GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-31「夢の在り処」

 

 

 カグツチの参戦で形勢を逆転されたカオスサイド。アザトースの作戦室にて、イオリは次の攻撃の算段を練り上げていた。

「修復が終わらないうちに、クサナギを叩く。あまりのんびりしていると、その絶好の機会を逃すことになるな。」

「ですが、向こうにはカグツチがいます。いくら脅威的な性能を誇るカオススーツとて、あのカグツチを撃ち落とすのは容易ではないでしょう。」

 イオリの呟きにスミスが悠然とした態度で答える。

「うまくヤツを引き離して、クサナギだけを攻撃できればいいんだけど・・」

「それでしたら、私に策がありますよ。」

 スミスが案を掲げると、イオリが眉をひそめる。

「カグツチは今のクサナギの最大戦力であり、唯一の主力です。おびき出すことなど造作もありません。」

「そうか・・だが、誰がその囮役を買うのだ?」

 イオリが問いかけると、スミスは下を、この場を指し示した。

「この船、アザトースです。私たちが他の基地を襲撃して、カグツチをおびき出すのです。」

「だが別にアザトースでなくてもいいだろ?ワルキューレかカオススーツでも、十分その役目は務まるだろ。」

「MSによる囮では、この船が狙っていることへの警戒を強めることになってしまいます。この船を囮にすることで、向こうの警戒心を強めない効果をもたらすのです。」

「なるほどな。さすがカオスサイド切手のエージェント。作戦立案も抜け目ないな。」

 イオリが不敵な笑みを浮かべて賞賛すると、スミスが微笑んで一礼する。

「オレたちが別基地を襲撃してカグツチをおびき出し、あらかじめ待機していた部隊がクサナギに向けて攻撃。その後こちらもクサナギに向けて移動し、カグツチが迷走している間に一気に畳み掛ける。」

 イオリが次の一手を告げたところで、ニナ、トモエ、フィーナ、ストラス隊から離れてきたスワンが入ってきた。

「戻ってきたか、スワン。お前より先に、カグツチが駆けつけてきたぞ。」

 イオリが言いかけると、スワンがため息混じりに答える。

「悪かったわ。まさかあそこでカグツチがパワーアップしてやってくるなんてね。」

「別にオレは気にしてはいない。だがスワンにもこれからの作戦に参加してもらう。」

「任せといて。ご自慢のカオススーツが3機揃ったんだもの。向かうところ敵なしね。」

 イオリの言葉を受けて、スワンが自信たっぷりに頷く。するとトモエがあざ笑ってきた。

「言っとくけど、私は仲良しこよしをするつもりはないから。クサナギは私が潰してきてあげるから。」

「抜け駆けはよくないわよ、トモエちゃん。後一歩でクサナギを落とせるんだから、一気に攻め立てたほうが気持ちいいって。」

 しかしスワンは気にする様子を見せず、淡々と答える。そして不敵な笑みを浮かべたままのイオリに、スワンが言いかける。

「イオリ、クサナギは私たちに任せて。すぐに撃ち落としてくるから。」

「初手から3機出る必要もないわ。その役目、私が引き受けましょう。」

 そこへフィーナが作戦遂行を志願してきた。その申し出にトモエが反論してきた。

「1人締めなんてずるいじゃないの。だったら私がやってやるわ。」

「トモエ、あなたは連戦で疲れが残っているし、スワンもジーザスとの戦闘での傷が完治していない。それにニナさんも不安定な状態ですし・・」

 そのトモエに淡々と答えるフィーナ。

「いいだろう。クサナギ討伐はフィーナ、お前に任せるぞ。」

「了解しました、イオリさん。」

 イオリが笑みを強めると、フィーナが一礼を送る。そして発進準備に向けて、作戦室を後にした。

 その直後、トモエが沈痛の面持ちを浮かべているニナに眼をつけて、妖しい笑みを浮かべる。

「どうしたのかしらね?あなたは今はこっちの軍人だっていうのに、そんな顔をする必要がどこにあるの?」

 トモエがあざ笑うが、ニナの表情は変わらない。

「何も思いつめることもないじゃないの。今のあなたはイオリの右腕。私たちよりもすごい力を手にしている。」

「私はお父様のためにカオスサイドに加わった。お父様の理想が、イオリの理想と同じなら、私はそれに従うだけ。」

「ウフフフ。ホントにそれがあなたの望みなのかしらね。」

 トモエがさらにあざ笑ってくると、ニナがついに眼つきを鋭くする。

「好きにしたらいいじゃない。今のあなたなら何でもできるのよ。あなたのお父様だって、あなたの思うように・・」

 その言葉に、ニナはついに怒りをあらわにして、トモエの頬を叩く。その拍子でトモエがしりもちをつく。

「黙りなさい!あなたに何が分かるの!あなたなんかに!」

「分かりたくもないわね!いろいろ理屈をこねてるけど、結局は自分の気持ちが受け入れてもらえないことに腹を立てて、友達を手にかけた人のことなんて!」

 互いに声を荒げるニナとトモエ。トモエの言葉に反論できず、ニナが歯がゆさを見せる。

「言い合いはやめろ。オレたちの目的は同じなんだからな。」

 そこへイオリが呼びかけるが、ニナの憤りは治まらない。

「消えて・・今すぐ私の前から・・・!」

 ニナが鋭く言い放つが、トモエは不敵な笑みを消さず、叩かれた頬をさすってニナをねめつける。

「これからどうなるのか楽しみねぇ。せいぜい不意打ちを食らわないように気をつけることね。」

 トモエは苛立ちを隠せないでいるニナに言い放ち、笑みをこぼしながら作戦室を後にした。イオリはさほど気にせずに、クルーたちに命令を与えた。

「これより作戦を開始する。フィーナの指揮の下で、ワルキューレたちはクサナギを撃ち落とせ。」

 

 クサナギに到着したことを連絡するため、マイはユキノとともに、ジーザスへ通信を送っていた。事情と現状を聞いたミドリが、モニター越しにマイたちに苦笑いを見せた。

“なるほどね。これはずい分厄介なことになっちゃったね・・でも、マイちゃんとユウくんをそっちに向かわせたのは正解だったわね。”

「本当にありがとうございます、ミドリさん。引き続きこちらでの待機と戦闘を、マイさんもユウさんも志願しています。いかがいたしましょうか?」

“うん。マイちゃんたちがそうしたいっていうなら、こっちは構わないよ・・こっちも修復が済んだら、すぐにそっちに向かうからね。”

「そうですか・・ご足労、感謝いたします。」

 ミドリとジーザスの計らいを受けて、ユキノが感謝を見せて敬礼を返す。

“マイちゃん、うちらが到着するまで、クサナギを任せたからね。”

「うん。任せて、ミドリちゃん。」

 ミドリの呼びかけを受けて、マイも微笑んで頷いた。マイたちの奮起に期待して、ミドリは通信を終えた。

「ユキノちゃん、しばらくの間、よろしくね。」

「はい、マイさん・・すみません。あなたたちを援護することができなくて・・」

 互いの信頼を確かめて、マイとユキノが握手を交わした。

 そのとき、クサナギのレーダーがエネルギー反応を感知して、マイとユキノが振り返る。レーダー監視を行っているイリーナに、ユキノが駆け寄る。

「どうしました?」

「アザトースが動き出しました。中東2番エアポートに向かってます。」

 ユキノの呼びかけにイリーナがレーダーに眼を向けたまま答える。エネルギー反応はエアポートに向かって接近していた。

 その緊急事態を察知して、ユウとシスカが作戦室に現れた。

「どうしたんだ!?

 ユウがユキノたちに呼びかけ、現状を確かめる。

「アザトースが移動を始めています。」

「アザトースが・・けど何でだ?追い詰められているこのクサナギを放っておいて、他の場所を標的にするなんて・・」

 ユキノの答えに、ユウがアザトースの行動に疑問を感じた。クサナギを落とせる絶好の機会を捨てて、標的を変える意図が分からなかったのだ。

「でも、このままカオスサイドにオーブが襲撃されるのを黙って見ているわけにはいきません。すぐに食い止めなくては・・」

「しかしどうするんですか?今、こっちの主力は、カグツチだけなんですよ・・・!」

 打開の糸口を探るユキノに、シスカが反論する。クルーたちの視線が、カグツチのパイロットであるマイに向けられる。

 この危機的状況を察して、マイは決断をした。

「あたしが行きますよ。すぐにアザトースの動きを止めて、戻ってきますよ。」

「でも、カグツチがここを離れたところを、カオスサイドが狙わないとも限りませんし・・」

 マイの出撃志願をユキノは快く了承できなかった。カオスサイドは卑劣な策略を企てて、オーブを追い詰める可能性は極めて高い。迂闊な行動を取れば、そこを付け込まれることになりかねない。

「だけど、このままカオスサイドの進撃を野放しにするわけにも・・・」

 シスカまでもが反論し、意見が錯綜する。その交錯を断ち切ったのはユウだった。

「マイが離れている間は、オレがクサナギを守ってやるさ。」

「ユウ?」

 ユウの言葉にマイが当惑を見せる。

「見くびるなよ。確かにマイには敵わねぇけどさ、オレもライトサイドのパイロットだぜ。」

「ユウ・・・ありがとう。あたしが戻るまで、クサナギをお願い・・・!」

 ユウへの信頼を告げると、マイは作戦室を後にした。そしてクサナギを駆り、エアポートに向かって発進した。

 

 クサナギから発進、離脱したカグツチを、フィーナたちワルキューレ部隊は確認していた。

「思ったとおり、アザトースに向かったわね・・・ではこちらも、クサナギへの攻撃を開始するわよ。」

「了解です。」

 フィーナの命令を受けて、兵士たちが敬礼を送る。ワルキューレ部隊が、クサナギ討伐に向けて動き出した。

 

 小型艇で発進したアリカは、ユキノが提示した格納倉庫にたどり着いた。事前にユキノから連絡を受けて、初老の班長がアリカを出迎えた。

「お待ちしていました、アリカさん。ユキノ様から連絡は受けています。」

 班長の導きを受けて、アリカは真剣な面持ちを崩さずに倉庫へと入っていった。その廊下を進む中で、彼女は自分の気持ちを思い返していた。

(もしも知らなければ、こんなことにはならなかったかもしれない・・でも、ここまで真実を知ってしまったら、もっともっと知らなくちゃいけないと思う・・みんなのためにも、私自身のためにも・・・)

 自分の中の感情と周囲の人々の思いが、アリカの心の中で交錯していた。

(私、いろいろなことを知らなかった。知っていれば、もっと仲良くなれたかもしれないのに・・だから、ニナちゃんのことも、マシロちゃんのことも知りたい・・・)

 決意を強めていくうちに、アリカは倉庫の奥の部屋へとたどり着いた。そこで班長は眼前の機体を指し示した。

「こ、これって・・!?

 その機体の姿にアリカは驚きを隠せなかった。それは彼女の搭乗機であるマイスターと限りなく酷似していたのだ。

「マイスター・・これがユキノさんの言っていた・・・」

「はい。これはマイスターの性能をモデルとし、さらに改良を施してあります。1番の改良点は動力源です。」

「動力源・・・?」

「エレメンタルチャージャー。水晶の力を持つと言われているほぼ未知数のエネルギー源。カグツチにも搭載されているものですよ。」

 班長の説明を受けて、アリカは当惑するばかりだった。眼前にそびえ立つ巨人に乗り込むことに、彼女は今までにないほどの感情の高ぶりを感じていた。

「アリカさん、オーブを守るために、その剣を手にしてください。その剣がオーブの未来を、あなたの夢を切り開いてくれることでしょう・・」

 班長の言葉と意思を受け止めて、アリカは改めて決意する。眼の前の夢の翼を広げて、未来に向かって羽ばたいていくことを。

 新たなる夢の翼、マイスター・ブルースフィアを。

 

 アリカはマイスターに乗り込み、データのチェックを行う。データは彼女の戦闘データが織り込まれており、彼女のための機体として仕上がっていた。

 確認をしていくうちに、アリカはマイスターに新たに加えられた装備に眼を留める。

(ドラグーンかぁ・・これってすごい技術や感覚が必要なんだよね・・)

 一瞬苦笑を浮かべるも、アリカはすぐに真剣な面持ちに戻る。

(よけることだってできてるんだ・・使うことだって、やればできるはずだよね・・・)

 迷いを振り切り、アリカが発進の準備を整える。天井のハッチが開放され、虚空が広がる。

(みんなと、もっともっと分かり合いたい・・・だから、私は戦う・・みんなの夢を守るために!)

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

 夢と決意を胸に秘めたアリカ。マイスターが飛翔し、虚空へと飛び出した。アリカはレーダーに眼を向けて、クサナギへ帰還しようとする。

(エネルギー反応の数が多すぎる・・襲撃・・・!?

 緊迫を覚えたアリカが、クサナギを目指す。マイスターが翼を広げて、全速力で飛び立つ。その翼からは光の粒子があふれており、まるで天使を彷彿とさせるかのようだった。

 クリスタルチャージャーによって、マイスターの速さは格段に上がっていた。小型艇で数十分かかった距離を、わずか数分で駆け抜けてしまった。

 クサナギはフィーナの駆るカオススーツJとワルキューレたちに追い詰められていた。ユウの駆るザクウォーリアが全力で防衛に当たっているが、カオススーツの猛威に手も足も出ないでいた。

「クサナギ・・ユウさん!」

 ユウとクサナギの危機に、アリカの乗るマイスターがカオススーツJに向かって飛びかかる。かざした右手が、ユウにとどめを刺そうとしていたカオススーツの頭部を押さえる。

 その直後、マイスターにつかまれたカオススーツの頭部から爆発が起こる。新たなマイスターに搭載された新たな武装。手のひらの部分に装備されたビーム砲「ブルーハンド」が、カオススーツを攻撃したのだ。

 不意を突かれたフィーナが毒づく。体勢を立て直したところで、彼女は眼前の機体を見て驚愕する。

「マイスター!?・・なぜ、あの機体が・・あれはトモエが破壊したはず・・・!?

 眼を疑うフィーナだが、眼の前にいるのがマイスターであることに間違いはなかった。

「ユウさん、ユキノさん、大丈夫ですか!?

“アリカ・・・あぁ、オレは大丈夫だ。お前のおかげで助かった。”

 アリカの呼びかけに、ユウが安堵を込めて答える。アリカも安堵を覚えてから、再び声をかける。

「ユキノさん、ここは私が押さえます!クサナギを撤退させてください!」

“アリカさん・・・オルブライト隊にも協力してもらっているのですが、その大部分が被害を被り、ロイ隊長も傷ついて・・”

 アリカの呼びかけに、ユキノが深刻さを込めた返答を返す。

「・・・みなさんをお願いします!」

 アリカはユキノに呼びかけると、迫り来るワルキューレたちに向かって飛び込んでいく。

 マイスターがビームライフルを発砲し、ワルキューレの持つポールアクスを撃ち抜いていく。武装の威力も前機を超えており、ワルキューレを追い込んでいた。

 ワルキューレたちがマイスターに接近し、遠距離攻撃を封じようとする。そこでマイスターが翼を広げ、そこからドラグーンを射出する。多方面から放たれたビームの雨が、ワルキューレの接近を阻む。

「あなたたちは下がりなさい!マイスターは私が相手をする!」

 フィーナがワルキューレたちに呼びかけ、カオススーツJがマイスターに向かって飛びかかる。マイスターが大型ビームソード、エクスカリバーを手にする。それも以前のエクスカリバーではなく、その威力を上回る大剣。「エクスカリバー・エクセリオン」である。

 カオススーツが右腕のビームブレイドを振りかざすが、マイスターがエクスカリバーを構えてその一閃を受け止める。そしてマイスターは大剣を振りかざし、カオススーツの力を跳ね除ける。

 カオススーツが距離を取りながらビームブーメランを放つ。マイスターがカオススーツに飛びかかりながら、左腕からビームシールドを展開してビームブーメランを防ぐ。

(以前のマイスターをはるかに越えている・・このカオススーツが、容易に倒せないなんて・・!)

 マイスターの脅威に毒づくフィーナ。劣勢に追い込まれたカオススーツが、マイスターとの距離を取る。

 そのとき、カオススーツに集中しているマイスターの背後から、ワルキューレが1体飛びかかってきた。

“アリカちゃん!”

 イリーナの呼びかけを受けて、アリカが背後に眼を向ける。カオススーツへの警戒で、マイスターがワルキューレへの対応が遅れる。

 そこへロイの駆るブレイズザクファントムが飛び込み、マイスターとワルキューレの間に割って入ってきた。ワルキューレが突き出したポールアクスを、ザクがマイスターをかばって受ける。

「アリカさん・・その新たな翼で、オーブの未来を・・・」

「ロイさん・・・ロイさん!」

 アリカをはじめとしたオーブの人々に未来を託し、ロイは爆発するブレイズザクファントムとともに散った。

 

 

次回予告

 

「争いと悲劇の中で、悲しい思いをしている人たちがいる・・」

「そんな人を、これ以上増やしてはならない・・」

「お前たちも、そう思うだろう・・・」

「立ちはだかる闇を、私は撃ち抜く!」

 

次回・「流星の咆哮」

 

 

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