GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-29「滅びの讃歌(うた)」

 

 

 ニナが忽然とクサナギから姿を消した。そのことで艦内に動揺が広がっていた。

「ニナちゃん、どこに行っちゃったんだろう・・・」

「どこか出かけるときには、いつも誰かに連絡していくはずなのに・・・」

 アリカとニナが不安の言葉を口にする。その傍らで、ジュンは一抹の不安を感じていた。もしかして自分がかけた言葉がニナを傷つけてしまったのではないか。

「どうしたの、マシロちゃん?」

 深く考え込んでいたところでアリカに声をかけられ、ジュンが我に返る。

「アリカちゃん・・・ううん、何でもないよ・・・」

 ジュンがとっさに作り笑顔を見せるが、アリカの心配は消えなかった。

「ニナちゃん、いったいどうしちゃったんだろう・・こんなこと、今までなかったのに・・・」

 アリカが不安を口にすると、ジュンはさらに困惑を覚える。

(これも僕のせいなのだろうか・・ニナちゃんを追い込んでしまって・・・)

 どうしようもなくなりそうな感覚にさいなまれて、ジュンは歯がゆさを浮かべていた。その様子に、アリカまでもが困惑を募らせていた。

 そのとき、艦内に警報が鳴り響き、ジュンとアリカが緊迫を覚える。2人は急いで作戦室に向かい、状況を確かめる。

「何かあったんですか!?

 ジュンが問いかけると、ユキノが深刻な面持ちを浮かべたまま答える。

「カオスサイド、アザトースがオーブ領土内に侵入してきました・・」

「アザトース・・また・・・!」

 ユキノの言葉にジュンが歯がゆさを覚える。彼は胸中でミナミのことを思い返していた。

(ミナミちゃん・・これ以上、カオスサイドの侵攻を許しちゃいけないよね・・・)

 ジュンは胸の中に決意を秘めて、混沌軍との戦いに臨もうとしていた。

「ユキノさん、僕たちも行きましょう!」

「でも、ニナちゃんがまだ・・・」

 ジュンが出動を申し出たところでアリカが言いかける。

「ニナちゃんのことも気がかりだけど・・カオスサイドもこのまま放っておくわけにも・・」

“それなら我々が食い止めましょう。”

 ジュンが答えていたところへ、オルブライト隊のロイが通信を送ってきた。

「ですが、それではオルブライト隊が・・・!」

“我々を見くびらないでください、マシロ陛下。ニナ殿が戻ってくるまで、我々が持たせてみせますよ。”

 ジュンが声を荒げるが、ロイは自信を見せてくる。しかしユキノはロイの申し出を受け入れようとしなかった。

「総合的な戦力を考慮して、オルブライト隊に先陣を切らせるわけにはいきません・・ですからロイさん、私たちに代わって、ニナさんの捜索を行ってください。」

“我々が、ですか・・・?”

 ユキノが告げた言葉に、ロイだけでなく、そばにいたジュンとアリカも唖然となった。しかしロイは冷静さを取り戻して頷いた。

“分かりました。発見次第、援護に行きますので・・”

 ロイは渋々頷くと、クサナギへの通信を終える。

「ユキノさん・・・」

 ジュンが苦笑気味に戸惑いを浮かべると、ユキノが微笑みかけてきた。

「ニナさんはロイさんが見つけてくれるでしょう・・私たちは、カオスサイドを押さえましょう。」

「・・・はいっ!」

 ユキノの計らいを受け止めて、ジュンとアリカが敬礼を返す。そして2人は作戦室を飛び出し、それぞれの機体に向かう。

 アテナのコックピットの中で、ジュンは再び困惑を募らせる。そこへマイスターに乗り込んだアリカから通信が入る。

“マシロちゃん・・大丈夫?・・ムリしないで、休んでいたほうが・・・”

「アリカちゃん・・・ありがとう、心配してくれて。でもアリカちゃんだったら、ムチャでも行くはずだよね?」

 ジュンに呼びかけられて、アリカがモニター越しに頷く。

「それじゃ、危なくなったらすぐに戻るということで。」

“うん。了解です。”

 ジュンの呼びかけにアリカが微笑んで頷く。

“カタパルト接続。ハッチ開放。針路クリア。システム、オールグリーン。全セーフティ解除・・アテナ、マイスター、発進どうぞ!”

「マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム、アテナ、いきます!」

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、いきます!」

 ジュンのアテナ、アリカのマイスターがクサナギから発進した。飛び出した2機の前に、カオスサイドのワルキューレ、ザクウォーリア、グフイグナイテッドが姿を見せる。

 そしてトモエの駆るカオススーツF、フィーナの駆るカオススーツJも。

「マイスターの相手は任せるわ。それで文句はないわね?」

「ウフフフ・・上等よ。」

 フィーナが呼びかけると、トモエが歓喜の笑みを浮かべる。

「それと、彼女はアテナの相手をしたいみたいだから、そっちのほうも視野に入れておきなさい。」

「フン・・まぁいいわ。他の連中は好きにさせてあげる。」

 フィーナの呼びかけに不満を見せながらも、トモエは戦場に赴いた。

「行くよ、アリカちゃん・・みんなを守らないと・・・!」

「うん・・・!」

 ジュンの呼びかけにアリカが答え、立ちはだかる混沌軍を見据える。

(そうだ・・僕は守らなくちゃいけないんだ・・ミナミちゃんのためにも・・・)

 決意と責務、重責を背に受けて、ジュンは手にしているハンドルを強く握り締める。そしてカオスサイドの進撃に対する迎撃を行おうとしていた。

 そのとき、ジュンとアリカはその軍勢の中にいる黒い機体を発見して、眼を見開いた。

「何だ、あの機体は・・・!?

「ワルキューレとは違う・・でも、凄みが・・・!」

 ジュンとアリカがその機体から威圧感を感じて驚愕する。だが彼らが本当に驚くのはこれからだった。

「オーブ軍、及びライトサイド党首、マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームに申し上げます。」

「えっ・・・!?

 その機体から発せられた声に、ジュンやアリカだけでなく、クサナギクルーたちも耳を疑った。淡々と放たれるその声は、ニナのものだった。

「ニナ、ちゃん・・・!?

 ジュンはたまらず声を上げる。だがニナは気に留めずに淡々と語り続ける。

「私はマシロ女王の見解に反感を覚え、カオスサイド、混沌軍の所属を決意しました。ライトサイド、オーブ、私は今は、あなた方の敵です。」

「ニナちゃん・・どうして・・・!?

 ジュンがたまらずニナに向けて声を振り絞り呼びかける。

「それはあなたが招いたことなんですよ、マシロ女王・・・」

「えっ・・・!?

「女王、あなたには失望しています・・女王としても、1人の人としても・・・」

 愕然となるジュンに、ニナが通信を返す。

「あなたは国の代表でありながら感情に流され、敵を助けようとし、そのために仲間を傷つけた。そんな自分勝手な考えでは、とても導くことなどできない・・・!」

「何を言ってるんだ、ニナちゃん・・僕は、みんなを助けたいんだ!・・・敵だからって、助けられる人を助けないようなことをしたくないんだ・・・!」

 ジュンがさらに呼びかけようとしたとき、黒い機体、オレイカルコスがビームライフルの引き金を引いた。放たれた光線がアテナの横を通り過ぎていき、ジュンは言葉を失う。

「何度も言わせないで・・それがきれいごとだって・・・もうきれいごとでは済まされない・・・あなたは、偽善者よ!」

 憤りを膨らませたニナが、アテナを鋭く見据える。オレイカルコスが中型のビームサーベルを引き抜いて、アテナに向かって飛びかかる。

「ニナちゃん!」

 ジュンがとっさに反応し、アテナもビームサーベルを構えて、オレイカルコスが振り下ろしてきた光刃を受け止める。

 だがオレイカルコスの力は強く、アテナは力負けして突き飛ばされる。

「マシロちゃん!」

 アリカがジュンの援護に向かおうとするが、マイスターの前にトモエの乗るカオススーツFが行く手を阻む。

「あなたの相手は私よ・・この前は仕留めそこなったけど、今回はそうはいかないわよ!」

 トモエが憎悪をむき出しにして、カオススーツがマイスターに向けて飛びかかる。混沌の機体が振りかざした2本のビームサーベルを、マイスターがエクスカリバーで受け止める。

「あなたもいい加減しつこいよ!」

「そう思ってるなら、さっさと私に倒されることね!」

 歯がゆさを覚えるアリカに、トモエが眼を見開いて言い放つ。カオススーツが繰り出した一蹴で、マイスターが突き飛ばされる。

 すぐに体勢を整えるマイスターだが、トモエとカオススーツの猛威に押されていた。

「それでは、私たちはクサナギを落とすわ。ワルキューレ部隊は、私に続きなさい!」

 カオススーツJに搭乗しているフィーナが、ワルキューレたちを伴ってクサナギへと迫っていった。

 

 オレイカルコスを駆使して、ニナがジュンに迫る。ジュンはニナに対して攻撃することを躊躇していた。

「やめてよ、ニナちゃん!どうしてカオスサイドなんかに・・どうして僕たちに・・・!」

 ジュンが必死に呼びかけるが、ニナは攻撃をやめない。

「言ったはずよ!全てはあなたのせいだと・・・!」

「僕が・・・!?

「あなたが彼女、ミナミ・カスターニを擁護したばかりか、そのために私に危害を加えた!自分の考えだけでMSを動かし、私たちを混乱させたあなたを、私は信じない・・・!」

「ならどうして、カオスサイドに加わったりしたんだ!?僕が悪いって言うなら、カオスサイドに入る必要なんてないじゃないか!」

「私がカオスサイドに加わったのは、お父様のためでもあるのよ・・・!」

 ニナの言葉にジュンが当惑を覚える。

「お父様・・・セルゲイ・ウォン少佐・・・!?

「そう。お父様はイオリさんの見解に同意して、カオスサイドに同意したのよ。そのお父様の心のため、私はカオスサイドに加わったのよ・・・」

 父を思うニナの心境に、ジュンは一瞬戸惑いを覚える。だがジュンはその心境に矛盾を感じてニナに反論する。

「そんなの違う・・お父様のためって、それじゃニナちゃんの本当の気持ちはどうなんだ!?

「私の気持ち・・・」

「たとえセルゲイさんがどう思おうと、ニナちゃんの気持ちを決めるのはニナちゃん自身なんだよ!」

「あなたに何が分かるの・・・私とお父様の、何が分かるのよ!」

 呼びかけるジュンに対し、ニナが内に秘めていた感情をむき出しにする。オレイカルコスの両腕からビームブレイドを発して、アテナに迫る。

 オレイカルコスの動きはアテナの機動力を上回り、その機体を的確に捉えていく。振りかざされる光刃を、アテナがビームサーベルとビームシールドで受け止めていた。だがアテナが劣勢を強いられているのは明らかだった。

「私がお父様に救われたことは、あなたも知っているわね・・私はお父様のために存在している。お父様が、私の命を救ってくれたから・・」

「ニナちゃん・・・」

「お父様の安らげる場所を見つけ出す。それが私の戦い・・・私たちの邪魔は、誰にもさせない!」

 さらにいきり立ったニナ。オレイカルコスがアテナに向けてビームブーメランを放つ。

 アテナが飛翔してそれを回避するが、オレイカルコスが飛びかかり、ビームブレイドを掲げて突進を仕掛ける。とっさにビームサーベルを構えたことで、アテナはその突進で両断されるのを免れた。

「僕は守らなくちゃいけない・・クサナギのみんなも、君も!」

 感情を高まらせた瞬間、ジュンの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 アテナの動きが機敏となり、オレイカルコスの速い攻撃をかわす。その戦闘力の向上にニナが驚きを覚える。

 アテナは身を翻して、オレイカルコスに向けてビームサーベルを振り下ろす。光刃は的確に黒い機体の装甲に命中したはずだった。

 だがアテナの一閃を受けても、オレイカルコスには傷ひとつついていなかった。

「なっ・・・!?

 ジュンはオレイカルコスの耐久力に驚愕を覚える。オレイカルコスがビームブレイドを併用しての一蹴を見舞い、アテナを突き飛ばす。

「このオレイカルコスは、強度の高い装甲によって守られている。その防御力は、この世界に存在しているMSの中で右に出るものはないほどよ。いくらアテナでも、オレイカルコスの装甲は破れない・・・!」

 ニナがジュンに向けて淡々と説明を告げる。

「お父様の幸せこそが、私の幸せ・・全てを引き換えにしてでも、私はお父様のために全力を注ぐ・・・お父様との幸せのためにも、マシロさん、私はあなたを撃つ!」

 セルゲイへの想い、ジュンへの敵意が頂点に達したとき、ニナの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 オレイカルコスの動きが機敏になり、アテナの機動力を確実に凌駕する。振り下ろされた両腕のビームブレイドを、アテナがビームサーベルとビームシールドをかざして防ごうとする。

 だがオレイカルコスの力はアテナを圧倒し、光刃と盾を切り裂いた。そしてさらなる一閃によって、アテナが右腕を切り裂かれる。

 漆黒の機体の猛威とニナの敵意に、ジュンは愕然となった。反撃すらままならなくなったアテナの両足を、オレイカルコスがビームブレイドの一蹴でなぎ払う。

 姿勢維持ができなくなり、アテナが地上へと落下する。警報が鳴り響くコックピットの中で、ジュンは衝撃に揺さぶられて意識を失っていた。

「マシロちゃん!」

 アリカがジュンに向けて叫び、マイスターがアテナを追いかけようとする。だが彼女を追い込んでいたカオススーツFがそれを邪魔する。

「他のことを気にしている場合じゃないんじゃないの!」

 狂気を放つトモエがアリカに向けて叫ぶ。背を向けたマイスターに向けて、レール砲の一斉砲撃を放ち、その機体を撃ち抜く。

「キャアッ!」

 砲撃を受けての爆発を引き起こして、マイスターが落下する。カオススーツがとどめを刺そうと、再びレール砲を発射した。

「アリカさん!」

 クサナギにいるユキノがたまらず声を荒げる。しかしカオススーツJとワルキューレたちの猛攻に行く手を阻まれ、救助に向かうことができない。

 そのとき、マイスターに向けて放たれた閃光に向けて、別の一条の閃光が飛び込んできた。2つの閃光は衝突し、まばゆい爆発を引き起こす。

「うあっ!」

「何っ!?

 アリカが再び声をあげ、トモエが驚愕する。カオススーツFの前にものすごい速さで飛び込んできたのは、紅い翼を広げた白い機体。

「あれは・・・!?

「カグツチ・・・!?

 カグツチの姿を目撃したユキノとアリカが眼を見開く。カグツチに搭乗しているマイとユウが、クサナギとマイスターに向けて通信を送ってきた。

「アリカちゃん、大丈夫!?

「マイさん・・・私は大丈夫なんですけど、マシロちゃんが・・・!」

 アリカからの返答を受けて、マイが眼下を見据える。オレイカルコスの攻撃を受けて、大破したアテナが地上に落下していた。

(ジュンくん・・・)

「アリカちゃん、マシロ様をお願い。ここは私が食い止めるから。」

「マイさん・・・はい!お願いします!」

 マイの呼びかけにアリカが頷き、マイスターが降下を始める。破損していたマイスターだが、移動はまだ可能だった。

「このまま逃がすと思ってるの!」

 そのマイスターを追って、トモエのカオススーツFが追撃しようとするが、そこへカグツチが行く手を阻んだ。

「悪いんだけど、ここから先へは行かせないから!」

「カグツチ・・・余計なマネを!」

 オーブ軍の防衛を敢行するマイと、激情をあらわにするトモエ。カグツチとカオススーツFが、それぞれビームライフルの引き金を引いた。

 

 オレイカルコスの攻撃を受けて大破したアテナを追って、地上に降り立ったマイスター。負傷したマイスターも、これ以上の活動は限界だった。

 そのコックピットから降りたアリカが、急いでアテナに駆け寄る。カグツチの参戦で劣勢を跳ね除けていたクサナギも、アテナに向かって、救護班を向かわせていた。

「マシロちゃん・・無事でいて・・・!」

 アリカが心配を隠せずに、アテナのコックピットのハッチを開ける。中には意識を失っているジュンがいた。

「マシロちゃん・・・!」

 アリカはジュンを抱え上げて救護班の担架の上に横たわらせる。そして頭部が傷ついていることを考慮して、彼女はメットを外す。

 ジュンは頭から血を流しており、力が抜けてしまっていた。

「マシロちゃん・・しっかりして、マシロちゃん!」

 アリカが悲痛の面持ちを浮かべて呼びかけるが、ジュンは反応しない。彼の体を支えて彼女がさらに呼びかけようとしたとき、彼の髪がさらりと落ちた。

 その出来事にアリカは動揺の色を隠せなかった。

「マシロ、ちゃん・・・!?

 マシロが少年の変装であることを目撃し、アリカは困惑していた。

 

 

次回予告

 

「マシロちゃんが、男の子・・・!?

「まさかカグツチが割り込んでくるとはな・・・!」

「こりゃさっさと終わらせねぇと、クサナギが・・・!」

「あたしたちのこの力でみんなを、大切な人たちを守ってみせる!」

 

次回・「水晶の閃光」

 

 

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