GUNDAM WAR –Violent Emotion-
PHASE-03「キラ」
戦力を強化したヴァルキリーは、本格的な攻撃を行おうとしていた。彼らが次に標的にしたのは、オーブだった。
「オーブ・・中立国であるが、その態度と行動、我々からすれば世界を確立できない偽善に過ぎない。」
レイアがオーブを見据えて不敵な笑みを浮かべる。
「だが厄介なことに、オーブは強力な戦力をそろえている。フリーダムのキラ・ヤマト、ジャスティスのアスラン・ザラ。デスティニーのシン・アスカと並んで高いレベルの機体とパイロットを擁している・・」
「ですが、何人たりとも、我々ヴァルキリーの使命を阻むことはできない。でしょう、レイア様?」
彼女に声をかけてきたのはバーンだった。
「当然だ。我々の戦力は今、ヤツらのMSや使い手を上回るものとなった。ヤツらが立ちふさがろうと、恐れることはない。」
「恐れなどありません。私はレイア様とヴァルキリーのために存在しています。あなたとヴァルキリーに敵対するものの排除を、私は全てを費やしてでも遂行します。」
「その志は受け取っておこう。だがバーン、我らの目指す理想郷のため、お前はまだ死ぬわけにはいかない。それを覚えておくのだ。」
「申し訳ありません、レイア様。出過ぎたことを口にしました。」
「気にするな。些細なことのうちにも入らん。我々が気を引き締めなければならないものは、火を見るより明らかとなっている。」
頭を下げるバーンに言いかけて、レイアが再び笑みを見せる。
「出撃に備えろ。オーブに向けて攻撃を行う。」
「了解。」
レイアの言葉にバーンが答える。ヴァルキリアがオーブ領土に侵入した。
「ヴァルキリーの戦艦、本国領土内に侵入!市街に向けて進行中!」
オーブ軍のオペレーターがヴァルキリー侵入を報告する。その声にカガリが緊張を覚える。
「市民に危害が及んではいけない。市街に避難勧告。防衛線を敷いて進行を阻止する。」
「了解!」
カガリの指示にオーブ軍の兵士が答える。
「“アークエンジェル”も前線に出るわ。カガリさんはここで総指揮を。」
戦艦「アークエンジェル」の艦長、マリュー・ラミアスがカガリに声をかける。するとカガリが首を横に振った。
「いや、私もアークエンジェルに乗る。出撃しないとしても、前線に出てヴァルキリーに呼びかけたい。」
「でも・・」
「代表として後方にいなければならないところなのだろうが、話し合いで解決できるのであれば、私が直接赴く必要がある・・」
ためらいを抱くマリューにカガリが頼み込む。
「・・分かったわ。でもアークエンジェルに乗る以上、私の指示には従って・・」
「すまない、艦長・・」
了承したマリューにカガリが笑みを見せた。その2人の前にラクスがやってきた。
「カガリさんの代わりに私がここに残ります。お二人は行ってください。」
「あぁ・・ラクスもありがとう・・」
声をかけてきたラクスにカガリが感謝した。彼女はマリューと一緒にアークエンジェルに向かった。
同じ頃、クレストもヴァルキリアの動きを察知していた。そのときにはガルはルナマリアからの報告を受け取っていた。
(今度の狙いはオーブか。オーブにはアスランたちがいるから問題ないが、シンとルナマリアがザフトから離れたまま。ソワレとマリアに先陣を切らす以外の選択肢はないな・・)
状況を分析して打つ手を見出して、ガルがソワレたちに呼びかける。
「クレストもオーブに向かい、ヴァルキリーへの攻撃に向かう。ヴァルキリーが市街に侵入する前に食い止めるぞ。」
「了解!」
ガルの指示にクレストのクルーたちが答える。
「ソワレ、マリア、出撃に備えてくれ。戦闘ではお前たちがカギとなる。」
「はい。これ以上ヴァルキリーに世界を蹂躙させるわけにはいきません。」
ガルが続けて出す指示に、ソワレが真剣な面持ちで答える。
「出撃準備に入ります。」
マリアがガルに敬礼を送って、ソワレと一緒にドックに向かった。
「ソワレくん、このままだと、成り行きだけど、オーブやラクス・クラインの味方をまたすることになるけど・・」
ドックについたところで、マリアがソワレに声をかけてきた。
「僕たちはザフトで、クレスト所属のパイロットです。ザフトの味方であって、オーブやラクスの味方をするつもりは全くありませんよ・・」
「ソワレくん・・相変わらずガンコなところがあるわね・・それがソワレくんらしくもあるんだけど・・」
真剣に言うソワレに、マリアが苦笑を浮かべた。
「相手はあくまでヴァルキリーよ。ときにオーブや他の部隊との連携も必要になってくるから、それを肝に銘じておくようにね。」
「ザフトのためになるのでしたらそう判断しますよ。」
マリアの呼びかけに答えて、ソワレがMS「ゼロ」に乗り込んだ。マリアもMS「ルナ」に搭乗して、出撃に備えた。
カガリとマリューが乗り込んだときには、アークエンジェルにはクルーたちがそろっていた。キラとアスランもフリーダムとジャスティスに乗り込んでいた。
「アークエンジェル、発進するわ。カガリさんがヴァルキリーに呼びかけるから、それまでは迎撃態勢で待機。」
マリューの呼びかけにクルーたちが答える。キラたちが出撃に備える中、アークエンジェルが発進して、進行してくるヴァルキリアに向かっていった。
「それじゃカガリさん、お願いね・・」
「あぁ・・」
マリューが声をかけると、カガリが眼前に迫ってきていたヴァルキリアに向けて呼びかけた。
「ヴァルキリーに告げる。私はオーブ首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ。お前たちは今、このオーブ領土内に踏み込み、市街に向けて侵攻している。これ以上の無断での進行は我が国への侵略行為と判断し、我々は防衛行動に移ることになる。直ちに撤退することを進言する。その際はそちらへの武力行動は行わない。」
カガリの声に対するヴァルキリーの反応を、マリューたちが固唾をのんでうかがう。
「力ではなく言葉や思いで、世界にお前たちの意思を示すんだ。お前たちが繰り返しているのは、悲劇を広げるだけでしか・・」
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。お前たちのその中立という名の偽善が、平和どころか混乱を増加させることになっていることに気付かないとでも言うのか?」
カガリの呼びかけに答えて、レイアが嘲笑を投げかけてきた。
「私はヴァルキリーの創始者、レイア・バルキー。我々は世界に、誰もが平穏に過ごせる理想郷を築くために行動している。」
「理想郷・・?」
「世界の平和を脅かしているのは、各国に備わっている武力そのものにある。地球連合やザフトだけでなく、オーブも武力によって混乱を招いた。」
「何を言っている・・私たちはお前たちの言う混乱を止めるために尽力している。いや、私たちだけでなく、どの国の誰もが平和を願っているんだ。」
「どの国の誰もが?笑わせるな。誰もが自分たちと考えを同じくしていると思い違いをしている愚か者たちが。」
カガリの言葉にレイアが淡々と言い返していく。
「お前たちオーブもラクス・クラインに組する者たちも、高い武力で他の勢力を押さえ込む手段に出ている。そのお前たちが、我々の行動をとがめられるはずもない。」
レイアがカガリやアークエンジェル、オーブに向けて語りかけていく。
「我々の目指す理想郷は、これまで生まれてきた武力を一掃し、必要な力を1つに統括するものだ。そうすることで武力による戦争や混乱が起きることはなくなり、誰もが平和でいられるのだ。」
「それでお前たちは、その理想郷の神か?そのような独裁、私たちは受け入れるわけにはいかない。デスティニープランによって世界を管理しようとしたデュランダル議長と変わらない。」
「ギルバート・デュランダルが行ったのは、管理という名の束縛。我々の目指す理想郷にそのようなものは存在しない。」
自分たちの意思を示すカガリだが、レイアは聞き入れようとしない。
「誰もが望んでいるのが、我々ヴァルキリーが提示している理想郷。それに刃向かうことは、それこそ世界全体を敵に回すことに等しい。」
「そのような考え方とやり方では、本当の平和は訪れない。私たちはお前たちの侵攻を、断固拒否する!」
レイアやヴァルキリーに対して、オーブとしての頑なな意思を示すカガリ。出撃に備えていたキラとアスランが、真剣な面持ちで頷いた。
「それが愚かな選択であったことを思い知るがいい。我々ヴァルキリーの新たなる力とともに。」
レイアがカガリとの対話を終えて、ヴァルキリーの面々に呼びかけた。
「MS発進。ジャッカル、ヴァルキリアは任せたぞ。」
「分かりました。お気をつけて、レイア様。」
ジャッカルにも呼びかけて、レイアが出撃に向かった。ドックでは既にバーン、ゼビル、ユウが各々のMSに乗り込んでいた。
「攻撃開始だ。オーブは我々の意思を受け入れるつもりはないそうだ。」
「オーブも愚かなことです。誰もが平和になれる理想郷を拒み、世界を敵に回すとは・・」
レイアの言葉を受けて、バーンが肩を落とす。
「オーブの勢力の中に、フリーダムとジャスティスもいるだろう。決して油断するな。」
「分かっています。どのような敵が現れようと、私たちが立ち止まることはありません。理想郷が実現されるまで・・」
レイアの呼びかけにバーンが答える。ゼビルも同意していたが、ユウは冷静でなかった。
「どうした、ユウ・フォクシー?何を考えている?」
「レイア様・・僕、レイア様やみんなの力になれるかどうか、不安なんです・・やれると思っていたんですけど、こうして実際に戦うとなると・・」
レイアが声をかけると、ユウが不安を口にする。それを聞いて、レイアが微笑んできた。
「臆することはない、ユウ。どんなことでも始まりは不安を隠せないもの。だがお前はリヴァイバーの正式なパイロットとなった。それは相応の力を備えていることの証明だ。」
「レイア様・・」
「怯えることも迷うこともない。お前が強く望んできた平和への願い。その赴くままに動けばいいのだ。」
レイアに励まされて、ユウが自信を取り戻していく。
(そうだ・・僕が平和を取り戻すんだ・・誰もが平和に暮らせる平和を・・カナも、みんな・・・)
心の中で自分に言い聞かせて、ユウが落ち着きを取り戻していく。
「もう大丈夫です・・ありがとうございます、レイア様・・」
「その意気だ。我々は1人ではない。ユウ、お前も己の求める平和のために、その力を使えばいい。」
微笑みかけるユウに、レイアが頷きかける。彼女もグレイヴに乗り込んで、発進に備える。
「ではいくぞ。オーブを、我々の行く手を阻む敵を滅する。」
レイアがバーンたちに呼びかけて、出撃に備える。
「レイア・バルキー、グレイヴ、出撃する!」
「バーン・アレス、ヴァルカス、発進する!」
「ゼビル・クローズ、カース、発進する!」
レイアのグレイヴ、バーンのヴァルカス、ゼビルのカースもヴァルキリアから出撃していく。
(よし・・僕もやるぞ・・カナ、信じていて・・・)
「ユウ・フォクシー、リヴァイバー、行きます!」
ユウも自分に言い聞かせてから、リヴァイバーでヴァルキリアから出撃した。彼らに続いてスナイパーが続々と発進していった。
「ヴァルキリー、MS発進しました!」
アークエンジェルのレーダーが、ヴァルキリアから発進したMSを捉えた。
「戦いが避けられなかった・・しかし、このままオーブをヴァルキリーに蹂躙されるわけにはいかない・・・!」
ヴァルキリーとの戦いに、カガリが歯がゆさを覚える。
「僕とアスランが先陣を切ります。カガリとマリューさんたちは、後方で防衛線を敷いてください。」
そこへキラが声をかけてきた。彼らはヴァルキリーを迎え撃とうとしていた。
「分かったわ。キラくん、アスランくん、気を付けて。」
マリューの呼びかけに頷いて、キラとアスランが発進に備える。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
キラのフリーダム、アスランのジャスティスがアークエンジェルから発進していった。
「やはり出てきたか、フリーダム、ジャスティス。だがお前たちでも、我々を止めることはできない。」
フリーダムとジャスティスの姿を見ても、レイアは全く動じない。
「2機ずつで攻撃する。バーンとゼビルはフリーダムを。私とユウでジャスティスを叩く。」
「了解。」
レイアの指示にバーンが答える。彼らは2手に分かれて、キラとアスランに狙いを向ける。
(さすがレイア様。敵の戦力を見越した戦略を即座に立てた。)
レイアの戦術にバーンが内心驚きを感じていた。
「移動や射撃をさせるな、ゼビル。スピードと射撃がフリーダムの最大の武器だ。」
「分かっています。狙い撃ちできないほどに距離を詰めて、近距離で攻め立てます。」
意識を戦闘に戻したバーンに、ゼビルが答える。ヴァルカスとカースがビームサーベルを手にする。
先に攻めてきたヴァルカスを、フリーダムがビームサーベルを手にして迎え撃つ。それぞれ両手に持った4本のビームサーベルがぶつかり合い、激しく火花を散らす。
フリーダムがつばぜり合いをしているヴァルカスに向けて、両腰のレールガンで攻撃しようとした。
「させるか!」
そこへゼビルが言い放ち、カースが飛びかかってビームサーベルを振り下ろしてきた。キラはとっさに反応して、レールガンの銃口をヴァルカスからカースに変えて発射する。
「くっ!」
ゼビルが反応して、カースが横に動いてレールガンのビームをかわす。同時にフリーダムヴァルカスを突き飛ばして、2機との距離を取る。
「最高のコーディネーター、キラ・ヤマト。ヤツの操る高レベルのMS、フリーダム。一筋縄ではいかないか。」
キラとフリーダムの力に毒づくバーン。しかしバーンはキラたちに対して臆してはいなかった。
アスランのジャスティスをレイアのグレイヴとユウのリヴァイバーが迎え撃つ。近接戦闘を得意とするジャスティスの性能を見越して、レイアは遠距離攻撃と一撃必殺を狙っていた。
「お前たちがいると・・本当の平和は戻ってこない・・・!」
ユウが声を振り絞って、リヴァイバーが2つのビームライフルを手にして、ジャスティスに銃口を向ける。
「僕が平和を取り戻すんだ!」
ユウが言い放ち、リヴァイバーがビームライフルを連射する。アスランが冷静に反応して、ジャスティスが素早くビームをかわす。
「アイツも、もしかして・・・」
リヴァイバーから伝わってきたユウの声に、アスランが疑問を抱く。そのとき、グレイヴがジャスティスの前まで距離を詰めてきた。
「動きを止めると的になるだけだぞ。」
レイアが言いかけて、グレイヴがビームソード「クレイモア」をジャスティス目がけて振り下ろしてきた。
「くっ!」
アスランが毒づき、ジャスティスがビームシールドを展開してクレイモアを防ぐ。だが衝撃までは防ぎきれず、ジャスティスが突き飛ばされる。
そこへリヴァイバーがビームライフルを発砲してくる。ジャスティスは体勢を整えてビームをかわし、ビームライフルで反撃する。
「もうやめろ!オーブや世界を攻撃すれば、本当に平和がやってくると思っているのか!?」
アスランがユウに向けて呼びかけてきた。突然声をかけられて、ユウが動揺を覚える。
「誰かの言いなりになる平和など、平和とは呼べない!逆らうものを一方的に滅ぼす世界などなおさらだ!」
「お前・・いきなり何を言い出してくるんだ・・・!?」
「お前はまだ選べるはずだ!本当の平和が何かを!」
「いきなりふざけたことを・・平和を壊そうとしているくせに、何を正義ぶって・・!」
呼びかけてくるアスランに不満を感じていくユウ。リヴァイバーがビームライフルを連射していって、ジャスティスが素早くかわしていく。
「そうだ。惑わされるな、ユウ。お前が追い求める平和は、目の前にいる敵の戯言ではない。お前自身が、既に見出しているのだ。」
アスランを攻め立てるユウを見て、レイアが笑みを浮かべる。
「速い・・だったらこれで一気に・・!」
ユウが気を引き締めて、リヴァイバーが2つのビームライフルを組み合わせてレールガンにする。ユウが狙いを定めて、リヴァイバーがジャスティスを狙い撃つ。
回避を続けていくジャスティスに、グレイヴがクレイモアを持って飛び込んできた。
「お前の口にすることが世界の正義だと思うな。」
グレイヴが突き出したクレイモアが、ジャスティスのビームシールドを叩いた。
「僕は負けない・・平和のために、負けるわけにいかないんだ・・・!」
自分に言い聞かせるように声を振り絞って、ユウはアスランを攻め立てていった。
ヴァルキリーの高いレベルのMSに、キラもアスランも徐々に追い詰められつつあった。
「数的に振りとはいえ、あの2人が追い詰められるなんて・・!」
マリューがキラたちの戦況を目の当たりにして、焦りを感じていた。
「“アカツキ”を出せ!私も行く!」
「ダメよ、カガリさん!迂闊に出て、あなたにもしものことがあったら、オーブの人々の心の支えがなくなってしまうのよ!」
カガリが黄金のMS「アカツキ」で出撃しようとするが、マリューに呼び止められる。
「しかしこれではアスランとキラが、オーブの国民が・・!」
「私たちがオーブを守る防衛線なのよ。その私たちが前線に出るべきではないわ・・辛いのはみんな同じよ。ここは耐えて、カガリさん・・」
歯がゆさを募らせるカガリをマリューがなだめる。
(頼む、アスラン、キラ・・もう少し耐えてくれ・・・!)
すぐに飛び出したい気持ちを抑えて、カガリはキラたちの戦いを見守ろうとした。
ヴァルキリーが侵攻しているオーブに、クレストも到着しようとしていた。
「既に戦闘が行われているか・・迎撃に出ているのはフリーダムとジャスティス、アークエンジェルだけか・・」
ガルが戦況を把握して呟きかける。
「まずはソワレとマリアだけ行け。他は別命あるまで待機。あれほどのMSによる戦闘、下手に介入すればすぐに命を落とすことになるからな・・」
ガルがソワレたちに指示を送る。
「目的はあくまでヴァルキリーへの迎撃。そのつもりで出撃に当たります。」
「強情なのはここでも同じなのね、ソワレくんは・・」
真剣な表情で言いかけるソワレに、マリアが呆れていた。
「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」
「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」
ソワレの「ゼロ」、マリアの「ルナ」がクレストから発進した。ゼロがフリーダムと、ルナがジャスティスと合流した。
「あなたたちは・・!」
「あなたたちの味方をするつもりはありません。ヴァルキリーの暴挙を止めるために、僕たちはここに来たのです。」
声を上げるキラにソワレが呼びかける。
「ゼロ・・我々の行く手を阻むために、オーブと共闘するつもりか?」
「ならゼロはオレが相手をします。ヤツらに敗北することはありえません。」
疑問を口にするバーンに、ゼビルが呼びかける。カースがゼロと、ヴァルカスがフリーダムと対峙する。
「これで有利になったと思わないことだ。」
バーンがキラたちに対して態度を変えていなかった。
「ルナはあなたたちと比べたら性能は下だからね。あの砲撃タイプは私がやるわ、アスラン。」
「分かった、任せよう。だがそちらも高い力を備えているのは確かだ。油断するな。」
呼びかけてきたマリアにアスランが答える。ルナがビームライフルを撃って、リヴァイバーをジャスティスから引き離す。
「ザフトとオーブ軍が共闘するとはな。これで単純に1対1で対戦して倒せばよいと思っているのだろうが、それは甘い考えでしかない。」
レイアがゼロとルナを見て不敵な笑みを浮かべる。
「では続きと行こうか、アスラン・ザラ。お前たちの愚かな行為、我々が終止符を打たせてもらおう。」
レイアがアスランに敵意を見せて、グレイヴがジャスティスに向かっていった。
キラとアスランに加勢することになったソワレたち。クレストにいたガルが、アークエンジェルとの連絡を取っていた。
「これはあなた方に加勢することではない。ザフトとしての、ヴァルキリー撃退のための任務だ。そのことを理解していただきたい。」
「そうだとしても、あなた方が私たちを助けてくれたことは同じ。そのことは感謝したい。」
ザフトとしての姿勢を見せるガルに、カガリが感謝の意を示す。
「ここはあなたたちの国。国を守るために、まずあなたたち自身が尽力する必要がありますよ。」
「分かっている・・当たって砕けるだけが、尽力とは限らないのではないのか・・」
互いに真剣に呼びかけ合うガルとカガリ。
「まずはヴァルキリーをオーブから撤退させなければ。国に、人々に危害を加えさせるわけにいかない・・」
「ここは共通の目的のために、一時手を組むしかない・・」
ヴァルキリー撃退を優先するカガリとガル。こうしてオーブ軍とザフトが共闘することとなった。
ヴァルキリーがオーブに侵攻してきた知らせは、リンたちにも伝わってきていた。
「オーブが攻撃されているって、本当ですか・・!?」
ルナマリアがシンと一緒に、リンたちのいるアテナの指令室にやってきた。
「うん。フリーダムとジャスティスが迎撃に出て、今クレストもオーブに来てヴァルキリーと戦ってるわ。」
「フリーダムとジャスティス・・キラとアスランがヴァルキリーと戦ってるのか・・!」
リンの言葉にシンが声を荒げる。
「だったら私たちも行かないと・・クレストがヴァルキリーと戦っているなら、私たちも・・」
「ダメよ、ルナちゃん・・」
オーブに行こうとしたルナマリアを、リンが呼び止める。
「私たちはどの軍にも属さない半端者。だから他の軍を助けるために動くことを最優先にはしないの。」
「でも・・!」
「それに私たちは軍とか組織とかに追われてる身がほとんど。迂闊に出て自分たちの身を危険にさらすなんてできないじゃない。」
困惑を見せるルナマリアに、リンが真剣な面持ちで自分たちの考えを口にする。ルナマリア以上にシンが困惑していた。
「オレたちが置いているこの立場と別に、引っかかっているものがあるようだな・・」
アルバが声をかけてきたが、シンは歯がゆさを見せるだけで答えようとしない。
「オーブを許さないことも、お前が戦いに踏み込んだ理由の1つだったな。そのオーブを助けることなど言語道断。お前はそう思いたいんだろう・・?」
「それは・・オレは・・・!」
アルバが投げかける言葉に反論できず、シンが口ごもる。
「オーブやキラやアスランを受け入れられないならそれでいい。ヴァルキリーに立ち向かうこともな。だが行動を起こすなら、どれかを最優先にしなければならない。それが迷いを振り切ることにつながる・・」
「どれかを、最優先にする・・迷いを振り切る・・・」
「お前は自分で戦う理由と目的を見出した。もう自分がどうしていけばいいのか、自分で答えを見出せるはずだ。」
アルバの言葉を受けて、シンはだんだんと奮い立つようになっていった。
「オレは行く・・まずはヴァルキリーを止めることが先だ・・・」
「シン・・・」
シンの決意を聞いて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「あなたたちが行かないというなら、デスティニーを出せるようにしてくれ。オレだけでもヴァルキリーと戦う・・」
「それなら私も行くよ。ここまで来たなら、私もシンと一緒にどこまででも・・」
シンに続いてルナマリアもオーブに向かうことを進言する。
「ダメです・・インパルスはデスティニーと違って、無尽蔵の動力ではないです・・オーブに着く前にエネルギー切れになりかねません・・」
ルナマリアを呼び止めたのは、勇気を出して声を振り絞ったナトーラだった。
「それに、シンさん1人だけで行かせるのも、私たちとしても心苦しいことです。単独行動は逆効果です・・」
「それでも、オレは・・!」
「だから、あなたたちは私たちの艦、アテナに乗っていただきます・・」
抗議の声を上げるシンに、ナトーラが決断を下した。
「それって・・アテナも、アンタたちもオーブに行くってこと・・・!?」
「ちょっとナトーラちゃん、アテナの状態は完璧だし、MSも大方出せるけど、私たちが出ていくわけには・・」
シンが声を上げて、リンがナトーラの決断に懸念を見せる。
「私たちがここにいるのは、本当の平和を見つけ出すためです。ナチュラルもコーディネーターも関係ない、ヴァルキリーのやり方と違う平和を・・」
それでもナトーラの決意は揺るがなかった。彼女の意思を見て、リンが笑みをこぼした。
「ナトーラちゃんも、ううん、エイナス艦長も覚悟を決めているということね・・」
「自信はないですけど・・やれるだけやってみようと思っています・・改めて、よろしくお願いします・・・」
頷くリンにナトーラが頭を下げた。
「それじゃ艦長、みんなに命令を。」
リンが言いかけると、ナトーラが周りを見回す。リリィもミルもみんな、彼女に微笑んでいた。
「分かりました・・全員アテナに搭乗。アテナの発進に備えてください。」
「了解!」
ナトーラの指示にミルたちが答える。シン、ルナマリア、アルバ、リリィが目を向けて、微笑んで頷いた。
「オレたちの目的は、全員同じだったようだ・・」
「ヴァルキリーのやっていることは、どうしても止めないといけないからね・・」
アルバとリリィがシンとルナマリアに向けて言いかける。彼らはオーブに向かうアテナに乗り込んだ。
(キラやアスランたちに協力するつもりはないけど、ヴァルキリーを放っておけないのはオレの考えでもある・・!)
自分の決意を思い返して、シンがオーブでの戦いに備えた。アテナを収容しているドックの天井が開いて、空への道となった。
「アテナ、発進!オーブに向けて出発します!」
ナトーラの号令でアテナが発進。ヴァルキリーと交戦しているオーブに、シンたちは向かうことになった。