をかけてきた。
「アンタ、誰よ!?・・ここはどこなの・・・!?」
「オレはここにいる連中のボスだ。ここはオレたちのアジトだ。」
ライムが問い詰めると、ヘッドである男が不敵な笑みを浮かべたまま答える。
「アンタたち、何を企んでいるの!?あたしを捕まえてどうするつもりよ!?」
「オレのコレクションに加えるんだよ。喜べ。お前もかなりの上玉だぜ。」
「コレクション・・気色悪いこと言わないでよね!」
「クフフフ・・せいぜい生意気な口を叩いときな。それもできなくなるからな・・」
悪寒を感じていくライムに、ヘッドがさらに笑い声を上げる。
「ふざけないで!アンタたちの思い通りにはならないから!」
ライムが抵抗するが、腕をつかんでいる男たちの手を振り払うことができない。
(スパークガールになっていたら、こんなヤツらに負けないのに・・!)
男たちを打ち倒す手段がなく、ライムが悔しさを覚える。
「逆らってもオレたちからは逃げられねぇ。おとなしくオレのものになるんだな。」
身動きの取れないライムに、ヘッドが近づく。彼が右手を握りしめて力を込める。
「放して・・何をしようというの!?」
「さぁ・・上玉の石くれになりな!」
緊張を膨らませるライムに、ヘッドが右手を突き出した。ライムの胸に当たったヘッドの手から光が放出した。
光がライムの体を蝕んでいく。その変化の衝撃で、彼女の着ていた衣服が引き裂かれていく。
「出たー!石化の力だー!」
「何度見てもすげぇ威力だ!」
男たちがヘッドの発した力に感動の声を上げる。光が弱まって、淡い煙を発しながら裸で棒立ちしているライムが現れた。
「か・・体が動かない・・あたし・・どうしたの・・・!?」
弱々しく声を発するライム。動こうとする彼女だが、体は彼女の思うように動かない。
「お前に石化を掛けたんだよ。体がだんだんと石になって、その衝撃で服が吹き飛んでるってわけだ。」
ヘッドが笑い声を上げて、ライムに語りかけていく。ライムの体が石へと変質して、その間に衣服が破れて裸にされていた。
「お前も今日からはオレのコレクションの一員だ。他の女も一緒だから、さみしいことはねぇぜ。ハハハハ!」
ヘッドが高笑いを上げてから、部屋の後ろのカーテンを開けた。そこには数多くの全裸の女性の石像が立ち並んでいた。
「あれって・・まさか、みんな本物の女性・・・!?」
石化された女性たちを目の当たりにして、ライムが驚愕する。
「そうだよ・・オレがかっさらって、この力で石にしてコレクションしているわけだ・・テメェもその中の1つになるってわけだ。」
「そうはいかないよ・・すぐにみんなを元に戻しなさい・・・!」
「そうはいくか!せっかくここまでそろえてんだ!元に戻しちゃもったいねぇだろうが!」
「アンタ・・・絶対に思い通りになんて・・・!」
高らかに言い放つヘッドに言い返すライム。抵抗しようとする彼女だが、意識も遠のき始めていた。
「力が入らない・・こんなヤツらのものになるなんて、イヤ・・・」
体がさらに石に変質して、ライムが絶望を感じていく。
(こんなの、イヤだよ・・・ブーちゃん・・・)
心の中で悲痛の叫びを上げて、想いを寄せている相手のことを考えるライム。彼女は意識を失い、体が完全に石に変わった。
「やったぜ・・またオレのコレクションが増えたぜ・・!」
ヘッドが全裸の石像となったライムを見つめて、高らかに笑う。
「やりましたね!また美女がものになりましたぜ!」
「ヘッドの力も、もっとたくさんのヤツらに思い知らせることができるッスね!」
男たちがヘッドに歓喜と称賛を見せる。
「そいつもコレクションの部屋に運んどけ。」
「はっ!」
ヘッドの命令に答えて、男たちがライムを石像の置かれている部屋に運んだ。
「ずいぶんたまりましたね!このまま街の女の制覇といきましょう!」
「当然だ。今のところ1番の狙い目は、あの女怪盗だ・・」
男が呼びかけて、ヘッドが野心を口にした。彼らは世間を騒がせている怪盗にも目を付けていた。
それからさらに、誘拐されて石化された女性がヘッドの部屋に運び込まれていった。その間にも、ライムは物言わぬ全裸の石像のまま、その場で立ち尽くしていた。
そしてライムが石化されてから数日が経ったときだった。
世間を騒がす怪盗、シャドウレディがヘッドのアジトに乗り込んできたのだった。
男たちが迎え撃つが、シャドウレディは軽い身のこなしでかいくぐっていく。
シャドウレディと対面したヘッドは、彼女も石化しようと手を伸ばした。しかしその手はジャンプで軽々とかわされた。
ヘッドは捕まえようと執拗に迫るが、シャドウレディによって叩きのめされ、返り討ちにされた。
「何だよ・・何でこんなにつえぇだよ・・・!?」
ヘッドがシャドウレディの強さに驚きを隠せなくなる。
「ここのお宝を持っていくついでにブッ飛ばしておこうと思ってね。人間の皮を被った女の敵をね。」
シャドウレディが気さくに言った直後に、ヘッドに対して目つきを鋭くした。
「アンタみたいな外道はね、地獄へ堕ちるもんなのよ。」
「ふざけるな・・テメェもオレのもんになるんだよ!」
冷笑を向けるシャドウレディに、ヘッドが怒号を放って飛びかかる。だが彼は頭をシャドウレディにわしづかみにされた。
「ホントに救いようがないね、アンタは・・・!」
シャドウレディが鋭く言って、力を込めてヘッドを投げつけた。
「がはっ!」
ヘッドが壁に叩きつけられて、激痛に襲われた。絶叫を上げた彼が力尽きて動かなくなる。
「ちくしょう・・オレは全てを手に入れる・・女も金も、全部オレのもんだ・・・!」
美女や金への執着心を抱いたまま、ヘッドは事切れた。
「ご愁傷様。地獄で後悔することね。女性を弄んだことをね・・」
シャドウレディがヘッドに冷たい視線を送ってから、部屋を後にした。
ヘッドが倒れたことで、彼に石化された女性たちが元に戻った。
「わ、私たち・・元に戻ったの・・・!?」
「本当に・・体が石になるなんて・・・!」
女性たちが自分の身に起きたことに、動揺と恐怖を感じていく。
(ホントに何だったの!?・・体が石になるなんて・・そんなこと、現実で起こるはずない・・・!)
ライムも自分が石化されたことが信じられず、困惑するばかりになっていた。
(きっと何かカラクリがあるはずよ・・必ずその正体も見つけてやるんだから・・!)
現実離れした出来事の真実を暴こうと考えるライム。
(それにしてもあたし、どうやって帰ればいいの〜!?・・早く来て、ブーちゃ〜ん!)
彼女が自分の体を抱きしめて、心の中で悲鳴を上げた。
不可思議な出来事に巻き込まれていくライム。
世間の裏で起こっている暗躍について、スパークガールも知らない。