GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-43「凶悪無比のダークカオス」
突然の第9コロニーの壊滅は、全世界に衝撃を与えた。ラグナログを組み込んだ新兵器が、牙を向こうとしていた。
クサナギやジーザスでも、その脅威に深刻さを隠せないでいた。
「これは大変なことになってきたね・・カオスサイド、物騒なマネしてくれるじゃないの・・・」
ミドリがこの状況に、歯がゆさを感じていた。それはナツキもユウも同様だった。
「イオリめ、全世界を敵に回すつもりか・・これは国同士の争いではとても済まされない。」
「この分じゃ、黙っちゃいない連中が出てくるだろうな。これだけの騒ぎで全員が大人しくしていられるとは思えねぇな。」
ジーザスの作戦室は困惑に包まれていた。世界規模の問題のため、迂闊に結論を急ぐことができないでいたのだ。
「ところで、各国の動きはどうなっているんだ?」
ナツキが問いかけると、アオイがモニターに地図を提示する。
「他国もまだ目立った動きを見せていないわ。他にとっても、事が大きいだけにみんな慎重になってるみたい・・」
「・・・あまり、派手な行動を取る勢力が出なければいいが・・・」
あごに手を当てて、ナツキが不安を口にする。
そのとき、アオイは新たに飛び込んできた情報に緊迫を募らせる。
「マウン、フィーラが動きました!カオスサイド領土に進行しています!」
「何だとっ!?」
その報告にナツキが驚愕する。そこへマイとチエがやってきて、ミドリたちの緊迫に気付く。
「どうかしたの、ナツキ、ミドリちゃん・・・!?」
マイの声に、ミドリたちが深刻な面持ちを見せる。現状を聞いて、マイもチエも緊迫を覚えた。
カオスサイドの進撃に痺れを切らし、2つの国家、マウンとフィーラが軍隊を派遣した。カオスサイドの新兵器を押さえるため、彼らはその領土内に踏み込んだ。
部隊の接近に気付いて、イオリは笑みをこぼしていた。
「バカなヤツらだ。わざわざ死にに来るとはな。」
イオリは向かってくる相手をあざ笑うと、新機体へと乗り込んでいった。
「お前たちは手を出すな。状況だけを報告すればいい。」
“了解しました、イオリ様。”
イオリの呼びかけに研究施設のオペレーターが答える。データチェックを済ませ、彼は発進に備える。
「イオリ・パルス・アルタイ、ダークカオス、いくぞ!」
イオリの呼びかけとともに、混沌の機体、ダークカオスが宇宙へと飛び出していった。
「研究施設から、1機のMSが現れました!」
その機影を捉え、マウンの旗艦にてオペレーターが呼びかける。
「よし!MS全機、出撃!フィーラと協力して、あの機体を押さえろ!撃ち落としても構わん!」
マウンの指揮官が部下たちに指示を送る。艦隊から次々とMSたちが出撃し、ダークカオスに向かっていく。
「身の程知らずとはまさにこのことだな・・・いいだろう。この絶大な力、全ての者に存分に見せ付けるがいい、ダークカオス!」
イオリは言い放つとダークカオスを駆り、迫り来るMSの群れの真っ只中に飛び込んだ。
MSたちがビームライフルやビーム砲でダークカオスを狙う。だがダークカオスはその砲撃をものともせず、全身から無数のビームを放ってMSたちを撃ち抜いていく。
「どうした!せめてオレを手こずらせるくらいの抵抗は見せてくれよな!」
イオリが哄笑を上げながら、MSたちだけでなく、艦体も次々となぎ払っていく。マウンもフィーラもダークカオスの力になす術がなく、撤退することもままならなくなっていた。
結果、マウンとフィーラが投入した全部隊が、ダークカオスによって簡単に全滅させられてしまった。
「ついにオレの時代がやってきたぞ。ラグナログの力を得たオレに敵うものはない・・オレが、この腐りきった世界を塗り替えてやるぞ・・・!」
崩壊の傷痕を残した虚空に、イオリの狂気に満ちた哄笑が高らかと響き渡っていた。
マウンとフィーラが派遣した部隊の全滅に、世界はまたしても震撼した。ミドリたちジーザスのクルーとユキノたちクサナギのクルーたちが、この事態に対して話し合いを持ちかけていた。
「だから早まるなと言ったんだ・・これでまた世界が混乱を来たすぞ・・・!」
「もう急いだほうがいいですよ、みなさん!これじゃ、また誰かが傷ついて・・・!」
ナツキが毒づき、アリカが声を荒げる。
「落ち着いてください、アリカさん。迂闊に出て行けば、マウンやフィーラの二の舞になります。」
そんなアリカを、ユキノが真剣な面持ちで言いとがめる。
「だけど、このまま放っておいたら、僕たちが何もしなくても、カオスサイドは何かを仕掛けてきますよ。」
そこへジュンが呼びかけ、マイたちも困惑を隠せなくなっていた。
「ともかく、まずはカオスサイドの新機体のデータを分析する必要がある。」
「そうだな。そのほうが対処法も分かるかもしれねぇ。」
ジョージが案を持ち出すと、ユウもそれに同意する。
「そうですね・・今はカオスサイドの動向を伺いつつ、情報の入手と分析を行いましょう。」
ユキノの呼びかけにミドリとジュンが真剣な面持ちで頷く。ここで出た結論は、カオスサイドの出方を伺う慎重なものだった。
そしてジュンたちは、それぞれの艦に戻っていった。クサナギの廊下で、ジュンはアリカに呼びかけられて足を止めた。
「マシロちゃん・・辛いよね・・・」
「うん・・でも辛いのは僕だけじゃないはずだよ・・・」
沈痛な面持ちを見せるアリカに、ジュンは微笑を作って答える。
「ニナちゃんもカオスサイドにいる。カオスサイドの脅威に、世界中の人々が慌てている・・カオスサイドの矛先が、どこに向くか分からない・・・」
「マシロちゃん・・・」
「だけど、このまま放っておくこともできない・・カオスサイドの破壊活動を止めて、ニナちゃんも助け出す。大丈夫。ニナちゃんに、僕やアリカちゃんの気持ちは届いているから・・・」
ジュンの言葉を受けて、アリカが戸惑いを覚える。
「私、ニナちゃんを信じてる。オーブ軍の一員となって初めての友達だから・・・それに・・・」
アリカは言いかけて、ジュンに倒れ込むように寄り添ってきた。
「マシロちゃんのことも、信じてるから・・・」
「アリカちゃん・・・」
アリカの切実な思いを、ジュンは理解しつつあった。しかし彼は彼女の思いを素直に受け入れられないでいた。
「ゴメン、アリカちゃん・・・僕は母さんを、ミナミちゃんの気持ちを無駄にするわけにはいかないんだ・・・」
「うん・・・でもこの気持ち、自分でも止められない・・どうしちゃったのかな・・・」
アリカが突然ジュンに寄り添い、優しく語りかける。
「もしかしたら私、マシロちゃんのことが・・好きなのかもしれない・・・友達とかの意味じゃなくて・・本当に・・・」
「アリカちゃん・・・?」
アリカの言葉に、ジュンは戸惑いを感じていた。彼女のこんな一面を見るのは初めてだったからだ。
困惑を抱えたままだが、ジュンは何とか微笑みを見せた。
「ありがとう、アリカちゃん・・・でも、僕にはまだ、やらなくちゃいけないことがあるんだ・・・」
その言葉を、アリカは素直に受け取ることができなかった。ジュンへの想いと自分がすべきこととの葛藤にさいなまれ、彼女はすぐに答えを出すことができなかった。
ジーザスではユキノたちオーブ軍と連絡を取りながら、カオスサイドの新兵器、ダークカオスについて調査を行っていた。その恐るべき性能に、ジーザスのクルーたちは固唾を呑むばかりだった。
「なんて兵器なの・・・これは、完全な破壊の力じゃないの・・・!」
ダークカオスのデータを目の当たりにして、マイが驚愕の声を上げる。
「攻撃力、耐久力、スピード、これまで出てきたカオスサイドの兵器の性能をはるかに上回っている・・・ラグナログを動力源としているから、そのエネルギーは無尽蔵・・・」
「全身にビーム発射口があり、そこから無数のビームを発射する。しかも胸部の宝玉からビーム砲を放つ。その威力は、戦艦の陽電子砲と同等、あるいはそれ以上・・・」
アオイもチエもダークカオスの脅威に驚きを隠せなかった。
「もしもそいつが本気で暴れたら、どうなっちまうんだ・・・!?」
ユウが声を振り絞って問いかけると、アオイはデータに基づいてシュミレーションを推測する。
「もしもダークカオスが全力を出せば、地球クラスの惑星を、わずか1日で壊滅することが可能でしょう・・・」
その言葉に、その場にいた全員が言葉を失った。今、世界の前に、絶大な破壊力を誇る大敵が立ちはだかっていた。
「だけど、あたしたちには、カグツチが、クリスタルチャージャーを備えた仲間がいる・・・」
そこへマイの声がかかり、それを受けてナツキも微笑む。
「そうだな・・クリスタルチャージャーも、無限の可能性を導き出すエネルギー体。私たちには、まだ希望は残されている・・・」
「そうだね。やってみる価値はあるね。私とユキノちゃんたちで一気に追い込んでいけば、何とかできない相手じゃないよ
ミドリも続けて言いかけると、全員が自信を取り戻して頷いた。
「ユキノちゃん、そういうわけだから、体勢が万全になったら、出るようにみんなに伝えて。」
“ミドリさん・・・分かりました。みなさんにはそう指示しておきます。ミドリさんたちも、休養を十分に取っておいてください。”
ミドリの呼びかけに、ユキノがモニター越しに頷き、連絡を終える。ミドリもアオイもカオスサイドの動向を警戒しつつ、束の間の休息を取ることとなった。
カオスサイドの研究施設に向かう1機の機体。それはトモエの駆るカオススーツFだった。
トモエはオーブやライトサイドに身柄を拘束されることなく、生き残った整備員に破損したカオススーツを修理させ、イオリと合流しようとしていた。
「私は混沌軍のトモエ・マルグリッド。すぐにハッチを開けなさい。」
トモエが呼びかけると、施設の滑走エリアのハッチが開かれる。カオススーツFがその出入り口に入ろうとしたときだった。
カオススーツFのレーダーが巨大なエネルギーを感知する。それに気付いたトモエが降下を中断して上空を見上げる。
その先の宇宙から姿を現す機影。イオリの駆るダークカオスだった。
「トモエ、生きていたか。しぶといというか、執念深いというか。」
イオリが悠然と言いかけるが、トモエは不敵な笑みを崩さない。
「イオリ、そのMSは何なの?ずい分すごいものに乗ってるじゃないの・・」
「驚いたか?ラグナログを組み込んだカオスサイドの最終破壊兵器、ダークカオスだ。この強大な力を手にしたオレに、向かうところ敵はない。」
イオリが哄笑を上げると、トモエも続けざまに哄笑を上げる。
「それはそれは。さぞかし嬉しいことでしょうね・・私にも楽しませてもらえないかしら?」
「フフフフフ・・残念だが、これはオレの力だ。お前には手に余るものだ。」
あざ笑ってくるイオリに、トモエの笑みが次第に憤怒の表情に変わる。
「ホント・・すばらしいの一語・・すばらしいくらいに愚かだわ!」
トモエのこの怒号に、イオリは笑みを消す。
「その強力な機体、私が手に入れてみせますわ!」
「やってみるがいい。やれるものならな。」
いきり立つトモエに、イオリは不敵に言い放つ。カオススーツFがダークカオスに向かって飛びかかる。
この突撃を、ダークカオスは簡単にかわす。そして振り返ったカオススーツFに向けて一蹴を見舞う。
「ぐっ!」
突き飛ばされたトモエが顔を歪めてうめく。ビームを放てるところを遊んでいる様を目の当たりにして、彼女はさらに苛立ちを募らせた。
「調子に乗ってんじゃないわよ・・すぐにそんな余裕が叩けないようにしてやるわよ!」
トモエが言い放ち、カオススーツFがドラグーンを展開する。さらに2つのビームライフルを手にして、連結してロングライフルとして構える。
ドラグーンとロングライフルからいっせいにビームが放たれる。そのビームの雨を、ダークカオスは難なくかいくぐっていく。
「どうだ?これがダークカオスの力だ。言っておくが、お前にとりあえずは花を持たせてやろうと遊んでやっているというのに、これでは遊んでやっている意味がなくなってしまうぞ。」
「うるさい!」
あざ笑うイオリに反発するトモエ。カオススーツFがビームサーベルを構えて、ダークカオスに飛びかかる。だがダークカオスは両手のひら放たれたビーム砲で、混沌の光刃を軽々と受け止める。
「調子に乗っているのはお前のほうだ、トモエ・マルグリッド。お前はオレが勝利を手にするための駒に過ぎないというのに。」
「駒・・!?」
鋭く告げるイオリに、トモエが眼を見開く。
「そうだよ。お前たちはオレの手駒。使われるだけ使われて、最後はお払い箱となる存在なんだよ。それ以上でもそれ以下でもない。お前も、フィーナもスワンも、ミナミもニナもだ。」
「イオリ!お前は私を!」
イオリの言葉に、トモエの怒りは頂点に達した。カオススーツFが全てのレール砲を、ダークカオスに向けて発射する。
「せめてもの手向けだ。華々しく散るがいい!」
イオリが言い放つと、ダークカオスが宝玉からビーム砲を解き放つ。ダークカオスの砲撃はカオススーツFのビームを打ち破り、さらに伸びていく。
「なっ・・・!?」
驚愕するトモエの駆るカオススーツFを、光の奔流が貫いた。
「おのれ・・おのれぇぇぇーーー!!!」
閃光に包まれて、トモエが断末魔の叫びを上げて、カオススーツとともに消滅した。その最期を、イオリが眼を見開いて笑いを上げていた。
「この最高の力、存分に理解してから死んでいけ!ハハハハハ・・!」
イオリとダークカオスの脅威を、カオスサイドだけでなく、世界も再確認することとなった。
一夜が明け、十分な休養と修復を得て、クサナギとジーザスは発進した。ダークカオスの脅威を食い止めるため、ジュンたちは立ち上がろうとしていた。
このままダークカオスが猛威を振るえば、世界は崩壊し、混沌に満たされてしまう。そんな場所に、幸せや平和などあるはずもない。
「体調も万全。修理も完了。バッチリだね♪」
アリカが笑顔を振りまくと、ジュンも微笑んで頷く。
「行こう、アリカちゃん、みなさん・・・僕たちが、ダークカオスを・・・」
ジュンの呼びかけにアリカ、ユキノ、イリーナ、シスカ、ジョージ、カナデ、サラが頷く。やがてクサナギとジーザスはカオスサイド領土内に踏み入ろうとしていた。
その接近に気付いたカオスサイド。ザクウォーリア、グフイグナイテッドが続々と姿を現してきた。
「出てきたわね。わんさかわんさかって。」
ミドリが笑みをこぼして、混沌の勢力を見据える。
「MSパイロットは搭乗機へ。準備完了次第、発進してください。」
「はいっ!」
ユキノの指示にジュンたちが答え、作戦室を飛び出す。ジーザスでもマイたちがそれぞれの機体に乗り込んでいた。
“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・”
「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」
「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」
「シスカ・ヴァザーバーム、バルディッシュ、いきます!」
「ジョージ・グレイシー、ブラッド、出るぞ!」
アテナ、マイスター、バルディッシュ、ブラッド、そしてドムトルーパー2機がクサナギから発進する。
「マイ・エルスター、カグツチ、いきます!」
「ナツキ・クルーガー、デュラン、GO!」
「ユウ・ザ・バーチカル、グフ、出るぞ!」
カグツチ、デュラン、銀色のグフイグナイテッドもジーザスから発進する。カオスサイドの最大の侵略を止めるべく、ジュンたちの戦いが始まろうとしていた。
次回予告
「さすがはクリスタルチャージャーのMSだ。」
「このダークカオスを脅かすとはな・・」
「だが、お前たちに待っているのは勝利ではなく、完全なる敗北、それだけだ!」
「ニナちゃん!」