GUNDAM WAR Violent Emotion-

PHASE-06「バーン」

 

 

 倒したと思っていたデスティニーに追い込まれたことに、ジンは憤りを感じていた。彼は次のヴァルキリーの出方をうかがいながら、感情を抑えようとしていた。

(オレはザフトやオーブ、ヴァルキリーに振り回されるわけにはいかない・・アイツらのせいで、世界の平和が狂わされているんだ・・・)

 今の世界の軍に対する憎悪を募らせていくジン。打ち震えている彼に、カナが歩み寄ってきた。

「ジン・・気分はどう・・・?」

「オレはどのようなことになろうと戦うだけだ・・そしてオレは、絶対に死なない・・・」

 カナが心配の声をかけるが、ジンは態度と意思を変えない。

「どの機体がどのような力や能力を出してきても、オレはヤツらを叩き潰す・・そうしなければミナは、ミリィは・・・!」

「ジン・・・」

 頑ななジンにカナが戸惑いを感じていく。ジンへの想いを抑えることができず、カナは彼を後ろから抱きしめた。

「ミリィを一方的に殺してしまったヴァルキリーを、私も信じることができない・・だからといって、他の軍隊も、世界も・・」

 カナがジンに自分の思いを告げていく。ジンに思いが伝わらなくても、カナは構わなかった。

「ジンの目指す世界なら、私も心が休まると思う・・だからジン、一緒に戦わせて・・・」

「カナ・・・勝手にすればいい・・オレがオレの戦いをすることに変わりはない・・」

 カナの願いに、ジンは憮然とした態度で答えて立ち上がる。

「まずはスバルを倒す・・ミリィを殺したアイツを、オレは許しはしない・・・!」

「そしてヴァルキリーも、ザフトやオーブのあの3機も・・」

 怒りを噛みしめるジンに、カナも言いかける。2人の脳裏に、デスティニー、フリーダム、ジャスティスの姿もよぎってきていた。

「アイツらがいるから、世界はいつまでも乱れたままなんだ・・だから、オレが・・・!」

 手を強く握りしめてから、ジンはフェイスに振り返った。

「オレはこのフェイスで戦う・・この力で、オレを貫く・・・!」

 自分の信念を口にするジン。カナも彼にどこまでもついていく一心だった。

「ヴァルキリーが何かすれば、ザフトもオーブも動き出す・・そのときに、今度こそ・・・!」

 

 シンがレイアが持ちかけた話し合いの場に行っている時、ナトーラはアテナの艦長室でため息をついていた。実際に艦長の大任を務めて戦闘を行った彼女だが、それでも自信を持つことができないでいた。

(連合にいたときに感じた通り・・私には艦長には向いていない・・・)

 心の中で自分を情けないと思い込んでいくナトーラ。

(やっぱり、リンさんに言って艦長を辞めさせてもらって・・・)

 考え込んでいたところで、ナトーラはドアがノックされるのを耳にした。

「あ、はい、どうぞ・・」

「失礼します。」

 ナトーラが答えると、艦長室のドアが開いた。訪れたのはルナマリアだった。

「ルナマリアさん・・どうしたのですか・・?」

「えぇ。クレストと連絡を取って、私、このままここに留まることになりました。といっても、あくまでシンと一緒にあなたたちの動向をうかがうという意味ですが・・」

「そうですか・・私個人としては、それでも構わないのですが・・・」

 報告をするルナマリアにナトーラが答える。落ち込んでいる彼女の様子に、ルナマリアは当惑を覚える。

「何か、あったのですか?・・ヴァルキリーが、何か行動を起こしたのですか・・・?」

「いえ、違うんです・・私のことです・・・」

 ルナマリアに問いかけられて、ナトーラは自分の悩みを打ち明けた。

「私、艦長に向いていないんです・・連合で艦長をしたのも、上の命令でやらされただけで・・そもそも親の七光りで、軍でも上に上がれたってだけで・・今回もみなさんに的確な指示を送れませんでしたし・・」

「そのことですか・・そんなに気にすることではないと思いますよ。」

 ナトーラに悩みに対して、ルナマリアが微笑みかけてきた。

「ここにいるのはいろいろな軍や武装組織に所属していた人ばかり。それにシンはけっこう言うことを聞かない性格で、上官はみんな手を焼かされていましたよ・・」

 ルナマリアはナトーラに言いかけて、訓練生時代を思い出していく。この頃からシンは反発を見せることが多く、上官に反抗的な態度を取って、言うことを聞かせるのが難しかった。

「こんな面々でうまくやっていけているだけでも、奇跡といえますよ・・だから、深刻になって気に病むことはないですよ・・」

「そうなんですか?・・私、やっていてもいいのでしょうか・・・?」

「いいんじゃないかな。リンさんもみんなも落ち着いていますし・・」

 戸惑いを見せるナトーラに、ルナマリアが笑みを見せた。彼女の言葉を受けて、ナトーラは落ちつきと笑みを取り戻した。

「まぁ、シンは勝手なところも多いですけど、そんなに気にしなくても大丈夫です。私もシンのそういうところには慣れてますから・・」

「ルナマリアさん・・・」

「シンもアルバさんもリリィさんも、エース級の実力を持っていますし、リーダーシップもありますから・・」

 ルナマリアに励まされて、ナトーラは小さく頷いた。

 そのとき、2人のいる艦長室に内線通信が入った。相手はリンだった。

「はい。どうしました、リンさん・・?」

“シンくんが戻ってきたよ。フリーダムとジャスティス、キラくんとアスランくんも呼ばれて行ったみたいだけど、3人とも誘いを断ったそうだよ。”

 ナトーラに向けて、リンが報告をしてきた。

「そうですか・・よかった・・・」

「シンなら大丈夫ですよ・・もうシンは、自分で戦うことを選んでいるんですから・・・」

 安心するナトーラにルナマリアが微笑んだ。それからしてシンのデスティニーがアテナに戻ってきた。

 

 地球の大気圏のさらに外回りの宇宙で、不穏な動きが起こっていた。

 地球を囲むように衛星が点在していた。それも同型のものが数機、地球の周りを等間隔で置かれていた。

「何だ、あの衛星は・・・!?

 衛星を発見したパイロットたちが、衛星に対して警戒を感じていく。

「探知される識別信号がどれも一致しない。連合ともザフトとも、オーブとも・・」

「まさかあれは、ヴァルキリーのものか・・・!」

「お前は部隊に連絡しろ・・オレがもう少し近づいて調べてみる・・!」

「分かった・・・!」

 危機感を覚えたパイロットたちが別れて、衛星の本格的な調査に乗り出そうとした。

 だがそのとき、彼らの乗っていたMSが突然、飛び込んできたビームに貫かれて爆発した。

「絶対に破壊させはしない・・」

「これが、理想郷を築くために必要なのだから・・」

 撃墜されたMSを見据える声の主。衛星にはスナイパーが防衛線を敷いていた。

 

 シンの帰還から少し遅れて、キラとアスランもアークエンジェルに戻ってきた。レイアとの話し合いのことをキラたちから聞いて、ラクスは表情を曇らせた。

「ヴァルキリーは、あくまで武力排除を進めるようですね・・」

「ヴァルキリーもデュランダル議長のデスティニープランと違う形の、管理する世界を作ろうとしている・・自分たちの考えに沿わないものは排除されていく世界を・・」

 ラクスとキラの口にした言葉に、アスランたちも深刻さを感じていく。

「平和や未来は誰かに委ねてばかりいても、誰かが勝手に決めていいものでもない。自分自身で決めていくものなんだ・・」

「自分たちの掲げる理想のために、多くの命が犠牲にはさせられない・・オーブとしても、ヴァルキリーの築く理想郷には賛同できない。」

 アスランとカガリもヴァルキリーと対峙する意思と姿勢を見せる。

「だが、問題はヴァルキリーだけじゃないぞ。」

 そこへバルトフェルドがマリューとともにやってきた。

「フェイス。今はヴァルキリーに敵対しているが、オレたちやザフトの味方というわけでもない。むしろオレたち全員敵視されてる・・」

「それにフェイス自体の性能も厄介だわ。武器や攻撃力だけでなく、機体から発せられる特殊な光も・・」

 バルトフェルドに続いてマリューも言いかける。

「あの光の中に入ったとき、何もかもが干渉し合う状態になった・・MSや体という壁をすり抜けた、精神同士の対話のよう・・互いに筒抜けで、姿を認識することができたし、直に会話もできた・・」

「うん・・心で話をしているみたいだった・・・」

 アスランとキラがフェイスの光に包まれて体感した精神世界での体験を口にする。

「フェイスはパイロットの精神力にも大きく影響する。まさに体を通して出る力ってヤツだな・・」

「フェイスに乗ると負担が重くのしかかるのも、そういった影響があるからかもしれない・・ザフトも封印しようとしていたのも頷ける・・」

 バルトフェルドの言葉にアスランが続ける。話を続けるほどに、彼らはフェイスの特異の力を痛感していく。

「まずはヴァルキリーの行動を止めるのが先です。フェイスはヴァルキリーを追って行動していますので、それ以外の場所で攻撃を仕掛けることは今のところはないでしょう・・」

「そのヴァルキリーも、次に何を仕掛けてくるか分からない・・警戒に警戒を重ねる必要が・・」

 ラクスとマリューが打つ手を模索していたときだった。彼らのいるアークエンジェルから、プラント付近の宇宙で待機していたエターナルから通信が入った。

「どうした、ダコスタくん?ヴァルキリーの動向はつかめたのか?」

 応答したバルトフェルドに、彼の代わりにエターナルで指揮を執っているマーチン・ダコスタが呼びかけてきた。

“ヴァルキリーの動きを探っていた調査隊からの連絡が途絶えました・・通信の最後の言葉が、“衛星”です・・”

「衛星・・もしかしたらヴァルキリー、とんでもないことをやらかすかもしれないぞ・・」

 ダコスタの報告を聞いて、バルトフェルドが緊張を覚える。「衛星」という単語から、キラたちも危機感を感じていた。

「引き続き調査を続けろ。ただし襲撃されたら中断して離脱するように。」

“了解です、隊長!”

 ダコスタに指示を送って、バルトフェルドは通信を終えた。

「ヤツらの次の手は、衛星による攻撃だ。それも1機だけとは言えないぞ・・」

「ヴァルキリー、衛星兵器を使って、地上を攻撃するつもりだろう・・それも軍の基地や施設を標的にして・・・!」

 バルトフェルドの言葉にカガリが続ける。キラとアスランも真剣な面持ちと決心を見せていた。

「上がりましょう、僕たちも。あんなもので攻撃されたら、確実に関係のない人たちを巻き込んでしまう・・・!」

「ザフトもシンたちも気づいて、行動に移すだろう。共闘にならなくても、ヴァルキリーを止めるという目的は同じのはずだ・・」

 2人の言葉にラクスたちも頷いた。

「行きましょう、宇宙(そら)へ・・」

 キラが呼びかけ、彼らは宇宙に上がることを決意した。

 

 同じ頃、リンはデスティニーのチェックを進めていた。コンピューターを操作する彼女に、シンとアルバがやってきた。

「すみません、オレの代わりに・・・」

「パイロットがうまく乗りこなせるようにするのが私の仕事のうちだからね。それに、デスティニー専用のユニットの調整もあるからね。」

 照れ笑いを見せるシンに、リンが作業を進めながら答える。

「デスティニー専用・・?」

 彼女の言葉にシンが疑問符を浮かべる。

「フリーダムとジャスティスが宇宙での戦闘で使ったユニット“ミーティア”。元々それに対抗して設計されたものだったんだけど、手が回らなくて開発になっていなかったのよ・・」

「それがハイパーデュートリオンのエネルギーと連動して使用するレーザーユニット“フェイト”か・・」

 リンの説明にアルバが続ける。

「フェイト・・それを今、リンさんが作っているんですか・・?」

「もう完成はしてるよ。今はデスティニーに合わせる形で調整してるだけだから。」

 シンの問いかけにリンが答える。

「フェイトはデスティニーが基本使うことになるから、使い方は覚えておいたほうがいいよ。使い方を間違うと自爆とか、味方まで巻き添えにするって最悪の事態を起こすことになっちゃうから・・」

 リンからの忠告を受けて、シンが緊張を覚える。自分の扱い方が、倒すべき相手だけでなく味方にまで危害を加えることになりかねないと、彼は痛感していた。

 リンはコンピューターを操作して、画面にフェイトの映像を映し出した。

「レーザーユニット、フェイト。ドッキングしたMSのエネルギーをチャージして、強力なレーザー砲撃を放てる武装だよ。その仕様で扱えるのは、核エンジンみたいな半永久エネルギー式のMSだけ。」

「デスティニーの他にフューチャーやフリーダムでも使えるってことか・・」

「チャージ次第じゃ戦艦の陽電子砲を上回ることも不可能じゃないよ。でもさすがにジェネシスやレクイエムまではいかないけどね。それとチャージまでに時間がかかるのも問題だね・・」

 リンからフェイトの説明を聞いて、シンが真剣に頷いていく。

「使いどころは基本は私やナトーラちゃんが見定めることになるけど、シンくん、君に任せることもあるからね・・」

「みんなを生かすためにフェイトを使うなら、オレはお前をサポートしても構わない・・」

 リンとアルバに呼びかけられて、シンは真剣な面持ちを見せて頷いた。

 

 その頃、ルナマリアはアテナから外の空を見上げていた。彼女はヴァルキリーやフェイスと戦おうとしているシンを気にしていた。

「シンくんのことを考えてるんでしょ?」

 突然声をかけられて、ルナマリアが動揺を見せる。彼女に声をかけてきたのはリリィだった。

「あなたも私と同じ。私がアルバのために頑張ろうって思っているみたいに、あなたもすっかりシンくんにひかれてるみたいね。」

「違います!私、そんなんじゃ・・!」

 リリィが投げかけた言葉に動揺を隠せなくなるルナマリア。彼女の様子を見て、リリィが笑みをこぼした。

「みんな自分で自分の理由を見つけている・・私たちも、あなたたちも・・」

「リリィさん・・・」

「私とアルバは生きるために戦っている・・私たちが死んだら、私たちのために死んでいったみんなが報われなくなってしまうから・・」

 戸惑いを見せるルナマリアの前で、リリィが自分たちのことを語っていく。

「あなたたちは今、何のために戦っているの・・?」

 リリィが真剣な面持ちを見せて、ルナマリアに問いかける。するとルナマリアが物悲しい笑みを浮かべた。

「シンは、戦いのない本当の平和を探しているんです・・誰もが悲しい思いをしないで、平和に暮らせる世界を・・」

「それがデュランダル議長のデスティニープランによる世界だった・・でも議長が死亡して、プランは破綻した・・」

「はい・・でもシンが言うには、自分で決めた時点で、議長の決めた世界に反逆したことだったって・・」

 ルナマリアがリリィにシンのことを話していく。

「それからシンは本当の平和を探してる・・オーブやラクス、アスランたちが求めているのとは違う形の・・」

「本当の平和・・誰もが求めながら、誰も実現できていない・・先の見えない戦いになりそうだよ・・」

「分かっています・・私もシンも・・平和のために戦おうと、運命を背負い、運命を切り開く・・」

「運命を背負い、切り開く、か・・シンくんの乗るデスティニーらしいね・・・」

 ルナマリアの話と決意を聞いて、リリィは微笑んで頷いた。

「アルバもシンくんも無鉄砲なところがあるからね。私たちがしっかりしないとね。」

「そうですね・・アハハ・・」

 リリィに言いかけられて、ルナマリアが照れ笑いを見せた。2人の気分はだんだんと和らいでいった。

「リリィさん、ルナさん、大変です!」

 そこへミルが慌ただしく駆け込んできて、ルナマリアとリリィに声をかけてきた。

「どうしたの、ミル、そんなに慌てて・・・?」

「大変なことが分かったんです!・・ヴァルキリーが・・!」

 リリィが声をかけると、ミルが報告をする。彼女の言葉を聞いて、ルナマリアとリリィが笑みを消した。

 

 宇宙に点在している衛星のことを、ナトーラやリンたちも察知していた。シンとアルバ、ルナマリアとリリィが彼女たちのいる指令室に駆けつけた。

「またヴァルキリーが動き出したのか・・・!」

 シンが声をかけると、リンが真剣な面持ちで頷く。

「地球とプラントの外の宇宙にそれぞれ数機の衛星が配備されている。形状からして、これは間違いなくビーム砲だよ・・」

「宇宙から強力なビームを放って、地上を攻撃・・」

 リンに続いてナトーラも説明しようとしたときだった。

 突然アテナの艦体に揺れが起こった。シンたちは踏みとどまり、ナトーラたちはふらつきながらも椅子などそばにあるものにしがみついて揺れに耐えた。

「何だ、今の揺れは・・!?

 シンが声を荒げたところで、揺れが治まった。リンがすぐにコンピューターを操作して、状況を確認する。

「この揺れ・・地震の揺れではない・・どこかで爆発が起こったか・・・!」

 アルバも現状を把握しようとして警戒を強める。すると現状を確認したリンが緊迫を募らせる。

「分かりましたか、リンさん・・!?

「えぇ・・空から光が落ちてきて、地球連合のA68基地が、壊滅したわ・・・!」

 ナトーラの声に、リンが緊迫したまま振り向く。彼女の報告を聞いてシンたちも緊迫を感じていった。

 

 地球の大気圏の外に点在している衛星。その1機が砲撃を行い、地球連合の基地の1つを壊滅させた。

 戦艦の陽電子砲をも上回る威力と出力を見せつけた衛星。それはヴァルキリーが密かに展開させていた衛星兵器「オーディン」だった。

「オーディン、性能、出力、威力、どれも問題ありません。目標からの誤差も修正不要です。」

 バーンが告げた報告を聞いて、レイアが不敵な笑みを浮かべた。

「これがヴァルキリーの目指す理想郷を築くための切り札、オーディンだ。私欲に武力を振りかざす愚か者たちを一掃するための剣だ。」

「このオーディンを一斉に発射して、基地、軍事施設の全てを世界から排除するのですね。」

「1度発射されれば、全てを防ぐことは不可能だ。愚か者の抵抗に阻まれることは皆無となる。」

 バーンの言葉に答えて、レイアがさらに笑みをこぼす。

「問題はチャージまでに時間を要することだ。チャージが完了するまで、我々がオーディンを防衛しなければならない。」

「今の発射で他の軍が阻止するために行動を起こすでしょう。ですが我々がいる限り、ヤツらが発射阻止を成功させるのは不可能です。」

 レイアとさらに言葉を交わしていくバーン。

「私はバーン・アレス。レイア様とヴァルキリーのため、理想郷を築くためだけに存在しているのです。あなたのために命を捧げられるなら、私は本望です。」

「その言葉、その意思、感謝する。だがバーン、お前はヴァルキリーに必要な存在。簡単に命を投げ打つようなことは許さんぞ。」

「申し訳ありません、レイア様。軽率な発言でした・・」

「いや、気にしなくていい。とにかくバーン、お前は生きろ。ヴァルキリーのために、世界のために。」

「レイア様が申されるならば、私はその命令を遂行するだけです・・」

 バーンとレイアがヴァルキリアの指令室のモニターに映し出されているオーディンを見据えた。オーディン全機は次の発射に向けてエネルギーのチャージを行っていた。

「この先にヴァルキリーの理想郷がある・・そのために私は戦い、敵を全て排除する・・」

 自分の意思を呟くバーンに、レイアは喜びを感じながら信頼を寄せていた。

(バーンは我々ヴァルキリーのための戦士として存在している。スバル・アカボシが貫いていた殺さずの信念の破綻が、バーンという人格を生み出した大きな要因となっている。)

 レイアがバーンのことを、スバルのことを考えていく。

(どんな理由であっても傷つけること自体が平和を遠ざけると思っていたスバル。だがその信念は、我々が少し策を練っただけで簡単に壊れた・・)

 バーンのそばを後にして、レイアはスバルが絶望した瞬間を思い浮かべていた。

 スバルのパイロットとしての高い能力に目を付けたレイアは、彼をヴァルキリーに加えようと策を企てた。自分の身を守るための殺しをさせたのである。

(正当防衛になることでも、傷つけること自体を拒絶していたのが、スバル・アカボシの信念。その信念が破られることは、スバルの人格そのものを殺すことと同義。その崩壊が新たな人格、バーン・アレスを生み出すこととなった。)

 廊下を歩くレイアが、スバルがバーンになった経緯を思い返していく。

(スバルはもはや存在しない。ヴァルキリーの戦士、バーン・アレスが存在するのみ。)

 バーンがヴァルキリーの目指す理想郷を実現させるキーパーソンとなると、レイアは確信していた。

(任せきりにするつもりはないが、バーンの力と意思は信頼している・・)

 ヴァルキリアの指令室に赴いたレイアが、バーンへの信頼を胸に秘めて指示を出した。

「オーディンのエネルギーチャージを急がせろ!我々に刃向かう者たちが、すぐにオーディンの破壊に乗り出してくるぞ!」

 

 オーディンが放った鉄槌の閃光に、キラたちも危機感と決意を感じていた。

「やはり宇宙(そら)から狙ってきたか。」

「衛星兵器からの強力なビームで、地球とプラントの基地と軍事施設を一気に破壊する。それがヴァルキリーの次の、最大の一手・・」

 バルトフェルドとマリューがヴァルキリーの策略を語っていく。

「宇宙に上がろうというオレたちの判断は間違っていなかった・・すぐに止めないと、確実に世界が混乱する・・・!」

 アスランの呼びかけにキラたちが頷く。

「すまない・・私はオーブの総指揮を務めることになる・・アカツキもフェイスとの戦闘で損傷していて、衛星が次の発射を行うまでに修復が間に合いそうにない・・」

 カガリがキラたちに謝意を示す。オーブの防衛を優先するためにオーディンの破壊に向かえない彼女に、アスランが手を差し伸べてきた。

「カガリにはカガリのすべきことがある。衛星はオレたちが必ず止めてみせる。」

「アスラン・・みんな・・すまない。任せたぞ・・」

 アスランに励まされて、カガリはオーブの指揮と防衛に専念することを決め、彼らに世界の未来を託すことにした。

「アークエンジェルは衛星破壊のため、宇宙に上がります。その後エターナルと合流。衛星の破壊に向かいます。」

「私とバルトフェルド隊長は、合流次第エターナルに戻ります。」

 マリューが指示を出し、ラクスも言いかける。準備を整えたアークエンジェルが飛び上がり、エターナルの待つ宇宙に向かった。

 

 同じ頃、クレストにいるソワレたちも、宇宙への発進に備えていた。

「僕たちも行きましょう、艦長。たとえ軍や基地に限定して狙い撃ちしてくるにしても、あのようなものに撃たれたら確実に火の海になります・・!」

「アークエンジェルも発進するようです。宇宙ではエターナルも衛星撃破に乗り出すようですし。」

 ソワレとマリアがガルに声をかける。ガルはクレストを発進させる前に、アテナにいるルナマリアとの連絡を取った。

「ルナマリア、我々は宇宙に上がる。お前とシンはどうする?」

“私たちはアテナに残ります。アテナは少し遅れて発進しますので、ビンセント隊長たちは先に行ってください。”

 呼びかけるガルに、アテナにいるルナマリアが答える。

「そうか。ならば我々は先に行く。お前たちも気を付けてくれ。」

“分かりました、艦長・・そちらも気を付けてください・・”

 互いの安否を信じて、ガルはルナマリアとの通信を終えた。

「時間を取らせたな。改めてクレスト発進だ。」

 クルーたちに指示を送るガル。マリアたちが発進に備える中、ソワレがガルに疑問を投げかけた。

「シンくんとルナマリアさんをこのまま向こうに残していいんですか?裏切る、または向こうに洗脳される可能性も・・」

「かもな。だがその危険があったなら、デュランダル議長がデスティニープランを導入しようとした時点で起こっていたことだろう。」

 ソワレから疑念を向けられるも、ガルはシンとルナマリアを信じていた。

「今は我々のすべきことに専念することだ。プラントを、世界を守ることが、我々の使命だ。」

「艦長・・分かりました・・まずは僕たちの戦いをしてからです・・」

 呼びかけるガルに敬礼を送ってから、ソワレも発進に備えた。

「クレスト、発進!」

 ガルの号令とともに、クレストが上昇して地球から宇宙に向かっていった。

 

 オーディンによる地球連合基地への狙撃に、ジンとカナもヴァルキリーの仕業だとすぐに気づいた。

「スバル・・レイア・・あんなマネを・・・!」

 ジンが憤りを感じて、フェイスに向かっていく。

「私たちも宇宙に上がるんだね・・スバルくんを・・ヴァルキリーを倒すために・・・」

「あぁ・・あんなもののために、オレは戦っていたわけではない・・・」

 カナが言いかけると、ジンが低い声音で言い返す。

「アイツらが作ろうとしているのは、世界にあるべき平和ではない・・むしろ世界を狂わせるものでしかない・・・!」

 ジンが言いかけてフェイスのコックピットに乗り込んだ。

「その敵を倒さない限り、世界に安らぎは戻らないんだ・・・!」

「ジン・・・」

 敵への憎悪と真の平和への願いを秘めるジンに、カナは戸惑いを覚える。

 自分が知っているだけでも、ジンは大切な人を理不尽に奪われている。彼が受けた悲劇を他の人に味わわせたくない。

 カナはジンの目指す平和に向かうことを心に誓っていた。

「ジン、私も行くよ・・私もヴァルキリーのやり方に納得してない・・絶対に止める・・!」

「勝手にしろ・・オレはオレの戦いをするだけだ・・オレはスバルとヴァルキリーを倒す・・」

 ジンと声を掛け合ってから、カナもブレイズに乗り込んだ。

「ジン・シマバラ、フェイス、行くぞ!」

「カナ・カーティア、ブレイズ、ゴー!」

 ジンのフェイス、カナのブレイズが宇宙に向けて飛び上がった。

「ついてくるならフェイスから離れるな。ブレイズだと自力で大気圏を突破できない・・」

「うん・・ありがとう、ジン・・・」

 ジンの呼びかけにカナが感謝の言葉を返す。フェイスがブレイズをつかんでスピードを上げて、大気圏を突破した。

 

 

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