GUNDAM WAR -Shine of Mebius-
PHASE-27「裏切りのいざない」
カオスサイドが退き、沈静化していく中東基地の混乱。その中でジュンは、ミナミの亡骸を抱え込んでいた。
(ミナミちゃん、ゴメンね・・全て僕のせいだ・・・僕があのとき、僕が止めていたら・・・)
悲痛さを浮かべて、ジュンがミナミの顔を見つめる。ミナミはジュンの腕の中で安らかに眠っている。
(僕が無理矢理にでもカオスサイドに行かせなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない・・それなのに、それなのに・・・)
ジュンの眼に涙があふれる。その雫が、眠るミナミの頬に零れ落ちる。
(恨んでいるなら、僕を恨んでくれてもいい・・君を死に追いやってしまったのは、僕なんだから・・・)
自分を責めて、悲しみに暮れるジュン。彼はいつの間にか、基地の近くの草原にたどり着いていた。
「ミナミちゃん、もう大丈夫だから・・もう、君を傷つけたりひとりにさせたりするものは何もないから・・・」
ジュンはミナミに優しく微笑むと、草原の中の花畑にミナミを横たわらせた。
「僕は行くよ・・みんなが、待ってるから・・・」
ジュンはミナミを見下ろすと、彼女に背を向けて歩き出した。こんなことは2度と起こしてはならない。ジュンは自身の胸に深く釘を刺した。
ミナミの想いと願いを背に受けて、ジュンはクサナギへと戻っていった。
ひとまずオーブ領土から撤退したカオスサイド。その中でトモエが、この撤退に対して苛立ちを感じていた。
近寄りがたい雰囲気を放っている彼女に、イオリが姿を見せてきた。
「どうして撤退なんかしたのよ・・もう少しでマイスターを倒せたはずなのに・・・」
苛立ちを口にするトモエだが、イオリは不敵な笑みを崩さない。
「いろいろとゴタゴタしてたんでな。だが次こそはクサナギの連中を打ち落としてやるつもりだ。」
「そうあってほしいものね。次こそはこの手でマイスターを撃ってやるわ。」
イオリの言葉に答えて、トモエが野心をむき出しにする。
「次には新しい機体を投入するが、お前の相手がマイスターであることに変わりはないから安心するがいい。」
「当然よ!マイスター以外は眼中にないのよ!」
イオリが笑みを強めると、トモエが声を荒げる。イオリはきびすを返して、作戦室へと戻っていった。
その途中の廊下には、スミスとオーギュストの姿があった。2人はイオリに向かって会釈すると、スミスが声をかける。
「また新しく、カオススーツが導入されました。それぞれフィーナさん、スワンさんがそのパイロットとなります。」
「そうか・・ではフィーナは引き続きアザトースにて待機。スワンはライトサイド、ジーザスの討伐に参加してもらう。」
スミスの報告を受けて、イオリが命令を出す。
「それで、オーブの状況はどうなっている?」
「はい。中東基地は復旧に向けて尽力を注いでいます。クサナギではパールが大破。」
「大破?・・そうか。それは都合がいい。」
一瞬眉をひそめるも、イオリは笑みをこぼす。
「ではお前の出番だな、オーギュスト。」
「はい。お任せください、イオリ様。」
イオリの呼びかけを受けて、オーギュストが頷く。
「それでミナミ殿ですが、パールの攻撃を受けて命を落としたとのことです・・」
「ミナミか・・ここまでよくやったと褒めておいてやろう・・だがこれからの戦いに、アイツはあまりにも優しすぎた・・・」
スミスの続けざまの報告に、イオリは淡々と答える。
「オレは使える駒は徹底的に使う。そして使えない駒はすぐにでも切り捨てる。それが、オレのやり方だ。」
イオリは笑みを強めて、再び作戦室を目指して歩き出した。
中東基地の修復を進めていたオーブ。ユキノはロイとともに、基地や部隊の現状を見据えていた。
「この被害とこちらの作業スピードでは、エアポートをひとつ確保するだけでも、最短1週間はかかりますね。」
「それまで、我々がここを死守するしかないということですか・・・」
ユキノが言いかけると、ロイも深刻な面持ちを浮かべて答える。
「MS隊は防衛に集中し、修復はそれ以外に任せるのが得策かと思いますが・・」
「そうですね・・これから戦いもますます厳しくなると思え割れますし・・」
ロイの提案にユキノが頷く。復旧に向かっている基地に、さらなる攻撃を加えさせるわけにはいかない。
「ところでユキノ殿、ジュン殿・・いや、マシロ陛下はどうしているのですか?」
ロイが問いかけると、ユキノが沈痛の面持ちを浮かべてきた。
「ひどく疲れています・・次の戦闘があるまでは、しばらく休ませておきましょう・・・」
ユキノの思いつめた心境での言葉に、ロイも何も言わずに頷いた。
クルーたちや兵士たちが基地の修復に協力する中、ジュンは自分の部屋に閉じこもっていた。彼はミナミを失った悲しみに、心を重く沈めていた。
非情な運命、自分の選択の過ち、それらが彼自身に悲しみと絶望を植えつけていた。
そんな彼のいる部屋のドアがゆっくりと開かれた。そして部屋に入ってきたのはニナだった。
「マシロさん・・・」
ニナが沈痛の面持ちを浮かべて声をかけるが、ジュンは顔を上げない。いたたまれない気持ちにさいなまれながらも、ニナは再び声をかけた。
「ここで1人でいたら体に悪いですよ・・・元気を出して、1度外に出て・・・」
「元気なんて・・出るわけがないじゃないか・・・」
励ましの言葉をかけたニナだが、ジュンは冷淡な言葉を返す。
「ミナミちゃんが死んだっていうのに、君はどうしてそんな・・・!」
「ジュンくん・・・!?」
「君が手を出さなければ、ミナミちゃんは死ななかった・・・それなのに、君はどうしてそんな平然としていられるんだ・・・!」
苛立ちの言葉を言い放つジュン。ニナは彼に向けて、たまらず反論する。
「私があのとき攻撃しなければ、彼女はあなたを攻撃していた・・ワルキューレが武器を向けていたのがその証拠・・・!」
「彼女は危害を加えようとしていなかった!それなのに君は!」
ニナの言い分に憤怒し、ジュンが彼女に詰め寄る。
「彼女が亡くなったのは、あなたのせいですよ・・・再び戦場に出すような状態にしなければ、こんなことには・・・!」
「確かにこれは僕のせいだ・・・僕はミナミちゃんを信じて、クサナギから解放することを決めた・・あのとき、無理矢理にでも引き止めていれば、こんなことにはならなかった・・・!」
ニナの言葉を受けて、ジュンが自分を責める。
「僕は責められても恨まれても仕方がない・・・だけど、彼女に直接手を出したのはニナちゃんだ!」
ジュンが再び感情をあらわにして、今度はニナを責める。
「彼女は戦いを止めようとしていただけなんだ!それなのに君は彼女を!」
「彼女はカオスサイドの人間です!あなたはあのまま、敵に撃たれてもよかったと言うんですか!?」
ニナが発した言葉に憤りを覚え、ジュンはついに彼女の頬を叩いた。痛みを訴える頬に手を当てて、ニナが愕然となる。
「どうして敵だって決め付けるんだ・・・どんな人でも、敵だと見たら問答無用で撃つのか、君は!」
激昂するジュンに、ニナはいたたまれない気持ちにさいなまれた。彼女に背を向けて、ジュンは怒りを押し殺しながら言い放つ。
「悪いけど、出て行ってくれない・・・もう、僕は君を信じられない・・・!」
「ジュン、くん・・・!?」
ジュンの言葉と心境に、ニナは絶望感に陥る。これ以上声をかけることができず、彼女は沈痛の面持ちを浮かべて部屋を後にした。
(ミナミちゃん・・僕は・・僕は・・・)
この上ない悲しみに心を沈めて、ジュンは塞ぎ込むようにベットの中に潜り込んだ。
ジュンに突き放され、ニナはたまらずクサナギから飛び出していた。自分がしてきたことを全て否定されたように感じて、彼女はいても立ってもいられなくなっていた。
(私は、これからどうしたらいいの・・・私はオーブやみんなを守るために、軍人として、パイロットとして全力を出してきたのに・・・)
ニナは胸中で自分の意思と向き合おうとする。しかしジュンの感情が入り込み、その意思を揺さぶられてしまう。
(どうしたらいいのか分からない・・・このまま戦っても、ジュンくんは心を開かない・・・)
「どうしたらいいの・・・お父様・・・?」
ニナはいつしか、父親であるセルゲイのことを想うようになっていた。彼女がここまで頑張れたのは、セルゲイの存在があったことも理由となっていた。
彼女は父の面影にすがるように歩き出していった。そしていつしか彼女は、中東基地から1番近い町の郊外まで行き着いていた。
そこで彼女はふと足を止めた。眼の前にいる人物に、彼女は眼を見開いていた。
彼女の前に現れたのは、彼女の父、セルゲイだった。
「お父様・・・!?」
「久しぶりだな、ニナ・・すまない、いろいろと心配をかけてしまって・・・」
戸惑いを見せるニナに、セルゲイが優しく微笑みかける。
「お父様・・私・・私・・・」
抑え込もうとしていた感情があふれ出し、ニナは涙ながらにセルゲイにすがりついた。セルゲイは娘の体を優しく受け止め、その泣き顔をじっと見つめる。
「ニナ、実はお前に嬉しい知らせを持ってきたんだ・・」
「嬉しい知らせ?」
セルゲイが告げた言葉にニナが戸惑いを見せる。
「あぁ。カオスサイド、イオリ・パルス・アルタイと、直接話し合いの場を持ち込むことに成功したんだ。」
「あの、カオスサイドと、ですか・・・!?」
ニナが声を荒げるが、セルゲイは落ち着きを崩さずに頷く。
「だが心配は要らない。イオリ殿は武力介入のない会合を持ちかけている。お前やみんなの信頼を裏切るようなことはしないさ・・」
「いえ・・その必要はいりません・・・」
セルゲイが言いかけていたところで、ニナは冷淡に告げる。
「もはや私は、マシロさんを信じることができません・・・マシロさんが、私を見放してしまったから・・・」
「ニナ・・・」
ニナの言葉にセルゲイが眉をひそめる。彼女が口にしていたことは、マシロに扮したジュンを初めとしたライトサイドに対する裏切りと失望だった。
「・・・一緒に行くか・・ニナ・・・」
「・・・はい・・お父様・・・」
セルゲイのいざないを受けて、ニナは微笑んで頷いた。だが、彼女に見えないように、セルゲイが不敵な笑みを浮かべていた。
彼はセルゲイ・ウォンではなく、イオリによって遣わされたセルゲイ・オーギュストだった。
その後も、ジュンはベットの中に閉じこもっていた。その中で彼は、ミナミのことをずっと想っていた。
(ミナミちゃん・・・君は僕と同じ境遇にいたんだ・・だから僕と君は、通じ合えることができたのかもしれない・・・だから僕は、何が何でも彼女を守りたかったのかもしれない・・守らないと、自分を壊してしまうと感じていたから・・・)
ミナミにすがるような気分を覚えて、ジュンは自分の体をきつく抱きしめる。
(僕は最低だ・・君のことを自分の合わせ鏡として考えていた、最低な人間だ・・・)
たまらず泣きじゃくるジュン。その部屋のドアがノックされ、ジュンは我に返って顔を上げる。
涙のあふれる頬を拭って、ジュンはベットから起き上がってドアを開ける。その先には沈痛の面持ちを浮かべたアリカの姿があった。
「アリカ、ちゃん・・・」
「マシロちゃん、そろそろ食事の時間だよ・・・みんな待ってるし、行こう・・・」
戸惑いを見せるジュンに、アリカが声をかける。やるせない面持ちを見せているジュンに、アリカが声を振り絞る。
「マシロちゃんに何があったのかは私には分からない・・・だけど、辛いときこそ笑顔でいたほうがいいよ・・そうすれば、だんだんとその辛さが和らいでくるから・・・」
アリカに励まされて、ジュンが戸惑いを見せる。
「そう・・・そうだよね・・・君の笑顔にも、何度か励まされたよね、アリカちゃん・・・」
「そうだよ。笑っているほうが自分のためにもなるし、みんなのためにもなるから・・」
「でも・・今はそうやって割り切るには、ちょっと辛すぎるかな・・・」
再び沈痛の面持ちを浮かべるジュン。ミナミを亡くした悲しみを払拭するには、あまりに困難なことだった。
「とにかく笑ってみせよう。こうやって、ニーって。」
アリカが自分の頬を引っ張って、無理矢理笑顔を作る。その顔があまりにおかしくて、ジュンはたまらず笑みをこぼしていた。
「そうそう。そうやって笑っていたほうが、マシロちゃんにはお似合いだよ。」
「もう、アリカちゃんったら・・・」
頬を引っ張ったまま言いかけるアリカに、ジュンは苦笑いを浮かべていた。
カオスサイドはアザトースを基点として、オーブへの次なる攻撃の準備を進めていた。その中でスワンは、ライトサイド進撃の命を受けているストラス隊と合流すべく、アザトースを後にした。カオスサイドが新たに開発した新兵器、カオススーツを伴って。
カオススーツはトモエが搭乗しているものも含めて、3機開発されている。スピードと斬撃を重視したカオススーツJ、攻撃とスピードを重視したカオススーツD。彼女の乗るカオススーツFは射撃と正確性を重視している。
スワンが新たに与えられたのはカオススーツD。彼女はその混沌の機体に乗り込み、ストラス隊に向けて一気に進行していった。
「はやりすばらしい性能を発揮しているようですね、カオススーツは。このスピードでなら、数時間で向こうに到着するでしょう。」
スミスが新兵器の性能を賞賛すると、イオリも不敵な笑みを浮かべて頷く。
「当然だ。カオススーツはカオスサイドの主力の候補となっている機体だ。このくらいの力がないと、面白みに欠けるというものだ。」
野心をむき出しにするイオリを見て、スミスも笑みをこぼしていた。
「その面白みとは、どういうものを指すのでしょうか・・・」
「勝負とは楽しんだほうがいい。それは誰もが思うことだ・・だが、はやり勝ったほうが100倍面白い。そうは思わないか?」
互いにからかうように言いかけるスミスとイオリ。そこへ1人の兵士が駆け込み、報告を告げる。
「セルゲイ殿が戻られました。ニナ・ウォンも一緒です。」
「そうか。分かった。」
その報告を受けて、イオリは席を立つ。そしてスミスと伴って、アザトースの搭乗口に赴いた。
イオリたちが着いた先では、悠然としているセルゲイと、慄然とした様子のニナの姿があった。
「ようこそ、カオスサイドへ・・・」
悠然と挨拶をするイオリ。セルゲイが一礼するが、ニナは落ち着きの表情を浮かべて立っているままである。
「そう気を張り詰めるな。セルゲイにも伝えてあるはずだ。この場に武力を持ち込むつもりはないと。」
イオリが言いかけるが、ニナは顔色を変えない。イオリはそれをあえて気に留めず、ある場所に眼を向けた。
その先にそびえ立つ黒い機体。禍々しくも神々しさを放つその巨人に、ニナはここで初めて当惑をあらわにする。
「事前にセルゲイから聞いている。ライトサイド、マシロ女王を見限ったそうだな。」
「・・・はい・・・」
イオリの言葉に、ニナは小さく頷く。
「マシロさんはもはや私情を挟みすぎています。これではライトサイドをはじめとした世界を導くことはできません。」
「・・なら、お前の意思を、しっかりとマシロ女王に伝えておかなくてはな。最悪の場合、力ずくもやむを得ない。」
イオリはニナに告げて、黒い機体を指し示す。
「オレイカルコス。カオススーツとともに、我がカオスサイドが開発した新兵器だ。攻撃力、スピードは最上級、特に耐久性は右に出るものはないほどで、“オリハルコン装甲”と呼んでいる。」
イオリの説明を聞きながら、ニナは眼前の機体、オレイカルコスを見つめる。
「新しくカオスサイドに加わる、お前の機体だ。」
「私の・・・」
新たなる機体、オレイカルコスに搭乗することに、ニナは戸惑いを感じていた。だが、彼女の隣にいるのは本物のセルゲイでないことを、彼女はまだ知らなかった。
ついに、イオリの思い描くカオスサイド最大の侵攻の準備が整えられたのだった。
次回予告
「やっぱりマイのラーメンは最高だ!うんっ!」
「せっかく人が有意義な暮らしを送ってるっていうのに・・」
「やっぱオレたちも、世界のために戦わなくちゃならねぇってことか・・・」
「マイ・エルスター、カグツチ、いきます!」