GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-33「栄光の三銃士」

 

 

 万全の体勢へと修復し、航行を開始するクサナギ。その医務室で、ジュンは眠り続けていた。

 外傷は完全に消えていたが、未だに意識は戻っていない。その容態にアリカたちは深刻さを隠せないでいた。

「マシロちゃん、起きませんね・・・」

 アリカが唐突に呟くと、マイも沈痛の面持ちを浮かべる。

「精神的にも疲れが見えていたって、ユキノちゃんが言ってた・・これまで、いろいろなことで悩んでたんじゃないかな・・国の代表としても、1人の人間としても・・」

 マイのこの言葉に、アリカはさらなる困惑に陥った。ジュンは自分自身や自分の周りの人々との工作や葛藤にさいなまれ続けてきた。次々と追い込まれそうな状況の中で、彼は女王として、数々の苦難を乗り越えてきた。

(その気持ちに、もっと早く気付いてあげられれば、こんなことにはならなかったのかもしれないね・・・)

 ジュンを見つめながら胸中で呟くアリカ。もう2度と後悔しないよう、彼女は自分の中にある大切なものに対する気持ちを大事にしようと思っていた。

 そんな彼女とマイのいる医務室に、シスカがやってきた。

「あんまり思いつめると体に悪いよ・・って、私が言えた義理じゃないんだけどね・・」

 アリカに励ましの言葉をかけつつ、苦笑を浮かべるシスカ。

「シスカさん・・・すみません・・シスカさんも、自分のことでいろいろ悩んでいるっていうのに・・」

「いいよ、いいよ、気にしないで。みんなそれぞれ悩みを持ってるんだから・・」

 謝るアリカに、シスカがさらに弁解する。するとアリカがシスカの手を取り、真剣な面持ちで言い寄ってきた。

「もし悪いようでなければ言ってください!わたし、シスカさんの悩みとも向き合いたいんです!」

「アリカちゃん・・・アリカちゃんには負けたわ。特別に教えてあげる。」

 アリカの真っ直ぐな気持ちを受け入れて、シスカは自分の心の内をアリカとマイに打ち明けようとする。

 そのとき、クサナギ艦内に警報が響き渡り、アリカたちが緊迫を覚える。マイとシスカが医務室を飛び出していく中で、アリカがジュンに眼を向ける。

「マシロちゃん・・今度は私が、あなたを守るから・・・」

 ジュンに誓いを告げて、アリカは遅れて医務室を後にした。彼女が駆けつけた作戦室では、緊迫の空気に包まれていた。

「何かあったんですか!?

 アリカが声をかけると、ユキノがモニターを見つめたまま答える。

「カオスサイドが動き出しました。アリゾナで戦闘を行っています。」

「戦闘って、誰と・・・!?

 アリカが言いかけたところで、シスカが動揺の色をあらわにしているのに気付く。

「・・まさか・・・!?

「相手は、デッド・ライダーズです・・・」

 ユキノの回答に、アリカも困惑を覚える。オーブに敵対している2つの勢力が、アリゾナで対峙していたのだ。

「お兄さんが・・お兄さんが危ない・・・!」

 シスカがたまらず飛び出そうとするが、ユキノに手をつかまれて呼び止められる。

「カオスサイドとデッド・ライダーズの戦いに、私たちが介入する必要はありません。」

「ですが、お兄さんが・・・このままでは・・!」

 ユキノの制止でも、飛び出すことを諦めないでいるシスカ。しかしユキノは首を横に振り、シスカの行動を了承しない。

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。私たちの理念を、忘れてはいないでしょう。」

「ですが、それではお兄さんが・・・!」

 冷静に現状を分析するユキノだが、それでもシスカは引き下がらない。2人の言い合いを目の当たりにして、アリカは口を開いた。

「行きましょう、シスカさんのためにも・・」

「アリカさん!」

 アリカの言葉にユキノがたまらず声を荒げる。

「だってデッド・ライダーズの中に、シスカさんのお兄さんがいるとしたら、私たちに十分関係のあることですよ!・・もしこのままシスカさんとお兄さんが離れ離れになったままだったら、シスカさんは・・・」

「アリカちゃん・・・」

 アリカの切実な気持ちに、シスカが戸惑いを覚える。シスカの真っ直ぐな想いを無碍にしたくない。アリカはそう思っていた。

「だったら、あたしがみんなの代わりに行くわ。」

「マイ・・」

「マイさん・・・!?

 そこへマイが声をかけ、ユウとユキノが当惑する。

「あたしはライトサイドだから、カオスサイドとデッド・ライダーズの戦いに介入してはいけない理由はない。シスカちゃんの代わりに、あたしがカオスサイドを追い返してくるから。」

「マイちゃん・・・」

 マイの言葉にシスカが喜びを込めた笑みを浮かべる。この場にいる全員の気持ちが同じであることを悟り、ユキノは決断する。

「ここまで来てしまったら、私が止めても止まらないでしょうね・・・」

「ユキノさん・・・」

 ユキノの決断にアリカが笑みをこぼした。

「私たちの目的は、カオスサイドの撃退。それ以外の目的での戦闘は厳禁です。肝に銘じておいてください。」

「ユキノさん・・・了解です!」

 ユキノの指示にシスカが敬礼を返した。

「アリカさん、マイスターで先行してください。マイさんもカグツチでお願いします。」

「分かりました、ユキノさん。」

「任せといて、ユキノちゃん。」

 ユキノの指示を受けたアリカとマイが、アリゾナへの先行のためにそれぞれに機体に向かった。

“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・マイスター、カグツチ、発進どうぞ。”

 イリーナの呼び声が響き、機体が発進準備を整える。

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

「マイ・エルスター、カグツチ、いきます!」

 マイスター、カグツチがクサナギから発進し、アリゾナに向けて先行した。

 

 突然のカオスサイドの侵入に対し、デッド・ライダーズは強襲を仕掛けた。だがカオスサイドの猛威の前に、ジョージたちは劣勢を強いられていた。

「くそっ!・・カオススーツ、これほどまでとは・・!」

 ブラッドを駆るジョージが、立ちはだかるカオススーツたちに対して毒づく。

「ですが、このまま敗れるわけにはいかない!そうですよね、ジョージさん・・・!?

「サラ・・・そうだな。オレたちが目指すのは真の平和。オレたちが諦めれば、世界は終わる・・・!」

 サラの呼びかけを受けて、ジョージが一瞬笑みを浮かべる。彼は改めて決意を固め、眼前の敵機を見据える。

(カオススーツ、オレイカルコス・・カオスサイド、これだけの上位の兵器を生み出すとは・・・!)

「オレイカルコスは私が押さえる!カナデ、サラ、マーヤはカオススーツを叩け!3機まとめて相手をすることはない!1機ずつ確実に仕留めろ!」

「了解!」

「分かりました!」

「任せといて!」

 ジョージの呼びかけにカナデ、サラ、マーヤが答える。陣形を立て直すデッド・ライダーズを前にして、カオスサイドのMSたちが各々の武装を構える。

「あらあら。どうやら大将はあなたをご指名のようね。」

「ニナさん、ブラッドは任せましたよ。」

「分かりました。お任せを。」

 トモエのからかいを気にせず、ニナがフィーナの呼びかけに答える。オレイカルコスの前にブラッドが立ちはだかる。

「退くなら手出しはしない。でもあくまで邪魔をするなら、私は容赦なくあなたを撃つ。」

「退くのはお前たちのほうだ。これ以上お前たちに、平和を弄ばれるわけにはいかないのだ。」

 ニナの警告に動じず、ジョージが敵対の意思を見せる。

「・・ならもう何も言わない・・ここで死を受け入れなさい!」

 ニナは迷いを振り切って、ブラッドに向けてビームライフルの引き金を引いた。

 

 カオススーツ3機の撃退に向けて、攻撃を仕掛けようとしていたカナデ、サラ、マーヤ。3機のドムトルーパーが、トモエの乗るカオススーツFに狙いを絞る。

「今まで以上に気を引き締めていきなさい!少しでも油断すると死ぬわよ!」

 カナデの呼びかけにサラ、マーヤが頷く。3機のドムが集中して、連携攻撃の態勢に入る。

「ジェットストリームアタック!」

 ドム3機がカオススーツFに向かっていく。高速化された動きを駆使して、カオススーツFを翻弄する。

「鬱陶しいわね・・子虫みたいにチョロチョロと!」

 いきり立ったトモエ。カオススーツFがドラグーンを展開し、ドムトルーパーに向けてビームを撃ち込む。だがドムの速い動きにことごとくかわされ、カオススーツFはその突進を受けて押されていく。

「このうじ虫が!いつまでもふざけてんじゃないわよ!」

 怒りをあらわにしたトモエ。カオススーツFが全てのレール砲を発射する。ついにその砲撃がドムトルーパーの1機に命中する。

「ぐっ!」

「マーヤ!」

 うめくマーヤにたまらず叫ぶカナデとサラ。陣形が崩れたところを狙って、カオススーツたちが攻めてきた。

 カオススーツFをサラが、JとDをカナデが押さえる。打開の糸口を必死に探る2人だが、混沌軍の猛威の前に防戦する一方だった。

 一方、ニナのオレイカルコスとジョージのブラッドが交戦していた。速さとそれを伴っての特攻を仕掛けるブラッドだが、オレイカルコスの防御力の前では意味を成さなかった。

「ムダよ。あなたたちの武装では、この機体には通じない。最後の警告よ。大人しく引き下がるなら、命までは取らないわ。」

 ニナが冷淡な口調でジョージに言いかける。しかしジョージはこれに応じない。

「我々には後戻りできる場所はない!先へ進めないというなら、私は死を選ぶしかない!」

「それがあなたたちの答えということね・・・これだけの力の差を見せ付けられているというのに、滑稽ね・・・!」

 ジョージの意思に対して嘆息すると、ニナは躊躇を切り捨てた。オレイカルコスがビームブレイドを解き放ち、ブラッドに迫る。

 速さを駆使して攻防を展開しようとするジョージだが、オレイカルコスの動きはブラッドを上回っていた。

「何っ!?

 ジョージがその速さに驚愕を覚える。オレイカルコスとブラッドがビームブレイドとビームサーベルを振りかざすが、ビームブレイドがビームサーベルを弾き、さらに光刃を伴った一蹴でブラッドが突き飛ばされる。

 どのように手を尽くしても歯が立たない相手に、ジョージをはじめとしたデッド・ライダーズが完全に追い込まれていた。

「これで終わりよ。あなたが選んだ道。後悔はないはずよ。」

 ニナが冷淡に告げると、動きが鈍っているブラッドに向けてビームブーメランを放つ。

「ジョージさん!」

 サラが声を上げるが、カオススーツとの交戦で救助に向かえない。

 そのとき、ビームブーメランに向けて一条の光線が放たれ、ブラッドの眼前で爆発が起こる。その衝撃に押され、ジョージがうめく。

 ニナ、ジョージ、サラが視線を移した先には、マイスターとカグツチの姿があった。今のビームはマイスターのビームライフルから放たれたものだった。

「マイスター・・カグツチ・・・!?

「アリカ・・・!?

 2機の登場にフィーナとニナが驚愕を覚える。だがトモエはマイスターに対して歓喜と憎悪を膨らませていた。

「まさかここでマイスターが現れるなんてね・・・私がもう1度叩き潰してあげるわよ!」

 言い放つトモエが、サラへの攻撃をやめて、標的をマイスターに切り替える。カオススーツFがマイスターに向かって飛びかかっていく。

 アリカがトモエの奇襲に気付き、マイスターが高エネルギービーム砲「レイ」を放つ。カオススーツFはとっさに回避し、2つのビームライフルをマイスターに向けて撃ち込む。

 互いの攻撃をかわして一進一退の攻防を繰り広げるアリカとトモエ。その光景を目の当たりにしたジョージが、たまらずマイスターに呼びかける。

「どういうつもりだ・・なぜお前たちがここに・・・!?

 ジョージの声がマイスターのコックピットに伝わってくる。

「シスカさんのため、私たち自身のためです!」

「何!?

「あなたはシスカさんの心のよりどころなんです!そのあなたがいなくなったら、シスカさんの心も壊れてしまうから・・・!」

 アリカが切実に気持ちを告げるが、ジョージにはその理由が理解できず、疑問を膨らませるばかりだった。

 一方、カグツチもカオススーツJ、Dに攻撃を仕掛けていた。ビームライフルとレール砲を駆使して、2機の攻撃を阻止していく。

「どうして、マイスターとカグツチが、私たちとデッド・ライダーズの戦闘に・・!?

「分かんないわよ。でもこうしてのこのこやってきてるんだから、とどめを刺しちゃいましょうよ。」

 声を荒げるフィーナに、悠然と言いかけるスワン。カオススーツが2対1の状況に持ち込んで、カグツチを追い込もうとする。

「カオススーツが2体・・いくらカグツチがすごくなったからって、これはちょっとキツイかな・・」

 一瞬苦笑を浮かべるも、マイはすぐに真剣な面持ちになって眼前の相手を見据える。

「やるしかないよね・・ここまで来て、引き下がるわけにはいかないよね!」

 決意を言い放つマイの中で何かが弾ける。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。

 カグツチの発射速度、的確性が向上し、次第にカオススーツを捉えていく。だが2対1という状況を打破するには至らなかった。

 カオススーツDの突き出してきたアロンダイトビームソードを飛翔してかわすカグツチ。だがその上空ではカオススーツJが待ち構えており、ビームブレイドの一蹴を繰り出す。

 寸でのところでその一蹴をビームシールドで防いだものの、その衝撃で突き飛ばされるカグツチ。そこへカオススーツDが高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。

 よけきれないと察して、直撃を覚悟するマイ。

 そこへ一条の閃光が飛び込み、カオススーツの砲撃に命中した。

「えっ!?

 目の前で起こる爆発に、スワンが驚愕する。マイたちが上空を見上げると、ひとつの機影が降下してきた。

“待たせたな、お前たち・・・!”

「デュラン・・ナツキ!」

 カグツチとマイスターに向けてかけられた声に、マイが声を返す。その機体は、ナツキの駆るデュランだった。

 

 突然のマイスターの乱入に、ニナは当惑していた。彼女は周囲への攻撃を踏み込むことができず、オレイカルコスが上空で停滞していた。

“ニナ、何をしている。攻撃を続けろ。ブラッドにとどめを刺せ。”

 そこへイオリからの通信が入り、ニナが我に返る。しかし未だに動揺を抱えていた。

“突然のマイスターとカグツチの登場に驚いているのだろうが、ブラッドを撃つことに支障はないだろう。”

「イオリ・・・分かりました。」

 イオリの呼びかけを受けて、ニナはブラッドに狙いを定める。オレイカルコスが両腕にビームブレイドを展開する。

「このままではジョージさんが・・・!」

 それを目の当たりにしたサラが、ジョージを救出すべく飛び出す。スワンだけでなく、カナデもカオススーツの攻撃で動きができないでいる。

 自分以外にジョージを救える者はいない。

(ジョージさんは私の心のよりどころ・・ジョージさんがいなくなったら、私の生きる意味も・・・!)

 サラはライトサイドとカオスサイドの戦争の被害を受け、全てを失った。絶望していた彼女が生きる希望を取り戻したのは、ジョージの固い意志を垣間見たからだった。

 周りに左右されることのない決意。確固たる揺るぎない願い。彼の心の奥にあるものを感じ取ったサラは、彼に全てを委ねることを心に決めた。

 ジョージがいなくなったとき、自分の全てが終わる。サラをそんな心の声が突き動かしていた。

「ジョージさん!」

 サラがジョージに呼びかけたところで、ドムトルーパーがブラッドとオレイカルコスの間に割って入ってくる。混沌の機体が振り下ろした一閃が、彼女の乗る機体を両断する。

「サラ!」

 自分をかばってオレイカルコスの攻撃を受けたサラに、ジョージが驚愕する。サラはジョージに向けて、弱々しくも喜びを宿した微笑を浮かべる。

(ジョージさん・・私はどんなときでも、あなたのそばにいますよ・・・)

 ジョージへの想いを秘めたサラを飲み込んで、ドムトルーパーが爆発を引き起こした。

「サラ!」

 ジョージの悲痛の叫びが、アリゾナの空にこだました。

 

 

次回予告

 

「僕は、これからどうしたらいいんだろう・・・」

「あなたには、支えてくれるたくさんの人たちがいるんですよ・・・」

「これ、は・・・!?

「僕は迷わない・・みんなの願いを届けるために、僕は戦う!」

 

次回・「マシロの復活」

 

 

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