GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-40「雷光の一閃」

 

 

 カオスサイドの陰謀を止めるため、全力疾走を続けるバルディッシュとブラッド。だが2機の前に、ワルキューレたちが続々と立ちはだかってきた。

「もう、本当にしつこいわね!私たちは、あなたたちの相手をしている暇はないのよ!」

 シスカが苛立ちの言葉を口にして、バルディッシュがザンバーブレードを手にする。巨大な剣を振りかざす金色の機体に、ワルキューレ部隊に動揺の色が表れる。

「真っ二つにされたくなかったら、すぐに道を開けなさい!私はマシロさんのように甘くはないですから!」

 シスカが忠告を送るが、ワルキューレたちは聞かずに攻撃を仕掛ける。シスカは毒づきながら、迫ってくるワルキューレたちを両断した。

 

 カグツチと対峙するカオススーツD。しかしカグツチに劣勢を強いられ、スワンは余裕を失っていた。

「カオススーツの力が通じないなんて・・このまま負けっぱなしは納得いかないわよね・・・!」

 スワンがいつもの態度を崩していきり立ち、敵意をむき出しにする。カオススーツDがアロンダイトビームソードをカグツチに向けて振り下ろす。

 カグツチは2本のビームサーベルでその一閃を受け止めつつ、飛翔して回避する。カオススーツDが飛び上がったカグツチを見上げる。

「やってやるわよ・・このカオススーツの力をフルに引き出すいい機会じゃないの。」

 おもむろに笑みをこぼして、スワンが身構える。カオススーツDが高エネルギー長射程ビーム砲をカグツチに向ける。

 カグツチもレール砲を構え、2機が同時に閃光を放つ。互いの砲撃は相殺され、爆発を引き起こす。

 そのきらめきの中からカオススーツDが飛び出し、カグツチに向けて手を伸ばしてきた。手のひらには掌部ビーム砲「パルマフィオキーナ」が装備されている。

 その突然の奇襲を、カグツチはビームシールドを展開して防ぐ。そして展開したドラグーンでカオススーツを狙う。

 スワンはとっさに反応し、カグツチから離れてドラグーンによる砲撃をかわす。だが距離を取ると同時に、カオススーツはビームブーメランをカグツチに向けて放つ。

 ビームシールドでその攻撃を防いだものの、突き飛ばされて体勢を崩すカグツチ。そこへカオススーツDがアロンダイトビームソードを突き出してきた。

「終わりよ!」

「くっ!」

 言い放つスワンと毒づくマイ。感情を高ぶらせたマイの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 カグツチの動きが機敏となり、カオススーツが突き出した刃を紙一重でかわす。そしてレール砲をカオススーツに向けて発射する。

 至近距離による砲撃での爆発で、カオススーツDだけでなく、カグツチも爆風に吹き飛ばされる。2機は体勢を立て直し、マイとスワンが相手を見据える。

「動きがよくなっちゃって・・こういうの、すっごく厄介なのよねぇ。」

 思わず苦笑を浮かべるスワン。だが戦いを諦めているわけではなく、早期の決着を狙っていた。

 ビームライフルによるけん制を交えて、カグツチの隙をうかがうスワン。そしてカオススーツの放ったビームブーメランが、再びカグツチに命中し突き飛ばす。

 それを好機と見て、スワンの駆るカオススーツがアロンダイトビームソードを構えて飛びかかってきた。だがカグツチがとっさにレール砲を放ち、大剣の刀身を集中砲火で叩き折った。

「なっ・・・!?

 とどめの一撃を打ち破られ、さらに主力武器を壊され、スワンは驚愕する。そこへカグツチが全てのレール砲を発射する。

 胴体を閃光が貫き、カオススーツDが爆発を引き起こす。

「キャアッ!」

 その爆発がコックピットにまで及び、スワンが悲鳴を上げる。カオススーツDが戦闘不能となり、地上へと落下していった。

 混沌の機体の落下を目の当たりにしながらも、マイはカオスサイドの策略を止めるべく、再び動き出すのだった。

 

 フィーナの駆るカオススーツJと交戦するデュラン。遠距離からの砲撃を試みようとするナツキだが、フィーナはあくまで接近戦に持ち込もうとしていた。

「あなたの戦術は分かりきっていますよ、ナツキさん、デュラン。遠距離攻撃主体の相手なら、それをさせないのが定石。」

 フィーナの言葉に毒づくナツキ。接近戦にも対応できるものの、砲撃主体であることも事実。

「ならば活路を開いてやる。もうこれ以上、お前たちの勝手にはさせられない!」

 言い放ったナツキの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 デュランの動きが機敏となり、フィーナはさらに警戒心を強める。距離を図ろうとしながらも、デュランは迫ってくるカオススーツJに対して近距離での迎撃も仕掛けてきていた。

「やはりデュラン。ダークサイドとの戦いを渡ってきただけのことはあるわね・・でも、私も混沌軍の一員。簡単に引き下がるわけにはいかない!」

 フィーナも眼つきを鋭くして、デュランに対して全てを賭ける覚悟を決める。

 カオススーツが背に設置されている大型飛行ユニット「ファトゥムカオス」を分離、発射する。近距離に長けるカオススーツJが、デュランに対して遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 デュランが距離を取りながら、ファトゥムカオスを回避する。

 だがこれは囮だった。

 カオススーツJが一気に間合いを詰め、両腕から発したビームブレイドを振り下ろしてきた。

「くっ!」

 毒づくナツキ。デュランがとっさに銃砲を構えて迎撃を図る。砲撃はカオススーツの光刃と衝突し、爆発と衝撃をもたらす。

「ぐっ!」

 2機が衝撃に押され、ナツキとフィーナがうめく。

「チャージフラッシュマテリア!」

 デュランがカオススーツJに向けて閃光弾を放つ。瞬いた光はフィーナの視界をさえぎり、さらにジャミングの効果がかかりレーダーをも狂わせる。

 身動きが取れなくなってしまったカオススーツJが、遠距離攻撃に備えて身構えていた。

 そこへデュランが双刃のビームサーベルを構えて飛びかかってきた。フィーナが予想していなかった奇襲が、カオススーツJの左肩を叩く。

「ぐっ!・・このまま負けるわけにはいかない・・カオスサイドが切り開く未来、私が切り開くのだから!」

 いきり立ったフィーナ。カオススーツJが両腕のビームブレイドを高らかと振り上げ、デュランを狙う。

 デュランはビームサーベルを掲げて、カオススーツの一閃を受け止める。力押しをするカオススーツだが、デュランも踏みとどまる。

 そこへカオススーツJがビームブレイドによる一蹴を繰り出す。

「この一撃を撃ち込むには、今しかない!・・チャージクリスタルマテリア!」

 ナツキはその攻撃に構わず、カオススーツJへの砲撃を狙う。デュランの銃砲の銃口が、カオススーツJの胴体にほぼ密着するように向けられる。

(相殺覚悟!?いえ、相手は自分の左腕だけを捨てて、私に決定打を与えようとしている・・・!)

 フィーナがナツキの狙いとデュランの動きにさらに驚愕を募らせる。だが既に一蹴に体勢に入っており、建て直しが利かない。

 カオススーツの一蹴がデュランがかざした左腕を切り裂く。同時にデュランの銃砲からまばゆいばかりの閃光が轟く。

 流星のような砲撃がカオススーツJの胴体を貫いた。そのコックピット内も閃光に包まれ、フィーナは眼を見開いた。

(イオリ・・あなたがどのような未来を目指しているのか、その結末を見させてもらうわ・・・)

 死を確信したフィーナが微笑を浮かべる。彼女の姿が白み、カオススーツJが空中で爆発、消滅した。

 命を散らした敵機の最期を見据えて、ナツキは歯がゆさを覚えていた。だが感傷に浸っている場合ではない。一刻も早く、カオスサイドの思惑を阻止しなくてはならない。彼女はそう言い聞かせて、先行したシスカとジョージを追った。

 

 カオススーツFを駆り、マイスターに執拗に攻撃を繰り返すトモエ。だが向上したマイスターの動きの前に、彼女は優位に立つことができなくなっていた。

「どうして・・・今度こそ、今度こそお前を!」

 トモエがいきり立ち、カオススーツFが全てのレール砲を発射する。マイスターもレイを発射して混沌の砲撃の威力を弱め、すかさず飛翔して回避を取った。

「あなたがシズルさんを死なせなければ、私はいつまでも幸せでいられたのに・・だから私は、私の幸せを奪ったお前を、絶対に殺しますわ!」

「でも、たとえあなたが私を撃っても、シズルさんが喜ぶとはどうしても思えない!それは、あなたのわがままだよ!」

「わがまま?そんなのは私だけのことじゃないわよ!」

 説得の言葉をかけるアリカに対し、トモエが眼を見開いて言い放つ。

「もうこれ以上、他の連中の好き勝手にさせてたまるものですか!たとえ他のものを踏みにじっても、私は全てを手に入れてみせる!今度こそ!」

 トモエが激昂し、カオススーツFがドラグーンを展開する。さらに2つのビームライフルを連結させて、ロングライフルとして発砲する。

「なら私はあなたを止める!もう、誰も傷つけさせたくない!」

 言い放ったアリカの中で何かが弾ける。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。

 カオススーツFが放つビームの雨をかいくぐるマイスター。右手を伸ばし、ブルーハンドをカオススーツFに向けて放とうとする。

 トモエはとっさに反応し、カオススーツFが飛翔してマイスターの攻撃をかわす。そしてすぐに間合いを詰めて、マイスターに一蹴を見舞う。

「ぐっ!」

 その衝撃にうめくアリカ。落下しかかるも、マイスターは踏みとどまって空中で体勢を立て直す。

 マイスターはカオススーツFに向けてビームブーメランを放つが、カオススーツFはビームサーベルでそれを弾き返す。そこへマイスターがレイを発射し、その砲撃がカオススーツFに命中する。

「お前なんかに・・お前なんかに、私が劣るはずがない!」

「これ以上みんなを、シズルさんの想いを傷つけるつもりなら、私はあなたを撃つ!」

 トモエとアリカが言い放ち、カオススーツFとマイスターがドラグーンを展開する。双方のビームの雨が衝突し、互いに相殺し合う。

 その雨をかいくぐって、マイスターがエクスカリバーを手にしてカオススーツFに向けて飛びかかってきた。突き出された大剣が、カオススーツFの右肩を貫き、そのまま切り裂いた。

「ぐっ・・・!」

 脅威的な力を発揮したマイスターに、トモエが愕然となる。マイスターがカオススーツFの頭部をつかみ、ブルーハンドで爆発を起こす。

 戦闘不能に陥り、地上に落下するカオススーツF。やむを得ずしたことと思いながらも、アリカは歯がゆさを感じずにはいられなかった。

 

 行く手を阻むワルキューレたちを、次々と撃退していくシスカとジョージ。その激闘の中で、彼女はひとつの考えを思い返していた。

(私はこのオーブや世界のためにだけでなく、お兄さんの気持ちを取り戻すために戦ってきた・・でもこのことは個人的な考えで、軍人としてはよくない考えだった・・)

 考えを巡らせるシスカに駆られるバルディッシュが、ザンバーブレードを振りかざしてワルキューレの腕をなぎ払う。

(でも人間としては、いいのかもしれない・・・軍人としていけないことを肯定するわけじゃないけど、私はいつも思ってたね・・・)

 交戦の中、シスカは自身の気持ちに微笑をこぼす。

(誰にでも願いはある。それぞれ違った願いが・・私がお兄さんとの時間を望んだのも、私の願い・・・だから!)

「この秘めたる想い、今こそ解き放つ!」

 決意を言い放ったシスカの中で何かが弾ける。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。

 バルディッシュの動きが機敏となり、ワルキューレたちは劣勢を強いられた。活路を開いたシスカが、カオスサイド旗艦、アザトースを眼にする。

「バルディッシュ、接近!このままでは取り付かれます!」

 アザトース内に、オペレーターの声が響き渡る。だがオーギュストは冷静に命令を下す。

「タンホイザー、起動。敵MSを一気に殲滅する。」

「しかし、この軌道上では、ワルキューレ部隊の真っ只中に飛び込みます!」

「ワルキューレたちには軌道上から下がらせろ。できなければ死ぬだけだ。」

 オーギュストの命令を受けて、クルーたちがパネルを操作する。アザトースの前方部から主砲が姿を現す。

 主砲起動にシスカが身構える。その矛先に、ワルキューレたちと交戦しているブラッドがあった。

「お兄ちゃん、危ない!」

 シスカはジョージに呼びかけると、バルディッシュがブラッドに向かって駆け出す。

「タンホイザー、ってぇ!」

 オーギュストの声とともに、アザトースから主砲が発射される。その先のブラッドの前に、バルディッシュが飛び込んできた。

「今度は私がお兄さんを守る!もう2度と、離れ離れにはなりたくない!」

 シスカが言い放ち、バルディッシュがザンバーブレードを振り下ろす。強力な陽電子砲撃と金色の光刃が衝突する。

 彼女の決意とバルディッシュの姿に、ジョージは戸惑いを覚える。

「シスカ・・・」

 そのとき、ジョージはシスカに対して困惑を覚える。今まで封じ込めてきた何かが今、解放されようとしていた。

 それは幼い日の思い出。純粋に日常を送る少年と少女の色あせた記憶だった。

 強烈な勢いに押されるも、バルディッシュは陽電子の砲撃の軌道を捻じ曲げた。砲撃は軌道を外れ、虚空の彼方へと消えていった。

 決死の猛攻でアザトースの攻撃を跳ね返したバルディッシュ。しかしザンバーブレードはその衝撃で破損し、機能しなくなっていた。

「シスカ・・・お前のその思い、ムダにするわけにはいかない・・・!」

 ジョージはシスカの思いと覚悟を背に受けて、ブラッドがバルディッシュの前に出る。そしてビームショットを放ち、アザトースの陽電子砲を撃ち抜いた。

 陽電子砲が爆発を起こし、アザトースが大きく揺らめく。オーギュストが毒づき、クルーたちに呼びかける。

「ワルキューレ部隊、MS隊は防衛線を張れ!本艦は一時撤退する!」

 そういうとオーギュストは作戦室を後にする。アザトースは主力を失い、戦線を離れる以外になかった。

「大丈夫か、シスカ!?・・・心配するな。もうお前と離れたりはしない・・・」

「えっ・・・?」

 ジョージの呼びかけにシスカが当惑を覚える。

「終わらせて帰るぞ・・私たちの家に・・・」

「お兄さん・・・お兄さん・・・はいっ!」

 兄としての記憶を取り戻したジョージに、シスカは笑顔を浮かべて答えた。

 

 カオスサイドの研究施設に、ついにたどり着いたイオリとスミス。飛行艇から降り立った彼らを、施設に滞在する兵士と研究員が出迎える。

「ついに完成しました、イオリ様。あとは動力源を組み込むだけで、絶対的な力を発揮してくれることでしょう。」

「そうか・・では早速行くとしようか。」

 研究員の報告を受けて、イオリは不敵な笑みを浮かべる。彼らは施設の中へと入り、廊下を進み、新兵器が置かれている格納庫へと向かった。

 そこにそびえ立つ1体の巨大な機体。これまでの機体や兵器とは異なった容姿をしており、驚異的な雰囲気を放っていた。

「これに、このラグナログが組み込まれるのか・・・実にすばらしいことだ・・」

 イオリが喜びを抑え切れずに、笑みを強める。

「シュミレーションでは問題はないのですが、これまで以上のエネルギーの予測値です。何が起こるか、我々としても予測が付きません。」

「上等だ。オレたちが踏み込もうとしているのは未知の領域だ。そのくらいでなければ張り合いがない。」

 研究員の言葉に対し、イオリは自信を見せる。

「いよいよだ。オレたちが作り上げる新しい世界が、ついに実現するのだ・・・!」

 野心と歓喜をあらわにしたイオリの哄笑が、カオスサイドの研究施設に響き渡っていた。

 

 

次回予告

 

「みんなが幸せでありたい・・・」

「それは僕だけじゃなく、みんなの願いでもある・・・」

「ニナちゃんと一緒に、みんなと一緒に幸せになりたい・・・」

「ニナちゃん、すぐに助けるから・・・!」

 

次回・「ひとつの願い」

 

 

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