GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-49「最期の力」
反逆する者たちへの見せしめのため、カオスサイドはライトサイド、オーブへの攻撃を開始しようとしていた。だが２国の軍も、既に迎撃体勢を整えていた。
「それではみなさん、これから先行します！援護をお願いします！」
ジュンはアリカたちに呼びかけると、ミーティアを装備したアテナが、カオスサイドのＭＳの軍勢に向かっていった。
「１機で攻めてきただと!?」
「いや、待て！何だ、あれは!?」
混沌軍のパイロットたちが声を荒げる。ミーティア装備のアテナに対し、その姿を目の当たりにしただけで気圧される者もいた。
「怯むな！イオリ様が導く新たな世界にあだ名す敵！イオリ様の手をわずらわせるわけにはいかない！」
指揮官が一喝すると、ワルキューレ、ザクウォーリア、グフイグナイテッドがアテナに向かって飛びかかっていく。するとミーティアの銃砲から高出力のビームが放たれ、機体の数機の行動を停止させる。
「コイツ、デカいだけではなく、威力も高いぞ！」
「怯むな！今度こそ、今度こそ仕留めるんだ！」
畏怖、怒号、激昂、様々な感情を見せる混沌軍。だがアテナに装備されているミーティアが放つビーム砲、ミサイル、さらに振り下ろされる巨大なビームサーベルに手も足も出なかった。
さらにバルディッシュとブラッドが戦線に加わり、混沌軍は劣勢を強いられていく。
「悪いけど、あなたたちをこれ以上進ませるわけにはいかないのよ！」
「お前たちのような者たちに、世界を任せはしないぞ！」
シスカとジョージが言い放ち、バルディッシュとブラッドがビームライフルとビームショットで、カオスサイドのＭＳの武装を撃ち抜いていく。混沌軍は速すぎる相手の動きに対処しきれなくなってきている。
そしてマイスター、カグツチ、デュランも加わり、並の機体ではもはや打つ手はなくなってしまっていた。
「ま、まずい・・こんな相手、とても我々では対処しきれない・・」
「しかし、このまま引き下がっては、イオリ様の顔に泥を塗るようなことに・・！」
カオスサイドのパイロットたちは、アテナたちの猛攻に完全に覇気を失ってしまっていた。
乗り込んだダークカオスから、イオリはオーブとライトサイドの迎撃を確認していた。
（こちらの攻撃を読んで体勢を整えていたか。しかもアテナは、あんなものを装備して・・）
ミーティアを駆使してカオスサイドの勢力をなぎ払っていくアテナを見据えて、イオリが呟く。
（もはやこれは、数でも戦力でもない。平和をつかむこと、それだけか・・）
眉をひそめながら、イオリはダークカオスの最終チェックを済ませる。
「オーブの伝説の英雄とうたわれたレナ・セイヤーズの息子、ジュン・セイヤーズ・・世界の希望とされているヤツを葬り去れば、世界はオレに傾く・・・！」
野心をむき出しにしたイオリが眼を見開き、哄笑を上げた。
「すぐに出るぞ！戦線に出ている連中を下がらせろ！」
イオリがオペレーターたちに呼びかけ、ハッチが開かれた先の虚空を見据える。
「イオリ・パルス・アルタイ、ダークカオス、いくぞ！」
イオリの駆るダークカオスが研究施設から発進し、戦場へと赴いていった。
カオスサイドのＭＳたちを次々と撃退していくジュンたち。混沌軍のパイロットたちの戦意は完全に失われていた。
「もういい加減にして！結果は見えてるでしょ！」
「私たちに勝てないことは十分理解したはずだ！」
アリカとナツキが鋭く言い放つ。並の戦力では、アテナたちの脅威的な性能に敵わないのは、誰の眼にも明らかになっていた。
そのとき、ザクウォーリアとグフイグナイテッドが後退を始める。その突然の行動に、ミドリとユキノが眉をひそめる。
（撤退？・・もしかして、ダークカオスが・・!?）
（いよいよボスキャラの登場ってわけね・・・！）
ユキノが深刻な面持ちで、ミドリが不敵な笑みを浮かべて、それぞれ胸中で呟く。退いていくカオスサイドの軍勢の中から、混沌の機体が姿を現した。
「ダークカオス・・・！」
ダークカオスの登場に、ジュンが緊迫を覚える。星光軍、オーブ軍を見下ろして、イオリが不敵な笑みを浮かべる。
「性懲りもなく現れたか、マシロ女王！いや、ジュン・セイヤーズ！」
イオリが高らかと言い放つと、ジュンが顔を強張らせる。
「イオリ・パルス・アルタイ、これが最後の頼みだ・・ニナちゃんを解放するんだ！」
ジュンがイオリに向けてニナの解放を求める。だがイオリはジュンの申し出をあざ笑う。
「ニナを解放しろ？笑わせるな。ニナはオレの切り札だ。そう簡単に解放するとでも思ってるのか？」
「イオリ・・・！」
「ニナがダークカオスと一体化している限り、お前たちはオレに手が出せない！ダークカオスを攻撃すれば、ニナを傷つけることになるからな・・・！」
イオリの卑劣な策略に、ジュンたちは憤りを覚える。
「どこまで卑怯な・・・！」
「そんな手を使っておいて、勝った気でいるなんて・・・！」
ナツキとシスカが歯がゆさを口にするが、イオリは哄笑を上げるばかりだった。
「お前たちが選んだ道だ！せいぜい後悔しないで死んでいくがいい！」
イオリが言い放つと、ダークカオスが全身からビームを発射する。
「回避！」
ジョージがとっさに呼びかけ、全ての機体と戦艦が回避行動を取る。だがビームのひとつがクサナギの左翼をかすめ、爆発を引き起こす。
その衝撃で艦体が揺さぶられ、艦内にいるユキノが顔を歪め、イリーナたちが悲鳴を上げる。
「クサナギが！」
ナツキが毒づき、デュランがクサナギの防衛のために乗り出す。ユウの駆るグフイグナイテッド率いるＭＳ隊も、クサナギに接近する。
そこへダークカオスがさらにビームを放つ。
「くそっ！チャージシルバーマテリア！」
ナツキが迎撃を図り、デュランが銃砲から閃光を解き放つ。閃光は発射された直後に拡散し、ダークカオスのビームの雨に命中していく。
だが全てを相殺しきれず、残ったビームがＭＳ数機に命中して撃墜される。
「ムダだ！その程度の性能の機体では、ダークカオスの攻撃から逃れることはできない！」
イオリが哄笑を上げながら言い放つ。混沌の機体からさらに放たれるビームを、マイスターとカグツチが回避していく。
「あたしが外から狙っていくから、アリカちゃんはニナちゃんを！」
マイがアリカに向けて指示を出すが、アリカはニナに対して戸惑いを感じていた。
「マイスターのエクスカリバーなら、ダークカオスの装甲を貫いて、ニナちゃんが閉じ込められているラグナログを切り離すことができる・・アリカちゃん、ニナちゃんをお願い！」
マイはアリカに言いかけると、ドラグーンを展開してダークカオスに向けてけん制の砲撃を繰り出す。それをダークカオスは身を翻して回避していく。
「アリカちゃん！」
マイの呼び声を受けて、アリカがダークカオスを見据える。マイスターがエクスカリバーを手にして、ダークカオスに飛びかかる。
マイスターの突き出した大剣の切っ先が、ダークカオスに届こうとしていた。だが剣は標的を外し、マイスターはダークカオスの横をすり抜けた。
「えっ・・!?」
マイもナツキも、アリカ自身も驚愕する。ダークカオスが体勢の整わないマイスターに向けて、ビーム砲を放とうとする。
「アリカちゃん！」
そこへジュンの駆るアテナが飛び込み、ミーティアの巨大ビームサーベルを振りかざしてきた。ダークカオスはこれをかわし、アテナに向けてビーム砲を放つ。
ビーム砲はミーティアに直撃し、その威力を沈黙させた。爆発の衝撃に揺さぶられ、ジュンが顔を歪める。
そこへマイスターがレイを発射し、ダークカオスをけん制する。その間にアテナが体勢を整える。
“マシロちゃん、大丈夫!?”
「アリカちゃん・・・うん、僕は平気・・でも・・・」
アリカからの呼びかけにジュンは答える。だがダークカオスのビーム砲の直撃を受けたミーティアは、その威力が限りなく減退していた。
「お前たちは絶対にダークカオスを、ニナを傷つけられない！頭で割り切ろうとしても、体がそれを拒絶する。だから攻撃しようとしても、無意識に攻撃を外してしまうことになるんだよ！」
イオリが勝ち誇り、攻撃できないでいるジュンたちをあざ笑う。その言葉にアリカは愕然となり、自分の両手を見つめる。
（私、心のどこかで、まだニナちゃんを・・・）
親友に対する自分の気持ちが仇となっていることに、アリカはもどかしさを感じていた。
「ナツキさん、シスカさん、ニナちゃんを頼みます！」
ジュンは呼びかけると、アテナがダークカオスに向かって飛び掛った。切り離したミーティアをダークカオスに向けて飛ばし、接近したところでミーティアをビームライフルで撃ち抜く。
とどめを刺されたミーティアが爆発を引き起こす。その間近にいたダークカオスが、その衝撃で体勢を崩される。
「チャージクリスタルマテリア！」
デュランが銃砲から閃光を解き放つ。カグツチも全てのレール砲を発射する。
ダークカオスは全ての発射口からビームを放ってデュランとカグツチの攻撃を押さえる。２機の全力の砲撃は混沌の力に押さえ込まれる。
そこへバルディッシュが金色の大剣「ザンバーブレード」を持って飛びかかってきた。
「せめてこの機体の動きだけでも止めないと！」
ダークカオスの停止を見据えるシスカ。バルディッシュがダークカオスに向けて、ザンバーブレードを振り下ろす。
「このくらいで勝てると思われるとは、なめられたものだな！」
いきり立ったイオリが叫び、ダークカオスがビームを放射する。入り乱れる光線がバルディッシュの胴体に命中し、さらにアテナたちに迫る。
「キャッ！」
「シスカさん！」
「くっ！おのれ、イオリ！」
悲鳴を上げるシスカにジュンが叫び、憤りを覚えるジョージの駆るブラッドが、ダークカオスに向けてビームショットを発射する。だがダークカオスはビームで難なく弾き返し、狙いをブラッドに向ける。
「ぐっ！」
素早くかわそうとしたものの、乱れ飛ぶビームの雨をかわしきれず、ブラッドが直撃を受ける。
ビームはさらに戦場を駆け巡り、周囲のＭＳたちをなぎ払っていく。ユウの乗るグフイグナイテッド、ジーザスもその直撃を受けてしまう。
「お願い！もうやめて！」
「もういい加減にしてよね！」
「これ以上の暴挙、許すわけにはいかない！」
アリカ、マイ、ナツキの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
飛び交うビームの雨をかいくぐり、マイスター、カグツチ、デュランがダークカオスを狙う。デュランのクリスタルマテリア、カグツチのロングライフルのビーム、マイスターのレイが放たれる。
ダークカオスは素早い身のこなしでこれらをかわす。そこへマイスターが飛びかかり、エクスカリバーを突き出してきた。
「甘いんだよ、バカのひとつ覚えみたいに！」
眼を見開いて叫ぶイオリ。ダークカオスが胸部の宝玉からビーム砲を放ち、マイスターの掲げたエクスカリバーを叩き折る。
「そんな・・!?」
心を揺さぶられ、攻撃が通じなくなっていることに愕然となるアリカ。
「アリカちゃん！」
そのとき、マイスターに狙いを定めていたダークカオスに、ジュンの駆るアテナが飛び込んできた。不意を突かれた混沌の機体が突き飛ばされ、狙いを揺さぶられる。
「お前はいつでも邪魔をしてくれるな！だがそれもこれで終わりだ！」
イオリが言い放ち、ダークカオスが伸ばした左の手のひらからビームが放たれる。その光線がアテナの右肩に命中する。
「うあっ！」
「マシロちゃん！」
うめくジュン。叫ぶアリカ。負傷したアテナが月面に叩き落される。
「くっ・・ジュンくんを援護するわよ・・・！」
「ローエングリン、照準・・・！」
ミドリとユキノが指示を出し、ジーザスとクサナギが陽電子砲の発射体勢に入る。
「ってぇ！」
２人の声とともに、２隻の陽電子砲が同時に放たれる。だがイオリはそのことに既に気付いていた。
「どこまでも悪あがきするんだな、お前たちは！」
ダークカオスがさらにビームを解き放つ。ビームの直撃をさらに受け、その被害と爆発が艦内にも及ぶ。
「うあっ！」
「キャアッ！」
爆発と衝撃でイリーナとアオイが悲鳴をあげ、ユキノ、ミドリ、チエが顔を歪める。飛行姿勢を維持できなくなり、クサナギが月面に不時着する。
「世界は絶対的な力が確立させるべきなんだ！中立を掲げ続ければ、いずれ反乱分子を生み出すことになり、戦争を引き起こすことにもつながる！」
追い込まれているオーブとライトサイドを見下ろして、イオリが不敵な笑みを浮かべる。
「オレがいれば、そんな因子など存在させない。お前たちが目指した平和は、オレたちが実現させてやるよ！」
イオリの哄笑が虚空に響き渡る。オーブ、ライトサイドに、徐々に絶望の色が広がりつつあった。
ダークカオスとの交戦の中、その攻撃を受けて、ジュンは意識を失った。その中で彼は、１人の少女の声を耳にしていた。
「ジュンくん・・ジュンくん・・・」
「・・・この声・・ミナミちゃん・・・」
眼の前に現れたミナミの声に、ジュンは眼をうっすらと開く。
「ジュンくん、私は信じているよ・・ジュンくんが、世界にどうあってほしいのか、その願いを・・・」
「ありがとう、ミナミちゃん・・でも、僕はその世界や、平和や幸せのために、ニナちゃんを傷つけることができない・・・」
ミナミに感謝の言葉をかけるも、ジュンが非情な現状に対して沈痛の面持ちを浮かべる。だがミナミは笑顔を絶やさない。
「ジュンくん・・ジュンくんなら、聞こえているはずだよ・・ニナさんの声が・・」
「えっ・・・？」
ミナミの言葉にジュンは戸惑いを覚える。彼が顔を上げた先には、ニナの姿があった。
「ニナちゃん・・・」
「マシロさん、ごめんなさい・・・私のために、世界を混乱させてしまって・・・」
動揺の色を浮かべるジュンに、ニナが呟くように声をかけてくる。
「私もマシロさんの・・ううん、ジュンくんと同じように、世界の平和を願っていた。でもその平和ばかり求めて、周りの気持ちを考えていなかった・・・」
「それは僕のせいだよ・・僕がニナちゃんの気持ちを考えなかったばかりに・・世界をここまで混乱させてしまった・・・」
互いに自分を責めるニナとジュン。
「ジュンくん、あなたはあなたの願いを追い求めて・・私のことは気にしないで・・・」
「ニナちゃん・・・ダメだよ！もしもこのままダークカオスに攻撃したら、ニナちゃんは！」
「お願い！・・今、ダークカオスを止めないと、世界は終わる！」
ニナの悲痛の叫びが、ジュンの心に響き渡る。
「ジュンくん、私はあなたを信じる・・あなたを信じている・・・あなたが私を信じているなら、私に構わず、ダークカオスを倒して！」
「ニナちゃん・・・！」
「あなたはあなたの願う世界のために、その剣を手にして・・・」
涙ながらに微笑むニナ。彼女の心境を感じて、ジュンは困惑を募らせる。
「あなたには、あなたを信じるたくさんの人々の思いがあるから・・・」
「ニナちゃん・・・」
ニナの思いを受けて、ジュンも心を決める。
「ありがとう、ミナミちゃん、ニナちゃん・・僕はみんなのために、戦うよ・・・！」
迷いを振り切ったジュンが、真剣な面持ちを見せる。その決意に、ミナミもニナも微笑んで頷く。
霧のように消えていく２人に、ジュンは心からの感謝を向けていた。
失っていた意識を取り戻し、ジュンは戦火の飛び交う虚空を眼にする。落ち着いた彼は、自身の気持ちを確かめていた。
（そうだ・・僕は多くの人たちと、たくさんの思いを交わしてきた。その思いと願いがあったから、今の僕がいる・・・）
決意を込めるジュンの右手が強く握り締められる。
（僕の背中には、僕を信じてくれているみんなの願いがある。）
「だからその願いに応える。僕の全てを賭けて！」
言い放つジュンの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。
ジュンの意思を受けて、倒れていたアテナが立ち上がる。そして猛威を振るうダークカオスに向かって飛翔する。
その接近にアリカたちやイオリは気付いていた。
「真っ向から飛び込んでくるとは・・血迷ったか、ジュン・セイヤーズ！」
ジュンの特攻をあざ笑うイオリ・ダークカオスがアテナに向けてビームを連射する。
だがジュンは回避も防御も行わず、ひたすら真っ直ぐに突き進む。ビームがアテナの翼や胴体に命中し、破損させていくが、それでもアテナは止まらない。
「みんなの願いを、お前に壊させるわけにはいかないんだ！」
「ジュンくん！」
たまらず叫ぶジュンとアリカ。彼の覇気にイオリが気圧されだす。
「バカな！本気で血迷ったのか!?ダークカオスには、ニナがいるんだぞ！」
イオリが毒づくが、アテナはさらに迫ってくる。
「ぐっ・・おのれ、ジュン・セイヤーズ！」
憤りをあらわにしたイオリ。ダークカオスがアテナに向けてビーム砲を発射する。
「撃たせない！」
そこへマイのカグツチがレール砲を放射し、ダークカオスの砲撃を阻む。だが衝突した２つの閃光はまばゆいばかりの爆発を引き起こし、アテナがその真っ只中に飛び込んだ。
閃光に抱かれて、アテナの胴体が崩壊を引き起こす。それでもアテナは止まらない。
アテナがついにここでビームサーベルを引き抜き、ダークカオスに向かって振りかざす。その光刃が、アテナの胸部の宝玉に突き刺さった。
次回予告
「これが、最後の切り札よ・・」
「この思い、届けるのは君だ・・」
「あなたなら、きっと叶えられる・・」
「みんな、新しく始めていく・・」
「そう・・これがみんなの・・・」