GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-44「捕らわれのニナ」

 

 

 ダークカオスの攻撃を止めるべく、出撃を決意したジュンたち。上位レベルのMSたちが、カオスサイド領土に向けて突き進んでいた。

 彼らの前に、カオスサイドのMSたちが続々と姿を現してきた。

「邪魔しないでもらえないかしらね。」

「あんなの守って何の得になるっていうのよ。」

 マイとシスカが愚痴をこぼしながらも、真剣な面持ちになって眼前の機体の群れを見据える。カオスサイドのMSたちがアテナたちに向けて砲撃を開始した。

「全員、散開!一気に突破するぞ!」

「分かってるって!」

 ナツキの呼びかけにマイが答える。アテナたちが多方面に散らばり、カオスサイドの攻撃をかわす。

 カグツチとデュランがドラグーンを展開し、反撃に転ずる。降り注がれるビームの雨が、カオスサイドのMSたちを撃ち抜いていく。

 アテナも俊敏な動きでMSの戦闘力を奪っていく。その脅威的な戦術に、混沌軍はなす術がなかった。

「お前たちは下がれ。この戦いにいても邪魔なだけだ。」

 そこへ声がかかり、カオスサイドもライトサイドもオーブも攻撃を中断する。戦場の真っ只中に、混沌の機影が飛び込んできた。

「あれは・・・!」

「ダークカオス・・・!」

 ダークカオスの乱入に、ジョージとジュンが声を振り絞る。

「何度も言わせるな。お前たちは下がっていろ。」

「イオリ様・・・了解いたしました。」

 イオリの言葉を受けて、混沌軍が後退していく。その前線で、ダークカオスがアテナたちに振り返る。

「ようやくお出ましか。この力、お前たちにぶつけたくてウズウズしていたところだぞ。」

 イオリが言い放つと、ジュンがダークカオスを鋭く見据える。

「その眼で見るがいい。ラグナログを取り入れた最高の力、ダークカオスの姿を。たとえお前たちであろうと、なめてかかると痛い目を見ることになるぞ。」

「やめるんだ、カオスサイド!これはもう、ただの破壊だ!何もかも壊したら、何も残らない!」

 イオリに向けて、ジュンが通信回線を開いて呼びかける。だがイオリはジュンの言葉をあざ笑う。

「何も残らない?今の世界には何も残っていない。いや、この世界にあるのは、残すべきでない腐りきったものばかりだ。」

「何を言ってるんだ・・この世界には、かけがえのない大切なものがある。それを壊したら、平和や幸せまで・・・」

「そんなのは偽善だ。ただ振りかざすだけで、勝手なことをしているだけに過ぎない。」

 イオリの口にした言葉に、ジュンは愕然となり言葉を失う。

「ただ口にしていれば、その言葉通りになる。降りかかる反旗も政府の権限で跳ね返せる。そんな腐った連中が世界を掌握しているに過ぎないんだよ。オレはそんなクズの考えを受け入れるつもりはない・・オレはこんなゴチャゴチャした世界を制圧し、理想的な新しい世界を作っていくんだ。」

「そんな独裁政治、受け入れられるはずがない・・受け入れたら、生きてることにならなくなる・・・!」

「生きてることにならなくなるのは、力もないのに反抗する愚か者の末路だ。だがオレは違う。誰にも覆せない絶対的な力を手に入れ、世界をひとつにまとめあげる。」

 ジュンの切実な思いを見下すイオリ。

「弱い人間は利用されるしかないんだよ。トモエもフィーナも、スワンもニナもミナミも、オレがこの力を手に入れるための手駒に過ぎなかったんだよ。」

 イオリのこの言葉に、ジュンは驚愕を覚える。そしてその愕然さは、徐々に怒りへと変わっていく。

「ミナミちゃんは、あなたのことをずっと慕っていたんだ・・命の恩人だからって、その恩に報いるために必死になって、命がけで戦っていたっていうのに・・・それなのに、あなたは・・・!」

「それがどうした?所詮は手駒。オレがどう扱おうとオレの自由。別にお前が文句を言うことでもないだろ。」

「イオリ!」

 イオリの言葉にジュンの怒りは頂点に達した。アテナがダークカオスに向かって飛びかかり、ビームサーベルを振りかざす。

 ダークカオスはその一閃を手のひらのビーム砲で受け止める。そして腹部の発射口からビームを放ち、アテナを突き飛ばす。

「うっ!」

「マシロちゃん!」

 うめくジュンに、叫ぶアリカ。突き飛ばされたアテナを、マイスターが受け止めて支える。

「マシロちゃん、大丈夫!?

「アリカちゃん・・・う、うん・・・」

 心配の声をかけるアリカに、ジュンが笑みを作って答える。体勢を整えたアテナに、カグツチとデュランが近寄る。

「落ち着け。挑発に乗れば、それこそヤツの思う壺だ。」

 ナツキに呼びかけられて、ジュンは冷静さを取り戻す。怒りで我を忘れれば、イオリの格好の的となってしまう。

「あれは全身からビームを放てる。包囲されても退けることもでき、相手を近づけさせないようにもできる。」

「あの攻防一体の武装を何とかするには、その砲撃をすり抜けられる速さが必要。それが1番可能なのは・・・」

 ジョージとジュンが言いかけ、全員がジュンのアテナに向けられる。

「僕が活路を開く・・そして、みなさんがそこを射抜く・・」

 ジュンはそう告げて、ダークカオスを見据える。

「僕がイオリを引きつけます。マイさんたちは、その隙を突いてください。」

「任せといて、ジュ・・じゃない、マシロちゃん。」

 ジュンの指示に、マイは言い間違いしながらも微笑んで答える。

「どうした?もっとかかってこいよ。せめてオレを楽しませるくらいのことはしてくれよな。」

 イオリが不敵な笑みを浮かべて、アテナたちを見据える。するとアテナたちが散開し、各々の武器を手にする。

(散らばって多方面から仕掛けてくるつもりか・・だがムダだ。このダークカオスにそんな攻めは通用しない。)

 イオリは有利を感じて笑みを強める。ダークカオスに向けて先陣を切ったのはアテナだった。

「そうそう。そうやって攻めてきてくれないと迎え撃つ喜びが感じられないからな。」

 向かってくるジュンに、イオリが悠然とした態度を見せる。だがアテナはダークカオスの前を通り過ぎるだけで、何の攻撃も仕掛けない。

 その行動に疑問を感じながらも、イオリはアテナを追う。胴体の発射口からビームを放つが、アテナは並外れた速さを駆使してこれをかわしていく。

「ちょこまかと子虫みたいに・・そういうのは面白くないな。」

 イオリは毒づきながら、アテナに向けてさらに砲撃を続ける。ビームの雨を、アテナは次々とかいくぐっていく。

 そこへデュランがクロームマテリアによる砲弾攻撃を、マイスターがレイをそれぞれ発射する。それにイオリが気付き、ダークカオスがビームを放ちながら回避する。

 しかしこれでイオリの注意が散漫となる。そこを狙って、アテナのバルディッシュとジョージのブラッド、さらにカナデとマーヤのドムトルーパーが飛びかかる。

 ザンバーブレードによる一閃をかわし、さらなる突進をすり抜けていくダークカオス。だがイオリは徐々に追い詰められつつあった。

 カグツチとアテナがドラグーンを展開し、ダークカオスにさらなる攻撃を加える。回避行動を行うダークカオスだが、一条のビームが機体の左肩をかすめた。

 その瞬間にイオリは驚愕を覚える。最強の強さを誇るはずの機体が、初めてその胴体に傷を付けられたのだ。

 ダークカオスはビームを放ちながら後退し、アテナたちとの距離を取る。

「さすがはクリスタルチャージャーのMSだ。このダークカオスを脅かすとはな・・」

 相手の勢力に脅威を感じながらも、イオリは不敵な笑みを崩していなかった。

「お前たちの力は褒めておいてやる。だが、お前たちに待っているのは勝利ではなく、完全なる敗北、それだけだ!」

 イオリが言い放ち、ダークカオスが飛びかかる。デュランを標的にして、混沌の機体が手を伸ばす。

 手のひらからビームを放とうとするダークカオスの攻撃を、ナツキの駆るデュランがかわす。

「チャージシルバーマテリア!」

 そしてデュランが銃砲から閃光をダークカオスに向けて放つ。ビームで迎え撃つも、ダークカオスはその爆風で突き飛ばされる。

 そこへバルディッシュが飛びかかり、ザンバーブレードを突き出してきた。その光刃がダークカオスの左腕をなぎ払った。

「やった!ダークカオスを追い詰めてますよ!」

 クサナギにて、イリーナが喜びの言葉を上げ、ユキノも微笑む。

「くっ・・・まさかダークカオスにここまで傷を負わせるとはな・・・だが!」

 いきり立ったイオリ。ダークカオスが全身からビームを放射し、周囲の相手を狙う。

 そのビームのひとつが、マーヤの乗るドムトルーパーの右肩を射抜いた。

「うわっ!」

「マーヤ!」

 うめくマーヤにカナデが叫ぶ。ブラッドがビームショットを放ち、ダークカオスの注意を引きつける。

 すぐに体勢を立て直したものの、ドムトルーパーが戦闘に支障を来たすほどの負傷を被ったため、マーヤは毒づいていた。

“マーヤ、大丈夫か!?”

「ジョージ・・うん、私は平気。でもドムが・・」

 ジョージの呼びかけにマーヤが答える。

“マーヤ、お前はひとまず下がれ。その状態で戦闘を続ければ、命を脅かされるぞ。”

「う、うん、分かった・・・クサナギ、いったん戻るよ。」

“分かりました。ドム、マーヤ機、帰還します。”

 ジョージの言葉を受け入れたマーヤはクサナギに呼びかけ、イリーナが答える。ドムが戦線を離脱し、クサナギに戻る。

 距離を置いてアテナたちを見据えるダークカオス。一進一退の戦況と見て、ジュンは身構えていた。

「相手は確かに強力です。でも、僕たちが力を合わせれば、何とかできない相手じゃない・・」

「動力源としているラグナログを切り離せれば、一気に勝負を付けられる。」

「マシロちゃんたちで隙を作って、私とシスカさんがラグナログを・・・」

 ジュン、ナツキ、アリカが言いかける。

「どんな相手にも弱点のひとつぐらいはある。」

「アリカちゃん、シスカちゃん、任せたからね。」

 シスカとマイが言いかけ、アリカが頷く。シスカも小さく頷いて、混沌の機体に眼を向ける。

「いきますよ、みなさん!」

 ジュンの呼びかけにアリカたちが頷く。アテナがまたも先行して、ダークカオスに向かう。

「バカのひとつ覚えみたいに、懲りずに突っ込んでくるとは!」

 いきり立ったイオリが、アテナの動きを鋭く見据える。アテナがダークカオスの横をすり抜けつつ、ビームライフルとドラグーンを発砲する。

 ダークカオスはそれを身を翻してかわし、全身からビームを放って迎撃する。アテナも迫り来るビームを素早い動きでかわしていく。

「今だ、アリカちゃん、シスカさん!」

 ジュンの呼びかけにイオリが眉をひそめる。アテナに注意が引き付けられていたダークカオスに、エクスカリバーを手にしたマイスターが飛びかかってきた。

 マイスターの速さも相まって、ダークカオスを駆るイオリは完全に虚を突かれる形となった。

 そのとき、アリカは眼を疑った。ダークカオスの胸部の宝玉の中に驚きを覚えたのだ。

 その結果、マイスターの攻撃はダークカオスに簡単にかわされた。いや、マイスターの攻撃は標的を完全に外していた。

 ダークカオスが反撃に転じ、ビームを連射する。ビームシールドで防ぐも、マイスターはその衝撃に押される。

「アリカちゃん!?

 決定打を与えられなかったアリカに、ジュンがたまらず声を荒げる。アテナがマイスターに駆け寄り、その胴体を支える。

「どうしたの、アリカちゃん!?

「・・あの中に・・あの中に、ニナちゃんが・・・!?

 ジュンの呼びかけに、アリカは声を震わせながら答える。その言葉にジュンはダークカオスに眼を向ける。

 不意打ち、反撃を受けないよう警戒しながら、ダークカオスに接近しようとするアテナ。やがてその胴体の宝玉の中を直視し、ジュンも驚愕する。

「ニナちゃん!?

 彼の声を耳にして、マイたちも驚愕する。クサナギやジーザスの作戦室のモニター画面に、ダークカオスの宝玉の中で閉じ込められているニナの姿が映し出される。

「ニナちゃん・・・どうして、あの中に・・・!?

 イリーナがたまらず声を荒げる。何とか気持ちを落ち着かせようとしながら、彼女は改めてダークカオスの分析を行う。

「これは、ラグナログの特徴です・・ニナちゃんは、ラグナログと完全に同化しています。」

「つまり、ニナちゃんそのものがダークカオスのエネルギー源になっていると・・・」

 イリーナの報告にユキノは固唾を呑む。

「ということは、下手にダークカオスを攻撃したら・・・」

 ジーザスのミドリも、一抹の不安を口にする。迂闊にラグナログを傷つければ、ニナの命が危うくなる。

「そんな・・・ニナちゃんが・・ニナちゃんが・・・!」

 アリカが悲痛さをあらわにすると、イオリが眼を見開いて哄笑を上げる。

「そうだ!これがオレの勝利の鍵だ!お前たちはかつての仲間を手にかけられない、甘い連中だからな!」

「卑怯だぞ、貴様!」

「何とでも言え!戦いでは勝利こそ全て!勝利をつかめれば、全ての結果が有利なものとなる!」

 言い放つナツキだが、イオリはさらにあざ笑う。ニナは全裸の姿で、触手に絡め取られた状態で宝玉の中に閉じ込められていた。

「ニナちゃん・・・ニナちゃん!」

 捕らわれのニナを眼にしたジュンの悲痛の叫びが、宇宙にこだました。

 

 カオスサイドの研究施設の奥にある牢獄。その1室にセルゲイは閉じ込められていた。彼は生存に支障のない食事を与えられていたが、牢獄から一歩も外に出られない状態にあった。

 だがこの日の牢獄はいつにも増して静かだった。あまりに静寂に感じられて、見張りの兵士が不審さを感じていた。

 監視ルームにいた兵士がモニターをセルゲイのいる牢獄に切り替え、中の様子を確かめる。すると牢獄の中でセルゲイは横たわり、動かなくなっていた。

「おい。どうした、セルゲイ・ウォン?」

 兵士がマイクで呼びかけるが、セルゲイは微動だにしない。兵士は苛立ちを覚えながら、直接牢獄に赴くことにした。生かしたままにしておくようイオリに言われていたため、兵士は放置することができなかった。

「おい、セルゲイ、返事をしろ!」

 兵士が乱暴に牢獄の扉を叩くが、それでもセルゲイは反応しない。兵士は仕方なく、固く閉ざされている扉の鍵を開けることにした。

 兵士はセルゲイに歩み寄り、その身辺を確かめる。

 そのとき、突然セルゲイが起き上がり、眼を見開いた兵士の腹部に拳を叩き込んだ。痛烈な打撃を受けた兵士がその場に倒れ込む。

 これはセルゲイの狙いだった。昏倒したと見せかけて兵士を近づけさせ、扉を開けさせようとする魂胆だった。

(ここまで段取りを入れるのに苦労したぞ。これもナギ殿下の下にいた影響かもしれないな。)

 胸中で苦笑しながら、セルゲイは兵士の身辺を確かめる。そして上着の内ポケットから牢獄の鍵を奪い、彼は牢獄を後にした。

 

 

次回予告

 

「イオリには、ニナさんという切り札がある・・・」

「仲間が捕まってるから、ライトサイドもオーブも、本気でアイツを倒そうとしないんだ!」

「世界の人たちは、逃げ惑ってるっているのに!」

「みんなそのときの状況で、簡単に手のひらを返す・・」

「いったい僕たちは何のために戦ってきたんだ・・・!?

 

次回・「ライトサイドの失墜」

 

 

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