GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

FINAL PHASE「無限の光」

 

 

 アテナが振りかざしたビームサーベルが、ダークカオスの胸部の宝玉に突き刺さった。アテナはさらに光刃を振りかざし、ダークカオスから宝玉を切り抜いた。

 ダークカオスから切り離された宝玉を受け止めるアテナ。その宝玉の中にいるニナの姿を、ジュンは確かめる。

(ニナちゃん・・・よかった・・・)

 ニナの無事を直感して、ジュンが安堵を浮かべる。

 傷ついたアテナが自力で動けなくなり、力なく月面に落下する。

「ジュンくん!」

 アリカが悲痛の叫びを上げ、マイスターがアテナに向かって駆けつけようとした。

“アリカちゃん、早くダークカオスを!”

 そのとき、シスカからの通信が飛び込み、アリカが踏みとどまる。

「シスカさん!?

“マイスターの機動力と、バルディッシュのザンバーブレードを使えば、ダークカオスにとどめが刺せる・・・!”

 シスカの呼びかけを受けて、アリカがバルディッシュに眼を向ける。

“ダークカオスの攻撃で、バルディッシュの速さが落ちてるのよ。でもザンバーブレードはまだ生きてるから・・”

「シスカさん・・・」

“これを使って・・これが、最後の切り札よ・・”

 自分の意思をアリカに託すシスカ。

“そうだ。この思い、届けるのは君だ・・”

 そこへデュランからナツキの声が響いてきた。

「ナツキさん・・・!」

“ジュンの、マシロ姫の思いをムダにしてはいけない!アテナはシグナルロストになってはいない!彼を信じるんだ!”

“そうよ。あたしとナツキで注意を引き付けるから、その間にアリカちゃんは・・!”

 ナツキに続いてマイも呼びかけてくる。

“あなたなら、きっと叶えられる・・あたしたちの思いを・・・!”

「マイさん・・・分かりました・・私も信じます・・ジュンくんを、みんなを!」

 仲間たちの思いを背に受けて、アリカはダークカオスを見据える。バルディッシュからザンバーブレードを受け取り、マイスターが飛びかかる。

 動力源であるラグナログを切り離され、ダークカオスの機動力は限りなく減退していた。イオリの意思に反して、自由に動けなくなっていた。

「くそっ!まさかラグナログを切り離されるとはな!」

 イオリが吐き捨てるように毒づき、ダークカオスを動かそうと必死になる。そのとき、ダークカオスのレーダーが、マイスターの接近を感知する。

 イオリがモニターに眼を向けると、ザンバーブレードを構えるマイスターが迫ってきているのを目撃する。

「マイスター!?

 驚愕するイオリが、ダークカオスの機動を急ぐ。だが今のダークカオスに、マイスターの突進を回避する力は残っていなかった。

「くそっ・・ここまでなのか・・ここまでなのか、オレは!」

 断末魔の叫びを上げるイオリ。緊急脱出を行うレバーを引き、ダークカオスから脱出する。

 そのダークカオスに向かって、マイスターが飛びかかる。突き出したザンバーブレードが、ダークカオスの胴体を貫いた。

 持てる力の全てを使い果たしたアリカ。ザンバーブレードから手を放したマイスターが力なく落下する。

 その眼前で大爆発を起こすダークカオス。イオリの野心がきらめく閃光のようにまばゆい輝きを放っていた。

「やったよ・・ニナちゃん・・ジュンくん・・・」

 落下するマイスターの中で、アリカが喜びを感じていた。

 

 ダークカオスから放たれた脱出ポッドは、月面へと不時着した。強大な力と策略の全てを打ち砕かれたイオリがポッドから出てきて、憤慨をあらわにしていた。

 そこへ、大破したアテナから降りてきたジュンが現れた。イオリとジュンが、月面にて対峙する。

「これで終わりです・・イオリ・パルス・アルタイ・・・」

 ジュンが低い声音で言いかける。だが敗北を喫したにもかかわらず、イオリは不敵な笑みをこぼしていた。

「確かにオレは負けた・・ダークカオスという力を打ち砕かれ、ニナを人質にした絶対的勝利も破られた・・・だがこれで全てが終わったわけではない・・・」

 イオリが語りかけるが、ジュンは顔色を変えずに耳を傾ける。

「人間は心ゆえに、様々な感情と考えを持っている。その心ゆえに、対立、衝突、戦争が巻き起こる。それらを完全に押さえ込むには、強大な力、絶対的な存在が必要となる。」

「それは間違ってる・・自分の力でみんなを押さえつける・・これは、ただの独裁だ・・・!」

「だがこれこそ、世界から戦争を排除する唯一の手段だ。世界がひとつの勢力に委ねられ、統一されれば、戦争が起こることはなくなる。人が意味なく死ぬこともなくなる・・・!」

 イオリが眼を見開いて哄笑を上げる。だがそれでもジュンの表情は変わらない。

「でもそれじゃ、生きてることにもならない・・・」

「生きてることにならない?誰かが世界を束ねてやらないと、また戦争が起こる。そうなれば、人間は死にに行くようなものだ。」

「僕たちは、誰かに言われて生きているわけじゃない。自分たちが生きたいと考えて生きているんだ。自分で考え、自分で行動し、自分の力で幸せを掴み取る。それが本当の平和なんだ・・・」

 自分が見出した答えを告げるジュン。するとイオリが笑みを消して言い放つ。

「ならばお前はこの世界をどうしようというのだ!?互いの考えを尊重させていては、決して合意には結びつかず、結果戦争に発展する!中立などという中途半端なやり方で、お前はどう世界をまとめていくつもりだ!?

「確かに人は心のために矛盾している。心に強さも弱さも同居している。そんな不完全さが、人の象徴だよ。」

「その不完全さが戦争を招くと言っているんだ!お前は実現させられるのか、争いのない世界を!?お前なら誰も殺させないとでも言うのか!?

 ジュンの決意をあざけり、高らかと哄笑を上げる。

「そんなきれいごと、誰も実現できはしない!人を、世界を統一しなければ、お前の望む世界ですら築けない!支配があってこそ、世界は成り立つのだよ!ハハハハハ・・・!」

「僕もお前も、1人の人間だ!神様じゃない!できることには限界がある!それでも僕たちは、僕たちのできることを尽くして、生きていくんだ!」

 ジュンがイオリに対して、初めて感情をあらわにする。その声にイオリが哄笑を止める。

「それでも、みんなを助けたいという僕の気持ちに変わりはない・・眼に留まる人たちだけでも、僕は全力でみんなを助ける・・・その気持ちは、決して偽りじゃない・・・!」

「それが、お前の願いか・・・なら、どこまでやれるか、見させてもらうさ・・・!」

 イオリがジュンに向けて言い放つと、ポッドに左手を叩きつけた。その先のボタンが彼によって押される。

 その瞬間、イオリを中心にジュンの眼前の景色が白んだ。

「まさか・・!?

 ジュンが不安を覚えた瞬間、爆発による衝撃に押される。重力のない月面で押され、彼は体勢を崩されて宇宙に投げ出される。

 だが、そんな彼を、アリカの駆るマイスターが駆けつけ、受け止めた。その両手の中で、彼は我に返る。

「大丈夫、ジュンくん!?

「アリカ、ちゃん・・・ありがとう・・・」

 アリカの呼びかけにジュンが微笑みかける。そのとき、彼女は同様に宇宙に投げ出されたニナを発見する。

「ニナちゃん!」

 アリカの意思を受けたマイスターがニナに手を伸ばす。ニナを取り込んでいるラグナログを、マイスターの手が受け止める。

 その拍子で、ニナを閉じ込めていたラグナログが崩壊する。解放されたニナの裸身を、満身創痍のジュンが受け止める。

「ニナちゃん・・ニナちゃん!しっかりするんだ!」

 ジュンが必死の思いでニナに呼びかける。するとニナの眉がわずかに動いた。

「ニナちゃん・・・よかった・・よかったよ・・・」

 その一瞬を見逃さなかったジュンが大粒の涙をこぼし、ニナを抱きしめた。マイスターにいるアリカも、ニナの無事に涙を浮かべていた。

「アリカちゃん、すぐに船に戻ろう。ニナちゃんの介抱を・・・」

「うん・・・」

 ジュンの声にアリカが頷く。マイスター、カグツチ、デュラン、バルディッシュ、ブラッドをはじめとしたMSたちが、クサナギとジーザスに帰還していく。

 その途中、ジュンは月面に佇むアテナを見下ろしていた。イオリの脅威から世界を救った代償に、母の想いが込められた純白の機体は、その役目を終えた。

(ありがとう、母さん・・・ありがとう・・ミナミちゃん・・・)

 レナ、ミナミへの想いを感じて、ジュンは戦場を後にした。

 

 こうして、オーブ、ライトサイド、ダークサイドを中心に繰り広げられた戦争は終止符を打たれた。

 混沌軍を含めたダークカオスの面々は、世界侵攻の罪により身柄を拘束された。だがジュンたちの計らいにより、死刑にはならなかった。

 その後、世界各国はライトサイド、オーブを基点として、協定の輪を広げつつあった。1国の代表としてはまだまだ未熟な点があるものの、ジュンが尽力を注いだ成果が現れていた。

 そして今回の戦いにおける英雄たちは、それぞれの居場所へと帰っていった。

 マイとユウは彼女が経営しているカラオケレストランに帰り、ミコトとシホの出迎えを受けた。

 ナツキ、ミドリは星光軍、ジーザスに滞在し、チエ、アオイを伴って、ライトサイド防衛の任務を続けている。

 ユキノはオーブの代表として、中立の理念を守り抜き、奮闘している。

 イリーナはオーブ軍のオペレーターとして、軍と国のために働いている。

 シスカ、ジョージは一路、故郷へと帰還。平穏な日常を確立させつつ、オーブ軍のパイロットとして活躍している。

 カナデ、マーヤはオーブ軍所属のパイロットとなり、スワンはジュンとユキノの見解で保護観察処分となり、星光軍のパイロットとして、新たな一歩を踏み出すこととなった。

 

 そしてジュンは人々に迎え入れられ、ライトサイド党首として、その責務を全うしていた。そして現在、彼はニナの介抱のために軍を一時離脱していたアリカとの邂逅を果たしていた。

「久しぶりだね、アリカちゃん・・・」

 ジュンが声をかけると、アリカが微笑んで頷く。するとニナが眼を覚まし、ジュンに眼を向けてきた。

「ニナちゃん、もう大丈夫なの・・・?」

「マシロさん・・・はい。体のほうはもう大丈夫です・・」

 ジュンが訊ねると、ニナは悲しい笑みを浮かべて答える。するとジュンも微笑んで、

「僕はもう“マシロ”じゃないよ。」

「あ、すみません!私、その・・」

 ジュンの弁解に、ニナが動揺を見せる。その反応にジュンとアリカが微笑む。

 だがニナは再び沈痛の面持ちを浮かべる。

「・・・ごめんなさい・・・私のために、世界を危険にさらしてしまって・・・」

「ニナちゃん・・・謝るのは僕のほうだよ・・ニナちゃんの気持ちを考えなかったばかりに・・・」

 互いに謝罪の言葉を掛け合うニナとジュン。

「私のせいで、関係のない人たちを・・お父様まで・・・!」

 ニナの口にした言葉に、ジュンとアリカが沈痛の面持ちを浮かべる。

 ニナの父、セルゲイはイオリの策略に陥れられ、自分を偽ったオーギュストとともに命を落とした。決死の覚悟でイオリの野望を打ち砕こうとした彼の勇気を、ライトサイドとオーブは称えた。

「ニナちゃんに、これからも一生懸命に生きていってほしい・・セルゲイさんはそう願ってるんじゃないかな・・」

 ジュンが切り出した言葉にすぐに答えられなかったが、ニナは微笑んで小さく頷いた。

(そう・・お父様は、きっと遠くから私を見守っている・・私に、私たちに、これからの世界を生きていってほしい。そう願っていると、私も信じる・・信じている・・・)

 父からの思い、父への想いを胸に秘めるニナ。その胸に両手をやさしく当てて、その感覚を実感する。

「見守っていてください、お父様・・私はここから、また新しい一歩を踏み出します・・・」

 決意を囁くニナに、ジュンとアリカも微笑んで頷きあう。

「そう・・みんな、新しく始めていく・・未来に向かって、新しく歩き出していく・・・」

「うん・・それぞれの道を進みながら、平和という理念をともに掲げていく・・・」

 アリカとジュンが自分たちが歩もうとしている未来を見据える。

「自分の気持ちを伝えて、相手の気持ちに耳を傾ける。そのつながりが、平和を紡いでいく・・・」

「そう・・これがみんなの・・・」

 アリカに続いて言いかけるジュンが、部屋の明かりに手を伸ばす。

「・・無限の、光・・・」

 その明かりをつかむように、彼はその手を握り締めた。

 

 ライトサイド党首として、新たな一歩を踏み出そうとしていたジュン。オーブのターミナルステーションに向かう彼を、アリカが呼び止めた。

「ジュンくん・・・ひとつだけ、言わせて・・・」

 アリカが戸惑いをこらえて言いかけると、ジュンも真剣に耳を傾ける。

「私、ジュンくんにいろいろ助けられた・・ジュンくんの言葉に何度も励まされた・・・だから今度は、私がジュンくんを守るから・・・」

「アリカちゃん・・・」

 アリカの切実な想いに、ジュンは戸惑いを覚える。

「私も、誰かが苦しんだり辛い思いをしたりするのを見たくない。だから私も、みんなを守りたい。だから・・・」

 アリカは言いかけると、ジュンにすがりついた。彼女を優しく抱きとめて、ジュンは微笑んだ。

「アリカちゃんも、僕のことを何度も助けてくれた・・ううん、アリカちゃんやみんなが力を貸してくれたから、今の僕があるんだ・・・」

 ジュンの言葉にアリカが戸惑いを浮かべる。

「アリカちゃんのこの言葉、僕はとても嬉しい・・ありがとう・・本当にありがとう・・・」

 今度はジュンが眼に涙を浮かべる。そして彼女を強く抱きしめる。

「僕は守っていく・・君を、みんなを・・・」

「私もあなたを、みんなを守っていくからね・・・」

 ジュンとアリカが自身の決意を告げる。2人は顔を近づけ、互いの唇を重ねた。

 少年と少女の決意と想いが、2人の体と心を駆け巡っていた。

 

 オーブのターミナルステーションの整備ドックに赴いたジュン。彼は1体の機体の前で立ち止まり、顔を上げる。

(僕たちの戦いは、ここから始まるんだ・・みんなの幸せを守り抜くために・・・)

 自分の胸に手を当てて、ジュンは自身の思いを思い返す。

(みんな、それぞれの道を進んでいくけど、平和を願う気持ちは同じはずだから・・・)

 ジュンがじっと見つめている先にあるもの。それは彼の愛機となったアテナ・ホワイトメビウスだった。

 ダークカオスとの交戦で大破したアテナだが、その動力源であるクリスタルチャージャーは無傷だった。オーブはそのクリスタルチャージャーを回収し、時間と労力を費やして、新たなるアテナを完成させたのだった。

 培ってきた平和と人々の幸せのため、ジュンは再びアテナに搭乗しようとしていた。

(その気持ちを、無限の光を守るために、僕は歩き出す・・・)

 ユキノ、ニナ、アリカたちの見守る中で、ジュンはアテナに乗り込んだ。

(みんなの言葉に耳を傾け、僕の気持ちをみんなに伝えていく・・・)

 コックピットにて、システムのチェックを行うジュン。

(それが僕の、これからやるべきこと・・・)

 決意を固めるジュンが見据える先。アテナの眼前のハッチが開き、虚空が広がる。

「ジュン・セイヤーズ、アテナ、いきます!」

 ジュンの掛け声とともに、アテナが飛び立った。願いと幸せを紡ぐため、無限に続く光を目指して、白き翼が羽ばたいていった。

 

 

僕たちは進んでいく・・・

みんなの願いを未来に届けるため・・・

決して消えることのない、無限の光を掲げて・・・

 

 

作品集に戻る

 

TOP

inserted by FC2 system