GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-41「ひとつの願い」

 

 

 オーブ、ライトサイドがカオスサイドと交戦する中、ジュンのアテナとニナのオレイカルコスが対峙していた。

「どうしてあなたは、そうやって私の前に現れるのよ・・・!?

 ニナがジュンに向けて呼びかける。動揺の色を隠し切れず、彼女の声には落ち着きがなかった。

「これは私が望んだこと!望んだ戦い!だから私は、あなたに止められる必要なんてないのよ!」

「違う!この戦いは君自身が望んだものじゃない!あなたのお父さんが望んでいることじゃないか!」

 ニナの感情に、ジュンもついに反論する。

「君は何を望んでいるんだ!?君が本当にほしかったものは、本当にこんな世界なの!?そんな力なの!?

「じゃ、あなたは、何を望んでいるというの!?

 ジュンの呼びかけにニナが反発する。オレイカルコスがビームサーベルを振りかざすが、アテナは素早く動いてそれを回避する。

「僕には願いがある・・みんなが幸せでありたい・・・僕はそう願っている・・・」

「いつまでもそんなきれいごとを・・そんな、夢みたいなことを!」

 さらに反発するニナ。だがジュンは落ち着きを崩さない。

「そうだよ・・みんな、夢や願いを持ってる・・みんなの幸せ。それは僕だけじゃなく、みんなの願いでもある・・・」

「でもそれは、あなたたちの願いであっても、私の願いではない・・・」

「ううん。僕はニナちゃんにも幸せであってほしい。ニナちゃんと一緒に、みんなと一緒に幸せになりたい・・・」

 ニナに向けて切実に言いかけるジュン。アテナがビームサーベルを構えて、オレイカルコスを見据える。

「だから僕はもう迷わない・・みんなのために、僕は全力で戦う!」

 決意を言い放つジュンの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 速さに長けるアテナの動きがさらに機敏となり、オレイカルコスとの距離を一気につめる。だがアテナが振りかざした一閃は、オレイカルコスの強靭な装甲に阻まれる。

「悪いけど、同じ手は私には通用しないわ。」

 ニナが冷静にジュンに言いかける。オレイカルコスの装甲と装甲の間の隙間を狙ったジュンだが、ニナはとっさに反応し、わずかに動いて痛恨の直撃を避けたのだった。

 オレイカルコスがビームブレイドによる一蹴を繰り出す。ジュンがこれに反応し、アテナが一気に後退してかわす。

 アテナがドライブドラグーンを展開して、オレイカルコスに向けてビームの雨を放つ。だがオレイカルコスの強靭な装甲の前に、ドラグーンの砲撃も歯が立たなかった。

 ドライブドラグーンが直接オレイカルコスに向かって飛び込んできた。だがオレイカルコスはその打撃をかわし、ドラグーンのいくつかをビームブレイドがなぎ払う。

「私はドラグーンに対するシュミレーションをこなしている。その手は私には通用しないわ。」

 冷淡に告げるニナに、ジュンは驚愕を覚える。

「私にはやるべきことがある。お父様の理想を実現させるために、私はこの世界を変える!」

 想いを言い放つニナの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 反応が向上したオレイカルコスに、ジュンが息を呑む。2機の攻撃とともに、ニナとジュンの感情が衝突する。

「僕はここで負けるわけにはいかない・・これ以上、みんなが傷つくのを見たくない・・もちろんニナちゃんも!」

「・・・お願いだから、もう私に構わないで・・・!」

 必死に呼びかけるジュンだが、ニナは苛立ちをあらわにして突き放す。

「あなたがいると、何もかもが無茶苦茶になるのよ・・私だけじゃない・・お父様まで・・・お父様まで!」

 父の対する想いに駆り立てられるニナ。オレイカルコスがアテナに向かって飛びかかり、両腕から発するビームブレイドを振り上げる。

 アテナが2本のビームサーベルを手にして、その一閃を受け止める。そこへオレイカルコスがビームブレイドによる一蹴を繰り出す。

 アテナがドライブドラグーンを駆使して、オレイカルコスに砲撃を繰り出す。その攻撃で、オレイカルコスの一蹴が外れる。

 一進一退の攻防を繰り広げるアテナとオレイカルコス。だがジュンもニナも、精神的に追い込まれていた。

(もっと早く知ろうとすればよかった・・ニナちゃんと分かり合えれば、こんなことにはならなかったかもしれない・・戦わずに済んだかもしれない・・・)

 ジュンは心の中で、ニナに対する思いと自分自身への後悔を囁いていた。

(だけど、今からでもまだやり直せる。僕も自分がした間違いを正していきたい。やり直していきたいと思っている・・だから僕は、ニナちゃんと一緒に、もう1度始めたいんだ・・・)

「諦めない・・僕はまだ、諦めるわけにはいかないんだ・・・!」

「どうして・・どうしてあなたは簡単に、諦めないのよ!」

 真っ直ぐな視線を向けるジュンに、ニナが悲痛の叫びを上げる。ジュンは戸惑いを見せながら、ニナに向けて続ける。

「希望はまだある。いや・・諦めなければ、希望は絶対に消えはしないんだ・・・!」

「マシロさん・・・そこまで、私を・・・」

「ニナちゃんを救うことは必ずできる・・だからニナちゃん、すぐに助けるから・・・!」

 当惑を覚えるニナに対し、ジュンが決意を強める。アテナが高速で飛び出し、オレイカルコスに向けてビームサーベルを振りかざす。

 その速さにニナは反応が遅れた。だがオレイカルコスの装甲は、アテナの攻撃をものともしていなかった。

(速さは向こうのほうが上。でも防御力はこちらが上。付け根をやられなければ、私が負けることはない。)

 ニナは冷静に状況を分析して、ジュンの駆るアテナの動きを見据える。

(ドラグーンによる攻撃にも対応できる。そして何よりも、私にはこの想いがある。絶対に負けられない理由が・・・)

 ニナの想いも揺るぎないものがあった。ジュンとニナ。2人の想いは力となって衝突し、激しく火花を散らす。

 そこへクサナギとジーザスが駆けつけ、ジュンがその艦影を眼にする。

「クサナギとジーザス・・・ユキノさん、ミドリさん、みなさんは先に行ってください!僕はニナちゃんを!」

 ジュンはユキノたちに呼びかけ、アテナがオレイカルコスに向けてビームライフルを発砲する。

「しかし、それではマシロさんが・・!」

「僕よりもカオスサイドです!」

 ユキノの呼びかけをジュンが制する。

「ラグナログによって、恐ろしい兵器が生まれようとしている。それだけは絶対にさせたらいけないことです・・・!」

「マシロさん・・・分かりました。どうか、ご無事で・・」

 ジュンの言葉を受け入れて、ユキノはクサナギを先行するよう、イリーナに伝えた。ミドリも彼の言葉を受けて、ジーザスを進行させる。

「そうまでして、この私を止めたいというの?・・ライトサイドの代表でありながら・・・」

 進んでいく2隻の船を見送りながら、ニナはジュンに呼びかける。彼女はあえて2隻を見逃していた。

「僕がいなくても、みなさんが何とかしてくれる・・今重要なのは、マシロ様としての僕じゃなく、みんなのそれぞれの力と思いなんだ・・・」

「滑稽・・・でも、これであなたを撃つことに専念できる・・・」

 ジュンの言葉にあざけりながらも、ニナは彼の心境を受け入れて微笑んだ。

「ありがとう、ニナちゃん・・・向き合おう。そして、お互いの気持ちを確かめ合おう・・・」

 ジュンもニナの言葉に喜びを感じて微笑を浮かべる。アテナが2本ビームサーベルの柄を合わせて、双刃を形成する。

(もう戦いを長引かせるわけにはいかない・・たとえどんなに傷ついても、真正面から飛び込んでいって、その機体の動きを止める・・・!)

 ジュンの心は決まっていた。ここまできたら小細工は意味を持たない。互いの心と力で雌雄が決する。

 その考えはニナも同じだった。オレイカルコスも両腕両足からビームブレイドを発していた。

 真っ向勝負を仕掛ける2機。その速さはまさに眼にも留まらぬものだった。

 2つの機影がすれ違い、その動きが止まる。2機の衝突の間に何が起こったのか、傍目では分からなかった。

 一瞬の静寂の後だった。アテナの頭部が爆発を起こす。これによってアテナの戦闘力がほぼ失われた。

 だがその直後、オレイカルコスの両腕、右わき腹が爆発を起こす。戦闘力を奪われていたのは、驚愕したニナのほうだった。

 オレイカルコスの繰り出した一閃は、アテナの頭部を確かに切り裂いていた。だがアテナも姿勢を低くして、胴体への直撃を避け、ビームサーベルをかざして両腕と胴体の付け根を切りつけたのだった。

「ゴメンね、ニナちゃん・・・でも、ありがとうね・・・」

 ジュンは振り返ることなく、ニナに囁くように言いかけて微笑む。彼の眼からうっすらと涙が流れる。

「マシロさん・・・ジュンくん・・・あなたは・・・」

 ニナもジュンの心境を感じて、涙をこぼしていた。緊張の糸が切れた彼女が、意識を失って眼を閉じる。

 力なく落下しようとするオレイカルコス。それにジュンが気付き、アテナが振り返る。

 そこへ飛び込んできた1機のザク。ザクはオレイカルコスを抱えると、そのままいずこかへと飛び去ってしまった。

 アテナはザクを狙うことができなかった。メインカメラが損傷していたため、狙いをつけることができなかったのだ。

「ニナちゃん・・・ニナちゃん!」

 ニナを救うことができず、ジュンが悲痛の叫びを上げた。

 

 後退していくアザトースを追って、突き進んでいくバルディッシュとブラッド。主砲を破壊され、艦体も傷を受けていくアザトースは、ついに2機に追いつかれた。

「これが最後の警告よ。投降するならこれ以上の攻撃はしない。」

 シスカが警告を送るが、アザトースは受け入れるどころか、バルディッシュとブラッドに向けて砲撃を続ける。

「仕方がないわね・・もうこうするしかないということなのね・・・」

 シスカは歯がゆさを噛み締めて、バルディッシュがビームスマッシャーを発射する。一条の閃光がアザトースの銃砲を次々と破壊していく。

 そこへブラッドも高速化を伴って飛び込み、アザトースの下部のメインエンジンを切りつけた。艦体がさらなる爆発を引き起こし、飛行姿勢を保てなくなって地上に落下する。

 バルディッシュとブラッドの速攻で、アザトースは墜落した。バルディッシュとブラッドがその前に降り立ち、マイスター、カグツチ、デュランも続いて駆けつけてきた。

「やったの、シスカちゃん・・・?」

「アザトースはやったけど・・問題はここから。ラグナログを見つけ出さないと・・・」

 マイの声に、シスカがいたたまれない心境で答えた。

 

 アザトースのクルーやワルキューレ部隊、カオスサイドのMS隊のパイロットたちは、オーブ軍、星光軍によって拘束、連行された。しかしこの中にニナ、オーギュストの姿はなく、ラグナログも発見できなかった。

「やられたわね。アザトースやワルキューレたち、全部を囮にしてくるなんてね・・」

 ミドリがこの現状にため息をつく。

「それじゃ、イオリは戦闘中に抜け出し、ラグナログを持って逃走したというのか・・・?」

 そこへナツキが訊ねるが、ミドリは首を横に振る。

「いや、戦闘が始まる前だね。こっちに入り込んでくる前に。」

「だったら、もう何もかもが手遅れだった、ということですか・・・!?

 そこへジュンがアリカ、シスカとともにやってきた。

「そうなるわね・・でも私たちがしたことはムダじゃないよ。カオスサイドの主力を押さえたわけだし。それに・・」

 ミドリは言いかけて、ジュンに眼を向ける。

「ニナちゃんと分かり合えたんでしょ?・・だったら、絶対にムダじゃないって。」

「でも、僕はニナちゃんを助けられなかった・・・」

 ミドリが励ますが、ジュンは自分を責めるばかりだった。

「だったら、今度こそ助けないといけないね。」

 そこへマイがジュンに声をかけてきた。

「間違えたらもう1度やり直して始めていけばいい。誰にだって間違いはある。重要なのは同じ間違いを繰り返さないこと。」

「マイさん・・・そうですね・・今度こそ、ニナちゃんを・・・」

 マイに励まされて、ジュンは元気を取り戻した。

(そうだ・・・これ以上ニナちゃんに、みんなに辛い思いをしてほしくない・・・僕が、僕たちが、今度こそ・・・)

 仲間たちの思いを背に受けて、ジュンは決意した。ライトサイドの代表として、ジュン・セイヤーズとして。

 

 突如オーブ空域に侵入した1隻の飛行艇。2機の機体を回収した後、飛行艇はすぐに空域を離脱して宇宙を飛び出していた。

 飛行艇を動かしていたのはスミス、新たに乗り込んだのは、ニナを連れたオーギュストだった。

 オーギュストはアザトースが撃墜される前にザクに搭乗して発進。戦闘力を失ったオレイカルコスを回収して、戦線を離脱したのである。全てはイオリが企てた策略だった。

「表向きには、かなりの痛手ですね。」

「そうですね。だが、それも計算の内なのでしょう?」

 スミスが悠然とした面持ちで訊ねると、オーギュストも不敵な笑みを浮かべて答える。

「それで、あの新兵器はうまく機能したのですか?」

「いやはや、それがとんだ食わせ物でしてね。ラグナログから形成される動力源を起動させるには、人間の生命力が必要なんですよ。」

 オーギュストの問いかけに、スミスが苦笑を浮かべて答える。

「それも、純粋でけがれのない生命力であるほど、その力はさらに高まりますよ。」

「そうですか・・・ここまで準備ができているということは、もうその生贄はいるということですね。」

「えぇ。その人柱によって、新たな時代の幕開けとなるのです・・・」

 オーギュストとスミスが喜びの笑みをこぼす。飛行艇はカオスサイドの研究施設へと到着した。

 飛行艇から降りた2人を出迎えてきたのは、イオリだった。

「状況はこっちで確認している。部隊は全滅したようだな・・」

 状況を告げるイオリの顔に、追い込まれたような心境はまるで見られなかった。

「他の連中は、混沌軍の全滅に言葉を失っていた・・仕方ないことだな。カオススーツ、オレイカルコス、最上級のMSがことごとく敗れたのだからな。」

「その割には、ずい分と余裕ですね。」

 そこへスミスが悠然とイオリに言いかける。

「その穴埋めをするには十分すぎるほどの力をこれから手にすることになる。」

「それが、新たなる新兵器というわけですか。」

 イオリの言葉にオーギュストが不敵な笑みお浮かべる。

「新たな力が他の力に成り代わることはできるが、他の力が、この新たな力に成り代わることはできない・・・」

 イオリも不敵な笑みを浮かべて、これからの戦いを見据えていた。

「ニナは医務室に休ませておけ。これからの戦いは、気を休めることはないのだからな・・・!」

 スミスとオーギュストに言いかけると、イオリが歓喜を抑えきれず、哄笑を上げる。カオスサイドの最大の攻撃が、幕を開けようとしていた。

 

 

次回予告

 

「全ての能力において、これまでの機体を上回っています!」

「ここは・・・?」

「おおっ!ついに動き出す・・・!」

「この戦いの鍵を握るのは、お前だ、ニナ。」

 

次回・「魔神の起動」

 

 

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