GUNDAM WAR Violent Emotion-

PHASE-04「ソワレ」

 

 

 オーブへの侵攻と攻撃を行っているヴァルキリーの姿を、身を潜めていたジンとカナも目にしていた。

「レイア・・スバル・・ついに出てきたか・・・!」

 ヴァルキリーへの怒りを感じるジン。立ち上がった彼を、カナが目を向ける。

「行くんだね、ジン・・体は大丈夫?・・あの機体に最初に乗った後、意識を失ってしまったけど・・」

「もう2度とそうならない・・オレは敵を倒すまで、絶対に死なない・・・」

 心配の声をかけるカナに、ジンが低く告げる。

「今あそこにいるのはヴァルキリーにオーブ・・全てがオレの敵だ・・」

「ジン・・・」

「オレは絶対にヤツらに屈しない・・平和を壊す敵は、全てオレの手で叩き潰す・・・!」

 戸惑いを見せているカナの前で、ジンが怒りを募らせていく。

「オレは行く・・ここで全部、終わらせる・・・!」

「ジン、待って・・私も行く・・・」

「なぜオレについてくる?・・オレに殺されても構わないとでも言いたいのか・・?」

「構わないよ・・ジンとどこまでもついていくことを決めたから・・じゃなかったら、ジンを助け出してヴァルキリアから逃げ出したりしなかった・・」

 疑問を投げかけてくるジンに、カナが自分の気持ちを正直に言う。今のカナはジンに心を預けていた。

「勝手にしろ・・オレはオレの戦いをする・・連合もザフトもオーブも、オレを裏切ったヴァルキリーも、全てオレが倒す・・・!」

 ジンはカナに言いかけて、フェイスに乗り込んだ。カナは戸惑いを感じながら、ブレイズに乗り込んだ。

「ジン・シマバラ、フェイス、行くぞ!」

「カナ・カーティア、ブレイズ、ゴー!」

 ジンとカナがフェイスとブレイズで発進して、オーブに向かった。

 

 ヴァルキリーの猛攻に立ち向かうキラ、アスラン、ソワレ、マリア。MS戦が1対1となったことで、戦況は拮抗していた。

「まずい!このままではオーブの被害が増すばかりだ!」

「一気に決める!これ以上撃たせない!」

 危機感を覚えるアスランと、戦意を強めるキラ。ヴァルカスと交戦するフリーダムのコックピットで、キラの中で何かが弾けた。

 視界がクリアとなり、五感が研ぎ澄まされるキラ。彼とフリーダムの発揮する力がさらに高まった。

「ぐっ!」

 ヴァルカスがフリーダムの振りかざしたビームサーベルを受け止めた瞬間、バーンがフリーダムの力が上がったことを直感する。ヴァルカスがビームサーベルを振りかざして、フリーダムを引き離す。

「これが最高のコーディネーター、キラ・ヤマトとフリーダムの本当の力か・・」

 キラとフリーダムの力を改めて痛感するバーン。

「だがたとえどのような力を振るおうと、我々ヴァルキリーを阻むことはできない。」

 バーンが言い放ち、ヴァルカスが2本のビームサーベルを組み合わせて1本のビームソードとした。発せられていたビームの刃が大きくなり、出力も上がっていた。

「愚かな武力とともに消えるがいい、キラ・ヤマト。」

 ヴァルカスがビームソードをフリーダムに向けて振りかざす。フリーダムは素早い動きでビームソードをかわし、そのままヴァルカスの懐に飛び込む。

「甘い。」

 フリーダムが振りかざしたビームサーベルを、ヴァルカスが足から発したビームブレイドで弾き返す。フリーダムとヴァルカスが互いに離れて距離を取る。

 キラがヴァルカスを見据えて、フリーダムが全ての銃砲を構える。その銃口からビームが一斉発射される。

 ヴァルカスがそのビームに対して、ビームソードを振り下ろす。ビームソードはフリーダムのビームを一蹴して、空や海に軌道をそらした。

 だがヴァルカスのビームソードにわずかながら損傷がつけられた。フリーダムのビームがヴァルカスのビームソードを押し込んでいた。

(ヴァルカスでも直撃されれば無事で済まないか・・受けることは得策ではない・・)

 バーンがキラとフリーダムに対する警戒を強める。ヴァルカスは損傷しているビームソードをまた手にしていた。

 そのとき、ヴァルカスのビームソードが突然飛んできたビームに弾かれた。ビームはフリーダムが放ったものではない。

(何だ!?・・損傷していたとはいえ、ヴァルカスの武器を弾くとは・・!)

 この突然のことにバーンが驚愕を覚える。キラもレイアも当惑を感じていた。

 そこへ1機のMSが駆けつけてきた。MSは背中からまばゆい光の翼を広げていた。

「あれは・・・!?

「フェイス・・強奪されたフェイスだ・・・!」

 キラとアスランが声を上げる。交戦が行われているオーブの空に現れたのは、ジンの乗ったフェイスだった。

「何だ、あの機体は?ザフトかオーブの新しいMSか?」

 ゼビルがフェイスに対して疑問と警戒を覚える。ヴァルカスのビームソードを弾いたのは、フェイスがストライカーから放ったビームだった。

「スバル・・まずはお前を・・!」

 フェイスに乗っていたジンが、バーンに怒りの矛先を向ける。

「ミリィを殺したお前を、オレは許すつもりはない!」

 激高したジンが言い放ち、フェイスがストライカーからビームの刃を出してヴァルカスに向かっていく。

「くっ!」

 バーンが毒づき、ビームソードを失ったヴァルカスはフェイスの攻撃をかわすしかなかった。

「我々に楯突くというのか・・何者か知らないが、敵と認識して排除・・」

「お前だけは絶対に許さないぞ、スバル!」

 無表情のまま呟くバーンに、ジンが怒号を放ってきた。彼の声を耳にして、バーンが目つきを鋭くした。

「その声、ジン・シマバラか。そのような機体に乗って、再び我々に刃向かうか。」

 バーンがジンを改めて敵と認識して、視線を移す。その先には、遅れて駆けつけたブレイズの姿もあった。

「ブレイズに乗っているのはカナ・カーティアか。いずれにしろ、我々が退くことは・・」

「いや、ここは撤退する。」

 戦闘を続けようとしたバーンに、レイアが声をかけてきた。

「このままオーブを撃破しないまま引き下がるのですか、レイア様?」

「お前はヴァルキリーが理想郷を築くための鍵だ。お前を失うわけにはいかないのだ。」

 疑問を投げかけるバーンにレイアが呼びかける。

「そのお言葉、私にはもったいないです・・」

「ともかくオーブから撤退する。そして我々はあの準備に備える。」

 謝意を示すバーンと、彼らに指示を送るレイア。ヴァルカスたちがオーブから引き下がろうとする。

「逃げるな!」

 ジンが叫び、フェイスがヴァルカスを追っていく。

「ジン・シマバラ、お前を葬るのは次に会ったときにしてやる。」

 バーンがジンに言いかけて、ヴァルカスが胸部のビーム砲「グラディス」を放つ。

「誰が逃げていいと言った!」

 ジンがさらに言い放ち、フェイスが2本のストライカーを突き出して、グラディスのビームを突き破った。だがそのときにはヴァルカスたちはオーブから離れていた。

「絶対に野放しにしない・・絶対に・・・!」

 バーンやヴァルキリーに対する怒りを募らせていくジン。そして彼は拭えないその怒りをオーブ、フリーダムたちに向けた。

「スバルたちもだが・・お前たちもオレの敵だ・・・!」

 ジンが声を振り絞り、フェイスがフリーダムたちに振り返る。

「ミナを奪い、オレの全てを奪ったお前たちも、許してはおかない!」

 ジンが言い放ち、フェイスがストライカーを構えてフリーダムに向かっていく。キラがフェイスに対して注意を強め、フリーダムが迎え撃つ。

「気をつけろ、キラ!それはフェイスだ!」

 アスランが呼びかけた直後に、フェイスのストライカーとフリーダムの2本のビームサーベルがぶつかり合う。4本のビームの衝突で、激しく火花を散らす。

「まずはお前だ、フリーダム!お前はオレが倒す!」

 ジンが激高を強めて、フェイスがフリーダムを押し切る。押されたフリーダムだが、すぐに体勢を整えて距離を取る。

「逃がすか!」

 ジンが敵意を強めて、フェイスがフリーダムを追撃する。

「やめろ!君の相手はヴァルキリーじゃないのか!?

 キラが声をかけるが、ジンは聞こうとしない。フェイスが振りかざすストライカーを、フリーダムは素早くかわしていく。

「よけるな!」

 ジンが怒りを募らせて、フェイスがさらにストライカーを突き出していく。回避を続けるフリーダムに、フェイスが執拗に、強引に手を伸ばしていく。

 そしてストライカーの1本が、フリーダムの左足の先をわずかにかすめた。

「くっ!」

「キラ!」

 うめくキラと声を上げるアスラン。ジャスティスがフリーダムを援護しようと、フェイスに向けてビームブーメランを投げつける。

 フェイスが左手のストライカーを振りかざして、ビームブーメランを弾く。

「お前も・・お前もオレの敵だ!」

 ジンがアスランに対しても敵意を向けて、フェイスがジャスティスに飛びかかって、ストライカーを振りかざす。ジャスティスもビームサーベルを振りかざして、ストライカーとぶつけ合う。

 ジャスティスがその瞬間にビームブレイドを発した右足を振りかざす。

「そんなもので、オレがやられるか!」

 ジンが言い放った瞬間、フェイスからまばゆい光が霧のようにあふれ出した。光の影響でジャスティスが攻撃をさえぎられて突き飛ばされた。

「こ、これは!?

「アスラン!」

 驚愕するアスランと、声を上げるキラ。フェイスからあふれた光が、彼らのいる空に広がった。

 ジンの意識は光の中にあった。彼の視界にはコックピットの中にいるはずのキラたちの姿が入ってきていた。

「これは・・・!?

「ここにいる全員が筒抜けに・・これが、フェイスの能力なのか・・!?

 自分たちに起こっていることに、キラもアスランも緊迫を感じていた。

 2機のニュートロンジャマーキャンセラーによって莫大なエネルギーを発揮するフェイス。あふれ出すそのエネルギーは、人の精神への干渉という影響を及ぼす。

 フェイスのエネルギーによって、ジンとキラたちは互いの姿を認識した。

「お前が、フェイスに乗っているのか・・フェイスはパイロットへの負担が大きすぎる・・平気なのか・・!?

「お前たちは、オレの全てを奪った・・オレはお前たちを絶対に倒す!」

 問いかけるアスランに、ジンが怒りをあらわにする。

「もうやめろ!君が立ち向かっていたのはヴァルキリーだったんじゃないのか!?

「ヴァルキリーだけではない!お前たちもオレの敵!倒すべき相手だ!」

 キラが呼びかけるが、ジンは怒りを見せるだけである。

「僕たちが戦う理由はない!君だって平和を望んでいるんじゃないのか!?

「平和を壊そうとしているお前たちが、そんなことを言うのか!?

「平和を壊そうとしている・・僕たちが・・・!?

「お前たちのしたことが、オレの全てを狂わせた!世界の敵を全て叩き潰して、世界に本当の平和をもたらす!」

 キラの言葉をはねつけるジン。ジンの激情で彼らの精神リンクが途絶えた。

 

 オーブに向けて航行していたアテナ。その艦長の席に着くことになったナトーラだが、不安を拭えないでいた。

「初陣っていうのは、誰だって緊張しちゃうもんだよ。」

 うつむいているナトーラに、リンが声をかけてきた。

「心配しなくても十分やれるって。アルバくんもリリィちゃんも強い上にしっかり者だから。それとシンくんとルナちゃんもね。」

「でも、私は強くないですし、しっかりもできていません・・あなたやみなさんのほうがリーダーシップに優れている・・自分が情けないです・・」

 リンが言葉を投げかけても、ナトーラは自分に自信を持つことができない。

「そんなことないって。ナトーラちゃん、私たちのところに来てからずいぶん勉強してたじゃない。このアテナのことだけじゃなくて、アテナに導入しているMSのこともね。」

「リンさん、知っていたんですか・・・!?

「コソコソ盗み見しちゃったみたいでゴメンね。あまりに熱心だったから声をかけられなくて・・」

 動揺を見せるナトーラに、リンが苦笑いを見せる。リンはすぐに落ち着きを取り戻した。

「だから、自信ないとか情けないとか、誰も思わないって。思い切りやっちゃって。もし判断ミスってことになっても、私たちは自力でフォローできるから・・」

「リンさん・・・分かりました・・私も今度こそ、迷いを捨てて行かせてもらいます・・」

 リンに励まされて、ナトーラが気を引き締める。指令室にいるクルーたちに目を向けてから、彼女は口を開いた。

「アテナ、オーブに向けてこのまま前進。パイロットは、発進に備えて待機していてください。」

 ナトーラの指示を受けて、クルーたちが微笑んで頷いた。アテナはオーブに向けて速度を上げた。

 その艦内のドックにて、シンはデスティニーのコックピットにいた。彼はリンが備えたデスティニーの機能と性能を確認していた。

“これでよかったの、シン・・?”

 インパルスにいたルナマリアが通信でシンに呼びかけてきた。

“オーブは、シンにとって受け入れたくないものなんでしょ?・・それなのに・・”

「ルナ・・確かに受け入れたくないさ・・でもそれ以上に、ヴァルキリーをほっとくわけにはいかない・・」

 戸惑いを感じながら、シンがルナマリアに答えていく。

「それに、フェイスを奪ったヤツのことが気になるんだ・・アイツが、ヴァルキリーだけじゃなく、世界全てを憎んでいるアイツが・・」

 シンの脳裏にジンの姿がよぎってきた。

「見境なしに攻撃して世界をムチャクチャにするのは許せない・・だけど、アイツもオレと同じ体験をしてるんだ・・しかもそれを与えてしまったのは、オレたちなんだ・・」

“シン・・・”

「だからアイツはオレが止める・・オレ自身が答えを出すためにも・・・」

 戸惑いの声を返すルナマリアに、シンは改めて決意を口にした。

“オーブ領域に入ったぞ。戦闘が行われてるが・・”

 そこへアルバの声が入ってきた。シンがデスティニーのカメラの視点を切り替えて、オーブの空域を確かめる。

「あれは・・・!」

 シンが交戦している空域を見て声を上げる。フリーダムたちと交戦しているのはヴァルキリーではなく、ジンの乗るフェイスだった。

「フェイスがキラたちと・・ヴァルキリーはどうしたんだ・・!?

“ヴァルキリーは介入したフェイスの攻撃を受けてオーブから撤退した模様です。今はフェイスがフリーダムたちに攻撃をしています。”

 疑問を覚えるシンに、ナトーラが状況を説明する。

「フェイス・・オレがアイツを止めないと・・・!」

“ではシンくんとアルバさんに、私たちの先陣を切っていただきます。リリィさんとルナマリアさんは、少し間を置いてから発信してください。”

 戦意を浮かべるシンに向けて、ナトーラから指示が送られる。

「相手はフェイス。少なくともフェイスをあの場から引き離さなければ・・」

「分かってる・・オレがアイツを止める・・!」

 アルバの言葉にジンが答える。アルバの乗るMS「フューチャー」がデスティニーとともに発進準備を整えた。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 アルバとシンの掛け声とともに、フューチャーとデスティニーがアテナから発進していった。

 

 フェイスの力でジンの姿と意思を痛感させられたキラ、アスラン、ソワレ、マリア。ジンはキラたちへの怒りを募らせていた。

「よせ!フェイスで戦い続ければ、お前自身の命を失うことになるんだぞ!」

「オレは死なない!敵を全て倒すまで、オレは絶対に死なない!」

 アスランが呼びかけるが、ジンは聞かずに敵意を向ける。

「敵を全て倒す・・お前はそれで、本当に世界が平和になると思っているのか!?

 アスランがジンの言動に憤りを感じていく。

「お前が憎んで、敵と見なして倒していく相手にも、家族や仲間、大切な人がいる!彼らが、お前が手にかけたことで大切な人を失うことで、第2、第3のお前を生み出してしまうんだぞ!それもお前に怒りの矛先を向けて!」

「それは間違いだ!世界を狂わせている敵をオレは倒す!敵の味方をするなら、そいつもオレの敵だ!」

「それで世界が、みんなが平和になれると思っているのか!?

「平和を壊してきたお前たちがそれを言うのか!?平和を壊す敵を倒すことで平和になる!誰にでも分かることを、お前たちは分かろうともせずに繰り返す!」

 問い詰めてくるアスランの言葉をはねつけるジン。フェイスがストライカーで射撃していくが、ジャスティスに素早くかわされていく。

「だからこれ以上間違いをさせない!お前たちをこの世界から消す!」

 ジンが言い放ち、フェイスがストライカーを組み合わせてストライクセイバーとする。ジャスティスがビームサーベルを手にして、向かってくるフェイスを迎え撃つ。

「アスラン!」

 キラが叫ぶ前で、フェイスとジャスティスがストライクセイバーとビームサーベルを振りかざす。アスランはストライクセイバーを持っているフェイスの両手を狙っていた。

 だが振り下ろされたストライクセイバーによって、ジャスティスのビームサーベルは持っていた右手ごとなぎ払われた。

「ぐあっ!」

 その激しい衝撃に襲われて、アスランが声を上げる。フェイスが体勢を崩したジャスティスへの追撃を狙う。

 アスランを助けようと、キラが集中力を高める。フリーダムの全ての銃砲がフェイスの手足と武器をロックオンした。

 フェイスに向けて銃砲を一斉発射するフリーダム。このビームの群れにジンが気づく。

「そんなものでオレを押さえつけられると思うな!」

 ジンが言い放ち、フェイスがストライクセイバーを振りかざす。ストライクセイバーの巨大な光の刃が、フリーダムのビームをなぎ払った。

 異常なほどの戦闘力を発揮するフェイスに、キラもアスランも驚愕を感じずにいられなかった。

 

 ジンのフェイスに劣勢となっていくキラとアスランに、カガリの我慢は限界を迎えた。

「これ以上は黙ってはいられない・・私も出るぞ!」

「カガリさん!」

 マリューの制止を聞かずに、カガリがアークエンジェルの指令室を飛び出した。ドックに来た彼女は、収容していたアカツキに乗り込んだ。

「カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ、行くぞ!」

 大気圏内用ユニット「オオワシ」を装備したアカツキが、アークエンジェルから発進する。キラとアスランを攻め立てるジンに、彼女が呼びかけた。

「もうよせ!そうやって一方的に攻撃を加えることが、どれだけ馬鹿げたことなのか、お前には分からないのか!?

「オーブの・・馬鹿げているのはお前たちのほうだ・・中立なんて言っておきながら、世界をムチャクチャにして!」

 カガリの呼び声にフェイスが振り返り、ジンが言い返す。

「世界を狂わせるお前たちを、オレは絶対に野放しにはしない!この手でこの世界から消してやる!」

 ジンがカガリにも憎悪を向けて、フェイスがストライクセイバーを構えてアカツキに迫る。

「まずい!逃げろ、カガリ!」

 アスランが呼びかける前で、カガリがジンから離れようとする。だがフェイスのスピードは速く、振り下ろされたストライクセイバーがアカツキの左腕と左足を切り裂かれた。

「キャアッ!」

「カガリ!」

 悲鳴を上げるカガリと、声を上げるアスラン。アカツキに追撃しようとするフェイスに、フリーダムがまた銃砲を構えた。

 そのとき、一条の刃がアカツキとフェイスの間を突き抜けた。突然のことにジンとカガリだけでなく、キラもアスランも驚きを覚える。

 オーブでの戦闘に割り込んできたのは、アルバの乗るフューチャーだった。フューチャーはビームソード「エクスカリバー」を突き出して突っ込んできたのである。

「フューチャー・・・!」

 カガリが目の前に現れたフューチャーに困惑する。

「そこのオーブのMS、今のうちに下がれ。代わりにオレたちがヤツの相手をする・・」

「あ、あぁ・・すまない・・・!」

 アルバに呼びかけられて、カガリが我に返る。アカツキがフューチャーから離れて後退していった。

「アルバ・・今度は何のつもりだ・・!?

 ソワレがアルバに向けて憤りを見せてきた。

「アイツを止めることが、おれの役目であり責任だ・・それはオレだけの考えではない・・!」

 アルバの答えを聞いて、ソワレが視線を移す。続けてオーブの空域に、シンのデスティニーが駆けつけた。

「シン!」

 アスランがたまらず驚きの声を上げる。彼はシンが無事だったことに、安堵と一緒に困惑を感じていた。

「勘違いするな・・オレはアンタたちを助けに来たわけじゃない・・アイツを止めるために、オレはここに来たんだ・・・!」

 シンがアスランたちに向けて呼びかけてきた。負傷したジャスティスを背にして、デスティニーがフェイスと向き合う。

「もうやめろ!いくらフェイスでも、これだけの相手を1度にしたら無事じゃ済まなくなるぞ!」

 シンがジンに言い放ち、デスティニーがアロンダイトビームソードを展開して構える。

「アイツ・・生きていたのか・・・!?

 自分が倒したはずのデスティニーが現れたことに、ジンは驚愕と憤りを覚える。

 そしてアテナが遅れてオーブに到着した。

 

「あれは・・・!」

 アークエンジェルに戻ったカガリが、アテナの姿を見て緊張を覚える。その指令室に向けて通信が入った。

“アークエンジェル、聞こえますか?こちらは私設航行艦、アテナ。私は艦長を務めさせていただいています、ナトーラ・エイナスです。”

 ナトーラがアークエンジェルに向けて呼びかけてきた。

“ヴァルキリーの撃退とフェイスの攻撃停止を目的に、私たちは戦闘介入をさせていただきます。くれぐれもあなたたちに力添えしていると思わないことです・・”

「アテナ・・我々オーブとアークエンジェルの今の目的も、あなたたちと同じ。ここは一時的な共闘を提案する・・!」

 ナトーラの言葉を受けて、カガリも自分たちの意思を伝えた。双方はフェイスを止めるために共闘することとなった。

 

 カガリとの対話を果たしたナトーラが、アテナ艦長として指示を出した。

「本艦は後方にて迎撃体勢のまま待機。リリィさん、ルナマリアさん、発進してください。」

「分かりました。私たちはアルバとシンくんのサポートをしますね。」

 ナトーラの指示に、MS「ソリッド」に乗り込んでいるリリィが答える。ルナマリアもコアスプレンダーに乗っていた。

「それじゃ私はアルバを、ルナマリアさんはシンくんのサポートを!」

「分かりました!任せてください!」

 リリィの声にルナマリアが答える。

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 リリィの乗るソリッドがアテナから発進した。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」

 ルナマリアもコアスプレンダーでアテナから発進する。そして続けて発進したチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体してインパルスとなった。

 リリィとルナマリアが二手に分かれて、アルバとシンの援護に向かった。

 

 対峙するシンのデスティニーとジンのフェイス。2機のMSが巨大な剣を構えて、互いに向かっていく。

 ストライクセイバーとビームソードがぶつかり合い、激しく火花を散らす。威力、出力が高くなっているストライクセイバーを受けても、デスティニーのビームソードは折れなかった。

(さすがリンさんの調整だ・・アロンダイトの刀身を高周波で振動させることで、威力を上げている・・・!)

 リンの調整で上がっているデスティニーの性能に、シン自身驚いていた。アロンダイトビームソードは、刀身が振動していて威力と耐久力を上げていた。

 ビームの破裂で攻撃が相殺されて、デスティニーとフェイスが後ろに押される。

「何度でも倒してやる・・オレは敵を野放しにはしない!」

 ジンが言い放って、フェイスがストライクセイバーを振り上げる。フェイスの胴体から再びエネルギーの光があふれてきた。

「ホントにすごいエネルギーだ・・調整を受けて戦闘力を上げたデスティニーでも、確実に倒せるとは言い切れない・・・!」

 シンがフェイスの特異な力を痛感していく。

「もうコレを使うしかないか・・・アテナ、エクストリームブラストを使うぞ!」

 シンが意を決して、アテナに呼びかける。

「シンくん、エクストリームブラストはフェイスに負けず劣らずの負担がかかるわよ。うまく使わないと勝つどころか自滅につながるわよ・・」

「分かってる・・でも、それ以外にフェイスに対抗できない・・・!」

 リンが警告するが、シンの意思は変わらない。彼の決意を汲み取って、リンも覚悟を決めた。

「分かったわ、シンくん・・エクストリームブラストの発動時間は1分間。1度使うと、もう1度使えるようになるまで10分は必要になる。使うタイミングを見誤らないで・・」

「分かってる・・やってやる・・・!」

 リンの了承と注意を受けて、シンが再び戦いに集中する。彼は調整を施されたデスティニーに新たに備わったシステム「エクストリームブラスト」の起動を敢行した。

 

 

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