GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-30「水晶の閃光」
オーブ軍を追い込んでいたところでカグツチが乱入し、アザトース内でイオリとスミスが驚愕を覚えていた。
「なぜカグツチが・・私が集めた情報の中では、ここしばらくは姿を見せていなかったはずなのに・・・!?」
「まさかカグツチが割り込んでくるとはな・・・!」
動揺を浮かべるスミス。イオリも苛立ちをあらわにして、たまらず席を立つ。
「だがこっちにはカオススーツとオレイカルコスがある・・たとえカグツチが現れたところで、こっちの優勢に変わりはない・・・!」
イオリは笑みを取り戻し、混沌軍に向けて呼びかけた。
「怯むな!このまま攻撃を続けて押し切れ!今のオレたちの力なら、倒せない敵などない!」
マシロは男だった。その事実を目の当たりにして、アリカはさらなる動揺を覚えていた。
「マシロちゃんが、男の子・・・!?」
眼の前の出来事を素直に受け取ることができず、アリカはその場を動くことができないでいた。
「アリカさん、あなたもクサナギに撤退を!この場は危険です!」
そこへ救護班の班員が呼びかけ、アリカが我に返る。動揺を抱えたまま、彼女は班員たちに運ばれていくジュンとともにクサナギへと戻っていった。
オーブ軍の危機に参戦し、混沌軍の前に立ちはだかったカグツチ。マイとユウが眼前のMSたちを見据えて、臨戦態勢に入る。
「えらい数だな。しかもいくつかすげぇのが混じってる・・!」
「そうね・・でも、こっちだって強くなってるんだもの・・・!」
ユウの呟きに、マイが真剣な面持ちで答える。
「そうは言ってもな・・こりゃさっさと終わらせねぇと、クサナギが・・・!」
「分かってる。今まともに動けるのはあたしたちだけだから・・・!」
マイとユウの決意と使命感を背に受けて、カグツチが身構える。両手にビームライフルをそれぞれ手にして、クサナギの防衛のために奮起する。
「ライトサイドだけじゃなく、オーブもあたしたちの大切な場所・・あたしたちのこの力でみんなを、大切な人たちを守ってみせる!」
決意を言い放つマイ。クサナギに接近しようとしていたワルキューレたちに向けて、カグツチが2本のビームライフルを発砲する。
放たれた光線が、ワルキューレの持つポールアクスを次々と撃ち抜いていく。一気に行く手を阻まれて、ワルキューレたちがたまらず後退する。
(やはりカグツチは強い・・動きも速く、狙いも正確・・機体の性能、それをうまく扱うパイロットの技量・・・あなどれないわね・・・)
カグツチの猛威を見据えて、フィーナが胸中で呟く。しかし慌てる様子はなく、冷静に状況を分析していた。
「カグツチは私とトモエで押さえるわ!他の人はクサナギへの攻撃を続けなさい!」
「言ってくれるじゃないの。カグツチも私1人で十分なのに・・」
フィーナの呼びかけに対して不満を募らせながらも、トモエも彼女の指示を受け入れる。2機のカオススーツがカグツチを挟み撃ちにする。
「強敵2体のお出ましか・・厄介なことになってきたな・・」
「男のくせに弱音を吐かないでよ。あたしたちが降参したら、何もかもおしまいなんだからね。」
やる気のないようなことを口にするユウに、マイが不満を口にする。2機のカオススーツが同時にビームライフルの引き金を引く。
カグツチが飛翔してその光線をかわす。カオススーツFがすかさずレール砲を発射するが、カグツチはこれも回避する。
カグツチが反撃に転じて、2つのビームライフルを連射する。カオススーツFはこれをビームシールドで弾き返す。
「どういうことなの・・・カグツチの動きが、今までよりさらに上がっているなんて・・・!?」
フィーナはカグツチの機動力に脅威を感じていた。クリスタルチャージャーを動力源としているカグツチは、前機を上回る性能を発揮していた。
カグツチが広げた翼からドラグーンを放ち、多方面から砲撃を繰り出す。カオススーツたちが機敏な動きでその光線の雨をかいくぐっていく。
そこへカグツチがビームサーベルを手にして飛びかかり、カオススーツFに一閃を繰り出す。それをビームシールドで受け止めるカオススーツFだが、ドラグーンの砲撃を背後から受ける。
怯んだ混沌の機体に向けて、カグツチが再度光刃を振りかざす。その一閃がカオススーツの左腕を切り裂いた。
「ぐっ!おのれ!」
トモエがいきり立ち、カオススーツもドラグーンを展開する。カグツチはとっさに離れて、縦横無尽に飛び込んでくる光線をかわしていく。
そこへカオススーツJが飛びかかり、ビームブレイドを併用しての一蹴を繰り出してくる。カグツチはビームサーベルを後ろ手に回してその一閃を受け止めるも、衝撃までは止めることができず突き飛ばされる。
カグツチは即座に体勢を立て直して、ビームライフルを撃つ。その光線がカオススーツJの右肩に直撃する。
「くっ!しまった!」
フィーナが毒づいて、カグツチの脅威を再び痛感する。
1対2の戦況であるにも関わらず優位を見せているカグツチを、ニナはじっと見つめたままだった。彼女はマイに対して敵意を向けることに躊躇を抱いていたのだ。
次第に劣勢に追い込まれていく状況に、イオリは笑みを消していた。
「カグツチの力が以前を上回っている・・これは1度体勢を立て直したほうがよさそうだな・・・」
「よろしいのですか?クサナギを落とす、絶好の機会ですが?」
言いかけたところでスミスにとがめられるが、イオリは顔色を変えずに続ける。
「そう見えはしてるが、状況からすれば追い込まれてるのはこっちだ。主力であるカオススーツが2機とも破損した。ここは力押しをするところではない。」
「了解しました。それでは全機撤退してください。体勢を立て直します。」
イオリの意向を受けて、スミスがワルキューレたちに呼びかけた。
「アテナとマイスターを撃破したのは大きい。これだけでも十分な成果だ・・信号弾を放て!今日はこれまでだ!」
イオリの命令を受けて、アザトースから閃光弾が放たれた。
「撤退!?」
撤退命令にフィーナ、トモエ、ニナが驚愕する。歯がゆさを覚えながらも、彼女たちはアザトースに向けて引き返していく。
退いていく混沌軍を、マイとユウは追撃しなかった。ワルキューレたちの猛攻で損傷が激しいクサナギに向けて、カグツチが降り立った。
(ジュンくん・・・)
戦いの中で傷ついたジュンが気がかりで、マイは沈痛さを募らせていた。
オーブ軍の被害は甚大だった。クサナギの武装のいくつかが破損し、アテナ、マイスターまでもが再起不能に陥ってしまった。
オーブとしての主力を完全に奪われたオーブ軍は途方に暮れ、救援に駆けつけたカグツチ、マイとユウに頼るしかなかった。
「本当にありがとう、マイちゃん、ユウさん。2人が来てくれなかったら、私たちはどうなっていたか・・・」
「いいよ、気にしないで、ユキノちゃん。みんなを守りたいという気持ちは、あたしもユウも同じだから・・」
感謝の言葉をかけるユキノに、マイが照れながら弁解する。だがこの現状に、彼女たちは笑みを消す。
「クサナギは、オーブは全ての剣を砕かれてしまいました・・理念を貫く心はあっても、そのための力がありません・・」
「ジュンくんのことに気がかりだし・・ここはあたしたちが何とかするしかないわね・・・」
ユキノたちに助力することを告げるマイに、ユウも笑みを見せて頷く。
「ですが、こちらの力が完全に失われたわけではありません。オーブの研究団が開発した機体を、うまく回収することができれば・・・」
ユキノが口にした言葉に、マイとユウが眉をひそめる。
「その機体って、まさかカグツチと同じで・・・」
「はい。その機体にも、マシロ女王から授かった、クリスタルチャージャーが搭載されています。使い方を間違えれば世界を破滅に導くことも考えられるので、私たちにとっては、できれば使いたくはないのですが・・・」
マイの言葉に頷いて、ユキノが深刻な面持ちで続ける。
「もっとも、世界のため、平和のため、理念のために扱おうとする人に使ってほしいというのが本音ですが・・」
「そういう人なら、もうオーブにいるじゃない。」
マイの指摘を受けて、ユキノは一瞬当惑する。だがその人物が誰なのかをすぐに察して、ユキノは頷いた。
「ですが彼女は今は・・・」
「大丈夫よ。あたしたちが信じてあげなくちゃ・・」
マイに励まされて、ユキノは微笑んで頷いた。
「そろそろ医務室に行こうぜ。やっぱ気がかりになっちまうよな・・・」
そこへユウが声をかけると、マイとユキノも頷き、3人は一路医務室に向かうことにした。
医務室のベットで眠っているジュンを、アリカは困惑を感じながら見つめていた。マシロ女王が実は男が変装していたことに、アリカは少なからず動揺していた。
そこへマイ、ユウ、ユキノが入ってきた。
「ユキノさん、マイさん・・・」
アリカが振り返り、マイたちに声をかける。
「アリカちゃん、マシロ様の具合は?」
「頭の傷以外は軽傷で済んでいます・・でも、意識は戻っていなくて・・・」
マイの質問にアリカが沈痛さを見せて答える。そしてアリカは、自分が見た真実をマイたちに打ち明けた。
「マイさん、ユキノさん・・実は、マシロちゃんは・・マシロちゃんは・・・!」
アリカが声を振り絞って言いかけたところで、ユキノが彼女の肩に優しく手を添えた。その反応に、彼女はやるせなさを覚える。
「・・・知ってたんですね・・マシロちゃんが、実は男の子だってこと・・・」
「マシロ様と雰囲気が似ていたということで・・ライトサイドの混乱を避けるためだったとはいえ、彼には重荷を背負わせてしまっていると、心の中でずっと考えていました・・・」
アリカの指摘に、ユキノも物悲しい笑みを浮かべて頷いた。
「でも、それでもマシロさんは、ライトサイドのため、私たちオーブのため、世界のために奮起してきたのです。自らMSに乗って戦場に出て、命を賭けて戦っていたのです・・ライトサイドの党首として、1人の人間として・・」
ジュンの、マシロとしての戦いを思い返して、アリカは戸惑いを感じた。女王としての装いは偽りだとしても、周囲に打ち明ける自分の気持ちは本物である。彼女はそう受け止めていた。
「マシロちゃん・・今まで、私たちのために・・・」
悲痛さが込み上げるあまり、アリカは眼から涙をこぼす。自分がジュンに守られてきたと感じて、自分の弱さと甘えを責めていたのである。
「私が守るはずなのに・・私が守らなくちゃいけないはずなのに・・・私は、マシロちゃんと友達でいようとして・・・」
「アリカちゃん・・・それでいいのよ・・」
悔しさを噛み締めていたところで、アリカはマイに背後から優しく抱きとめられた。その抱擁にアリカが戸惑いを見せる。
「一国の女王様と友達だなんて、すごいことじゃない・・身分とか文化とかが違っても、誰とも仲良くなれることは本当にすごいことなんだから・・」
「・・それで本当に、いいんですか・・・?」
困惑しながら問いかけるアリカに、マイは笑顔を見せて頷く。
「ま、問題なのはこれからどうするか、だな。どこまで自分を貫けるかが、これからのカギだな。」
ユウも気さくな態度でアリカに励ましの言葉をかける。多くの人々に支えられていることに、アリカはようやく迷いを振り切ることができた。
「ありがとうございます、マイさん、ユウさん・・私、まだまだ頑張れそうです・・・」
アリカの感謝の言葉に、マイたちが微笑みかけていた。眠りについているジュンに眼を向けて、アリカは胸中で言いかけた。
(マシロちゃん・・たとえ男の子だったとしても、マシロちゃんはマシロちゃんだよ・・でもこれからは、私がマシロちゃんを守るから・・・)
改めて決意したアリカが、全身全霊を賭けて戦いに赴くことを、ジュンに向けて誓った。
「アリカさん、これからの世界は、あなたの手にもかかっています・・今からあなたはある場所に行ってきてほしいのです。」
「ある場所、ですか・・・?」
そこへユキノが呼びかけると、アリカが疑問を投げかける。
「そこにあなたの新しい翼が待機しています。それを手にして、未来を切り開いてほしいのです。」
「でも、クサナギはどうするんですか?・・いくらオルブライト隊でも、今のカオスサイドを止めるだけの力は・・」
ユキノの指示にアリカが言葉を返す。するとマイがアリカに笑顔を向けてくる。
「ご心配なく。ミドリちゃんから、しっかりとクサナギとオーブを守ってくるように言われてるから。」
「マイさん・・・本当にすみません・・・すぐに戻ってきますから・・・」
マイに後押しされて、アリカが彼女に頭を下げた。
「もう、やっぱりここにいたのね、マイちゃん。」
そこへシスカが医務室へ入ってきて、アリカたちが振り返る。
「久しぶりだね、シスカちゃん。これまた派手にやられちゃったわね。」
「うるさいわよ。こっちも必死なんだからね。それに・・」
マイがからかうように言いかけると、シスカが不満を見せる。だがジュンに眼を向けて、彼女は深刻な面持ちを浮かべる。
「マシロさんに比べたら、私はかすり傷よ。このくらい、どうってことないわ。」
「あんまりムチャしないでよ・・って、あたしも言えた義理じゃないんだけどね・・」
言い放つシスカに、マイが苦笑いを浮かべながら答える。
「だったら余計なことを言ってないで、自分のできることをやんなさいよ。」
「分かってるって。シスカちゃんも、いつでも戦えるように準備していてよね。」
互いに呼びかけあうと、シスカとマイが握手を交わし、頷いてみせた。
「ユキノさん、何か使える機体はないか?」
そこへユウがユキノに訊ね、ユキノが深刻な面持ちを浮かべる。
「使える機体ですか・・・ザクウォーリアが、現在の最大戦力ですが・・・」
「それでいい。それでおめぇらを守らせてくれ・・」
「ユウさん・・・救援、感謝いたします。ですが、私たちはあなた方に守られてばかりいるつもりはありません。あなた方を、全力で援護させていただきます。」
「そうか・・・いろいろとすまねぇな・・」
ユキノの計らいを受けて、ユウが照れ笑いを見せる。
「それじゃ私は行きます。すぐに戻ってきますので、待っていてください。」
「向こうには私が連絡を入れておきますので。アリカさん、気をつけて・・」
新たな力を求めて旅立つアリカに、ユキノが言いかける。その言葉に頷いて、アリカは医務室を後にした。
「ねぇユキノちゃん、ジーザスに連絡したいんだけど?ミドリちゃんたちに、ここに着いたことを報告しておかないと・・」
「えぇ、構いませんよ。こちらも現状を報告しようと思っていたところですから・・」
マイの申し出にユキノが了承する。彼らも医務室を後にして、作戦室へと赴いた。
クサナギの格納庫では、ユキノから連絡を受けたイリーナの誘導の下、アリカが小型艇で発進しようとしていた。
(私がやらなくちゃいけない・・クサナギのみんなや、オーブの運命は、私の肩にかかってるんだから・・・)
オーブの鍵を自分が握っている。その重責と決意を胸に秘めて、アリカはハッチの開かれた先の空を見据える。
“それじゃアリカちゃん、気をつけて。私たちのことは大丈夫だから・・”
「イリーナちゃん・・・ありがとうね。すぐに戻るから、それまで頑張って・・」
イリーナの呼びかけに答えて、アリカは頷く。
“それでは発進してください。アリカちゃんの奮起に期待します・・・”
モニター越しに敬礼を送ってきたイリーナに、アリカも敬礼を返した。アリカは小型艇にて、その機体が収められている場所へと向かった。
少年少女の様々な思いが交錯し、運命の歯車が加速していった。
(待ってて・・ニナちゃん・・マシロちゃん・・・)
次回予告
「ここまで真実を知ってしまったら、もっともっと知らなくちゃいけないと思う・・」
「ニナちゃんのことも、マシロちゃんのことも知りたい・・・」
「だから、私は戦う・・みんなの夢を守るために!」