GUNDAM WAR –Violent Emotion-
PHASE-05「レイア」
デスティニーの新たなるシステム、エクストリームブラストを起動させるシン。彼がスイッチとレバーを操作することで、デスティニーの胴体からエネルギーの光があふれ出していく。
エクストリームブラストは、一時的にデスティニーの戦闘力を爆発的に上げることのできるシステムである。しかし発揮される莫大なエネルギーは、パイロットであるシンにも大きな負担を強いるものである。
(くっ!・・これが、エクストリームブラストの負担か・・・!)
のしかかってくる圧力を痛感して、シンが顔を歪める。
「だけど、こうしなければ、アイツを止めることはできない!」
声と力を振り絞るシン。デスティニーがアロンダイトビームソードを構えて、フェイスに向かって飛びかかる。
「これは・・!」
光を放出しているデスティニーを目の当たりにして、ジンが緊迫を覚える。デスティニーが振りかざしたビームソードを、フェイスがストライクセイバーで受け止める。
「一気にパワーが増した!?・・まだそんな力が・・・!」
毒づくジンだが、彼の動揺はシンたちへの憎悪へと変わった。
「オレはここで立ち止まるわけにはいかない!お前たちも、スバルもヴァルキリーも倒す!」
ジンが言い放ち、フェイスがストライクセイバーでデスティニーを押し切ろうとする。シンが即座に反応し、デスティニーが左手を突き出して、掌に備わっているビーム砲「パルマフィオキーナ」を放った。
パルマフィオキーナはフェイスが持っていたストライクセイバーの柄に命中して損傷させた。
「何っ!?」
ジンが驚愕する前で、フェイスがストライクセイバーの出力の低下で、デスティニーに押し切られた。突き飛ばされたフェイスだが、すぐに体勢を整えた。
「オレは負けるわけにはいかない・・だから出ろ!出ろ!」
ビームの刃がうまく発せられなくなっているストライクセイバーに、ジンが声を振り絞って呼びかける。しかし柄の損傷しているストライクセイバーは、元の出力を発揮できない。
「出ろ!出ろと言っているのが分からないのか!」
ジンが感情的に叫ぶが、ストライクセイバーの出力は戻らない。
「オレは、ミナとミリィが死んだことを正当化させるわけにはいかない!」
ミナとミリィへの思いを強めたジン。彼の感情に呼応するように、フェイスからまばゆい光があふれ出してきた。
「ぐっ!」
デスティニーも光に巻き込まれ、シンが精神世界に入り込むことになった。精神リンクの中、彼はジンの姿を認識した。
「お前が・・フェイスに・・・!」
「お前が、オレの敵の1人・・ミナを殺した敵の1人・・・!」
緊迫を覚えるシンに、ジンが憎悪の眼差しを送る。
「オレがお前を、オレのようにした・・・!」
シンは怒りを見せているジンと自分を重ねていた。怒りに身を任せた自分がいると、シンは直感していた。
「大切な人を奪った戦争が許せなくて、力を求めて・・そのオレが、オレが味わったことをお前たちにも味わわせてしまっていた・・2度とこの悲劇を起こさないためにしていたことのはずなのに・・・!」
自分自身の過ちを痛感するシン。しかし彼はすぐに迷いを振り切った。
「だから、オレがお前を、絶対に止めなくちゃいけない!オレ自身の過去と運命に、決着をつけるために!」
「オレは止まらない!オレは絶対にお前たちを受け入れたりしない!」
決意を言い放つシンに、ジンが怒号を返す。ジンがシンにつかみかかろうとしたが、激しくなった精神力の消耗でジンは意識がもうろうとなり、同時にフェイスによる精神リンクが途切れることになった。
現実に意識が戻ったシンたち。フェイスは胴体から放出していた光が弱まって、力なく落下をしていく。
「ジン!」
そこへカナのブレイズが飛び込んできて、フェイスを受け止める。ブレイズはフェイスを連れてオーブから離れていった。
2機を追いかけようとしたシン。だがそのとき、デスティニーのエクストリームブラストの発動が終わり、胴体からあふれていた光が消えた。
「今回はここまでか・・・!」
ジンとカナを追うことを諦めるしかなく、シンは歯がゆさを浮かべる。ルナマリアの乗るインパルスがデスティニーに近寄った。
「シン、大丈夫・・・?」
ルナマリアに声をかけられて、シンが落ち着きを取り戻す。
「ルナ・・オレは平気だ・・だけど、アイツらを追えなかった・・・」
「シン・・とりあえずアテナに戻ろう・・デスティニーのチェックをしないと・・」
答えるシンにルナマリアがさらに呼びかける。
“1度オーブに着陸します。全機帰還してください。”
アテナにいるナトーラから、シンたちに向けて通信が入ってきた。
“オーブの代表やプラントの歌姫と、面と向かって話をしてやるよ。会いたくなかったら外に出なくていいからね。”
続けてリンがシンたちに声をかけてきた。
「アテナに戻ります・・」
シンが腑に落ちない気分を感じながら答える。デスティニーたちがアテナに戻っていった。
「シン・・・」
アテナに戻っていくシンを、キラとアスランは気にしていた。
「まずはあの艦の艦長の話を聞いてからだ・・」
「そうだね・・話を受けるのは、ラクスとカガリがしてくれるんだけど・・・」
アスランに声をかけられて、キラが微笑んで答えた。フリーダムとジャスティスもアークエンジェルに帰還していった。
キラたちとジンによってオーブからの撤退を余儀なくされたヴァルキリー。ジンの駆るフェイスに攻め立てられて、バーンは不愉快を感じていた。
「まさか、ジン・シマバラに私たちが、ヴァルキリーの最新鋭のMSが歯が立たなくなるとは・・!」
「確かにあのMSは脅威だった・・」
苛立ちを見せているバーンに、レイアが声をかけてきた。
「レイア様・・」
「攻撃力やスピードがあるだけではない。我々ですら異質と感じさせるものを備えていることだろう・・」
「異質・・そのようなものを、ジン・シマバラが・・・」
レイアの言葉を聞いて、バーンはフェイスに改めて脅威を感じた。
「だがたとえどのような武力や能力を引き出してこようと、我々の意思と進むべき道に何の変わりもない。ジンもあのMSも、我々の前に敗北することになる。」
「もちろんです。レイア様とヴァルキリーの理想郷は、何者にも決してけがされることはないのですから。」
レイアの言葉を受けて、バーンは平静を取り戻した。
「バーン、お前はアレの準備を進めろ。ついに理想郷を実現させるときが来た。」
「分かりました。ですがレイア様は?」
「この作戦に移る前にしておくことがある。我々ヴァルキリーに組するか敵として滅びるか、その選択を迫る。」
バーンに答えて、レイアは単独で行動を開始した。
(強さがあるならば、なおのこと理想郷の先導者となってもらわなければ。バーン・アレス、スバル・アカボシのように。)
オーブに駆けつけたアテナ。ラクス、カガリ、マリューと邂逅したナトーラは、ものすごい緊張を見せていた。
「わ、私・・アテナ艦長、ナトーラ・エイナスです・・よ、よろしく、お願いしま・・す・・!」
「艦長、緊張しすぎだって・・」
震えながら自己紹介するナトーラに、リンが苦笑いする。するとラクスが微笑んできて、ナトーラに手を差し伸べてきた。
「はじめまして、エイナス艦長。ラクス・クラインです。これからもお気軽に交流いたしましょう。」
「は、はい・・よろしくお願いします・・・!」
ラクスに優しく挨拶をされて、ナトーラが落ち着きを取り戻して、彼女の手を取って握手を交わした。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。あなたたちの援護、感謝します・・」
マリューもナトーラに微笑んで挨拶をする。
「ま、まさかこうして、あのラミアス艦長に会えるなんて・・光栄です・・・」
ナトーラがマリューに対して感動を見せる。
「私、艦長を務めるには全然情けなくて・・ラミアス艦長のように、判断力と決断力があって、さらに周りにも気を配れて・・」
「そんなことないわ。私も最初は艦に詳しかっただけで艦長になっただけだったんだけど・・みんなに助けられて、こうして艦長を続けられているのよ・・」
自分を無力と思うナトーラをマリューが励ます。
「これからもお互い、切磋琢磨していきましょう・・」
「ラミアス艦長・・・はい・・」
マリューに励まされて、ナトーラも笑顔で頷いた。
「ところで、あなたたちは何者なんですか?地球連合とザフト、ナチュラルとコーディネーター、人種も所属も問わず混在している・・」
カガリがナトーラたちに疑問を投げかけてきた。彼女の疑問に答えたのはリンだった。
「私たちは連合軍とザフト、オーブ軍、そのいずれにも組しない部隊よ。もちろんヴァルキリーとも別のね。」
「いずれにも組しない・・いつかの私たちのように、か・・」
リンの説明を聞いて、カガリが以前の戦争を思い返す。
カガリやキラ、そしてアスラン、マリューたちアークエンジェルのクルーたちは、連合やザフトと違う位置づけで、戦争や破壊を止めるために行動してきた。そのときの自分たちと今のナトーラたちの行動が全く違うと言い切れないと、彼女は思っていた。
「私たちは私たちの判断で行動していくことになります。今はヴァルキリーの戦闘停止を目的としていますが、場合によっては、あなたたちと敵対することになることも否定できません・・」
「そうですか・・分かりあい、ともに手を取り合っていくのが、幸せへの道なのですが・・・」
「手を取り合うことだけが、幸せとも限りません・・そのことを私たちは身を以て学ぶことになりましたし・・」
深刻な面持ちを見せるラクスに、ナトーラは真剣な面持ちで自分たちの意思を示す。
「そう・・・分かりました・・その最悪の事態が起こらないことを願っています・・・」
マリューもナトーラとリンに真剣な面持ちを見せた。
アテナに帰還して各々のMSから降りたシンたち。シンとアルバがアテナに残る中、ルナマリアとリリィはアテナから降りて、キラ、アスランと会っていた。
「まさかこのような形でアスランたちとまた会うことになったなんて・・・」
「そのこともだが、シンが無事だったことも、安心と一緒に驚きも感じている・・それにデスティニーも強化されていた・・・」
互いに戸惑いを見せるルナマリアとアスラン。
「調整されて組み込まれた新しい機能、エクストリームブラストです。短時間ですが、爆発的に性能を上げるというものです。」
「そうか・・だがフェイスに勝るとも劣らないエネルギー量・・コックピットにいるシンへの負担も大きいはずじゃ・・」
「それを覚悟で、シンはさっき使ったんだと思います・・そうしないと、フェイスを止められないと思ったから・・」
シンを心配して深刻さを覚えるルナマリアとアスラン。キラもシンのことを気にして戸惑いを感じていた。
「その力が、シンが今、未来を切り開こうとしている手段なんだね・・」
「はい・・そしてこれからも、あなたたちと違う道を進んでいくでしょうね・・」
キラが投げかけた言葉にルナマリアは答える。シンが自分の意思を貫いていくと、3人は痛感していた。
「戦う理由は人それぞれ。シンはアスランやキラさんたちと違う答えを、自分自身で見つけたんです・・最悪、あなたたちとまた戦うことになってでも・・」
「正直、できればそれは避けたいと思っているよ・・でも戦いを止めるために戦っていくことになる・・僕もアスランも、みんなも・・」
キラも自分の戦う理由と意思を示す。しかしアスランは難色を示した。
「しかしそれは、他の者の正義を踏みにじることにもなりかねない・・戦いを止めるためにしているオレたちの行為が、絶対に正しいとは言い切れない・・」
「それでも、戦いを止めること自体は、間違っていないはずだ・・誰だってそれを願っている・・僕もアスランも、シンだって・・・」
アスランの言葉にキラが言い返す。キラの意思も揺るぎないものだった。
「そうやって勝手に解釈するのは勝手だが、それが事実だと合点するのはどうだと思うが・・」
そこへ声をかけてきたのは、マリアと一緒にやってきたソワレだった。
「戦いを止めたい・・その願いは誰も同じだろう・・少なくても、この場にいる人たちは・・だからこそ食い違い、すれ違い、対立することになってしまうのも、今の僕たちには否定できないことなんだ・・」
「受け入れがたいことだけど、それが今の現実・・今のオレたちなんだ・・・」
ソワレの言葉にアスランも返事をする。
「私や艦長が言っても、ソワレくんのこの考えは変わらないのよね・・まぁ、その頑固者にいつまでもついてきている私も、それなりに頑固だけどね・・」
彼らのやり取りを見て、マリアが肩を落としながら笑みを浮かべた。
「とにかく、私たちが共通しているのは、ヴァルキリーとフェイスを止めること。私たちはザフトとして、あなたたちはオーブとして・・」
「そして私たちは、アテナの一員として・・・」
マリアに続いてルナマリアも口を開いた。
「ルナマリア・・君とシンは、ザフトを抜けるつもりなのか・・・?」
「それは違いますよ・・今だけ・・ヴァルキリーとフェイスを止めるために行動する間だけ・・・」
アスランの問いかけに、ルナマリアが真剣な面持ちで答える。彼女の言葉を聞いて、マリアが笑みを見せた。
「艦長にはそのように伝えておくわ・・でも、ヴァルキリーとの戦いが終わったら、必ずザフトに戻ってきて・・2人ともね・・」
「もちろんです・・そのときはまた、よろしくお願いします・・」
マリアとルナマリアが握手を交わす。ルナマリアが彼らと別れて、アテナに戻っていった。
「それぞれの正義、それぞれのやり方・・オレたちは、誰もが頑なだ・・・」
「だからこそ対立することになる・・たとえどちらも正しかったとしても・・」
アスランとソワレが口にした言葉に、キラとマリアも思いつめていた。
アテナにとどまっていたシンは、整備を受けているデスティニーを見つめていた。彼はエクストリームブラストがもたらした戦闘力を思い返していた。
(あれほどのパワーを発揮したデスティニー・・それをオレが、これからも動かしていくのか・・)
自分が扱う力の大きさに、シンは思いつめていた。
(この力、使い方を、判断を間違ったらいけない・・間違えば、敵を倒すどころか、オレ自身が自滅することになる・・)
「うわっ!」
シンが考えていた後ろで、ミルが転んで顔をぶつけていた。
「ミル・・相変わらずだな・・」
「イタタタ・・す、すみません、シンさん・・・」
呆れるシンにミルが照れ笑いを見せて立ち上がる。
「ホントにすごいですよね、デスティニー・・リンさんが調整したっていうのもあるけど、さっきのパワー、すごかったですよー・・!」
ミルもデスティニーを見上げて、その力について感心の声を上げる。
「昔のオレだったら、ミルみたいに大喜びしてたな・・」
「えっ・・・?」
シンが口にした言葉に、ミルが当惑を見せる。
「オレはひたすら力を求めてきた・・今もだけど・・だけど求めていくうちに考えるようになった・・力はただあればいいってわけじゃないって・・」
「シンさん・・・」
シンが語りかける言葉を聞いて、ミルが戸惑いを感じていく。
「力は使い方を知らなければ、使い方を間違えれば、その力は何も意味を持たなくなる・・」
そこへアルバがやってきて、シンとミルに声をかけてきた。
「戦う理由を自分で見出してこそ、手にした力は自分の強さに変わっていく・・お前だって、自分の答えを自分で出したはずだ・・」
「あぁ・・戦ってきて、考え抜いて、オレ自身が決断した・・・」
言葉を投げかけてくるアルバに、シンも言葉を返していく。
「オレが受けた悲劇を、未来にまで引きずったりはしない・・オレが悲劇を終わらせる・・・」
自分が行ってきた戦いを思い返して、シンが手を握りしめる。
「そのためにオレは、戦う運命を受け入れ、悲劇の運命を切り開く・・このデスティニーの力で・・・!」
シンが決心を口にして、デスティニーに視線を戻した。デスティニーは今、シンの信念を貫く力となっていた。
「その答えの下で、お前も今、ヴァルキリーとフェイスを止めるつもりなんだな・・」
アルバが続けて投げかけた言葉に、シンは真剣な面持ちで頷いた。
「オレはこれからも生き抜くために、失ってはいけない命を消させないために戦う・・オレたちのために命を散らした仲間たちの死をムダにしないために・・」
「誰もが自分なりの答えを見つけて戦っている・・それでも、オレは・・・!」
互いの戦う理由を口にしていくアルバとシン。
「アルバ、シンくん、ヴァルキリーから通信が・・・!」
そこへリリィが来て、緊張した面持ちで2人に声をかけてきた。
「ヴァルキリーから・・今度は何のつもりなんだ・・・!?」
ヴァルキリーへの疑念を抱きながら、シンはアルバ、リリィと一緒にアテナの指令室に向かった。
シンたちが指令室に来たときには、ナトーラ、リン、ルナマリアは戻ってきていた。
「ヴァルキリーからの通信って・・!?」
シンがナトーラたちに声をかけてきた。通信は暗号で送られてきたが、既にリンによって解析されていた。
「ヴァルキリー創設者、レイア・バルキーからだよ。シンくん、君に向けてのね・・」
「オレの・・?」
リンの報告にシンが眉をひそめる。暗号を解析した文章を表示しているモニターに、彼らが目を向ける。
“シン・アスカ、エリアFB67にお前1人で来い。話し合いの場を持ちたい。”
「オレに1人で来いだと・・何を考えているんだ、アイツ・・!?」
シンがレイアに対して怒りとさらなる疑念を感じていく。
「何を話し合おうとしているかは分かりませんが、承諾できません。罠の可能性があるこの誘いに、1人だけで向かわせるわけにはいきません・・」
ナトーラが深刻な面持ちで言いかける。リンもルナマリアもレイアの誘いに賛同できなかった。
“そちらにも届いていたのですね・・”
アテナに向けてラクスからの通信が入った。
“キラとアスランに向けて、同様の誘いが届きました。話の場を持ちたいと・・”
「それで、そちらの見解は?こちらは誘いに乗れないのが本音だけど・・」
“キラが話し合いに応じると。アスランもはじめは難色を示しましたが、キラを放っておけないと・・”
リンの問いかけにラクスが落ち着いたまま答える。するとリンとナトーラがシンに振り向いた。
「あなたの宿敵は誘いに乗るみたいだけど・・シンくんはどうする・・?」
「オレは・・オレは・・・」
リンに問いかけられて、シンも自分自身の意思を示した。
「オレも行く・・行って、アイツらの考え方を否定してやる・・・!」
ヴァルキリアから1人で話し合いの場に来たレイア。着陸したグレイヴから降りて、シンたちが来るのを待っていた。
(来れば好都合だが、ヤツらが我々の誘いに全く乗らなかったとしても、我々の意志に何ら影響は出ない。)
レイアが心の中で1人呟いていく。
(我々が目指す理想郷は、悲劇のない世界。そのための力として、できれば排除することは惜しい・・)
レイアはシンたちの力に注目していた。ヴァルキリーの理想郷を築き繁栄させるための力にシンたちがなってくれればと、レイアは考えていた。
(最高のコーディネーターにして、フリーダム共々卓越した戦闘力を備えているキラ・ヤマト。そのキラと互角の戦闘力と、高い指揮能力を有しているアスラン・ザラ。そしてこの2人に勝るとも劣らない戦闘力を発揮するシン・アスカ・・)
シンたちのことを思い返していくレイア。
(彼らがヴァルキリーの一員となれば、理想郷がさらなる高みへと近づくことになろう・・)
かすかな期待を抱きながら、レイアは待ち続けた。しばらくして、彼女の目が近づいてくる3つの機影を捉えた。
「来たな。3人とも来てくれるとはな。もっとも、まだ断ってくることも否定できないが。」
不敵な笑みを浮かべて、レイアがデスティニー、フリーダム、ジャスティスの到着を待つ。3機はグレイヴの前に着地した。
「ヴァルキリーのレイア・バルキーで間違いないか?」
ジャスティスからアスランの声が響いてくる。
「そうだ。私がレイア・バルキーだ。」
レイアが不敵な笑みを浮かべて答える。するとジャスティスのコックピットのハッチが開いて、アスランが出てきた。
続けてデスティニーからシンが、フリーダムからキラが降りてきた。
「こちらの話し合いに応じてくれるとは、光栄だな。」
レイアが不敵な笑みを見せるが、アスランが彼女に銃を向けてきた。
「話し合いということだが、オレはあなたを信用しているわけではない。罠ということも警戒している。」
「それが妥当な判断だろうな。我々とお前たちは敵同士。それをすぐに信じ切るというのはあまりにも不用心で滑稽だ。」
警戒を示すアスランに、レイアが笑みをこぼす。彼女が懐から銃を取り出すと、アスランだけでなく、シンとキラも警戒を強める。
だがレイアはその銃をグレイヴのそばに置くと、グレイヴから離れていった。
「これで私の手には武器はない。手にしようとすれば、その前にお前たちの力で私が敗北することになる。」
レイアがシンたちに言いかけて、不敵な笑みを浮かべる。
(相手に警戒をさせないための対応。かなりの知略を備えているようだ・・いや、それ以上に何にも動じない絶対的な自信がある・・)
アスランがレイアの判断力の高さと自信を痛感していた。彼はさらに、レイアが相手の心理をかき乱して手玉に取ることのできる危険性も感じていた。
「では本題に入ろう・・私が単独でお前たちを呼んだのは、お前たちにヴァルキリーに加わってほしいからだ。」
レイアが切り出した話に、シンたちが眉をひそめる。
「お前たちに備わっている強さ、世界のため、これから築き上げる理想郷のために使ってほしいのだ。」
「理想郷のため・・・?」
「そうだ。お前たちほどの力があれば、世界に平和をもたらすのも難しいことではない。」
疑問を返すキラに、レイアはさらに語りかけていく。
「キラ・ヤマト、我々の理想郷ならば、争いも戦争もない。誰も傷つくことはない。お前にとっても理想郷となるはずだ。」
「そうなのかもしれない。でもあなたの言う理想郷は、デュランダル議長が作ろうとした世界と変わらない。」
レイアの口にする言葉を、キラは真剣な面持ちで拒んでいく。
「自分たちの意志に反すると定めたものを一方的に排除しようとするのを、理想郷だとは思わない。誰かに未来を決められる世界と、僕はこれからも戦う・・・!」
「強情なことだ。最高の戦士としても、ただの人間としても・・」
キラに誘いを拒まれても、レイアは不敵な笑みを消さない。
「アスラン・ザラ、お前も我々の理想郷を、ギルバート・デュランダルの掲げたデスティニープランと大差ないと罵るか?理想郷ならば、敵のいない世界であるのだが・・」
「えぇ・・オレも、言いなりになるだけの人間にはなれない・・・!」
アスランもレイアの誘いを拒絶する。
「シン・アスカ、お前はどうなのだ?」
レイアが今度はシンに問いかけた。彼女だけでなく、キラとアスランも視線を向ける。
「お前は戦いのない世界を望み、デュランダルのデスティニープラン遂行に加担した。それはデスティニープランが戦いを起こさせないものと判断したからではないのか?」
「あぁ、そうだった・・オレがそう選んだ・・議長の目指す世界が、アンタのいう戦いのない世界だと思って・・・」
レイアに対してシンが自分の意思を示していく。
「だけど言われた・・自分で自分の道を選んだ時点で、オレは議長の目指す世界から外れていたんだ・・だからオレはオレ自身の手で、戦いのない世界を見つけ出してみせる・・それはアンタのいう理想郷じゃ、自分たちの都合で誰かを弄ぶ世界なんかじゃない!」
「3人とも我々の理想郷のために尽力するつもりはないのが答えか・・」
シンたちの意思を受けて、レイアが肩を落とした。
「お前たちほどの力を滅ぼすのは実に惜しいが、我々の進む道を阻むならば排除する以外にない・・・!」
レイアはシンたちに言うと、素早く横転して、置いていた銃を拾って、そのままグレイヴに乗り込んだ。起動したグレイヴが飛び上がって、デスティニーたちの前から去っていった。
「次に会ったときは戦い、決着をつけるとき、ということか・・」
「もう戦うしかない・・これ以上、ヴァルキリーに戦火をまき散らさせるわけにいかない・・」
深刻な面持ちを浮かべるアスランと、新たな意思を口にするキラ。するとシンがデスティニーに戻ろうとする。
「シン・・・!」
アスランが声をかけると、シンがコックピットに戻る前に足を止めた。
「オレは戦うさ・・オレの戦いをする・・それでアンタたちと戦うことになるとしても、オレはもう迷わない・・・!」
シンはキラとアスランに言いかけて、改めてデスティニーに乗り込んだ。
「だけどオレが今止めるのはヴァルキリーと、フェイス・・・!」
ヴァルキリーの撃退とジンとの対決に臨むシン。デスティニーが先にアテナへと戻っていった。
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