GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-32「流星の咆哮」
アリカをかばって命を散らしたロイ。その悲劇を目の当たりにして、アリカの激情が高ぶる。
「よそ見している場合ではないわよ!」
そこへフィーナの駆るカオススーツJが、マイスター目がけて両腕のビームブレイドを振り下ろしてきた。マイスターがエクスカリバーを構えてこの2つの刃を受け止める。
「負けられない・・私を守ってくれたロイさんのためにも!」
言い放つアリカの中で何かが弾ける。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
マイスターがエクスカリバーを振りかざして、カオススーツのビームブレイドを跳ね返す。弾き飛ばされながらも、カオススーツがビームブレイドの一蹴を繰り出してくるが、これもマイスターのエクスカリバーに跳ね返される。
そしてマイスターがエクスカリバーを突き出し、カオススーツの右肩を貫いた。その攻撃でカオススーツが体勢を崩し、フィーナが驚愕する。
右腕をやられ、これ以上の戦闘続行がほぼ不可能となってしまったカオススーツ。フィーナは焦りの色を隠せず、撤退を余儀なくされた。
“フィーナ様、カグツチがアザトースの攻撃を鎮圧し、こちらに向かってきてます!”
「カグツチまで・・・全機、撤退!アザトースへ帰還します!」
兵士の報告にさらに毒づき、フィーナは部隊に撤退を呼びかけた。カオスサイドはマイスターの前に、クサナギを討つことなく戦場を退く羽目に陥った。
離れていくワルキューレたちを、アリカは追おうとはしなかった。そこへ、囮として動いていたアザトースを退けてきたカグツチが、マイスターの前に駆けつけてきた。
「アリカちゃん、大丈夫!?」
「マイさん・・・私とクサナギは大丈夫なんですが・・ロイさんが・・・」
マイの呼びかけに答えながら、アリカが沈痛の面持ちを浮かべる。自分をかばって命を散らしたロイに、アリカは申し訳がないと感じていた。
(ロイさん・・私、全力で守ってみせます・・オーブの未来と、みんなの夢を・・ロイさんの分まで・・・)
アリカは自分の胸に手を当てて、決意を強く留めた。
“みなさん、クサナギに帰還してください。ここから離れてから体勢を立て直します。”
そこへユキノからの通信が入り、アリカとマイが深刻な面持ちで頷いた。マイスター、カグツチ、ユウの乗るザクを収容し、クサナギはこの場を離れた。
マイスターの介入によって、クサナギ討伐に失敗したフィーナたち。彼女たちワルキューレ部隊はアザトースに帰還し、彼女は困惑の面持ちを浮かべたまま、作戦室に戻ってきた。
「クサナギを落とし損なうなんて、あなたもずい分落ちぶれたものね。」
作戦を失敗したフィーナを、トモエがあざ笑ってくる。それを受けて、フィーナが歯がゆさをあらわにする。
「まさかあそこで現れるなんて・・しかも強化されて・・」
「言い訳なんて見苦しいわね。私だったら、どんな相手でも叩き潰して、作戦を成功させるわ。」
「その相手がマイスターであっても・・・?」
「何っ!?」
フィーナが挙げた言葉にトモエが顔を強張らせる。作戦室のモニターにも、カオススーツと交戦するマイスターの姿が映し出されていた。
「そんなバカなこと・・マイスターは私が倒したはず・・・!?」
驚愕したトモエが眼を疑った。マイスターはその神々しい姿を見せ、フィーナやワルキューレたちを撃退して、クサナギの危機を救っていた。
「前のマイスターと比べていくつか違いがあるな・・新型ってヤツか・・」
マイスターを眼にして、イオリが眼つきを鋭くして呟く。息詰まる空気が包む作戦室に、スミスが入ってきた。
「イオリさん、例の品物の在り処が判明いたしました。」
「そうか・・・」
スミスの報告に、イオリが不敵な笑みを浮かべる。その言葉にニナが疑問を覚える。
「例の?」
「そうだ。オレたちの目指す理想を実現するために欠かせない、まさに切り札というべきものだ。」
ニナの疑問に答えて、イオリがスミスに視線を戻す。
「それでそれはどこにあるんだ?」
「はい。私としても、まさか彼らが保持していたとは予想外でしたよ。」
イオリの問いかけにスミスは答え、モニターに地図を提示させる。赤く点滅している地点に眼を向けて、さらに続ける。
「アリゾナ・・デッド・ライダーズが本拠地を立てている場所です。」
スミスのその報告を聞いて、イオリは歓喜を答えることができず、哄笑を上げた。その笑い声が作戦室にこだまし、クルーたちが唖然となる。
「全くだ・・まさかヤツらが手中に収めてるなんてな・・クハハハハ・・!」
イオリはこの好機に、かつてないほどの喜びを感じ取っていた。
「よし!アリゾナに向かうぞ!デッド・ライダーズが邪魔をするなら、遠慮せずに叩き潰してやれ!」
ストラス隊とカオススーツDの攻撃で甚大な被害を被ったジーザス。だがその修復を9割がた完了し、デュランも修復と改良を終了しようとしていた。
「ふぅ。やっとこれでオーブに行けるわね。デュランも新しく生まれ変わったし。」
ジーザスの前で、ミドリが安堵の吐息をつく。そこへナツキが現れ、彼女に声をかける。
「いつまでもマイを待たせるわけにはいかないからな・・だが、生まれ変わったというが、どの辺りに改良が施されているんだ?」
「まぁ、動かしてみてのお楽しみということで。でもひとつだけ教えてあげる。」
もったいぶるミドリに、ナツキが眉をひそめる。
「マイちゃんのカグツチにも搭載されているクリスタルチャージャーが、デュランにも組み込まれてる。今まで以上の性能を発揮できるようになってるよ。」
「そうか。それは頼もしい限りだな。しかしマシロ女王の想いを、私に預けてしまってもいいのか?」
「どうしたのよ、いきなり?自信のない言い回しをするなんて、いつものナツキちゃんらしくないじゃない。」
ナツキの言葉にきょとんとした態度を見せるミドリ。ナツキは広げた自分の手のひらをじっと見つめて、話を続ける。
「私はダークサイドとの戦争で、大切なものを失くした。私だけではない。争いと悲劇の中で、悲しい思いをしている人たちがいる・・」
「ナツキちゃん・・・」
ナツキの言葉にミドリが沈痛の面持ちを見せる。
「しかし、そんな人を、これ以上増やしてはならない・・私と同じ思いをする人を、出してはいけないんだ・・・」
ナツキが見つめていた手を強く握り締める。
(母さん、シズル、キョウジ、サクヤ・・お前たちも、そう思うだろう・・・)
大切な人々への思いを胸に秘めて、ナツキはこれからの戦いに身を投じていくことを、改めて決意したのだった。
「ミドリ、デュランの最終チェックをしたい。構わないか?」
「私はいいけど、チエちゃんには一応言っておいてよ。」
ミドリの言葉に頷いてから、ナツキは先にジーザスへと戻っていった。彼女から穏やかさを感じて、ミドリも笑みをこぼした。
そのとき、ジーザスから警報が鳴り出し、ミドリが緊迫を覚える。すぐにジーザスに戻り、その作戦室に駆けつけてアオイに声をかける。
「どうしたの!?」
「ストラス隊です!3時の方向からこちらに接近しています!」
「ストラス隊・・向こうも体勢を立て直して、再び攻めてきたってわけね。」
その報告にミドリが不敵な笑みを浮かべてみせる。作戦室のモニターに、ジーザスに接近してくる艦体の姿が映し出されていた。
「ナツキちゃんはドックにいるのね?」
「はい。今、チエちゃんとデュランのチェックを行っています。」
アオイの言葉を受けて、ミドリは小さく頷く。彼女はドックへの通信回線を開き、ナツキへの連絡を入れる。
「ナツキちゃん、デュランの発進準備はできてる?」
“あぁ。たった今最終チェックを済ませた。いつでも出られる。”
ミドリの呼びかけにナツキからの声が返ってくる。
「ストラス隊がこっちに近づいてきてる。多分狙いは私たちよ。もしも攻撃を仕掛けてくるようだったら・・」
“迎撃する必要があるということか・・”
「そうなるわね・・さっそくだけど、デュランとナツキちゃんの力、見せてもらうことになるわね。」
“そうやって他人に甘えられるのは腑に落ちないが、ここは私がやろう。”
ナツキの言葉に、ミドリが一瞬苦笑いを浮かべる。迫り来るストラス隊に対応するため、ミドリは星光軍に指揮を出した。
「ジーザス、発進!戦闘態勢に入り、敵の出方を伺うわよ!」
「了解!」
ミドリの指示にジーザスのクルーたちが答える。ストラス隊の接近に備えて、ジーザスが飛翔を開始した。
修復、改良を終えたデュランに搭乗し、ナツキは発進に備えた。その中で彼女は、自分の中の気持ちを確かめていた。
(この機体には、多くの人たちの思いと願いが込められている。私はそれを剣として手にして、未来を目指して突き進む・・・)
彼女の見つめる先のハッチが開かれ、発進準備が整う。デュランのコックピットにアオイの声が響く。
“デュラン・スプラッシュスター、発進どうぞ!”
(私は戦う・・立ちはだかる闇を、私は撃ち抜く!)
「ナツキ・クルーガー、デュラン、GO!」
決意を固めたナツキの呼びかけとともに、デュランがジーザスから出撃する。このデュランはこれまでのものと比べて容姿に若干の差異が見られ、性能も格段に上がっていた。
クリスタルチャージャーを搭載したMS「デュラン・スプラッシュスター」である。
デュランを駆るナツキが、ストラス隊の接近を確認する。ストラス隊のMSたちが、デュランに向けて砲撃を繰り出してきた。
「くっ!問答無用ということか!」
ナツキが毒づき、デュランがその砲撃をかわす。そしてデュランがレール砲2門を構えて、MSたちに狙いを定める。
「チャージシルバーマテリア!チャージクリムゾンマテリア!」
その砲門にそれぞれ違うエネルギー弾「マテリア」を装てんする。砲門は計6門に増加されており、デュランの遠距離攻撃をさらに向上させている。
閃光と炎の弾丸が砲門から放たれ、ザクウォーリア、グフイグナイテッドを撃ち抜いていく。その威力に他の機体の動きが鈍り、パイロットたちが驚愕を覚える。
「私はマイのように優しくはないぞ・・・!」
ナツキが鋭く言い放ち、さらに砲撃を繰り出す。砲撃は的確に相手を射抜き、自分たちへの接近を阻んでいた。
だがザク数機がデュランに詰め寄り、ビームサーベルを振りかざしてきた。デュランはその一閃をかわすが、ザクやグフが砲撃を封じようと間合いを詰めてきていた。
デュランが背中の突起物を射出して、MSたちに向けてさらなる砲撃を加える。デュランに新しく装備された武装、ドラグーンである。ナツキの技量を配慮して組み込まれたものである。
接近を完全に阻まれ、SMたちが後退する。レール砲、ドラグーン、そしてビームサーベル。デュランは遠距離攻撃に限らず、どの位置関係からも相手を狙えるようになっていた。
「このままやられては、ストラス隊の名折れ・・せめてあの機体に一矢報いて!」
いきり立ったストラス隊の艦体が、デュランに向かって迫ってきた。
「血迷ったか・・引き返せ!でなければ撃ち落とさなくてはならなくなる!」
ナツキが警告を言い放つが、艦体は止まろうとしない。ナツキはやむなく、デュランのレール砲を発砲した。
ストラス隊旗艦が砲撃に撃ち抜かれ、爆発を引き起こす。これがストラス隊の戦意を完全に断絶させることとなった。
次々とこの場から撤退していくMSたち。それを見送るナツキは歯がゆさを隠せなかった。敵とはいえ、彼女も相手の命を絶つことを快く思っていなかった。
“ナツキちゃん・・・ありがとう。ジーザスに戻ってきて・・”
「・・・あぁ・・」
ジーザスにいるミドリからの呼びかけを受けて、ナツキは小さく頷いた。ミドリが自分の心境を察してくれていることに一瞬微笑んでから、ナツキはジーザスへと戻っていった。
新たな力を得たデュランの活躍により、ジーザスは窮地を脱することができた。ミドリたちはオーブに向けて発進しようとしていた。
「それじゃ、体勢も万全になったところで、オーブに向かうとしましょうか。」
ミドリがジーザスのメンバーに呼びかけたところで、ナツキが彼女に声をかけてきた。
「ミドリ、私とデュランが先にオーブに向かい、クサナギと合流する。デュランなら早くユキノたちと合流できる。」
「そうか・・ジーザス周辺に敵の反応はないし、ナツキちゃんが向かっても、こっちには問題はないってことね・・・分かったわ。ユキノちゃんには私が言っておくから。」
「すまない、ミドリ。何があれば連絡してくれ。すぐに引き返す。」
「アハハ。そんなに心配しなくたっていいよ。うちらだってライトサイドの軍人。簡単にやられるほどやわじゃないよ。」
微笑むナツキにミドリが苦笑いを浮かべる。そんな2人のいる作戦室にチエがやってきた。
「無傷で帰ってきてくださいよ。クリスタルチャージャーを組み込むのに相当苦労したんですから。」
「あぁ。努力する。みんなの思い、絶対に壊させたりしない・・」
チエの言葉にナツキが頷く。
「マイちゃんたちにもよろしくね。私たちもすぐに駆けつけるからね。」
「あぁ。先に行って待っているぞ。」
アオイが続いて声をかけ、ナツキが答える。
「では行ってくる。私たちの大切なものを、守り抜こう。」
ナツキの声にミドリたちが頷く。仲間たちの思いを受け止めて、ナツキはオーブに向けて先に飛び立っていった。
ナツキを乗せたデュランがジーザスから発進する。その中でナツキは、マイやアリカたちへの思いを胸中で振り返っていた。
(待っていてくれ、マイ、アリカ。私もすぐに行くから・・・!)
決意するナツキを乗せて、デュランが流星のような疾走で空に飛び立った。
勝利へのキーカードを見つけたイオリ。それを手に入れるため、アザトースがアリゾナに侵入していた。
「アリゾナに入りました。目標があると思われる地点への到着まで、距離900。」
「ボトムズを確認。デッド・ライダーズが集結しております。」
オペレーターの報告を聞いて、イオリが不敵な笑みを浮かべる。
「別に連中を恐れることはない。無視しても構わないが、邪魔をするなら払ってもいい。」
イオリが呼びかけると、アザトースのクルーたちが敬礼を返す。ニナとフィーナが真剣な面持ちになり、トモエとスワンが歓喜の笑みをこぼす。
「切り札の奪取はスミスが自ら行う。お前たちはデッド・ライダーズの攻撃に備えろ。」
「慎重ね。別に構わないのに。デッド・ライダーズだろうと誰だろうと、今の私に勝てるものなんてないのに・・」
トモエがあざ笑ってくるが、イオリは気に留めていなかった。
「では作戦を開始する。総員、戦闘体勢に入れ。」
イオリが混沌軍に向けて命令を下した。デッド・ライダーズに対するアザトースの攻撃が始まろうとしていた。
次回予告
「カオススーツ、これほどまでとは・・!」
「このまま敗れるわけにはいかない!」
「行きましょう、シスカさんのためにも・・」
「待たせたな、お前たち・・・!」
「デュラン・・ナツキ!」